−Sweet Emotion−  
 
次に鉤爪の女が出てきた時、いや、おそらく次に眠る時――、私は、存在の全てをめちゃめちゃにされて、死ぬ。  
あの女の気配がする。今だけじゃなく、あの夢をみてからずっと、視線を感じる。  
一昨日より昨日、昨日よりさらに今日、近くで見られている気がする。  
私は、だから、皆を家に呼んだ。取り返しがつかなくなる前に。  
ナンシーの夢にも現れる鉤爪の女。あいつはいったい何者なのだろう。  
夢から夢へ軽業師のように飛び移り、淫猥と狂騒に満ちた恐怖をばらまいているのだろうか。  
何のためにそんなことをするのか、調べる術もない。きっと理由なんてないのだろう。  
夢について私なりに頭をフル回転させて考えてみた。結論から言うと、夢は自分を映し出すもう一つの鏡。  
あまり本は読まないし、退屈になってすぐに寝てしまうのだけど、  
ナンシーから貸してもらった怪奇小説に次の言葉が書かれていたのは覚えている。  
 
−恐怖とは、鏡に映った歪んだ自分自身を見ることに他ならない−  
 
なるほどそうだ、と納得してしまった。だって私は、初めて自分のアソコを鏡で見た時、実際に恐怖したのだから。  
そして、私は夢で、鏡で見るよりもずっと鮮明に自分の歪みを思い知らされた。  
しかし夢それ自体が意志を持ってしまったとすれば?  
仕えるべき存在である人間に対して反逆を始めたとすれば?  
話は少し入り組んでくる。  
ロッドの両腕に抱きかかえられながら、私はそんなことを考える。  
だっこされた瞬間、泣きそうになってしまって、笑顔を作るのに必死だった。  
上手くできたか自信はないけれど、だって、最期のお別れくらい笑って済ませたいものね。  
でも、私の頭の上で、ロッドが相変わらず下らないジョークを飛ばしている。  
これを聞くことももうないのかな、と思うと、やっぱり泣きたくなった。  
 
リビングルームから階段を登って、突き当たりにティナの部屋がある。  
扉は開いていて、こざっぱりと片付いた女の部屋で、身体を密着させる二人がいた。  
「おうおうおう、娘っ子さんや。そんなに泣いて、どうなすったか」  
ティナが泣いたのを見るのは初めてだったから、いつものように軽いジョークは飛ばせない。  
いつか見た、古い喜劇役者の声色で、ちゃかしてみる他なかったのだ。  
「だまっててよぉ……」  
参ったな、とロッドは思う。かなり長い間、抱き上げているので、流石に腕が疲れてきた。  
ロッドは腰を降ろし、ティナに身体を貸したまま、左腕を壁に這わせてスイッチを探り当て明かりを点けた。  
部屋を見渡す。壁紙は薄いクリーム色、ぴっしり閉まった窓、  
鍵がかかっていて……念入りだな、以前はなかったはずだ、新しい鍵が一つ増えている。  
外で、シナノキがばたばた揺れている。  
部屋の右側には、真っ白でぱりぱりのシーツを敷いた優に二人は眠れる大きなベッドがあり、  
左側にクローゼットや化粧台が置かれている。化粧台の鏡の真ん中に、20cmほどある大きな十字架が立てかけられている。  
さて、ティナは相当キテいるな。ロッドは顔をしかめる。ティナは神にすがるような性格ではない。  
「ロッド、神様っていると思う?」  
いつだったかティナはそう言った。考える振りをして、難しいことは分からねえな、と返した記憶がある。  
「私は信じない」  
「……全部、神様のおかげって思うのはバカげてるわ。何かあれば神様に感謝して、植物みたいに退屈な生活を送るなんて」  
十字架にかけられたキリストは、茨の冠を右下に傾けて、掌から鉄の血を流している。  
おい、なんとか言えよ、そこの髭もじゃ野郎、とロッドは思った。  
もし、お前が神さんで奇跡を起こせるのなら――ティナを笑わせてくれよ、いつものように。  
どういうわけか、こんなに怯えてるんだ。理由がさっぱり分からない。俺はただ、胸を貸すことしかできないみたいだから。  
 
