「ディランドゥ……!」
このときほど、彼を愛おしいと思ったことはなかった。
何度も何度も傷つけられた相手なのに、彼を前にして、今これほど自分は安堵を覚えている。
来てくれた。
彼が来てくれた!
その事実が心に広がるたびに、ミラーナは幸福に包まれた。
ミラーナの体から力が抜けたのを感じ、ドライデンは顔をゆがめた。
「へえ、野獣がいつの間にか王子様に変貌したか! だがあいにく、このお姫様は俺が戴く。
親同士が決めた約束なんざどうでもいい。こいつは俺の女だ!」
「強姦野郎が偉そうにほざくんじゃないよ」
ディランドゥはぞっとするほど低い声で吐き捨てた。
「性欲の塊はこれだから始末に負えないんだ。さっさとアストリアに帰って娼館にでもかけこんだらどうだい。
そういう下半身のだらしない男のために、ああいう場は用意されてるんだよ。知らないわけじゃないだろ?」
「出ていくのはあんたの方だ。俺とミラーナの間に割り込みやがって、一体どういうつもりだ!」
「全く……」
ディランドゥはつかつかと早足でふたりに近づいてきた。途中でドライデンが放った丸メガネをぐしゃりと粉々に踏みつぶす。
「出て行けというのが――!」
「黙れええええっ!!!!!!」
ぐいとミラーナの腕をつかんだかと思うと、ディランドゥは絶叫しながらドライデンの顔面に拳を叩きつけた!
「ぎゃっ!」
小柄な体躯のどこにそんな力が隠されていたのか、ドライデンは鏡台に突っ込んだ。
鏡台に組み込まれていた小さな人形の玩具がばらばらとこぼれ、めちゃくちゃなメロディを奏でだす。
ミラーナを胸にしっかりと抱き、ディランドゥは怒りで燃えた目をぎらぎらさせながら、
鼻と口から鮮血をこぼすドライデンを睨みつけた。
「何事か!」
騒ぎを聞きつけ、兵たちが駆け付けた。
「そこの馬鹿を拘束しろ。僕の花嫁を凌辱しようとした不届き者だ! 二度と僕らの視界に入れないでもらいたいね。
次に見つけたら殺すから」
ミラーナの姿を見た兵たちは、きっとなってへたりこむドライデンを見ると、素早く彼を縛り上げた。
「自分の立場がわかっているのか!」
「フレイドの城内でこのような……!」
「おまえがフレイドの男であったら、すぐさま宦官の刑にしてやるところだ!」
兵たちに口々に罵られながら連行されるドライデンは、ふたりとすれ違いざまに言った。
「さっき言ったことは……本当か」
ミラーナはディランドゥにしがみつきながら、こくりとうなずいた。
「……そうか」
ドライデンはふっと笑うと、すぐさま痛みに顔をしかめたが、自嘲気味に言った。
「どうやら、空気を読んじゃいなかったのは俺のほうだったらしいな。……いや、ほんとは最初からわかってた。
こんなことなら、もっと早くあんたをものにするんだったぜ」
「さようなら、ドライデン」
「その台詞は早いかもしれないぜ。あんたが幸せじゃないと聞きつけたら、どこにいたって駆けつけてやるから」
「とっとと歩かんか!」
兵に背中を小突かれ、ドライデンはよたよたと出て行った。
室内には調律の狂ったオルゴールが鳴り響いている。
最後に残った兵が、別の部屋を用意させようかと申し出たが、ミラーナは首を振って拒否した。
兵はうなずき、一礼して出て行った。
扉が閉まると、室内にはオルゴールの音だけが残された。
「……なんで、あんなこと言ったんだい」
ディランドゥは静かに言った。
ミラーナはうつむいた。
――彼はきっと、迷惑に思うわ。それに、わたくしがああ言った意味をわかってくれないに違いない。
聞きようによっては、わたくしがあの場から逃れたい一心で、嘘をついたように思えるもの。
彼は他人の好意を決して受け入れない人よ。今までだってそうだったじゃない……
「それは……」
――彼はわたくしのことが嫌いなのよ。
本心を言ってどうなるの?
捨てられるかもしれないわ。彼はそうすると言った。
どんな形であれこの人のそばにいるには、わたくしの気持ちを悟られるようなことを言っちゃいけないわ!
