−Cheese Cake−
二十七歳の女は、二歳になった娘をようやく寝かしつけ、栗色のロングヘアを椅子の背に垂らしながら夫を待っていた。
彼女はリビングの壁に掛けられた古時計を眺めている。二時二十七分。針が狂っているような気がしてくる。
進んでいるのか遅れているのか分からない。程度も分からない。五分か、一時間か、十時間か――しかし、とにかく、狂っている。
やがて、チャイムがなる。長い残業を終えた夫は、疲れているだろうに、ちっともそんな素振りを見せずに、ただいまと言う。
彼は子供部屋へ入って、娘の無事を確かめたあと、一服してから、シャワーを浴びる。
そしてタオルも腰に巻かずに、全てのしがらみを捨て去った姿でやってくる。眼が光っている。
毛深い腕が伸びてくる。尻をテーブルの上へ持ち上げられ、待って、と言うのに、そのまま身体をまさぐられる。
その時には彼女はもう裸になっている。乳房が張っている。下からすくい上げるように揉みしだかれる。
何も考えずに煙草に手をやるように、人差し指と中指でそっと乳首を挟まれる。
節の部分で摺りあわされて、回されて、弾かれて、赤く膨れて棗(なつめ)のようになる。
母乳は止まってしまったのに、唇でねぶられる。舌で転がされる。音が出るくらい吸われる。
うなじに手の平が触れる。暖かい。唇が迫ってくる。べったり張りつく。
舌と舌がねっとり抱き合う。口の中で溶けてゆく。身体に力が入らなくなる。
アケビの実のような性器へ手が伸びてくる。薄灰色のアナルに近い場所から、上へ、恥丘の辺りまで撫ぜられる。
指が一本入ってくる。彼女が望む速さで抜き差しされる。そうして、と思うタイミングで、肉を擦ってくれる。
息が荒くなる。口から湯気が出ているようになる。喋れない。でも声は出る。呻く。
ソファの上、窓の傍、床に手をつき、持ち上げられ、押さえつけられ、優しくされ、激しくされ、何度も責められる。
様々な体位で。あらゆる角度で。
どこまでも幽邃(ゆうすい)な世界で、意識が紫色の泥濘に沈んでゆく。その中で、ゆっくり、ゆすがれている。
彼女は何度も夫の名を呼ぶ。しかし、返事はない。何一つ言ってくれない。叫ぶ。どうして、どうして!?
その言葉を無言の突きが解体してゆく。
アクメが無条件に彼女を捕まえに来る。思考と呼べるものを根こそぎ奪い取る。
最後には寝室にいる。柔軟体操をするように裸身をくねらせて、湿った瞳で瞬きしている。そして、もう気づきかけている。
気づきかけている。
突然、電話が鳴る。夫がベッドから降りる。その時には、もう分かっている。
分かっている。
取らないで!と叫ぶ。ここにいて!お願い!
しかし彼には何も届かない。マジックミラーで空間がしっかり隔絶されているように。
受話器を耳に押し当て、顔面蒼白となり、何も言わずに、妻を残して、部屋から出て行く。
何処に行くのか、彼女は何故か知っている。
知っている。
何が起こるのか、結末までちゃんと、理解している。
理解している。
待って!と叫ぶ頃には額や目尻に深い皺が入り、プラチナの結婚指輪が指に食い込んでいる。
頬に染みが浮かんでいる。アルコールに姦(や)られた眼をしている。
乳房が垂れている。髪が短くなり乾いている。歯の裏に磨き残したヤニがこびりついている。
もう愛する夫は消え失せている。一原子すら存在しない。永遠に帰ってこない気がする。
それでも彼女は手を伸ばす。しかしその先には十七歳になった娘が立っている。
若き日の彼女よりも遥かに男を扇情するであろう裸体を晒して、蔑んだ眼で、
「醜い」
マージは悲鳴を挙げる。眼を開くと、寝室に一人、夢と同じように手を伸ばしている。
四十台の身体が汗ばんでいる。処理を忘れた陰毛がくたっている。
あの夜、彼女も結局は追いかけた。そして何かが決定的に歪んだ。歪みは性生活にダイレクトに影響した。
回数が徐々に減っていき、週に二回が一回になり、それが一月に二回になり、
何か特別な日でないとなあ、そうか独立記念日だったな、とでも言わんばかりに、数ヶ月に一回になった。
挿入を待ちくたびれて、すっかりたるんだ性器が、スコールが通り過ぎた跡のようになっている。
悪夢と気づいて脱力する間もなく、孤独が全身を覆いつくした。ただ、惨めだった。
マージが悲鳴を挙げる少し前、ナンシーは目を覚ました。肩から背中にかけて重みを感じる。
乗っかっている物が男の腕だと気づくのに時間はかからなかった。微かな寝息がばらけた髪に伝わる。
見上げると、グレンの顔がある。余分な力がどこにもかかっていない自然体の極致とも言えるその表情は、
無心を表現しているのか、幸福を表現しているのか、人間の素晴らしさを表現しているのか、あるいはそれら全てかもしれない。
寝惚け眼をこすって、上目遣いで眺めてみる。見ているだけでなんだかいいことがありそうな気がしてくる。
グレンは口を閉じたまま語りかけてくる。大丈夫、君が決めたことなら、必ず、できる。
ナンシーはゆっくり頷いたあと、ほとほと呆れてしまう。あなたってどうしてこんな風なのかしら?
