ぢりぢりぢりぢり……
皮膚が焼けてく音が聞こえてくる気がするよ。
今日も太陽は町を照らしてる。照らしすぎて、石畳から湯気が沸いてるくらい。
ボクらのお店は、いつから砂漠に引っ越したの?
手ぬぐいと雪のカケラが飛ぶように売れていく。
懐はあったかくなったけど、「あったかい」って言葉を聞くだけでげんなりしちゃうね。
窓から入ってくるかすかな風だけが生命線だ。ボクは日陰で丸くなってる。
サララは買出しに行こうって言ってるけど、はっきり言って自殺行為だ。
初めてのダンジョン探検に魔法使いグループを連れて行くよりひどい結果が目に見えてる。
第一、こんな時、忙しく動き回っても溜まるのはお金じゃなくて熱だけだよ。賢い猫のやることじゃないと思うな。
「もう! みんなが働けない時に働くのがいい商人になる秘訣だって、ガメッツさんも言ってたじゃない」
サララ。理想と現実は、かけ離れたものなんだよ。特に、猫にとってはね。
耳をペタッと閉じて寝返りを打ちながらサララを見上げる。
緑色のとんがり帽子。ピンクのリボン。白と緑のエプロンドレス。丸っこい顔の半分を覆ったピンクの髪の毛。
サララはいつものサララだ。町の人はみんな薄着でも汗だくなのにさ。
……ちょっとおかしくない?
「マジメに働く気持ちがあれば、暑さぐらい平気なの。ほら、チョコも頑張って!」
サララ……そういう台詞はね……。
ボクはシャンと立ち上がるや否や、サララの肩に飛び乗った。
背中と胸の辺りを前脚でポンポンと叩いてあげる。ここかな? それともこっち?
「きゃっ、ちょっ…チョコ、なにするの?」
サララの顔色が変わる。つまり…両方ってことだね?
襟のところからササっと首をつっこんで…
「や、やめてぇーーー!!」
ササっと抜き取る! 青白くてキラキラ光る宝石が二つ。
本日の目玉商品、「雪のカケラ」。
ひんやりした輝きが回りの空気まで冷やしてく。うぅん、気持ちいい!
「か、返してよぉ」
ふっふっふ。甘いよサララ。
全部売り切れた割には売り上げがおかしいと思ってたんだよね。
ボクだってこのお店の在庫管理ぐらいキチンとしてるんだから。
こんなモノを独り占めした上に「気持ちがあれば暑さぐらい」なんて、サララも随分悪賢くなったもんだね。
「はぁ……あ、暑ぅ〜〜」
サララもへたり込んで汗をかきはじめる。そんな厚着じゃ、暑いのも当たり前……
…でもないか。
さっきと比べれば肌がジトッと汗ばんではいるみたいだけど、この酷暑を正面から耐え忍んできたボクの目は欺けないよ。
「サララぁ〜〜。汗のかき方が足りないよねぇ」
「え? そ、そう?」
「まだ隠し持ってるんでしょ? 雪のカケラ」
「あ、あはは……うん、実はそうなの。だからその二つはチョコにあげるね」
サララ……。この余裕は最低あと三つは持ってると見たよ!
「全部よこせーーー!」
「ダメーーーッ!」
逃げ回るサララ。追っかけるボク。基本的に、猫は魔女より素早くできてる。
背中に飛び乗ってユッサユッサと服を揺さぶってやる。
「こらーーーっ!」
背中に手を回すサララ。だけど、魔女の身体は猫ほど柔らかくない。届くもんかー。
そして振り回した袖口から、キラッと光る青い宝石を、ボクの瞳は見逃さない。
「ハイ、一つ見っけ!」
袖に飛び移って引っ張りながらカケラを奪う!
「チョコったら!」
捕まえようとするサララの腕をかいくぐって、足元をグルグル回る。
…うん? スカートの中から冷たい空気……。
「また一〜つ!」
スカートの中にもぐりこんで、内側にくくりつけられたカケラを咥えてもぎ取る!びりびりっ!
「後一つはあると思うんだけどなあ。かぼちゃパンツの中にでも隠してるの?」
「いやぁん! そんなわけないでしょ!」
アヤシイんだけどなあ、このフワッとしたスペース…
さわさわ。
「こらぁ! いい加減に……!」
キュッ、と首筋を撫でる柔らかい感覚。
サララがスカートごとボクの首を掴んで持ち上げたんだ。
基本的に、魔女は猫よりパワフルにできてる。
「うぅぅ、あきらめないぞ〜〜」
ボクもスカートとパンツに爪を伸ばして食い下がる…
「チョコッ! このぉ……!」
「むむむむむむむむむっ!!!」
「こんにちは、サララさん。今日も暑いですね」
爽やかな声。
……………………。
雪のカケラが暴発した…わけでもないのに、空気が凍った。
気がつけば……。
来店してたライアット。
スカートをめくり上げた姿のサララ。暴れたせいで胸元も乱れて白いワンピースが見え隠れ。
……10秒。
「キ ャ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア!!!!!!!」
耳をつんざく悲鳴と一緒にサララが雪のカケラを放り投げた。全部。
投げた先にはライアット。
……全治一週間だって。
おかげでサララはしばらくの間、お見舞いのために毎日お城まで出かけることになった。
この暑いのにさ…。
あーあ。
やっぱり、暑い時には丸くなって寝てるのが一番って、これは教訓だね。
「雪のカケラ」
お し ま い