ロッドは壁にもたれて何も言わず待った。泣き声は聴こえなくなったが、まだティナは胸に顔を寄せたままだ。  
「落ちついたか」  
声をかけると、ティナがゆっくりかぶりを上げた。目は兎のように赤く、まぶたが腫れている。  
きめの細かい白い肌をしているので、余計に目周りが赤く見える。  
ボーイッシュな泣き顔は美しくもあった。ロッドは右手でそっと狭いおでこに触れて、ティナの前髪をこめかみへ分けた。  
「……ゆめっ、こわいゆめ」  
記憶の端にひっかかっていた、昨日の朝の会合。ロッドは舌打ちした。  
「夢が……どうかしたのか?」  
「こわいゆめっ……ろっど、ろっどは……みる?」  
「おう。俺だって夢くらい見るさ。……誰だってな」  
ティナは額をロッドの胸に押しつけて、嗚咽混じりの声を絞り出す。  
「かぎづめの……おんなっ……むちゃ、むちゃくちゃに……ころされそうにっ……なった」  
「俺も……イヤ、だな、そんな夢は」  
みたことがある、と言いそうになった。  
これ以上ティナの不安を増やしたくない、すんでの気遣いでなんとか踏みとどまったが、背中には冷たい汗が流れている。  
鉤爪の女。もっとも、ロッドは一度しか遭遇していない。  
スラム街とおぼしき廃墟に放り込まれて、ごろつき共との喧嘩などとは違う、正真正銘の恐怖をロッドは味わった。  
愛用のバタフライ・ナイフが根元から錆びて、砂のように崩れて世界から失われた。  
あらゆるものを引き裂きそうな四本の鋼鉄の爪から、ゲエゲエ息を吐いて必死で逃げた。  
やがて配管が網の目のように張り巡らされた異様な世界へ迷い込む。進むしかない、と決めた。  
なるべく音を立てないように、姿勢を低くして奥へ奥へと歩くと、小さなボイラー室に行き当たった。  
爪でパイプをひっかいているのだろう、金属と金属が擦れ合う音が、背後からひっきりなしに聴こえてくる。  
奴は、そう遠くない。殴りつける以前に人間と戦う気さえしない、豹や虎へ戦いを挑むのと同じ意味合いに位置する、  
いやそれよりももっと凶悪な恐るべき敵が迫っている。  
プライドをかなぐり捨てて、不良のレゾンテートルも忘れて、ロッドは実験用のマウスのように、うずくまって震えていた。  
突如、すすけたボイラーにぼうっと火がついた。厚いガラスを突き破って、炎が飛び出してくる。  
信じられない、炎が意志を持っている。ガソリンをぶっかけたように燃え盛り、蛇が鎌首をもたげるように向かってくる。  
悲鳴を挙げて、目をひんむいて、尻もちをついたまま後ずさりした。手の平が、つるつるした物体に触れた。  
そのつるつるした何かが、くにゃりと潰れて、五本の細い足の指の感触が伝わる。思わず、後ろ向きに見上げる。  
鉤爪の女が、にたりと笑って、自分を見下ろ――殺される。奇怪な叫び声と共に、振り下ろされる鉤爪。  
目を開くと、飼い犬のチャットが自分の胸に乗りかかり、右腕をかんでひっぱっていた。  
 
「……怖がるな。ただの夢さ」  
「ちがうのよ、ちがうの!ぜんぜん!」  
「おい!」  
ロッドがティナの肩を掴んで、一度自分の身体から引き剥がし、そっと涙の痕がついた頬に手を当てた。  
顔を近づける。額と額が触れあいそうな距離まで。  
「いいか。いいか――ティナ。よく聞け」  
「…………」  
「怖いなら、俺が横についててやる。お前がゆっくり眠れるようにな。それでもし、くそったれ鉤爪女がでてきたら――」  
できるか、俺に?ロッドはバカバカしいと思いながらも、真剣に考えてしまった。  
奴に勝てるだろうか?俺はティナを守れるだろうか?答えは求めないことにした。ティナの夢と自分の夢の奇妙な符合についても。  
「俺がお前の夢に入って、ブチのめしてやる。お前を守る」  
「……本当に?」  
嘘だ。ティナは理解していた。できっこない。あいつは恐怖を餌にする悪魔なのだ。人間が悪魔にかなうだろうか?  
しかし、ロッドの声からはタカをくくった響きは感じられなかった。  
「ああ、守る」  
ロッドの眼は精悍な白狼のようだった。ティナは厳しさと優しさを内包した強い瞳に見入った。  
引き込まれて、胸の芯から来る震えが徐々に収まってきたのを感じた。  
心臓の鼓動が、恐怖とは全く別の種類の、優しさの波に包まれていく。  
ティナは笑った。少年が日常のささやかな喜びを見つけてはにかんだように。  
今日初めて、本物の笑顔を見せることができた。ロッドも不器用に笑った。  
嬉しい――ロッドはいつも自分の背中を押してくれる。  
真実が問題じゃない。守れるか守れないかは構わない。無理なのは分かってる。  
それでも、皆に会えたこと、今の言葉で、自分は死を迎えても、ずっと幸せだろう。ティナはそう思った。  
眼を閉じて、ロッドの胸の中でぽつりとつぶやいた。  
「ありがとう」  
二人は口づけを交わした。唇と唇がそっと触れあうだけの、敬虔な聖職者が内緒で交わすようなキスだった。  
時間が止まってくれればいいのに、とティナは思った。今この瞬間が、ずっと続いてくれればいいのに。  
何度も繰り返したはずのキスが、まるで初めてした時のように新鮮だった。  
ロッドが立ち上がり部屋の明かりを消そうとして、ティナがさえぎった。  
 
