天空のエスカフローネ  
Misty1  
 
星が夜空に瞬いて、とても静かでやさしい気分にさせる夜。戦乱の中に身を置いているとは  
思えない静かな夜だった。  
それはミラーナがかつて姉・マレーネが住まっていた後宮を訪れていた所為なのかも  
しれない。建物からは灯かりが外に洩れてきていて、その空間がまだ生きているような気を  
させ、ミラーナの足をなつかしき此処に運ばせていた。  
その建物はアストリア王国のアストン王の第一王女・マレーネが使っていたものを  
フレイド公国に輿入れの際、移築させたもので、祖国を遠く離れた王妃・マレーネへの  
フレイド公王の心遣いだった。  
ミラーナが開かれていた扉をくぐると、フレイド公王が暖炉の前に佇んでいて、  
マレーネの面影を偲ぶように部屋を眺めている。そのすぐ上にはドレスに艶やかな  
赫い胴衣を着付けたアストリア時代のマレーネの大きな肖像画が掲げられていた。  
「なにもかもが昔のままなのですね。まるでお姉さまが生きていらっしゃるみたい…  
…出すぎた物言い、お許し下さい」  
「構わん。ここを自由にしてもらってもよいぞ」  
 フレイド公王は肖像画のマレーネを見てから後宮を後にした。ミラーナは公王の  
去った気疲れからか調度品の鏡台に腰掛けていた。  
 ミラーナは頬杖を付いて、溜息を付くと鏡に映った自分の姿を眺める。自分が日に日に  
姉に近づいていることがそれとはなしにわかる。なれば、生き方もそうありたいと思わずに  
いられない。  
「お姉さまは愛されていた……愛に殉じられたのですね。私もそう肖りたい」  
 天空の騎士の剣を捧げる隊列の中を婚礼の衣装を纏ったマレーネが多くの侍女たちを  
連れて厳かに浮き舟に入場していく様子を昨日のことのように思い出す。  
「幸せか……」  
 鏡台に仕組まれているオルゴールの奏でている綺麗な曲がミラーナを感傷に浸らせていた。  
 
 
Misty2  
 
「お姉さま、とてもお綺麗……か」  
 ミラーナは鏡に映った姿を見ながら深く溜息をついていた。  
(なにも不安のなかったといっていい子供時代の自分の言葉をお姉さまは、どう受け止めて  
いらっしゃってらしたのかしら)  
 オルゴールの兵隊の頭をちょんとミラーナは小突いた。すると、別の箇所からもうひとつの  
曲が演奏され、からくりの台座がゆっくりと回ると、一冊の本が現れた。  
 ミラーナは隠し扉から現れた本を台座から取って手にする。  
「お姉さまの日記……」  
 ミラーナは一度、日記を戻して納めようとしたが再度、手にして躊躇いがちにマレーネの  
日記を開いた。  
 
 私は何のために生きているのだろう。侍女たちは恋を囀っているというのに、私には  
恋することすら許されない。国の明日の為、民の命の為……私はもう嫌だ。ただひとりの  
女として真の愛に殉じたい。女として生まれたのなら、愛しい人に包まれて、その御方の  
子を身籠ると思うことが罪なのでしょうか。  
 
 一昨日、伯父様に武術大会に誘われました。私の塞ぎがちな気持ちを察しての  
ことだったと思いますが、私は戦はキライ……・。  
 だのに、騎士に恋をした……。彼は天才騎士と誉れも高きアレン・シェザール。舞うような可憐  
な剣技に、迷いのない澄んだ瞳。私は一目で恋に堕ちた。  
 愚かだとか浅ましいと言われようが構わなかった。私は初めてお父様に娘らしいおねだりをした。  
アレン・シェザールを天空の騎士団のひとりとして名を連ねて欲しいと。  
 彼の才能をもってすれば、なんら問題は無いと思っていたが若輩の身が登用を枷としていたらしい。  
私は何度も何度も、お父様にお願いした。そして私の想い人は天空の騎士に任命されて、やっと  
王宮へとやって来た……私は慎みないおんな、でも愛に生きてみたい。生を実感したかっただけ。  
 
 
Misty3  
 
  天空の騎士・アレン・シェザール、私は彼の名を何度も呼んでいた。その君の名を口に  
するだけで躰の奥が熱くなっていた。  
 お父様は私を変ったとおっしゃってくれた。以前よりも華やいで良き方向にとのこと。  
けれど私はアレンにどうすれば告白できるのかとか、本当に彼は私のことを好いて  
くれるのだろうかと不安でしかたがなかった。これも夢の中のことなのかしら。  
夢ならば醒めないでほしい。夢ならずっとこのまま……でも苦しむのはもう嫌。  
 私はドレスをそっと捲くって、秘所に触れてみる。なんて浅ましく卑しいのだろうと  
思ってはいても躰の奥の疼きは鎮まることはない。私の膣内は熱く雫を溢れ返らせている。  
アレンの指であることを願いつつ、私は赫く膨れ上がった紅玉をそっと撫でてみた。  
『あ……アレン……やさしくして……そう、たまらないわ…… 』  
 想いが募り、私は手淫に耽ることを覚えてしまった。彼の逞しいペニスを想像しては、  
女の尖りを愛撫しては、いつしか秘孔に指を挿入することも覚えては浅く抽送してみる。  
はやく彼のペニスで私の乙女のベールを押し拡げて破って貰いたいとガイア神に  
祈りながら躰を椅子の背に委ねていく。  
 私の寝所に忍び込んでドレスを裂いて、アレンに荒々しく突き立てて欲しい。宮殿の  
虚無な日々を彼に裂いてもらいたい。  
『私の秘所のいやらしい音が聞こえて?こんなにもあなたを愛して待っているのよ。  
早く私の想いに気づいて頂戴、アレン……ううっ、ア、アレン……あ、ああッ!』  
 こんなにも淫蕩になってしまった私をアレンは愛してくれるのだろうか。女としての慎みを  
捨ててしまったような私を。  
 でも、もし彼が私の破廉恥な欲求までも包んでくれるとしたら、どんなに幸せだろうか。  
明日こそは、アレンの前に立って愛を告白しよう。王家の女としてではなく、ただひとりの  
女として彼を愛し愛されていたいから。  
 
 
Misty4  
 
『わたくしをあなたのものにしてください』  
 そう言えたとしたらどんなに気が楽だろうか。私はすべてを捨てる覚悟で彼を、今は  
天空の騎士となったアレン・シェザールをパラスの百花庭園へと呼びつけた……。  
王家の威厳、そして女としてのプライドも捨てて彼に告白の刻を静かにひとり待つ。  
私はどんな顔をして彼が来るのを待っていたのだろう。ひとり花々の匂うやさしさに包まれ  
天上の藍を眺めながら、もう迷いなく、何故か涙が溢れそうにもなって。  
 
 
「マレーネ姫、御用の向き、なんでござりましょうや」  
 アレンの慇懃な言葉にハッとして、マレーネは憂いを振り切り彼の方を振り向いた。華の  
笑顔がアレンの心を捉えていた。妖精のような色香に彼の心は虜となってゆく。愛し合い、  
睦見合い、与え合い、奪い合って……性愛へと溺れてゆく、マレーネは王家の禁忌の扉  
を自ら開き、アレンはその愛の魔術の瞬間に立っている。  
 彼はマレーネが差し出した白いグローブをつけた手の甲に恭しく口吻をする。  
「アレン、わたくしの前では固くならないで。傅かないで、御立ちになって」  
「ご無理を言われませんよう、マレーネ姫。それに、そのような物言い、聞かれでもしたら  
ご迷惑がかかります」  
「誉れ高き天空の騎士さまにですか?」  
「な、なにを申されますか……!」  
「わたくしなら、一向に構いませんから。さあ、立って下さらない、アレン」  
「お戯れを申されませんよう、お願いいたします」  
「そんなつまらなきことをおっしゃらないで」  
 アレンはすっと立ち上がると踵を返す。  
「わたくしめの御用向きがございませんのでしたら、これにて」  
「待ってッ、アレン!このままで、このままでわたしの気持ちを聞いてくださらない!」  
 マレーネは踵を返したアレンの背中にしがみついていた。  
 
