彼はひどく酔っていた。どこで誰と飲んでいたのか。着いて行きたいと頼み込んだのだが、置いて行かれてしまった。  
 そして戻ってきた途端に、倒れこむように眠ってしまった。  
(独りで帰りを待つだけ時間がどれだけ長くて不安か、知らないんだろうな…)  
 きっと、女と飲んでいたに違いない。何故かそう確信があった。被害妄想かも知れないが、置いていかれたのが悔しくて。  
 そう思い始めたら止まらない。  
(…ダメダメ、泣きそうになって来た…)  
 その時、隣で泥酔している男が呻くようにつぶやいた。  
「…ココウェット、…水………」  
 すぐに水を取りに飛んで行きそうになったが、思いとどまった。  
「自分でとってくればッ?」  
「な……」  
「アタシの事置いてっちゃうグレイアーツ君なんて嫌い!」  
「……は…何怒ってんだよ、お前」  
「〜〜〜〜………っ」  
 半分泣きそうな顔で、こちらを睨んでいる。  
「…?」  
「どぉーせ、アタシの胸はぺったんこですよーっだ!!」  
「は?」  
「アタシの胸じゃアレもコレもナニもはさめないし!」  
「……あぁ、あ話か…。何、根に持ってるワケ?お前」  
 いまだに意識が飛びかけている頭を抑えながら、だるい体を起こした。  
「知らない!」  
「……、やろうと思えばお前の乳でも出来るカモ…。ホラ、やってる最中って興奮して20%増量らしいし?」  
 (酔っている割には)真顔なあたり、本人からすれば最大限のフォローだったようだ。  
「………ばか。」  
 何か悔しくてつぶやいてみたが、泥酔者には届かなかったらしい。  
「それより今は…水を……」  
「……もう、しょーがないんだからッ」  
 口をとがらせたまま、しぶしぶ水を取りに行く。結局、心配なのは変わりない。  
 
 
水をくんで戻ると、起きているだけで辛かったのか彼は再び横になっていた。  
「グレイアーツ君、大丈夫?お水持ってきたよー」  
 体を起こすのを手伝い、水を飲ませる。そして少し水の残ったコップを片付けに戻ろうとした、瞬間。  
「―――――きゃっ!」  
 壁に押し付けられ、後ろから腕を回される。口を開こうとした瞬間には、彼の唇によって塞がれていた。  
 その少々無理な体勢のまま、彼の片手が服の中に滑り込んで来た。  
「や…、ちょっ、…グレイアーツ君ッ!?」  
「ン、一応掴めんじゃん」  
「……!!」  
 顔を紅潮させるココウェットを尻目に、ごそごそと、上着のボタンを外して行く。上着は、音を立てて床に落ちる。  
「あ…あんまり見ないで?」  
「何で?超キレーなのに」  
 嬉しいような、恥ずかしいような。もどかしい気持ちを表す言葉を見つけられず、更に顔を赤くしてうつむいた。  
「やわらけぇ」  
「硬かったら怖いよ…」  
 諦めたというか、何だかもう、どうでも良くなってきた。彼なりに慰めてくれているんだろう。素直にそれを喜ぼうと思った。  
 不意に、耳に舌が這った。  
「あ…!」  
 思わず声が出てしまった。自分のものとは思えない声に驚き、慌てて手で口を塞いだ。  
「口塞ぐなって」  
 手をどかすと、今度は深く口付ける。その間も胸に回した手の動きは休めない。頂点に指がかかる。  
「ん、んんぅ……っ、…」  
 だんだん抑えられなくなる。呼吸が荒くなって来るにつれて、巧く舌を絡める事も出来なくなる。  
 胸にかけた手を、ゆっくりと下にずらす。ココウェットの細いベルトを外すと、下着に手を入れた。  
「何かもーグチャグチャなんだけど」  
 
指一本を訳なく飲み込んで行く。  
「あぁ……!」  
 軽くかきまわしているだけで、蜜が溢れてくる。蕾を擦りあげると、ビクリと体を震わせた。  
「あ、あぁ…ん…、あ、……んんっ…」  
 痛くはないものの、異物感が苦しい。中を広げられる感触に、思わず顔をしかめる。  
 指を引き抜かれると、ドロリと液が溢れた気がした。  
「―――そろそろ20%増量、OK?」  
「えっ…!?」  
「試すんじゃねーの?」  
「そんな事言ってないよぉ!―――ていうかムリムリ!絶対ムリ!!」  
「やってみなきゃわかんねっつの。第一言い出したのお前だろー?」  
 
 
 
