rain-1  
 
 その部屋はとても薄暗く、時折、蒸気だけが静寂を破る。何人かの男たちは  
機器の点検に余念なく動いている。その中で、一人の男だけは白髪の老人を  
じっと見ていた。  
「見えぬ!見えぬではないか!このままでは……」  
 球形の映像転送装置の中、竜と月の少女のふれあいに苛立ちを隠せない。  
「ご安心くださりませ。あやつに男女の一線を越える術などありませぬ」  
「ほほおぅ……おもしろいのぉ、フォルケン」  
 そう言うと老人は、再び運命の観察に戻っていく。  
 
 竜神を隠匿した風車小屋に、竜と月の少女はいた。  
(藁の匂いがやさしい。こうして、こいつと話すのって何度目だろ。最初はただの  
刺々しいだけの奴だと思ってたけれど、そういう緊張を強いられてきたんだものね。  
しょうがないよね)  
 ミラーナの占いの申し出を断った棘が、すこしだけやわらぐ。けれど、すぐに想いが駆ける。  
(わたしって、なんてイヤな女だったんだろう……ミラーナさん、ごめんなさい)  
 不意にバァンが声をかけてくる。  
「落ち込んだ顔のお前なんて……らしくないぞ……ひとみ」  
「へっ?」  
(な、なんて失礼な奴!わたしは、メルルじゃ……えっ!こいつ……わたしをなぐさめてるんだ)  
 竜神を手入れするのを止め、バァンは少し俯き、絞りだすように声を発した。  
「ひとみ……月になんか……還るな。ずっと俺のそばにいて欲しい」  
 
rain-2  
 
「ちょ、ちょっと……」  
(こ、これってプロポーズじゃない……ひえーっ!)  
 ひとみの頬が火照る。  
「お、おまえが欲しい!」  
(げっ!い、いっちゃったぁ……どうしょう、おかあさん……)  
「お前のちからを貸して欲しい!いっしょに闘ってくれ……ひとみ!」  
(げげっ!こ、こいつは……ぼ、朴念仁のまんまだぁ)  
 ひとみの中にメラメラと怒りが込み上げてくる。  
「ば、ばかぁ……バァンの大バカァ!」  
 ひとみは風車小屋をいたたまれなくなって、逃げ出す。竜は月の少女の  
瞳が潤んでいたのを見ても……なにも言えなかった。  
「ひとみ……すまん……」  
 バァンはちぢに乱れながらも、休めていた手をまた動かし始める。  
 
rain-3  
 
「兄弟とは不思議なものよのぉ、フォルケン。竜は我々の手中にあるということか」  
「御意にございます」  
「くれぐれも、竜には食われるなよ」  
「……はっ、ドルンカーク様!」  
 男は、うやうやしく老人に頭を垂れる。  
 
 海を頂くその丘に、気持ちいい潮風が吹く。空はどこまでも蒼く、雲がたなびいている。  
そこには、ひとりの金色の長髪の青年が佇んでいる。  
「ア、アレン……」  
 墓石と対話していた、青年が振り返る。  
「珍しいですね。神とさえ語ろうとしなかった……あなたが……」  
 軽く会釈をして去ろうとした時に、エリーズと肩がふれる。  
「まって……アレン。もう妹にはかまわないでいて……ミラーナなりに幸せをつかもうとしているのよ」  
「それを聞いて安心いたしました。それではエリーズ姫、失礼いたします」  
 エリーズの手にしている献花の花びらが、風に舞ってアレンの肩にとまる。  
彼女はアレンの姿が見えなくなるまで見送ってから、彼が立っていた場所にそっと花を置く。  
 その花はアレンの母が愛したもの。失踪した父を想い、愛した花だった。  
 
 その……花言葉は、忘れえぬ人のために。  
 
rain-4  
 
「ほんとうに可能なのだな、フォルケンよ」  
「はっ!外因としての別の気を送り込みさえすれば、かく乱は必ずや」  
 フォルケンの右腕の機械化された手には毛髪が絡んでいる。  
「ここに彼らの写し身、触媒を用意しております」  
「抜かるでないぞ」  
「はっ!ドルンカーク様」  
 
 男の側には、金と銀の髪をした、しなやかな肢体をした女性が膝まづいている。人に忌み嫌われる  
獣人。  
「作戦とはいえ、そなたたちの気持ちも考えずに決行したこと、許して欲しい」  
「もったいなきお言葉。痛み入ります」ふたりの女獣が声を揃える。  
「わたしたちは、フォルケン様に捧げた身。後悔などいたしましょうや」銀色の髪の姉ナリヤ。  
 
 ひとりの魔導師がふたりを連れに来る。  
「頼んだぞ、ナリヤにエリヤ。わたしもすぐに行く」  
「はっ!フォルケン様」  
 ふたりは別室に連れて行かれた。  
「選ばれし者は、この胴衣に着替えてから来てください」  
「わかった、すぐに行く」とナリヤ。  
 
 
rain-5  
 
「じゃあ、始めよう。ナリヤ、恨みっこなしだよ」金色の髪の妹エリヤがコインを差し出す。  
「望むところだ」  
 エリヤがコインを握ると、親指で弾く。 ピキィーン! 乾いた音が響き、回転し空中に舞う。  
 
 エリヤが後に手をまわして、ナリヤも手伝い戦闘服を下ろす。  
「ごめん……姉さん」  
「エリヤが姉さんって言うと、こそばいねぇ。わたしたちは対等で、それ以上でもなきゃ以下  
でもないさ」  
 服が床に落ちてエリヤの肢体が現れる。しなやかでいて、無駄のない筋肉美。  
エリヤの金の産毛がぼうっと光を放つ。その乳房は彼女たちの生き様のままに、気高く  
ツンと上を向いて。  
「さぁ、これを着て」  
 手を掲げ、白い胴衣を通していく。エリヤがじっと白い胴衣を見つめている。  
「エリヤ、緊張するな。これは作戦だ……お前は綺麗だ、心配するな。フォルケン様に  
可愛がってもらえ」  
 ナリヤは、そっと妹のエリヤの背中を押す。  
「姉さん……ありがとう」  
「さぁ、行こう!フォルケン様がお待ちだ」  
 
rain-6  
 
さきほどまでの空が嘘のように、黒い雲で覆われていく。ひとみは、街に出てきた  
ところで雨にたたられた。  
「あっ、いやだ……ついてないんだ……」  
 天を見上げたあとに、ふと街中に目を移せば、恋人たちの雨宿り。  
「あっ……」くちづけに思わず息を呑み、逃げるように雨の中を駆け出していた。  
 
「エリヤ、準備はいいか」  
「はい、フォルケンさま」  
「わたしたちは、アレン・シェザールと月の少女・神崎ひとみ。心せよ」  
「かしこまりました……」  
 ふたりは、橋に模した両のたもとに立った。遠くからナリヤが見守る。  
大部屋には、時折蒸気の音だけが響いていたが、そこに歯車が動く金属音が加わる。  
「運命改変!」フォルケンが厳かに始動合図を発令す。配置についた魔導師たちの声の  
合唱となって時は動き出す。  
 
