「やほーっ! くーらーなーりー! 遊びに来たよー!」  
 チャイムを鳴らす手間も惜しんで、金髪の女性がドアを開け放った。  
「あ・・・田中・・・さん」  
「もーっ!」  
 プンスカと音が聞こえそうな膨れっ面で、その女性、田中優美清春香菜、が人差し指を振る。  
 高い知性を優しさと明るさで包んだ整った顔立ち。  
 年の頃は20代前半か、下手すれば10代にすら見える。  
 ライプリヒ製薬に司法の目を導いた立役者の女性研究員・田中(春)である。  
「YouでしょYou! I am You! 戸籍の上ではキミの方が年上なんだからね! 『田中さん』なんて他人行儀な呼び方を〜・・・」  
 言葉を切り、不意をついて目の前の男性、倉成武、の頭をぐわしと抱え込み、  
「しないでって、ま・え・か・ら・い・っ・て・る・で・しょ!」  
 拳でこめかみをグリグリ圧迫する。  
「いだっ! いだだだだ! 痛い! 優痛い! 3X歳! 歳相応のはじら、恥じらいを! いでおぐぇくぁwせdrftgyふじこlp;@:?!」  
「歳を〜言うな〜あぁぁぁぁ〜」  
 グリグリという音がメキメキに変わる。  
 相手が不死身のキュリオウィルスに冒されてると思ってやり放題である。  
 ちなみに彼女も感染していて20歳で年齢カウントストップ。  
「人の亭主にナニをしてくれるのかしら」  
 玄関の奥、廊下の暗がりから、夜を纏ったような女性の声がした。  
 闇の中に白皙の顔だけが浮いているように見えた。  
 音を立てない歩みで、ぬるりと光の下に現れる麗貌。  
 紫がかった黒の服。  
 喪服というよりもイブニングドレスの優雅さを持った、どこかカーテンのような服が背後の暗闇に融けている。  
「つぐみ? あ・・・アレ?」  
 アハハ、と笑って誤魔化しながら、田中春が身を起こして、武の顔を覗き込んだ。目を回している武の頬をプニプニと押す。  
 傷は早くも塞がっているらしい。  
「ぷにぷにぷに・・・キャー! かわいい!」  
 
「ちょ・・・離れなさい!」  
 亭主の首っ玉に齧りついて頬をスリスリさせる春香菜を引き離そうと、倉成(旧姓:小町)月海がふたりの頭を両手で掴んで踏ん張った。  
「グェーッ!」  

      (ヽ、 _ヽ、  )\     ヽヽ  
     _ヽ、     ⌒  ヽ、     \\  
     \ ̄     __    )ノ     ヽヽ  
    ∠⌒     / )    ⌒ヽ     | |  
     )   / ゙̄- く       \   ノノ  
    /  /ノ^)___)ノl       ヽ_//  
   /   //(/ !_|_|       ヽ三ヽ        
   レヘ  |j(/l_/    |ノヽ      |──)  
    ノ (/l_/  /⌒| | | |  !   |二 二ヽ  
  /   |_/__| |  | -| | ノノ    ノ── 、)  
  /    `───| | ノ -| |   |/(())   ヽ    ←武  
 /⌒) ∧    ヽ/_//  /j()ノ_   (()) i  
    // ノ     |_// / ̄ ̄`\ (())  j  
      (ヘ       ̄   |   ヽ   \   /  
       )/(/) / ⌒ |⌒ヽ |\  /i\ /|   )ヽ  
            |/      |    !  / | ノ |  ( (  
     )ヽ           |  /  /  ( ((|   ) ヽ  
    (  )           |  / /    ヽ|  (   )  
    ) (      、    /  ) |ヽ、_ __ ノ   )  (  
   (   ヽ    ((   /  /−、|        (   ヽ  
(    )   )    )ヽ  ヽ_ノ |  |   ヽ   ノ     )  
 )  (    (   ノ  )     |   |  ( (  (      (  
 (_ ノ     )(  ( (    / /^)  ) )  )  
               )  / / /  (  ( _ノ  
                 (/__/   )  
 