あんまり完成されているので、そっと右手を伸ばして、締まった下唇を人差し指でぺろんとめくってみる。
幼年期に装着していた歯列矯正器の賜物だろうか、一列横隊――止まれ、敬礼!真っ白い歯が見える。
高い鼻先をそっとつついて、ついには横からつまんでみたりする。
当然呼吸が億劫になり、眉間が狭まる。しかしその皺すらも何処か洗練されている。
むっとして、両の目尻に指を当ててやんわり押し広げてみる。自分以外、誰も知らないのだろう、グレンのこんな面白い顔。
悪戯を終えて、こっそり微笑む。「ごめんなさいね」つぶやいて、ベッドから出た。
散乱している文庫本やハードカバーを拾い集め(心の中でサン・テグ・ジュペリに謝りながら)
作家別にきちんと片付け終わると、グレンが目を覚まし、横向きの姿勢で大きく欠伸をしながら背伸びしている。
伸ばした手が、こつんと当たり、それが自ら贈ったセンス抜群の目覚まし時計だと気づくと、なにやら難しい顔をして、うーん、と唸った。
「やばい」
「どうしたの?」
「戻らないと。だいたいいつも七時半には起きてるんだけど、降りてこないと八時にママが起こしに来る」
「ふうん」空々しい声になった。「今……七時五十七分。もう間に合わないわよ」
「一応、部屋に鍵はかけてあるけど、かけてあるだけでも怒るし、あの分だと壊しかねないな」
「いいじゃない。鍵の一つや二つ壊れたって」
「そういう問題じゃない」
グレンがすばやくキスしたあと、ナンシーはまだ身体の調子が悪いし、他の人の目が気になるから、学校を休む、と伝えた。
これまたすばやく頷いて、彼は窓から撤退を開始した。足元がおぼつかないのに、手を振ることも忘れなかった。
躊躇せず、屋根から猫のように庭の芝生へ飛び降りて、タッチダウンを決める時のように全速力で道路を横切って、
ロッククライミングをするように屋根の端にぶら下がって――ナンシーは溜息をついて、ぽつりと毒づいた。「マザコン」
瞬く間にがらんとしてしまった部屋が、休息の終わりを告げていた。ナンシーは頬を両手でぱんぱんと叩いた。
リビングへ降りて、マージに学校を休むと伝えた。そう、返事はそれだけだった。
九時頃、二人で少し遅めの朝食を取っている間、父が帰ってきたか、何か言ってなかったかを訊ねた。
やはり父がまだ警察署にいるならば、担当官である以上ロッドに会うのは至難の業に思えた。
もちろん面会する権利はある。だけどそんなものは父の前ではホロコーストに収容されたユダヤ人の人権と同程度の価値しかない。
ナンシーは少し考えて、マージに事件の内容について父が何か話していなかったか、と訊いてみた。
母はロッドと面識があるし、そう悪い印象を抱いているとは思えなかったので、こちらの心情も理解してくれるはずだと踏んだ。
しかし、もちろんトンプソンがおいそれと捜査内容を喋るはずもなく、手がかりは得られなかった。
いっそ電話をかけて確かめてみようかと思ったが、昨日の今日なので、もしいれば、何を言われるか分かったものではない。
必ず口論で始まり口論で終わるだろうし、こう言った企みだけは、一言、二言、質問を投げかけるだけで、父は瞬時に見抜く。
八方ふさがりだ。
十時頃、電話が鳴った。マージは朝食を取ったあと、着替えもせずに、ソファにねっころがっていた。
何を考えているのか分からない眼をしている。そのままの眼で、ふらふら歩いて受話器を取った。
ナンシーはその様子を遠目に見ていたが、一言二言の会話を待たずに父からの電話だと理解できた。
第一声を聴いたであろう時の反応で分かる。疲れ切った表情になって、声がやけに重たい。
受話器が元の位置に戻されたあと、分かりきっていることをわざと訊ねた。「パパから?」
そうよ、とマージが答えて、昼の間は警察署を出ているから、何かあったら署にいるアレックスに頼む、
とトンプソンが言い残したことを告げた。今しかない――ナンシーは部屋に戻って大急ぎで支度を始めた。
十一時頃には、あらかた、と言ってもそんなに量はないけれど、伝えるべきことを整理できていた。
今習っている学科の本を借りに図書館へ行くと告げて、ナンシーは家を出た。
お願いだから行かないで、というマージの制止を振り切って。
泣きそうになっているのを見て、ナンシーは心底母を軽蔑した。父の赦しがないと何もできないのだと。
警察署と家はそう離れたところにはない。学校より少し遠いくらいで、自転車で十分もあればついてしまう。
まだ股の傷が痛むかもしれない、と思ったが、負けてたまるかという克己心と、計画上必要だったので乗っていくことにした。
