【MASK】  
 
 「はあっ!」  
 しなやかな身体が旋回し、鋭い蹴りが放たれる。が、仮面の男はそれを緩慢とも思えるような動きで避けた。  
 藍色の髪の女性は歯を食いしばると、ベルトに装備していたナイフを引き抜き、空振りの勢いを利用して、そのまま男の首に突き刺そうとした。  
 しかし、それも男の長剣の柄で弾き飛ばされる。金色の仮面の男はラーライラの腕を掴むと、自分の方に引き寄せ、彼女の首に銀色の刃を擬した。  
 「動クナ……」  
 地の底から染み出したように暗く、そして凍みるような冷たい声。  
 (格が……違いすぎる…!!)  
 「スィー」  
 ザザンは仮面の下から、金髪の女性を見つめた。  
 「ライリーを離しなさい!」  
 「デハ……フィフス・セラフィーを脱ゲ」  
 「いけませんっ、スィー様!」  
 ラーライラが叫ぶ。フィフス・セラフィーは、スィーを護る絶対防御の聖衣。ザザンの攻撃さえ防ぐ、旧世界の遺産。  
 「…分かったわ」  
 「スィーさん……」  
 ティティが力無く呟いた。  
 
 (もう……諦めるしかなかとですか…)  
 「縛リ上げロ」  
 配下の兵士達にそう命じると、ザザンは漆黒のマントを翻した。  
 
 
 
 「申し訳御座いませんでした…スィー様。私がついていながら……」  
 ラーライラは檻越しに、自分が仕える女性に頭を下げる。  
 「止めてよ、ライリー。あなたはよくやってくれたわ」  
 「でも……これからどないするとですか?」  
 ティティは眼鏡を上げた。本来彼女は部外者なのだが、こうして巻き込まれてしまっても、案外あっけらかんとしている。それでもやはり、現在の事態を憂いずにはいられなかった。  
 レイルルも鳥籠のような小さな檻の中で、情けない鳴き声を出す。  
 と、その時不意に扉が開き、牢獄の中に二人の兵士が入ってきた。  
 「スィー、ラーライラ、ティティ。お前等の身柄は明日、ジーナ・イー城に運ばれることになった。……伝える事はそれだけだ」  
 そう言って立ち去ろうとした兵士を、もう一人の兵士が引き留め、何か耳打ちする。  
 
 「……!? バカッ、殺されたいのか!」  
 「バレやしねぇって。どうせ団長、自分が噂通り不能なもんだから、俺等にまで手を出させねぇだけだろ」  
 腰から鍵束を外し、スィーの入っている檻を開けた。もう一人の兵士の制止も聞かず、剣を引き抜き、乱暴に彼女を押し倒す。  
 「ちょっ……何すんのよ!」  
 「スィー様!」  
 兵士は手錠でスィーを綰ね上げた。そして馬乗りになり、彼女の服をゆっくりと左右に切り開いていく。  
 「貴様! スィー様に手を出すな!」  
 「五月蠅ぇよ。焦らなくても、じっくりと順に相手してやる」  
 檻の鉄格子を掴むラーライラを鼻で嗤い、露わになった白い肌に舌を這わせた。赤い服をはだけ、豊満な乳房を直に掴もうとする。  
 「いっ…イヤッ」  
 「イヤよイヤよも好きの内……最近ご無沙汰なんでな、たっぷりと可愛がってやるぜ」  
 顔を歪ませ、手を伸ばした時。  
 不意にその兵士の体は冷たい床から離れ、大きな音を立てて鉄格子に叩きつけられた。  
 「なっ…!?」  
 闇からこちらを見る金色の仮面に愕然とする。  
 「……連れテ行ケ」  
 いつの間にか現れていたザザンが、背後の数人の兵士に命じた。  
 「だっ…団長! 待ってください! つい出来心で……だっ団長ぉぉぉ……」  
 
 凄惨な絶叫を残して、兵士は牢獄から引き出される。そして部屋の隅で震えている兵士を立たせると、あの兵士の処刑を命じた。  
 ザザンは胸の前で服を押さえ、こちらを睨んでいるスィーを振り向く。  
 「ぶっ…部下の統率がなってないじゃない……」  
 「……そンな身体をしテいるからデモあル」  
 「なっ…!」  
 怒鳴ろうとしたスィーだったが、何かが身体を覆った。ザザンが羽織っていた、漆黒のマント。  
 「明日は早イ。さッサと寝るこトだナ」  
 「………」  
 スィーは無言で、彼のマントにくるまった。  
 