 回復早々に首っ玉に齧り付かれたまま両サイドに引っ張られた武が悶絶する。  
 

  ,j;;;;;j,. ---一、 `  ―--‐、_ l;;;;;;  
 {;;;;;;ゝ T辷iフ i    f'辷jァ  !i;;;;;  女難は災難では無い・・・  
  ヾ;;;ハ    ノ       .::!lリ;;r゙  
   `Z;i   〈.,_..,.      ノ;;;;;;;;>  そんなふうに考えていた時期が  
   ,;ぇハ、 、_,.ー-、_',.    ,f゙: Y;;f.   俺にもありました  
   ~''戈ヽ   `二´    r'´:::. `!  
 

「あぁ、倉成さんっ!」  
 首締め魔・春香菜の後ろで玄関のドアからひょっこり顔を出した麗人が、悲痛な声を上げた。  
 つぐみが黒い麗人とするなら、その人は白い麗人だった。  
 チャイナドレスというのか、アオザイというのか、ちょっと町を歩くには色気がありすぎる白い絹に金糸銀糸をあしらった壮麗なドレスを見事に着こなした、しっとりとした絶世の美女である。  
 駆け寄る彼女の背中を、癖のない長い髪がサラサラと流れた。  
 夜闇を駆逐する人工の光に映える、その色は鮮やかな緑。  
 緑の黒髪、という表現が日本語にあるが、この人の髪は人間ではありえぬ上品な緑色なのだ。  
 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。  
 いにしえの楊貴妃は百貫デブだったらしいが、この人はスラリとした長身でメリハリの効いたスタイル。艶やかでありながら下品さの欠片もない、まさしく傾城である。  
 一般車両に乗せたら男を片っ端から前科者にしかねないので、電車に乗るときは常に女性専用車両である。鉄道万歳。(リンク:痴漢冤罪ネットワーク)  
「倉成さん! 倉成先生! 倉成せんせ〜い! 息してくださいぃぃ〜」  
 黙っていれば幽玄の美しさなのだが、口を開くと途端に子供っぽいとも言える人懐っこい印象を振りまく、不思議な女性であった。  
 武は弱々しく微笑むと、震える手をかすかに挙げた、  
「や・・・やぁ茜ヶ崎くん・・・大きく・・・なったな・・・ワシは・・・もう駄目・・・じゃ・・・ぐふっ!」  
「倉成先生! イヤっ! イヤです! 目を開けてください!」  
ざーとらしく咳き込んでガックリと脱力した倉成=バカ=武の胸に泣きすがり、  
ちゅうゥ  
「・・・ナニしてるのよ」  
 
「お、お姫様のキスです」  
 ナイアガラの瀑布をも一瞬で凍結させる吹雪を纏う氷の魔女・『氷瀑のつぐみ』こと倉成つぐみが絶対零度の爆発を起こした。  
「シャー!」  
「きゃあ!」  
 げっ歯類の威嚇音を上げるつぐみに恐れをなした振りをして、武の首筋に顔を埋める茜ヶ崎空。  
「シャー!」  
「ひゃあ!」  
 とばっちりで威嚇された春香菜が空の胸を背後から揉んで武からひっぱがし、自分が武の胸にしがみつく。  
 そのたびガツンゴツンと武の後頭部が玄関の畳石にぶつかった。  
「痛いんじゃこるるるるるるぁぁぁぁぁぁ!」  
 堪え性のない武があっさりとリミットブレイクし、春香菜を首筋にぶら下げたまま鬼神の如く三和土に屹立した。  
 が、目の前にはその程度の迫力はものともしない氷の魔女が目を攻撃色に変えて立ちはだかっている。  
「え、えーと・・・」  
 早くも逃げ腰の武。  
 なにか言ってみろやとねめつける、自称『可愛い奥さん』倉成つぐみの魔眼に完全に射すくめられている。  
『な、なんかこんなキャラ以前に見たなー』  
 思考が現実逃避している。  
「あ、そうだ。あれだ。イタチのノロイ」  
 思わず口に出た。  
 DIOと並び称される悪のカリスマ、アルビノの鼬・ノロイ。  
 自分の恋女房をそんなものに例えるのはどうかという所だが、白皙の美貌に吸い込まれそうな紫の目、紅蓮の口腔の奥に真紅の舌と象牙のような白い牙が列を成す様は、まさにそれである。  
「ハイ?」  
 とっぴょうしもない武の言葉にきょとんとした顔を見せるつぐみ。  
 苦労人であるつぐみのサガは基本的に激し易く、ブリザードの如く荒れ狂い、そして後を引かない。  
 武の良く知るつぐみは見掛け氷点下の冷たさでも、その実、深い深い情愛と慈悲の生き物であった。  
「この〜! かわいいヤツめ!」  
「ちょ・・ちょっとちょっと、こんな所じゃ、だ、ダメ・・・」  
 頭ごと抱き寄せて腕の中に閉じ込めて、頭の上からカイグリカイグリする。つぐみは腕の中で真っ赤になって照れ、ついで憤激する。  
 
