弓倉亜希子、と署名だけがなされた原稿用紙が、その白さのために吐き出された溜息で撓む。
自分の密かな夢である童話作家、それに向けて少しでも歩を進めようと思い立ったものの、1時間が経過してもこの有様だった。
いつも天羽に尻を叩かれている上岡の苦労の一片が理解できた気になる。
窓の外の曇天は、自分の心象風景とピタリと重なり、ささやかな気分転換、あるいは現実逃避すら許さない。
原稿用紙を引き出しにしまい、頬杖をついて悶々とする亜希子の放つ重い空気が、無遠慮な音を立てて開くドアによって掻き乱される。
「さやか、ノックくらいちゃんとしなさいって言ってるでしょう?」
言いつつ、椅子を回転させて背後のドア側を向く。
姉妹二人暮しであるので、訪れる者が誰であるかは目で確認する前に判る。
「……お姉ちゃん、何か嫌な事でもあったでしょ?」
亜希子の顔を見るなり、鋭い所を突いてくる。咎めた事をさりげなくスルーされて口篭もる亜希子に対し、
「そんなお姉ちゃんにさやかからの心ばかりのプレゼント」
とたたみかけ、一枚のFAXを手渡す。最早何も言う気になれない亜希子は素直にそれを受け取った。
「吹奏楽部、演奏会のお知らせ?これがどうしてプレゼントなの?」
察しの悪い姉の姿にさやかは焦れる。
「一泊することになるから、まる一日お姉ちゃんしかこの家に居ない事になるんだけど」
ここまで言われてようやくさやかの意図を理解したのか、手元の紙片に目を向けたまま硬直する亜希子。
上岡と付き合っているのは(いつの間にか)周知の事実、だから別に今更照れる必要は無い、東由利や井之上の様に平然としていればいい。
暗示めいたそれを心の中で繰り返し、ゆっくりと顔を起こす。自覚を伴わない間が約20秒。
「うん。わかった。公欠届とか、早めに出しておきなさいね」
動揺は声色に反映されず、自分のそんな振る舞いに多少の満足感を覚える亜希子。
「ごめんねえ、お姉ちゃん」
下卑た笑みを作り、ドアノブに手を掛ける。姉の唇が薄く開くのを横目で見るが、そこから言葉は何も発せられなかった。
ドアから出る寸前に、背を向けたまま言う。
「普段はさやかが居るから気を遣ってるみたいだもんね」
徐々にからかい甲斐を失いつつある姉に一抹の寂しさを感じつつ、
「声とか」
ドアを閉じた。
直後に『さやかっ!』ドア越しにもはっきりと聞こえたその声に安堵し、ほくそ笑む。
出発当日の放課後……最後まで(ここ、校舎前で別れる寸前まで)続いた妹からの攻撃がようやく止む。
上岡と弓倉の顔色には僅かながら疲労の色が見られた。無論、原稿書きの所為などではない。
開放感と共にたった一日の事なのに寂しさを感じている自分を、ここにきて初めて実感する二人。
肉親にはよく甘えるさやかではあるが、上岡に対してもその傾向が顕著に表われている。
共に行動する事も増えたこの頃は第三者から見れば『男子生徒と姉妹』というより『三人兄妹』なる風情だった。
なんとなく、言葉少なに下校する二人。この空気を紛らわそうと明るい話題を探していた弓倉は、とある事に思い当たり口を開く。
「上岡君、ちょっとレンタルビデオ屋さんに寄って行きたいんだけど」
「構わないけど……?珍しいね亜希子さんがビデオ、って」
「うん。ロシアの有名なパペットアニメで……知らない?」
「知らないよ」
道すがら、弓倉の高い書き込み速度及び大容量を(主に東由利が)誇る脳からすらすらと詳細なデータが出力される。