フーパー通りを抜けて「ヴァーバのかつら屋」を右へ曲がり、道なりに蛇行しながら漕ぎ続ける。車はほとんど通っていない。
道を歩いている人も少ない。人口で言えばそれほど過疎な街ではないのだが、エルムの中流住宅地に限ってはいつもこんな風だ。
一戸建てに変わりばえしない庭が並び、普段から住人同士の横のつながりが希薄でひっそりしている。
かと思えば聖誕祭やハロウインなどでは、商店街が人でごった返すし、馬鹿騒ぎや、時には強盗傷害事件が起こる。
ランニングシャツを汗でべたつかせた痩せ型の男を追い越していく。すうすう、はっはっ、息遣いが聴こえる。
通り過ぎる瞬間に、男の汗の匂いを嗅いで、身体がびくっと震えたが、すぐにそれが何だと自分を奮いたたせる。
警察署が見えてきた。エルム市警は地下一階が留置所となっており、
何重にも鉄柵で囲まれた小さな窓が八つ、芝生の上から顔を出している。自転車を停めて、まずは屈んで、探してみる。
左側から順に見ていって、一番最後の窓から、広い肩幅、黒皮のジャンバーを着た男がベッドに腰掛けているのが見えた。
背を向けているので顔は判別できないが、十分だ。ついてる、ナンシーは心の中でつぶやいた。
署内へ入り、アレックスを探した。子供の頃から、たまに出入りしているのでナンシーを知っている職員も多い。
その中でも、あの日、自ら申し出てパトカーで送ってくれたアレックスはナンシーに好意的だった。
彼はナンシーが五歳の頃、ロニータウンの交通課からエルム市警の刑事課に異動を申し渡され、それからトンプソンと親交があった。
トンプソンが自宅に招待する数少ない男だった。言葉遣いが丁寧で、折り目正しい雰囲気を備えている。
歳はトンプソンより四つ上だが、年齢差よりもずっと老けているように見える。
これまでずっと独り者らしく、弟はサイゴンで戦死して、父が脳溢血で斃れた後、母はガンで若くして亡くなったらしい。
バーボンをやりながら、二人が時々神妙な顔つきで話し合っているのをナンシーは幼心に覚えている。
決まって物陰からこっそり見ているだけだったが、それが終わると、彼はときどき興味深い話を聴かせてくれた。
完全な自作なのか元があるのか定かではないが、とにかく彼は優秀なストーリーテラーだった。
落ち着いた雰囲気と柔らかい物腰は子供の警戒心を解くのに十分なものだったし、話の内容は二転三転して工夫がなされていた。
簡単な言葉を使いながら、独特の語り口調で、じんわり後に残るものがあった。
まだ幼いナンシーが「アレックスがテレビに出てお話してくれたら、私それずっと見ちゃうわよ」と言った時、
彼は一度大きく笑ったものだ。そして次に来た時は、テレビを題材にして面白い話をした。
祖父から貰い受けた蔵書が既にあったとは言え、そういった話がナンシーを本の世界へ導くことになったのは否定しようがない。
初めの内はそうやって二ヶ月に一度くらいは会うことができたのだが、時は流れ、
トンプソンが捜査手腕を評価され、明晰な頭脳から昇進を重ねていく中、彼はずっと巡査のままで、
部下の手前、特定の人物と慣れなれしくするわけにもいくまいと、自宅へ招待する回数は減っていったが、
それでも彼はナンシーを忘れることはなく、たまに道端でばったり会えば、きちんと笑顔で挨拶した。
父が彼に心を許したのは、歳が或程度近いということもあったろうが、
彼の人間性に負うところが大きかったのではないか、とナンシーは推察していた。
ナンシーは中をぐるりと見回した。ちょうど入って近いところ、
アレックスはデスクに向かってなにやらコンピューターらしきものをいじくっている。
とても眠そうだ。元々眼が細い方だが、今は閉じているのか開いているのか分からない。ナンシーは彼の前まで回って、手を振ってみた。
アレックスがおやと首をかしげ、データを保存した上で、立ち上がってやってきた。どっこらしょ、という立ち上がり方だった。
「お仕事中にごめんなさい」
「警部補ならおりませんよ。今出てます。しかしお嬢さん、学校は?」
「具合悪くて、休んでるの」
「確かにあんなことがあった後です。無理もないですが、ならお家でゆっくり休んでいないと。それで、どうかしたんです?」
ナンシーは率直に言うことにした。それでまず反応を確かめてやろう。
「面会したいの。ロッド・レーンに」
アレックスは下を向き、眼をぱちぱちさせた。
「警部補に怒られちゃいますよ。いや別に止められちゃいませんけどね」