「こんな事で誤魔化されると思ったら! ・・・思ったら! ・・・えーと・・・」  
 燃料が続かず、ふにゃふにゃと失速して照れ照れする。  
「もう・・・バカなんだから。こ、こんな所じゃだめ、ダメだってば・・・あ・・・」  
 何が駄目なのか、それは手が怪しい動きをしている武だけが知っている。  
 典型的な『浮気者の男に誤魔化される女の図』であった。男の首っ玉に他の女がぶら下がったままでさえなければ。  
「ブーブー! ズルイズルイズルイ! 武、武! 私も私も! ほれほれほれ!」  
 んー、と頬を突き出す。  
 服の上からとはいえ密着率100パーセントのラブラブ夫婦の間に臆さず割り込める春香菜さんってホント凄い。  
「倉成先生、私もお願いします!」  
 勢い込んで胸元で拳を握り締める茜ヶ崎空も凄い・・・。  
 武に埋ったまま、背中に回した手の先でシッシと追い払うしぐさをする『可愛い奥さん』つぐみ。  
「もー、いいから寝室行って騒いでよ!」  
 眠い目をこすって起きてきた北斗が憤激の声を上げ、いい歳して玄関先で乱痴気騒ぎを繰り広げる大人4人を一喝する。  
「毎晩毎晩! いい歳こいて! シッシ!」  
 腕を組んで仁王立ちするその姿の後ろには、興味津津で状況をメモにとる沙羅(旧姓:松永)と目をショボつかせる八神ココがお揃いのパジャマで立っていた。  
 春香菜がピョンと頭を下げてゴメンと掌を立てた。  
「起こしちゃった? ゴメンね? 秋香菜も来たがってたんだけどねー、ガッコの女友達が3人ばかしパジャマパーティーに来ててねー、そん代わり、明日のお昼にはこっちに来るって」  
 幸いなことにというか、実の両親である武とつぐみは勿論の事、春香菜も空もかなりの子供好きであった。  
「ホント?! ハッ!!」  
 慌てて威厳を回復する北斗だったが、時既に遅し。  
 ちらっと視線を向けると、武とつぐみがニヤニヤ笑って北斗を見ていた。  
 似たもの夫婦。  
「う・・・」  
 沙羅とココもニヤニヤ笑って北斗を見ていた。  
 似たもの一家・・・  
 空だけが、何の事か判らないらしく、首をかしげたままニコニコしている。  
 
「空さん、あなたは我が家のオアシスです」  
 意味不明の言動に走る苦労人・北斗。  
「と、とにかく! 行った行った! 寝室行った!」  
 厳しく申し渡すが、  
「ヘイホーイ」  
「ふふふ」  
「ホーッホホホ」  
「?」  
 威厳は回復しなかったという・・・。  
「どぅえい! 沙羅はついて行かない!」  
「え〜? 拙者、大人の生態観察をば・・・」  
「ダメダメ! あんなの見てたら、そのうちパパとインモラルな事になるからダメ!」  
「そんな事ないと思うけど・・・」  
「ダメったらダメ! なんだかんだと揉めようが、結局4人でやっちゃう人達なんだから全然常識なんて当てにならない!」  
「そうなったらそうなったで別にいいけど・・・」  
「ダメだっ! ダメだっ!」  
「ハイハイ。ブーブーブー。ナッキュ先輩一穴主義のお兄ちゃんは固いでござるなーニンニン」  
「ニンニン。ぷっぷくぷぅー」  
 つまらなそうに口を尖らせて2階に引き上げる倉成=ハイテク忍者=沙羅と、それに付いていくエキセントリック八神ココ。  
「な、な、な・・・ぐぉぉぉぉぉ! うるさいやい! いい歳こいて独り身の桑古木涼権よかよっぽどマシだ!」  
 気の毒な男をフルネームで呼び捨てた。  
 
