トリスメギストスによる事件の終焉から半年が経ち、聖遼学園は春休みを間近に控えている。  
 
 星原百合は新聞部の部室へ向かっていた。星原が所属する新聞部が抱える目下の問題は、  
部員数の少なさである。ちゃんと活動している部員といえば、星原のほかに、同じ二年生で  
部長の上岡進と天羽碧の計三名しかいない。前部長の川鍋は上岡に  
 
 「新聞部を頼む」  
 
という言葉を残し引退していった。そして聖遼学園で部活動として認められるには  
部員10名が必要である。つまり、来年度やめてしまう可能性がある幽霊部員を数えずに  
最低7人の新入部員を確保しなければならない。  
 
 同好会だろうがなんだろうが、学内新聞が発行でき記事が書ければよい天羽は我関せずで  
取材のために学園中(主に昆虫のいそうな場所)を駆け回っている。しかし、生真面目な上岡は  
新聞部を「部」として存続させるために、星原とともに新入生獲得大作戦を展開すべく日夜会議を  
繰り返していたのであった。  
 
 切羽詰っている上岡には悪いと思うが、星原はこんな日々を楽しんでいた。自らの目的のためとはいえ  
他者との接触を一切断っていた半年前とは違い、今は上岡や天羽と普通の学園生活を送ることが出来ている。  
何より、恋人でもある上岡といつも一緒にいられることが幸せだった。  
 
 しかしその幸せも、この日を境に変質してしまうことになる。  
 
 星原が新聞部室のドアの前に立つと、中から規則正しいタイピングの音が聞こえてきた。  
おそらく天羽のものだろう、と星原は思った。上岡は、星原の知る限り、半年前から  
タイピングのスピードが変わっていないからだ。  
 
 たどたどしくキーを叩きミスをするたびに小さくぼやく上岡の姿を思い出し、星原は小さく  
微笑みを浮かべた。  
 
 ドアを開けて中に入る。意外なことにパソコンに向かっていたのは上岡であった。天羽の姿は  
見当たらない。よどみなくキーを叩く上岡の姿に、いつも見知っている姿とかけ離れたものを感じ、  
星原は少しの間、呆然としていたが  
 
 「進君、おそくなってごめんなさい」  
 
と上岡に声をかけた。後ろ手にドアを閉め、パソコンに向かう上岡に近づく。  
 
 上岡はキーを叩く手を止め、椅子に座ったままで体ごと星原のほうを向く。  
 
 「待ってたよ、百合」  
 
 その言葉を聴いた瞬間、星原の体が意思の言う事を聞かなくなる。  
 
 「っ!?…進…君?」  
 
 星原はその感覚に覚えがあった。言葉を媒体にしてそれを聞く者の意識に働きかけ、記憶の操作  
や体の制御をする。それは星原自身が持つ「もうひとつの世界の力」である。そして、上岡は  
「この世界」の人間でありがなら、その力を持つ者だった。…上岡が力を使っている。  
 
 二人で二度と使わないと誓った「もうひとつの世界の力」を…。   
 
 上岡の意思に操られ、星原の体は上岡の目の前に立たされた。  
 
 「進君!なにをするんですか!?」  
 「百合、この部屋すこし暑くない?」  
 
 星原の問いを無視し、星原にたずねる。その言葉をきっかけに星原の手が動き始める。  
ブレザーのボタンに手をかけ、ひとつづつはずしていく。ブレザーを床に落とし、次は  
ベストを脱ぎにかかる。  
 
 「ぇ…やぁっ!進君…やめて…っ」  
 
 ベストを脱ぎ終わったところで、星原の体は再び動きを止めた。星原はわずかに安堵するが  
依然体の制御は上岡に奪われたままである。  
 
 「進君…どうして、こんなことを?」  
 「毎日がつまらなくなったから」  
 
 上岡は即答した。椅子から立ち上がり、星原と向かい合う。  
 
 「君と一緒にいられて、こんな力なんかなくても十分に充実した人生が送れると思ってた。  
  でも物足りないんだよ、ただの幸せな毎日だけじゃ。  
  この力を使えばもっと楽しく過ごせる。だから…」  
 「ぅんっ…!」  
 
 上岡は星原とキスをする。キス自体は初めてではなかったが、舌を入れるディープキスは  
初めてだった。星原は反抗することさえできず、逆に体は上岡を求めるように動いていしまう。  
目の前の人間に対する嫌悪と、愛情と、強制的に与えられる快感が星原の表情を言いようのない  
複雑なものにする。  
 