 
 
 翌朝。予定通り、スィー、ラーライラ、ティティの三人を収容した三台の檻車は、ジーナ・イー城へ向け出発した。檻は外から見えないように、小窓以外は殆ど密閉されているのだが、沿道の住民達は物珍しそうに見物している。  
 
 「……コの辺りで休ムぞ」  
 「はっ」  
 リリーヌは頷き、兵士達に休息を命じた。  
 人気のない荒れ地。崖から殺風景な景色が見渡せた。崖の反対側の山も、同じく殺風景である。崖の下に微かに枯れ木の森が見え、つい最近まで緑があったことが想像出来る。  
 ザザンはスィーの檻に近付くと、しきりを外した。  
 「……大丈夫か?」  
 「……ヤケに優しいじゃない」  
 彼の目的は、自分の持つウィルの鍵の筈だ。まあ正当な王位継承者である自分が捕らえられるのは分かるが、それでも何故、こう自分に気を遣うのだろうか。  
 「困ル……」  
 「え……?」  
 「今……お前に何カアっては……」  
 「それって…一体どういう…」  
 思わず尋ねかけたスィーを、ザザンは手を挙げて制する。暫く山を見ていたが、突然剣を抜いて怒鳴った。  
 「全員陣を組メ!」  
 「なっ何なのよ!?」  
 「盗賊ダ……」  
 「……え……」  
 地響きや雄叫びが、どんどんと大きくなってくる。山肌に土煙が上がり、馬に乗った百人ほどの男達が見えてきた。  
 
 一方的だった。騎士団でも盗賊でもない。  
 ザザン唯一人。唯一人が、圧倒的だったのだ。必要最小限の動きで長剣を振るい、忽ち屍の山が築かれる。殺していると言うよりは、一撃で命を奪っている……そう見えた。集中的に浴びせられる矢さえ、マントを翻して絡め取る。  
 不意に馬の嘶きが聞こえた。恐らく流れ矢が当たったのだろう、スィーの檻車を牽いていた馬が突然走り出す。  
 「スィー様!」  
 ラーライラの叫びで、ザザンも事態を悟った。恐慌をきたした馬は、崖に向かって一直線に走っている。  
 「きゃあああっ!?」  
 直ぐに地面が途切れた。馬の足が空を切る。  
 (え……?)  
 視界が黒で覆われた。檻の天井が飛び、中で呆然とするスィーを引き上げると、ザザンは彼女を自分の胸に引き寄せた。  
 「ザザン様ァ!!」  
 微かに遙か上の方から、リリーヌの叫び声が聞こえた。  
 
 
 
 (……ん……?)  
 パチパチと、何かが弾ける音が聞こえる。目を開けると、オレンジと赤の光が踊っていた。少し経って、それが火である事に気付く。  
 (……私…?)  
 「……気が付いたカ?」  
 「!!?」  
 
 焚き火の向こうに男が座っていた。炎で金色の仮面が照らされている。  
 「……ここは?」  
 「崖の下ダ」  
 体を起こすと、何かがずり落ちた。漆黒のマント。急拵えの寝床から出て、彼女は焚き火を挟んでザザンの向かいに座る。  
 「……お礼なんて言わないからね」  
 「………」  
 「あなたは……ネーネを殺した」  
 自分の義母を。ラーライラの実母を。  
 だが、その言葉が秘めている色は、怒りでも恐怖でもなかった。  
 (……何だって言うのよ、一体…)  
 胸の辺りでモヤモヤしているものを振り払うかのように、二,三度頬を叩く。すると、目の前に何かの肉が差し出された。  
 「……鳥ノ肉だ」  
 警戒するスィーにそう教える。  
 「……お腹なんて減ってないわよ」  
 その言葉を否定するかのように、彼女の腹部から奇妙な音が響いた。  
 「………」  
 「食え。お前ニ死なれテハ困る」  
 今逃亡するのは諦めよう。辺りを覆う濃霧にウンザリしながら、スィーは焙った肉を口に運んだ。  
 「霧は嫌いカ?」  
 彼女の考えを見透かしたかのように、ザザンが尋ねる。  
 