 雨脚はさらにひどくなっていた。墓地から街に向かう途中に、雨に濡れるアレン。  
(俺は、女に振り回されているだけなのか……想いだけが儚く、いつも壊れていく……)  
 かたや、逃げ出してしまったひとみには、還る場所はない。あてもなく歩いて躰が  
凍えていく。  
「わたしがなにしたっていうの……なんで、こんなとこにいなくちゃなんないのよ!  
誰か教えてぇぇぇぇぇッ!」  
 
rain-7  
 
「メルル、ひとみを迎えにいってくる!」  
「わたしも行きます!」  
「メルルは、此処にいろ。風邪をひくだろ」  
 メルルは思わず、バァンの赤いシャツを掴んでいた。  
「バァンさまぁ……そんなに、あの女のとこがいいんですかぁ……」  
「メルル……すまん……」  
 メルルが、ハッとなって手を離すと、バァンは激しい雨の中に飛び出していく。  
「バァンさまだって風邪ひいちゃうのにぃぃッ!ばかぁぁぁぁぁぁッ!」  
 メルルはその場に崩れて泣いていたが、雨の中にバァンを追って飛び出した。  
 
 橋のたもとでは、愛にはぐれた男と女が出会っていた。  
「おおっ!運命が回り出す……さぁ、引き合う愛の力とやらを見せておくれ!」  
 フォルケンとエリヤは中央に近づいて、手を差し伸べ絡めていく。募る想い……昂ぶる気持ち。  
アレンがひとみの凍える肩をぐっと引き寄せる。  
「アレンさん……温かい」(ミラーナさん……ごめんなさい……)  
 
「素粒子・密度低下!」  
「エリヤ、わたしをアレンとして強く想っておくれ」  
 エリヤは朱に染まった顔で、懸命にフォルケンを見上げる。  
「はい……フォ……アレン」  
 
「ひとみ……わたしには、もう君しかいない……」  
「アレンさん……本当に私なんかでいいんですか……?」  
(天野先輩、好きです……)  
 ふたりが唇を寄せていく。 フォルケンとエリヤもまた、くちびるを寄せて……。  
 
「おおおッ!運命が動く、運命が動いて行くぞッ!」老人のしわがれた歓喜の声が響いていた。  
 
 
rain-8  
 
「アレンさん……このまま、わたしをここで抱いて……ください」  
 金のエリヤがフォルケンに顔を埋めて呟く。  
「エリヤ……!」人前で妹が抱かれる……分かっていた事なのに、思わず真っ赤になって  
口に両手をあてる銀のナリヤ。  
 
「本当にいいんだね……ひとみ」  
「はい……アレンさん。わたしを抱いてください」  
 躰の顫えを埋めるように、ぴったりと擦り寄りよって、手でまさぐり合う。制服の上から  
膨らみを揉まれた。  
「あうッ!」ひとみの右乳房に激しい痛みが走る。それを塞ぐように、アレンはひとみの  
くちびるを奪い、舌をねっとりと絡めていく。  
(どうして……こんなのって……わたしじゃないみたい……しかも、こんなところで)  
 ひとみの腰がアレンを挑発して妖しく蠢く。  
(天野先輩、せんぱい……ア、アレンさん……スキ……)  
 アレンは、ひとみのスカートに手を入れて、ショーツを下ろす。ひとみは背を欄干にあずけて  
右脚を抜き取った。  
「ひとみが欲しい……いいね」  
 雨の中で凍えていた躰が、どんどん火照って。  
「はい、アレンさん」ひとみは後に手をまわして、欄干をひしっと握って、その時を待つ。  
 昂ぶったペニスが、愛液で濡れそぼる秘孔を捉える。  
「ああッ!」(こ、こんなの……わたしじゃない……壊れていく……)  
 アレンはゆっくりと律動を開始する。 雨に打たれながら……ふたりは愛し合う。  
 
 
rain-9  
 
「あうッ、うあああッ!あっ、あっ、あっ……!」  
 フォルケンの激しい抉るような突き上げに、堪えきれずに呻きが洩れるエリヤ……。  
白衣だけをまとった二人が牡と牝となって貪り合っている。  
「ひいいッ!」  
 フォルケンの爪が布地を裂き、右の膨らみを搾る。食い込んだ場所からは血が噴出していた。  
(エリヤ!エリヤ!私の声に耳を澄ませ!運命改変装置は暴走している、この作戦は失敗だ!逃げるんだ!)  
 
 心配そうに見ていたナリヤが異変に気づく。  
「おい!様子がおかしいぞ!」  
 側にいた魔導師へと詰め寄った。  
 
「アレン!」  
 エリヤはそう叫ぶと、両脚をフォルケンの腰に絡めて、しがみついてくる。  
(よすんだ、エリヤ!逃げろ、逃げてくれ!エリヤ!)  
「いやぁ!いやッ!いやぁぁぁぁぁぁぁッ!」  
 戦士から、ただの女となったエリヤの哀しい叫びが上がり、さらにしがみついてくる。  
「ああっ……も、もう、二度と……離れるのは……いやぁぁぁぁぁぁぁッ!」  
 
「おおおっ!素晴らしい!想像以上じゃ!」  
 魔導師が老人に進言する。  
「少々危険かと……」  
「かまわん!!」  
 即座に魔導師の口を封じた。  
(あのエロじじい!チンポおっ立ってたら、ただじゃおかないよ!喉笛噛み切ってやる)  
 ナリヤは低く唸っていた。それはエリヤへの嫉妬の矛だったのかもしれない。  
 
 
rain-10  
 
(エリヤ、ここでは危険だ。移動する、私にしがみつくのだ!)  
 エリヤはフォルケンの首に両手をまわしてしがみつく。フォルケンはエリヤを抱えて  
中央から動き出した。  
「ひいいいッ!」  
 歩く度に、烈しい突き上げで、口から臓物が飛び出しそうな感覚がエリヤを襲う。  
「うあああッ!」  
 しっかりと抱きとめていても躰が弓状に反って、頭が仰け反って喉が曝ける。  
金の髪が快美に揺れ乱れる。  
(もう少しだ、エリヤ、我慢しろ!)  
「いいの……いいのッ! 愛してるうぅぅぅぅッ!」  
 フォルケンに語りかけているのか、女となって悦楽に溺れているのか……エリヤには  
もはや、どちらでもよかった。  
 
