「百合、あそこ見て!ヒメアカホシテントウ!」  
心地良く響く碧ちゃんの声、修学旅行に来ても全く変わらない日常。  
寺には見向きもせず境内で虫を追う天羽。  
そして、いつも通りに天羽碧のフィールドワークに付き合う星原百合。  
 
「碧ちゃん、あれはナミテントウじゃないの?」  
ふとした疑問、小脇に抱えていた『天道虫の秘密』でナミテントウの項を確認する。  
黒地に赤の紋様二つの写真、ナミテントウ二紋型の特徴と同じ。  
「ふふふ…百〜合〜」  
不気味な声とともに天羽が振り返る。笑いたいのが我慢できないように。  
「百合にしてはなかなか勉強してるわね。そう、ヒメアカホシテントウとナミテントウは似ているのよ!」  
「とりあえず、ヒメアカホシテントウのページをめくって御覧なさい」  
勝ち誇ったかのような天羽の声。最もいきいきとしている表情、星原百合が一番好きな顔。  
星原百合はナミテントウのページを指で挟みながら、目次でヒメアカホシテントウの項を探す。  
 
目次のページに落ちた影、ちょっとした暗がりが気になって星原は顔を上げる。  
目の前でうつむき『天道虫の秘密』を凝視する天羽。その彼女が星原百合の視線に気付く。  
「どうしたの、百合」  
星原は彼女に何か言うべきことがあったような気がしたのだが、寝不足か頭が働かない。  
「気分でも悪いの?」  
より一層顔を近づけてくる天羽。彼女の右手が星原の額を確かめようとした時、初めて口が開けた。  
「碧ちゃん、ちょっとくっつき過ぎだよ…」  
天羽は一瞬、何を言われたのか分らないように固まると、むっとした表情で言った。  
「なんですって〜、親友の心配するのは当たり前でしょうが。それとも何、百合は私に心配して欲しくないって言うの?」  
「そんな事ないよ、目次が良く見えなかっただけ…」  
天羽が影を作っているとはいえ、昼間にしては異様な暗さ。目次がよく読めなかった。  
「なんだ、そんな事」  
天羽はほっとした声で手を収めると、きびきびした声を取り戻した。  
「81ページをめくってご覧なさい」  
星原は言われるままにページをめくる。しかし、なかなか開けない。  
「上岡君は、どうしているのかな…」  
 
「???」  
天羽のつぶやきに混乱する星原百合。ページをめくる手がたどたどしくなる。  
「百合は上岡君と一緒が良かったんじゃないの?」  
恥ずかしさのあまり顔が蒸気する。口を開けば何を口走ってしまうか分らない。  
天羽の目から逃れるので精一杯だった。  
「ふ〜ん、やっぱりね。我慢しているんだ、百合は」  
「そ、そんなことないよ。天羽さん!」  
恥ずかしさを恐怖が上回った。自分の心を見透かされる怖さ。あの時の体験が蘇る。  
「天羽さん?急によそよそしくなったわねえ」  
「ご、ごめん。碧ちゃん」  
とっさに他人行儀いなってしまったことを後悔する。  
「それが百合の長所であり欠点ね。妙に礼儀正しいというか、引っ込み思案というか…」  
「そんなことじゃ、上岡君との関係は進展しないよ」  
図星を突かれて星原百合は黙り込んだ。そんな彼女に天羽はにっこり微笑んた。  
 
「無駄話が長くなってしまったわね。百合、82ページ」  
「うん…」  
星原百合はページを見開くと、ヒメアカホシテントウの説明を読もうと目を凝らそうとした。  
その前に天羽が口を開く。  
「ね、頭の部分を見てみなさい。黒いでしょう?ここがナミテントウとの違い!」  
「ま、大きさも微妙に違うんだけど、そこまでは知らなくてもいいわ。難し過ぎるから」  
勝利者の余裕を見せる天羽。星原百合は問題の天道虫に目を凝らす。  
頭の部分にうっすらと卵色の模様。  
「碧ちゃん、あれヒメアカホシテントウじゃ無いよ?」  
口を半開きにして固まる天羽。必死の形相で天道虫を目で追う。  
「あ…れ…?おかしいな…はは…。さっきは…」  
急に声が小さくなる天羽。目のやり場に困る二人。  
「やるわね、百合。それにしてもいつ勉強したのよ?上岡君も見習って欲しいわ…」  
あれ、いつだったんだろう?考えても答えは見つからず、全ては深い闇に消えていった。  
 
