秘密の特典。
ちゃんとパンッパンッとして、皺を伸ばしてから物干し竿にと掛ける。
今日は素晴らしく快晴のお洗濯日和だった。
「ホント、ずぼらねぇ」
三月はそんな風に“やれやれ”と呟きながらも、眼だけはよく見れば“にこにこ”と笑っている。
溜まっている一樹の洗濯物の山。
毎度のことではあるが、満更でもなさそうだった。
最早パンツを手にするのにも抵抗はない。
どころかパンツがないと物足りなさを、何故だか覚えてしまうほどだ。
世話焼きの母親のように、勝手に部屋に入り回収してきたのだが、今や完全にこれが三月のライフワークである。
だがこれも決して、三月だけの特権というわけではない。
うかうかと油断していると、鼻歌混じりで、弥生が洗濯をしていたりするのだ。
最近はその努力は買うが、ろくな結果にならないのがわかっているのに、Dまでもが挑戦しようとしたりする。
なかなかに競争率は高いのだ。
しかしここ五回というものは連続で、三月が権利を得ているので、鼻歌が出るほどにすこぶる機嫌は良い。
「ふふ〜〜ん、ふ〜〜ん〜〜、ふふ〜〜ん」
お目当てのパンツを手にしながら、“にこにこ”と楽しそうに笑っている姿。
美人だけにこんなのまで際立ってしまう。
他人から見れば少し、いや、かなり不気味なのだが、本人はそれに、まるで気づいている様子はなかった。
なんとかは盲目とはよく言ったものである。
しばらくすると、
「…………」
その現在周りが見えなくなっている人は、パンツを持ったまま、辺りを盛んにキョロキョロとしだしていた。
不審者丸出しである。
そしてもう彼女は、周りだけでなく、自分も見えなくなっているみたいだった。
思い切ったようにガバッと、押し付けるみたいに勢いよく、じわじわと赤くなってきていた顔を伏せる。
どこに?
答えはぎゅっと手にした一樹のパンツにだ。
「…………」
これも毎度繰り返されていることだが、三月の秘密のお楽しみの一つなのである。
とはいえ。
もちろん事の最初から、それがパンツのような、世間的にハードルの高いものだったわけではない。
シャツを軽く抱きしめるとか、可愛いところから、これでも一応はスタートしたのだ。
「…………」
まあ、そうフォローはしてみたものの、あの母にしてこの娘で、元から素質の方はあったのかもしれない。
アブノーマルな階段を駆け上るのに、それほどの時間はいらなかった。
「すぅ〜〜ふぅ〜〜」
この場に人がいたならば、耳を澄まさなくとも、ではなく耳を塞いでも聴こえてきそうな音。
鼻孔から肺の奥まで達しそうなほど、深く吸い込み浅く吐き出されている。
速いテンポ。
それを三月は何度も何度も、飽きもせずに繰り返していた。
「…………」
ああ、どうしようどうしよう。これじゃまるっきり変態じゃない。もしも一樹くんに見られでもしたら…………。
頭ではわかってはいるけどやめられない。
ぐるぐると思考は迷走しているが、蒼い心と若い身体は、たまらなく高揚していく。
けれどやっぱり美人は得。
やっていることは、ど真ん中ストライクで変態なのに、恥辱の色に染まったその表情は、妙に色っぽかった。
艶かしい。
もじもじとお手洗いでも我慢するように、内股になって太ももを、小刻みに擦っているのがまたそそられる。
何かを堪えている美女はどうしょもなく美しい。
「ああ〜〜ん、もうっ!!」
だが三月にはそれもすでに限界だったようで、真っ赤な顔をパンツから離すと、握り締めたままダッシュする。
自分の部屋へと全力で駆け出した。
洗濯物はさわやかな風に吹かれたままの、ほったらかし状態で、とにかく、自分の部屋へと一目散に駆け出す。
ここ五回の洗濯の、これも毎度の光景である。
そして、
「…………」
三月がいなくなったのを確認して、木の陰からひょっこりと姿を現したD。
とてとてと近づき、残っているパンツを手に取る。
「すぅ〜〜ふぅ〜〜」
彼女はまた一つこうして、人間の女性というものを学習した。
『あのあとは、ナニをしていたのですか?』
一樹と三月が一緒にいるときに尋ねて、真っ赤な顔の大剣幕で怒られたのは、また別のお話である。
終わり