だってアレンがそうだった。
好きだと言って追いかけたら、置いていかれて死んでしまったのだ。
二度と同じ思いをしたくない!
「ご、ごめんなさい。わたくし、あなたを利用したのよ。あ、あ、あなたのことなんて、好きじゃないわ。……だから、
だからわたくしのこと、まだ捨てられないわよ。残念だったわね」
気丈にふるまおうとしたが、無理だった。
身体は先ほどの恐怖でガタガタと震え、笑ってしまうほど声に力が出ない。
涙があふれてくるのを見られたくなくて、ミラーナは顔をあげることができなかった。
「――ああ、良かった……」
「!?」
ディランドゥがほっとしたように笑った。
ミラーナは胸がえぐれる思いで息をのむ。
……やはり、自分の選択は間違っていなかったのだ。
生涯この実らぬ恋心を抱き続けて生きていくのだ。
それが自分の運命。
――受け入れるのだ。受け入れるしかない……!
震えながら懸命に涙をぬぐっていると、そのままきつく抱き締められる。
「え……?」
戸惑って顔をあげると、優しい赤銅色の瞳が見つめていた。
「僕が好きだから言ったと言われたら、今度は僕が連れて行かれる番だったろうね」
「? どういう――」
訳が分からずきょとんとすると、ディランドゥは肩をすくめた。
「だっておまえは、嘘をつくって言ったじゃないか」
「え?」
「あの小さな王子に言ったろう?」
「――あ……!」
――人を疑うことも時に必要だけど、信じることはもっと必要なことなの。
でもね、それをわかっていても、逆のことをしなくてはならないのが大人なの。
大切なのは、その見極め方よ。
わたくしはこれ以上、大事な人を失いたくない。
だから嘘をつく――
ミラーナは口に手をあてた。
まさか、あの時のシド王子との会話を!?
ディランドゥはミラーナを抱えあげると、そのまま壁に背を預けて座り込んだ。
「もしおまえが」
ディランドゥは天井を見上げた。
「あの男を好きだと言ったら、そのままバァンを連れてこの国を出るつもりでいたんだ」
「! そんな……!」
「……いや……そうはしなかったろうね」
ディランドゥはミラーナを見下ろした。
「だっておまえは嘘をつくから」
「え? でも……」
「でもおまえは、僕が好きだと叫んだ。僕はそれを信じたよ。見極めたってわけさ」
ディランドゥはひとりで笑った。
「我ながら自己解釈が勝手だと思うよ。でも、さっきのは賭けだった。もしおまえが僕を好きだと言ったら、
僕はあの男と同じことをしただろうね」
ミラーナは信じられない思いで目を見開いた。
「……なぜなの?」
「わからないのかい?」
ディランドゥは、優しくミラーナの額に唇をつけた後、耳元で囁いた。
「おまえを僕のものにしたかったからさ」
「だって……!」
恐怖とは違う震えがミラーナの全身を覆った。
ディランドゥの言葉が全く理解できなかった。
恋や愛とは無縁の男ではなかったのか。
だから自分は、報われない恋に生きる決意を固めていたのに――
「好きだと言われたら、そうかとおまえを押し倒していた。でもおまえは僕を嫌いだと言った。
だから僕は、そうかとおまえを押し倒せるわけだね。どちらにせよ、おまえは僕のものになるしかないのさ」
「い、言ってることがむちゃくちゃだわ!」
「そうかい? でもおまえは、僕が好きなんだろう?」
先ほどから気味が悪いくらいにディランドゥが優しい。
そのことが、ミラーナを不安にさせる。
これは自分を捨てるための布石に過ぎないのではないかと勘ぐってしまう。
どうしてこんなに穏やかな顔ができるのだろう?