 
Misty5  
 
「な、なにをなされますか、マレーネ姫!おやめください!」  
 マレーネの腕がアレンの躰に絡み付いていた。  
「はしたない女と嗤って頂いても構いません。ですがアレン、わたくしの話しをどうか聞いて  
ください!」  
 アレンの頬にマレーネの想いが熱い吐息となって掛かっていた。  
「武術大会であなたを見たときから好きになってしまっていたのです。わたくしは恋に恋をして  
いるのかもしれません、アレン。ですが……」  
 マレーネの絡みしがみつく腕にアレンの手がやさしく触れる。  
「ならばもうおわかりでしょう。おやめくださりませ、マレーネ姫。王家の名に傷がつくことでしょう」  
 刹那、マレーネの腕がアレンを強く抱きしめる。そしてアレンに涙声で訴えていた。  
「どうしてわかってくださらないのです。あなたに愛される為ならひとりの女にもなれます。  
国を捨てることも出来ましょう!あなたが好きなの、アレン!アレン、愛してしまったのよ!」  
 アレンは全身全霊を持って賭ける姫に惹かれはじめ、また自身の身分の違いに苦渋の色をも  
滲ませていた。その一線を飛び越えてきたのは女の方だった。  
 パレスの百花庭園に風が吹いて花びらが舞い、マレーネの輝かんばかりの艶やかな金髪も  
ひらめいて流れた。マレーネのグローブの両の手がアレンの顔を捉えてその唇を甘く奪う。  
 アレンの唇にマレーネの儚いまでの柔らかな感触が伝わり、一瞬目を見開いて高貴な女の  
瞼を閉じてなにもかもを捨てたその御身に、愛というものをもういちど信じてみたくなるのだった。  
 そしてアレンもゆっくりと瞼を閉じて口吻を、天上の藍の午後、パレス百花庭園の芳しき香りに  
酔いながら魅惑の逢瀬へと溺れてゆく。  
 マレーネの薄桃色の唇が長い睫毛も微かに顫え、アレンはその不安を打ち消すように  
マレーネ姫をただの愛しい女として強く求め、マレーネは女の悦びを前にして畏れるものは何も  
無くなって生きようとしていた……初めて強く生きていた。  
 
 
Misty6  
 
  しかし、マレーネの心の片隅には、どこか物悲しいそれでいて心地いい旋律が流れていた。  
アレンの手が赫い胴着越しに乳房をしだき始めたことで、いつしか忘れて彼に躰を開いていった。  
 アレンの顔を捉えていた両の手が赫い胴着の紐を自らほといてドレスから肩を晒しその豊満な  
白き乳房までも彼の前に曝け出していた。その可憐で愛らしい頂は、硬くしこり楚々としていた  
姫は淫らになろうとしている自分を御することが出来なくなっていた。ドレスの下は簡単な腰布  
が巻かれているだけで、その心もとなさも今や彼女にとっては火に油の如く。  
「アレン、ああ……アレン、ゆるして……たまらないの……どこまでもみだらになっていく自分が  
ゆるせないのに……だのにあなたに許しを請うだなんて……嗚呼……ゆるして、ゆるして……」  
 マレーネの言葉はほとんど意味を成していなかったけれど、その可愛らしさがアレンを動かした。  
「私もなのです。マレーネ姫、わたくしめをお許し下さい。あなたが、欲しくて堪りませぬ!」  
 アレンはそう言い放つと、マレーネの悦びに顫える白い乳房にむしゃぶりついていった。  
「あっ、ああ……マ、マレーネと呼んでください!わたしは姫などではありません!ただ恋する  
だけの淫らな女なのです……あっ、ああッ……はあッ!」  
 マレーネの腕を隠す白いグローブが直に彼に触れることの出来ないもどかしさからか、  
乳房に抱きついているアレンの柔らかな金髪を掻き乱していた。  
 アレンの唇が乳房から首筋を這って耳元へと辿り着き、甘く耳朶に歯を立てる。徐々に秘奥から  
欲望の滴りが溢れ出てくることがマレーネには歓喜となっていた。自分でアレンを想い慰めて  
しとどに濡らしていたのとは訳が違う、確かな愛の証なのだから……。  
 乳房から肩に、マレーネの白く透き通るような儚き色をアレンの赫い唇がゆっくりと這い  
上がってくる。マレーネは唇から熱い吐息を噴きこぼしながら、小刻みに高貴なその美貌を  
振りアレンの目の前に細い首を晒していった。  
「ひっ……」  
「そ、そのようなこと申されないで下さりませ、マレーネ。あなたは清楚でいつもお綺麗で  
いらっしゃる。お慕い申し上げております」  
「は、羞ずかしい……ア、アレン……た、たまらないッ……たまらないの!」  
 
 
Misty7  
 
 マレーネはこれほど自分が女を実感した瞬間はなかった。大胆さが王家の禁忌を破り去って  
なにものにも代え難い自由を味わっていた。恋し焦がれることで娼婦にでもなったような罪悪感  
にあれほど苛まれていたのに、今は天上を飛翔する思いに快感を追い求めようとしている。  
「はあ、はあ……わ、わたくしを……突いてください……アレン、お願いいたします……」  
 アレンの蒼い瞳からは涙が溢れ、彼はマレーネの薔薇のように紅潮している頬に自分の頬を  
擦り付けていた。  
「よ、よろしいのですか……わたくしめが、姫様の御大事を頂いたりなどしても……」  
 アレンはマレーネの胸元や首筋から漂ってくる芳香を胸いっぱいに吸い酔うのだった。  
「か、かまいません!わ、わたくしを愛してくれるのですね、アレン・シェザール!」  
 マレーネの普段なら心地よい女神の声が切羽詰って野太い力強い声に変化した。アレンの  
ペニスはズボンの下で熱くマレーネの鞘を欲して滾っている。  
 アレンはマレーネの躰を百花庭園に植えられている樹へと導いて、彼女の背をもたれ掛け  
させた。マレーネの曝け出された上半身に、風にそよぐ梢をぬって陽の煌きが、白く透き通った  
素肌に妖しく降り注いでいる。  
 アレンがグローブを脱いでズボンを下ろして、腰布を解く。屹立したアレンのペニスにマレーネ  
の視線が釘付けになる。マレーネの腰布の奥の秘所は娘を女に変える刻をいまかと濡れて  
待っていた。  
 アレンの手がドレスのスカートに入り込んで、いとも簡単にいままで守ってきたものを彼の  
前に晒して捧げよとしていた。彼はマレーネの白くむっちりとした太腿を抱きかかえると、切先  
が還るべき場所、鞘へと一気に刺し貫いていた。  
 いつ人が来るかわからない緊張と熱情とが、ふたりを男と女から牡と牝に変えていた。  
マレーネは苦痛に仰け反って頭を木にぶつけてもなお、くぐっと細く白い首を伸ばしていった。  
「ひぃぃぃッ……ああ……い、いやぁ……あううッ……ア、アレン!」  
「ひ、姫様……大丈夫ですか……」  
 マレーネの手がアレンの背に廻されてしっかりと抱きしめられた、それが答えだった。  
 
 
Misty8  
 
 ひしっと抱き返してくるマレーネの重みがアレンには嬉しかった。母をあれほど愛していたはずの  
父が家族をも捨て流浪の旅に行き着いたことへの愛の疑念が嘘のように氷解していく。  
「はああっ……はうっ……いやあ……ゆるして……こ、こないで……」  
 アレンの肩から覗かせているマレーネの顔は、薄桃色に刷いた唇がそっと悩ましく開かれていて  
白い歯が見えて彼女の官能の波に揺れるさまを物語っていた。そして、背に廻された白い  
グローブの腕が更にアレンをきつく抱きしめる。  
 アレンには躊躇っている時間などなかった。もちろんマレーネ姫が拒絶を示しているのでは  
ないことは承知しているが、どのように扱ってよいものか迷いが生じていた。  
「ああっ、いっ、痛いいいッ……!」  
 マレーネの乙女のベールはアレンの熱情の剣により裂かれて、その量感に一気に押し拡げられ  
ていった。マレーネもその点は重々承知してはいたが、この性急だった愛の交合が二人になにを  
もたらすかまでは、考えが及ばないでいた。  
 もっとやさしく、そっと愛して愛されたいという願いと、熱情にまかせての交合が二人をやさしく  
愛の狂い咲きにのせていく……。  
「んあっ……はああ……ああ……んんっ!」  
 マレーネはアレンの烈しいストロークを全身で受け止めようと、堪えて息を吐き躰のちからを弛緩  
させようとするのだが、うまくいかないでいた。  
「ひ、姫……おゆるしを……マ、マレーネ姫……嗚呼、マレーネ!マレーネ!」  
「う、うれしいのです!アレン!アレン!アレン!」  
 アレンの白く美しい顔が騎士の仮面を外して素顔を曝け出しては仄かに紅潮させ、玉のような  
汗が噴出しては滴り落ちていた。そしてマレーネは仰け反っていた性愛に揺さぶられて溺れるその  
顔をアレンの逞しい肩に預けると、彼の頬にその高貴な美貌を迷子の仔猫がご主人にやっと巡り  
会えたかのような仕草でくなくなと擦り付ける。  
 
 
 