 「…っは…」  
 
 星原はようやくキスから開放される。  
 
 「だから、僕は、誓いを破るよ」  
 
 星原は上岡を見上げ、裏切られたショックのためか、高ぶった感情のせいかわからない涙を  
浮かべる。  
 
 「こんなことしなくても、進君が求めてくれるなら…私…いつでも…っ」  
 
 その言葉を聞いて一瞬驚いた顔をする上岡。だが次の瞬間には笑い出してしまう。  
そして微笑みながら残酷な一言を放った。  
 
 「…言ったでしょ。それじゃ…君だけじゃ、足りないんだよ」  
 「!!」  
 「でもうれしいよ。百合がそんなダイタンなこと言ってくれるなんて。  
  君を手放すつもりはないよ。僕の一番大切な人は君だから」  
 
 上岡は星原の後ろに回りこんで、抱きしめる。  
 
 「だから最初に、君を僕のものにしようと思ったんだ」  
 
 左手が胸へ、右手がスカートの中へ伸びる。  
 
 「!!いやっ…進く…はぅっ!」  
 
 星原の抗議は、うなじに這わされた舌と両手の愛撫によって止められてしまう。  
 
 ブラウスの上から星原の大きめの胸に指を食い込ませるようにさわる。ブラの硬さを  
感じるが、それ以上にその向こうの胸の重さと柔らかさを感じる。  
 
 パンツの上から秘部を撫でる。布越しであってもその部分の熱と柔らかさを感じる。  
 
 「ぁあ…やぁっ…ふぅ…ん」  
 
 最初は声を出すまいとしていた星原だったが、上岡の愛撫が激しさを増すにつれ  
甘い声を上げはじめる。部室内で、愛しい人に、緊縛に等しい体の自由が利かない状況で  
初めて愛撫されている。その非現実的な状況が星原に新たな興奮をもたらしていた。  
押し寄せる快楽に理性を手放しかけていたとき…  
 
 非現実的な状況  
 
 星原は唐突にある可能性に気づく。ここは学校の中で、放課後で、他に生徒がいるのだ。  
 
 「す…進、君?…ぁ…こんなところ…んっ、誰かに見られたら…まずいんじゃ  
  …あぅっ、ないですか?」  
 「大丈夫だよ、百合。この部室に結界を張ってあるから。誰もこの部屋に気づかないし、  
  中で起こっていることも知覚できない。…大きな声を出しても平気だよ?」  
 「そ、そんなっ…」  
 
 上岡をとめることができる、少なくとも現状から脱出することができる最後の希望を  
あっさり否定され、星原は途方にくれる。それと同時に一瞬覚醒した理性が再び快楽の  
奔流に飲み込まれていくのを感じた。上岡の愛撫がいっそう激しくなる。  
 
 「あっ…はあああぁぁぁん!!」  
 
 上岡は制服のリボンをほどき、ブラウスのボタンをひとつづつ、左手だけで器用に  
はずしていく。ブラウスの前を開けるが完全に脱がすことはしない。ブラを胸の上に  
持ち上げて外気にさらされたそれをゆっくりとした動きで揉みこんでゆく。スカートの  
中の右手は下着の隙間から指をいれ、直接秘劣をなぞる。その部分はすでに濡れており  
上岡の指を湿らせた。  
 
 「へぇ…結構濡れてるんだ?」  
 「いやっ…んっ…はぁぁ…」  
 
 指を秘劣に浅く出したり入れたりを繰り返しながら、部室中に水音を響かせる。それに  
つられるように星原の喘ぎ声も次第に大きくなっていった。  
 
 ふと、上岡は机の上のカメラに目をとめる。自分が写真部だったころから使っている  
そこまで高級ではないが使い捨てカメラなんかよりはずっといいカメラだ。  
 
 「…いいかもね」  
 「え?」  
 
 上岡は愛撫を中断し、ティッシュで濡れた指をぬぐう。カメラケースを開けて撮影の準備を  
始めた。  
 
 「百合、アイドルに憧れたこと、ある?」  
 「え…そんな、嫌ぁ!!」  
 「一度やってみたかったんだ。アラーキーみたいになれるかな?」  
 
 星原の体は意思に反し様々なポーズをとる。スカートをたくし上げ濡れた下着が丸見えになる。  
四つんばいになり胸を強調する。尻を挑発的に突き出す。床に座り込んで足を大きく開く。  
コンビニで売っているようなブルセラアイドルの雑誌ではおなじみのポーズだが、星原の表情には  
本気の羞恥が表れていた。それが上岡の劣情をあおっていく。  
 
 最初は嫌がっていた星原だが、カメラのフラッシュに体を焼かれるたびに別の感情が  
体の中に生まれてくるのを感じていた。体にはまったく触れられていないというのに、  
愛液は溢れ続け、呼吸が激しくなってくる。  
 
 「はぁ…はぁ…ふ…うぅん…」  
 「百合、感じてるの?」  
 「…違います…。これで弱みを握ったつもりですか?」  
 「そんなんじゃないよ。君のこんな姿を他のヤツに見せるなんてもったいない」  
 