「星原さん…、星原さん」  
星原百合は揺すられる肩に眠りを妨げられた。  
頬を伝わる生ぬるい雫。ぼんやりとしながらもそれを拭うと…涙?  
何で泣いていたんだろう…  
理由も分らず、濡れた指先を見つめていると、もう片方の目から頬を伝い落ちる涙。  
テーブルに突っ伏したままその先を見つめると、本。  
「いけないっ!」  
星原百合は跳ね起きると、ハンカチで落ちた涙を拭う。  
「あっ……ヒメアカホシテントウ…」  
真っ黒な背中に赤い紋様が二つだけ、天羽さんと話した天道虫。  
本は『てんとうむしの秘密』、彼女の瞳に堪えきれないものが溢れてきた。  
 
上岡進は何が起こったかも分らず、星原百合の顔とやり場のなくなった手を交互に目で追う。  
「どうしたの?上岡君」  
星原百合は上岡進がするより早く、声の主へ振り向いた。  
「弓倉さん…」  
浴衣姿の弓倉亜希子と東由利鼓が怪訝そうな面持ちで立っていた。  
「星原さん、どうしたのその顔…」  
東由利が星原に駆け寄る。  
手に持ったタオルで彼女の涙を丁寧に拭き取ると、上岡に向き直った。  
「進君、どういうつもりなの?女の子を泣かして」  
上岡は、星原を気遣う心と東由利の容赦の無い追及に、うろたえるばかりだった。  
「僕にも何がなんだか…」  
「鈍感!」  
東由利に一喝されると、上岡は上目遣いに弓倉亜希子へ助けを求める。  
「鼓、上岡君のせいと決めつけるのは良くないよ…」  
「それはそうだけど…星原さん、どうしたの?」  
星原の横にしゃがんで、見上げるように覗き込む東由利。  
弓倉亜希子は星原の向かい側に腰を下ろし、上岡に隣に来るようにと椅子を引いた。  
 
「なんでもないんです…」  
星原百合は、上岡を巻き込んですまないという心と、  
東由利や弓倉に心配をかけて申し訳ないという気持ちで、蚊の泣くような声を漏らした。  
「言いたくないの?それとも言えないの?」  
東由利は星原を気遣いつつも、上岡が原因であるとの確信を強め、  
決定的な証言を本人から取るべく追及の手を緩めない。  
 
「星原さんがここで居眠りしていて、僕が彼女に近づいて寝顔をちょっと見ようかなと思って、  
覗き込んだら彼女が寝息立てながら泣いてて、悪い夢でも見ているのか心配になって、  
起こしたほうが良いのか悩んで、結局肩をゆすり起こして、星原さんが本を見て、泣き出した」  
上岡進は自分のどの行動が悪かったのか分らぬという表情で、隣の弓倉亜希子に判断を求めた。  
すかさず東由利の罵声が飛ぶ、  
「進君、星原さんが話せないと思って適当なこと言っているでしょ?」  
東由利は立ち上がると、周囲に誰もいないのを確認して舌打ちした後、駆け足でホールを出て行った。  
 
弓倉亜希子は走り去る東由利にため息をつくと、星原に向き直った  
「星原さん、上岡君の言ったことは本当?」  
「そう…です。私が勝手に、泣いたんです」  
「何かあったの?」  
「…………」  
弓倉亜希子がやんわりと原因を探ろうとするが、星原が答える気が無いと知ると、立ち上がって言った。  
「上岡君、私は鼓を止めに行くから、星原さんをお願い」  
「うん、わかった」  
上岡の返事に頷くと、弓倉亜希子は小走りで東由利の後を追った。  
 
