ざーーーーーーーー  
ぶぉーーん ぶぉーー  
ぱぱぁ ぱぱぁ  
 
ノイズのような音、機械の音、車輪の音。  
初めてこの世界に来たときには珍しくてたまらなかった  
様々なことが最近色あせてきているような気がする。  
ざわめく会話も同じ調子でループしているだけに聞こえる。  
なんだかすべてが無感動だ。  
 
ビルとかいう建物の1階、ハンバーガー屋の窓際の席に  
シェーラ・シェーラは腰掛けていた。  
洋服は菜々美に見繕ってもらった、ジーンズにジャケット  
それから帽子というボーイッシュな出で立ちである。  
一応、ブランドものらしいがシェーラはよく知らない。  
1面ガラス張りというエルハザードでは見たことのない作りの  
窓の外は、いくつもの車軸を通すかのような雨である。  
 
闇の中に吸い込まれる雨粒達の向こうをいくつもの光の目が流れて、  
連続する赤と白の川を産み出すさまを何を思うでもなくただ眺めていた。  
壁の時計を見ると時刻はすでに8時になるところだ。  
待ち人来ず。シェーラは多少苛立ち始めていた。  
 
やがて菜々美は時間よりかなり遅れてやってきた。  
「ごめーん。学校のクラブ活動が長引いちゃって・・」  
片手で拝むようなポーズで屈託無く謝る菜々美。  
だが菜々美はあわてて走ってきたのか  
傘をさしていたにも関わらず肩口がべったりと濡れていた。  
それに気がついては怒れるはずもない。  
それにシェーラのための用事に菜々美を付き合わせているのだ。  
「ったく、しょうがねーな。菜々美は」  
と、ため息をつく。  
昔は誠をめぐって争いあったが、  
イフリータという公認の彼女が現れ  
あきらめざるを得なくなった2人は、  
境遇に対する共感からすっかり仲良くなったのであった。  
セーラー服のまま駆けつけた菜々美を席に座らせ、  
「おぅ、菜々美は何にするんだ?」  
「あたし、エビマカロニチーズバーガとドリンクはオレンジ」  
「解ったぜ。じゃアタイが買ってくっからよ。待ってなっ」  
と、そんなやりとりの後、シェーラはレジへと向かう。  
「ありがと、シェーラ」  
その間にシェーラの残したポテトをついばむ菜々美。  
数分の後、エビマカロニチーズバーガの乗ったトレイとともにシェーラが戻る。  
「っと、なぁ菜々美・・今日はちょっとひどい天気だしまた明日にしないか?」  
今日はまた菜々美に相談しながら洋服の数着でもショッピングして帰る予定だったのだ。  
しかしこう雨がひどいと、服の買い物という気にならない。  
「えっ・・明日も部活遅くなるかも。今度の日曜にしようよ」  
このときシェーラは菜々美のこの言葉を何の裏もなく受け取った。  
「ああ、それでいいぜ」  
 
「にしてもよ、もう少し前だったら濡れずにすんだのに、ついてねーな菜々美」  
雨は1時間前くらいから降り出したのだった。  
定刻通り帰ってくれば、降り始めに間に合ったかも知れない。  
「しょうがなかったんだもん。もうじき文化祭で」  
聞き慣れない単語が出てきたのでシェーラは菜々美に尋ねる。  
「へぇ、なんだいそりゃ、お祭りかなんかの一種なのか?」  
最近、こっちの世界の知識を知ることが楽しみの一つとなっている。  
 
そんなシェーラに菜々美は文化祭という風習を説明した。  
 
「ふーん」  
「うちはレストランの出し物をする予定なのよ。でね、店内の内装だとかいろいろ  
 あるんだけどうちって部員少ないじゃない。  
 ほかの部員にも献立とかいろいろやってもらわなくちゃならないし、  
 あたしは部長だし一番年上だからね、ソッセンして働かなくちゃならないわけ〜」  
 ふーん、と相づちをもう一度ついてからシェーラが提案する。  
「アタイも手伝おうか? こう見えても力仕事だって結構いけるぜ」  
思えばこちらの世界に来てから何でも彼女に依存してきたシェーラであった。  
菜々美との女の友情の様なものを強く感じて手伝いを申し出るのも当たり前の流れではある。  
 何気ないようでいて真剣みのある申し出だ。  
 だけど菜々美は少しとまどったようにして、シェーラの好意を断った。  
「えっ・・・いいよぉ気にしないで。  
 それに東雲高校の生徒だけでやらなきゃ意義みたいなものが薄れると思う、うん。たぶん」  
「変なプライドがあるんだなぁ」  
 まぁ、別に納得できない理由も無いので、少し落胆しつつもそんなものかなと流してしまう。  
「でも、当日は遊びに来てね。腕によりをかけてご馳走しちゃうから」  
と、力こぶを作るまねをしてみせる菜々美。  
「ああ、楽しみにしているぜ。菜々美」  
白い歯を見せてにかっと笑うシェーラ。  
 