「……僕は定期的に、魔術師共に体をいじられるんだ」
唐突にディランドゥは言った。
「でも、おまえが来るようになってからは、それもなくなった。
それ以来、イライラすることが減ってきたんだ」
ディランドゥの腕の中で、わずかにミラーナの体がこわばった。
「おまえはフレイドに着くまでの十日間、僕のもとに来なかったね。
その時だろう? 僕の薬の中身を換えたのは」
「!」
「僕に隠し事はできないよ」
面白がるように細められる眼は、どこまでも優しかった。
「……麻薬の一種だったの」
ミラーナは諦めたように口を開いた。
「あなたを最初に見たときから、あなたの情緒不安定な様子を見て、もしかしたらと思ったのよ。
それで、あなたが寝ている間に与えられようとしていた薬を竜撃隊の人に頼んで持ってきてもらって、調べたの。
極端に感情が昂ぶって、破壊衝動が抑えられなくなる。そういう薬だった。
だからわたくし、フォルケン様に頼んだの。もうそういう薬をあなたに与えるのはやめてほしいって。
彼は自分の一存ではどうにもならないと言った。
……だからわたくしは、もし協力してくれないなら、フレイドへは降りないって、もぐらさんのところで過ごすことにしたのよ」
「……とんだ詐欺師だね、フォルケンは」
ディランドゥは苦笑した。
「……そこまでするほど、僕が好きなんだ」
「もう嘘は言わないわ」
ミラーナは微笑んだ。
「そこまでするほど、あなたを好きになっていたのよ、ディランドゥ」
ふたりは固く抱きしめあった。
いつの間にか、オルゴールの音は止んでいた。
マレーネが生前使っていたベッドに倒れこむと、ふたりは唇を重ねた。
まるで神聖な儀式を行うような、清浄さに満ちたキスだった。
閉じた瞼を持ち上げると、ディランドゥが微笑んでいる。
その笑みは優しく、心にすっと浸透した。ミラーナは嬉しさのあまり、目を潤ませた。
「……怖いかい」
額をくっつけて、ディランドゥが囁いた。
「いいえ……怖くはないわ。あなたがいるから」
ミラーナは両手を伸ばして、ディランドゥにしがみつく。
着崩したドレスをそっと下に引っ張り、ディランドゥが背中を撫でた。
ぞくり、と足の付け根がうずく。
「……最初はすごく痛いよ。酷いときは痛みが何日も続くんだ。だから無理強いはしない。
後ろからのほうがいいって言うね。おまえはどうしたい?」
背中を腿をゆっくりと撫でながら、ディランドゥはミラーナの耳元で囁いた。
「あ……っ、あ、あっ」
ミラーナは息を荒げながら、腿に触れる手をつかみ、茂みへと誘った。
目を丸くするディランドゥの顔を見上げてから、喉仏に唇を寄せる。
「おかしくなりそうなの……っ」
言いながら、両手をディランドゥの衣服の中に滑り込ませる。
「どう、おかしくなりそうなんだい」
突起をつままれて、ディランドゥが息を吐いた。
「早く、あなたのものになりたいっ、あっ」
茂みに誘った手が、花弁に触れた。芯にも到達していないのに、それだけで体がしなる。
「……それじゃあ、この間の続きといこうか……」
「……え……っ?」
じんじんと痺れるような下半身を持て余しながらミラーナがぼうっとした目を向けると、ディランドゥは上着を脱ぎ捨て、
胸を這っていたミラーナの両手をつかみ、自身の欲望へとあてがった。
「あっ」
ミラーナは下を見て、慌てて目を戻す。
「おまえが取り出すんだ。これからひとつになるんだからね。丁寧に扱うんだよ」
布越しに伝わるそれを握らせると、ディランドゥは鼻にかかった声を出す。
その声を聞いた途端、ミラーナはディランドゥの腰のベルトに手を伸ばし、くつろがせると、
ぎこちない手つきでベルトごとズボンをゆっくりと下に降ろし始めた。
「は……っ、ん、いいね……、こういうのも悪くない……」
布の摩擦でも十分に感じるのか、ディランドゥの息がますます荒くなってきた。
へそまで反り返った欲望が外気に触れるのを感じると、素早く両足から引き抜いて、両手をついてミラーナを見下ろす。
全身を真っ赤に染めたミラーナは、あえぎながら両足をディランドゥの腰にからめてきた。
「もう我慢できない?」
ミラーナは無言で、更に足をからめてくる。