「星原さん、悪い夢でも見たの?」  
「っ……」  
上岡の核心を突いた質問に、思わず息が詰まる。  
「やっぱりそうなんだ。じゃあ起こして良かったのかな?」  
上岡は星原を泣かせたのは自分ではないと判断すると、ほっとした顔を見せた。  
 
悪い夢ならいつかは終る。醒めない現実。消せない過去の記憶。  
生きる限り続く後悔と慙愧の念。  
あの日天羽碧を失い、悲しみは上岡進と共有しないと決めた時から、  
一人で天羽の冥福を祈り、学校の平和を守ると誓った。  
しかし、何をしなくとも学校には平和があり、過去に責められ続ける自分だけが残った。  
 
「上岡さん、少し外に出ませんか?」  
「消灯まで30分も無いけど?」  
「大丈夫です、すぐ済みますから」  
上岡が心配を漏らすと、星原は微笑んで言った。  
 
「本当に大丈夫かなあ、部屋のみんなに迷惑がかからなければいいけど」  
十分ほど歩いたところで、上岡はつぶやいた。  
もちろん、こんな時間に出歩いている生徒は居ないし、繁華街からは遠く離れた宿である。  
通りがかる車もなければ、人もいない。  
「上岡さん、京都は好きですか?」  
「どうしたの、突然。良い所だね」  
「感情を機能とすると、構造はなんですか?」  
「星原さん?」  
「答えて下さい」  
「記憶かな…」  
「少女と母親と老婆がいます。あなたが待ち合わせている人は?」  
「うーん。少女」  
『目を閉じて、力を抜いて下さい』  
 
「百合…」  
上岡進は朦朧とした意識から抜け出すと、  
目の前で泣き崩れている星原百合の身体を抱き寄せた。  
「ごめんなさい……私っ…私っ」  
「馬鹿なのは僕のほうさ、あんな手に引っ掛かるなんて」  
 
『進君、コーヒーに砂糖いれるの、どう思います?』  
『どうしたんだい、今さら。ブラックは駄目、砂糖は2つがいいな』  
『歴史を構造とすると、機能は何でしょう?』  
『研究記事?機能は文化、それが無難』  
『産業革命と独立戦争と太平洋戦争、一番興味があるものは?』  
『どういう組み合わせ?産業革命が通』  
『力を抜いてください』  
『肩揉んでくれるの?』  
『心を楽にして…』  
『!!!』  
 
「……間抜けな話だね。空元気は見破られ、逆に負担にしていたということだから」  
上岡進は腕の力を強めた。  
「ごめん」  
「進さん…」  
 
二人は一度軽く口付けを交わすと、二度目は舌を絡ませつつ互いの唇を貪り合った。  
上岡は左手で星原を支えつつ、残りの手で星原の腰を引き寄せ、そのままブレザーの中に後ろから手を差し入れる。  
さらに、シャツの上から腰の上の性感帯を撫でる。  
性感帯を愛撫された星原よりも、自分が興奮してしまった上岡は、その手を上からスカートの中に突っ込み、  
下着の中に差し入れ、引き締まった尻を撫で回した。  
「あっ…」  
星原が恥ずかしさに思わず声が漏らす。そのかわいらしい声に、上岡の欲情がより一層掻き立てられる。  
上岡の左手は星原のスカートをたくし上げると、下着の中を這いまわり秘所を軽く牽制する。  
星原百合はスカートの上下から下半身を責められ、高ぶる気持ちを抑えられなくなってくる。  
「んっ……」  
星原の腰がたまらず反応する。このまま続けてもいいが、秋風に晒されれば風邪を引きかねない。  
上岡は体勢を変えることにした。  
星原と舌をつなげたまま後ろに回ると、右手は下着から抜き、ブレザーとシャツのボタンをはずす。  
左手はそのままに、先程より強く責める。  
今度は上岡が後ろにいるので腰は引けない。行き場を失った腰が、いやいやするように横に振られる。  
その反応に上岡の加虐心が呼び起こされた。  
今度は空けた胸元から右手を差し込み、前に付いているブラのホックをはずす。  
左の胸の突起を右手で弄りつつ、抱きすくめるように星原の挙動を制限する。  
思った以上に豊かな胸にリビドーを高め、上岡の左手はより一層貪欲な動きを見せる。  
「んんんっ!」  
敏感な部分をまともに責められ、星原は叫び声を上げそうになる。  
声を上げてしまうことの羞恥が、声を漏らすまいとより一層、上岡の唇を吸引しようとする。  
上岡は、一瞬息がつまり酸欠になりかけたが、どうにか気道を確保し、  
仕返しとばかりに濡れた秘所に左手の指を突っ込んだ。  
 
