サララは激怒した。
必ず、かの残忍冷酷のアイオンを更正させねばならぬと決意した。
サララには種族の違いなどわからぬ。
サララは町の商人である。品を売り、猫と遊んで暮らしてきた。
けれども、人の恋路の邪魔する輩には、人一倍敏感であった。
今日未明サララは町を出発し、山を越え谷を越え、地下35階あるこのダンジョンにやってきた。
サララは父と共に暮らしていない。
母とも暮らしていない。
夫はおろか、彼氏さえもいない(ただいま募集中?)
お調子者の猫と一人と一匹暮らしだ。
この猫は、幼い頃、捨てられていたのを不憫に思い、拾ってやり、今では何故か対等な口をきく様にまでなっていた。
要するに普通の猫よりも手が掛かるのである。
サララは、それ故、その猫の餌代を稼ぎの為(?)に、
はるばるモンスターを追剥ぎしにこのダンジョンに来たのだ…ちなみにチョコは留守番中である。
まずは、雑魚モンスターを一蹴し、そこらに落ちているアイテムを探し当てダンジョンを練り歩いた。
サララには片思いの相手があった。
アイオンである。今はこのダンジョンの30階で、魔王をしている。
そのアイオンを、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねていくのは ドキがムネムネ♪ である。
雑魚を屠りつつアイオンの居る間に近づく内にサララは、ある嫌な噂を思い出していた。
魔族の勢力がこの国の王女を人質として要求しているというのだ。
無論、政治的なことがあるのは当たり前で仕方がないが、
けれども、なんだか、アイオンがそんなことをするのは、とても悲しい。
のんきなサララもだんだん不安になって来た。
そんな時、具合よく襲い掛かってきたドラゴンをボッコボコにし、真偽を問い詰めたが、すでに息は無かった。
しばらく歩いて、雪の女王に襲い掛かり、今度はもっと手加減して倒し、真偽を訊ねた。
雪の女王は怯えていて答えなかった。
サララは両手に光線銃を構え、再度尋問した。
雪の女王は震えた声で、わずかに答えた。
雪「魔王様は、この国を滅ぼします。」
サ「何故、そんなことを?」
雪「人間は愛とか希望とか、下らない幻想を抱いている、と言うのですが、誰も、それこそが幻想だ!と諫言する者は居りません。」
サ「そんな理由で、どうしてもこの国を滅ぼすと言っているの?」
雪「はい、始めに人質を要求して、途中魔物に襲わせて殺し、人質が来ない事を理由に、攻め滅ぼすおつもりなのです。」
サ「驚いた! でも何故そんな回りくどいことを?」
雪「それは、王女と騎士のライアットが大恋愛の末、結婚をするからでしょう。愛など力の前では幻想に過ぎないとおっしゃられるのです。
このごろは、魔族の中にも愛を唱えるものがおりますので、見せしめかと。
あと一週間の後に、王女は殺されるはずです。」
聞いてサララは激怒した。
サ「なんて事なの! アイオンがそんな酷いことを考えているなんて!」
サララは単純な少女であった。戦利品を背負ったままのそのそ魔王の間ままで入って行った。
すぐさま彼女は魔王に謁見が叶った。
話し合う内に、アイオンが余りに分からず屋なので、激昂し、『愛を教える!』と訳の分からない事を叫ぶと、
アイオンをひん剥き、自らもルパンダイブよろしくな速度で素っ裸になってしまった。
ア「な、何をするつもりだ!?」
アイオンは豹変したサララを前に恐れを隠し、素っ裸で、威厳も何も無く、問い詰めた。
その顔はいつもより更に蒼白で、眉間の皺は刻み込まれたように深かった。
サ「アナタの策謀で引き裂かれそうな二人を、愛を知らないアナタを、そして何より、既成事実を作って私(の恋路)を救うのよ!」
とサララは悪びれずに答えた。
ア「お前とか!?」
途端、アイオンは寂しそうに微笑んだ……全裸で。
ア「お前に、俺の孤独を背負わせるわけにはいかない…。」
サ「お黙り!!」
とサララはいきり立ち、強引にアイオンと唇を重ねた。
サ「愛を知らない事は、最も悲しい事よ…。それによって他人を傷つけることも。」
ア「あ、愛など幻想だと、示しているのはおまえたちだ!
…他者の心など、あてにならない。
人も魔族も私慾の塊だ。信じては裏切られるのがおちだ…。」
アイオンは落着いて呟き、ほっと溜息をついた…………全裸で。
ア「俺だとて、始めから愛を求めていなかったわけではない…。」
サ「だったら私が教えてあげるわ?!」サララはアイオンの萎えている陰茎を口に含んだ。
サ「ふぁふぁあ、ふひほはいひほふぉふぉろははいへ!(だから、罪のない人を殺さないで!)」
ア「や、止めろサララ、咥えたまま喋るな!」アイオンは苦痛に顔を歪めた。
〜〜〜中略〜〜〜
サ「アイオン。」サララは眼に涙を浮べて言った。
サ「私を叩いて。 力いっぱい叩いて。私は途中で一度、浮気をしかけたわ。
アナタが私を叩いてくれないと、私はアナタと抱擁する資格もないの。叩いて」
アイオンは全てを察した様子で、手に持った鞭で辺りに響くほど音高く、サララのお尻を打った。
打ってから、優しく微笑み、
ア「サララ、俺を殴れ同じくらい音高く俺を殴れ。俺はこの三日の間、たった一度だけ、お前以外で射精した。
出会って、はじめてお前を裏切った。サララが殴ってくれなければ、俺はお前と抱擁できない。」
サララは両手に『手袋』をはめると、腕に唸りをつけて、アイオンの股間を握った。
サ「アイオン!」サララはアイオンに、ひしと抱きつき、それから達成感と嬉しさでおいおい声を放って泣いた。
アイオンは悶絶していたが。
周囲からも、歔欷の声が聞こえた。 アイオンは、顔をより蒼くさせながら、サララの顔をまじまじと見つめていたが、
やがて落ち着くと、顔を赤らめて、周囲に言った。
ア「サララは俺に愛を教えてくれた。サララは俺の心に勝ったのだ。愛とは決して空虚な幻想ではなかった。
俺は愛を否定したりはしない。お前達も愛するものを得るがいい。」
どっと周囲に、歓声が起こった。
「万歳、魔王様万歳、サララ嬢万歳」
一人の男がサララに手錠をかけた。サララは、まごついた。アイオンはハッと気づいて教えてやった。
ア「サララ、お前は全裸ではないか。早くその男に付いて行くといい。その男は公衆猥褻罪の容疑でお前を捕まえにきたのだ。」
サララは牢に入った。