「そのままでして」  
ベッドに腰掛けて、ゆっくりと、交互に服を一枚ずつ剥いでいく。先にロッドが丸裸になって、ティナをゆっくり押し倒した。  
正円を描く乳房が胸におしつけられてにゅっと潰れた。小さな乳輪の中心にあるピンク色のそれが、ロッドにこそばゆい感覚を伝えた。  
ついに最後の一枚に手が伸びる。指が端にかけられた時、ティナは冷静に今までのセックスを振り返っていた。  
眼を閉じて、胸の鼓動だけを聴いて、そして気づいた。  
自分がセックスで常にリードを取っていたのは、醜いアソコを相手の自由にされたくなかったからなのだと。  
幻滅されるんじゃないかって、恐れていた――水色のパンティが、名画にかけられた被せ布を剥ぐように一気に引き下ろされた。  
ティナは眼を開いた。秘所を両手で隠しながら後ろに下がって、三角座りの姿勢をとってから、手のガードを外した。  
そして少し躊躇したあと、自分の股をゆっくりと、しかし大きく開いた。  
「……私のここ、見て」  
実際に口に出してみると、とても恥ずかしい。自分から大股を開いて、最も醜い部分を晒すのだ。  
しかし、ティナは、ロッドにだけは見て欲しかった。それが自分のコンプレックスに向き合うために必要な儀式に思えた。  
ヴァギナは既に湿り気を帯びている。恥ずかしくてたまらない。でも、それで、濡れてしまう。身体が熱くなる。どきどきする。  
ロッドはただ黙って目の前のヴァギナを見据える。今まで、主に指で、偶に腿や腕で触れたりはあった。  
もちろん性器の接触もあった。一瞥できたこともあった。しかし、ここまで間近にじっくりと視るのは初めてだった。  
指で愛撫するとき、他の女と違ってずいぶん特徴的な形をしているな、とロッドは前から思っていたし、  
だから見られるのが嫌なのだろうな、と感づいてもいたので、  
目の前に広がるいびつな花びらよりも、むしろティナが自ら視姦を要求したのが意外だった。  
しかし、やはり――醜い。いや「醜い」は適切でないな、とロッドは思い直す。とても「いやらしい」だ。  
「どんな……感じ?」  
「ああ……」  
ロッドは少し考える。ただ性器の形状を述べるだけでは面白くない。悪くない。こういうやり方も。  
「すげえ……いい臭いがするな。いつもの臭いだ」  
「ばかぁ……」  
ティナが顔を両手で覆った。  
ひくっと膣口が動き、ヴァギナ全体が収縮したのをロッドは見逃さなかった。感じているのか。俺に見られて。  
「私のアソコ、汚い?」  
「……いいや。汚くはねえな。ただ……」  
さて、どう言うべきか。黙考の末、ロッドは正直に伝えることにした。  
「すげえ、いやらしい、すけべな……マンコだ」  
すけべ、の言葉でまた膣口がきゅんと閉じて、マンコ、で大きくぱくりと開く。  
大きく開いた淫らな穴からは、蜜があふれだしていた。ヴァギナ全体の蠕動がさっきよりも長く続いている。  
 
「そこ……キス……して」  
ロッドは舌技にはちょいと自信があった。ペニスの太さは申し分ないのだが、長さは12cmと小ぶりの部類に入る。  
別段劣等感があるわけではないのだが、あまり長持ちしないこともあって、自然と前戯に時間をかけるようになっていた。  
しかし、ティナとはその機会がなかった。口淫が許されたのは胸までだった。何度クンニリングスを要求しても、拒否されてしまう。  
ロッドは我慢した。ここまで入れ込んだ女はティナが初めてだ。  
これまでつきあったような、マリファナを吸いながら二三度セックスして後腐れなくさよならする女とは根本的に違うのだ。  
自分にとってなくてはならない女であり、一生大切にすると強く決めた人なのだ。  
しかし、だからこそ、いつか、とは思っていた。ついにその時が来た。 両手を広げ、尻を捕まえる。顔を秘所に寄せていく。  
まずは両の大陰部を、犬がするように交互に下から上へ何度も舐める。  
十分舌で刺激を加えると、唇で揉みほぐすようにして、大きなぶよぶよを弄ぶ。  
「ぅん……」  
黒い花びらを唇で挟む。そのままこすり合わせて、ゆっくりと味わい、吸う。  
舌の腹を使って、内側から広げるように舐めあげていく。たっぷり唾液を垂らすと、指で広げて、時々、歯を滑らせる。  
「……いい、よ……」  
ぞくぞくっと背中が強張る。初めてのクンニリングス。  
固い指よりも、柔らかい唇と舌の感触が、ソフトで確かな快感を与え、たまらない。  
その上、相手の顔が自分のアソコに密着している。アップで見られている。好きなように弄ばれている。  
淫恥の極みに、ティナのヴァギナはまたひくひく嬉しがった。  
しばらく続けて、びらびらが唇で刺激を与えずとも震えるのを見て、大分感じているな、とロッドは直感した。  
しかしここまではウォーミングアップなのだ。ここからが本番――人差し指でクリトリスをやさしく剥いて全てを曝け出させる。  
米粒状の可愛らしいクリトリスを指で左右から軽くノックしたあと、剥いた皮が戻らないように、  
上唇で包皮を固定して、周囲全体を包み込むように、下唇を開いて柔らかく吸いつく。  
「ぅぅうん」  
すっぽりとクリトリス周りを唇で包まれて、その包容力に、ティナは自然に声を漏らしていた。  
さあ行くぜ、舌が動かなくなるまで。ロッドは覚悟を決める。  
舌先を歯の裏にほんの少しかけて、舌の腹を押し出し、ゆっくりとクリトリスを左右に刺激する。  
振動が伝わる。パンチングボールのように揺れる。  
「はあッ!あッ!」  
大きな声が出る。思わず腰を引く。  
逃がさないように、ロッドはティナの両腕を握り、肩を一度ぐっと下げて、太股を乗せたあと、押し上げる。  
足は背中にかかり、ティナは自分の性器を舐められている様を目の当たりにした。  
さらに、クリトリスは逃げ場を失い、分厚い舌に蹂躙されるがままになる。  
いつもああしてこうしてと指示している自分が、ロッドを喘がせている自分が、いい様にされている。  
 