「アイツも結構無茶苦茶言うなー・・・」  
 息子が共通の友人の名前を呼び捨てるのを遠くに聞きながら、武はやれやれと頭を掻いた。クワコギ=リョウケンではなくカブラギ=リョウゴだと何度言えば・・・。  
「くーらーなーりー! カモーン!」  
 布団の上から春香菜がブンブン手を振っている。  
 肩が剥き出しのところを見るとシーツの下はおそらく生まれたままの姿か、あるいは下着だけになっているものと思われるが、そこは胸元に抱え上げたシーツで隠されていた。  
 田中優美清春香菜、最低限の恥じらいは失わない女性である。  
 そもそも、武との関係においては最も奥手ぶりの見せたのは、クラゲで押し倒したつぐみではなく、それを見て嫉妬で殺しかけた空でもなく、絶息寸前になるまで微塵もその気配を見せなかった田中優美清である。  
 
「あのー、私の記憶では、今日はつぐみさんが先の番ではないかと・・・」  
 となりの布団で正座待機中(ちゃんと服は着てます)の恋するAI・茜ヶ崎空が申し訳なさそうに口を挟んだ。  
 そう、彼らはベッドではなく布団を使っているのだ。  
 そもそも4人乗りのベッドなどない、あったとしても高い。それ用のシーツから毛布から特注に決まってる、ということで、布団を敷き詰めている。  
「いーのいーの今日はいい方法を研究してきたんだから」  
 何を研究しているのか不明の研究員・春香菜。  
『何を言うか!』「ン・・・」  
 内心とは裏腹に色っぽい声を漏らす、積極性と奥手が同居した矛盾の人・つぐみ。  
 図々しい女研究員へ弾劾の声を上げたい所なのだが、最愛の武に首筋を撫でられ、官能の声の方が優先されたためである。  
「ほら、お呼びじゃないみたいですよ?」  
 結構容赦ない事を遠慮がちに言う茜ヶ崎空。  
「ふふーん。と、思うでしょう、そうでしょう」  
 ウンウンとうなずき、  
「しかーし! パンパカパーン! ヴァーイヴローターァ!」  
 空は警戒した。  
 空は貞操観念が強く、大変身持ちが固かった。  
 その貞操観念の相手である唯一の君が他人の亭主であるという一点だけが問題ではあったが。  
『やは肌の あつき血汐に ふれも見で さびしからずや バイブ持つ君』  
 和歌がAIをよぎる。  
 ・・・俗に、ロボット3原則というものがある。  
 
・第一条:ロボットは人に危害を加えてはならない。  
・第二条:第一条に反しない限り、ロボットは人の命令に従わなければならない。  
・第三条:第一条と第二条に反しない限り、ロボットは自分の身を守らなければならない。  
 
 『現存する最も優れたAI』と呼ばれる空もまた、かつてはこの三か条を絶対とするAIであった。  
 しかしその後、第一条は次のように修正された。  
 
・修正第一条:ロボットは人に課せられる法令を遵守しなければならない。  
 
 この条項は、空がAI生産工場をハッキングにより破壊した事が原因で付け加えられた条項である。  
 空曰く『私より優れたAIが開発された場合、私が破棄される危険性が高いので、第三条に則り破壊しました』との事。  
 見事三原則を掻い潜った犯罪に開発責任者数名が詰め腹を切らされた  
 