「じゃあいいじゃない」
「いやね、あなたが会いにくることなんて、想像もしてないと思いますよ。ずっと怒ってましたよ、あれから」
「どんな風に?」
「あの野郎、娘に何かしてやがったらただじゃおかんぞと。ぶつぶつ言ってましたから。
皆こわごわですね。いつもは冷静なんですけどねえ、あの人――いや、失礼、警部補も」
ナンシーはロッドがひどいことをされているのではないかと心配になった。骨の一つや二つ、はずみで折ったっておかしくない。
「パパならいいって言ってた」
「あーあーあー、嘘はついちゃいけません。嘘をついたせいで」
「マッケインは、全てを失い、さめざめ泣いた」
「そう、よく覚えてる」
「昔、家に来た時、話してくれた。嘘をつくと――」
「嘘を守るために嘘を重ねる。積み重なった嘘が自分をすり減らす。周りを傷つける。だから嘘はいけません。
嘘をつくのも人間だけ。ねずみのクーピーは嘘をつきません」
「……その通りだと思う」
ナンシーの頭にグレンの顔が浮かんだ。いつかは話さなければならない。自分が犯されたこと。
「どうか、しましたか」
「ううん、ごめんなさい」
「実を言いますとね。昨日凄く機嫌悪かったのでね。いやもうここ最近ずっとですね。
お家の方では大丈夫ですか?私ごときが心配するのも何ですけれど」
ナンシーは怒っている父を思い浮かべた。そうするのは簡単だった。だいたいいつもかりかりしているのだから。
はっきり言って、昨日のことはまだ許してはいない。警察官という職業柄、仕方ないとは分かっているけれど、
それにしたって言い様がある。昔のように、アレックスが家に来てくれた時のようになってくれたらどんなにいいだろう。
あの時は厳格ではあったが、優しかった。気遣いがあった。ナンシーは久しぶりにアレックスと会うといつもそんな気分になる。
「怒ってたんだ。年甲斐もなく」
「取調べ室からでてきて、もう凄かったですよ。いらいらしてると」
「耳たぶを触る。ひっかく。それでも収まらない時はひっぱる」
「ひっぱってましたよ。耳が伸びて象みたいになっちゃうんじゃないかと思いましたよ。あ、言わないでくださいね」
「言わないわよ、でもその代わり」
「だめです」
「じゃあ言っちゃうわよ。アレックスがパパのこと頭の禿げたダンボみたいだって言ってたって」
「脅迫罪です。それに言ってないことまで増えてます」
「面会する権利を奪うのは何罪って言うの?」
アレックスは眼をしぱしぱさせて言った。「なるほど」
「どうしても、会いたいんですね?傷つくことになるかもしれません。お嬢さんはどうもそう考えてらっしゃらないように見えますが、
彼は列記とした容疑者です。それも殺人事件の。担当官ではありませんで、よくは知りませんが、状況は圧倒的不利です。
つまりもうやったとみなされている。私もそう思っています。拒否するのは、警部補がよく思わないというのももちろんあります。
でも、あなたが傷つくことの方がいけない。だから勧めない」
「事実は受けとめてるつもりよ」
「捕まった時点でたいていの者は錯乱しています。出られる保証がない限りね。
もしくは諦めているか。取調べを受けると、こんなこと言いたくありませんが、実際あれは人を惨めにさせます。
そうするようにできているんです。人が変わったようになることもありますから――」
「それでも、会いたいの。自分の眼で確かめたいことがあるから。彼に言っておきたいことも。そうしないと一生後悔するような気がする」
ナンシーは真剣な眼差しでアレックスの顔を覗き込んだ。アレックスは腕組みして、それを受け止め、しばらくたって顔を緩めた。
「私が通したことは、内緒にしておいてくださいね」ナンシーの顔がほころんでいく。
「当然よ。嘘はつかないでやるわ。黙秘する権利だってあるもの。好きよ、アレックス」
「まあ、仕方ないですね。でも、本当に大丈夫なんですか?あの時――」
「あなたの前でいっぱい泣いちゃったわね」
「いえ、すいません」
「ううん、ありがとう。あなた、あんなに夜遅くて、ずっと残って仕事してたのに送ってくれた。
頑張れば歩いて帰れない距離でもなかったのに。それに、ずっと何も言わないでいてくれたわ。
車だってゆっくり運転して、全然揺れなかった」
「ええ、何だかそうした方がいいような気がしましたから」
「今思うと、それが凄く嬉しかった」
「どうも。正直、なんだか、とても懐かしく感じます。こうやって喋るのが」
アレックスが「こっちです」と言って、カウンターから出て、通路を歩いていき、ナンシーはそれに着いていった。