「んんーーっ」  
あまりの刺激に星原の腰は後ろに跳ね、上岡の腰と激突した。  
上岡は右手を星原の身体を擦るように下ろし、腰の辺りをがっちり捕まえると、  
一気に勝負をつけるべく、責める指を3本にして激しく動かした。  
「ぁ…んあっ………」  
声を出したくなったのか、息が続かなくなったのか、舌を噛みそうになったのか、  
星原百合は上岡の唇から離れた。  
「はぁ、ああっ……」  
静かにさえずる虫の声と川のせせらぎとは、相容れない妖艶な声が、人里はなれた山に木霊す。  
いよいよ星原の身体が熱くなり、汗が滲んできたところで、そろそろ終わりが近いと上岡は思った。  
「百合、いいかい?」  
「はい、進さん…」  
二人はもう一度唇を重ねると、名残を惜しむかのように思う存分互いの舌を堪能した。  
上岡は左手の動きを少し緩めつつ、右手でズボンのベルトを外し、右足の靴を脱ぎ捨て、  
ズボンを下ろし右足を抜く。硬くなった自分のものを確認すると、彼女の身体を自分のほうに向ける。  
不安そうな顔をしつつも上岡の目だけを見る百合。半年前の想いが溢れてくる。  
 
「最初だけ、力抜いて…」  
「はい」  
星原の覚悟の顔を確認すると、腰を押えつつ狙いを定め一気に差し込んだ。  
「ああーっ!」  
喜びとも、悲鳴ともつかない声が上がる。  
彼女の中は秋風に晒されていた外と違い、暖かく、弛緩してしまいそうなほど心地良かった。  
しかし締め付けはきつく、気を抜いたらあっという間にイカされてしまいそうだ。  
百合の方は既に目がうつろ、この状態で負けるわけにはいかない。  
上岡は快楽を貪ることより百合をイカかせる方に意識を集中させた。  
頭は急速に冷静さを取り戻す。百合のきつい締め付けに気を払いつつ、深く早く彼女の中を行き来する。  
彼女の身体が、上岡を求め潤滑液を大量に分泌する。  
「上岡さん、上岡さん、好きですっ!」  
星原百合の声に、上岡の冷静さを装った仮面はあっさり剥ぎ取られ、  
快楽を共有したいと、星原の腰に自分を激しく打ちつける。  
二人は互いを求め合うように激しく身体をくねらせ、最後の時に向けて互いを高めあう。  
「上岡さん、ぁ……あっ……っ、ああーーっ!」  
既に限界が近かった星原が果てる。  
ぐったり崩れ落ちかけた星原の身体を、上岡は慌てて支える。  
もう一度彼女に深く差し込むと、最後に彼女を強く抱きしめた。  
 
