それはまだ僕が記憶を失いLeMUにいた頃の出来事の話。
―――
「ねえ〜少年〜」
更衣室でくつろいでいた僕に沙羅が声をかけてくる。
「なんだよ、沙羅。何か用か?」
先程まで武に発電室の修理をつき合わされクタクタだった僕は不機嫌さ丸出しでそう答える。
沙羅に付き合うと疲れる。できれば今は遠慮したいところだ。
「用というかちょっと質問したいことあるだけだよ、いい?」
「まあ別にいいけどさ」
そう答えると嬉しそうに沙羅は笑う。
だが次の瞬間、その天使のような笑顔からとんでもない言葉が放たれた。
「ねえ、少年って童貞?」
「ド、ドウテイぇえ…!?」
わからなかった、いや単語自体の意味は知っていたのだ。わからないのは
沙羅が何故突然そんな質問をしてきたのか、だ。
「で、どうなの童貞なの?それともしたことある?」
答えにつまった。
正直、ナニを「した」か、という記憶は現時点で僕にはない。
そうすると僕は童貞ということになるのだが、僕は記憶喪失中の人間だ。
「僕」が本当にしたことがないかどうかはわからない。
それに、男として女の子からこんな質問を受けて「はい、僕は童貞です」
とも言えなかった。だから僕は…
「いや…知っての通り記憶喪失中の身だから…わからないよ」
無難な言葉を選び答えた。
それを聞いて沙羅は、
「う〜む、少年はチェリー君でござったか♪」
「おい!」
なぜそうなる!沙羅は勝手に僕に童貞と決め付けた。
「少年のその反応を見れば拙者にはまるわかりでござるよニンニン♪
それに少年って生活的な記憶は別に異常ないんだから、してたら覚えてるはずだよ」
……言い返せなかった。悔しいが沙羅の言うとおりの可能性が高い。
「そういう沙羅はどうなんだよ!したことあるのかよ!」
悔しさを吐き出すため、そう逆に質問する。
すると沙羅はにたぁ〜といやらしい笑みを浮かべ
「もちろんあるに決まってるじゃない♪私たちぐらいの歳で経験ありなんて普通。
むしろ未経験の少年の方が珍しいぐらいよ」
……さらに墓穴を掘る形になってしまった。どうなってるんだ最近の若い者は!
もう付き合いきれないと思い、更衣室から出ようとした。そこへ
「ねえ、Hしようか」
「な…」
心臓が跳ねた。更衣室から出ようとしていた僕の動きは止まり硬直した。
平静を保とうと必死になるが心臓はなおもバクバクと鼓動し続ける。
「Hしてみたら少年が本当に童貞なのか、童貞じゃないかわかるよ。
それにもし童貞だったとしても、童貞じゃなくなるんだし」
沙羅の誘惑に僕はただただ声も発せず固まるばかりだった。
「私とじゃ嫌?」
「いや…そうではないけど」
嫌じゃない、嫌じゃないけれど…。
「だったら…しよ」
僕は誘われるがままにソファーになだれ込んだ。
気がつくと僕も沙羅も裸だった。服は自分で脱いだはずなのに
いつ脱いだかまったく記憶になかった。
目の前にいる沙羅は、特に恥ずかしがるそぶりもなく僕に白い肌を晒している。
「ねえ、Hの仕方はわかる?」
仕方?おぼろげにはわかるが確信の持てるほどの知識が頭に無かった。
「そうか…まったくの初めてのわけか。それなら…」
そう言うと沙羅は僕の懐にもぐりこみ、そして僕のモノを口に含んだ。
「!?」
僅かばかりのH知識から照合すれば
この行為は99.9999%の確率でフェラチオというものだ。
僕の眼下には上下する沙羅の後頭部とチュパチュパと卑猥な音がひろがる。
僕のモノを通じて下半身、いや全身にダイレクトに快感が駆け巡る。
「うっ!」
まるで身体に電撃が刺さったような感じがした。
ビクン!と僕の身体は跳ね、かつてなく長い射精感に酔いしれる。
「早いよ少年ー」
口元を白く濁らせた沙羅がそんな事を言っていた。
射精の余韻がまだ残る中、僕のモノから口を離した沙羅はその場に立ち上がった。
僕の目の前に恥部をさらけ出して仁王立ちしている。
その姿を見て、先程出したばかりだと言うのにまた僕のモノは節操なく高まりを見せる。
「それじゃ、しよう?」
直立状態から僕の方へ倒れ込んでくる沙羅。
それに合わせるように僕もソファーに倒れ込む。
「沙羅…いいのかこんな事して?」
「え、なんで?」
「あのペンダントの男、沙羅の彼氏だろ。彼氏がいるのに…」
沙羅は答えなかった。
そして無言のまま僕のモノを乱暴に掴み、自分の性器にあてがう。そして…
「うあっ!」
重力に従うように腰を落としてきた。必然的に僕のモノは沙羅に飲み込まれていく。
激しく僕の上で激しく動く沙羅。
「おい!沙羅もうちょっと…」
僕の静止が聞こえないかのように一心不乱な沙羅の姿。
沙羅の激しさは初めての僕には耐えられないほどの快感を与えてくる。
まるで痛みとさえ錯覚しそうな程の快楽の波。
もはや静止する気力さえもなく、沙羅のされるがままに身を任せた。
…幾度かの射精が済んだ、もう回数さえ覚えてないほど頭は馬鹿になっていた。
それは沙羅も同じことのようだ。
僕の上で身体中汗で濡らし、ハァハァと呼吸荒くうなだれていた。
精根尽き果てた沙羅はそのまま僕の顔の方に倒れ込んできた。
「ありがと…」
朦朧とする意識の中でそんな声だけが響いていた…
―――
あれから一週間、もう僕の記憶はあらかた戻った。
沙羅が僕の双子の妹だったということも思い出した。
今、僕は夜行列車に揺られている。傍らには安らかな寝顔を浮かべる沙羅。
その寝顔からは想像のつかないくらい沙羅は今まで辛い思いをしてきた。
ライプリヒの連中による実験は過酷なものだった。
実験と銘打った性的な暴力も日常的に振るわれていた。
あのLeMUにいた頃、なぜ沙羅が僕を求めたのか今ならわかる。
沙羅は暴力ではないセックスを求めていた。
そして僕と沙羅が兄妹になってしまう前に…。
僕らの旅はまだ始まったばかりだが一つだけ僕は約束できる。
もう二度と沙羅に昔のような思いをさせない、と。
―終―