Lの季節  

ああ次の学内新聞どうしようかしらオトシブミの卵の分布域でもいいわねそれともマイマイカブリの生態を詳細に書こうかしら  
そういえばあの柔らかなマイマイがなす術もなく喰らわれてゆく様はとても素敵よねまるで上岡君みたい彼も私に気があるのな  
らあるでもっとガッときたらい  
「失礼します」  
まったくもう一体どういう神経しているのかし  
「あ………あの、天羽さん?………天羽さん!」  
新聞部部室での、天羽碧のトリップ(及び原稿書き)は、クラスメイトの唐突な訪問によって断たれた。  
これからまさに、脳内で上岡を思うさま苛めようとしていた天羽は、目の前に現れた現実に驚きながら、  
「!?………あ………弓倉さん!?」  
と言った。目の前には、普段他人の前で取り乱す事など少ない天羽の見せた、  
珍しいリアクションに面食らった様子の、同級生が立っている。  
訪問者は弓倉亜希子。  
学祭用の「聖遼学園七不思議」の取材を上岡進と共にして以来、なにやら男女として上手いことやっている。  

「あ、天羽さん………ごめんなさい、集中してた所に水を差しちゃったみたいで」  
「い、いえ、かまわないけど、なにか用かしら?」  
と、流石に動揺を隠せないまま答える天羽。  
「う………うん。でも………随分一生懸命だったし、仕事が忙しいのなら後でもいいんだけど」  
「丁度一区切りついた所だから、構わないわよ?なあに?」  
訪問者が現れてから数十秒で、天羽は普段の姿に戻っている。  
その天羽の様子を見、弓倉の表情がほぐれた。  
弓倉の性格上、例え自分にとって重要な事柄であっても、友人の仕事を妨げてまで伝えるわけにはいかなかったのであろう。  
「あ………あのね、か、かみ、上岡君の事なんだけど」  
ほぼ予想通りの発言を受けた天羽は軽く頷いて弓倉の言葉をうながす。  
「う、うん………その、あのね」  
「…………」  
「…………」  
先程の「あのね」以来、弓倉はモジモジとしたまま言葉を続けようとしない。  
………………一分経過。  
相変わらず弓倉はなにか言いたげに俯いている。  
上岡がこんな態度を取ろうものなら10秒と経たずに鋭い突っ込み、もしくは眼光がとび、半強制的に本題に移される所なのだが………  
一時より疎遠になったとはいえ、そこは友人である。  
もしも弓倉にそんな手を使ったならば、オジギソウの様に萎縮させてしまい、用件など聞きだせなくなってしまう。そのことを天羽はよく心得ているのであった。  
さらに辛抱強く待っていると、弓倉が意を決した面持ちで面をあげ、  
「あ、天羽さん、上岡、くんって、どういう人なの?」  
と言った。  
「………は?」  

上岡と『一応』付き合い始めた弓倉。  
普段から二人で行動することも多い。(新聞部の活動時間は別だが)  
週末はデート。  
弓倉の家で食事することもしばしば。  
だがこれ以上に進展は無い。  
一ヶ月近く経つのに、これはおかしいのではなかろうか。  
弓倉の話を要約すると、こうなる。(途中で赤面しては話が止まり、天羽が促すことによって少しずつ話が前に進んでいった)  

………これでは殆どノロケ話である。  
長くなりそうだったので、途中で弓倉にもコーヒーを勧め、両者は対面して座っていた。  
天羽は、  
「私と上岡君はそれ以上の事をしていたのか、って事?」  
と、苦笑しながら言った。  
自分と上岡の関係が色々とまことしやかに噂されていた事くらいは知っている。  
なにせ鵜之杜すらもそう思い込んでいた程であった。  
恐縮した様子ですっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲む弓倉。  
「下らない噂よ。確かに上岡君とは友達かもしれないけど………手も繋いだ事無いわ」  
嘘である。腕まで組んだ。校内で。  
だが、ここで疑う、という事をしないのが弓倉である。  
「そ、そう?………じゃ、じゃあ、ごめんなさい、急に変なこと聞いちゃって。  
 その、やっぱり、失礼だったよね………本当にごめんなさい」  
そう言って席を立とうとする弓倉を、  
「待って、弓倉さん」  
天羽が引き止めた。  
「私も、弓倉さんが積極的に行かないと中々進展しないと思うわ。だって上岡君――だし」  
『上岡君』という部分に妙な間を持たせ、正面から弓倉の目を見据える。  