「あッ、あッ、ふぅあッ」  
頭がぼうっとしてきた。快感がじりっとじりっと忍び寄る。確実に近づいてくる。  
相手の思うままに、好きにされるのは、信頼できる相手に全てを委ねるのは、なんて気持ちいいのだろう。  
「す、すごい……すごいぃい」  
ティナは、ロッドの腕をきつく握って、顔を快楽に歪ませるだけ、激しい声を挙げるだけの、極上の牝に変わった。  
舌の動きに完全に集中して、より快楽を受け入れるために、自ら腰を突き出して、肉の接触を求める。  
「ふぅ!ふぅう!うう!ぅううう!」  
ティナの白く締まった下腹に、腹筋の線がうっすら浮かびあがる。細いウエストがうねり、腰骨が小さな楕円運動を繰り返す。  
「うぅ!うぅうん!ふううぅうッッ!」  
だんだん腰の押しつけが強くなってきた。絶頂が近い証拠だ。ロッドは刺激を少し強くしていく。  
リズムを変えないように注意して、ただ頂へ導く手助けをする。声がどんどん大きくなる。汗が滲んでくる。  
臨界点が見えてくる。すぐ傍にある。突き抜けて――  
「ぅうあああッッ!!」  
ティナは全身でオルガスムスを受け入れた。肩に乗せられた足が伸びきって、指の一本一本が歓喜のわななきを歌っている。  
ロッドはヴァギナが一度大きく収縮するのを顎で確認して、絶頂を確信する。  
しかし、まだ終わらせるつもりはない。舌は一定の速度でクリトリスを捕らえたままだ。  
「またっ……またっ……ぅんッ!」  
絶頂の余韻に上乗せされた快楽。積み重ねたセックスの記憶と、ロッドの情念が、舌で行われる性戯をより洗練させていた。  
休息など許さない。積もり積もった想いを受け取ってもらう。  
「いった!いったのっ……いやあッ」  
元より一度の絶頂で許すつもりはないのだ。ロッドはティナの哀願を眼で黙らせた。  
わざと冷たい視線で、じっと見据える。俺は、お前をまだ解放するつもりはないぞ、と。  
不良共に相対する時の眼だ。ティナは一瞬その目にぞくっとして、アナルをきゅっと締めた。  
ロッドは横運動を続ける舌を、今度は縦に使い、クリトリスから離れないように上下させる。  
「うあッ……うぅんッ……」  
下から上への快感は、横よりも大きく激しい。下の口から上の口まで快感が一直線に突き抜けていく。  
ぐうん、ぐうん、と空へ連れて行かれるような、飛び上がる気持ちになるような快楽だ。これではすぐに果ててしまう。  
「やばいッ……やばいぃいい!」  
今度はしっかり眼を開いて、ロッドの顔を見た。ちら、と眼があった。  
自分のイキそうな顔を見られるのは、恥ずかしい。唇を真一文字にひきつらせて、鼻腔が開いている。  
痴態に納得したロッドの眼。感じているんだな、と囁きかけてくる。もうだめだ。一気に登りつめる。  
だって、またイキそうなくらい感じてるって、全部ばれてる!乱れてるのを分かられてる!  
 