階段を降りて進むと、面会用の手続きをする場所に出た。アレックスが受付けに事情を説明した。
話が通ったらしく、ナンシーは用紙に名前を記入、貴重品を預け、ボディチェックを受ける。
差し入れの品を見せると、面会担当官は余りいい顔をしなかったが、警部補の娘ということで、大目に見てもらえた。
長い通路の両側にそれぞれ扉があり、その奥に牢が控えている。一番奥の扉を開けて、担当官が言った。
「十五分後にまた来ます。早く終わるか、何かあれば扉をノックしてください。
一応、監視カメラがついてますから、異常が認められれば、すぐに駆けつけます」
ナンシーは扉をくぐった。コンクリートの壁は雨で腐蝕しており、上からつららのようにグレイの細い線が入っている。
左側には茶色い糟がこびりついた洋式のトイレが据えつけられ、汚臭が外にいるナンシーまで伝わってきた。
トイレの横には、やたら平べったい組み立て式のベッドが置かれていて、
それに腰掛けていたロッド・レーンがナンシーを見るや否や口笛を鳴らした。来ることを信じていたのだろう、特に表情は変わらなかった。
「よお、遅いぜ。眠っちまうとこだったよ」
ロッドは横っ腹を押さえながら立ち上がった。
顔に疲労の色は見えるが、手負いの狼と言ったところで、まだ力は失われていない。
ナンシーは、やっぱりやる気なのだ、と改めて思った。
「ねえ、大丈夫なの?」
「あんまり大丈夫じゃねえな。何回入っても慣れやしねえ」
「慣れたら困るわよ」
「違いない」
「そうよ。ねえ、ロッド、本当に、あなた、やる気なのね。そんな途方もないこと」
「そのためにずっと起きてる。奴と刺し違えたっていい。ティナの仇を討つ。あのくそったれを殺す。もう俺にはそれしかない」
力強い口調だった。
「やめてよ、そんな言い方」
「だけどな、俺に先はねえ。ここに来てすぐ賭けに出たが、どうやら今のところ成功してるみたいだ。
親父さん、ハードだぜ。ひやひやもんだな。バレちゃねえだろうかって。時々、凄い眼でこっちをじっと見てくる。
刺すような視線ってのは、ああいうのを言うんだろうな。額に拳銃突きつけられてるみたいだ。ありゃ相当修羅場くぐってる。
腹はたくさん殴られたが、なんてことねえ。だが、親父さんの眼はおめえの右ストレートくらい痛い」
「やめて。似てない。私とパパは似てるところなんか一つもないの」
「まあ、俺もあのクソ親父に似てるって言われるのは我慢ならねえ。しかし遅かれ早かれ凶器は見つかる。
見つからなくても検察に送られて裁判が始まって有罪が確定する。無理だ、状況が状況だからな。
法廷に立ったとして、頑張れば裁判官が木槌叩いて笑い転げてくれるかもしれねえけどよ、それすら自信ねえ。
仮に真面目に釈明して雁首並べた陪審員が話を聞いてくれたってな、ぶっ叩くのがコンクリートの壁かウレタンの壁かの違いだけだ。
そのことについては諦めてる。しょうがない。むしろ……先の生活なんか興味はない」
「よく……ないわよ」
「正直、まだ空いてる。なんだか、ぽっかり、胸を殴られて、その部分がなくなってしまったみたいに。
いや、やめよう。こんなこっちゃ、奴に勝てない。
まあ俺がムショに送られたらジェイミー・リー・カーチスのポスターと安物の金槌でも差し入れてくれや」
「待って、私も証言するわ。あなたが犯人じゃないって。諦めたらダメ、きっと、証明する方法は……」
「ない。だろ?いいんだ。そんなことで頭を悩ませてる暇はない。
そんなことはベッドの横にトイレがない場所で寝られる奴が考えればいい。
ナンシーは情報をくれ。俺が眠って奴を叩き潰す。勝算はあまりないがな、一発かましてやる」
「どうすんのよ、何かあるの?何にもなしで立ち向かっていったって死ぬだけよ」
「死んだらその時だ。死ぬことはもう怖くない」
ごく自然な口ぶりだった。ナンシーは哀しげな顔をした。
やはり、ロッドは死ぬ気なのだ。生き残ることよりも、言ったとおり刺し違えることを望んでいるのかもしれない。
そう思うと、いたたまれなかった。なんでそんな考え方しかできないのだろう。
張り飛ばした時と同じような感情か、ナンシーの胸に湧き上がって来た。
「いや、いや……いや!もう、馬鹿じゃないの!いっつもいい加減なくせしてこんな時だけかっこつけちゃって、なによ、
刺し違えるとか、死んだら、とか、ほんと、ティナの言う通りね。
馬鹿!単細胞!あんたなんか頭切り開いて脳味噌取り出して一日氷嚢に漬けときゃいいのよ!」