「………天羽さん、私『も』って………」  
「ええ。多分、東由利さんやさやかちゃんに背中を押されて私の所に来たんでしょう?」  
さも当然の事の様に言う天羽につられ、弓倉は、  
「う、うん」  
と思わずうなずいてしまった。あれほど当人らからは黒幕は明かすなと言い含められていたのに。  
こういったカマかけに長けているのも天羽の『お嬢』たる所以である。  
天羽は弓倉のそういった様子を先程から続いている苦笑と共に眺め、  
「私は、東由利さんたちと比べて自分はどうとか、そんな事は考えても意味が無いと思うんだけど………」  

 

ニ時間後。  
新聞部室内にはキータッチの音が響いていた。  
天羽のそれと比べると、若干テンポの悪いそれの発生源は、上岡進の手元である。  
切りが良い所に達したのか、タン、と強めにリターンキーを叩いて伸びをする上岡。  
窓の外に目を向けると、最早運動部の連中の影も無く、電灯が点いている教室もまばらとなっている。  
僅かに残っているコーヒーを啜り、モニターに貼られていた付箋に目をやる。  

――――――――――――――――――――――――  
上岡君へ  
戸締りお願い  
今号の締め切りが近いから、頑張ってね  
          天羽  
――――――――――――――――――――――――  

「はあ………」  
初見の時のそれよりも、さらに深い深い溜め息をつく上岡。  
大分慣れてきたとはいえ、相変わらず原稿を書くペースは遅く、いつも締め切り間際は独り残業となるのであった。  
今日は取材を行うために校内のあちこちを周ってから部室に向かったので、原稿に取り掛かるのも遅くなってしまった。  
その上、こんな書き置きまで残されて、適当な所で切り上げられる上岡ではない。  
(天羽さんも僕が帰って来るまでくらいなら、待っていてくれてもいいのに)  
などと思い、直後にあの天羽が理由も無く自分を待つ筈が無いという事に気付く。  
また同時に、メモ書きと残業、という組み合わせに妙な既視感も感じた。  
あれはいつの事だったろう………?  
記憶の糸を手繰り寄せようとするも、全く手応えがない。  
上岡自身不思議に思っているのだが、そう遠くない過去の、さらにその一部分の記憶が非常に曖昧である。まるでそこだけフィルターがかけられているかのように。  
そう、己の記憶に対する第三者の関与を漠然とだが感じるのである。  
さらに不思議なのは気味の悪さがあまり感じられない事であった。  
独り部室内で考え込む上岡。  

彼を靄のかかった記憶の中から現実に引き戻したのは、ドアをノックする音だった。  
ハッとして腕時計を見ると、いい加減校門が閉鎖される時間となっていた。  
恐らく用務員か宿直だろうと当りをつける。  
「すいません、もう帰りま――――?」  
言いながらドアを開ける。  
「上岡………君?」  
「亜希子さん?待っていてくれたの?」  
「う、うん。そろそろ帰りかな、と思って」  
最近忙しかった所為で、一緒に下校する事が出来ていなかった。(井之上には随分とどやされた)  
少し照れくさそうに言う弓倉の姿を見、ふとその肩を抱きしめたいという衝動に駆られる。だが上岡の右手は弓倉の頬に添えられるに止まった。  
親指で頬の柔らかな膨らみを、薬指で顎のラインを軽くなぞる。  
突然、黙ってこちらを見据え、頬に触れてきた上岡に面食らいつつ、数秒間身を任せていた弓倉だったが、  
「上岡君………草壁先生が………」  
と小声で言った。  
我に返った上岡が廊下の奥に目をやると、仕事帰りなのか、バッグを片手にした草壁と目が合った。  
戸を開いた時と同じ位置関係でこんなことをしているのだから、無理もない話である。  
ある意味では抱きしめることよりも生々しい行為に及んでいるのだから尚更だった。  
「ご、っご、ごめんっ、じゃあ、ちょっと待ってて」  
言うや否や部室内に飛び退り、慌てて帰り仕度をする上岡。  
慌てながらも几帳面に施錠後のチェックをしている辺りに、彼の成長の跡が窺える。  
戸が開かない事を確認すると、弓倉の手を取って「じゃ、行こうか」とだけ短く言い、意味ありげに笑っている草壁から逃げるようにその場を後にした。  
マグカップを洗えていないのはこの際、大目に見られて然るべきであろう。  