Misty9  
 
「あううっ……はあっ、はあ、はあ……ああ……」  
 アレンの烈しい律動に、躰ごとマレーネは揺さぶられている。その清楚な唇は苦痛に開かれて  
白く透き通る前歯を覗かせて喘いでいた。瞼はきつく閉じられ細く綺麗な眉は苦悶に吊り上がって  
眉間に縦皺を深く刻んでいる。  
マレーネのなかにアレンを想い自慰に耽溺していたはずの甘い快楽はなにもなかった。  
あるとすれば愛の試練としての痛みでしかない。私はこのようなことを欲していたのかという思い  
が明滅しては消えていった。マレーネの唇から洩れるのは、アレン・シェザールへの愛の言葉だけ。  
「アレン!愛してます!あうっ……あ、ああ……ッ」  
 呪文のように何度もマレーネは口にして、己が気持ちを強めて嵐を遠ざけようとしていた。  
 アレンの手がマレーネの柔らかな双臀を強く揉みしだいてマレーネの躰を引き付けると彼は放出の時を  
向かえた。マレーネには愛という名の永遠のはじまりだったのかもしれない。  
 右太腿を抱きかかえられ躰を支えていた左脚ももはや折れてしまっていて、アレンに全身を委ねて  
マレーネはしがみついていた。ともすれば、支えている左脚もアレンの腰に廻して抱きつきたいという  
衝動を嵐のなかでも燃やし隠し持っていた。  
「ひぃーッ!」  
 マレーネのか細い悲鳴があがる。  
「マ、マレーネ……!」  
 マレーネの崩れかかる躰を抱え静かに樹木の下に、樹皮に手をつきながら彼女を下ろしていった。  
ドレスは乱れて肩は肌蹴、マレーネの白く透き通る素肌に豊満な乳房は晒され、金髪は汗で顔に貼り  
付いて喘いでいた。アレンも腰を下ろして息を整えようとするが、マレーネのしどけない姿に鼓動は  
治まることを知らない。  
「マレーネ、マレーネ」  
 アレンは顔を傾けて荒い息を吐いている、マレーネの紅潮している頬にそっと手を添える。その感触を  
もっと強く確かめようと、グローブをつけた手がアレンへと重なった。しかし、そんな他愛もない行為でさえ  
マレーネには勇気がいった。言うまでもなく今まさにセックスをしましたという顔を愛しい人にじっと  
見つめられているのだから。  
 
 
Misty10  
 
  想いの叶ったマレーネではあったが、その鼓動もまた早鐘のように速まっていた。パレス  
庭園の花々に包まれての木陰での営みという特異な状況もさることながら、王家のしがらみ  
からの解放という意味合いにこそ悦びを感じていただけなのかもしれない。  
 アレンはマレーネの乱れたドレスを直して、自分もマレーネを切り裂いたペニスを身繕うと  
すると、マレーネはそれを見て白いグローブを脱ぐ仕草をしたが、アレンは手でそれを制した。  
赫いペニスを穢れなき純白で拭き取ることをよしとしなかった。マレーネの顔が一瞬曇も、  
アレンはそのかわり暫らくの間じっと彼女に寄り添って青い空を見ていた。  
 こんなことをする為に、ここへ来たのかという思いが、アレンにはない訳ではなかった。王家の  
姫君とののっぴきならない関係に身を置いていしまったことへの後悔。そして確かに安らぎすらも  
感じていた。  
だがその存在はあまりにも儚かった。口でどう言おうとも埋められる間柄ではなかった。  
ことはどうあれ、アレンは自分を欲する高貴な女を愛し愛され、彼の今までの孤独が一瞬では  
あったが癒されたのも誠だった。  
(バルガス殿に笑われてしまう。騎士の孤独が性愛によって癒されてしまうなどと。なんて未熟  
なんだ……俺は!)  
 どこまでも青いガイアの空を飛翔する鳥を眺めるアレンの肩に、マレーネの芳しい髪の香りと  
その重みが載ってくる。マレーネはアレンの横顔をそっと盗み見ていた。  
「わたくしはきっと、天空の騎士さまを困らせてしまったのでしょうね。」  
 アレンは返事の代わりに、マレーネの肩をそっと抱き寄せる。抱き寄せられてマレーネはこの  
関係が、どうか始まりであって欲しいと願わずにはいられなかった。  
 しかし、アレンはマレーネが誘いを掛けても、一向に乗って来なかった。彼はマレーネとの  
関係に一線を引いてしまっていた。パレスの百花庭園の情事から三日過ぎ、一週間経ち、  
二週間が経とうとしていた。  
 
 
Misty11  
 
 マレーネは日記を書き終えると鏡台のからくりの楽隊のひとりの頭を叩いた。ギィッと音を立て  
反転して隠し場所が現れる。そこに日記を収めて元に戻すと、すっと立ち上がり鏡に映る自分の  
姿をじっと見つめる。そこには、恋にはぐれたみじめな女の姿があった。  
「言葉ではどうとでも言えるわ……わたしはプライドを捨て切れなかった、アレンはそれを見抜いて  
いたのね、きっと……わたしは面倒な女でしかない……のね」  
 マレーネは鏡の前で部屋着を床に落として白く透き通った裸身を晒した。右手で乳房を鷲掴みに  
して乳房に爪を立て掻き毟るように揉みしだいて、左手で潤い始めている女陰を乱暴に弄って秘孔を  
一気に指で貫く。  
「ううっ、んふっ……んっ!」  
 自分を責めるかのように抽送を繰り出し、苦悶に細い眉が寄って眉間に皺を刻んだ。マレーネは  
指を抜いて、濡れ煌く愛液を眺めて、涙をぽろぽろと流し鏡台に両手を付いて頭を垂れる。それでも  
マレーネはベッドに倒れると疼く躰を慰めないではいられなかった。  
 翌日、マレーネは一切の公務を放り出して、お忍びで城を抜け出し遠乗りに出かけて、海辺を  
ひたすら白馬で疾走する。アストリアの潮風がマレーネのささくれ立った心にやさしく吹いていた。  
青い空に棚引く白い雲、海鳥の泣き声や陽射しまでがやさしく感じることができ、王家のしがらみ  
など忘れられそうな気がしていた。  
「マレーネ姫!マレーネ!ご無理はおやめ下さいッ!」  
 遠くから黒馬を駆ってアレンが白馬を追ってやってくる。  
「なぜわたしを追ってきたのですか!あなたには関係のないことでしょうに!」  
「愛馬に無茶をされては危険です!」  
「馬のことなど……」  
 アレンは馬を寄せて、マレーネの頭を掻き抱いて口吻をした。  
「我儘はおやめ下さい!」  
「わたしは子供です。あなたに恋した少女のようなもの、そうでしょう!」  
 マレーネは手綱を握り締めてぽろぽろと涙を流して、アレンはそんな彼女の素顔を見ながら  
思いつめたような顔になっていた。  
 
 
Misty12  
 
「本当にそうでいらっしゃる」  
 アレンの口吻の感触が残る下唇をきつく噛みしめて、涙顔のマレーネは黒馬の上の彼を睨み  
付けた。そしてまた羞じらいに目元に朱を刷いて俯く。アレンはやさしい眼差しが諦めたような、  
それでいて包み込むような視線を送っていた。マレーネは躰中が火照るような心持に陥った。  
「お願いです……」  
「なんでしょうか、マレーネ姫?」  
 マレーネは再び手綱をきつく握り締めていた。  
「あなたの本気を聞かせてください」  
「聞かなくともお分かりでしょう」  
「言っていただけなければ、わたくしには判らないのです!」  
 怒気の混じった声がアレンを責めていた。アレンを誘い込んだのは彼女の方からなのに、彼は  
マレーネをなだめるように右手を差し伸べて頬に触れた。白いグローブを通してのふれあいだったが  
それだけでも充分にマレーネは嬉しかった。  
「一時の戯れかと思っていました。それでよいと今でも思っています」  
 その言葉と裏腹に声音のなかのアレンの気持ちが白い右手を通して、全身にゆっくりと拡がって  
いくようだった。  
「いじわる」  
 マレーネは静かに瞼を閉じて、その長い睫毛を顫わせて雫をこぼす。  
「わたしとあなたの隔たりは埋めようがないのです。ならば、戯れにあって、あなたを……」  
「抱いてください……わたしを抱きしめて、アレン」  
 マレーネが儚く微笑むとアレンの手からすり抜けて、潮風にプラチナブロンドの髪が煌いて  
舞わせて、彼女の足が白馬の腹を蹴付ける。  
 
 
Misty13  
 
 マレーネは右手で手綱を操りながら、左手を後ろに廻して髪を束ねていたリボンをほどいて  
捨て去る。アレンも黒馬を駆って、陽の光りに煌いて金髪を棚引かせて走る白馬の女を追い  
かけていった。マレーネは何もかもが美しかった。アレンはマレーネの風に靡くプラチナブロンドに  
引き摺られて堕ちて行く感覚に捉われていた。アレンにとってマレーネは面倒な女でしかない。  
それは紛れもない事実として厳然としてあった。なによりも、男である前に彼はアストリアの誉れ  
高い天空の騎士なのだ。女を相手にするのなら娼婦の方が後腐れないと不埒なことが頭を  
過ぎりつつもマレーネを追った。  
「マレーネ!無茶をするな!」  
 始まりが、姫の気まぐれであったとしても、それでよいと思ってアレンは心の底から笑っていた。  
「なら、早くわたくしを掴まえてごらんなさいな!アレーン!」  
 振り向いたマレーネも笑って彼を誘いながら樹木のなかへと白馬を走らせて行った。暫らく走らせて  
彼女は目的の場所へとアレンを導いていて、すでに馬をゆっくりと歩かせている。マレーネは天を  
仰いで梢の間からの木漏れ日を、目を細めて眺めていた。  
「あまり、遠くに行かれなきよう」  
「やっと掴まえた」  
 マレーネがアレンにそう言った。  
「わたしが姫を捕まえたのですよ」  
 アレンがマレーネにそう言っては笑う。  
「ほんとうにそうかしら。ふふっ」  
 マレーネは馬を降りて、光射す場所へと駆けて行く。  
「マレーネ!」  
 アレンは彼女の馬の手綱を手繰り寄せてから馬を降りて、手近な樹木に手綱を結わえてマレーネ  
の後を追うと、膝ぐらいまでの草が生い茂った陽の当たる場所へと出た。  
「ほら、アレーン!あなたを掴まえたのは、やはりわたくしよ!」  
 マレーネは両腕をいっぱいに拡げ、くるりと回転すると草の上へと仰向けにとさっと寝転がった。  
 
