目を開いたら、見知らぬ天井が広がっていた。  
 
うまく動かない体を揺り動かす。ゆっくり体を起こせば、ギシリとベッドの軋む音がした。  
ボクは小さく頭をゆする。いつの間にかほどかれていた長い髪がバサリと揺れる。  
 
ボクは辺りを伺った。  
今ボクが居る場所は非常に女性らしい部屋なのに、どこかアンダーグラウンドな空気が流れる不思議な部屋だった。  
 
「気が付きましたの?」  
 
声のした方を見る。其処には赤毛の美女が居た。  
 
「ルビィさん…」  
 
ルビィさんはボクの方に寄るとやんわり笑って。そして、ボクの隣に腰かけた。  
 
「具合はどうかしら?熱は無いようですけど」  
 
彼女はボクの額に手を伸ばし、自分の其処と熱さを比べた。ボクは小さく首を振る。  
 
「…あまり」  
「あらそう。もうすぐサララちゃんが薬を届けてくれるそうだから、それまでは我慢してなさい」  
「はい。あの、ありがとうございました」  
「気にしなくて良いのよ」  
 
彼女はやんわり笑う。  
その会話の後、暫くは沈黙がその場を支配した。  
 
ボクは正直何かを話したい気分では無かったし、ルビィさんだって事情を突っ込んでくるほどヤボな性格はしていない。  
これでボクと魔王候補とが深く愛しあっていて、それを目撃した…となれば事情は別なんだろうけど。  
そもそも、ボクらはただの顔見知りに過ぎないのだ。話すような事は、実はあまり無かった。  
 
頬杖をついていたルビィさんは、足を組み変えて僕を覗き見た。  
 
「一つだけ聞いても構わないかしら」  
 
少し考えたけど、どんな質問が来てもボクは困らないからと頷く。それを確認してから、彼女は口を開いた。  
 
「何でサララちゃんじゃなくて、貴方が…?」  
 
そう思うのも無理はない、んだろうか。この人から見ても、あの二人が…というのは明らかなのか。  
ボクはほどけた髪の一束に指を絡ませながら、小さく自嘲して答えた。  
 
「邪魔だった、みたいです」  
 
「…邪魔?」  
「はい。ボクは勇者でアイツは魔王ですし…何より」  
 
 
「ボクは、サララさんの事が好きだから」  
 
ルビィさんの表情が固まった。  
そりゃそうだ。突然こんな話になれば誰だってドン引きだよね。  
女の子なのに女の子が好きになった、なんて。  
 
「…あたくしも、サララちゃんが好きよ」  
 
うつむいたままボクは首を振った。何でか、泣きそうになった。  
 
「そういう意味じゃ…ないんです」  
「でしょうね」  
「…おかしいのは、解ってるのに……」  
 
後半は言葉になってなどなくて、まるでただ音を垂れ流しているよう。  
だけどルビィさんは何も言わず、ただボクの話を聞いてくれていた。優しく頭を撫でてくれた。  
 
「こんな気持ち、神は、許さないのに…」  
「良いのよ。アスカちゃんは神様じゃないもの」  
「…ルビィ、さん」  
 
ボクはすがるように彼女に抱きついた。  
 
柔らかいなぁ、と思った。  
すごく女の人らしい感触だった。ボクの様に筋肉質な訳でもなくて、……ボク、何考えてるんだろう。顔が熱くなった。  
 
ふと、額に柔らかい感触がした。  
何かと思えば、ルビィさんがボクの額にキスをしていたのだ。訳が解らない。顔は一気に赤くなり本日の最高温度を示す。  
 
「な、ななななな、何を…」  
「ただのおまじないでしてよ?可愛い勇者様にご武運あれ…という」  
「え」  
 
柔らかく微笑む彼女に、ボクの胸が大きく高鳴る。  
……もしかして、ボクってそういう性癖が………考えない事にした。  
 
「どうなるかはサララちゃん次第ですもの、あたくしの知った事では有りませんわ。でも、貴方の応援はしていてよ」  
 
それからルビィさんは適当に荷物をまとめて、夜の町へと繰り出して行った。  
仕事なのだそうだ。勇者としてそれは止めねばならない気がしたんだけど、そうする気力すら沸かなかった。  
 
ボクは再び、柔らかなシーツの海へ体を投げ出していた。  
 
「アスカさん!!」  
 
心配そうに叫ぶ、彼女の声が聞こえるまで。  
 

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