「――――ホラホラ、やっぱり無理だってェ!」  
「いいじゃねーの、やるだけやってみ。出来るって」  
「ていうか恥ずかしいー!!…何かバカみたいだよ…」  
 ここにきて急に、羞恥心が増して来た。必死で胸を寄せあげる自分の姿を想像すると、笑えない程惨めに思えた。涙目でグレイアーツを見上げる。  
「(主に上目遣いが)ジューブン可愛いから気にすんなっての」  
「じゃぁ…ちょっとだけだよ?」  
 意を決したようで、小さな胸でソレをはさみこむ。気になるらしく、チラチラと顔色を伺っているが、目が合うと顔を真っ赤にしてうつむいた。  
「大丈夫、出来てるから」  
「わっ、笑わないで…」  
 摩擦される感触こそ乏しいが、自分の脚の間で必死にそんな行為を行う姿が、可愛かった。鼓動が早いのが伝わってくる。  
「もーいいよ、疲れただろ。出来るってわかったワケだし」  
 細い体を抱き起こすと、褒美を与える様にキスをした。顔を離すと、スグに照れて抱きついて来た。  
 何も言葉を交わさないまま組み伏せて残る衣服をはぎとったが、恥ずかしそうに視線を逸らすだけで何も言わなかった。  
 一度軽く口付けてから、首筋に下を這わせた。もう羞恥心も薄れてきたのか、胸を弄ると抑える事なく声をあげる。  
「んんッ…!あ、ぁ、あぁ…んっ!」  
 頭が真っ白になりつつある中、時たま戻ってくる一欠けらの理性を振り絞り、脚を閉じた。  
 ここだけは絶対に見られたくない、恥ずかしい。その一心で。  
 それでも、簡単にこじ開けられてしまう。予想通り指が進入してくる。  
 
「あぁぁ…!」  
 先ほどとは違って、激しく抜き差しする。ガクガクと脚が震え、心臓は破裂しそうだった。少しして彼は大丈夫と判断したのか、指を増やした。  
「あ、あぁ…イタっ…」  
「痛い?…コレで痛かったら本番入んねェぞ?」  
「ぅ、うう…大丈夫……って、グレイアーツ君なにして…!!?」  
 つい今まで2本指が入っていた場所に、彼は顔をうずめていた。  
「この方が多分効率的」  
「や……」  
 息遣いすらも伝わってくる。彼の頭に手をかけ、無理やりにも引き剥がそうとした瞬間。  
「あぁっ!」  
 蕾に舌が這う。  
「あっ、あ…あっ、んッ!ああんッ!」  
 頭から手を離すのも忘れ、ひたすら快楽に喘いだ。信じられない所に顔をうずめる彼も彼だが、そんな行為に感じてしまっている自分もまた信じられない。  
(恥ずかしいのに…)  
「き…、キモチイイよぉ……!」  
 初めて、素直にそう思えた。下半身の刺激に、羞恥心も何もかもが吹き飛びそうだった。  
 大切なのはその刺激を与えてくれている人が、彼だという事。何故こんな事をされて嬉しいのかわからないが、とにかく嬉しかった。  
「んん、あっ、ぁっ…」  
 舌は次第に位置を変え、中にまで入って来た。ひとしきり舐め終えると、再び指が進入してきた。先ほど以上に濡れているのか、今度は2本入れても痛いとは感じなかった。  
「―――? …ふ、ふえぇ…ぐちょぐちょいってる…!?」  
 慣らすようにゆっくりと出し入れしていた指の動きを早めるにつれ、粘着質な音が自分の耳に届いた。  
 反射的に体をよじって脚を閉じようとしたが、彼の方が一瞬早かった。空いたもう片方の腕で、押さえつけられてしまう。  
「……もう大丈夫だよな…」  
 しばらくしてから放たれたその言葉は、ココウェットには届かなかったらしい。必死で呼吸をととのえようとしている。  
 彼は重ねるように体の位置を変えた。  
 グチャグチャになったソコに、『何か』が当たったのを、感じた。  
「――――――――グレイアーツ君――…!!」  
 それが『何なのか』を悟った時には、激痛に貫かれていた。  
「ああああぁぁあぁっっ!!!」  
 
 声にならない声で鳴いた。痛みを伝えようと口を動かすが、あまりの痛みに言葉が出ない。自分の意思とは関係なく、涙が溢れて来る。無意識に彼にしがみついた。  
「ィ……」  
(…狭いな……)  
「痛いか?」  
「うん…」  
「無理そうか?まだ先しか入ってねーんだけど…」  
「ん……大丈夫…、グレイアーツ君のためなら、頑張れるから」  
「そうか。じゃあもうちっとばかし耐えてくれよ」  
 ゆっくりと、深く、腰を沈める。  
「ん……」  
 冷静にしていれば、耐えられない程の痛みではない。少しでも気を紛らわそうと、自分から唇を求めに行った。  
「ん…ふ、…あぁ…」  
「全部入った…」  
「…ホント?」  
「マジ。 …コレもある意味、同契だよなァ」  
「……ばか。」  
「バカはねーだろ。―――このまま止まってんの限界、動くぞ」  
「ん…」  
 強く揺さぶられると、あの痛みが蘇って来た。  
「あぁ、やっ!んんっ…、あぁ…ぁ…!」  
(お腹の中が熱い…)  
 そう感じた次の瞬間、彼はソレを引き抜くと、自分の上に倒れこんできた。  
「…グレイアーツ君…?」  
 静かな寝息が聞こえてきた。  
「………コレじゃただの酔っ払いじゃん」  
 
 
 
 少し悔しい気もしたが、それでも嬉しかった。幸せだった。  
 彼の特別になれた気がして。今まで知らなかった一面を知れて。  
 最初に抱いていた不安なんて、吹き飛んでしまう。  
 子供のような顔で眠る彼を抱き締めかえし、自分もゆっくりと目を閉じた。  
 
 
 
 

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