サララの寝覚めは良い。
寝ようとすれば、一分と掛からずに夢の世界へ行けるし、
起きる時間は、起きようと思った時間に30秒とズレがない。
その反面、寝ている間は何が起きても目覚めない。
今回はアイテム収集を目的だ、とサララは話した。
商品の在庫が切れかけてるとか。
『くだらない物でも、買っていく客がいる』らしく、商品となるアイテムなんぞろくに落ちていないはずだが、
一階からダンジョンへと潜ることになった。
雑魚は我々を避けていく。
たまに遭遇しても、アイテム売買やらで何の鍛錬にもならない。
もうこれ以上探しても何も出ないだろう、というところで、やっと次の階に進む。
こんな具合だから、ここ五階を探索し終えた時には、我々の疲労も相当のものだった。
普段は、この酒場の休憩所なぞ利用しないのだが、今回ばかりは、そうもいかなかった。
だが…
「眠れん」
俺の目は冴えていた。
コレだけ疲労しているにもかかわらず、眠れない。
眠ろうと意識すればするほどに、睡魔は俺から逃げていく。
俺は、簡易ベッドから降り、酒場へと足を運んだ。
酒場にはモンスターと冒険者が何の諍いもなく談笑している。
ここはある意味、理想郷だ。
酒の酔いが博愛主義者の様な考えをもたらす。
そんな中、騎士と思しき男と、…あれはエンペル…か? …が女性評に華を咲かせていた。
「…だよな?だよな!女の子はやっぱり、ボン!キュッ!ボン!!てな具合に、出るトコは出て、締まるところは締まっているのが最高だよな!」
「フッフフフ、女の子は、締まるトコロは締まっていながらモ、出るところは出てない身体が良いんでーす!」
「例えば、盗賊ギルドのルビィちゃん。
あの如何にも天然姉御を狙ってます!ッて感じと、あのグラマラスな身体がなんとも良い味を…」
「アの勇者! ミー達に楯突く小憎らしい女ですガ、あのツルぺタな感じが堪りませ〜ん!」
話が噛み合っていない。
あの騎士は獣人の少女にも声をかけていたはずだが……先物買いか?
…エンペル…お前にそんな趣味があったとはな…。
人は見かけによるものだな。
内容は下らないながらも、会話の噛み合ってなさが、滑稽で、俺は火酒を口にしつつ、しばらく二人の会話に耳を傾けていた。
数人の女を評した後に、話がサララに及んだ。
「いや〜、サララちゃんはきっとあの服の下は、こう、ロリ巨乳ってやつ? 魅力たっぷりな…」
「あの魔女っ娘も、中々に良いですネ〜、きっとあの服の下にはツルペッタンな魅力たっぷりの…」
変態共め。
妙に気分が悪くなったので、俺は休憩所へと戻ることにした。
?
ディスとラヴァが居ない。
酒場に戻り、マスターに尋ねてみると、二人は少し前に連れ立って外に出たとか。
そうか。
あの二人はそんな仲だったか。
追いかけるのは野暮というものであろう。
酒で、心地よく揺れる思考は、俺を寝床へと誘った。
「眠れん」
何故か眠りにつけない。
酒が余計に目を冴えさせたか…?