「やばっ……いっ、いっぐぅっ!」  
ティナは二度目のオルガスムスを迎えた。また足が痙攣を繰り返す。  
くはぁっと大きく息を吐き、目をとろんと降ろして、余韻に身をゆだねる。二度目の絶頂を確認して、ロッドは一度舌を休める。  
「いっ、いった……二回も、ロッド……二回もいった……」  
ロッドはどうしたんだ?と目でわざとらしく合図して、身体の痙攣がほぼ止まるのを待ってから、クリトリスを強く、断続的に吸った。  
じゅっ、じゅっ、じゅっ、と一定のリズムで、スープをすするように。愛液と唾液の卑猥な協奏曲が流れる。  
「えっ……まだ?まだなのっ」  
まだだ、とロッドは目で威嚇する。そして吸うリズムを変則的に変えていく。  
「うんッ!うあッ……!ああッ!あっ……!」  
肥大化したクリトリスは、強い愛撫も快楽に昇華できる状態に進化していた。  
強い吸引による感覚は、身体の芯を引っこ抜かれるような、ヴァギナから子宮を引っ張り出されそうな、すさまじい快楽をもたらす。  
「これっ……きつ、きついぃ!だめッ!だめえッ!」  
無視して吸引は続けられる。ティナの唇から強張った舌が見え隠れする。自分が知っている種類とは別の快楽だ。  
涎が垂れる。身体が熱い霧で包まれたようになる。信じられない。こんな、こんなことって、あるの!  
「また、また、くるっ!」  
突然、ロッドが吸引をやめた。目はまだ、ティナをじっと威嚇したままだ。  
急に刺激が弱まって  
「えっ?」  
とティナが声を挙げた瞬間、ロッドは、全力で、一気にじゅうううう、とヴァギナ全体をすすった。  
「ああ―――ッッ!」  
ティナはもう何も考えられない。甲高い叫びが部屋中に響き渡る。ロッドは吸っている範囲をだんだん狭めていく。  
クリトリスが終着駅だ。吸引の範囲がどんどん狭まって、もっとも快楽を得られる或一点へ向かっていくスリル。  
「あッ!アッ―――――――!!」  
最期の声は一段と高く艶かしかった。ティナは三度目の絶頂を迎えた。  
身体が強張り、緩んだあとは、全ての力が抜けてしまい、ぐったりして、首の力すら失い、頭を支えられずに後ろにぐるんと落としていた。  
「ゆ、許してぇ……」  
ティナは、ベッドの上で初めて敗北の言葉を口にした。赤く腫らした眼が再び潤んできた。快感による恍惚の涙だ。  
一度目より二度目、二度目より三度目。ひと舐めの快楽がだんだんと大きくなってきている。  
着実に、階段を一歩ずつ登るように。ロッドは再び舌を動かし始める。四度目の絶頂は、すぐにやってきた。  
 
四十分の間、クリトリスを愛撫され続けて、ティナは快感をたっぷり溜め込んだ。  
五回目の波が来ようかというところで、ロッドは握っていた手を離し、ペニスにゴムを装着しようとした。  
ティナは眉根を寄せて、眼を閉じて、荒い息で乳房を上下させている。既に腰はくだけて、たたない。  
亀頭にゴムをまきつけたところで、ティナが上から手をかぶせた。  
よろめきながら、ロッドの胸に頭をくっつけ、それでも視線はペニスに向かっていた。  
余った精液溜まりの部分を引っ張っると、すぽんとペニスからゴムが抜けた。  
「……いらない」  
向き直り、ティナは四つんばいになって、くだけた腰をどうにかして持ち上げようと、  
渾身の力で小さな尻を限界まで上に向かって突き出し、絶叫した。さながら、人を狂わせる満月に吠える牝豹だった。  
「入れてぇっ!」  
ティナの腰をがしりと掴んで、ナイフを突き立てるようにねじ込む。  
入り口を開き、侵入を待ちわびていたヴァギナが、ペニスを一気に飲み込んだ。  
「ふはぁっ」  
やはり、ロッドのペニスはあまり長くない。しかし、ぎりぎり奥に届くか届かないかの長さをティナは気に入っていた。  
せいいっぱい腰を押しつけて、膣奥をこつんとノックされる充実感。  
「おッ、おッ、うあッ、すげえ、ティナッ!」  
肉壁がうねり、ペニスに絡みつく。絡んで包み込んでくる。敏感な肉と肉とがこすれあい、さらなる快楽を呼び込む。  
抜き差しするたびに、浅黒い花びらがすれて陰茎に刺激を与える。  
「うおッ!」  
生で挿入する刺激に耐え切れず、ロッドはたった三分ほどでイってしまった。  
すっかり開いてほぐれてしまったヴァギナがペニスへの快楽を今までになく強いものにしていた。  
ティナは奥に流れ込む精液の感覚を愉しんだ。それは子宮口まで届いてたっぷり満たされた。  
ペニスが萎んでいく。だめだ、こんなに早くは終わらせない。もうロッドを離したくない。  
腰を引いて、抜いて、向きなおって、がっつくように、股間にしゃぶりつく。  
攻守交替だ。アヒルのように少し開けた唇はフェラチオをするのに適していた。  
右手で陰のうを胡桃を回すように揉みほぐし、左手でアナルを撫でる。みるみる内にロッドのペニスは生き返ってゆく。  
「うあッ、またでちまうっ」  
ティナは、ロッドの言葉を無視して、一心不乱にロッドのものをほうばる。  
舌で裏筋を上下に刺激する。カリの間に滑り込ませて裏側から亀頭を舐める。  
割れ目にちろちろ先を這わせる。唇合わせてこすり上げる。  
「ぐぅ……ぅあッ!」  
イク前になると発する独特のよがり声。  
絶頂の予兆を感じ取ったティナは、舌の動きを止め、顔を股間に叩きつける勢いで、激しいグラインドを繰り返す。  
 