 
Misty14  
 
アレンは慌ててマレーネへと駆け寄った。  
「ここは、パレスのような芝ではありませんよ。さあ」  
 アレンがマレーネに手を差し出して起きるように促す。  
「落馬したとでも言います」  
 マレーネは後ろに片手をついて、アレンの差し出した手を握り締めると、力いっぱいに自分の方へ  
引っ張る。アレンの躰はバランスを失ってというよりも、マレーネの子供じみた誘いに承知の上で  
乗っていた。しかし予想外だったのは、マレーネの額の飾りの宝石に彼の額を打ち付けたこと。  
小鳥の囀りに二人の笑い声が溶け合っていた。いつしか笑いも消えてアレンはマレーネの躰に覆い  
かぶさり、肘を立てて両手で彼女の美貌を挟むようにして眺めている。  
「ほんとうに後悔しませんか?」  
 マレーネの目元が仄かに赤らんでアレンの金髪が顔に真直ぐに垂れてくるのを撫であげながら  
彼女の方からそのことを尋ねた。むろん彼女の決意の表れでもあった。アレンはマレーネの  
問い掛けに間を置かずに答える。  
「それは判りません」  
マレーネの瞳が心なし曇った。  
「でも姫と同じように、この気持ちは抑える術は、もはやありません」  
「もう!」  
 上体が僅かに浮いて、マレーネの腕が脇の下からアレンの肩に絡み付いて唇を熱く掠め取る。  
いつ侍女が来るやも知れぬ、パレスの百花庭園の抱擁よりもマレーネの心は安らいでいて、抑圧  
されていた気持ちまでもが解放されていた。緑の草に寝そべるマレーネの可憐な金髪がゆるやかに  
拡がってアレンの網膜に焼きつき、彼女の蠱惑に呑まれて瞼をゆっくりと閉じる。  
二人の互いに擦り付けられる唇の感触が躰を熱くさせ、顔はくなくなと揺れて唇が開いて舌を絡め  
吸い合い、下肢は局部を擦り付けて蠢いて、マレーネのピチッとした乗馬のズボンの下肢はゆっくり  
彼へと開かれていった。  
 
 
Misty15  
 
 アレンの唇がマレーネから離れると唾液が銀に輝く細く糸を引いて、彼女の赫いルージュを刷いた  
唇からはせつない吐息が洩れた。  
「はあ……。あぁああっ、ああッ!」  
 肌に密着する乗馬用のズボンの下には、簡素な腰布しか巻かれていなく、マレーネの開脚された  
そのあわいにはアレンの腰が動いていて、欲望に膨れ上がった意志を擦り付けられる歓びと羞恥に  
濡れた喘ぎを迸らせる。想いの叶った歓喜で女の芯を中心に、得もいえぬ快美がマレーネを捉え  
始めていた。  
「ごめんなさい。ごめんなさい。アレン、あなたを困らせたりなんかしたりして……。ああ……。  
いっ、いいッ!」  
「マレーネ、もう何も考えないで。ここには誰も来ないのだから」  
「ゆるして。ゆるして。死んでしまいそうなくらいに、あなたを愛してしまったの。ああ、もうどうにも  
ならなかったの」  
 はばかりのないマレーネの告白の叫びが上がってアレンを強く抱きしめる。アレンはマレーネの  
上着をはちきらんばかりに見せていた豊満な乳房を揉みしだいていて、その快感に耐え切れず  
密着させたのだが、より敏感になっていた躰を圧迫したことで更なる焔が上がる。  
 アレンの手はマレーネの快美に顫える太腿を愛撫し出すことで、ペニスを感じて腰が待ちきれなく  
なって揺すってしまっていた。  
「あうぅううん!ああっ、好き、好き、好き!ゆるして!ゆるして!」  
 まだ、彼との交合は二度目だというのに、浅ましい女とは見て欲しくなかった。しかし、王家の縛り  
に身を置いて永く、己の意志を貫き通せることは稀有に等しいことと諦めていた。パレスの庭園での  
情交からの孤独な時を経て、今一度永遠を夢見て瞬間に彼と成就されることを願い気持ちは  
どんどんと昂ぶっていく。アレンはグローブを取り去ると交合を果たそうとマレーネを脱がしに  
掛かり始める。  
 
 
Misty16  
 
「よいのか。あれほどまでに娘を色恋に深入りをさせて」  
 コロセウムで武闘大会が催された折、むずかるマレーネを連れ出した者が、彼に耳打ちをする。  
マレーネにアレンを橋渡ししたのは、彼女の父・アストン王だった。  
「相手はフレイドぞ。少女を嫁がせてなんになるか。なんの駒にもならん」  
「生娘を己が色に染めてこそ、男子の誉れぞ」  
「い、言うな!」  
 アストンは低く唸った。  
「す、すまなかった。言い過ぎていた。だが愛人をつくるのとは訳が違うでな。一国の后ぞ」  
「時が流れ過ぎたのだ。ザイバッハがこれほどまでにガイアを脅かすまでになるとは  
思わなんだからな。それを繋ぎおくだけの確証が欲しいのだよ。そのあかしをな」  
「深入りは禁物ぞ。あらぬ、土産まで授けることになるやもしれぬ。男女の機微のさじ加減など、  
わしには戦よりも難儀じゃよ」  
「少しだけ、背中を押してやればいいのだよ。少しだけな」  
「母親似なのだろう。主は辛ろうないのか?」  
「……なんども、おなじことをぬけぬけと言いよるわ」  
「聞くだけ野暮ということは存じておるがの」  
「なら、口を慎め!」  
「しかしだ。嬢ちゃんが正面切って、彼との仲を認めさせてくれと嘆願してきたらなんとする。それは  
ままならぬことぞ。恋を知って愛に生きようとする女子(おなご)は手ごわいぞ」  
「それが嫁ぐ娘に託した小刀なんだよ」  
「お、織り込み済みなのか……!」  
「だが、日に日にただの父親になっていくようだよ……」  
 アストンは弱々しく吐くと策士の剥がれ掛けていた仮面を落としてしまい、父親の顔となってより濃く  
苦渋を滲ませていた。  
 
 
Misty17  
 
「お姉さまはとてもお綺麗になられました」  
 次女のエリーズが姉の離宮に訪ねてきていた。そして手にした銀色のトレイにはゴブレットが載せてある。  
「お姉さまいかがですか、よく冷えていますよ」  
 それは、アストリアの果汁のジュース。熟した果実の豊熟な甘味ととろみに加えて、柑橘系の  
ものでブレンドして、そのこってりとした甘味を抑えた独特の嗜好品である。食前酒としての  
果実酒よりも、その甘みにはマレーネは密かに好感を持っていた。それは恋するヴィジョンに等しいもの。  
「いま、わたしは……」  
 マレーネはどうしてか断ろうという気が起きていたのだが、おとなしいエリーズの淋しそうな顔を  
見たくないという思いから、冷えたゴブレットを手にする。  
「ごめんなさい、いただくわ」  
「よかった。ご迷惑かと思いました」  
 エリーズが心から安心したように微笑んでいた。  
「うーん、そうじゃないのよ。ただ、いまはね」  
「いまは……?」  
 姉らしくない砕けた物言いと、心から愉しそうに喋っているその様子と謎掛けにエリーズは訝る。  
「お姉さま、あの天空の騎士さまは……」  
「わたしはお酒のほうが好き」   
「ヴィノのことね」  
エリーズの後ろから付いてきていた三女のミラーナが顔を覗かせると杯をもったマレーネの膝に  
じゃれつく。エリーズはきっかけを失ってしまい、もやっとしていた想いを呑み込んでしまっていた。  
「そう。舐めるようにして飲んでいたらね、お胸がカアッとしてどきどきしてきたのよ」  
「まあ、この娘ったら」  
マレーネは好きだった果物のジュースがいまはさほど欲しくない。それはアレンに恋焦がれたこと、  
自信が甘き世界の住人になっていたからだということに気が付いていたから。  
アレンに抱かれながら瞼を薄く開けると、彼の肩越しにアストリアの蒼い空がどこまでも拡がっていた。  
 
