ソファーに横たわるの美女、清らかな水流をいくつも束ねた透き通る蒼き髪。
その瞳は物憂げな表情を称えて儚い光りをともしている。
年の頃は30歳程度といったところではあったが華奢な体躯が少女のそれを思わせ、
アンバランスな魅力を醸し出していた。
その美女は午後の日差しの憂さに気怠い時間を過ごし、雑誌など読みふけるのだった。
「はぁ」
ミーズは深いため息と共に雑誌のページをめくった。
読んでいるのは最近流行の奥様向け雑誌「ボン・ボャージュ」である。
結婚から2年が過ぎようとしていた。
愛する旦那様はストレルバウ学術研究所の臨時雇いの講師となって働いている。
講師といってももっぱら遺跡発掘の手伝いをして各地を巡っている。
それでも1週間に2日くらいは戻ってくるし、そんな日には
ミーズに優しくしてくれるので不満はない。
それでも最近のミーズは何かが満たされないように感じていた。
本当は今日は彼の帰ってくるはずの日である、しかし仕事の都合で帰れないという。
明日の朝には戻ると連絡があった。
たった1日ではあるが、1週間夫の帰りだけを待っている妻としては非常につらいのであった。
それに、彼が帰ってくると思って大量に精のつく食材を買い込んであったのだ。
午後に配達の人が届けてくれることになっている。
「ふぅ・・・」
ミーズは気怠い気持ちでまた1ページめくる。
内容と言えば奥様の好みそうな下世話な恋愛話やショッピングの広告などだが、
近所の奥様との共通の話題を持つ為にはこういった本を読むのも仕事のようなものである。
「はぁ・・」
さらに1ページめくったところで、ショッキングな見出しが目にとまる。
『うまく行ってるようでうまく行かない夫婦の法則』というページである。
ふんふん、と読みあさる。
「・・・の7割は子供が居ない夫婦であるが、結婚後の情熱が冷めてしまうとかすがいになるものも無く自然と倦怠期に任せて離婚してしまう」というものであった。
さらに「子供が欲しい旦那が、子供のできない奥さんを見限って・・・不倫に走った」
等というケースも書いてある。愛人の子供ができると離婚話が飛び出たというのだ。
思わず声を出して朗読してしまったミーズだが、まさかそんな事はうちの人に限ってあり得ない。
と、強く思うのだが、仕事であちこち飛び回っているあの人のことだから、どこに愛人がいても
ミーズには知れないことのなのだ・・・
背筋にゾッとはい上がるものがあった。
あの優しい真理(まさみち)がミーズを謀って外で不倫など考えようはないのだが・・・
読み進めると「不倫を隠している旦那は過分に妻に優しく接する。優しすぎると感じたときは要注意だ」ともある。
「まさか・・・そんなことあるわけがありませんわ」
ばかばかしい・・とばかりにミーズは雑誌を閉じて、うたた寝を始める。
起きているからつまらない妄想で悩むのだ。
子供が出来ないことに関してはミーズも気にしていた、
この1年近く積極的に子作りには励んできたのだがどうしてもその兆候はない。
まだ、1年・・・まだまだチャンスはあるわ・・と思いつつも・・・
出来なかったらどうしよう・・・と、悩み始めていた。
子供の出来ない夫婦は・・・という文面を思い出しながら夢の中をさまようミーズ。
あたしの赤ちゃん・・・真っ黒な世界で赤ちゃんを抱く幸せそうなミーズ・・・
しかし霧のように赤ちゃんはその腕の中で霧散してしまう。
虚しく自分のお腹を抱くミーズ、気が付くと真理が他の女と一緒に幸せそうに笑っている。
女は元気そうな赤ちゃんを抱いていた。
「待ってっ ダーリン!」
手を伸ばすがすぅーっと暗い闇に溶けるように真理と彼女は遠ざかって消えてしまう。
はっ!と我に返って目が覚めた。
いつの間にか夕方、になっていた。
ぐっしょりと寝汗をかいたミーズの肌に夕方の涼しい空気が冷たく突き刺さる。
心臓の鼓動が激しく打ちつけ、爆発するのではあるまいかと心配してしまう程だ。
それが恐怖心とか不安だとかそういったものの結果がもたらした鼓動だと