 「少なくとも“今は”ね」  
 「私ハ好きダ。あの……あノ空を見ズに済ム」  
 「空どころか、2メートル先も見えないわよ」  
 「………そウだな」  
 「笑ってるの……!?」  
 「イヤ…」  
 首を軽く振ると、ザザンは背後の大岩に凭れた。  
 「……私が寝てる間に、変な事しなかったでしょうね?」  
 自分の身体を見回しながら、スィーが言う。仮面の下からは返事がなかった。  
 「……ちょっと…」  
 「………」  
 溜息を吐いて立ち上がると、焚き火を回り、ザザンの前に仁王立ちする。  
 「聞こえてるんでしょ? 返事ぐらいしなさいよ」  
 「………」  
 業を煮やして、肩を掴んだ。  
 ……が。  
 ザザンの身体が揺れ、上体が地面に倒れた。  
 「え……?」  
 凭れていた岩肌に、赤黒い染みが広がっている。  
 「ちょっ……」  
 動かないザザンの身体を回した。背中のプロテクターが砕け、そこから血が流れ出している。  
 
 「……!!」  
 酷い傷だった。手を伸ばそうとして、ふとスィーはその手を止める。  
 (……ネーネ…)  
 目の前のこの男…。この男が、ネーネを…。  
 傍らに立てかけている長剣。それに、無意識に手が伸びた。ずしりと重い、銀色に光る剣を両手で持ち上げ、逆手に構える。  
 「………」  
 が、剣は下降し、元の場所に戻った。スィーは胸を押さえ、暫く呼吸を整える。そしてザザンを仰向けに寝かせると、今度は仮面に手を伸ばした。  
 頭の後ろの留め金を外す。彼が起きる様子はなかった。そこで更に呼吸を整え、仮面を両手で掴む。  
 「……っ…」  
 目を瞑って、一気に仮面を持ち上げた。それは何の抵抗もなく持ち上がり、手から離れて地面に落ち、乾いた音を立てる。  
 ゆっくりと目を開けた。  
 「……!」  
 想像していた顔と全く違う。ほぼ自分と同じか、少し上くらいの年齢だろう。  
 先ず、左頬の三本の古傷が目に入る。刃物などではなく、もっと切れ味の悪い……獣か何かの爪で付けられた傷だ。汗を滲ませている、整った顔。何だか異世界の人間のような……そんな雰囲気を纏っていた。  
 「ザザン……」  
 力無い呟きが、その顔の上に落ちた。  
 
 
 うっすらと目を開ける。  
 「……気が付いた?」  
 女の顔が見えた。漆黒のマントを羽織い、こちらを覗き込んでいる。  
 「マントじゃ合わなかったから、私の服を使ってあげたわ。……感謝しなさい」  
 そう言って、身体に巻かれている赤い布を叩いた。痛みが走り、顔を少し歪める。  
 「あ、痛かった?」  
 「………マーサ…」  
 「え…?」  
 いきなりザザンはスィーの腕を掴むと、その身体を強く抱き締めた。  
 「なっ…ちょっ…」  
 「………」  
 「ねぇってば! なっ何すんのよ!」  
 顔が暖かい。……暖かい?  
 忘れていた感触に戸惑い、ザザンはスィーを離すと、顔に手を当てた。  
 「……これのこと?」  
 声の主はそっと、金色の仮面を差し出す。  
 「……スィー…?」  
 「そうよ、スィーよ」  
 「…そうか」  
 大きく息を吐き出すと、彼は再びその場に寝転がった。  
 「……ねぇ、マーサって?」  
 少しはっとした顔で、ザザンはスィーを見る。  
 「寝言で言ってたわよ」  
 「…………」  
 「あと…フレアとも」  
 「……!!」  
 