「〜で、動きもいいんだけど、お話はもっといいの。どうやったらあんな素敵なお話が思い浮かぶんだろう……私なんか全然」
実際にビデオを手にしてより一層熱っぽく、一方的に喋っていた弓倉が急に口を噤む。
「……全然、って?」
弓倉としては極めて珍しいその様子を楽しんでいた上岡は先を促す。
「あ……あのね、実は私、お話を書こうと思って……そ、それなのに、全然お話がまとまらないの。
でもあの、別にコンクールに出すとか、そういう訳じゃないんだけど。ただ『書こう』って思って」
饒舌さを失った弓倉が、頬を染めて上岡からその目を逸らす。彼女の夢についてはそれとなく聞いていた上岡は、
「そういう作品と僕の記事とじゃあちょっと勝手が違うかもしれないけど……自分なりに期日を決めて書くとか、
いっそどこかの出版社のコンクールを探してみるとか、そういった目標みたいなものが必要なんじゃないかな」
「え!?で、でも私、素人だしコンクールなんて」
「いや、そこじゃなくて。締め切りが必要なんじゃないかって事。僕はそうなんだけど、いつまで、ってはっきり言われていない
原稿って、なかなか進まないんだ」
「……」
弓倉の表情にいつの間にか、どこか深刻な色が覗き始めていた。
「レンタルビデオだって、無期限の貸し出しだったら観賞は後まわしにするかも知れないでしょ?
いつでも観られる、なら明日でもいいかな、って」
「……あ、なんか、わかる気がする」
冗談めかした上岡の口調に、弓倉の表情が解れる。
ヘタな事を言うと弓倉の涙腺は容易に緩んでしまうため、内心恐々としつつ上岡が選んだ言葉が功を奏する。
「書き上げたら読ませてね」
「えっ、い、嫌。恥ずかしいから」
……夕闇の中、二人の押し問答が弓倉宅まで続く。
ブラウン管の向こうでは、毛糸で出来た人形が劇を演じている。
弓倉よりもやや低い関心をもって観賞にあたる上岡は、ソファーの隣に腰をかけている弓倉の肩に回した腕で彼女の髪を一房つまみ、
その束ねた毛先をもてあそんでいる。
「好き?」
今や癖となったその行為に対して弓倉が短く問う。幾度も繰り返される事によって簡略化されたそれに対し、上岡はいつものように微笑で答えた。
ショートもいいかも、等と言ったことはあるが、指で梳くとその滑らかな感触がいかにも惜しく感じられる。
その表情を確認したかっただけなのか、再びテレビ画面に目を戻す弓倉。
位置的に弓倉の表情を完全には捉えきれない上岡。髪に飽きたという訳ではないのだが、弓倉の頬にその手を移す。
クセをつけてしまった髪に少しばかりの罪悪感を覚えつつ、指先に伝わってくる頬の動きに意識を集中する。
元々集中力が高い弓倉は特にそれを気にするでもなく映画に没入している。
調子に乗って、(おそらく)笑みの形に持ち上がった頬を浅く摘まむと、弓倉はその指に目をやり、上岡に疑問符を表情によって投げかける。
ちらちらとテレビの画面にも目を向ける弓倉の様子にこれ以上は気が引け、以降はただ頬に触れているだけとなる。
指先には柔らかな感触と体温。その上映画の内容が内容である。上岡が睡魔に屈するのは時間の問題と言えた。
頬の圧迫感に、覚醒を促される。慣れ親しんだ香り。すっかり暗くなった窓の外。流れるエンドロール。
弓倉の肩にもたれかかっているという事に気づくまでに、若干の時を要した。
「おはよ」
既視感。いや、実際に図書館で同じ言葉で寝起きを迎えられた事がある。
その時はこんなに心地の良い目覚めではなかったな、と思いつつ少しぼやけた視界で弓倉を見返す。
「終わっちゃったよ?」