 
Misty18  
 
  天の青に想いを託して、マレーネはゆっくりと瞼を閉じると、紅潮した頬をアレンに二、三度擦り  
付けて頬にそっと口吻をする。歓びの涙が止めどなく溢れ出てくる。その気持ちはアレンにも  
伝わって、やさしい気持ちと攻撃的な自分とが交互に現れて息を荒くしていた。  
 アレンはマレーネの白い柔らかい着物をたくし上げると、黒いズボンのレザーベルトに左手を掛け  
ほどきはじめた。マレーネがアレンの首にしがみ付いていて思うようにうまくいかない。アレンは右手  
でマレーネの額に手をあてて頭へと撫でる。  
「わたしとあなただけ、なのだから……」  
「で、でも……羞ずかしい」  
 その下には簡単な腰布が巻かれているだけだった。それに加えて馬を走らせたことでかなりの  
汗も掻いている。そしてなによりも、彼を恋焦がれて芯が濡れてしまって、たぶん蒸れている。  
いや、間違いなく……。  
マレーネは待ち望んだことを目の前にして、羞恥に身悶え太腿に力が入ってアレンの割り入った腰を  
微かに締め上げる。アレンは細い革の腰紐をほどくと、右腿を外して左膝で彼女の秘部をかるく擦って  
上体をあげて白い着物を肌蹴させ肩から外させる。喘ぐ鎖骨に下唇をアレンはそっと這わして熱い  
吐息を拭き掛けた。  
「あ、あまり強く吸わないで……!」 マレーネの躰がぐんっと美しいアーチを描き出す。  
「心得ていますよ、マレーネ」 そっとアレンは素肌に下唇を滑らすだけ。  
「お綺麗ですよ。どんなアストリアの美術品よりも」  
「いやぁ、芸術品だなんてつまらない……。ただ、いっしょにいたいだけ」 (生きていたいだけ)  
 汗ばんでしっとりとする、透き通るような白い素肌は緑の草に栄えて、アレンを熱くさせていた。  
その熱き吐息がマレーネを疼かせる。ゆるゆるとアレンの唇が揺れる豊満な乳房へと降りていった。  
柔らかい素肌の乳房をのぼって、張り詰めて硬くなった乳首へと近づいて止まる。  
「じっ、じらさないで、アレン!」 乳房が期待に喘ぐ。  
「マレーネの味がするよ」 その言葉に、朱を刷いたマレーネの目元が堪らなく愛しい。   
「どんな……?」 「しょっぱい」 一瞬ハッとするマレーネ。   
「意地悪なのね、天空の騎士さまは」 少し拗ねてからマレーネは目を細めて幸せそうにアレンへ微笑む。  
 
 
Misty19  
 
  アレンのやさしい唇が閉じてマレーネのしっとりと汗ばんでいる乳房をそっとふれるかふれない  
ようにしながら、くるっと廻って降りていった。  
「ああ……。いやよ、アレーン!」  
 乳首を唇に含まなかったことで性感がさらに揺さぶられて女を開いてゆく。しなやかな肢体がまた  
アーチを描くと、マレーネはアレンの長く女性のような陽に煌く金髪に細くて長い白い指を埋める。  
生まれたばかりの赤子を愛しむかのように彼の頭を掻き抱くようにして。マレーネに抱かれながら  
アレンの躰のなかにペニスへの滾りと別なやさしい何かが拡がって行った。エレンシア、アレンの  
母のヴィジョンがアレンの凍結していた心を溶かして。  
 
「エレンシアはどうしている?」  
 寒く霧が立ち込める蒼いガイアの夜。邸宅のテラスに設置された椅子に腰を下ろすコートを着た男と  
天空の騎士がその男を見下ろして対峙していた。  
「また旅に行かれるのですか。あなたは母上を愛してなどいない!」  
「荒ぶるな。気づかれてしまう」 「御心配なく。母上はあなたを憎んで神に召されました」  
 男がめがねをとって目頭を抑えていた。  
「わたしは現世のしがらみを忌み嫌っていた。幻の月には可憐な花があるそうだ。多くの時を費やしてゆっくりと花弁を開いて芳醇な香りを放つまでになる」  
「きっ、貴様!なにが言いたい!」 「朝にはぐったりとなる月下美人」   
「ふざけたことを言うな!貴様は母上を愚弄するのかッ!」  
 アレンは彼の父・レオンの胸倉を掴み上げると壁に押し付けていた。天空の騎士の瞳には狂気が  
宿って肉親といえども殺傷しかねない勢いだった。  
「わたしは男、そしてエレンシアは女。いつも愛していたよ。いつもだ」  
丸眼鏡が床に落ちて尚、涙を止めどなく流している父の貌が、アレンをしっかりと見据える。  
「想いとは尊きものだ、アレン」  
 いつも書斎でひとり佇んでいた母・エレンシアのヴィジョンが、いま抱きしめているマレーネに  
静かに降り立った。  
 
 
Misty20  
 
  アレンの乳房への愛撫にマレーネは彼の滾るペニスが、秘孔を押し拡げる一瞬の  
歓喜を思い描いて躰の芯が疼いてしかたがない。  
「ああ……」  
 赤子を抱くように、アレンの髪を愛撫していた手に、幾分かの力が加わっていた。  
躰が火照って熱い吐息が溢れてくる。マレーネの薄く開かれていた、濡れた  
ローズピンクの唇が大きく開かれる。アレンの唇が乳飲み子のようにマレーネの  
白い乳房に吸い付いていた。むろん、そのなかではマレーネを歓ばせる為の彼の  
暗闘が繰広げられている。マレーネの綺麗な唇とおなじ色をした乳首をアレンの舌で  
転がされ、彼に抵抗する術もなく呑まれている。乳房は快美感に喘いで鼓動が  
速まっていく。マレーネの貌は仰け反って、一声吼えて透き通る白い歯を覗かせた。  
(堪らない、堪らない、たまらない……。狂ってしまいそう……)  
 人の目を気にせずに自分を解放できるこの場所で、マレーネは牝になろうと決心  
していた。しかしそれも気ばかりで、羞ずかしくてままならない。大声を上げては  
人差し指を唇に挟んでは、声を殺して歯でコリッと噛んでもみたり。また、堪えきれずに  
嬌声を上げる。  
「んっ、くっ、あぁあああッ!はあ、はあ、はあ……いや、いや、いや」  
 アレンはマレーネの美脚にぴたっと吸い付くように履かれている黒い乗馬用のズボンを  
摺りした。アレンはマレーネの女の芳香を吸い込む。白くやわらかい腹部にアレンの唇が  
降りて滑っていく。マレーネの女を隠す巻かれた腰布は、愛液で滲んで濡れていた。  
「あぁああッ!いや、いや、いや!」  
 矛盾していた。アレンを此処に誘ったのは自分であって彼ではない。はばかりのない  
声を上げて彼に縋りつきたかったからなのに、羞恥にどうしょうもなくその身を焦がしていた。  
 
 
Misty21  
 
いくら堪えようとしても声がこぼれてしまい、浅ましい女と思われはしないかと不安に駆られる。  
それでも、アレンのペニスがどうしょうもなく恋しくて、躰をいっぱいにして埋めて欲しいと切に  
願っている。マレーネはアレンが欲しくて堪らなかった。母のようになっていたかと思うと、女にも  
なって彼を深く愛し、そしていまは少女に戻っていた。  
「ごめんなさい、ごめんなさい……」  
 湿り気を帯びた、か細い声が腕で貌を隠しているマレーネの赫い唇からこぼれる。しっとりと  
汗ばんでいた乳房を愛撫していたのとは違う反応にアレンのペニスが熱くなる。  
王族の生活での抑圧された性へのモラルが根底にあるのか、パーソナルなものなのかは  
アレンにも当のマレーネにさえも分かってはいなかった。アレンの手がマレーネの腰に巻かれた  
布きれを外しに掛かる。その昂ぶりにマレーネは腕で隠した顔を左右に振っていた。  
「ああ……。羞ずかしい」  
 マレーネの白い太腿がにじり寄る。  
「マレーネ姫、これでは外せませんよ」  
「姫だなんていわないで……アレン、おねがいだから。おねがいだから」  
 腕で隠した美貌が緑の上で揺れると、散っていた金髪もそれにともなって乱れていく。  
腰も揺れてマレーネの息づく命がアレンの目の前についに晒されて。叢はしとどに濡れてはいたが  
淫靡さはアレンには関係なかった。マレーネの容貌の如くに楚々とした佇まいを見せている、という  
訳にはいかない。そのぐらいのことはアレンはわきまえていた。マレーネの女の命を自分だけが  
見ていられるのだという思いに、烈しく昂ぶっていた。アレンはマレーネの秘所にむしゃぶりつきたい  
衝動をかろうじて抑えると下腹を性器に向って、上唇と下唇を交互に使って上下運動をやさしく  
ふれるかふれないようなタッチから段々と力を入れるようにして愛撫し、その頃にはマレーネを恥戯で  
新たに歔かせるまでに至っていた。マレーネの腰が跳ね上がる。細い腕の下の貌は快美に  
泣いている。ここで、最も敏感な尖りを唇に咥えられでもしたらと考えるだけで、女が濡れてくるのが  
たまらなかった。  
「もう、わからない、アレン。どうにか、なってしまいそう!」  
 