「ごめんなさい、私だけ…」  
宿に帰りつつ、星原が上岡に頭を下げた。  
「仕方ないよ、壁も支えも無いし、道路に寝そべるわけにもいかないし」  
消灯時間はとっくに過ぎていた。先生に怒られるな…、上岡進はどんな罰を受けるのか、考えると不安になった。  
もっとも、最初に見つかった相手が草壁なら、助け舟や入れ知恵が期待できるのだが。  
ふと、横を歩く星原百合を見る。上岡の腕を取り、嬉しそうに微笑んでいる。  
星原の満足そうな顔は、半年振りだな。彼女の苦労を思うと、そう思わずにはいられない上岡だった。  
 
宿の入り口まで来たところで、組んでいた腕を放し、前に進み出た星原が振り向いて言った。  
「進さん、少し待ってて下さい」  
上岡は一瞬呆けたようなしぐさを見せたが、星原の意図を察すると、ほっと胸を撫で下ろした。  
星原の力のことを失念していた。外出前に感じていた不安のあまり、記憶を取り戻しても思考が及ばなかった。  
「頼むよ、百合」  
星原百合は上岡の言葉に頷くと、宿の中へ消えていった。  
 
「上岡さん、上岡さん」  
テーブルに突っ伏していた上岡進は、星原百合の声に目を覚まされた。  
「あれ、夢?」  
霞んだ目をこすりながら、自分を起こした相手の顔を見る。  
「どうしたんですか、上岡さん。それよりも、早くお風呂に入らないと」  
テーブルの上には入浴の道具があり、星原も小脇にバスタオルを抱えている。  
「いっしょに行きましょう、上岡さん」  
星原に右手を引かれ、慌てて立ち上がった上岡は後方にバランスを崩す。  
手を引いている星原を引っ張る格好になってしまう。  
勢い良く飛び込んでくる星原。変な倒れ方をしないように、左手を星原の腰の辺りに回す。  
ソファーの上で、二人は抱き合う格好になった。  
「あっ……」  
二人の顔が、耳まで。羞恥のためにみるみる赤くなる。  
上岡進は星原百合の胸の感触に心を奪われ、腰に回した手を解くでもなく、ただ硬直していた。  
「上岡さん、ありがとうございます」  
「あ…ごめん」  
星原の言葉に、上岡は自分の役目が終ったと感じ、慌てて左手を解いた。  
星原百合はゆっくり立ち上がると、上岡のバスセットを手に取り言った。  
「さあ、いきましょう」  
 
上岡進は、岩でごつごつした露天風呂につかりながら星空を眺めていた。  
「快晴だな…」  
大小さまざまな星々に嘆息を漏らし、大きな息をついて身体の力を抜く。  
目を閉じて、先程の星原百合の胸の感触に思いをはせる。  
「結構、気になっていたんだな」  
上岡は、今まで星原を一人の友人として見ていた。  
好きだとか、かわいいとか、意識したことも無かった。  
しかしあんなことがあって、一人の女性として見ずにはいられ無い自分があった。  
「相談する人がいないな……」  
こういう事は、信頼できる友人にした方がいいのだが、適当な人が思い浮かばない。  
口が堅くて、しっかりしていて、星原とも仲が良い…そんな都合の良い人がいるはずも無かった。  
「何を相談するんですか?」  
突然の闖入者に上岡は焦った。自分が変なことを口走っていないか心配するよりも、  
声の主が女性だった事に我を失った。上岡は固まりはしたが、  
一刻も早くこの場を離れるべきか判断するため、恐る恐る声のほうを見る。  
星原百合だった。  
 
「ここは混浴なんですよ」  
彼が疑問を呈するより早く、星原は言った。  
上岡は、生徒が泊まる場所にわざわざ混浴の宿を選んだ教師の神経を疑った。  
次に、上岡と星原以外誰もいない露天風呂に不審感を持った。  
「僕たちしかいないね」  
「ええ、こちらは一般用ですから」  
星原は何事でもないかのようにさらっと言ってのけた。  
「確かに、広く使えるのはありがたいけど…先生が来るかもしれないよ?」  
「それはありません」  
「???」  
「そちらに行ってもいいですか?」  
女の子の大胆な提案に上岡の頭の中はパニックになった。  
「え、うん。あれ?」  
「では、失礼します」  
星原百合はゆっくり立ち上がると、ゆっくりと上岡の方へ歩みを進めた。  
上岡は星原の均整の取れた身体に息を呑んだ。  
上半身をバスタオルで巻いた星原の身体は余計にエロチックに見え、  
きれいな脚をより一層際立たせていた。  
「かわいいね」  
上岡は辛うじて口を開いた。  
星原百合はきょとんとし、少し立ち止まりはしたが、臆面も無く上岡の右横に腰を下ろした。  
ちらりと彼女を横目で見ると、湯船の上に出ている鎖骨がきれいに浮かび上がって見えた。  
 