自分の肩の上で力なく唸り、なおもその場を占拠し続ける上岡の様子が可笑しかったのか、弓倉の声は弾んでいる。
「……ごめん、ど、どうだった?」
天羽との会話の影響か、不用意に発してしまった余りにも漠然とした問いに対し、反射的に身構えている事に気付く上岡。
当然、ここでは鋭い突っ込みが入るような事は無く、素直な感想が返ってくる。
「すっごく可愛かったよ。特にあの、女の子と手袋の子犬のお話が」
映画の場面を反芻しているのか、慈しむような表情を浮かべる弓倉。それを眺めているだけで胸を満たす感情は、
一時期天羽に対して抱いていたそれとは一線を画すものであり、
「亜希子さんが、好きだ」
口から出さないと涙の一粒も零れてしまいそうになる。上岡は、こういった時に陳腐な言い回ししか出来ない自分を呪った。
そんな事情など知る由も無い弓倉は、何の脈絡も無い上岡の言葉に苦笑し、微かに頬を染める。
開きかけた弓倉の唇に重なる上岡の指。表面をゆるゆるとなぞる指先に、吐息が生々しく絡んだ。
「……ベッド行こう」
同意を待たず、肩と膝の裏に回した腕で弓倉を抱え上げる。
上岡は意外と高い膂力を持ち、その腕の中で目を丸くする弓倉は驚く程に軽い。
「前にもこうやって運んだの、覚えてる?」
弓倉の自室へとつながる廊下の冷えた感触。そこを歩むと、やけに大きく感じられる足音を誤魔化すように上岡が問う。
忘れもしない、いや、正確には弓倉自身はその時気を失っていたので後になって嫌気が差す程聞かされた話である。
「あの後、さやかにまで伝わっちゃってて大変だったんだから。あの子ったら今でもたまに言うんだよ」
クスクスと笑う弓倉の身体の振動が上岡に伝わる。
「なんであの時は教室に直行しちゃったんだろう。明らかに拙かったな……ごめん」
愚痴めいてはいるが、楽しげな両者の声色。あの後保健室で更にえらい事になったのだが、二人ともあえて触れようとしない。
閉じられたドアのノブを前に当惑する上岡を見て、弓倉はなお笑う。
ベッドに横たわらされる弓倉の顔と上岡の顔が、必然的に間近なものとなる。
啄むようなキスを繰り返し、一旦離れようとした上岡を引き止める弓倉。
「あ、あのね、…ぁ…上岡君……っ!」
胸元に滑り込み、蠢く上岡の手に発言を阻害されつつ言葉を続ける。
「いつも上岡君が、私に、しっ、してるよね?だから、その、私が……いいかな」
目を逸らし、ゴニョゴニョと言葉を濁す弓倉。言わんとする事を解した上岡の手の動きは止まり、その喉は鳴る。
そして、解したからこそ湧き出た、こちらを啄む唇を、とくとくと脈打つ胸をこのまま貪ってしまいたいという衝動をどうにか抑え、
「亜希子さん、意外とすごい事言うよね」
と言った。ぼっ、と効果音が聞こえる程一気に弓倉の頬が染まる。
ぎしり、と両者の動きにベッドが軋んだ。
数枚の布を隔て、寄り添う弓倉の体温が、その身体の柔らかさと共にじわりと上岡に伝わる。
ぎこちない手つきで外されたシャツのボタン、その隙間から進入するやや冷えた指先。
隆々とはいかないがそれなりの厚さがある胸板を撫で、包装紙でも開けるかのように丁寧に上体を露にする。
その手つきによって喚起された苦笑を、気取られぬようにかみ殺す上岡。
弓倉はそれに気づかず、上岡と浅く唇を重ね、そのまま喉へ、胸へと滑らせてゆく。
唾液を肌に塗される度にその部分からじわりと侵食されるような錯覚が生ずる。
はだけられた弓倉の胸元から時折のぞくふくらみは、上岡の目を捕えて放さない。