無言で正面玄関まで来る二人。弓倉は少し顔を赤くして、俯いている。  
上岡にあの位触れられた事がない訳ではないのだが、状況が状況である。  
先程の目撃者が、草壁であったことだけが救いだった。  
とりあえずあの場の責は自分にある、と思った上岡は、  
「亜希子さん、さっきは、その、ごめんね、急にあんな………」  
と『現場』の時と重ねて謝った。先程の状況が脳内にフラッシュバックし、頬に熱を感じる。目の前の弓倉と自分がそう変わらない顔色をしていることは、容易に想像できた。  
少し無理のある笑顔を作り「うん」とだけ答える弓倉。  
一拍置いて、  
「あの、上岡君」  
「そうだ、亜希子さん」  
声が重なった。  
「じゃあ、亜希子さんからお願い」  
言ってから珍妙な台詞であることに気付き苦笑する上岡。弓倉も同様だったらしく、クスッと笑い声をもらした。  
お陰で、二人の間の空気が軽くなった様だった。  
弓倉は軽く頷き、  
「上岡君、晩御飯食べた?」  
と言った。  
「いや………まだだけど。そう言えばお腹空いたな………」  
「じゃ、じゃあ、私の家で食べない?」  
弓倉の申し出を断る筈も無く、また願っても無い申し出だったので、  
にべも無く同意する上岡。  

「亜希子さん、じゃ、ちょっと家に連絡だけ入れてくるから待ってて」  
言って、玄関脇の公衆電話で連絡を入れようとする。  
携帯電話を持っておらず、特に不便さも感じることが無かった上岡だが、今日は特別、小銭を漁るのが煩わしく感じられた。  
母には「友人と一緒に晩御飯を食べるから、今日は僕の分は要らない」と伝える。  
母に妙な含み笑いをされ、さらに何事か言おうとしているようだったが、聞こえない事にして電話を一方的に切った。  
この事がもし、井之上にばれようものなら、向こう数週間はそのネタでからかわれるに決まっている。  
頭を軽く振り、まとわりついたその嫌な妄想と、電話口に聞こえた母の含み笑いをかき消す。  
「お待たせ」  
「うん。あ、あと上岡君が言いかけていた事って、なあに?」  
「いや、僕も亜希子さんを食事に誘おうかと思って。喫茶店かファーストフードになっちゃうけどね」  

 

スーパーに寄って買い足しをし、弓倉宅に着く。  
「お邪魔します」  
どうぞ、と上岡からビニール袋を受け取り、台所へ向かう弓倉。  
「何か手伝おうか?」  
「ううん、下ごしらえはもう出来てるから。ゆっくりしていて」  
そんなお約束をしていると、妙に静かな事に気付く。  
いつもなら、こんな会話中には必ずからかって来る人間が一人いるはずなのだが………  
「あれ………さやかちゃん、は?」  
「え?う、うん、今日は友達の家に泊まるって」  
ここで疑うという事をしないのが上岡の上岡たる所以である。  
「へえ………まあ明日は休日だしね」  
と、よくわからないコメントをする。  
(弓倉さんの家で二人きりか………初めてだな………二人きりか………いや、別にやましい事がある訳じゃ、  
いや、無い訳じゃないんだけど、その、まあ、彼女な訳だし)  
制服の上にエプロン、とつくづく王道で攻めてくる弓倉の後ろ姿を見、先が思いやられる上岡であった。  