「いいよ、花嫁さん。僕のものにしてあげる」
考えたくもないが、先ほどのドライデンとのやり取りで、体の準備は十分に整っていたのだろう。
腰に押し付けられた下半身はすでに濡れそぼっており、密接した部分からはぐちゃぐちゃとした音が聞こえてきた。
「ほら、少し力を緩めて……」
「あぁんっ!」
ディランドゥは、ぎゅうぎゅうと絡んでくる足の付け根に手を伸ばし、茂みをまさぐった。
すでに硬くなった芯を探り当て、そこを指で押しつぶすようにしてやる。
ミラーナは背筋に電流が走ったように上半身を浮かせてのけぞり、その反動でずるりと両足が落ちた。
「いやらしい子だね。とても初めてとは思えない」
ディランドゥは笑いながら、ミラーナの膝を持ち上げた。
「……へえ、前に指を入れたときより緩くなってるね?」
「い、言わないで……っ」
ぬるりと指がすんなりと入った。
一抹の不安を覚えてミラーナをみると、ミラーナは更に赤くなって身をよじらせている。
「……僕の他に、こういうことさせた奴が?」
「ちが……っ、じ……」
さらに指を深く入れると、ミラーナはあえいだ。
「あぁっ、自分で……っ、んぅっ」
「……自分で?」
ミラーナは枕に顔を埋めている。
ディランドゥは笑みを浮かべた。
「とんだ淫乱だね、ミラーナ。そういうことしちゃうんだ……」
「あ、だ……って、あなたが……っ」
「僕が?」
「ああいうこと、する、から……っ」
中に入れた指をくっと曲げてやった。
「ああっ! いやっ! いやぁ……っ」
「嫌じゃないだろ? ね……」
「あっ!? ディラン……」
指を抜き、ディランドゥは両手で茂みをかきわけると、蜜で溢れた花弁へと顔を寄せた。
「な、なん……っ、あうっ! あ、だめ……!」
じゅるじゅると音をさせ、ディランドゥはその蜜を味わっていた。鼻を芯にこすりつけるようにして、一心に貪っている。
下半身が麻痺するくらい痺れ、生ぬるい舌の感触がぞわぞわと頭の回線を焼き切っていく。
「うあ、あ、そんな、とこ……ろ、だ……っ、んんっ!」
全身から汗が噴き出す。丹念に蜜をなめとるディランドゥの銀の髪が視界の隅で動いている。
髪の先が肌にこすれる感触にすら感じてしまい、ミラーナはあえぐ。するとディランドゥの手が伸びてきて、震える果実を包み込んだ。
「あぁっ!」
先端部分を人差し指と中指が挟み、ぎゅっと力がこめられる。
バチバチと火花が目の前で散り始め、ミラーナは左右に体をくねらせて嬌声をあげた。
「ふあぁっ! あっ、あああ……!」
入れていた舌先の周りの肉が収縮を始めた。ディランドゥは顔をあげ、ミラーナに覆いかぶさった。
再度指を埋め込むと、急速に出し入れさせた。
「ああああっ! あ……っ!」
弓なりにしなる体を抱きとめ、胸に顔を埋めた。硬くなった蕾を口に含み、舌先で転がしてやる。
ビクビクと下腹部の肉が揺れ、やがてミラーナの体から力が抜けた。
ディランドゥはにやりと笑うと、片足を持ち上げて、先端から愛液を滴らせる自身をその中心にあてがった。
ぞぶり、と入ってくる感触に、まどろんでいたミラーナは我に返る。
「はぁ……っ、まだ、きつ……」
「あっ、ディ、ディランドゥ!?」
「ほら……、よく見てごらん。ようやく、つながった」
満足げなディランドゥの言葉に、ミラーナは下を見た。
「あ……!」
「これで僕たちはひとつだ……」
根元まで収まったディランドゥとミラーナは今、これ以上ないくらいひとつの形としてそこに在った。
「……痛いだろ?」
気遣わしげに聞いてくるディランドゥの一挙一動、全てが愛おしい。
じんじんと響く痛みを無視して、ミラーナは微笑んで見せた。
「……だい、じょうぶ……わたくし、すごく幸せよ、ディランドゥ……これで……」
終わったのね。
そう言おうとしたミラーナの口を、ディランドゥは唇で遮った。
「んむっ!?」
痛みと驚きでミラーナが両手をあげてディランドゥを引きはがそうとすると、顔を離したディランドゥは意地悪く笑った。
「おまえ、男女の交わりってもんが、本当にわかってないんだね」
「え……? だ……って」