堪えきれず漏れる上岡の声が、弓倉の腿の奥にあるむず痒さを徐々に熱へと変え始める。
ズボンを押し上げる上岡の欲望に気付いたのか、鎖骨を這っていた弓倉の指が、上岡のベルトの金具を外す。
露出させた茎の部分を両手で包み込み、やんわりと揉みしだく。
「や、やっぱり、ちょっと、照れちゃうよねぇ……」
言葉通りの照れ笑いを浮かべる弓倉。同意を求められても上岡には答えようが無く、曖昧な笑みを返す。
複数回身体を重ねた今でも割と初な反応を見せる弓倉ではあるが、
こうして心情を吐露する事が出来るようになった分、以前よりも性質が悪くなっていた。
先端を唇で包み込み、円周に沿って舌を這わせる弓倉。
加減がわからないのか、それは腫れ物のように扱われる。もっと強い刺激が欲しくなくは無いのだが、
「ん……ぅ……はぁ…」
少し不器用でただただ優しい愛撫がいかにも彼女らしく、刺激が弱い故にその様を楽しむ余裕を保つ事が出来る。
唾液と先走りの混じったものが弓倉の指、唇で粘性の高い音を奏で始めた。
茎に絡んだそれを舐め取るかのように、弓倉がそれを口内のより深いところまで受け入れると、それに伴って弓倉の毛先が上岡の肌をくすぐる。
ぎこちなく上下する頭を撫でるようにして、その髪を梳く上岡。
異物を飲み込んだままで形づくられた弓倉の笑みが、上岡の余裕をごっそりと削り取る。
する、される、の歴然とした違いに翻弄される上岡の様子が、弓倉の下腹部の疼きをより大きいものにする。
「亜希子さん、もう、いいから……っちょっ、ぁ!」
上岡の気遣いは、離れようとしない弓倉の前で無駄になった。
彼女の口の中にむせ返るような白濁が溢れ、涙腺がじわりと刺激される。
「ん…っ、え゛ふっ」
痙攣する口内のそれに喉奥を小突かれ、苦しげに咳き込む。
唇が離れる時、硬さのほとんど失われていないそれが張力を得て軽くはね、散った体液が弓倉の頬を汚した。
眉を寄せ、目元を拭う弓倉はその液体をどうにか飲み下す。
浅く、ゆっくりと息をする上岡は、お互いの体液で濡れ光る弓倉の喉が上下する様に目を奪われている。
「……気持ち、良かった?」
溜息と共に、どうにかそれだけの言葉を吐き出す弓倉。つう、と粘液の糸が唇の端から落ちる。
……足るを知らない衝動に突き動かされた腕が弓倉の肩に伸びた。
「だ、駄目っ……きょ、今日は私がするの」
その腕に対しては余りに薄弱な力で抗い、上岡の目を正面から見据える。
今までに無いほど真剣な視線に毒気を抜かれ呆ける上岡をよそに、スカートに手を掛ける弓倉。
「わ、わたしが、上になるから上岡君はじっとしてて」
言って、自らの下半身を覆う布を取り去る。ショーツを透けさせている液体は、弓倉の内腿にも伝っている。
胸を軽く突かれ、仰向けになる上岡。弓倉は先刻の言葉通りにその上に跨った。
充分過ぎる程に蕩けた入り口に、先程吐き出したばかりで残滓の滲む先端が添えられる。
「んぁ……ぅ……か、かみおかくん……」
呟いてそろそろと腰を下ろす。いつもとは違った刺激に身を震わせながら、弓倉の秘裂が上岡の根元にまで達する。
彼女の意思を尊重し、上岡はじっとして動かない。ただ、
「ふ……ぁ!……なんか……」
弓倉の中のそれの軽い痙攣だけは意のままにならず、派手な反応が弓倉から返ってくる。
それから逃れるように、腰を上げてぬらぬらと体液に塗れたそれを露出させ、
「はぁ……」
刺激に備えて唇を噛み、
「ん……ふっ…っ……!」