なにやらギクシャクとしたまま食事は続く。  
((味が、解らない………))  
同時に思う二人。  
「お、美味しい?」  
「うん、こ、この位あっさりしたほうが好みかな」  
と、生クリームたっぷりの料理を口に入れる上岡。これを「あっさり」と評する事ができる筈が無いのだが。  

その妙な空気を引き摺ったまま、食事を終える。  
ソファーに並んで座り、なんとなくつけたテレビの中の、軽薄な芸能人の笑い声も上岡の耳には全く入ってこない。  
食事中からそうだったのだが、どうも弓倉がこちらの様子をチラリチラリと窺っては俯く、  
というのを繰り返しているような気がする………  
(これは………やっぱり『そういう』事なのかな………)  
この空気に耐えるのももう限界となっていた上岡がまさに口を開こうとしたその時、  
「上岡君」  
弓倉に先手を取られた。  
「う、うん?」  
間の抜けた返事しか出来ない上岡。  
弓倉はいつになく真剣な目で上岡を見、否、睨みつけると表現した方が正確か、  
「上岡君」  
「!?」  
妙な迫力に、思わず息をのむ。  
「あき―――」  
最後まで言葉を発する前に、上岡の唇は塞がれた。  

 

そのまま押し倒される形になって10秒………20秒………  
若干息苦しさを覚えた上岡が、顔を横に振って唇を離そうとする―――が、頬に添えられた弓倉の掌がそれを許さなかった。  
(うわっ………)  
おずおずと、といった表現が最もしっくり来る程ゆっくりと、弓倉の舌が上岡の口内に侵入してくる。  
なし崩し的に覚悟を決める事となった上岡は己の舌をそれと絡み合わせようとするが、今一つ呼吸が合わない。  
ぬるん、と口の中で何度もすれ違うように触れ合う舌の感触。  
そのもどかしさが、上岡をより激しい行為へと駆り立てた。  

弓倉の舌を甘噛みする。驚きで弓倉の舌の動きが止まったのが、好都合だった。  
今度は先程の様に性急な動きではなく、ゆっくりとお互いの舌を絡める。  
同時に、重力に任せて流れ込んでくる弓倉の唾液を溜下する。  
「ふ………っう………」  
弓倉の吐息を頬に感じる。  
時々歯があたるが、それすらも湿った音と共に心地よい刺激となって上岡の脳を灼いた。  
深い深い口付けをし、弓倉の唇を貪る事に没頭して数分、  
「ぷあ………っ」  
ようやくお互いの唇が離れた。  

のろのろと上体を起こした上岡と、弓倉は呆………と見詰め合う。  
弓倉を見ると、顎はおろか喉の辺りまで唾液でてらてらと光っている。  
(ブラウス、染みになる前に洗濯したほうがいいんじゃないかな………)  
などとどうでもよい事を上岡が霞のかかった頭で思っていると、弓倉は突然ボロボロと涙をこぼし始めた。  
それに対する驚きによって現実に引き戻された上岡は、  
「あ、亜希子さん!?」  
と言って、咄嗟に彼女の手を握った。………震えている。  
先程まで見せていた、あの積極性は、どう考えても弓倉の自然な姿ではない。  
自分以上に奥手な彼女がどれほどの決意で先程の行為に及んだのかと考えると、上岡の胸は激しく締め付けられた。  
その痛みに耐えかね、上岡は彼女の細い肩を強く抱きしめた。  
上岡の胸に顔を埋め、ふるふると首を横に振る弓倉。  
「恥ずかしいとか、そ、そういうことだけじゃなくて、勝手に、涙が、ちょっと、私が、無理矢理、ビックリしちゃって」  
支離滅裂な事を言っているが、大体言いたいことは上岡に伝わる。  
「僕も驚いたよ」  
顔を上げる弓倉。その視線の先には、照れ隠しもあるのか、弓倉の髪を指先で玩ぶ上岡の姿があった。あまりにいつも通りなその姿に、  
先程までの気負いすぎていた自分自身に、思わず笑いをもらす。  
泣いた鴉がなんとやらと思う上岡だが、どう対処してよいか解らず、とりあえずそのまま弓倉の髪を梳り続けた。  