きょとんとするミラーナを尊大に見下ろして、ディランドゥはミラーナの膝の裏から手を差し入れ、持ち上げた。
「本番はこれからだよ? お姫様」
「え? ちょ……、んあ、あぁぁっ!」
ぐちゃっとディランドゥの欲望が引き抜かれたかと思うと、一気に根元まで押し入ってきた。
結合部分からあふれる二人の愛液が飛び散り、顔にまで跳ねる。
「あ、あんっ、ああっ、あ」
突かれる度に、声が勝手に飛び出した。
「すごいね……っ、はっ、あっ、気持ちよすぎる……っ!」
ディランドゥは時折角度を変えながら容赦なく突いてくる。
痛みも快感も投げ出したミラーナの反応が鈍くなると、突きながら器用に芯をこねくりまわし、
ミラーナが声をあげると満足して更に腰を動かした。
斜めから入られたとき、先端部分が壁を思いきりこすり、ミラーナはショックのあまり悲鳴をあげた。
ディランドゥはそれを見て笑みを深くする。
「ここが、いいんだね?」
「あっ、だめ……あああっ!」
ディランドゥは奥深く入ってきた。
先端がごつんと最深部で止まると、ミラーナはふやけた頭で、彼は子宮にまで到達したのだと思う。
――子宮に……ええと、男性の……が……入る……と……
「ディランドゥ、待っ……、ん、んあ、これ以上……ああんっ!」
「はぁっ、はっ、待ってだって? それはおまえが決める……ことじゃ、ない……っ!」
力なく手を伸ばしたが、ディランドゥはその手に自分の手を重ねてきた。
指を絡ませ、そのまま突いてくる。
リズミカルなその動きに身を委ねながら、ミラーナはまた意識を手放した。
虚ろな目でくたりとなったミラーナを見下ろしながら、ディランドゥはまだ止まらなかった。
「だめだ……っ、まだ、足りない……っ」
未遂に終わった今までのことを思うと、そのたびに欲望がうずきだす。
積極的に求めてきたミラーナがこんな状態なのに、ディランドゥの渇きは収まらない。
どちらが相手を求めていたのかは、明白だった。
好きだと言われる度に、理性が消し飛びそうになった。
肌に触れただけで、何も考えられなくなりそうだった。
獣のまま行動してもよかった。
「はあ……っ、んあっ」
額の汗が、ぽつりとミラーナの胸元へ落ち、横へ流れた。
それを見ただけで、たまらない。
切ないくらいの情が押し寄せてきて、腰の動きが速くなる。
完全に男になって、初めてわかった。
好きな女を抱くという行為は、麻薬のようなものなのだ。
だからそれを失うことを思うと、耐えられない。
獣のように行動できなかったのは、単純なことだった。
ディランドゥは、されるがまま、揺れるミラーナの耳元に唇を寄せた。
「……好きだよ、ミラーナ……っ」
嫌われたくない。
この女に嫌われたら、もう生きてなんかいけない。
ディランドゥは腰を震わせ、果てた。
ふたりが目覚めたのは翌朝のことだった。
濡れたシーツがひんやりと冷たく、ミラーナは身震いしながら目を開ける。
すると、誰かがぎゅっと抱きしめてきた。
「!?」
驚いて顔をあげると、そこにはディランドゥの寝顔があった。
「……あ……っ」
昨日のことを思い出し、ミラーナはかっとなった。
動こうにも、抱きしめる腕の力が強くて振りほどけない。
「ど、どうすれば……」
恥ずかしくてうつむいた。
足をもぞもぞと動かすと、腰に激痛が走った。
「い……っ!」
目をぎゅっととじ、痛みをこらえる。
初めてが痛いものだというのは知っていたが、まさかこれほどのものとは……
今日は起き上がれないかもしれないと、漠然と思った。
「……男の方は、ずるいわよね」
意外に長い睫毛を伏せて眠るディランドゥを見上げ、ミラーナは口をとがらせた。
「そうでもないさ」
「きゃあっ!?」
ぱっちりと目を開けたディランドゥが、面白そうにミラーナを見つめる。
驚いて真っ赤になるミラーナに唇を寄せ、ディランドゥは囁いた。
「僕も腰が痛くて大変さ」
「……っ!」
その意味に気付いたミラーナが更に赤くなるのを、ディランドゥは嬉しそうに見つめた。
「今日は一日こうしていようか。公王も許してくれるさ」
今日は安静にしなくてはだめよと言おうとしたが、それは明日になりそうだと、ディランドゥの唇を受け入れながら、ミラーナは思った。