 
Misty22  
 
 甘い疼きがマレーネを捉え躰の芯を中心に総身への拡がりを感じていた。  
「はあ、はあ、はあ、ああっ……あうっ!」  
 愛するアレンに太腿を拡げて、その付け根に口吻を受けている。躰は何度となく仰け反って  
白い咽喉を伸ばしても、光景が網膜に見ていなくとも鮮明に焼きついていた。マレーネは白い  
鳥となって飛翔して天空からふたりを見ていた。風がマレーネの火照った頬をやさしく撫でる。  
 マレーネの躰がアレンの熱いもので満たされていく。彼の汗に濡れる躰を弄る手が、  
さざなみのように官能を誘い打ち寄せ砕け散り、これが男なのだという確信にマレーネは悦びに  
顫えた。  
  マレーネはこの時、アレンの精で子宮を灼かれることの赦されぬ夢を描く。愛する夫に、  
身籠った我が子を慈しみ撫で擦るそのやさしき手を。それが、マレーネの快楽への引き金になって  
温かな波がゆるやかに拡がってゆく。  
 まだ、二度目の交わりで、女として開花していない躰であっても、気持ちが感情を昂ぶらせ快楽  
を導いてくれていた。しかし、マレーネはここで、わたしはあなたの子供が欲しいという愚行はしない。  
ブリッジを描くように大地を両手で突っ張って烈しく仰け反る。しかし、それも長くは続かない。  
そのアンバランスさを払拭するかのように、揺さぶられる躰をマレーネはアレンに密着させて  
背中に腕を廻して抱きついていた。  
「マレーネ姫、これではあまり動くことはできませんよ」  
 アレンはやさしく言う。しかし、パレスの人の目を盗んで交わっていたあの時よりも、限りなく  
やさしい律動でマレーネを衝きあげ、より昂ぶらせてくれていた。  
「置いていかれそう……。置いていかないで……アレン、アレン!」  
 うわ言のように呟くマレーネは、跳ばされそうな感覚が総身を包み込んで、啜り泣く。ゆるやかな  
アレンの腰の動きが止まって、暫らくしてまた動き始めた。その瞬間にマレーネは王族ではない、  
ただの女に生まれ変わって孵化したばかりの羽をゆっくりと拡げてゆく。アレンの女、そんな言葉が  
マレーネの頭の中で呪文のようにリフレンしていた。  
 
 
Misty23  
 
  アレンの揺れる肩越しにマレーネの細い眉は吊りあがって眉間に縦皺を刻んだ歪んだ貌から、  
やわらかなジェチアとなって愛するもののなかで揺さぶられながら真っ白な翼を拡げて飛翔した。  
ふたりの吐息が暫らくの時、重なり合って溶けていた。ふたりが同じ時を蕩けあい共有できたことは  
尊きことであれ、次の愛までを待たなければならない焦燥感にマレーネはいつしか泣いていた。  
しかし、その切なさを自分はこれからも本当に制御できるのか不安でならなかった。この  
甘美さを静かに眠りについて過せるのか、その時を耐える事が出来るのだろうかと幾度心の中で  
反芻したことか。  
 アレンは十分のやさしさの時を経て、マレーネの膣内からペニスを抜去しょうとしていた。それでも  
マレーネはアレンを躰のなかに引き留めようとする。自分の女の躰に滲み込んだ彼のやさしき  
匂いや心を手放したくないと切に願っている。永遠を願うのにはあまりにも少女じみていて、我儘  
だと判っていても行かないで欲しかったのだ。マレーネはなんともいえない微笑でアレンを引き  
止めに出ていた。目元には新たに涙を溜めて。  
「なぜ、泣かれているのですか、マレーネ姫」「アレン。行かないで、行かないで……ください」  
 小さく甘えるような頼りない少女の声がアレンをくすぐっていた。アストリアのどんな女よりも  
最高の教育を受けた高貴な人が、個として自分を引き止めようとしているのだ。男として  
これほどの本懐があろうか。  
 アレンはマレーネの乱れた金髪を手で後ろに梳いて、彼女の広い額をあらわして、飾りの  
宝石の少しうえのところにそっと口吻る。  
「マレーネ姫、よろしいのですか?わたしの躰は重くて御負担でしょう」  
 マレーネはてっきり、それがアレン流のユーモアでもあり、自分を傷つけないようにして丁重に  
断りを入れたものとばかり思っていて、せいいっぱいの微笑も曇ってしまう。  
「早とちりしてはいけませんよ。わたしだって、あなたをまだまだ離したくはありませんから」  
「あっ、あぁあ……ん!」  
 マレーネは細い両肩を抱かれて草に横たわり、回転してアレンの躰のうえになってしまう。  
鼓動は速まり、アレンの胸からマレーネはいつまでたっても顔を上げられないでいた。  
 
 
Misty24  
 
 アレンの手がマレーネの艶やかなプラチナブロンドの髪をやさしく撫でる。アレンに抱かれていた  
マレーネの躰がびくんと顫えて、閉じられていた眼が開かれる。見開かれた先にはアレンの顔が。  
「アレン、わたしはあなたのためにひとりの女になりましょう」  
(わたしはずるいのかもしれない……)  
 パレスの百花庭園でアレンに言った言葉に嘘偽りはなかった。この愛に生きたいと思う一方で  
わだかまりがまた生じてくる。国を捨ててまでわたしはアレンに付いて行けるのだろうかと。  
「もうなにも考えないで、マレーネ姫。このひと時を愉しみましょう」  
「マレーネ。わたしはただのマレーネ」  
 アレンがマレーネの唇にやさしくキスを仕掛けて、マレーネはかりそめのしあわせに身を委ねてゆく。  
アレンの脚に載せられていたマレーネの太腿は拡げられて跨ぐ形になった。そして彼の肩の傍に  
両手を付いて躰をゆっくりと起こそうとする。泣いていた貌がアレンから遠ざかって。  
「マレーネ……!」  
 アレンはマレーネの肩と細いウエストをやさしく撫でながら引き止める。  
「羞ずかしい、羞ずかしくてしかたないけれど」  
「無理せずともよいのですよ」  
 長い髪がアレンの顔に掛かっていた。マレーネは大地の緑から恋人の胸にそっと手を  
移して躰を起こしに掛かる。その意志を尊重して華奢な肩から腕へ滑って、そして縺れ絡み合う  
恋人たちのやさしき手と手。アレンはマレーネの心の不安が鎮まるまでの間、ただ抱きしめているだけで  
もよかった。そこまでは、求めていなかった。  
「羞ずかしい、わたしを見て、アレン。すべてを見ていて!うれしくてたまらないの!」  
 マレーネの貌が揺れて髪が妖しく舞う。アレンは膝を曲げて彼女の腰つかいをやさしく支えていた。  
アレンに悦んでもらいたいと躰が揺れた。いつしかそれもわからなくなるほどにマレーネの躰は  
蕩けて、アレンの手をきつく握り締めて往ったのだった。ふたたび、緑の草のうえで交わったふたり  
だったが、燃えあがるほどに蕩けあっていても、いつかは個に還らねばならないのは理として  
承知せねばならないことだった。  
 
 
Misty25  
 
恋、それに自然体として流れに委ねるには、マレーネはまだまだ経験が浅かった。同様にアレンにも  
言えたことでもあり、それにもましてふたりの愛にはおのずと限界があったからだ。姫と騎士という  
壁が厳然としてそこにある。マレーネは思う。  
ふたりでいるときは肌のぬくもりで心を通わせることで無限の力を感じさせ、何者も寄せ付けない  
かのようなパワーを実感できていても、ひとりの夜には不安で押しつぶされそうな迷いに苛まれる。  
「どうしました、マレーネ姫」  
「なんだか、羞ずかしくて……」  
 アレンはやさしく微笑んでくれていたが、マレーネはアレンにささやかなうそをついていた。アレンは  
それと知らずマレーネが愛しくなって顔を寄せて擦り付ける。マレーネも彼の顔に頬を摺り合わせた。  
闘技場の出会いから、アレンを見初めて惹かれた事に後悔はなかったが、 いまだけは忘れようと  
心の奥底にそっと迷いを仕舞い込んで、身繕いをマレーネはする。すべて整えられた頃に、アレンが  
また後ろからそっと彼女の腰に腕を廻して抱きとめられて女のしあわせに包まれていた。  
「さあ、行きましょう」   
「はい、アレン」  
 いけないことと知りつつも、どこへとマレーネは思う。そして、今度はまたいつ会ってくれるのと言葉が  
突いて出そうだった。まだ、マレーネの躰の奥には、アレンが残した火照りが残っていて、そう思うと  
また哀しくて沈みそうな気持ちになる。表向きのアレン・シェザールは天空の騎士であってマレーネの  
恋人ではない。暫らくの抱擁のときを過して、馬を繋いだ場所へと赴き、アレンの助けを得て白馬に跨って  
手綱をしっかりと握り締め、彼を見つめる。  
(熱情とは一瞬にして燃え上がって灰塵と化すものよ。なら、それも理なのかしら。アレン、こたえて)  
 アレンが黒馬に乗るのを眺めていると下腹に湿り気を帯びてくるのをマレーネはせつなく感じていた。  
 
