夜の街は美しい。  
犇めくビル群の窓明かりを縫うようにして、車のテールランプが途切れる事なく流れていく。  
その姿はまるで赤血球のようで、俺は一つの生命体の体内に迷い込んでしまった気になる。  
「ねえ」  
不意に後ろから声がかかる。  
俺は煙草の煙を吐き出し、答える  
「なんだ?」後ろは向かない。  
「後悔してる?」  
「・・・。少し。」  
「正直ね。」  
彼女は特に気にした様子もなく、無感動に言った。  
が、窓ガラスに映った彼女は、俯いていた。  
柔らかなボディラインが、夜の帳に浮き上がる。俺は再び燃え上がるものを感じ、気がつけば彼女の上にいた。  
顎に指を添え、俯いた顔を上げさせる。長い髪の向こうには、涙で濡れた瞳があった。  
「武・・・」  
彼女が俺の名を呼ぶ。だから、答える。  
「優・・・」  
そう。彼女は田中優美清春香奈。  
俺の命の恩人。俺の親友。そして、浮気相手だ。  
 
あの忌まわしいライプリヒが消滅し、1年が経った。確かに17年のブランクはあるが、俺はかなり順風満帆な新生活を営んできた。  
キュレイウイルスにより齢をとらない永遠の17歳美少女が嫁に来て、素直で可愛い子供たちがいて、苦難を乗り越えた仲間たちがいて、それは幸せな生活だった。  
しかし・・・重大な問題が発覚してしまった!つぐみは永遠の17歳であると同時に、永遠の処女だったのだ!  
破ろうが破ろうが、一晩経てば元通り。つぐみはエブリデイ破瓜の痛みを味わわなくてはいけない身体だったのだ!!  
一部童貞野郎からは羨ましがられるかもしれないが、こんなもの、百害あって一利無しである。  
 
「大丈夫よ・・・武・・・痛いのは(ライプリヒの実験で)慣れてるから・・・」  
 
毎晩涙を浮かべ、苦痛に耐えている最愛の妻を抱くことに、罪悪感さえ覚えた。  
そして次第に、夫婦の営みは、毎日から週2、月2と減って行き、身も心も健全な青少年としては、もう性欲がボルケーノである。  
しかし、2LDKの狭いマンションに4人暮らし。オナニーをする場所も無く、妻とまぐわう事もできない・・・。  
 
 
そこで俺は考えた。  
別のヤツとセックスすればよくね?  
 
早速、計画に着手した。ターゲットは田中優美清春香奈。  
どうやらこいつは17年間も一途に俺を想い続けてきたらしい。堕とすのは簡単だろう。  
 
「優〜」  
「なに?」  
「エッチしよ」  
「おk。把握。」  
 
うーん。簡単だ。イージーすぎる。  
だが気にしてはいられない。俺の性欲は止まらなのだ。  
そうして俺たちは、近場のラブホへと小躍りしながら入場していったのだった。  
広い部屋の真ん中で、優は立ち尽くしていた。月明かりが、彼女の整った横顔を照らす。  
その後ろ姿は今にも崩れそうで、まるで月光が見せる幻のように見えた。  
「優、どうした?」  
なんとなく不安に駆られ、声をかける。  
「信じられなくて、ね。これは夢なんじゃないかなって。」  
そう思うのも無理はないだろう。優にとって、永遠に叶うはずの無かった恋。それが今、現実になろうとしている。  
「優ッ!!」  
俺は優を抱き締め、柔らかいキスをした。  
 
白く滑らかな肌に覆い被さり、何処ともいわず、あちこちを愛撫する。  
「あっ…あっ!」  
可愛らしい喘ぎ声を出しながら、俺の腕の中でピクピクと反応してくれている。その姿が、たまらなく愛おしい。  
たっぷり時間をかけて愛撫したあとは、いよいよ挿入である。ゴム良しマラ良しマムコ良〜し。  
俺は自慢のマグナムを優に突き立てたッ!!その時  
 