ようやく笑いがおさまったのか、弓倉は、ふう、と軽く息を吐き、  
「上岡君、喉とか、凄いよ?タオル持って来るね」  
と言って立ち上が――――れない。上岡が腕による縛めを解こうとしないからだ。  
その意外なほど強い力に上岡の男を強く意識する。  
「か、上岡君、拭かないと」  
少し怯えを見せる弓倉の耳に口を寄せ、  
「構わないよ」  
と囁く上岡。  
「え?で、でもっ」  
「ごめん亜希子さん………我慢できないかも」  
言って、弓倉の内腿に腰を押し付ける。  
「駄目?」  
その硬さを感じ、目を丸くしたまま口をつぐむ弓倉。  
ズボン越しに感じられる弓倉の柔らかな腿の感触と、髪から漂う甘い香りに、上岡の理性が蕩かされてゆく。  
己の胸が再び早鐘を打ち始めるのを感じるも、辛抱強く弓倉からの答えを待った。  
「ま、まだ、おっきくなるんだね」  
上岡の劣情は、至ってシンプルな形で弓倉にも伝わる。  
言ってから自分が何についてコメントしたのかに気付き、弓倉の頭の中をぐるぐると意味不明な思考が駆け巡る。  
助けを求めるように上岡の顔を窺うも、  
彼も返す言葉が見つからないようでただ困ったように苦笑を浮かべるだけだった。  
「ずるいよぉ、上岡君………そんな顔されたら断れない………」  
その笑みによって落ち着きを取り戻す自分を少しばかり恨みつつ、上岡の胸に体重をあずける。  

「ずるい?」  
言いながら目の前に持ってきた、弓倉の髪の一房に口づける。いつか教室で嗅いだ、あの香りがこんなにも間近にあるという事実に、妙な達成感を感じる。  
そのまま唇を下方へ滑らせ、喉の高さで脱線、汗ばんだうなじを舐め上げる。  
「ひゃ!?」  
急に神経の通った部分に舌を這わされ、弓倉が驚きの声をあげる。  
その声に気をよくしたのか、そのまま弓倉の髪をかきあげ、上へと舌を這わせ続ける上岡。  
「んくっ………く………う………」  
背筋に怖気にも似た感覚が走り、シャツに覆われた弓倉の二の腕が粟立つ。上岡の舌はついに耳にまで達し、その裏を何度も舐め上げ始めた。  
その度に低く声をもらし続ける弓倉は、今や全身の力が抜け、くたっ、と上岡に体をよりかけている。  
「亜希子さん………」  
目の前にある耳へと囁きつつ、今度は上岡が弓倉を押し倒す形になる。その余りの軽さと抵抗の無さから、弓倉がひどく儚い、脆いものの様に感じられた。  

いたわるように、シャツ越しの二つのふくらみに触れる。  
「ん………ふぁ」  
とくとくとく、とフル回転しているであろう心臓の鼓動が下着越しに感じられる。  
その暖かさと柔らかさに直に触れたくなり、ブラウスのボタンを少しばかり震える手で外してゆく。  
ようやく、と言っていいほど時間をかけて、白いシンプルな下着に包まれたそれが上岡の目の前にさらされた――――――が、  
(外し方がわからない………)  
途方にくれる上岡の目の前で、軽い音と共にフロントのホックが外された。  
「「あ」」  
目が合う。  
コクン、と頷いた弓倉の視線から逃れるように、妙な気恥ずかしさをごまかすように、上岡は弓倉の胸に被さっているだけになった下着を取り除き、完全に胸を外気にさらす。  
未成熟な感じが残ってはいるものの、否、残っているからこそ、桜色の小さな先端と共に上岡の眼を捕らえて放さない。気取られぬように生唾を飲む上岡。  

