「…もう、これしか残高がないのか…」
俺はノブレス携帯を見た。もう、ほとんど、使ってしまっていた。
でも、俺に、何ができだたろう?
あのW番のおっさんも言っていた「たった100億で、この腐りきった国を変えられるわけがない」みたいなことを…
その時、携帯が鳴った。
咲ちゃんからメールだ。あれから、毎日メールが来る。
一度も返事していないのに…
咲ちゃん、申し訳ないけど、俺は、もう、死ぬんだ…
咲ちゃん…
…ふと、俺は思いついて、携帯中央のボタンを押した。
「Juizです」
「実は、森美咲という人物のことを、調べてくれないか?…その子に、想いを寄せる人について」
「…受理されました」
「バイク便です」
その結果は、そんなに長いこと待たずに届いた。さすがはJuiz。
俺は封筒を開いた。
「大杉君…幼馴染なのかな…よさそうな奴じゃん」
俺は、すかさず携帯中央のボタンを押した。
「Juizです」
「なぁJuiz、残高を全部使って、バラの花束、買えるかな?」
「少しお待ちください…ええ、数十本ほどになります」
100万本のバラ…ふと、そういう歌があるのを思い出した。歌詞は知らないけど。
100万本はもう買えないけど…でも、そんなにあるより、抱えられるくらいのほうがいいだろう。
…よし。
「さっきの資料の、大杉君っていう奴に、残高全部を使ってバラを贈ってくれないか」
「大杉様に、ですか?」
「メッセージをつけて。“これを、咲ちゃんに”」
「……受理されました」
そして、俺は、初めて咲ちゃんに返事のメールを書いた。
「いままで、メール、ありがとう
俺のことは、忘れてくれ」
俺は、この国を、正しい方向に導くことは…できなかった。
でも、一人の女の子の運命を、正しい方向に、導くことは…できたと思う。
俺は、メールの送信ボタンを押し、眼を閉じた。
-Fin-