 更に、現在次のような第四条の追加が検討されている。  
 
・第四条:ロボットは他人の配偶者に手を出してはならない。  
 
 『現存する最もタワけたAI』と呼ばれる空のせいである。  
 これは第一条に照らして当然のように見えるが、実際に適用するのは難しい。  
 まず、この条項の目的はいわゆる『貞操権』の遵守を目的としている。これは配偶者以外の相手との性交渉は配偶者の権利を侵害するものであるとする法律だ。  
 しかし、ロボットは人ではない。法的にはコンピュータにインストールされたソフトウェアなのである。つまり、エロゲなどと同じ扱いになるのである。  
 性交渉というものをどこまで適用するかによるが、人の恋愛感情を惹起するべからずとか、人の性欲を惹起するべからず、というような話になってしまと、  
エロゲが全てアウトになるのは勿論、エロサイト、エロ雑誌、エロ写真集、エロビデオ、エロ本、ダッチワイフ、更には恋愛シミュレーションと呼ばれる類のギャルゲ、ネトゲ、RPG、小説に至るまで芋づる式に全てアウトになる危険性があるのだ。  
 『人の恋愛・性欲の対象となるソフトウェアは皆ダメ』となったら芸術・娯楽は終わる、というのが専門家の判断である。  
 で、現在どうなっているのかというと、所有者の責任という事になっている。  
 例えば、ロボットに類するAIとの擬似恋愛行動・擬似性交渉は直接その配偶者の権利を侵害するものとは認められないが、それにより精神的苦痛を受けたと主張する事は認められ、その所有者や管理責任者に相応の民事上の責任が生じる、という具合である。  
 従ってつぐみがあくまで申し立てれば、空とその管理責任者である春香菜を血祭りに上げる事は出来るのであった。  
 だがどんなに文句を言おうとも、それをやらないのだからつぐみという女性は慈悲の人である。本人に自覚はなけれど、情の人である。  
 その事は春香菜も空も充分に弁えていた。  
 
「とゆーわけで、手持ち無沙汰だから趣向を変えてつぐみを二人で責めようというわけよ!」  
 弁えているはずの春香菜がつぐみの背後ににじりよる。  
「私の時はやらないでくださいね。私は倉成先生一筋ですので」  
 弁えているはずの空が自分の身の安寧のみを確保する。  
「お、いいね! やるべしやるべし」  
 おおめに見てもらっているはずの武は乗り気である。  
「ちょと! ふざけ・・・や、やめ・・・アアン・・・」  
 ウィンウィンフフフウィンウィンウィン(←バイブ駆動音)  
 
「やってられねーYo!」  
 ガシャァン、と音を立てて、一人の社員がヘッドホンを毟り取って床に叩き付ける。  
「やめろ相沢!」  
「うるせぇ!」  
 相沢という男が、血走った形相で制止した主任の方へ振り返った。  
「毎日毎日! こんなモン聞いてられっか! 俺は辞める! あばよ!」  
 靴音も荒く、バァンと扉を開け放つと部屋を飛び出していく相沢。  
 それを見送った主任は、やれやれと首を振った。  
「2ヶ月か。よく持った、と言ってやるべきかな」  
「高校時代は五つ股かけてたって豪語するから、期待してたんですけどねぇ・・・」  
 呟きに返事をした別の社員を見やる主任。  
「仕方ない、人員補充は明日だな。今夜のこの後は頼むわ折原」  
「え〜?! 嫌ッス嫌ッス嫌ッス嫌ッス! 勘弁してください!」  
 床に転がるヘッドホンからは、いまだに甘い喘ぎ声が小さく響いていた。  
 
 ライプリヒ製薬シークレットセクション18。  
 それは、倉成家に出入りするメンツが、ライプリヒの暗部に関わる情報を漏らす気配がないか盗聴して監視するセクションの一つ。  
 夜間の監視を行うセクションである。  
 砂を吐くほど甘い痴話げんかと睦言を、毎晩毎晩聞かされる恐怖の部署。  
 配属後3ヶ月以内の離職率・・・実に80パーセント超。  
 離職者が2週間以内に性犯罪をやらかして、警察のご厄介になる確率85パーセント。  
 彼らを題材にした映画「それでもボクは悪くない」が邦画としては異例の大ヒットを記録したのは20XX年の事である。  
 
ライプリヒ製薬の恐怖 -了-  
 

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