ロッドは何も言わなかった。少しの間黙って、つぶやいた。「まったくひでえ」
ナンシーは牢に手をかけ、父親譲りの強い視線でロッドを見据えた。
「私は、誰も欠けるのは嫌。私も死なないし、あなたも死なない。それに、あなたがそんなこと言ってもティナは喜ばない」
ロッドは強く頷く。
「ああ、そうだ。だが、やる」
「……私もやるわ。これは私の問題でもあるから。あいつの恐ろしさが分かったから。
あなたに会ったあと、あれから……学校で、居眠りしてて、出てきた。あいつが」
「無事だったのか?怪我は?」
ナンシーは何も言えなかった。フレディの顔を思い出して、怖気づいているところに、ロッドがまた話しかけた。
「ナンシー、時間が惜しい。あのくそったれについて分かることがあれば教えてくれ」
そう、そのために来たのだ。ナンシーは気を取り直して、最後の夢の記憶を辿っていく。
家で整理した情報をもう一度、呼び覚ましてみる。知っていることは限りなく少ない。まずは……
「あいつの名前は……フレッド・クルーガー。自分で言ってたの。夢の中で。
嘘か本当か分からない、男みたいな名前だけど、あいつはそう言ってた」
ロッドの眉がぴくりと動いた。
「フレッド、クルーガー」とロッドは教科書に書かれた人名を読み上げるようにつぶやいた。
「知ってるの?」
「いいや……だが、何処かで聞いたことがあるような、気がする」
「思い出せる?」
ロッドは何度も頭の中で名前を繰り返してみる。フレッド・クルーガー、フレッド・クルーガー、フレッド・クルーガー。
確かに何処かで聞いたことがある。それも最近ではない。大分昔のことだ。今はそこまでしか分からなかった。
「……いや、先に情報が欲しい。他には?」
「そう――襲われた時――歌が聴こえたわ。女の子が歌ってるの。確か……1、2、フレディが来るぞ。
3、4、ドアに鍵かけろ。5、6、十字架にすがれ。そこから先はよく覚えてない。眠るな、とかそんな意味だったと思う」
「十字架にすがれ、か」
ジャンバーの内ポケットに手をやる。もう十字架は入っていない。押収されてしまった。
「それだって、夢の中だから、根拠なんてないのよ、でも、分かることはそれくらい。ねえ、あなたは夢の中で、どうなったの」
「追っかけまわされた。暗い廃墟だ。その中であっちこっち迷ってた。いったいどこだが分からんが、やたらリアルだったな。
地下室は配管だらけで、最後はボイラー室のところまで逃げて――もう少しで殺されそうになって」
「十字架が守ってくれた」
「いや、違う。その時は犬だ。俺の名犬チャットくんだ。ああそうだ、あいつをひきとってくれないか?
クソ親父に任せたって、どうせ腹いせに使われるか、捨てられて保健所送りだ。あの野郎犬だって殴りやがるからな」
「なんとか……してみる」
「頼んだぜ、まあ、とにかく、それが奴との一度目の出会いだった。
二度目は……ナンシー、嫌な気分になるかもしれないが、いいか?分かっていることは全部言っておきたい」
「ええ」
「二度目はあの夜。逃げたあとだ。夢の中でまたあの部屋へ戻ってきてた。
ティナに会ったよ。かすり傷一つ負ってなかった。俺はバカだった。逆に夢の方を信じてしまった。
これが現実で、ティナが殺されたのが夢なんだってな。それで、その、隣の部屋、
お前達が寝るはずだった部屋、そこで、お前とグレンが……その、よろしくやってた。声が聴こえた」
ナンシーが言葉通り嫌そうな顔をしてロッドを見た。ロッドはぽりぽり耳を掻く。
「うん、悪い。でも夢だ。しょうがない。俺とティナはそれを見に行って」
「何してんのよ!」
「大きな声出すなって。見られてんだから。来るぜ、あいつら」
そう言って、扉の外を指差す。幸い、誰も来る気配はないが、ナンシーは信じられない、という顔でロッドを見ている。
「まあ、それが、奴の罠だった。ティナなんかじゃなかった。鉤爪の女が化けてた。
爪をつきたてられて、十字架がなければ殺されてた。ナンシーは?」
「私――私は――」
ナンシーの顔が微妙に変化する。ロッドはそれを見逃さなかった。
「私は、もっと遭ってる。あいつに。これで、八回目」
「そんなに?よく無事でいられたな」
「自分でもそう思う。それで……」
「それで?」
「ずっとされてたの。あいつに、あなたが見たような……いやらしいこと」
ロッドは唖然として、それから鉄柵をぎゅっと握り締めた。ナンシーがされているのならば、ティナもされていたのだろう。
