私立片倉学園
特異遺伝因子保持生物(通称アヤカシ)甲種が通う、ここは学校である
ここでは、甲種の中でも比較的若く 人間社会に不慣れなアヤカシが日々様々な知識を身に付けている
帆村夏純もその一人だった
他の例に漏れず彼女も若いサラマンダーのアヤカシだ、歳は10歳前後だろうか、見た目では20代後半といっても違和感はない、が
正確な歳など本人も憶えていない
そんな彼女は今、制服であるセーラー服に身をつつみ校門をくぐる
いつもの場所、いつもの光景 の筈だった
いつもではないことが、起きた
「片倉学園長・・・」
そう、呼ばれた姿がそこにあった
「おはよう夏純ちゃん」
少女のような、かわいいとも称されるいでたちの学園長、ひとつの志をもとにこの学園を開いた
自身、若きアヤカシ
「放課後、理事長室まで来てくれるかな」
「は、はぁ・・・」
突然のことで曖昧な返事になってしまった
「ん、アリガト」
どうやら肯定にとってくれたようだ
「じゃ、待ってるよ」
そういって非日常は去っていった
朝の出来事はなるべく考えないようにした
しかし、あのセリフが頭からはなれることはなく、授業は上の空のままチャイムが終わりを告げた
(とりあえず、行くしかないかぁ・・・)
すばやく身支度をすませ、教室を後にする
はたして理事長室とはどこだったか
今まで縁のなかった場所だけに思い出せない
そこいらの教員をつかまえて場所を聞き、着いたときには30分が経過していた
「失礼します」
ノックをして中へ入る
そこでは安楽椅子に腰掛け、柔らかく微笑む片倉優樹その人がいた
「やあ、突然言って申し訳ないね」
・・・今朝のことだろう
「いえ、ところで何か用ですか?」
片倉さんはクスクスと笑った
「ごめんね、そんなに硬くなることないよ、そうだなぁ・・・」
「じゃあ、私のことは“優さん”とでも呼んでもらおうかな」
突拍子もないことを言う人だと思った
「ゆうさん、ですか?」
「そ、優さん。それと、敬語もなしね」
「はぁ・・・、しかし何故かた・・・優さんは私をここに?」
まだぎこちなさが抜けないな、と自分でも思う
ふと、優さんが安楽椅子から立ち上がり
「何でだと、思う?」
不敵な笑みをたたえ、そう言った
沈黙が流れた、気まずいと感じたのは私だけの様子
優さんこと片倉学園長は、先ほどとうってかわって、にこやかに微笑んでいた
「すいません」
わかりませんと言う意思表示だが、優さんは少し困った顔だった
謝られてもなぁ・・・、といったところだろう、私が目をそらしかけたとき
「私はね、夏純ちゃん」
優さんが口を開いた、心なしか目が据わっている・・・
「夏純ちゃんのことを、もうどうにかしちゃいたいくらい大好きなんだよ・・・」
・・・・・・。
・・・この人(正確にはアヤカシだが)は、なんと言ったろう?
聞き間違い?ありえない、こんな近距離で
アヤカシの聴力は人間の比ではない
なら聞いたままが正しいのだろう
(参った・・・)
もしかして発情期だろうか、アヤカシにはそんなものがあるらしい
(て、こないだの授業でやったなぁ)
なんて反応に困っているうちに、優さんが近づく
私は動けなかった、どうすればいいのか分からなかったのだ