 バァンは唖然として橋の上の二人を見ていた。雨が彼を打ちのめした。  
「バァンさまぁ! 見つけ……ああっ! あの女ッ!」  
「見るなぁッ!メルル!」  
 バァンの手を振り払って、メルルはすがりつくような瞳を向ける。  
「だって、だって……バァンさまがぁ……!」  
「もう、いいんだ。いくぞ、メルル」  
 バァンが踵を反して、その場を去ろうとしたその時、  
「ダメですぅ!バァンさまは……バァンさまは、ひとみのことが好きなんでしょ!だったら  
止めにいかなきゃ……止めにいってくださいッ!」  
 メルルはバァンの背中にしがみついた。  
 
 
rain-11  
 
「もう、いいんだ。メルル、行くぞ!おい、メルル!メルル、しっかりしろッ!」  
 バアンの赤いシャツにしっかりと捉まっていた手がふっと弛緩すると、その場に  
崩れてガクガクと顫えていた。  
「おい、メルル!しっかりしろ!」  
 バアンがメルルの額に手をあてると、ものすごい熱を孕んでいました。  
「すごい熱じゃないか!だから来るなといったろ!さあ、俺に負ぶされ」  
「でもう、ひとみがぁ……」  
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」  
 不承不承バアンの背へと負ぶさって、メルルは呟く。  
「ごめんなさい、バアンさま……ごめんなさい……」  
「なんでお前が謝るんだよ」  
「だ、だってぇ……」  
 メルルはバアンの背で眠りに落ちました。  
 
 一方、橋の上で雨に打たれながらも交わっていた二人は、ようやく渡りきって民家の  
軒先に身を寄せています。アレンは左脚だけを降ろして、さらに抉るような突きあげを  
繰り出していました。  
「うあああっ、ア、アレンさんんんッ!わ、私こわいッ!」  
 ひとみの仰け反っていた頭が今度は結合部位を眺めるようにガクッと折って、情欲の  
想いを吐露したのでした。短めの髪はたっぷりと水を含み、頬にべったりと絡みついていました。  
「かはッ!ア、アレンさんッ!」  
 口から溢れる唾液が咽喉を詰まらせます。ひとみの絶頂はすぐそばまで来ています。  
 
「あうっ、あああああッ!あっ、うあああッ!」  
 ザイバッハ帝国の一角の或るフロアにエリアの嬌声があがり、フォルケンの目の前に無防備に  
咽喉が伸びきって曝け出されていました。ふたりはひとみとアレンを操り、またその恋の波動に  
よって狂わされていたのでした。  
(ゆ、許せ、エリア……許してくれ……)  
 獣人・エリアのなかにフォルケンの思念が流れ込んで来るのです。フォルケンは恋の波動によって  
乱された改変装置により自制できず呑まれて、欲望のままにエリアを犯していたのでした。  
 
 
rain-12  
 
「はあッ……はっ、はっ、はッ……うああああああああッ!」  
(いいんです、フォルケン様……わたしは人として、いいえ……女としてしあわせです)  
 エリヤの膣が烈しく痙攣して、フォルケンの放出を促す。その灼熱の迸りを深く  
受けてエリヤは歓喜に歔いて白眼を剥き、ふたりは絡み合ったまま床へと崩れ落ちた。  
 
 ザイバッハの策略によって運命を改変されて、ひとみとアレンは恋人となっていた。  
「ひとみ……大丈夫か?」  
「は、羞ずかしい……み、見ないで!アレンさん……」  
 アレンは背を向けると、ひとみの身支度を待った。  
「ずいぶんと濡れてしまった。ひとみ、帰ろう!」  
「で、でも、わたしに還るところなんて……」  
「わたしじゃ駄目か、ひとみ」  
「ア、アレンさん……そ、そんなこと……ないです!」  
「さあ、帰ろう」  
 雨上がりの雲の合間から陽が射している。ひとみは雨宿りしていた恋人たちの  
行くへを自分に写していた。  
 
 作戦は成功したが、改変装置の暴走によって、フォルケンはエリヤの女を踏みにじって  
しまっていた。しかしエリアは兵士としてより、フォルケンに准じたことに、女として扱って  
貰えたことにしあわせを躰に感じている。  
「エリヤ、エリヤ!しっかりしろ!」  
 エリヤの正体を無くしてぐったりしている頬をフォルケンは軽く叩いていた。  
「あ……あッ!も、申し訳ありません、フォルケン様!」  
 慌てて起き上がろうとするも躰が縺れてよろけてしまい、フォルケンがそれを受け止める。  
「いや、いいんだ。よくやったぞ、エリヤ」  
 機械の手の人差し指ではあったが、エリヤの涙をそっと拭ってから彼女を抱き上げる。  
 
 
rain-13  
 
「フォ、フォルケン様……わたしは歩けます」  
「このぐらいのことは、わたしにさせておくれ。 エリヤ」  
「ありがとうございます、フォルケン様……」  
 エリアは顔を赤らめ、フォルケンの胸にそっと顔を埋める。フォルケンは優しく光輝く金髪に  
唇をそっと寄せていた。エリアはそのやさしさを感じて瞑っていた瞳を見開き、ふたたび  
ゆっくりとしあわせを噛みしめるように閉じるのだった。  
 
「素晴らしい! これで竜と月の少女は、たもとを分かった!」  
老人がしわがれ声で叫んだ。  
(いつまで、ほざいてやがる! くそ爺ッ!)  
 ナリヤはモニターの老人に毒づきながら、ふたりのもとに駆け寄った。エリヤを見て  
ハッとする。右乳房には、フォルケンの機械の義手が残した爪痕が印されていて、そこから  
血が滴っていた。  
「すまぬ、ナリア。エリヤを傷つけてしまった……」  
 フォルケンが哀しみの瞳をナリアへと向ける。一瞬、ナリアは言葉が詰まった、それは  
女の業ともいうべき……悋気だった。  
(フォルケン様が付けた印だ……エ、エリヤにあって、わたしには無い……ものだ)  
「どうした、ナリア?」  
「い、いえ、なんでも……ございません……エリヤ大丈夫か!」  
 銀の姉・ナリアは腰を下ろすと、フォルケンに労わる様に抱かれている金の妹・エリヤを  
気付ける為に軽く揺さぶった。  
「ごめんなさい……ごめんなさい……お姉さん……」  
「おい、エリヤ! しっかりしろ!」  
 すっかり要領を得ていないエリヤの肩を今度は強く揺すって気つけようとする。  
「少し混乱しているのだ、そっとしておいてやってくれ。エリヤを部屋に連れて行く」  
「はい、よろしくお願いいたします。 フォルケン様」  
フォルケンは傷つき裂けて肌蹴た胴着のエリヤを抱いたまま、すくっと立ち上がる。  
 