気が付くのに少し時間が必要だった。自己分析できないほど突発的に起こったのである。
やがて少し落ち着き、のそりと起きあがる。
「ひどい汗だわ。シャワー浴びなきゃ」
シャワーを浴びるミーズ。浴室に軽やかな水の音が流れる。
「ふぅ・・やだわ・・・私ったら」
しかし、真理はともかくミーズが赤ちゃんを欲しいのは確かである。
出来ないことに焦っていらついていることも・・・
「なんでダメなのかしら・・・」
放物線を描いて落下してくる水の粒を見つめながら、ミーズは自問自答した。
確かに真理は欲求が淡泊だが、しっかり愛してくれている。
「もしかしたら・・・ダメなのかも知れない・・」
相性が悪いと出来にくかったり出来なかったりするという事は聞いたことがある。
女の責任か男の責任かは分からないが、2人の体の相性は良くないのではないだろうか・・
そう考えると、身震いするほど不安になってきた。
「どうしたら・・・赤ちゃん出来るのかしら・・」
再び、自分に問いかける・・・
いつの間にかミーズは手で自分の股の間を愛撫しだしていた。
愛する夫を迎え入れる為、今日まで我慢していた女の性が吹き出てきたのであった。
何故、帰ってきてくれないの? 今すぐ帰ってきてこの不安を消して・・・
ミーズの自慰は次第に激しさを増していく。
やがて、気持ちよさをより長く味わおうとリズミカルにそれは繰り返されるようになった。
「あっあっあああ。いぃ、いいわぁ、まっ真理さん」
ぐちょぐちゅと、淫靡な音を立ててその指を受け入れるミーズの女性器はヒクヒクと
それを期待して蠢くのだった。
だけど、今は指しかない、ミーズは自身の指をそのクレバスへと侵入させていった。
じゅっぽじゅっぽ
2本の指が侵入を繰り返し擬似的なセックスの快感を呼び起こす。
「はぁ・・ん・・あっん。真理さん 真理さんっダーリンっ」
遠慮がちだった指の動きは徐々に貪欲に求め蠢くようになっていた。
ぐっぽ じゅぷぷぷ ぶっぽ ぐじゅ
「あああああっ いいっ いいっ いいわぁ」
高潮したミーズの貌はその昂ぶりに厭らしく歪みよだれまで流していた。
「はぁ・・まさみちさぁん。ミーズはミーズは・・イッ・・・」
シャワー室での秘め事がクライマックスを迎えようとしたとき・・・・
「奥さーん。居ないんですかぁ?」
ゴンゴンゴン
強くドアをノックする音が聞こえてきたのだ。
「おかしいなぁ・・・奥さーんっ!ご注文の品お届けに上がったんですけど」
すっかり忘れたころに、宅配が届いたのであった。
反射的にミーズはシャワーを飛び出てガウンを身に纏った。
居ない事にしてしまったほうが良かったのだが、
イケナイ行為に没頭していたミーズは急に現実に引き戻され慌てていたのだった。
髪の毛をナイトキャップに押し込むと、ガウンを纏っただけのそのままの格好で
玄関先に飛び出てしまうミーズであった。
「すみません、お風呂に入っていたものですから・・・」
肩で息を弾ませるミーズを戸惑いの表情で見つめる若い宅配の男であった。
ゴクリッとつばを飲み込む男・・・
「あらっ顔が赤いですけど・・なにか」と言いかけてハッとなるミーズ。
一応ガウンは着ているとはいえシャワー上がりの湯気の立つようなミーズの肢体は
その妖艶さを隠し切れないでいる。
「あっいえ・・すみません。三河屋っすけどご注文の品をお届けに上がりました」
帽子を脱いで挨拶をする三河屋店員、独身21歳健康優良青年。
青年の若々しい性には刺激的すぎるシチュエーションである。
照れ隠しに、
「結構、お買い上げになられたんですね」
と、その脇に積みあがったダンボール3箱を見ながらハハッと笑う青年であった。
ミーズは顔を赤く染め上げながら、
「すみません。部屋まで運んでくださいな」と
ぽつりと言った。
「えぇ、喜んで」
三河屋の青年はあくまで爽やかに対応すると脇のダンボール三つをよいしょっと持ち上げた。
「まぁ、凄いですね」
とミーズが驚く。
「一応、商売柄鍛えてるっすから・・」
青年は照れながら、ヨタッと歩き出す。