「ティナッ!」  
陰茎が大きく脈動し、喉の奥に向かって、白い欲望の塊が打ち抜かれた。ティナは亀頭を強く吸って、一滴でも多く搾り取ろうとする。  
一度ごくんと飲み込んで、口を開き、亀頭の上に舌をのせ、ロッドに残された精液を見せつける。  
潤んだ眼差し、少し垂れた目尻が、ひどく淫靡に激しい性交を訴えている。もう一度飲み込んで見せると、ペニスはまた大きくなった。  
首に抱きついて、腰をまたいで、ヴァギナをペニスに押しつけて上下させる。  
繰り返すたび、秘肉から溢れた愛液がペニスにまとわりつく。陰茎が花びらに挟まれて蠢く。亀頭がクリトリスと抱き合う。  
素股を続けて、自分のじらしに耐え切れなくなると、ペニスを中ににゅるりと飲み込ませて、今度は、ティナが積極的に腰を動かす。  
さっきの精液をまだ奥に残したままで、丸く円をかきながら腰を沈ませる。  
カリが見えるまで一気に引き抜いて、それからまた腰を押しつける。抜き差しされるたび、白濁液が少しずつ漏れていく。  
「いい……ぜッ!うっ!ぐっ!」  
「んぅうん!私も……んぅん……いいっ!」  
続けられて、ロッドは三度目の射精を迎えた。ティナは再び訪れた膣内射精で歓びの顔をロッドに晒す。  
まだ足りない。何を捨てても愛してるって、もっと証明して欲しい。獣に変わって忘れさせて欲しい。  
暖かみで満たして欲しい。最期になるから。これで、終わりだから。出しつくせるだけ出して欲しかった。  
「もっと……いっぱいにして」  
つながったまま、体面座位の姿勢で、今度はゆっくりと律動を開始する。  
ペニスは硬さを保ったまま、やんわりとした刺激を長時間受けることができる。  
ティナはロッドの首に腕を回し、唇を求めた。ロッドは手を伸ばし、ぴんと勃った両の乳首を責めつつ、唇淫を続ける。  
執拗な前戯が、膣内の感覚をより鋭敏なものにしていた。ティナはいつまでも中の快感を持続できそうな気がした。  
 
寝後背位で六回目の性交を終えて、汗と唾液と愛液まみれで身体を反らせた二人は、同時に上半身を倒した。  
ロッドがゆっくり蜜壷からペニスを引き抜く。ぬちゃ、と卑猥な音を立て、ペニスは肉の拘束から自由になった。  
そのまま右へ転がり、仰向けになる。天井がかすんで見える。肩で息をする。  
「ベースボールなら、はあっ、今……、七回の……、裏ってとこか」  
ティナはうつぶせのまま、自分の背中に投げ捨てられてだらんと転がったロッドの腕を引き寄せ、  
手に手をかぶせ、男の指と女の指で、ヴァギナをまさぐり始めた。  
精液と愛液が混濁した、ねばっこいジュースが、膣口から涎のように垂れている。  
「じゅう……はっかい、まで……行くか……」  
再び重なり合って、体力の続く限り、お互いの性器の感覚が失われるまで抱き合った。  
何度絶頂を迎えたろうか、ロッドがラスト一滴を搾り出し、ティナが激しいアクメを迎え、この世界から意識を完全に断ち切った。  
脱力と疲労に抱かれて、後始末もしないまま、二人は明かりの点いた部屋で暗闇の世界へいざなわれた。  
 
(ぁぁ……ぅ……)(ぃぃ!……ぅぅん)  
ティナとロッドが十回表のプレイコールを迎えた時、  
グレンは二十一回目の寝返りを打ちながら、眠れない自分に産まれて初めて腹立たしさを感じていた。  
二段ベッドにぴったり面した壁の向こうから、もう三時間も二人の喘ぎ声は響きっぱなしだ。  
自分の部屋なら話は簡単、テレビのスイッチをオンにして「KSSV」「ULFV」発信、お気に入りの深夜番組でも観るか、  
ヘッドホンをかぶって「Heartbeat City」や「Born In The U.S.A.」を大音量でかけるなりして、その内寝入ってしまえばいいのだけど。  
ついに我慢できなくなって下を覗くと、シーツにくるまったナンシーが、横向きになり膝を抱えた姿勢で、  
暗がりでも分かるくらい頬を真っ赤にさせて、焦点が定まらない目であらぬ方向を見つめている。  
「ナンシー」  
逆さまのグレンに気づくと、ナンシーはびくっと身体を震わせて額までシーツをかぶった。  
まるで、体毛も生え揃わないカンガルーの子供が、母親のおなかに下げられた育児袋に隠れるように。  
何かの本に書いてあったな、グレンはふいに思い出す。  
『カンガルーはしばしば一年中発情期になります』  
グレンがもう一度呼びかけて、右手をいっぱいに伸ばして、突っぱったシーツからはみ出している指に触れると、  
すかさずナンシーの左手が飛び出してきて、ぴしゃりと跳ね除けられ、グレンのささやかな野望は脆くも崩れ去った。  
「もう、ダメったら、ダメなの!」  
グレンは未練がましく撤退し、再び仰向けになって目を閉じ、ナンシーの柔らかい唇と胸の感触を思い出した。  
(っぁ……ゃぁ……ぅ)(ぃぃ……はぁっっ……ぁアッ!)  
相変わらず、壁を通して二人の情痴のハーモニーが奏でられている。  
「いーかげんにしてくれよ」  
ため息をつきながら、グレンは二十二回目の寝返りを打った。  
 