 
Misty26  
 
  マレーネがアレンに恋しているのか、それとも恋に恋しているかは後になれば自ずと判ること。  
初めて熟した果実の甘味を知ったものにどうこうできるものではない。問題はアレンの方だった。  
気品、美貌、そして家柄とどれをとっても申し分のない女性であることは確固たる事実だった。  
二度目の逢瀬もなかば引き摺られるように関係をもってしまうに至って、自分の感情に疑問を  
持ち始めていた。  
 支配欲が満たされることは言うまでも無いことだが、心から愛してしまったとき本当に行為に  
及ぶことが出来るのかと、考えてしまうのだった。宮廷内で着飾るマレーネ姫は美しさを更に  
際立たせる。しかし今のマレーネの美しさはなにものにも変えがたい煌きをもってそこにいた。  
シンプルな出で立ちでありながら、改めてその美しさに溜息が出る。あきらめてほしいと告げた  
ときの手綱を掴んで拗ねて泣いた仕草に、自分を抱きしめた母の感覚にも似た温かさにアレンの  
心は翻弄されていた。誰にも言わずに遠乗りに出かけてしまったマレーネの白馬を追って、  
見つけたときにはハッとしたのだった。あきらかに、宮廷内の着飾ったマレーネを遥かに凌駕して  
いたからだ。自分だけに向けられた美しさにアレンは惹かれていた。  
 陽のひかりに海の煌きといった自然の演出といった趣や、マレーネの純心なその一途さが表情に  
反映したものだろうことは後にわかったが、それは別人といってもいい美しさだった。自然に  
抱かれての恋人との開放感がより美しく魅せるのだろうと思う。そう思うと、パレスの百花庭園の情事の  
居た堪れないマレーネの表情が哀れでならなかった。しかし、今は心の底から幸せそうに笑うその  
女性を支配して、また自分も支配されようとしていたことは歓びだ。遊びと割り切っては女と  
付き合っていたアレンにとっては劇的な変化の表れであった。母、妹……そこに恋人としての女性の  
存在が加わったのだ。  
「マレーネ姫をわたしは愛しすぎてもよいのですか……?」 「なに、アレン?なにか言いましたか!」  
「舌を噛みますよ、マレーネ!」 「もう、意地悪なひとね!」  
「意地悪ですか!それは手厳しい!」  
 父が去って、妹が去り、母がアレンのもとを去っていった。天空の騎士の瞳には哀しみの翳りが  
宿っていた。  
 
 
Misty 27  
 
  パレスでは幾ばくの変化が訪れていた。マレーネのフレイド公国の輿入れが本格的に  
進められることと相成っていた。そのことはまだ、恋の味を知り始めたばかりのマレーネと  
アレンの与かり知らぬこと。そしていまひとつは、マレーネに長年使えていた侍女は暇を  
いいつかり、新たにアミリエ・デューケンなる女性がその任に就くことになった。  
 
 
「アミリエ、そちに折り入っての頼みごとがある」 パレスの寝室、天蓋のあるベッドでマレーネ  
の叔父のヌエバは胡坐を掻いて、貌を傅かせ湿った淫らな音を部屋に響かせながら頬を  
窪ませ奉仕している彼女にいった。アミリエはなかなか勃起しないペニスを吐き出して色に  
染まった瞳、淡い緑をあげて恭しく 「ご主人様、何でございましょう」 と尋ねる。  
「そちはもうわしのものではない」 「い、いやにございます!ご、御無礼がありましたのなら  
悔い改めます。お捨てにならないで下さいまし……!」 アミリエは半立ちの老人の唾液に  
濡れたペニスにしがみつくように頬を擦り付ける。 「そちを捨てるのではないのだよ」  
「な、ならばなにゆえにございますか!わたしは辛ろうございます!」 ヌエバはアミリエの  
解け乱れた赤毛を鷲掴みにして自分の顔へとぐいっと引き寄せた。 「あっ、ああ……」  
ヌエバのペニスはアミリエの手のなかで若き日の硬度を取り戻していた。  
「そちは明日より、マレーネ付きの侍女となる。この意味わかるな」 強く引っ張られた髪の  
痛みにアミリエの熱い吐息が洩れる。 「い、命に代えましてもお守りいたします」  
「それはまだ先の話しだ」 「と、もうされますと」 「周囲に気をくばるのだ。よいな」  
「は、はい。肝に銘じます。あっ、んんっ……」 ヌエバは熱い吐息の洩れるアミリエの  
ぽってりとした赫い唇にむしゃぶりつき、彼女の手の中にあったペニスはひときわ烈しく  
びくんびくんと痙攣していた。 「それまでは、まだわしの物といいたいが、マレーネ付きの  
侍女ともなればそうもいかん。今宵が最後と思え」 「た、たっぷりかわいがってくださいまし、  
ご主人さま……あぁああっ!」  
 
 
Misty 28  
 
「アミリエ、そちはマレーネを抱き愛せ」 「な、なにを申されますか……はあっ!」  
「わしが仕込んだ愛戯、そちのおんなの性でマレーネを愛せ。そして、躰の変化に気をくばれ」  
「そうだ。わしの教え込んだ快楽と男の前での所作をマレーネに伝えよ。よいな」  
「ほんとうによろしいのですか」 「ここも男を悦ばす為の道具になることもな」 「ひいっ……」  
「無垢なまでの躰に教えるのだから、加減せよ。そして真摯にな」  
「御主人さま、このアミリエ胆に命じます」   
髪を引っ掴まれて惚けていた顔を曳き付けられていたアミリエはヌエバの毛深い胸に  
しな垂れる格好で屹立を扱き立てて硬度を高めてから、自ら躰を開いてそこへと跨っていった。  
獣の口が棒を咥えるように涎を垂らしてアミリエの柔肉に埋まっていった。  
「お尽くしいたします、御主人さま。ああ……ヌエバさまッ!」 マレーネに使えると言ったのか、  
今宵の夜伽の官能に使えると言ったのか、そのアミリエのかわいい返答に膣内の蕩けるような  
熱さと締め付けにヌエバは小刻みに痙攣していた。アミリエは胡坐を掻いて座っているヌエバ  
に腰を落とす体位を取って、腕は彼の背中に廻されて爪を立てて引っ掻くのだった。  
 
アミリエはマレーネよりも三つ年上の女性、マレーネはその侍女を見て息を呑んでいた。  
卵形の貌に病的なまでの蒼白い肌。スッと通った鼻筋に涼しい切れ長の瞳に淡い緑の  
彩りを輝かせていた。長めの赤毛はアップに結わえられていた。そしてアミリエはにっこりと  
微笑んでマレーネに傅いていた。それから受けた印象は表情が読めない冷たさみたいな  
ものをマレーネは感じ、与かり知らぬところで婚礼が進められていることをなんとはなしに  
察知した。しかし、マレーネは長年使えた侍女を忘れるような勢いでアミリエに惹かれて  
いっていた。所作、その身のこなしにおいて申し分なく影のように使えてくれる。なによりも  
歳が近しいということが打ち解けるきっかけとなっていた。  
 
 
Misty 29  
 
「アミリエは恋をしたことがあるの?」  
 長く仕えた侍女にかえて若いアミリエを持ってきたということは婚礼の話しが  
進んでいる証なのではないだろうかとマレーネは思っていた。マレーネ付きの  
侍女はむろん他にもいる。しかしこうも深く入り込んでくる者はいなかった。  
 
「与え合って奪い合う、恋にございますか?」  
 つい最近に知ったばかりの恋の本質らしきものをこの娘はマレーネに返してきた。  
「えっ、ええ。そう、恋よ」  
 
「はじめての殿方をお慕いしております」  
 
 頬杖をついていたマレーネは秘所が潤み始めるのがわかった。あわててアミリエ  
から視線を外して鏡のなかの自分の貌と鉢合わせをする。思わず淫蕩な姿を見た  
気がして下を向いてしまい躰ごとアミリエの方へ向く。  
「そのお方を愛していらっしゃるのね」  
「いえ、城にあがる前のお話しにございます」  
 アミリエの笑みが少しだけの翳りを見せる。  
「ご、ごめんなさい。気が利かなくて」  
 
「構いません。もう、昔のことですから」  
 
 マレーネはアミリエの恋の終わりを聞かされて自分も心の中に翳りを作りそうになっていた。  
「マレーネさま。マレーネさま?いかがされましたか?」  
「えっ、ええ……。なんでもないから」  
「そうでございますか?マレーネさま」  
「なにかしら?」  
 