 
rain-14  
 
  暫らくしてから、ナリアは薬と水を持って部屋の扉の前に躊躇いがちに立っていた。  
傷ついたエリヤを抱いて安息室に消えた時、扉が閉まる瞬間まで烈しい悋気を感じて  
いた。薬を持ってくるのさえ、ザイバッハの魔導師に頼むことさえ考えていた。  
(女としても見ていて欲しい……けれど、わたしは戦士、フォルケン様に使える戦士だ!)  
 自分の女心をフォルケンに気取られはしまいか、エリヤに感ずかれはしまいかと  
不安で仕方なかった……。  
(わ、わたしは……くだらない女になど……わたしは戦士……だ)  
 ナリアは安息室の扉をノックした。  
「フォルケン様、お薬をお持ちいたしました。 入ってもよろしいでしょうか?」  
「ナリアごくろう、入ってくれ」  
 エリヤはベッドに横たわり、安らかに寝息を立てている。 フォルケンは左手でエリヤの  
金の髪を恋人を愛でるように撫でていた。ナリアの心がちりちりと掻き乱れる。  
「ナリア、どうした? 本当に大丈夫か?」  
 フォルケンのバリトン・ボイスがナリアの躰をやさしく包みこむ。  
「も、申し訳ありません……わ、わたしは……」  
 ナリアの深く蒼い瞳から雫がこぼれ落ちた。 それは、どんどん溢れて彼女の頬を濡らす。  
「さぁ、ナリア……ここへおいで」  
フォルケンがエリヤの頭を撫でていた手を差し伸べる。機械の手ではない、生身の躰  
の温かい手が差し伸べられる、しかしその指にエリヤの金の髪が絡むのを見てしまった。  
「フォルケン様……わたしはあなたさまに使える戦士です……卑しい女などでは……」  
 エリヤが姉の声に目覚めて、ぴくっ!と躰を慄かせる。  
「エリヤは醜かったかい?」  
「いえ、そのような……と、とても……美しゅうございました……」  
 ナリヤは悟られたことを羞じて、俯いてしまい床に雫を落としていた。  
 
 
rain-15  
 
エリヤが静かに瞼を開け紅い瞳を覗かせる。 フォルケンがやさしい目でエリヤを見た。  
「フォルケン様……お姉さまをお願いいたします……」  
「エ、エリヤ……な、なんてことを言う!」  
羞を晒して俯いた顔をあげる。再びフォルケンはナリアを見つめ返した。  
「ナリアは嫌か、わたしに女として愛されるのは……」  
「め、めっそうもございません……わたしになど、勿体のうございます!」   
「なら、ここに来てくれ、わたしはナリアも等しく愛したい」  
「お姉さま……ナリアお姉さま……」   
「う、嬉しゅうございます、フォルケン様……!」  
 ナリアは机に薬と水を置くと、ベッドに腰掛けるフォルケンの前に立つ。   
(フォルケン様がわたしを見上げてくれている……それだけで、しあわせだ)  
 今度はエリヤがナリアの後に立って、しなやかな肢体をあけすけに見せる、いたって  
シンプルな戦闘服にそっと手を掛けると、あっさりと床に落とした。ナリアの肢体は  
美しかった。エリヤを守って盾となって、フォルケンの為に女を捨ててまでも戦士として  
生きてきた。フォルケンの背中を守る為に存在する美としてナリアを鼓舞し続けて  
来た肉体なのだ。  
 戦闘服の拘束が肉体の美を解き放つ。極限までに鍛えられた肉体に、幸運強化兵として  
の哀しみも宿る。筋肉質ではあるが、あくまでもしなやかで首筋から下りる腰までの  
スロープが美しい。豊かな乳房も解放されるが、女性のような脂肪のやわらかさは  
ない、戦士の証としてそこに存在している。  
 その肢体を金の妹エリヤと違う、姉ナリアの産毛が、銀の輝きをぼうっと灯して裸体を  
やさしく包み込んでいるのだった。  
 
 
rain-16  
 
「ナリア、すまなかった」  
 フォルケンがナリアの潤う秘所に唇を寄せる。  
「フォルケンさまが、謝ることなんて……ご、ございません……ああっ……」  
 エリヤは姉の顫える背から離れて、遠くの場所からふたりの姿を見守っている。  
「あっ……ああ……ひっ……!」  
 フォルケンの両手が女としての快美に慄く腰を挟む。そして機械の手の爪が  
ナリアの素肌へと喰い込んだ。  
「すまぬ、ナリア……力が入ってしまった……」  
 見上げるフォルケンの唇が自分の愛液で濡れ光るのをナリアは見てしまった。  
自然と両手でフォルケンの顔を撫でていた。戦闘服のグローブ越しでない素の手  
で愛しい人の顔を撫でている、恐れ多いことと知りながらも気持ちが昂ぶって  
どうしょうもなかった。  
「す、好きにしてくださいまし……わたしは引き裂かれて……あっ、申し訳ございません……」  
 引こうとするナリアの褐色の手を生身のフォルケンの手が引きとめ、頬に擦る。  
「もっと撫でておくれ、ナリアのやさしい手で」  
 そして、快美にひくついているナリアの秘所へと顔を埋めて、機械の手で尻朶を掴んで  
ぐっと引き寄せた。ナリアの引き締まった尻肉に針の刺戟が走る。  
「あああ……う、嬉しゅうございます……フォルケン様……」  
 ナリアは離し掛けていた左手をフォルケンの左の頬に戻して愛撫する。あえて自分を  
引き寄せようと尻に立てた機械の爪の味が甘く躰に拡がっていく。ナリアのヴァギナは  
発情して膨らみ切って、フォルケンのペニスを欲して妖しく蠢いた。  
 
 
rain-17  
 
 ナリアのひくつく秘孔にフォルケン舌先がぬるっと侵入した。ナリアの肩に掛かる  
銀の髪が官能にざわっとなる。  
「ああうっ……フォ、フォルケンさまああああああッ!」  
 頭が仰け反り、胸を張るカタチとなった。両手はフォルケンの熱い舌を奥に導こうとして  
しとどに濡れる秘所に力強く押し付けてしまう。フォルケンはナリアに抗うことなく顔を  
押し付ける。蒼い瞳に歓喜の涙が溢れていた。  
「ナ、ナリアお姉さま……」  
 膝を抱えて、姉の戦士でない女としての姿を見まいとして顔を埋めていた。姉のフォルケン  
によって引き出される女の熱い吐息、喘ぎに呻きにエリヤの膝や腰が顫えている。  
 膝に埋めた顔を目だけをふたりに向けた。目元がカッと熱くなるのが分かる。  
エリヤは不思議と安らいだ気持ちに浸っていた。いままで、自分の盾として母となって生きて  
くれた姉・ナリアがフォルケン様に愛されて戦士の仮面を剥がされて、自らも脱ぎ捨て  
女として生きていることが嬉しかった。  
「あっ……」  
 恋の黄金律作戦の裂かれたままの白い胴着の下、何も覆われていない秘芯が熱を  
帯びてくるのが感じられた。ツーッと女の蜜が溢れてくる。エリヤは膝を抱えていた右手を  
そっと秘所へと持っていくと、髪の毛と同じ金糸の茂りがしっとりと濡れていた。  
「あ、熱い……」  
 エリヤは右手を自分の目の前へと持ってこさせ、女の蜜べっとりと濡れ輝く指を  
じっと見つめた。そして揃えた人差し指と中指をゆっくりと拡げて見る。  
蜜が糸を引いて切れた、ぬちゃっと蜜の音が聞こえたような気がした。  
(わたしはなんという女だ……ナリア姉さんを見て発情するだなんて……けものだ……)  
 エリヤは膝に顔を埋めて羞恥に咽び泣く。  
 