−Body Snatcher−  
 
曲線美を讃える裸体を惜しげもなくさらしたまま、右の頬に傾きを感じて、ティナは意識を取り戻した。  
とくん、とくん、心臓の鼓動が聞こえる。馴染みの匂いがする。  
ロッドの肌の感触だ。まだ信じられなかった。目を開きたくない。自分が無事に夜を乗り越えたなんて。  
 
あの夢から、ついにおかしくなって、学校に行くまで、部屋から一歩も出なかった。  
ママが扉をノックするだけで、心臓がばくんとドラムを叩いたようになって、額から汗が滲みでてくるような状態だった。  
ベッドにもぐりこんで、髪の毛をかきむしり、暗い森に潜む魔女のような病的な顔で、何度も「私は狂ってない」と繰り返した。  
ママにお願いして、倉庫に閉まってあった十字架を持ってきてもらった。  
祖母が死んだ時、片付けたものだ。  
祖母は風邪をこじらせたあげく喘息の発作を併発して亡くなったが、  
死ぬ間際に祖父の形見の時計だけを棺に入れるように、ママの手を握って咳き込みながら叫んでいた。  
死は皆に等しくやってくる。ただ受け入れて、神の御意志に任せなさい。祖母の遺訓だった。  
祖母は信心深い人だった。  
デリーへ旅行中、大型トレーラーに撥ねられて死に別れた祖父は本当に神の世界へ旅立ったと信じていた。  
教会への礼拝はかかさず、週に一度の集会にも必ず出席した。  
まだしっかり歩けていた時は、嫌がる自分の手を引いて連れて行こうとした。  
足が悪くなってからは、安楽椅子に腰掛け膝に薄い毛布を敷いて、丸眼鏡をかけて細めた目で古い小説を読んでいた。  
休憩する時は独自に調合した特製のハーブティーを淹れて、時々自分達にもそれを勧めた。  
チェーホフを愛し、中でも「ワーニャ伯父さん」がお気に入りだった。  
チェーホフには神の哀れみがあり、苦労や痛み、悲しみを共にする精神がある、と祖母は言った。  
祖母は友人が少なく、近所づきあいもあまりしないため、年寄り同士で旅行に行くこともなかったようだ。  
寝て、起きて、本を読み、お祈りする。毎日同じような生活をしている祖母に疑問を持たざるをえなかった。  
明らかに自分の嫌う倦怠がそこにあった。  
 
家族としての視線を捨てて、一度女の視点で祖母を眺めた。大好きな人と死に別れるのはどんな気持ちなのだろう。  
女として、愛する男の温もりを失って、どうやって生きてきたのだろう。  
聞いてはいけないことだと思ったが、口にせずにはいられなかったのだ。  
風の強い日だった。十月に台風が来て、パパは食料と防災用具を買いに行き、ママは庭に出て植木が倒れないように紐で縛っていた。  
祖母はそんな時にも本を読んでいた。もう何十回目にもなろうかという「ワーニャ伯父さん」。  
同じ小説を繰り返し読む。その行為に嫌悪を感じていなかったと言えば嘘になるだろう。  
「おばあちゃん、おじいちゃんのこと、思い出したりする?……寂しくない?」  
なんてひどいことを言ったのだろう、と今では思う。  
祖母は「ワーニャ伯父さん」から目を離し、かぶりを上げて、鹿のような目で、遠くを見ていた。  
質問が聴こえているのか疑わしかったが、もう一度言うわけにもいかない。  
風が一度、うなりをあげた。外の街路樹がばさんと大きく揺れる音が、部屋の中まで聴こえてきた。  
「さみしい」  
突然、祖母が口を開いた。低音の重い響きがする声だった。  
どきっとして、足の裏がぴんと強張った。そして、後悔した。  
好奇心から祖母の気持ちを無闇に傷つけた気がした。しかし、心の底から湧いて来るもっと大きな疑問がある。  
祖母はもしかして、神様を憎んではいやしないだろうか。 固い信仰の陰に、神を疑う気持ちを隠しているのではないか。  
信仰の見返りに、神様が、いったい、何をしてくれたというのか。  
もう一度口を開いて、祖母に訊ねた。  
「おじいちゃんが事故に遭ったのも、神様がそうされたの?」  
「そうよ。ティナ」  
それだけ言うと、祖母はまた本を開いて、続きを読み始めた。  
 