「最初の殿方の想い出は尊きものなのですよ。女の六分儀のようなものです」  
 マレーネはアミリエの言葉にまた驚いていた。  
 
 
Misty 30  
 
「どういうことなのかしら?」  
 マレーネはアミリエに聞き返す。  
 
「単純なことです。姫さま。その恋がよいものでしたなら、きっと女の生きて行く導となります」  
 
「もしまちがっていたなら……?」  
 マレーネの疑問に対してアミリエは微笑みながら答えた。  
「そのときは、そのとき。もっと恋をしてくださいまし」  
 マレーネはふうっと溜息をついた。少しだけどんな回答が出てくるのかと期待していたからだ。  
「わたしは、自分から恋などできなくってよ、アミリエ」  
「申し訳御座いませんでした」  
 アミリエはマレーネに恭しく頭を下げる。  
「でもほんとうにそうなのかもしれませんね」  
 マレーネがぽつりと呟いた。アミリエは顔を上げて物憂げに遠くを見詰めるマレーネの横顔に  
魅入っていた。  
「姫さま。なにがでございましょう」  
 アミリエはマレーネの意志を推し量る為にわざと聞き返していた。  
「何年立っても思い出すのは、あのときの眼差しと微笑み。そしてわたくしの想い。そうそう  
忘れ得るものではないわね」  
「さようでございます」  
 マレーネはまたハッとしてアミリエを見ると、彼女はニッコリと笑っていた。それとなく自分の  
気持ちを後押ししてくれたような気がした。言葉にして改めて感じる、アレン・シェザールを  
愛していると。  
 
「ふふっ、ありがとう、アミリエ」  
 マレーネは婚礼の予兆の不安からふたたび、恋する少女の瞳に戻っていた。  
 
 
Misty 31  
 
「お姫さま。お果物は、召し上がられないのですか?ジュースの方がよろしかったでしょうか?」  
 アミリエは持ってきた果物にまったく手を付けないマレーネに訳を尋ねる。  
エリーズとのやりとりをマレーネは思い出していた。そして鏡台のからくりのちいさな楽隊の  
オルゴールを操作する。奏でられるやさしき調べの『人魚のささやき』に耳を傾けながら  
アミリエの顔を見る。左手で白いグローブの右肘を持って、右人差し指をピンと立てる。  
 
「アミリエは恋したことがないのかしら?わたしは、もう甘い世界の住人なのよ」  
 
 そう宣言して輝かんばかりの笑顔をアミリエへと向け、おどけてみせた。アミリエとしては  
マレーネの情報は織り込み済みだったがマレーネ姫の人柄に虜になっていて、彼女に  
尽くそうと心を決めていた。  
「さようでございますね」  
「あら、殿方のお名前は聞かないのですか?」  
「アミリエに教えていただけるのですか?うれしゅうございます」  
 恭しくマレーネにアミリエは頭を下げる。  
「ダメ。まだひ・み・つ」  
「秘密にございますか……」  
 わざとではあったが、ありありと残念そうな表情をアミリエはつくってマレーネに見せた。  
しかし、そこにはいくばくかの真実も存在していた。  
「ご、ごめんなさい」  
 マレーネは立ち上がって、アミリエの細い肩に白いグローブの手を掛ける。  
 
「だって、この恋はまだ始まったばかりだから、いつかきっと話すわ。だから、今は赦してね」  
 
 滅相も御座いません、と言う筈だったのに、アミリエの貌はパッと陽が射したように明るくなって  
「は、はい。お待ちしております」 と答えていた。そして、もういちど 「ごめんね」 と言われて  
額にかるく口吻されたのも嬉しく思っていた。唇を離したマレーネを思わず見てしまい、姫が  
目元に朱を刷いて微笑んでいる。アミリエはマレーネを本当に好きになってしまっていた。  
 
 
Misty 32  
 
  マレーネはアストリアの街並みを一望する窓の方へと歩いていって、腰掛ける。  
「あぶのうございます。姫さま」  
「いいの。気にしないで」  
 窓からの射す陽にきらめく長い金髪が風に靡き、マレーネは耳後ろに掻きあげる。  
「ねえ、アミリエ。もうひとつだけ、聞いてもいいかしら?」  
 マレーネは悪戯っぽく微笑んでアミリエを見る。しかし、それはマレーネの偽装。  
「なんでございましょうか。わたくしに答えられることでしたなら」  
 
「わたしは娘の頃……そう、ミラーナだった頃にね……王子さまが来てくれてあの蒼い空へ  
心ごと掠め取って往ってくれるものと信じていたわ」  
 その怜悧な容貌を横に向け頤(おとがい)を上げて、アストリアの空を眺めている。  
「姫さま……わたしは……」  
 アミリエは思わず、今進められている婚礼のことと、なぜここにいるかを話そうかと思っていた。  
「その想いは少しだけ叶えられた。でもそれは……いつかは終わりのあるもの」  
 マレーネの瞳が少しだけ潤んでいるのが見て取れる。  
「姫さまだからなのですか……?」  
 
「確かに、それもあるかもしれません。アレンがいったの。わたしを愛し過ぎてもよいのですかって」  
「ひ、姫さま……」  
「あら!」 マレーネは白いグローブで口を覆う。 「あ、あぶのうございます」  
「いいの。誰かに聞いてもらいたくて仕方のなかったことだから。なにかスッキリしたわ」  
「アレン様の御噂は……申し訳御座いません」 アミリエはマレーネに深く頭を下げる。  
「妹君……母君、そして父君。アレンは真直ぐに見て言ったの。わたしは答えられなかった。  
聞えなかった振りをしていたの。女でなく、姫になっていたの。アミリエ、わたしはアレンを愛し  
過ぎてもよいのかしら?」 マレーネの真摯な瞳がアミリエを射抜いていた。  
 
 
Misty 33  
 
  姫さまが、アレン様の前から消えるというのですか、とはアミリエはマレーネには聞き返せない。  
それは栓ないこと。  
「愚問ね。アミリエ、わたくしはアレンに百花庭園で求愛したとき……」  
「そ、そのようなことは、わたくしめなどにおっしゃらないでくださいまし」  
 アミリエはいったい自分がなんのためにここにいて、マレーネへ使えているのかわからなく  
なっていた。主に忠実に仕える侍女として、そして……ただの女として、そこにいた。  
「ごめんなさいね、アミリエ。やはり、こんな話しは、あなたには迷惑よね」  
 マレーネは淋しさを玲瓏の貌に落してアストリアの澄み切ったアトランティスからの  
贈り物のようなディープ・シーブルーの空に魅入る。  
「い、いえ……迷惑とかでなく……そ、それはマレーネさまのひめごとなのでございましょう?  
差し出がましいことを申して、あいすいません!」  
 マレーネの玲瓏な美貌の翳りを陽光が退ける。  
「ふふっ、そう。わたしの、わたしだけのひ・め・ご・となのね」  
 アミリエはマレーネの微笑みに貌が赧に染まっていた。  
「御苛めにならないでくださいまし」  
「あら、いじめてなんかいないわよ、アミリエ」  
 しかし、この侍女の反応に自分の恋情をネタにからかいをしたくなっていたのも事実。  
「う、うそにございます……マレーネさまは」  
(わたしは、なにをやっているのだろう……)  
「ねえ、アミリエ、聞いてくれるでしょう?」 「は、はい……かしこまりました」  
「そんなに、固くならないで。大したことではないから。わたしはアレンに求愛したとき、このアストリア  
さえも捨てられますと申したの」  
 アミリエは眩暈がして卒倒しそうになる。イノセントなマレーネさまのことだからと、思考は  
働いていても、現実と対峙するのとではイメージが違いすぎていた。ヌエバに言い含められた  
マレーネの災いを退ける盾となれという任の重さを痛感していた。  
 
 
Misty 34  
 
「御本心なのでございますか……?」  
 マレーネはアミリエの問いに暫らく答えなかった。  
 
「本心といえば、そうともいえるし、愛を語ってしまった女の戯言とも……わたし自信がよく  
わからないのです……」  
 
「それをお確かめになりたいのですね」  
 先ほどの卒倒しそうなほどの驚きとは逆に、冷静にアミリエは考えていた。恋の華を情欲に変貌  
させ焔のなかへ投じればいい。朝には華は枯れている。熱情とは一瞬にして燃え盛ってこそのもの。  
フレイド公国との婚礼が本決まりとなる前に……華を萎れさすのを早めるだけ。それは確信へと  
変っていた。  
「えっ……」  
「このアミリエがアレン様と姫さまの橋渡しをいたします」  
「本気で申しているのですか?」  
「不躾を承知で申し上げます。マレーネさまからアレン様をお誘いになるには機会は少ないかと  
存じます。ましてや、躊躇いもございましょう」  
「あなたの好意に甘えてもよいのかしら」  
「良いも何も、アミリエはマレーネさまの小間使いにごいます。マレーネさまの想い人の御名を  
お聞きしたのも何かの縁にございましょう」  
 
 マレーネは思案していた。否、思案というよりは事の確認に近いものだった。アレンの恋情を  
堪えて、彼からの誘いを待つだけが女の所作とわかっていても、とうてい堪えられるものではない。  
遅かれ早かれ侍女の誰かを巻き込んで、アレンとの橋渡しとなってくれると申してくれる者を  
望んでいた。結果的にはアミリエにアレンの名を明かしたのも、良しとすべしと。  
「あとで文を認めておきます。よろしく頼みますよ、アミリエ」   
「もったいなきお言葉にございます」  
 アミリエは恭しくマレーネに頭を下げる。  

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