 (あれ?)  
 ザザンがそっぽを向いた。僅かに見える頬が赤い。  
 (ひょっとして……照れてるの?)  
 身体をずらして、彼の顔を真正面から見ようとした。するとザザンも首を回し、そっぽを向き続ける。暫くぐるぐると回っていたが、やがて彼女の方が諦めた。  
 「……割とフツーの顔なのね」  
 「……………」  
 「………傷の手当てしてあげたんだから。これで貸しはチャラよ?」  
 「……分かっている」  
 「ならいいわ」  
 と、ザザンの腹から妙な音が聞こえる。それにつられたように、スィーの腹も空腹の合図を出した。  
 「…………」  
 「俺は…どのくらい眠っていた?」  
 「丸一日よ。待ってて、肉はまだ残っているから……」  
 そう言って、彼女は拳ほどの大きさの肉を差し出す。  
 「……いらん」  
 「何言ってるのよ」  
 「お前が食べるんだ。お前だけは、何としても生き延びろ」  
 「……私を殺したかったんじゃないの?」  
 「いいや…。……スィー」  
 真剣な表情で、ザザンはスィーを見上げた。  
 「お前が最後の希望なんだ…お前こそが…」  
 「……ワケわかんないこと言わないの」  
 肉を引きちぎると、やや乱暴に彼の口に押し込む。突然の事に咳き込みながらも、ザザンは無言でそれを噛み切った。  
 
 「……何故殺さなかった?」  
 「へ?」  
 「憎いのだろう? 俺が。お前の義母を殺した俺が…」  
 「……確かにね」  
 咀嚼していた肉を飲み込む。  
 「一旦は剣を手に取ったわ。……でも止めた」  
 「止めた……何故だ?」  
 「何となくよ…」  
 突然ザザンは笑い出した。口を開けて大声で笑う。咳き込むまで笑った。  
 「な…何よ…」  
 「いや……俺も、お前と同じ事を言ったことがある」  
 「え……?」  
 「丁度……今みたいに崖から落ちてな。…その時、立場は逆だったが」  
 「逆って……ひょっとして、あなたも……」  
 「ああ………」  
 ふと遠い目になる。暫くどこかを見ていたが、やがて再び口を開いた。  
 「マーサ…俺の母だ。血は繋がっていないが…。マーサは、跡形もなく焼き殺された」  
 「誰に……?」  
 「………フレア…俺の…妻だ」  
 「え…ええええっっ!?」  
 今度はスィーが大声を上げる。  
 「結婚してたの!? その若さで!?」  
 「……ああ」  
 「妻って……結婚した後に、何かあったの?」  
 「いや、マーサが死んだのは、結婚する前だ」  
 「えええっっ!? それってつまり……母親の仇と結婚したの!?」  
 「そうだ」  
 
 「何で!?」  
 「フレアも……苦しんでいたんだ」  
 上体を起こした。  
 「人間を忌み嫌っていた。顔に火傷を負わされ、顔には布を巻いていたが……丁度今のようになったとき、彼女の素顔を見た。……火傷なんてなかった。あったのは、美しい女の顔だった」  
 「……………」  
 「スィーよ…この世界をどう思う?」  
 「どうって……大災厄によって滅びちゃった後の…」  
 「いいや」  
 静かに首を振る。  
 「大災厄は、旧世界の人間が引き起こした」  
 「…!?」  
 「文明が進みすぎ、自然を軽視した。……驕り高ぶった人間が、自ら招いてしまったことなんだ。……スィー。お前が必要だ」  
 「どうしてよ…?」  
 「お前の背中にある紋章…それは、“神の杖”の紋章だ」  
 「……あ! やっぱり何か…」  
 「見なくても分かる。……マーサにもあったんだ」  
 「え…?」  
 「神の杖と悪魔の杖が交わるとき…世界は破滅する…古い伝承だ」  
 「悪魔の杖……?」  
 
 「この星を汚したのは悪魔などではなく、人間自身だ。……お前ともう一人…悪魔の杖が揃えば、星は癒される。破滅などない。  
 文明を手放すのを拒んだ人間が、勝手に作ったものなんだ。………お前は…病んだ星の文明か、あの暖かな自然……どちらを選ぶ…?」  
 少し喋りすぎた……そう思って、ザザンはまた寝転んだ。  
 「………」  
 「混乱するのも無理はない。……少し休む。煮るなり焼くなり……好きにしろ」  
 目を閉じた。暫くしてから、地面にポツポツと小さな染みが出来る。  
 「……何で…私が泣いてるのよ………何で…」  
 微かに自嘲した。  
 「バカッ……何なのよ、一体……」  
 一体…何故だろうか。  
 「殺せなく…なっちゃったじゃない……」  
 
 
 
 霧が少しだけ晴れた。  
 (……池があったんだ)  
 池と言うよりは温泉である。少し自分の体を嗅いで、思わずしかめっ面になった。  
 (ザザンは……まだ寝てるわよね…)  
 傷は深い。  
 