「上岡君………」  
自分の胸を凝視したきり動きを止めてしまった上岡に、不安げな声がかけられる。  
「あ、ご、ごめん、その、綺麗だったから、つい」  
「綺麗………?そっか………良かった………あんまり大きくないから、気に入らなかったのかなって」  
別に生唾の事で声をかけて来たのではないという事に今更気付く。  
「綺麗、だよ」  
言って、控えめな大きさのそれを、両手で包み込む。しっとりと掌に吸い付いてくるようなその肌を堪能する。円を描くようにふにふにと玩んだ後、片手を胸に残し、鎖骨に舌を這わせる。  
「くっ?か、上岡君って………ふうっ、なんか、な、慣れてる、ね」  
その問いには答えず、舌をつう、と胸まで滑らせる。先端を舌で一度舐め、直後に軽く前歯を引っ掛けて擦る。  
「い゛っ………うあぁ………っ」  
急に硬いものを当てられて驚いた弓倉だが、与えられる快感の波にその驚きも押し流されてしまう。舌先で胸全体をくすぐられ、歯を軽く立てられる度に抑えきれず声をもらした。  
胸全体が唾液でてらてらになり、乳首がツンと天井を向いた頃には、弓倉は四肢をぐったりと脱力させ、その息も絶え絶えとなっていた。  

「慣れてなんかないよ………今だって、ほら」  
そう言って、弓倉の手が握られ、上岡の胸に導かれる。弓倉と同じ位か、あるいはさらに早い、胸の鼓動が伝わってくる。  

「………っ………なんか………大丈夫?」  
焦点の合わない瞳を上岡に向ける。ぼんやりとぼやけた視界にも、上岡がいつもの少し困ったような表情を浮かべているのが判った。  
そんな瞳で見つめられ、さらに微笑んですらいる弓倉のその表情の艶めかしさに、上岡の鼓動は更に早くなりそうだった。  
「あ………早くなった」  
バレていた。  
なんとなく敗北感を味わいつつ、弓倉の唇を塞ぐ上岡。今度は何のためらいもなく、両者の舌が絡み合い、唾液を交換しあう。  
流し込めば流し込んだだけコクコクと飲み下す弓倉。  
(可愛い………)  
口に出せる状況でないのが悔やまれた。  

 

スカートを(弓倉の手を借りて)脱がせる。キスをしながらであるため、上岡は、淡い茂みと、弓倉自身が薄く透けてしまっているショーツの有り様を見ることが出来ない。  
左手で弓倉の髪を梳り、空いた手で弓倉の内腿を撫でまわす。付け根に近い部分は、最早愛液でベトついてしまっていた。  
上岡が動きを止め、トロリとした体液にまみれた自分の右手に目をやると、弓倉は恥ずかしさの余り唇をはなしてしまった。  
薄く涙すら浮かべ、上岡から目をそらす弓倉。  
上岡は今にもこぼれそうなその涙を舐めとり、頬に軽くキスをした。  
「脱がす、よ?」  

返事が無いのをいいことに、湿り気でピタリとくっついてしまっているショーツを脱がす、というよりは剥がす。  
弓倉の最も大切な部分が、上岡の目の前にさらされた  
「っ!」  
―――――が、弓倉のあげた小さな悲鳴と共にすぐに腿が閉じられてしまう。  
「亜希子さん………」  
この期に及んで躊躇するその姿が可愛らしく感じられる反面、もどかしくもあった。  
「怖い?」  
上岡の言葉に対し、意を決したような表情を浮かべ、弓倉は腿をゆっくりと開いていった。  
再び上岡の眼前にさらされる。戯れに息を吹きかけると、  
「ぁ………っ」  
弓倉の声と共に、ひくん、と敏感に反応した。その様に息をのみつつ、今度はその閉じられた肉に舌を這わせる。  
「ん゛っ………う………あぁぁぁっ………」  
弓倉の味が上岡の脳髄を痺れさせた。  