 上岡は無言でシャッターを切り続ける。  
 
 撮影会は始まったときと同じように突然終わりを迎えた。どうしたのかと顔を上げる星原。  
憮然とした表情でカメラを見つめる上岡。どうやらフィルムが終わったらしい。  
 
 「思いつきではじめたのがまずかったかな?次はちゃんと準備しなきゃ」  
 
 そんなことをつぶやきながら上岡はカメラをしまう。  
 
 「さてと…焦らしてゴメンね。次は最後までするから」  
 
 上岡は最初に座っていた椅子に腰を下ろす。星原は上岡のズボンとトランクスをおろし、  
自らのショーツも脱ぎ捨てる。すでに濡れそぼっていたそれは、卑猥な水音を立てて  
床に落ちた。  
 
 「おいで、百合」  
 「いや…嫌ぁ…」  
 
 星原は座った上岡に向かい合う体勢で、上岡のモノに秘部をあてがい、そこで動きを止めた。  
 
 「いくよ?」  
 「!!痛っ…ひあああああああぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」  
 
 星原は一気に上岡のひざの上に腰をおろすようにし、一番奥まで入れた。星原の腕は上岡の首に  
回し、爪を肩に食い込ませるようにしがみついた。  
 
 「く…ふっ、はぁ、はぁ、はぁ…」  
 
 相当痛むのか、星原は荒い息をとめることができない。上岡の目の前にある顔は、苦痛に歪み、  
涙を流していた。そんな星原にかまわず、一度だけ星原を持ち上げて、下ろす。  
 
 「ぐっ!…かふっ!」  
 
 苦痛にうめく星原は、これはこれで上岡の嗜虐心を刺激したが、上岡の求めるものとは少し違った。  
 
 「痛い?百合」  
 「…はぁ、はぁ、はぁ…くっ」  
 「そっか。じゃあこれでどうかな?」  
 
 上岡の言葉とともに、腹の奥に感じていた激痛が溶けるように消えていった、が、  
中の圧迫感は残っている。思わず二人がつながっている部分を見てしまう。  
自分でそこを確認するのは死ぬほど恥ずかしかったが、上岡のモノには破瓜の血が付いていた。  
 
 「…何を…したんですか…?」  
 「そこの痛覚を君の意識から排除したんだ。ついでにこんなことも」  
 
 そういって上岡は、星原の乳首を舐め上げる。  
 
 「!!あっ!はぁんっ!!」  
   
 今までの愛撫より数段強い快感に、大きな声を上げてしまう。上岡が口を離した後も背筋に  
遠雷のようにチリチリと刺激が残っていた。  
 
 「もっと感じるようにしてあげたんだ。苦しいのはかわいそうだからね。  
  もう大丈夫だよね。それじゃ、いくよ!」  
 
 その言葉が終わらないうちに上岡は腰を動かし始める。星原は下から上へ突き抜けてくる  
電気のような刺激に背中を弓なりにそらし、いつしか上岡の動きに合わせるように、自分の  
腰を動かしていた。  
 
 「んっ!はぁっ!はぁっ!はぁぁん!!」  
 「…百合はHだね。自分から腰を動かすなんて…」  
 「あっ!…これは…やんっ!…進…君が…ひぃんっ!」  
 「僕はもう何もしてないよ」  
 「えっ?…あぁっ…!?」  
 
 星原は自分の体がいつの間にか、自由に動くことに気づいた。腰の動きを止めようと思えば  
止められるだろう。しかし…  
 
 「…やめないの?」  
 「…止められ、ないんです…あっ…おね、がい…くっ…最後まで…っ」  
 「…いいよ」  
 
 上岡は星原の胸の谷間でニヤリと笑いを浮かべる。  
 
 上岡の動きがペースをあげる。星原はすでに数回軽い絶頂に達していたが、上岡の最後を  
感じとりそのペースについていく。  
 
 「はぁん!はぁぁん!!くぁっ!ぁあんっ!!」  
 「百合…そろそろ…イくよっ!」  
 「はい…進君…私の…中にっ…!」  
 「くぅっ!!」  
 「あっ…ふああああぁぁぁぁぁあああああ!!!」  
   
 星原の中で数度上岡のモノが震えたと思うと、熱の塊が体を駆け上がってくる。  
その感覚に星原の意識は吹き飛ばされていった。  
 
 「はぁ…はぁ…はぁ…」  
   
 星原は上岡のひざの上から動けないでいる。二人の結合部からはピンク色にそまった  
精液が零れ落ちていた。  
 
 「…進…君?」  
 「何?百合」  
 「私…あなたが力を使うこと…もう、止めません。ただ…」  
 「…ただ?」  
 「…私を…一番に、愛していてください…」  
 「もちろんだよ、百合」  
 
 口ではそう答えたが、上岡は次の獲物に思いをはせていた。  
 

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