上岡進はどうしたら良いか分らず、横目で星原をちらりと眺めた。  
彼女は長い髪を頭でまとめていて、きれいな耳が彼の心をかき乱す。  
そんな星原の口から、上岡に意外な言葉が発せられた。  
「先程は、ありがとうございました」  
上岡は最初何の事か分らず、とりあえず記憶を辿りホールでの一件に思い当たと、首を振りつつ言った。  
「あれは僕が悪いんだ。星原さんが礼を言う必要ないよ」  
「ふふ…そうですか?」  
彼女は軽く笑うと、上岡の右手を左手でそっと取り、優しく口付けをした。  
「ほ、星原さん?」  
上岡は星原の意図が読み取れず、左半身を強張らせた。  
星原に触られている方の身体は、快感が駆け巡る。  
「私、上岡さんの事、ずっと見ていました」  
「え?」  
星原は、素早く上岡の胸に身体を預け、  
上岡に二の句を継がせず唇を重ねた。  
上岡の硬直した左手を彼女の美しい手が取り、自由を奪う。  
星原の身体を覆っていたタオルが、重力と湯船に取られ、はらりと彼女の胸が露わになった。  
何もできずにいる上岡の口内を、思う存分堪能した星原は、ゆっくりと顔を離した。  
少し距離ができた事により、間近に見える星原の乳房。形がよく美しい胸に、上岡はまたしても固唾を飲んだ。  
「上岡さんは私のこと、好き?」  
「……う、うん」  
吸い込まれるように上岡は答えた。  
「なら、教えてください」  
 
星原百合は上岡進の下半身を隠していたタオルを取った。  
恥かしさのあまり、上岡は自分のものを隠すのも忘れるほど動揺した。  
口をぽかんと開けたまま、星原に身を委ねる。  
上岡の裸体を丹念になぞっていた彼女の手、  
白くてきれいな両の手が、ついに上岡のものを優しく掴んだ。  
「うれしい…こんなになって…」  
「うっ…!」  
感じやすいところを初めて星原に握られ、あまりの快感に上岡は声を漏らす。  
彼は呆けたように彼女の顔を見た。彼女の恐ろしいほど美しい笑みが、上岡の目を射抜く。  
圧倒された上岡が、顎を少し引いた刹那、  
星原は上岡のものを、自分の大事なところに突き刺した。  
「あっ…っ…はぁあ…」  
少女の艶かしい声に、今まで何もできないでいた上岡の心が、一気に傾いた。  
 
初めはさざなみ程度だったうねりが、いまや大きな波を立て渦を巻く。  
その発生源とも言える二人は快感の絶頂にいた。  
上岡は激しく腰を上下し、星原は上岡のものを締め上げながら、腰を小円を描くように回転させる。  
湯船から大きな音を立てて湯が飛び出し,、激しい音を立てる。  
「くっ…くう」  
上岡の下半身が、快楽のあまり制御が効かなくなる。  
まるで、自分の意思と無関係に運動しているかのような感覚に襲われる。  
それに比例して、加速的に高揚感が押し寄せ、理性の堤防を越えようとする。  
星原は上岡の変化を見て取ると、両足を上岡の腰に巻きつけ身体を密着させる。  
そのまま両足に力を込め、上岡の根元から一気に絞り上げた。  
「ぐうっ…くあっ」  
星原の強烈な攻めに、上岡はたまらす彼女の中にぶちまけた。  
残らず搾り取ろうと、容赦なく腰をくねらせる星原。  
既に果てた上岡の目が、宙空を漂いだしたのを確認すると、初めて動きを弱めた。  
「ふあっ…」  
上岡が大きく肩をつくと、星原はゆっくりと彼のものを引き抜いた。  
彼が注ぎ込んだものが、彼女の中からこぼれ出し、湯船に立つ大波にさらわれていく。  
上岡は、言葉を発する事ができず、ただ呆然と星原の顔を見つめていた。  
もはや、星原の身体を鑑賞する余裕も失せていた。  
「上岡さん、湯船から上がって下さい」  
 