 
rain-18  
 
「さあ、ナリア」  
 フォルケンはすっと立つとナリアをベッドへと促す。  
「待ってください、フォルケン様……お顔を……」  
 ナリアは両手をフォルケンの肩に添え、爪先立ちになると、自分の分泌物に濡れる  
唇を綺麗に舐め取った。フォルケンはナリアのいじらしさに極まって頭を抱き寄せる。  
「あっ……フォルケン……さま……」  
 ナリアの右頬とフォルケンの左頬が擦れ合う。そのまま二人はベッドへと崩れた。  
ナリアをベッドに組み敷いて、フォルケンが怒張に手を添え、いざ挿入という段になった時  
彼女は背を向けてしまった。  
「どうした、ナリア……?」  
「も、申し訳ございません……は、羞ずかしいのです……」  
 獣としての主人への絶対の服従としての下腹を見せる行為と、極限まで鍛えられた  
肉体を見られて女として嫌われることの不安がナリアのなかで鬩ぐ。フォルケンは  
ナリアの乙女心を見透かした。強いることなく、ナリアを追って覆いかぶさる。  
 フォルケンの怒張がナリアの引き締まった臀部のクラックに乗る。  
「あううっ……フォルケンさまが熱い……」  
 ナリアの頭が大きく仰け反ると、フォルケンの生身の手が細い顎を捉えて伸びきった  
咽喉へと滑る。ナリアは四つん這いの獣のカタチをとって肩をベッドへと沈める。  
そして、両手は機械の右手へとしがみついていった。  
「フォ、フォルケン様……わたしにも……エリヤと同じ傷を乳房に印してくださいまし……!」  
 ナリアはフォルケンに女となった顔を捻じると哀訴した。  
 
 
rain-19  
 
 フォルケンは腰を引くと、ナリアの掲げられた女の園へとやさしく突き入れた。  
幸運強化兵という触媒があったにせよ、ナリア自身の手によって極限までに鍛えられた  
肉体に、肉襞の締め付けは痛いほどに熱く絡んでくる。  
 ゆっくりではあったが、腰の回転が狭穴に捻じ込むように挿入されてくる。ナリアの  
膣内は引き摺りこねくり廻されていく。ナリアも快美の絶対者にひれ伏して腰を廻して  
いった。  
「あああ……フォルケン様が奥まで来てる……」  
 亀頭をナリアの子宮口に擦り付けると一気に引いた。  
「うあああああっ!」  
 ペニスに熱く絡みつく肉襞が引き剥がされていく。亀頭は秘孔の入り口近くまで下がり  
小刻みに浅く律動していたかと思うと、また一気に子宮口を叩くのだった。  
「ひっ、ひぃーっ……あっ、ああっ……ああ……」  
 フォルケンの生身の手が肉の結合へと伸びて、膨らみきったクリトリスを愛撫する。  
悦楽の波に呑まれまいとして、機械の右手にしがみつき濡れる頬も擦り付けている  
ナリアだった。  
 エリヤの耳に女が男に屈服する声音が響いて来る。ベッドが軋む音も心をまどわせる。  
涙に潤う赫い瞳をあげて、ふたりの肉の絡み合いをただ見ていた。座った場所は彼女  
の流した愛液で濡れて……。  
「ああ……あううううううッ……!」  
 ナリアの紫の唇が大きく開いて、白く鋭い犬歯までも覗かせる。フォルケンはナリアの  
腰をぐっと引き寄せると躰を起こして胡坐にナリアの腰を落とさせた。ペニスが咽喉を  
突き破るかのような感覚が彼女の躰を襲う。  
 
 
rain-20  
 
律動は小さくなったが、ヴァギナへの挿入感は深まった。ナリアはフォルケンのペニス  
を貪ろうと尻を回して膣壁に執拗に擦り付けていた。  
 その一体感は深く、弓なりに躰が反って口から叫びがあがるまでになった。そして、  
フォルケンの左手がナリアの二の腕を掴んで、機械の右手ががっしりと乳房を握った。  
「うわああああああああああああッ!」  
 口が極限にまで開き、眉間にも鼻にも皺が寄るまでに叫びがあがり、白く尖った犬歯  
が剥き出しになる。烈しい膣の収縮が射精を促して、ナリアはフォルケンの熱い精を子宮に  
浴びたのだった。躰が前に突っ伏しそうにはなったが、フォルケンの手がナリアをしっかりと  
支えている。ただ頭だけが力なくがっくりとうな垂れた。  
 荒く息継ぎをしているとナリアの耳に妹の咽び泣く声が聞えて来た。うな垂れた汗だくの  
顔をゆっくりとあげると、膝を抱え小さくなっているエリヤがいる。  
「フォルケン様……エリヤが、妹が泣いています……」  
「ううっ……!」  
 首に両腕を巻かれて、躰を起こされ挿入感がまた深くなった。  
「ナリア、エリヤを呼んでおあげ……」  
「は、はい……ありが……とうございます……エリヤ……エリヤ、此処へおいでなさい……」  
 エリヤは姉の声に気づいて、もう一度顔をあげる。淋しさに堪えられなく、猫のように  
四つん這いで二人に近づいていく。潤んでいた赫い瞳には、自分と同じ傷を負った  
姉の乳房が映っていた。血の滴りが乳房に赫い華を咲かせている。エリヤはベッドに  
あがると、ナリアとフォルケンの恥毛の絡む肉の結合へと舌を妖しく這わしていった。  
 