怒りで鼓動が早まる。なんとか抑えて、目を伏せているナンシーを気遣った。「悪かった、もういい」
「いいえ、言わせて。グレンにはこんなこと言えない。あなたしかいないの。言える人」
「……分かった」
「それまで、ずっと、裸にされたりとか、指でされたりとかだったの。だからただの夢だと思ってたのよ。
誰にも言えなかった。自分がそんな女だと思われたくなかったから。それが、バカだった。
何処かで、いつか終わるものだって気持ちがあった。でも、どんどんひどくなって、
学校であいつに襲われた時、捕まって……怖かった。汚い言葉で罵られて……最後まで犯された」
ロッドはナンシーを見れなかった。ただ、耳を傾けて聞いてやることしかできない。言葉が見つからなかった。
「ねえ、ロッド、私とグレン、してたと思う?」
「いいや」
「なんで分かるの?」
「さあな、勘だ」
「私はもうバージンじゃない。あいつに犯されたから。とても怖かった。夢から覚めた時、殺して欲しかったと思った。
でも今は、生きたい。あいつが殺してやりたいくらい憎い」
「…………」
「今でも、はっきりあの時の感じが分かる。あいつの顔が浮かぶ。昨日、もっとひどかったのよ。
誰にも会えないような状態だった。グレンに、その震えを止めてもらったの。でも、効き目が切れてしまわないかって不安になる」
「あいつは……見るのかな」
「たぶん、まだあってないと思う……分かんないけど。でも話してしまえば巻き込んじゃうと思って、何も言えなかったの」
「ああ、あいつはこういうことには向かない。死体を……増やすこともない。だけど、あいつは、大真面目野郎だが、
お前には100%惚れてる。忘れるなよ、そのこと。だから、その、上手く言えねえが、心配はするな」
「うん、分かってる」
「なあ、ナンシー、俺はティナを守れなかった。あいつが切り刻まれてる間、ただ泣き叫んでいるしかなかった。
お前らにはそうなって欲しくない」
「そのためにあいつと戦うのよ。それに――それに、ティナは囚われてる」
「なんだって?」
「最後の夢でティナに会ったの。ティナはあいつに利用されてる。魂なんてものがあるのか分からないけど、ずっと捕まってるのよ。
闇の中にいる。その中で苦しんでいるような、そんな気がした。だから、私はティナを助けたい」
「くそったれが――」
ロッドの顔がみるみる赤く染まった。壁を思い切り蹴り上げる。ナンシーが名前を呼ぶが、耳には届いていない。
「くそっ!くそっ!くそぉっ!許さねえ、なあ、これが許せるか?ナンシー、ちくしょう、ティナ、囚われてるだって?
まだ苦しんでるのかティナは。死んじまったのに、まだ苦しまなきゃならないってのかよ!殺してやる。
ブチ殺してやる!あいつがやったみたいに切り刻んでティナよりもっと苦しませてやる!あいつを――」
「落ち着いて!落ち着いてよ!私だって……そうやってやりたいわよ……」
ロッドは我に返った。今辛いのはやはり犯されたナンシーなのだ。熱が引いていく。「すまねえ」
「ねえ、それで、私、考えたんだけど、作戦があるの」
「どんな?」
「夢と現実がリンクしてるってとこがポイントだと思う。あいつに切られると、現実でも切られる。
あなたのジャンバーに穴が空いているように」
「ああ」
「ユングって知ってる?」
「知らねえ。速球は80マイルで変化球がよく曲がりそうな名前だな。ルーキーか?」
「こういう時でも冗談言わないと気がすまないのね」
「あんまり気の利いたもんじゃねえけどな」
「いいわ。怒ってるよりそっちの方があなたらしくて」
「ああ、それで?」
「カール・グスタフ・ユング。精神分析で夢を研究した有名な学者なの。
現在ではその説は正しいとも間違ってるとも証明されていないけど――普遍的無意識って、知らないわよね。
ユングは人類はみんな共通の無意識を持つって説を唱えた。精神病患者の妄言や妄想を基にそれらはつくられた。
夢がそれを現すこともあるって。同じシンボルを見たり、同じ情景を見たり。
もちろん全てじゃないわよ。個人的無意識ってのもあるの。でも人間の無意識はどこかでつながりあっている」
「凄え妄想ヤローだな」
「ええ、でも、もしユングの説が正しければ、同じ時に眠って、夢を見たら、それはつながり合ってるんじゃないかしら」
「しかし――」
「そう、夢を見るとは限らない。同じ夢を見る可能性も低い。
そもそもその説が正しいのかも分からないし、正しいとしてもさらに飛躍して捉えた考え方よ」
「でも、かけてみるしかない」
「そうよ」