十字架を持ってきてほしい、と言ったのはなぜだろう。  
銀貨三十枚で裏切られた男が御大層に磔にされて、  
メッキが剥がれてむき出しになった部分が赤茶けている、錆びた鉄の塊にしか過ぎないものだと思っていた。  
それでも夜が来るとぎゅっと握って抱いて眠った。信仰など持ち合わせていない自分がよくもあんなことをしたものだ。  
キリストにすがっていたのではなく、祖母に守ってもらいたかったのかもしれない。  
もっと言えば、祖母に謝りたかったのだ。十字架を胸に抱くと、少しだけ落ち着いた。  
しかし起きている時は最悪だった。気分はナチの特高警察に怯えるアンネ・フランクだ。  
パパとママに「怖い夢を見た」と言っても真面目に聞いてくれはしなかった。  
複雑な青年期の精神がもたらす悪戯と考えていたようだった。当然だ。  
もっとも、初めはオシッコ塗れのベッドと自分が泣き叫ぶ姿を見て、事態を深刻に考えたのか、学校を休んでも何も言わなかった。  
今朝「まだ調子が悪いのなら、しばらく休んでもいいんだよ」パパはそう言って、おでこにキスして、ママと一緒に旅行へ出かけた。  
しばらく?しばらくですって?何を言ってるのよ。そう叫びたかった。  
全くなんにも分かってないのね。私はずっと休まなければならなくなるんだから。神父が黒縁の棺桶に向かってこう言うのよ。  
「土は土に、灰は灰に、塵は塵に。ティナ・グレイにとこしえの安らぎを」  
パパとママは冷たくなった棺の中の自分を想像して泣き咽ぶ。私は親不孝者になるんだから、そう言いたかった。  
でも、そんなバカげた妄想もこれで終わり。結局、あれはただの夢だったのだ。  
青年期の心の悪戯、その点ではパパとママは正しかったのかもしれない。  
 
ティナは自分を馬鹿にするようにくすりと笑った。  
あの嫌な視線はもう感じない。代わりに感じるのは、ロッドの心音、自分の小さな息使い。  
目を閉じたまま、温かい人肌に触れていたい気持ち。  
真っ先に頭に浮かぶのは、激しいセックスの記憶よりも、唇をそっと合わせるだけのキス。  
あれは、紛れもない奇跡だったのだ。Honestyとはこういうことを言うのだろう。  
ハイスクールの女の子がはしゃぎ回って、やれこの人が好き、あの人がいい、  
彼氏のここが気に入らない、ここが素晴らしい、そんなお喋りとはどこか別の次元に位置する人と人とのつながりだった。  
一生の内で真実のキスを交わせる人間が世界に何人いるだろうか?  
 
ティナはようやく目を開いた。自分の部屋、見慣れた風景。  
いつのまにか部屋の電気は消えている。月明かりが窓から差し込んで、ベッドの上に陰影のオーロラを形作っている。  
部屋にかけられた時計を顎を上向けて眺めると、午前三時にさしかかろうか、というところ。  
ほんの少ししか寝ていないはずなのに、もう、ちっとも眠くなんかなかった。  
「起きたのか……」  
もぞもぞと動くティナに、気づいて、目を覚ましたのだろう。だらしない、ロッドの寝起きの声だ。  
「今……なんて言ったらいいのか、分からない気持ちなの」  
ティナは脇の下からロッドの首に腕を回して、安堵に包まれた表情で、頬ずりする。  
「ぐっすり寝てたぜ。あれで、終わりさ」  
「うん」  
ティナは自分からロッドを求めた。  
唇と唇を近づけて、あのキスの名残を味わうために。  
そっと触れ合うだけのキス。堪能すると、目を閉じたまま、胸から下へ手を滑らせていく。  
また、ロッドのモノが欲しくなった。  
凹んだみぞおち、割れた腹筋、臍、陰毛。  
可愛らしい、ロッドの……?  
ない。  
あるべきものが、  
ない。  
頬に伝わる感触が、ざらざらした毛糸に変わる。  
小さなふくらみ。  
縮まっていく身体。  
自分の肩を抱いているのは、固い……革……。  
カチャリ、音がなる。  
左肩にひんやり、感触が伝わる。  
四本の細い何かが触れている。  
……まさか。  
そんな。  
まさか。  
薄っすら目を開く。  
「いっ……」  
夢  
もしかして  
これは  
夢  
「おはよう、ティイ、な」  
火傷女がにやにや笑いながら、ティナの肩を抱き寄せている。  
「いやああぁッッ――――!」  
 
 

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