 (……流石に、この臭いはね…)  
 マントを外し、ビリビリになった服を脱ぎ捨てた。水不足のこのご時世で、こんな風呂は贅沢すぎるかも知れない。  
 「……ふぃぃい……」  
 思わずそんな溜息が漏れた。  
 「あ〜、ライリーにも教えてあげよっ」  
 既に自分が囚われの身であることさえ忘れかけている。  
 
 ジャリッ……  
 
 「……え?」  
 「まだ…自然があったのか」  
 ゆっくりと振り返る。ザザンが温泉を見つめ、顔を綻ばせていた。  
 「きゃあああっ!!」  
 「自然は…死に絶えたわけではない」  
 「きゃあああぁぁぁ!!」  
 「こうして…たくましく生き残っている。人間如きに、自然を思い通りにする事など出来はしないのだな」  
 「きゃあああぁぁぁ!!」  
 「まだ希望はある。母なる心を癒し…病を治す事は可能だ」  
 「いやああぁぁぁあ!!」  
 「また……あの青空を…」  
 「いやああぁぁぁあ!!」  
 「碧の海を…」  
 「きゃあああぁぁぁ!!」  
 「花々や、木の…」  
 「いやああぁぁぁ!!」  
 「…………」  
 
 「きゃあああぁぁぁ!!」  
 「……五月蠅い」  
 多少苛ついたように、ザザンが言う。  
 「変態!助平!強姦魔!」  
 「……最後のは取り消せ。襲ったりはしない」  
 溜息を吐いて立ち上がり、その場から離れようとした。が、足首を掴まれる。  
 「何か…別の意味で失礼ね」  
 「ふんっ……」  
 「あ! 鼻で嗤った!」  
 「子供に興味はない」  
 そう言った次の瞬間、景色がぐるりと回転し、ザザンは温泉の中に突っ込んだ。  
 「……何をする」  
 「誰が子供ですってェェ!? マザコンザザンちゃぁぁん?!」  
 「……本気で怒るぞ」  
 「おーおー、やって見せなさいよ! イ○ポめ!」  
 ラーライラが聞けば、卒倒してしまいそうな言葉遣いだ。突然ザザンは彼女の背後に回った。  
 「……え?」  
 胸に手が伸びる。  
 「ひあっ…!?」  
 が、それだけだった。ザザンは彼女の耳元に口を寄せ、そっと囁く。  
 「もう…止めてくれ。……このままでは…」  
 背中の紋章。男の手がそれを撫でた。肩に、明らかにお湯ではない、暖かい液体が落ちる。  
 
 「このままでは……本当に…襲ってしまうぞ…」  
 「…………いいじゃない」  
 「……?」  
 スィーは身体を回した。顔を背けるザザンの頬に掌を添える。  
 「ねぇ…一つ聞いても良い? ………その…フレアさんを好きになったとき……どんな気分だった?」  
 涙の跡を、そっと指先で撫でた。彼は目を閉じる。  
 「……罪悪感だ。恨む事しかしようとしなかった……自分の未熟さ故の…」  
 「それなら…同じ体験をしたあなたなら……変だとは思わないでしょ?」  
 「………」  
 「私が今…抱いてる気持ちも…」  
 「………アーレスだ」  
 「?」  
 「ザザンではない。俺の名前は………アーレスだ」  
 「そう…。アーレス……」  
 掌に力を入れ、顔をこちらに向かせる。  
 (綺麗な瞳……)  
 哀しさ。寂しさ。そんな色を秘めている気がした。スィーはそっと顔を近付け、彼の唇に口付ける。  
 「アーレス…」  
 そっと…まるで心に刻むかのように呟き、彼女はアーレスの胸に身体を預けた。  
 「……ん……」  
 指が胸の上を這う。アーレスはスィーの腰に手を回すと、彼女を抱き上げ、桜色の突起を唇で挟んだ。  
 