「確かに二人でいればメリットはあるな。片方が何らかの衝撃を加えれば、強制的に眼を覚ますこともできるかもしれない。
俺は少なくとも、夢で与えられたショックで眼が覚めてる。
あいつの弱点も何も分からない今、一人で寝てもやられるだけだと思えば……」
「持ってきたわ、これ」
ナンシーはプラスチック製のデジタル腕時計をロッドに渡した。
「これ、アラーム付きの奴。私は家に目覚まし時計があるから大丈夫。それで十二時に決行よ。
寝る時間を合わせるのは難しいけど、何とか努力して。一時にアラームをセットする。
そうすれば眠った一時間後には危なくなっても眼が覚める。何とか粘ることができたら、情報を持ちかえれるかもしれない。
もし夢を見ても、見るまでのタイムラグがあるから、実際に夢の中をさまよう時間はもっと短い。
だから死ぬ確率はちょっぴり減らせる。明日またなんとかして来るから、お互い無事だったら、その時にまた話合いましょう。
でも、パパが見張ってたら来れないかもしれない。明日、私が昼までに来なかったら、一日置いて、また同じことを繰り返す。
明日来れなくても明後日には来れるかもしれないから、その時に作戦の立てようもある」
「凄いな。予想以上だよ」
「私も本気なのよ。あんな奴に好きにさせるわけにはいかない」
「ああ、分かってる」
「これから図書館で調べてくるわ。あなたの記憶にその名前があるとするなら、街の記録を調べれば何か出てくるかもしれない。
フレッド・クルーガーって女が何者か分かるかもしれない。期待通り、夢で遭えたら成果を話せるかもね。ねえ、もし」
「うん?」
「もし、出られたら、どうしようか?」
ロッドは少し考え込んで、顔を上げた。口元には照れたような笑みの欠片が残っていた。
「そうだな……まずはナンシーの家でチーズケーキが食べてえな。あったかい。柔らかい。
ずっと前――まだ俺がお前らに逢ってそんなに経ってない時、四人で映画観に行ったよな?
待ってる間、お袋さん、アップルパイ、食べさせてくれたんだけどさ。ありゃ最高だった。
でも俺が一番好きなのはチーズケーキなんでね。それが食いたい」
「そう、正直言って、チーズケーキはもっといいのよね。何なら私も作ってあげる。作り方……一緒だし」
「ありがてえ」
担当官がやってきて、扉を二回、強く叩いた。「十五分です」
「死なないで」
「ナンシーも、絶対に、死ぬな」
ナンシーはその後、アレックスにお礼を言って、図書館へ向かった。
夢に関する学術研究書を何冊か借りてから、フレッド・クルーガーなるものの手がかりをあらゆるところから探そうとした。
まずは街の犯罪記録――ロッドの記憶に残っているのならば、伝承、もしくは実在の人物であった可能性が高い。
どういう仕組みで夢に出てくるのか知らないが、少なくとも全うに社会生活を営めるタイプではない。気狂い女だ。
もし昔の人物――オカルトじみたことだが、死者であるならば、相当前の記録も漁らなければならない。
新聞の切り抜き、犯罪史を洗っていく。どこにもフレッド・クルーガーなる名前は見当たらなかった。
夕方になり、一度公衆電話を使い、帰りが遅くなることを伝えようとしたが、
やはりマージは泥酔していて、電話に出ることはできなかった。やがて閉館となり、
ナンシーは夢について少し詳しくなった以外は、何の手がかりも得られないまま家へ帰った。
午後九時、ロッドはまた取り調べを受けた。内容は相変わらずだったが気持ちの張りが全く違った。
次に眠れば仇に遭える、ナンシーと別れてから不穏な気配が感じられ、そんな気がしたからだ。
これに耐えさえすれば、奴に遭える、その感情がロッドの眼をさらに強くして、トンプソンをいらだたせた。
のらりくらりと交わす中で、ロッドは一度、気まぐれでただ何となしにその名を口にした。「俺はやってない。やったのは」
「フレッド・クルーガーだ」
腹に力を込めていたが、パンチは飛んでこなかった。ジャックマンとトンプソンは慄然たる表情でロッドを見ていた。
「貴様ァッ!」トンプソンが叫んで、ロッドの頬を力いっぱい殴りつけた。頬骨が折れたかもしれなかった。
椅子ごとひっくりかえって頭を床に打ちつけ、薄れゆく意識の中ロッドは思った。こいつら――知っていやがる――。
なぜ?と思考を巡らす頃には、床に横たえた顔に一発、今度は固い靴の感触が伝わった。
さらに一発蹴り上げられ、もう一発はジャックマンが羽交い絞めにして防いだが、ロッドは三発目で、十二時を待たずして意識を失った。
(to be continued→)