愛液を啜ってからスイッチが入ったように、上岡の愛撫は激しいものとなる。口全体で弓倉を含み、舌先で萌芽を探り出す。  
「んぅっ!くぁ……っ、やぁあ………ぁぁ」  
ビクビクと暴れる弓倉の腰を両手で固定し、ひたすら貪りつづける。  
さんざ苛めた後、口を離し、痛い程に屹立した己自身をズボンから解放する上岡。  
「あっ」  
それを見て、放心状態だった弓倉が絶句する。  
その表情のお陰でギリギリの所で踏みとどまる上岡。  
ややあって、先に口を開いたのは、弓倉の方であった。  
「なんか………凄い形してるね………」  
言って、上岡の股間を凝視する。純粋に興味からくるもののようだった。  
自分がしていた事をやり返される事になり、弓倉の羞恥心まで返されているような気分になる。  

突然、つう、と弓倉に撫で上げられる。  
「「うゎ!?」」  
二人の声が重なった。  
「な、なんか、ビクン、って………」  
目を丸くし、なおしげしげと見つめ続ける弓倉。  
無邪気さすら感じさせるその様がなんとも愛おしく、上岡の我慢ももう限界に達した。  
「その………亜希子さん、入れるよ?」  
「うっ………うん………上岡君………」  
訴えかけるような視線を受け、上岡は弓倉の頬に軽くキスをし、先端を弓倉の入り口にあてがう。  
徐々に体重をかけてゆくと、軽い水音を立てて弓倉の体内に飲み込まれていった。  
「う゛っ………いっ………うあぁ………あ………」  
根元まで飲み込まれる。全体を熱い肉でさわさわと揉みしだかれ、危うく達してしまいそうになる。快楽に必死に耐える上岡。  
「………私なら、意外と、大丈夫………くっ、みたい、だから………」  
じっとしている上岡の意図を好意的に解釈した弓倉が声をかける。  
深呼吸を数回行って、ようやく落ち着いたらしい上岡が、ゆっくりと腰を前後させ始めた。  

「はっ………はぁっ………」  
弓倉の呼吸に合わせて蠢く内部、突かれる度に揺れる胸のふくらみ、眉を寄せてこらえる表情、それらの全てが上岡を責め苛む。  
それまでじっと閉じられていた弓倉の瞳が開き、上岡に向けられる。  
「上岡君………き、気持ちいい?」  
あまり答える余裕など無いのだが、どうにか軽く頷くことによって答える上岡。  

「そう………よかった」  
その優しげな声と、安堵で微笑を浮かべる弓倉を見て、上岡はついに限界に達した。  
「亜希子さん、ごめん、もう………」  
すんでの所で内部から引き抜く。  
弓倉の腹部に、迸った大量の精液が浴びせかけられる。  
「すごい………熱い、ね」  
最後の一滴まで吐き出し、息を荒げる上岡を見て、弓倉は更に満足げな笑みを浮かべた。  

 
 

翌朝。  
「ごめんね、亜希子さん、なんだか僕だけ気持ちよくなっちゃって………」  
「う、ううん、私こそ、最初、強引に………それに、その、最後の方とかは、痛いだけじゃなかったし」  
「亜希子さん………」  
「あ………」  
二人の身体が再び接近し――――――ドアが開いた。  
「お姉ちゃん、上岡さん、ただい………ま………?」  
「さ、さやか!?」  
「さやかちゃん!?」  

 
 

弓倉さやか、後述す――――  
自分が荷担した事とはいえ、まさか一気に最後までいっちゃうとは思わなかったです。  
あとソファー洗ってください。  

おわり。  

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