 
rain-21  
 
 エリヤが、肉の交わりに近づいて行くと、柔肉は女の蜜で溢れかえり、ナリアの総身に  
痙攣が走って、ペニスをきゅっと締め付ける。妹エリヤの顔がセックスに徐々に近づく  
昂ぶに極まってのことだった。  
 いつもは清楚に息づくはずの女の飾り毛が、男をいっぱいに頬張る唾液によって、  
ぐしょぐしょに濡れて姉の喘ぐ下腹にべっとりとへばりつく様は衝撃以外のなにもの  
でもなかった……初めて見ることだったから。  
 自分のセックスでさえもまじまじと見ることなどなかった。女を捨てて生きて来たからだ。  
しかし自分は姉の男を咥え込んでいる姿態を食い入る様に眺めている。ナリアの銀の  
恥毛が濡れて輝き、エリヤのルビィの瞳を更に赧く染めあげていった。  
 今だフォルケンの怒張を頬張りしゃぶりつくそうとするヴァギナからは、放たれた  
白い子種がナリアの白い粘液と交じり合って、とろりっと下りてくる。  
 もちろんそんな眺めもエリヤは見たことがない。その目に入る光景もさることながら、  
放つ性臭に彼女の獣性を目覚めさせて、獣として完全に発情させてしまっていた。  
獣人としての哀しき性……否、むしろこの場合、女として羞を捨てきれないことより  
幸せなのかもしれない。  
 けれどもエリヤのなかには女としての羞恥は確かに存在する。姉・ナリアと主人で  
愛しき人・フォルケンが愛し合う間に入って、恋の黄金律作戦の駒としてはなく、  
女としての愛を単純に欲して蕩け合いたいだけだった。獣と女が微妙な匙加減を  
与えていたのだった。  
 潤んだエリヤの瞳が瞑られ、赫く塗られた唇が愛の残滓を啜り褐色の肌の咽喉を  
鳴らさせる。暫らくしてエリヤは瞳を開く……彼女によって愛の残滓は取り除かれて  
はっきりと晒された肉棒を頬張る姉・ナリアのヴァギナの姿態が目に焼きく。  
 
 
rain-22  
 
 長い舌を小刻みにナリアを責め貫いている先刻は自分の膣内に納まっていた  
肉棒にやさしくねっとりと這わしていった。エリヤの伏せられた長い睫毛がふるふると  
官能に喘いで顫えている。ゆっくりと愛でてから、あがると今度は姉・ナリアの血をいっぱい  
に吸って腫れあがっている紅玉を感謝を込めて含もうとするも捉えることができない。  
 ナリアはペニスが与える快美をなるだけ取り込むべく、腰を回して膣壁に擦り付けて  
いたから……。やっとのことでエリヤの赫い唇がはち切れんばかりの姉・ナリアの  
核(さね)を挟んだ。  
「はあ、はあ、はあ、はあうううううううううううーっ……!」  
「ナ、ナリア……お前の美しい顔を見せてくれないか……」  
 幸運強化兵としての施された戦化粧で、ひときわきつく毒々しく彩られている。  
女として男を誘って愛される為のものでないことぐらいナリアもフォルケンも充分  
承知している。  
「はっ、はっ……はうっ……こ、このような……ああっ……お顔を晒すのは……  
どうか……お、お許しを……はっ、はうううっ……」  
 ナリアの大きな耳が羞恥にぴくぴくと可愛らしく顫える。フォルケンによって戦士の  
仮面をやさしく剥がされ、自らも捨て去ったことがかえって戦士の自尊心を呼び起こす。  
「もっと見たいのだ、お前のすべてを……頼む……」  
 ナリアは生娘のように左右に顔を振る。埒がないと細い顎を捉えると無理に自分の  
方へと向けさせる。唇が合わさってフォルケンの舌が入り込んできた。舌は戦士の  
牙をなぞってナリアをじらす。彼女は私を奪ってとばかりに強引に舌を絡めてナリアの  
硬さがまたひとつ蕩けた。  
(エリヤのおかげ……フォルケン様のおかげで女になれる……)  
 ナリアを濡らす雫は人を憎んでの悔し涙ではなく悦びに捧げられたもの。  
 
 
rain-23  
 
  エリヤはクリトリスから唇を離すと情交で波打つ下腹を這い上がり、流れ落ちた赫い血  
を舐めると、その根源へと向かう。  
 姉・ナリアの戦闘服の拘束の取れた豊かな褐色の肌の乳房、今までの生き様を示す  
かのようにツンと上品に上を向いて佇んでいる。快楽に喘いでいるその乳房、自分と  
同じく脂肪を削ぎ落とされ女としてのやわらかさを奪われた極限にまで鍛えられたもの。  
 そこには痛々しい自分と同じ爪の刻印が印されている。姉・ナリアが望んだことなのだ。  
エリヤはそれを美しいと思っている。女としての美は極められなくとも、フォルケンの為  
だけにあるのなら、それは美しいと思った。なによりもフォルケンが戦士としての躰を  
美しいと誉め称え、愛してくれたことが幸せだ。  
 いつまでも姉妹でこうして寄り添って生きたい、命尽きるまで……儚き夢と知りつつもエリヤ  
はそう願わずにはいられない。  
 エリヤはまだ血が滲み出るナリアの乳房の爪の痕を舌で舐めてやさしく癒す。  
「うううっ……うああああ……」  
 フォルケンの唇を振りほどいて、傷を癒される甘い疼きに、突かれ続けるナリアの嬌声が  
あがる。  
(私たちはこの刻印で女にもなれる……そしてまた戦士としてフォルケン様の為に生きて  
行くことができる!)  
 銀の姉・ナリアと金の妹・エリヤの等しい叫びだった。ナリアは躰を快美感に顫わす。  
フォルケンのペニスが膣内で膨らむのが分かった。自分が後から愛してくれることを  
望んだとはいえ、しがみついて逝きたい。後に手を廻そうとするがうまくいかないまま  
頭のなかが真っ白になっていく。最後の記憶はエリヤが尖り切った乳首を唇に含んだ  
処で途切れてしまう。ナリアは性的絶頂感を得て失神した。  
 
 
rain-24  
 
「うっ……」  
 傷ついた乳房に痛みが走ってナリアは烈しかった情交の倦怠から醒まされる。フォルケンが  
いたわって舌で傷口を舐めていた。もう一方の膨らみをエリヤが。  
「すまぬ、わたしの所為だ」  
 乳房から顔をあげてナリアの蒼い瞳をみつめる。  
「わたしが欲したのです、フォルケン様……それに、先ほどはエリアがしたこと……」  
 エリアも乳房の愛撫から顔をあげ、フォルケンを見て言う。  
「さようでございます、ナリア姉様に嫉妬して歯を立ててしまったのです……  
申し訳ありません……お姉様も……」  
 戦化粧の紫のルージュに赫のルージュが重なる。  
「痛っ……」  
 ナリアの唇をエリヤが噛む。フォルケンが舐めていた乳房がぴくんと揺れた。  
ナリアの瞳がひらいて咽喉が低く唸った。許してとばかりにナリアの口腔に妹・エリヤ  
の熱い舌が下りてくる。フォルケンは姉妹の睦まじい口吻をチラッと横目で見ながら  
唇で啄ばむ。  
 エリヤも乳房への責めは中断しない、手の平で張り詰めているナリアの乳首を  
転がしていて、今は親指と人差し指で捏ね繰り回していた。  
「んんっ……んあああっ……」  
 昂まりがふたたび起り、切なげに脾腹に肋骨が浮き出てくるナリア。エリヤはようやく  
唇を解放した。  
「あの時、テイリングの前に立ちふさがった猫、可愛かったね」  
(弟君もわたしたちのような者を愛してくれているのね、お姉さま……)  
 エリヤの瞳が嬉しそうに微笑んでいる。悦楽に浸るナリアの想いもまたおなじ。  
 
