闇に閉ざされた一室。
寝台の上で蠢く男女。
男は重ねていた唇を離す。唾液が糸を引き、切れた。
顔を上気させた女を引き起こし、自分の前に同じ向きで座らせる。
体勢を固定するために足を組みなおして、背後から抱きしめ、そして貫く。
女の声が短く漏れ出る。
男は奥へ進みつつ同時にふくよかな胸を撫で上げた。
女が限界を告げるのに合わせて、双丘を這わせた手を止め、すかさずその頂を爪弾く。
堪えかねた彼女は全身を大きくしならせた。
……くらなり……!!
女の、我を忘れたように発した声の大きさにか、男は一瞬体を硬直させ
しかし間を置かず収縮の中に果てる。
未だ息の乱れも収まらないままの女の耳に、男の低い声が届いた。
何もそんな所までユウと同じに間違えるなよ
聞き違える筈もない。
男の口にした名は、女にとっては掛け替えのない…
彼女は問い質さずに居られなかった。
ねえ、嘘でしょ? あなた、まさか
詰め寄られた男は、失言を悔やむ様子すらも浮かべず
落としていた視線をちらと女のほうへ向け、静かに肯定してみせる。
ああ、俺はあいつを抱いた。けど、それでも本当に愛してるのは…
頬を張り飛ばそうと腕を振り上げる暇もあればこそ。
女はあえなく男に組み敷かれた。
なんと呪わしいことだろう。
愛を囁きながら自分を蹂躙する男に対して、女の抵抗は空しいばかりだった。
秘所にあてがわれた男の一物をヘシ折ってやろう。
ダメだ、腕が思うように動かない。
うなじの辺りを貪る男の髪をいっそ頭皮ごと引き剥がしてやろう。
ダメだ、指も言うことをきかない。
口内まで侵すべく近づく男の鼻柱を噛み千切ってやろう。
やはりダメだった。信じ難いほど弱弱しく吐息が漏れるだけ。
……だめ……だめぇ……っ
時に細波のごとく、時に大きなうねりとなって湧き上がる愉悦。
女の体はやがて責め苦に刺激された肉欲に屈した。
ほどなく心も。
男に呵責が無かった訳ではない。
だが、惚れた女を自分のものにするという衝動を振り払いきれず
二人、再びコウイに溺れゆく。
彼女の中で幾度果てたか、男は覚えていない。
女も、幾度と憚りなく嬌声を響かせた。
痺れを伴った一体感に身を任せる。
汗の伝う脚を持ち上げ、男は飽かず押し入った。
先刻女の瞳に揺れていた怨嗟の色は失われて久しい。
必死の形相で呼吸を繋ぎ、男の体を掴む手に時折力が加えられる。
獣のように交わる二人。
いや、ヒト以外の獣がこれほど狂おしく求め合うだろうか。
闇に閉ざされた一室。
寝台の上で蠢く男女。
むせかえる体臭、シーツを湿らす体液。
時の流れから切り離されたかのように、営みは終わりなく続くと思われた。
少女が扉を開き、ゆっくりと呟くその時までは。
「……桑古木……?」