肩に触れただけで、折れるかと思った。
細く白い。砂糖菓子を思わせるような脆い作り。
自分とは明らかに違うそのカラダ。壊さないように慎重に触れる。
髪が踊る。自分が与えたストーンのヘアピンがきらきらと輝く。
やはり似合う。自分目に狂いが無かったことに安堵しつつ、髪に口付ける。
「せんぱい、その」
恥ずかしそうに目を伏せる。赤い頬、たどたどしい口調。
全てがこの俺だけのモノ。
「あまり見られるとその……恥ずかしい、です……」
その仕草の一つ一つが男を煽ることを、この無垢な『少女』はまだ知らない。
胸を隠すように覆った手を掴み、開くともう一度苗字を呼ばれる。
「……違う」
「えっ?」
「お前が呼ぶべきなのはその名前じゃあ無いだろう?」
そう言いながら『印』を刻んでいく。甘い。声も、そのカラダも。
「で、でも……ひぅ……」
「あまり聞き分けのないことを言うな」
羞恥に耐える表情。同じ組み敷くような体勢でも、敵を倒すこととはまた違う感情がざわめく。
「だ、だって……」
うるませた瞳をめいいっぱい開いて、懸命にこちらに言葉を向ける。
「先輩だって……名前……」
そこから紡ぎ出されるのは、恋人からの何とも可愛らしいおねだり。
「……クッ……そうだったな」
身体を近づけそっと耳元でささやく。すると途端に顔を赤くする。
まだ赤くなるのか、などと思っているとそのまま顔を逸らして拗ねた表情。
「そんなに簡単に言えちゃうだなんて、ズルい」
――やはり、この『存在』は俺を捕らえて話さない。
あの日、俺の側を選んだ時から、俺もまた誓いを立てた。
誰のものにもしない。一生ほれ込ませて、まして手放してなどやるものか。
「本当に……ズルいです、正義さん」
名前を呼ばれた瞬間、全身の血が顔に集まったような気がした。
「……おりこうさんだ」
何かを言おうとする唇を塞ぐ。動揺や、この高鳴った悟らせまいと考えながら。