がくがくと二三回に分けて下ろす。上岡は何事か呟いたが、彼に(自分に)合うリズムを模索する弓倉は、
自分の動きをひどく浅ましく感じ、上岡の様子など窺えはしなかった。
二人の境界からの水音、汗ばんだ肌同士が張り付いては剥がれる音が部屋に満ちる。
そうして弓倉が何度も何度も自らの動き、自らの意思で内壁を擦り、奥を小突いていると、
「……ぅっく…い、やっぁ……っ!」
結果的に、行為とそれによる刺激に集中する事になっていた事もあって容易く登りつめてしまう。
腰を持ち上げていた脚の力がかくんと抜け、突いた膝がベッドを大きく揺らす。
「ひっ!?」
奥に激しく打ち当り、達したばかりの弓倉に追い討ちがかけられた。
今だ体内に突き立てられたままのそれの硬さ。それだけが鮮明な、靄のかかった弓倉の意識。
「はぁ…あは、は……ごめんね……さ、さきにいっちゃ…た……」
舌足らずな言葉。弛緩しきった苦笑。ひくひくと断続的に締めつける体内。上岡の胸の奥に、深く重く、低い音が響く。
「……どうして」
謝るの、と聞くところまで上岡は理性を保てず、上体を起こして弓倉を正面から強く抱きしめる。
先端が弓倉の深いところを捉えているのを自覚しつつ、自分の腰を押し付けるようにして脱力した弓倉の身体をゆさゆさと前後に揺する。
「あっ……ぁぅ……っ」
上下の動きの時には無かった派手な水音が立ち、影を潜めていた弓倉の羞恥心が煽られる。
だらりと力なく垂れていた腕で、どうにか上岡の背中に縋った。
「はぁぁ……はあぁぁ……」
連続的に訪れる波に、弓倉の声が蕩ける。その発生源を塞ごうとする上岡の唇から、顔を逸らして逃れる。
「っく、口で、したばっかり……ぃ……だから」
「いい」
短く言って、半開きの弓倉の唇を奪う上岡。唾液の味に混ざっている(気がする)ものを、激しく舌を絡める事で意識の外へと弾く。
突き上げる度に吐き出される弓倉の喘ぎを口で直に捕え、生暖かい呼気を肺腑に満たしてゆく。
そうして体の内外で弓倉を貪っていると、内壁の締め付けと共に、彼女の指が肩に食い込むのが感じられる。
「っぷ…ぁ…かみ、かみおか……くんっ」
「……また?」
彼女の唇を解放して問う。こくこくと頷いて答える姿に、その余裕の無さが窺える。
「もう少し我慢して……一緒に気持ち良く、なろう?」
「……頑張る」
どこか幼気な物言いをし、弓倉は上岡の首筋に頬を寄せた。ピッチを早める上岡のうなじを、弓倉の吐息がくすぐる。
「っ!ぅ……っ、っ!」
必死でなにかをこらえる表情が、初めての時の弓倉の様子を上岡に思い起こさせる。
以前とは全く異なる感覚で満たし、結局、以前と同様に責め苛んでいた。
「上岡君……わっ、わたし、もう駄目ぇ……」
そこまで言って、弓倉は再度訪れた絶頂の予感に唇をかたく結ぶ。同時に、上岡のそれが強く絞られた。
「亜希子……さん……」
名を呼ぶ上岡から吐き出された体液の熱さが、ぼやけ始めた感覚の中で鮮烈に感じられる。
「っ、うぁ……っ、ぁ……」
一拍おいて訪れた心地良い弛緩に弓倉の意識は溶かされ、そのまま緞帳を降ろすように上岡の荒い息が遠ざかる。
後日、帰宅したさやかに連れられて商店街を歩く二人。
遠征直後にしてはかなり高いテンションであちこちを見て回る。原稿用紙を物色する上岡と亜希子の目の端に捉えられる、
小箱を手に、ひらひらと無邪気に駆け寄ってくる白い制服。同質の感情が二人の心を満たす。
これからも、さやかは欠かせないピースの一つでありつづけるのだろう。
「上岡さん、ゴム要ります?」
多分。