 「ぁうっ…」  
 豊満な乳房を押し上げるようにして揉みほぐし、唇で挟んでいた突起を舌で転がす。  
 「っぐ……ぅぁ……」  
 (やだ…変な声が出ちゃう……)  
 スィーの身体が仰け反る。長い髪が、水滴を飛ばして揺れた。体の中がだんだんと熱くなる。  
 アーレスは掌を広げ、乳房を包み込んだ。そしてゆっくりと、掌全体を使うようにして揉む。頭の上から喘ぎ声が聞こえてきた。  
 「ふぁっ……ぁぁあっ……うっんっ…ひっあああっ」  
 身体が水面から離れた。広げてあったマントの上に寝かされ、スィーは荒くなった息を整えようとする。しかし、アーレスの指が下腹部を這った。  
 「あっんっ…」  
 金色の、湿り気を帯びた茂みを掻き分け、彼女の一番敏感なところへ至る。  
 「やあっ…!」  
 身体がひくひくと痙攣する。頭の中に電気が走ったような気がして、自分が快楽を感じているのが分かった。本当にこのまま溶解して、自分の肉体が消えてしまいそうな錯覚を覚える。  
 (……!? あっ…ひょっとして…!?)  
 「あ…あの、ちょ……ひゃんっ……ア…アーレス……!」  
 掠れ声しか出なかった。アーレスは頭を下げると、舌先を下腹部から割れ目まで這わせる。  
 (…や…やばっ……この感覚……早く…!)  
 何とか手を伸ばし、アーレスの頭を引き上げた。  
 
 「……どうかしたのか?」  
 「ア…アノ……デスネ。ソノ……実ハ…デスネ……」  
 顔をこれ以上ないくらい真っ赤にして、しどろもどろになる。  
 (ううっ……折角いい雰囲気だったのに……何で…)  
 黙り込んでしまった。アーレスが愛撫を再開しようとすると、首を振って止める。  
 「…大丈夫か? ……無理をしなくても…」  
 「……私に恥かかせるつもり?」  
 「いや。……しかし……」  
 何か葛藤があるらしい。  
 「………」  
 スィーは相変わらず顔を背け、もじもじと悩んでいた。  
 (一分でいい。一分でいいから……時間を止めたい……)  
 と、アーレスは突然彼女を抱き上げる。声を上げるスィーには構わず、地面の上に座らせ、背後から抱き締めた。  
 「……我慢しなくてもいい」  
 バレてる。  
 「手伝おう」  
 彼のこれ程悪戯っぽい声は、初めて聞いた。アーレスは片手で胸をまさぐり、もう片方の手を下腹部に這わせ、足の付け根をさする。  
 「あっ、イヤっ…そんな……」  
 我慢の限界を感じた。  
 「………あ………」  
 びくんと、身体が大きく痙攣した。やがて下半身の一点が暖かくなり、足の付け根から琥珀色の液体が、放物線を描いて噴出する。地面に音が響いた。  
 「………!!!」  
 もはや頬を染めるどころではない。  
 
 (初Hしてる最中に……オシッコなんて……!!)  
 王位継承者である自分が。  
 王位継承者である自分が。  
 ごめんなさいネーネ。  
 ごめんなさいライリー。  
 「……え? ちょっと…」  
 再び愛撫を始めようとしたアーレスを止めた。  
 「や……こんな…臭いのに…」  
 「気にはならない」  
 「私が気にするの!」  
 そうか…と呟き、アーレスはスィーを抱き上げると、また温泉の中に入る。  
 「これでいいか?」  
 「ん……」  
 男に小用を足す場面を見られた女性は、この世に何人ほどいるのだろうか。分からないが、極めて少ない事は確かだ。マントの上に寝転がり、スィーは自分と目の前の男からたち上る湯気を見る。  
 恥ずかしさで目を合わせようとしなかったが、アーレスが頬に唇を当てると、やがて首を回して自分の唇を触れ合わせた。  
 「んっ…」  
 舌が入ってくる。一つになった口腔で、二つの舌が絡み合った。  
 「……むっ……んん…んっ………」  
 頭の中が、酔ったようにぼうっとなる。唇が離れた。そしてアーレスの指が、また割れ目を攻める。  
 「ん…ああっ!」  
 