上岡進は星原百合に言われるままに湯船から這い出ようとした。  
下半身は快感のあまり痙攣したばかりで、とても立って歩こうという状態ではない。  
彼がようやく身体の半分を湯船から抜いたところで、星原は上岡の太ももを掴んだ。  
「???」  
上岡は何が起きたのか分らず、上体を捻って星原を見る。  
「上岡さん、こちらを向いて下さい」  
「え…?う、うん」  
上岡は言われるまま、身体を横に転がし湯船の縁に座り、湯船に肢を突っ込む体勢で一息ついた。  
改めて、疲労感が足の先からこみ上げてくる。  
先程までの、湯船を騒がせていた大波は影を潜め、僅かに映った月が滲んでいるのが見えた。  
 
月に目を奪われていた上岡は、星原が襲い掛かってくるのに気付くのが遅れた。  
彼が見たときには、彼女の顔は上岡の股深く進入していた。  
「星原さん、何を!」  
星原百合は上岡の問いには答えず、彼の萎えかけたものを再び手に取ると、口に含んだ。  
「ああっ!」  
たまらずに、あられもない声を上げる上岡。果てたはずのものが勝手に生き返る。  
「ふふ…さすが。もっと良くしてあげる」  
彼女は巧みな舌使いで亀頭を愛撫すると、両手は上岡の袋を軽く揉み解す。  
「んっ…く、あ」  
声にならない叫びを上岡は上げる。  
星原は激しく吸ったり優しく舐めたりと、様々な方法で上岡を攻め立てる。  
いつの間にか、彼女の髪をまとめていた留め金が外れたのだろう、長く黒い髪が湯船にきれいに棚引いていた。  
濡れた髪が顔にかかり、より一層色気をました星原の顔に、上岡は理性が消し飛んだ。  
星原の喉を堪能すべく、星原の後頭部を押さえ、奉仕させる。  
「んっ…んんーっ」  
息が詰まった星原が苦しみの声を上げる。  
上岡はかまわず星原の頭を押え、腰を突き出し星原の粘膜を味わう。  
「で、でるぞ!飲めっ!」  
上岡は星原の口内に毒液をぶちまけた。  
 
「はあ…」  
星原百合は深いため息をついた。  
「また失敗しちゃった……」  
夢枕に立った天羽に言われ、少し積極的に出てはみた。  
しかし、彼女が納得できる上岡進との新たな関係は始まりそうも無い。  
 
結局あの彼が一番好きなんだな…。  
天羽碧を失い、悲しみを共有した上岡進の記憶。  
寂しくなった時、ふと彼に逢いたくなる。  
一時間もいられなかったが、星原百合の心は満たされていた。  
 
悲しみを知っているから優しい彼。  
その苦悩する姿に耐えられなくなった彼女。  
彼の記憶は封印したが、どうしても離れることはできなかった。  
 
記憶を消しては、新たな出会いと時間の共有を求める  
上岡に期待し、失望してはまた信じようとする  
『人の心を弄んで、いったいどういうつもりなの?』  
天羽の言葉が心に蘇る。  
 
上岡さん、あなたが私をもっと信じていてくれれば……  
強く戒めていた想いが溢れ出し、彼女は慌ててふたをする。  
上岡さん、いつになったら私を信じさせてくれるの?  
 

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