俺は身体を起こした。
ふと、辺りを見回すと、他の客がいない。
ここに居るのはサララと俺(とスヤスヤと眠る猫)だけになっている。
そのサララに目をやると…普段の物静かな彼女からは考えもつかないほどの寝相の悪さで、ベッドからずり落ちていた。
酔いの頭痛とは別の頭痛を抱えながら、彼女をベッドへと戻しにかかる。
ふと、あの二人の会話が脳裏を過ぎる。
考えてみるとサララの着ている服は、彼女の体型を全くと言って良いほど、外に出さない。
奇妙な好奇心が、俺にその服をはがす事を要求した。
とは言え、全裸にしてしまうと風邪を引く。
軽くめくるだけにしよう、という答えに至る。
ゴソゴソと、サララの上着をめくる。
柔らかい汗の匂い。
地味と言うか、簡素なキャミソールが目に入る。
膨らみが『意外と』大きいことに気づく。
しかし、身体のラインは華奢と言えるほどに細い。
着痩せか?着太りか?と、自問しながら、今度はスカートをめくる。
こちらもまた、地味な下着。
そして、それをずらし、何故か毛の有無を確認する。
そこには、産毛ほどの毛もない。
その形は煽情的というよりも、『綺麗だ』という方が正しい、と俺は思う。
スカートの中から顔を出し、彼女の全体像を目に入れる。
そう言えば、彼女の髪の毛の下はどうなっているのか? と言う疑問が湧く。
そっと、サララの額に手を当て、髪をかきあげる。
優しい、可愛らしい寝顔がソコにはあった。
サララの頬に手を当て、親指が唇に触れる。
心地よい柔らかさ。
唇を重ねると、少しだけ寝息が荒くなる。
身体を起こすと、今度はキャミソールごと上着をめくる。
形の整った膨らみが見える。
口付けたい。
その欲求に素直に従い、
膨らみの間を、下部を、先端を、
口付け、吸い、舐め、啄ばむ。
サララは目覚めない。
が、呼吸がほんの少し乱れている。
奇妙な感情。
胸焼けの様な、感覚を引き起こす。
一通り胸に口付け、満足すると、再度、スカートの中に顔を入れる。
先ほどとは違う匂い。
その匂いに引き寄せられるかのように、彼女の股間に吸い付く。
下着越しに下で突き、舐(ねぶ)り、舐めまわす。
物足りないので、下着をずらし、直接、同じ様に口で愛撫する。
サララの呼吸は先ほどよりも荒い。
あっ、はっ、という呻きと共にサララの身体は少し震え、
彼女の性器から口へと、何かが少し勢いをつけ流れ込んでくる。
嫌悪感・不浄感はない。
サララは出し終えると、また、静かな寝息をたて始めた。
睡魔が頭を、身体を襲う。
俺は、サララの服を元に戻し、寝床に横たえ、自分の寝床に戻る。
眠りの闇が意識を満たした。
出立時間になり、俺は二日酔いとは違う頭痛を抱えていた。
眠っている女を手篭めにするとは…。
サララへの申し訳なさと後悔が、襲い掛かってくる。
サララは何も知らず、俺にいつも通りの笑顔を見せている。
「すまない」と、彼女に謝るが彼女は不思議そうな顔をしていた。
言えない…。
二日酔いのラヴァと寝不足のディス。
そして、頭痛のする俺。
それぞれが体調不良を訴えた為、我々はもう一泊する事になった。
サララは気の毒そうに俺達を見つめると、
ベッドに潜り込み、早くも寝息をたて始めていた。
「あラひの酒が飲めないってかぁあ〜!!」
ダンジョン六階は酒の匂いが充満していた。
そこには、モンスター・冒険者が何の諍いもなく、どんちゃん騒ぎをしていた。
「らいたい、あいオんさまわあの魔女にかた入れひふぎなんら!
わたひが、こんらにも…こんらにも!お慕いもうひているのに〜!!!」
舌足らずで泣きながら愚痴をこぼし、脇に生きた生首を抱え、酒を浴びるように飲むラヴァ。
そして少し離れた所で、静かにちびちびと酒を口にするディス。
ラヴァは酒乱の気があり、しかも酒で潰れないという、厄介な性質(たち)だった為、
ディスは他の客に迷惑をかけないよう、酒を飲み始めた彼女を外に連れ出したのだが…。
彼女は日頃の鬱憤から周囲に当り散らし、誰も彼もに無理矢理、酒を飲ませ、ついにはフロア一つを宴会場にしてしまっていた。
ディスは、彼女の酒が抜けるまで、と思っていた。
が、酒の匂いに釣られてきたモンスター・冒険者達が、
その場に酒を補給してしまうものだから、彼女の乱行は収まる様子を見せない。
おかげで、彼は戻る機会を失い、騒がしさの為に眠れず、ただひたすらに、酒を口にしていた。
「……助けてくれ…。」
助けを求めるも、それを聞く者はなく、彼の呟きは、酒の匂いとその場の喧騒に消えていった。