 ジュグジュグと濡れた音を立てながら、膣内が掻き回されていく。どうしようもないほど下半身が疼き、スィーは何度も身体をくねらせた。汗で湿り気を帯びてきた胸に接吻を受け、その疼きは更に激しくなる。  
 彼の頭を抱き寄せ、震える声で男の名前を呼んだ。男も女の名を呼ぶ。  
 「ふんぁっ…ア……レス…!」  
 「スィー……」  
 すっかり硬くなった薄紅色の突起を指で挟まれた時、体中に電気が走ったように大きく震えた。  
 「ひあんんっ、はっ……ぃう…くあ…ぁああ…ぁぁっっ」  
 スィーは彼の白銀の髪に口付ける。アーレスは顔を上げ、また唇を合わせ、舌で彼女の口腔を掻き回した。下方に伸びた指の動きも、一層激しくなっていく。  
 指が離れた。  
 「……行くぞ」  
 荒い息で声が出ず、コクンと小さく頷く。  
 アーレスは下着ごとズボンを下ろし、片手で何とか自分自身を取り出した。既に充分な大きさと硬度になっている。そしてその先端をゆっくりと、肥大したクリトリスに当てた。  
 「ぃあっっ!?」  
 こんなに大きなものなのだろうか。  
 「ちょ…ちょっと……」  
 「どうした?」  
 「その…ソレってどんな……もの…なの……?」  
 少し戸惑いの色を見せたアーレスだが、彼女の背中に手を回すと、ゆっくりと上体を起こさせた。スィーは目線を下げて、初めて見る成人男性のソレに見入る。  
 「みんな……こういうもんなの…?」  
 「だろうな。………もういいか?」  
 
 しげしげと眺められ、彼の顔は久し振りに朱に染まった。が、スィーの手が自身に触れる。  
 「っ!?」  
 「まぁ……いい…じゃない。私ばっかり……変な声出してさ……」  
 触れていた竿を指で包み、少し握ってみると、初めてアーレスの顔が歪んだ。  
 「ねぇ…どうするもんなの…?」  
 噂で聞いた通りに、握ったまま手首をピストンのように動かし、彼の唯一の弱点をしごき始める。  
 「ぅぁ……」  
 僅かに開かれた唇から、小さく声が漏れた。暫くすると、手の中の彼自身は微妙な蠢動を始める。  
 「……ああ。……そうそう……こうするんだった…」  
 腰を曲げ、身体の上下を逆転させると、手で握っているモノにそっと唇を付けた。そのまま口を開いていき、彼自身をゆっくりと口の中に収める。収めきれなかった男根を手でしごきながら、舌を動かして小さな口に含んだモノを何度も撫でた。  
 「ぅ……くぁっ…」  
 自分の肩に置かれた手を通じて、彼の痙攣を感じる。  
 「! ……出…る……?」  
 口の中で、男根は一度大きく躍動した。そして次の瞬間、喉の奥に熱いものがぶつかる。  
 「……!? ごほっ!」  
 堪らず口を離し、咽せ込んだ。  
 「…ゥ……苦ぁい…」  
 唇の端から白い液体が垂れる。  
 「…だ…大丈夫か?」  
 アーレスは明らかに動揺していた。その様子を見ていると、だんだん彼が可愛い男の子に見えてくる。  
 「……気持ちよかった?」  
 微笑を見せたことで、やっとからかわれていることに気付いた。少々憮然としながら、アーレスはスィーの腰を掴む。  
 
 「あ。怒った?」  
 「いや…」  
 「ウソ」  
 「怒ってなどない」  
 そう言いながら、未だ硬度を失っていない男根を再び彼女の洞窟にあてがった。  
 「え? いや、ちょ…やっぱりそんなの入るワケな……」  
 が、先端が僅かに彼女の膣内に侵入し始める。  
 「!? ぃあぁっっ…!」  
 「く……」  
 「は……入らないってバ! そんぁ…ひ……っ」  
 ゆっくりと…だんだんと、男根は彼女の中に入っていく。  
 「…掴んだ方がいい」  
 アーレスの肩を握った。  
 「ぅあっっ……ぁぁあぁあぁっっ! ひぐあっ!?」  
 鋭い痛みが全身に走る。スィーは歯を食いしばり、指に力を入れ、必死でその痛みに耐えようとした。  
 (こ…こんなに痛いもんなの!? みんなこんなに痛いの!? 本当にこういうもんなの!?)  
 頭の中はそれだけだった。食器棚の角に足の薬指をぶつけたときの、それの何百倍も痛い。いや、比べようがない。身を裂くような激痛に、思わずアーレスの身体を強く抱き締める。  
 彼の動きが止まった。  
 「……全部入った」  
 「ウソ……」  
 「本当だ」  
 
