「微熱〜俺と姉と秘密と〜」
不覚・・・
俺―坂本秋良(あきら)―は自室のベットに横たわり、心の中で忌々しく呟いた。
ここ数ヶ月、学校での行事に全て携わってきた所為なのだろう、それらが終わった途端に風邪をひいた。
熱自体は37.2度とさほどでもないのだが、とにかく頭痛がひどい。身体を起こそうとすると一気に激痛が走り、まともに立っていられなくなるくらいだ。
特別運動しているわけではないのだが、健康管理には自信があった。何も皆勤を目指しているとかそういう訳じゃない。ただ単に不摂生から来る風邪と言うのがカッコ悪く感じるだけだ。
まぁ、そんな訳で俺は今、珍しく学校を休み養生しているところなワケだ。
あ〜・・・不覚でもあるけど、ツイてもないよなぁ・・・
何せ、妹は期末試験の真っ最中で、兄は部活の試合で遠征中。両親は子供たちをほったらかしにして、デートと称して3泊4日の旅行中ときてる。
最も、ウチは俺を含めた5人家族ではなく、6人家族なので残りの一人がちょうど家に居るのだが、個人的な意見としては・・・
コンコン
俺の思考を中断させるようにドアがノックされた。今この時間に家に居るのは俺以外一人しかいない。
「入るよ。秋良、具合どう?」
お盆に土鍋を乗せて、姉の夏流(なつる)が入ってきた。本当は彼女も学校があるのだが・・・
「可愛い弟を見殺しにできる訳ないでしょう。」
・・・と言って、学校をフケている。・・・大物になるよ、夏姉(ねえ)。否、すでに大物か・・・
「はい、アーン。」
「・・・」
これだ。これだから、俺一人のほうが良かったんだ。
目の前の姉は、土鍋から器によそって、レンゲですくい、しかもご丁寧に息を吹きかけて冷ましてくれた御粥を俺に差し出してきた。
こう言ってはなんだが、この姉は俺を少々溺愛しすぎの感がある。
事あるごとに抱きついてくるし、スキあらばキスすらしてくる。先日など、「一緒にお風呂入ろっか。」と言われ必死になって断わった。
まぁ・・・そう言ってる俺自身、この姉には何かと頼りにしているんでお互い様と言われればそれまでなのだが・・・
無駄な抵抗は止した方が何かと身のためである。俺は観念して差し出された御粥を食べた。
・・・適度に塩味がして美味いです、夏姉。
そう思っても決して口にはしない。したら最後、例によって過剰なスキンシップが炸裂するからだ。
俺は禁断の反応をしないように、細心の注意を払った。・・・が、やはり熱があるせいだろうか、それはあっ気なく起きた。
「どう?美味しい?」
俺はその問に「別に・・・」とは「う〜ん・・・」と答えるつもりでいた。
だが、熱ですこし鈍っていた俺の思考回路ははっきりと「うん。」と答えるように指示してきた。
「うん。美味い。」
言ってから「はっ」としても後の祭り。ちらりと夏姉の方を見てみると・・・あぁ・・・なんと言う良い笑顔。
じゃなくって、俺にとっては悪夢の笑顔だ。
フォローを入れるまでも無く姉は俺の首に抱きつき、あまつさえ頬ずりすらしてきた。
あ・・・良い匂い・・・じゃなくって!あんまりくっつかないで、風邪伝染る、伝染っちゃう!!肩に胸押し付けてないで、夏姉!!!
夏姉のスキンシップに俺のムスコは至極当然の反応をし、身体が一層高い熱を帯びてきた。
「あれ?ちょっと熱すぎない、秋良。」
一体誰のせいだ。恨みがましく睨むのをこらえ、俺は視線をふせた。
・・・のだが、夏姉は俺の顔を両手で上げさせると、俺に跨り、額を押し付けていた。
こ・・・腰の位置がヤバすぎる・・・あと数センチ腰を落としたら確実に、ソレがバレる・・・!!
一人で勝手に戦慄を覚えている俺を余所目に、夏姉は必死に検温してくれている。その仕草が俺の体温を更に上昇させるワケで。
「ん〜・・・ひょっとしたら、ちょっと上がっちゃってるかも・・・て・・・ん?」
あ〜、と心の絶叫空しく、姉は腰をおろし、俺のムスコに布団越しに触れた。
マズい、途方もなくマズい。とにかく何か言い訳を考えねば・・・と思っていると、夏姉の顔に怪しい笑みが浮かんだ。
「・・・ふぅ〜〜〜〜ん。」
ああああぁぁぁぁっっっっ!!!!
もはや逃げ道なし。袋の鼠。No Way Out!!
一人頭を抱え込んでいると、夏姉は俺の顎を持ち上げ、有無を言わせぬ速さでキスしてきた。
しかもいつもと違い、下を絡めてくる・・・俗に言うディープキスというヤツだ。
長い長い口付けの後、呆然としている俺を眺め、一際怪しい笑みを浮かべた夏姉がとどめの、そして禁断の一言を放った。
「風邪の特効薬、試してみる?」
数日後、夏姉の発熱を怪しむ家族の視線を浴びながら、夏姉の看病をする俺の姿があったのだが、それはまた別のお話と言うことで。
・・・つーか、本当に別の話にさせてください。
(完?)