 
rain-25  
 
「おじゃまするよ」  
「ド、ドライデン……!」  
「お嬢ちゃんが綺麗なおべべを着ているのに悪いな」  
「い、いえ……そんな、どうぞ……」  
 ミラーナの許しを得るまでもなく、ずけずけと入って彼女へと近づく。  
「普段着のはつらつとしたあんたが好きだな……いや、憂いを纏ったお姫様も  
ぐっとくるねえ」  
「お、おたわむれを……」  
 自分のドライデンへの迷いを指摘されたようで、羞ずかしくなってミラーナは俯いてしまう。  
すかさずミラーナの顎を受けて、顔をあげさせるとキスをした。一瞬だったが瞳を見開いたものの  
静かに瞼を閉じる。ドライデンのやわらかい唇の感触がミラーナの唇へと伝わってくる。  
(殿方の唇がこんなにも柔らかいなんて……)  
 軽くミラーナの唇に擦り付ける様にするとそれ以上は求めずに唇を離した。  
「あっ……」  
「今の嬢ちゃんには、ちょっと強引な方が良かったかな?」  
「そんなことは……あっ……わ、わたしったら……!」  
 我に返って真っ赤になるミラーナだった。  
「それじゃあな、続きは婚礼の儀が済んでからっていうことで」  
 ドライデンはくるっと背を向けると、右手を掲げると手のひらを軽く振って消えていった。  
(心配して来てくれたんだ……)  
 まだ目元が朱に染まる顔をあげてドライデンの後姿を見送ってから、雨上がりの晴れ  
上がった青い空に目を戻して、ふふっと微笑む。  
「た、たいへんでゲスよ!王様が……」  
 モグラ男が慌てて駆け込んできた。  
「バァンがどうしたの!」  
 ミラーナはドレスのまま颯爽と立ち上がると部屋を出て行った。  
 
 
rain-26  
 
惑星ガイアの運命の鍵を握っていたのは、ドルンカークという老人だった。竜の仔と月の少女の出会い  
は弾かれた時をもとに修正させるものでしかない。  
 それを阻止する為にザイバッハは、ふたりの写し身を得て幻術を仕掛けたのだった。フォルケンと  
エリヤは恋人を装い神崎ひとみとアレン・シェザールを雨の王都・アストリアの橋の袂で引き合わせる  
ことに成功する。  
 だが運命改変装置の暴走によりフォルケンとエリヤは烈しく交わり、現身のひとみとアレンを急接近  
させ、濡れる王都の橋の上で慰め合うのだった。  
 そしてバアン・ファーネル、ザイバッハ帝国に滅ぼされたファーネリア国王こと、竜の仔は月の少女  
が雨のなかでアレンと愛し合う姿に自分を見失いつつあった。バアンを心配して雨のなか彼を追ってきた  
メルルはひとみのことを想ってと主人に哀訴するのだったが、躰の変調に崩れてしまう。  
 バアンはメルルを助ける為にひとみに背を向け、還る場所のないひとみはアレンのなかにかりそめの  
安らぎを求めたのだった。かくして一時は暴走で失敗と思われた恋の黄金律作戦によって惑星ガイア  
の運命はドルンカークが望んだものへと改変・修正されつつあった。  
 雨はあがり、王都・アストリアに雨雲の切れ々から陽の光が射していた。ほんとうに運命は改変  
されてしまったのだろうか。  
 雨に打たれながらアレンに烈しく突きあげられ、ひとみのなかに去来するものがあった。  
「ひとみ……あなたの好きなひとを信じなさい……」  
 お、おばあちゃん……わ、わたしの所為なの……ガイアの人たちが苦しんでいるのは……?  
「想いのちからを使ってはなりません……あなたのは不安が源なのです。あなたの心にひそむ不安  
が蠱惑を現世に呼び込んでいるのです」  
 バアンのおかあさん……わたしはどうしたらいいんですか!教えてください、ヴァリエさん!  
答えてください!わたしにどうしろというのですか……ただ家に還りたいだけなのに……。  
「ひとみ、後悔するなよな」  
 天野先輩!天野先輩!……ア、アレンさん……の唇がやさしい……バアン……もっとわたしを  
しっかりと掴まえていて……バアン!聞えないの!これがわたしたちの運命なの!バアン、  
答えてよおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!  
 
 
rain-27  
 
「ミラーナ!ミラーナ!ミラーナはいないかぁッ!」  
 アストリアの城の回廊、ずぶ濡れのままの格好で大声をあげて、バアンは医術の心得のある  
ミラーナを探していた。  
「モグラッ!ミラーナを知らないか!」  
 バアンはモグラの胸倉を掴んで詰問する。  
「見つけて来ましたから、す、すぐに来るでゲスよ……」  
「騒がしいわね。あなたも、王様ならもっと毅然としてなさいよ」  
「俺には還るべき国はない……そ、それより、メルルが大変なんだ!早く診てくれ、頼む!」  
「だから、大声ださないでってば!」  
「そんなこと言ってないで、早く診てくれ!メルルはひとみの部屋にいる!」  
「わ、わかったわよ」  
 ドレス姿のミラーナとずぶ濡れのバアン、そしてモグラ男がひとみの部屋へと向う。  
メルルはひとみが使っているベッドに、顔を赧くして躰を胎児のようにして小刻みに顫えている。  
 ミラーナが二の腕までの手袋を外して、メルルの額にそっと手をやる。  
「熱が少しあるわね。この娘のご主人さまなら、濡れた躰ぐらい拭いてあげなさいよね」  
 ミラーナにはバアンは初心だから羞ずかしくて出来ないことぐらい分かっていた。しかし、  
これではあんまりだ、ひとこと言わずにはおれなかった。  
「モグラ、タオル」  
「へい、お姫様」  
「もう、だいじょうぶだからね」  
 ミラーナはメルルの濡れた顔をやさしく拭いてやる。  
「う、ううん……」  
「だ、だいじょうぶなのか、メルルは!」  
 一向にメルルの様態を説明してくれないミラーナに業を煮やして、また声を張りあげてしまう。  
 
