魔女とその猫は、いわば主従関係。  
魔女は猫を従え、猫は魔女に力を与える。  
 
ボクとサララもそう。  
サララはボクと一緒にいるから、アイテム鑑定の能力を使えるんだ。  
だからといって、四六時中一緒にいなきゃいけないわけではなく、  
たまには一人になりたいときだってある。  
 
…ボクはないけどね。  
ずっとサララと一緒にいたい、  
一緒にいることが、ボクの生きている意味。  
…そう思っているんだけどね。  
ボクの魔女はそうは思ってないみたいで、  
このところ、やたら一人になりたがる。  
 
ま、ボクも、どうしても!っていうわけじゃないし、  
普段は一緒にいられるし、  
一人にさせてっていうときだって、そんなに長い時間じゃあない。  
ちょっと外へ出かけて、だんじょんの町をぐるうりとしてくるだけでいいんだ。  
 
でもちょっとだけ、何をしているか気になる。  
一人になりたいってどんな時?  
ボクが邪魔になるときってどんな時?  
そう思ったとき、どうしても答えが知りたくなった。  
だから、たった一度だけ、…一度だけ、  
出かけたふりをして、ボクは窓の外からのぞいたことがある。  
 
「…ん」  
サララはベッドの上にいた。  
服は着たまま、コロンと横になっていた。  
なんだ、眠かっただけか。  
そうならそうと言ってくれれば、一緒に仮眠を取ってあげるのに。  
「……あ」  
…いや、違う。  
ようく見ると、なにやらもぞもぞと体が動いている。  
「はぁ…」  
ぴちゃ…ぴちゃっ…  
ボクはその音を聞いて、何をしているのか理解した。  
「うあ……。ん…」  
そういうことなら、言ってくれればいいのに。  
自分の手でするより、気持ち良くしてあげられるのに。  
窓に背を向けたまま行為に没頭しているサララに、ボクはしばらく見とれていた。  
「ああ…、アイオンさん…」  
 
ボクがのぞき見たのはその一度っきり。  
サララは、夜中にアイオンが店にやってくると、  
その次の日、必ずと言っていいほど毎回、一人になりたがった。  
サララが求めているのはボクじゃない。  
あの、魔法候補生なんだ。  
ボクじゃないんだ…  
サララはあいつが好きなんだ…  
「ねぇチョコ。」  
そらきた。そういや昨日もあいつ、店に来てたっけ。  
「そろそろ、夜の準備しよっか。」  
そういうとサララは、カーテンを閉めて、窓に置いてある札を「準備中」に変えた。  
窓とカーテンの隙間から、夕やけの赤い色が差し込んでいる。  
『…ボク、外回り行ってくる。』  
夜が来る空を見上げ、期待を込めたまなざしでたたずむサララの姿を、  
ボクは見るに堪えなかった。  
サララは何も言わずドアを開けた。  
ボクも何も言わず、町にかけだした。  
 
ふと気がつくと、町はすっかり夜の闇に覆われていた。  
ボクは広場の隅っこで丸くなって、空をずっと見ていた。  
黒い影がボクの前に降り立つ。  
…今一番会いたくないやつだ。  
そいつはボクを見て、そのあたりを見渡した。  
「…サララはいないのか。」  
『…もうお店、開いてる時間じゃないの。』  
「…今日は、店、開かないのか。」  
ボクの声は、ボクの主人以外には聞こえない。  
なのにアイオンは何度もボクに訊ねてくる。  
「サララはどこだ。」  
『だから、お店にいるって。閉まってるんだったら、開くまで待てばいいじゃん。』  
「…」  
アイオンはらちが明かないと思ったのか、踵を返し、店の方向へ歩き出した。  
『窓にカギ、掛かってないよ。』  
アイオンは一瞬だけ立ち止まって、夜の闇に消えていった。  
 
…ボクの声は、アイオンには聞こえてない。…はず。  
…もし聞こえてたとしても、そんなまさか、あのアイオンが窓から侵入なんて。  
それに、まさか、こんな長い間ひとり遊びしてるわけないし、  
いくらなんでも、お店開けてるよ…ね。  
それにそれに、もし、たぶん、万が一!  
ひとり遊びの最中で、アイオンが窓から侵入…なんてことになったら、  
……嫌われちゃえばいいんだ。うん。  
でも、まさかね…  
まさか…  
ボクは猛ダッシュでお店のほうへ駆けだした。  
 
「サララ。ここにいたのか。」  
サララはびくっと肩をすくめ、硬直していました。  
なんでアイオンさんが窓から入ってくるの…!?  
予想もしていなかった出来事に、頭の中が真っ白になり、  
いままでしていたことそのままの姿で、何一つ身動きがとれません。  
「サララ?」  
肩に手をおかれ、ひゃあ!!と叫び声をあげるサララ。  
その手からは、アイテム「かきまぜ棒」がこぼれおちました。  
それをアイオンが拾い上げます。  
ぬるっとしたさわり心地。不審な液体が「かきまぜ棒」にこびりついています。  
それをしげしげと見つめるアイオン。顔を上げられずにいるサララ。  
アイオンは「かきまぜ棒」についてる液体をそっとなめとり、サララの手をとりました。  
「あ…」  
そして、サララの手に付いている同じものを、同じように丁寧になめとります。  
「やあ…!なに…」  
アイオンはサララのスカートの中に顔をいれました。  
「見ないで…」  
スカートを抑えてその部分を隠すサララ。  
しかしサララの抵抗は弱く、すぐさまその手ははじかれ、  
隠していたものが、アイオンの目の前にさらされました。  
「や!」  
アイオンは自分の指をそれに挿入し、顔をスカートの中から出しました。  
アイオンはただ黙って、サララを押し倒します。  
サララは下から駆け上ってくる快感に、なすすべもありませんでした。  
 
ボクが戻ってきたときには後の祭り。  
全然開く気配のないお店を不審に思って、裏庭から入ったのがまずかった。  
お店には誰もいなくて、屋根裏部屋から明かりがもれていた。  
階段を上るごとにはっきり聞こえてくる、サララのちいさな喘ぎ声。  
きしきしと、床が、ベッドが、きしむ音。  
サララはアイオンに犯されていた。  
服は着たまま。手を握り合い、口づけを幾度も交わしながら、  
胸も、足も、頬も、全部、全部、あいつのもの。  
心も、体の中も、全部あいつのもの。  
 
 
ボクは部屋の中に転がっていた「かきまぜ棒」を持って、外へ出た。  
ボクは、サララがこれを使ってひとり遊びしていたのを知っている。  
そしてこれは、あいつがサララに売ったものだっていうことも知っている。  
ボクは「かきまぜ棒」を裏庭に埋めた。  
 
 
…さて、と、  
邪魔でもしよかな♪  
 
 
 
「かきまぜ棒」  
 
おしまい  
 
 

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