「ッ痛ッ…!」  
優が痛がった。  
・・・・・・おいおいもしかして・・・・  
「優・・・もしかして・・・」  
「うん・・・はぢめてなの(はぁと)」  
 
どうやら俺はとんでもない過ちを侵したらしい。気づいたのは全てが終わり、窓の側で一服している時だった。  
 
「大丈夫。つぐみには言わないから。あなた達の家庭を壊す気はない。・・・だけど、たまにでいいから・・・また私を抱いて」  
 
優に、別れ際に言われたセリフだ。俺は自分の浅はかさを呪った。俺はバカだ!アホだ!史上最低のミジンコ野郎だ!脳をゆすいで塩素系漂白剤に三日三晩漬けてしまいたい!  
だがどんなに足掻いても後の祭りだ。それよりも、これからどうするかを考えなければならない。  
 
「とりあえず・・・月2は確定したか。」  
つぐみが一回。優が一回である。  
「よく考えたら優もキュレイキャリアじゃねーかよ!毎回処女となんてやってらんねーよ!俺はもっとライトな関係を求めてんのに!」  
つまり、俺のセフレ探しはまだ終わっていない。処女ではない女性を求め、俺は夜の繁華街をさまよっていた。  
 
いっそのこと、風俗で済ませてしまおうか、いやダメだ。俺はすでにつぐみと優という最高級の女性をしっている。今更場末の風俗嬢などに反応しない。  
やはり求めるのは最高の品質。しかしそんな女性はそうそうその辺にいるもんでも  
「倉成さん?」  
いたよ。最高級な女性が。「おお。茜ヶ崎くん!」  
「奇遇ですね。倉成先生。」  
ふふ。と彼女が笑う。俺もつられて笑う。  
「そういえばまだ約束した授業をしていなかったね。これから時間はあるかな?」  
「はっはい!もういくらでも!」  
空は顔を赤くして、千切れんばかりに首を縦に振った。  
「じゃあここで授業をしよう。」  
そう言って指を指した建物を見て、空は更に顔を真っ赤にした。  
そのビルの名は  
 
「ラブホテル〜aqua stripe〜」  
 
「くくく、くくく倉成せんせ」  
「大丈夫だよ茜ヶ崎くん。社会勉強だ。」  
「はははははい」  
空はガチガチに緊張していた。間違いなく初めてだろう。だが彼女はキュレイではない。初めの一発さえ乗り切れば、あとは楽だ。  
 
部屋に入り、一緒にシャワーを浴びる。レプリスに穴はあるのかと不安だったが大丈夫そうだ。  
 
ザアアアアアア  
シャワーを浴びながら、俺たちは抱き合っていた。  
「倉成さん・・・」  
「倉成先生だろ?いけない生徒だ。」  
「す、スイマセン倉成せん」  
言いかけた唇を塞いだ。  
「悪い子には、お仕置きだな。」  
「ん…」ザアアアアアア  
シャワーの音だけがバスルームに響いた。  
 
〜♪  
俺はスキップして家路を辿っていた。いやほんとラッキーだ。一夜に二人もの美女と関係を持てたのだから。  
時刻は23:11。残業だったで充分通るだろう。  
 
「ただいま〜」  
あえて気だるそうに言う。  
「お帰りパパ〜」  
「お帰りお父さん」  
「お帰りなさい。あなた。」  
家族の温かい出迎えに、胸が少し痛む。「疲れてるでしょ?お風呂沸いてるから。その間にご飯温めておくからね。」  
つぐみはたった数ヶ月で立派なお母さんになった。失われた時間を取り戻すように、必死にいろんな事を勉強している。  
俺も仕事頑張らなくちゃな・・・。  
「パパ遅かったでござるな〜。ハッもしや浮気!?」  
ビシッ  
沙羅がいうやいなや、つぐみの手刀が打ち込まれる。  
「イッタア〜」  
沙羅が涙目でうずくまる。  
「沙羅。パパはね、私たちのために毎日遅くまで働いてくれているのよ!冗談でも言っちゃダメ。」  
「わかったでござる〜。パパ、ごめんなさい」  
「いやいいよ。それよりもう遅いんだし、寝なさい。」  
「「はーい」」  
沙羅とホクトは自分たちの部屋に戻っていった。  
「まったく」  
つぐみは呆れたという表情で立っていた。  
「武が浮気するわけないじゃない。ね」つぐみの優しい瞳は、俺を信じていた。  
 
 

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