雨はすっかり上がっていた。  
あれから30分程度でお開きとなり、菜々美と別れて家路につく。  
 
今シェーラはアフラとともに誠の知り合いの小さなお寺へお世話になっている。  
住職がなぜか留守にしがちなのは気兼ねが無くていい。  
たまにおみやげを持って戻ってきては、いろいろ世話を焼いてくれるが、  
すぐにまた旅に出てしまう。  
そんなとき住職の用事を訊ねてみても決まって、  
「ふっふっっふ、それは秘密です」  
である。  
全くもって謎が多いが、この年老いた老僧にただならぬ  
オーラを感じてしまう時があるのも確かだ。  
怪異と戦う修験者のようなものかも知れないな、とシェーラは思った。  
そういう存在はエルハザードにもいたのでなんとなくそんな気がしたのだ。  
その類はどちらの世界でもずいぶんと胡散臭い部類なのだが、この住職の  
無類のお節介によりシェーラとアフラはずいぶん助けられているので、  
それ以上は詮索をしないことにしている。  
 
ガラガラと横スライド式のドアを開けるとすでにアフラが玄関口に待っていた。  
「おかえり。シェーラ。えろう遅かったんどすな」  
「おぅ、ただいま。アフラ」  
シェーラが靴を脱ぐ様子を見下ろしながらアフラが、  
「あんたはんが、いない間に桜海はん。帰ってきてらしたんどすえ」  
と、ため息をついた。  
「じじぃ、帰ってたのかよ。で、居るのか?」  
シェーラにとっては別にどうでも・・といった感じでもあるが、御ある人物ではある。  
「もう出かけてしまやはったよ」  
腰に手を当て、いつもの事なのにといった感じであきれ顔のアフラ。  
「まぁいいや。で、なんかあったのかい」  
「なんもおまへん」  
と二人居間に向かうのであった。  
「あ、そへんお土産があったんどすえ」  
 
アフラは思い出したように、居間のちゃぶ台に鎮座したそれを指した。  
毛筆で生八つ橋と書いてある。京都とかいうところの銘菓である。  
だからといって「じじぃ京都に用があったのか」と思うと実際はそうでもない。  
以前、土産で白い恋人とウナギパイと紅葉まんじゅうという取り合わせも  
あり、いったいどこをどう旅したらこれだけ銘菓が集まるのか疑問に思ったほどだ。  
シェーラだって日本地図くらい見たことがあるのだ。  
見ると八つ橋は殆ど残っていない。そーいや、アフラのお気に入りだ。  
「安心しよし。まだこんなにあるんどす」  
ため息のアフラが指さす先には畳の間の隅に積みあがった八つ橋・八つ橋・  
八つ橋・八つ橋・八つ橋・八つ橋・八つ橋・八つ橋の箱。  
「桜海はん、うちが好きやいうたら、こないたくさん買ってきてくれはりましたんや」  
日持ちのしない生八つ橋がどっちゃり積み上がってるのを見て  
「一体どーするんだい。まったく」とシェーラもさすがに呆れる。  
「配って歩くしかないどすなぁ」  
困り果てる二人。  
「じゃあ、とりあえず誠にでも持って行くか」  
シェーラは久しぶりに誠の家に遊びに行く口実が出来たとばかりに  
八つ橋の箱を2つ3つ抱えて、席を立った。  
 
時刻は9時過ぎ、まだ寝ては居ないだろ。  
そう考えながら雨上がりの空気を含む夜道を清々しい気分で歩くシェーラ。  
誠の家は近いのだが、イフリータも居るしなかなか遊びに行くのに気を遣ったりしていたのだった。  
お互い身を引いた菜々美との手前、抜け駆けするような後ろめたさもあったし・・  
ともかく久しぶりに誠に逢える。  
ただ八つ橋を渡して軽く会話して帰ってくるだけの事だがつい浮かれてしまう。  
気がつくとぽつぽつと雨が降り出していた。  
「ちぇっまたかよっ」  
歩いても5分くらいの短い距離である。  
あわてて走るとあっという間に誠の家の前についた。  
ごく普通の2階建ての一軒家である。  
その呼び鈴を押すと、  
「はーい、どなたやろか」  
と、誠が玄関先に出てきた。ラフな部屋着のままである。  
「あ、シェーラさん。どないしたんです?」  
「あ、あのよ。アフラの奴が喰いきれねーって言うからよ・・  
 いや、じじぃがお土産で八つ橋がぅ」  
思いっきり台詞を噛むシェーラ。顔は火を噴きそうな程赤い。  
「ああ。桜海さんのお土産やな。わざわざ持ってきてくれたんですか。  
 おおきにシェーラさん」  
 ほほえむ誠。シェーラはすっかり舞い上がって八つ橋の箱を誠に押しつけると、  
 くるりときびすを返して走り去ろうとする。  
「あ、まってーな。シェーラさん、ちょっと雨宿りでもしていかへん?  
 それに傘くらいかしますよ」  
「あっ・・あ・・でもよ・・イフに悪りーしよ」  
もじもじしてしまうシェーラだった。  
「そのままじゃ風邪引きますよ。部屋でタオル貸しますから」  
「好意をむげにするのもわりぃーし。仕方ねーかな」  
などと照れながら誠の誘うままに部屋へと上がり込むのだった。  
 
 

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