 
rain-28  
 
「モグラ!こいつを外に出して!」  
「わかりやしたでゲスよ。王様、ごめんなさいよ」  
「こ、こら!離せッ!離さないか!」  
 バアンを部屋から引き摺りだそうとしていたとき。  
「まって!モグラ!」  
「なんでゲしょ、姫様?」  
 ベッドで躰を縮込ませて顫えているメルルから、騒いでいるバアンを見て、物凄い形相で  
彼に近寄ってくる。  
「こらっ!いいかげん、離せッ!モグラッ!」  
「そのままでいいわよ!」  
「な、なに怒ってるんだ……」  
 躰をがんじがらめにされているバアンの頬を思いっきり抓って言う。  
「何を怒っているもないもんだわ!あなた、あの娘に何したのよ!」  
「いっ、痛いだろ!離せッ!俺は何もしてないッ!」  
「何もしてないで、なんでメルルが発情するのよ!」  
 ミラーナは怒りに任せてぎゅっと抓った。バアンの顔が赧く染まっていく。  
「王様は溜まってたんで、ゲスよ。そうでやんすよね?」  
「あんたまで、調子に乗るんじゃないの!」  
「お、俺はメルルに……何もしちゃいない……」  
 バアンはミラーナにそれだけ言うと俯いて大人しくなってしまった。橋の上でアレンとひとみを  
見たなどと口が裂けてもミラーナに言えるはずがない。  
「ふーん。じゃあ、責任とんなさいよね」  
 ミラーナが思わせぶりにニャリと悪戯っぽく微笑む。  
「せ、責任だと!」  
 バアンの声が裏返った。  
 
 
rain-29  
 
「そっ、あなたの所為でああなっちゃったんだから、責任取らなくちゃ男じゃないでしょ?」  
「だから、俺は何もしてないと、さっきからいってるだろ!」  
「さっきから声が裏返っているわよ、図星なんでしょ。だったら訳を言いなさいよ、ほら」  
 ミラーナの方が上手だった。男女の機微に疎いバアンはミラーナに掛かれば、赤子の  
手を捻るも同然だ。  
 ミラーナはアレンとドライデンとの間で揺れる想いの息抜きとばかりに、初心なバアンを  
からかって楽しんでいた。楽しまれている方は堪ったもんではない。  
「やっぱり、喋れないじゃない」  
 何か訳ありのことぐらい察しがついていたが、ミラーナにはどうでもよくなっていた。  
「メルルといっしょに寝ることね」  
「ね、寝るだと!」  
「そっ、いっしょに寝てあげるのよ」  
「よかったでゲスね、王様」  
「う、うるさい!おまえは黙ってろ!」  
「どう?寝るの、寝ないの?」  
 さすがにからかわれているバアンの姿を見て、可哀相になって本当のことを切り出す。  
「別にメルルを手篭めにしろとは言ってないでしょ。裸になって冷えた躰を温めてあげてと  
言っているのよ」  
「わかった……おまえ、さっきから俺をからかって楽しんでたろ」  
「えっ?なわけないでしょ……ほら、モグラ、行くわよ!」  
(勘がいいんだか、鈍感なんだか……)  
 バアンの押し殺したバリトンに、ミラーナは旗色が悪くなったと感じてさっさと部屋を出て行く。  
「ま、まってくださいよ!姫様!王様、これを噛み砕いて口移しに嬢ちゃんに呑まして  
やんなさいな。少しは治まるでゲスよ」  
「あ、ありがとう……モグラ」  
「それじゃ、王様。くれぐれも、ご自愛くださいね」  
 バアンに丸薬を幾つか渡してから、モグラも部屋を出て行った。  
 
 
rain-30  
 
モグラに貰った丸薬を口に投げて咀嚼してポットの水を含む。バアンはメルルの熱にうなされ  
ている顔に近づいて、彼女の元気でいつも小生意気なことばかり言ってる唇を見つめる。  
(メルルはいつも俺を心配してくれた。金と銀のガイメレフの襲撃の時も躰を張って……  
なのに、すまない……)  
  いつもは元気溌剌の唇は、いまは熱にうなされて紫色に変って顫えている。バアンが  
メルルの唇に口移しに薬を呑まそうとした時だった。  
「バアンさま、ひとみを助けてあげて……バアンさま、ひとみを……」  
 メルルの可愛らしい唇にバアンはくちづけしてやると、咽喉をこくんと鳴らして薬を無意識  
に嚥下した。バアンはずぶ濡れの赤いシャツを脱ぐと、顫えているメルルに添い寝する。  
背中から躰を丸くしているメルルを抱きしめた。  
「いつも心配してくれてありがとう、メルル……」  
 やさしく囁く感謝の気持ちが届いたのか、メルルの大きな耳がぴくぴくと動く。  
「バアンさま……?バアンさまなのですか?」  
 メルルは背中のバアンを振り向こうとしていた。  
「メルルは雨に打たれて風邪を引いたんだ……寒くないか?」  
「ちょっとだけです。でも、バアンさまのお躰が温かいです……」  
 瞳を見たものの結局は、羞ずかしくて顔を元に戻してしまう。メルルはバアンの胸元で  
組まれている手にそっと触れてみる。  
「メルル、こっちを向け。寒いだろ?」  
「い、いいです……バアンさま……メルルはこのままで……」  
「ほら、こっちを向けって」  
 
 
rain-31  
 
「きゃっ!バ、バアンさま……羞ずかしいです……」  
「だったら、もっと俺にしがみつけばいいだろ……」  
 そう言ってメルルの顫える躰をぎゅっと抱き寄せる。  
「まだ寒いのか、メルル……?」  
 メルルはバアンのたくましい肩に顎をのせて、瞼を閉じて涙を流していた。  
「ち、違います……嬉しいんです……メルルにでなく、ひとみにしてあげてください……バアンさま……」  
「ひとみのことは言うなッ!あれをメルルも見ただろッ!」  
バアンがメルルを低い声で恫喝した。  
「ご、ごめんなさい、バアンさま……でも、ひとみはバアンさまを待ってます……きっとです……」  
「いいんだ、メルル。もう、寝ろ……」  
 腕を折りたたんで、胸に顔を埋めているメルルの髪をやさしくバアンは撫でている。  
「バアンさま……」  
 メルルの大きな耳がぴくぴくっと回った。次の瞬間、メルルはバアンに抱かれていた胸を飛び出して  
駆けていた。  
「メルルどうしたんだッ!」  
 バアンもベッドを跳ね起きて、メルルを追いかける。  
「まってぇ!ひとみぃッ!まってぇッ!」  
 廊下を逃げて行く、ひとみの後ろ姿を四つ脚で病をおしながら転びながらも追いついていった。  
「ひとみぃッ!き、聞いて!わたしとバアンさまは何でもないの!だから逃げたりしないでッ!」  
 ずぶ濡れのスカートにメルルはしがみついている。  
「な、何言ってるのよ!あんた裸じゃないのッ!離してよ!離してったらぁッ!」  
「ひ、ひとみ……」  
 バアンは上半身は裸のままだった。  
「離してよ!離してってったら!け、けだものッ!離してよ!」  
 バアンの平手がひとみの頬を捉えた。ひとみの左頬がかあっと熱くなっていく。  
「ふ、ふたりして、わたしを馬鹿にしてッ!」  
 メルルの掴んでいた手を振り解いて駆けて行く。  
「だから、違うって言ってるじゃないのッ!どうしてわかんないのよッ!」  
 

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