夕日の差し込む畳張りの部屋、正座をする身体がプルプルッと震えている。両足はもう限界が近い。  
さっきからチラチラッと、“四加 一樹”は同じように正座する女性へ、許しを求めるような視線を  
送ってるのだが、“真田 三月”は時折思い出したように本をめくるだけ、悠然と無視する。  
その表情からは、怒っているのかどうかは読み取れない。ただ気まずさだけが、じんわりと密度を増していく。  
「ふぅ〜〜ん 一樹クンは、こういうのに興味があるんだ……」  
 一通り本に目を通し終えると、三月はやっと顔を上げる。その目は冷ややかだ。  
「あの、それは、その…」  
「いぃ〜〜のよ、別に… 一樹クンも男の子だもんねぇ でも…」  
 そこで溜めるように一拍おく。  
「ロリコン趣味があったとはねぇ」  
「ち、ちがいますよ」  
「な・に・が・ち・が・う・の・よ!」  
 本を一つ一つ指し示しながら、三月は一言一句嫌味なほど丁寧に、言葉を切って言い放った。  
だが目の前に並べられている本の嗜好は、正確にはロリコン趣味ではない。  
「これは、その、…妹趣味です」  
 一樹がそう言った瞬間、三月の形のいい眉がピクリッと跳ね上がる。  
 
「なに、それ?」  
「いま、流行ってるんです」  
 正しい説明をしたからといって、それが不幸を遠ざけるとは限らない。三月の目がスゥ―ッと細められて  
鋭さを増す。  
「それで、例えば“D”とかに欲情するとか?」  
 Dというのは、三月も含めて、この真田家に一緒に住んでる、そのものズバリッ、妹属性の女の子だ。  
「よ、欲情て、そんなこと」  
「あら? 妹好きなら問題ないじゃない」  
 三月の永久凍土の目の底に、嫉妬の炎が灯っているのを一樹は気づいてない。  
「ありますよ、十分」  
 ……三月さん、今日はずいぶんからむなぁ……  
 一樹はどうしてこうなったのかを、思い出してみる。多分発端は昨日、三月がこの部屋に入ったときだ。  
おそらく掃除でもしてくれたんだろう。  
一樹が深夜、こっそりとエロ本を見ようと隠し場所から取り出すと、微妙だが位置がずれていた。  
そのときは気のせいかと思ったが、朝から三月の視線がなぜか冷たく、一言もしゃべつてくれない。  
訳がわからずそのまま学校へ、終わって家に帰って来ると、まるで一樹を待っていたように部屋に乗り込み、有無も言わさずエロ本を突きつけられ、正座させられた。  
 ……よく考えたら…なにも悪い事してないよなぁ?……  
 そうは思ったが三月の前では言えない。言わせない迫力が、三月にはあった。  
 
「Dと、キスとかした事は?」  
「ありませんよ!」  
 その答えに、三月は一樹にバレないよう、そっと息を吐くと、  
「じゃあ…… お姉さんとしてみる?」  
 心臓がバクバクッと早鐘を打っている。さり気なく、年上の余裕を見せていったつもりだ。彼女の中では  
アカデミー賞も狙える最高級の名演技。もっとも、彼女の母親が見たら『可愛いわね』と言うだろう。  
そして一樹の、この一世一代に対する名演技の答えは、  
「はぁ?」  
 なんとも間の抜けたものだった。まったく想定していなかった答えに、三月は耳まで一気に赤くなる。  
そしてキレた。  
「だからキスしてやるって言ってんの!!」  
 顔をグイッと寄せて睨みつける。でも真っ赤な顔じゃあ威力半減だ。目尻にはうっすらと涙がにじんでる。  
「それとも、やっぱり妹じゃないと……ダメ…なの?」  
 上目づかいで一樹を見つめる。三月の唇は、リップを塗ってないのに桜色だ。  
その桜を見て、ゴクリッと一樹の喉が鳴った。  
「…いえ、そんな事は」  
「じゃあ、いいよね…」  
 三月は軽く目を閉じ、こころもち顎を持ち上げて、ゆっくりと震えながら、顔を、唇をよせる。  
 
                                        続く  
 

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