「武さん」
空に呼ばれて振り返った瞬間、武の腹に何か冷たいものがずぶずぶと埋め込まれて
いくのがわかった。見れば銀色に光るナイフが深々と突き立っていた。
(なっ・・・?)
武は訳のわからぬまま言葉を搾り出そうとしたが、喉の奥からゴボゴボと沸き
あがってきた鉄臭い液体によって遮られる。同時に全身から力が抜けていくのを
感じ、武は床にへたり込んだ。
「倉成さんが悪いんです・・・」
ぞっとするような冷たい双眸で、空が武を見下ろす。
「私に『恋』という感情を与えておきながら、私の気持ちに気づいていながら
それを放っておいた倉成さんが全て悪いんです・・・」
(ま、待ってくれ、空・・・)
黒く染まっていく視界の中で、武は空を見上げた。17年前とは違う、確かな
実体、肉体を持った空の姿。だが、今の武にはその姿がなぜか幻のように見えた。
「さようなら、倉成さん。もしも生まれ変わりというものがあるのなら、また
お会いしたいですね」
それが武の聞いた、この世で最後の言葉だった。