 確かに、自分の中に自分のモノではないモノがある。そう感じた。痛みに慣れてきて、密着していた上半身を離すと、下を向く。  
 アーレスと自分の下半身の一部が、すっかりと一体化していた。結合部から一筋の血が流れていて、膣内の膜が破られた事を確認させられる。  
 「…大丈夫か?」  
 本当にあの巨大な男根を全て収めてしまったことに、ただただ驚くしかないスィーに向かって、アーレスはそっと尋ねた。  
 「ん。……大丈夫…。痛みも、もう……そんなには……」  
 「……始めはゆっくり行くぞ」  
 そう言うと、彼は腰を前後に動かし始める。  
 (え!? ちょっ……)  
 「あああああっっ、ふぁっ…!? ひんっ」  
 痛みと反比例して、表現出来ないような快感が大きくなっていった。  
 多分、あの“かえし”のような出っ張りだろう。それと肉の壁が擦れ、彼女の声が色気を帯びた。  
 「ぁはあぁぁぅっ、はくあ……んんっふぅ…」  
 臀部の肉とアーレスの腰が打ち合わされ、湿り気を帯びた音が耳に届く。  
 (ほんと……に……パンパンとか……鳴るんだ…?)  
 そんな思考も、快楽の波によってどこかへ流された。互いの指を組み合わせ、二人で同じ時間を味わう。動きは更に激しくなり、スィーは見えない何かが体内を動き回るのを感じた。それはやがて、暴れながら身体を這い上がる。  
 「やはぁっ…ん…な……んか……変……な気分…ぁっ…」  
 「俺もだ…。くっ……そろそろか…」  
 
 それぞれ絶頂を予感し、腰の動きは極限まで速くなった。彼女はアーレスに抱き付くと、また唇を合わせる。  
 自分の中に入っているアーレス自身が、更に大きくなった。次の瞬間、膣内がカァッと熱くなる。  
 「ふぁあぁぁあっっっ…!!」  
 スィーは背を反らした。自分の中でビクビクと痙攣する男根は、体内に熱すぎるものを注ぐ。  
 全てが終わって、彼女はアーレスの肩に顎を乗せ、何度も深呼吸した。アーレスは首を回すと、そっとスィーの頬に口付ける。  
 彼女は目を閉じて、そして一度、大きく息を吐き出した。  
 
 
 
 (……子供みたい…)  
 自分の膝の上ですぅすぅと寝息を立てる青年の長髪を撫でながら、スィーはそっと微笑んだ。  
 (起きたら……どんな顔するんだろう…)  
 狼狽えるだろうか。  
 拗ねてしまうだろうか。  
 一人クスクス笑い、アーレスの髪をかき上げ、額に口付ける。  
 「………?」  
 何かが聞こえた気がした。少しの間首を傾げていたが、急いで膝の上の彼を揺り起こす。寝起き顔も子供みたい……などと言っている場合ではなかった。  
 
 「何か…聞こえない…!?」  
 「………」  
 耳を澄ますと、微かに声がこだましている。霧はすっかり晴れていた。  
 「…捜索部隊のようだ。よかったな、これで……」  
 そう言い掛けたアーレスの首を、スィーは両手で掴む。  
 「逃げるわよ!」  
 「逃げる……?」  
 「私は今立てないの!」  
 一晩明けると、あの痛みはまた甦っていた。  
 「……何故逃げる?」  
 「ライリーに知られちゃうでしょ! 早くっ」  
 アーレスは首を振り、やれやれと言うように溜息を吐くと、彼女に背中を差し出す。  
 「……いつまで逃げるつもりだ?」  
 「痛みが引くまでっ!」  
 困ったお姫様だ。  
 「……何よ、それ……」  
 「早く背中に乗れ」  
 「………ヤダ」  
 「は……?」  
 「お姫様を抱っこするんだから、もっと相応しいやり方があるでしょ?」  
 彼は苦笑を浮かべるしかない。  
 「……よっ…と」  
 「きゃっ……」  
 
 膝の裏と背中に手を回すと、一気に立ち上がった。スィーはアーレスの首に掴まる。  
 「さあ、急いで頂けるかしら? 王侯騎士団団長サン?」  
 「……了解」  
 リリーヌ率いる捜索部隊が二人を見つけるのは、それから二日後のことだった。  
 
 

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