ここは、寂れていった田舎町。金が取れるだの未確認飛行物体が落下しただの、色々な噂が流行っては廃れていく町。  
 文明の利器と呼べるのは電話ぐらいのもので、農民一筋の人間も多くいた。教会すらない。  
 そのためか、不用とされているものも多く見られる。民家と思われる場所に干されている洗濯板にちょっとしたカルチャーギャップを持った。  
 シスターと少年という組み合わせの二人は、決して手を離さずに旅をしていた。風呂も着替えも睡眠も、常にこの状態を保ったまま。  
 何ヶ月経ったのだろう、そして何年続くのだろう。ゴールは見えるが、道程が分からぬ道をただひたすら進んでいた。  
 旅の途中立ち寄ったこの町で、止まり木を見つけた渡り鳥のように休息につとめた。  
 一時期は流行っていたようで、大通りにある建物は皆大きい。潰れる前はさぞ繁盛していたのだろう。  
 今となっては、当時を生きた人に、猫を抱くような穏やかな口調で話してもらう以外に、その姿を知る術は無いのだが。  
 入って少し進んだところには、町で最も大きな酒場がある。廃れることなく今なお続くここは、町民がいっときの気休めにと散財する場所で、娯楽施設もかねていた。  
 せっかく町に来たのだから、食糧を買い込んで自炊するよりも、料理を本業としている人の飯を食った方がいいと思うのは自然なこと。幸いお金に余裕はある。  
 廃れることなく残るには、料理が美味いという条件もある。噛むのを忘れて口へ運び、その味わいに舌つづみを打った。  
 水っ気の無い保存食に慣れていた胃はすぐに満腹になるが、それでもやめず、肉や魚の山に埋もれ、水とジュースの洪水に呑まれる。  
 野生の動物はいつ食事にありつけるか分からないため、動物園で出される適量の数倍を一度に摂取し、食いだめするという。  
 二人とも世間体を気にせずに胃が許す限りの食事をした。  
 会計の際に二人は驚いた。普段の倍以上も食べたのに、値段は以前の町で立ち寄った大衆食堂よりもずっと安かった(そのときも食いだめした)。  
 自給自足で成り立つのか、どうもお金というものにあまり頓着がないようだ。  
 酒場の隣には、これまた大きくて、ボロいせいで余計に恐怖を感じさせる個性溢れる宿屋があった。  
 着いて一日目なのに出て行きたい。とはいえ、外の天気はどんよりと曇っている。雨を漏らすのも時間の問題。  
 この町を出て行くと、大自然が土のベッドを濡らしてそこらに用意して待っている……気が滅入った。  
「お化けとか出たら営業していないだろうな。大丈夫だ」  
 気休め程度の説得力があった。  
 
 幸い、幽霊だのお化けだのが出る宿屋ではなさそうだ。  
 安心して、二人は一つの部屋を取った。宿帳に書かれている日付は、今から二週間ほど前に旅の者が泊まって行ったのが最後だった。  
 本当に寂れている。少し散財していった方がいいのでは? と思うほど。  
 これから霊的なものが出たりしないよな……? と思うのは疑りすぎだろう。多分。  
 
 月の光が、暗雲に包まれ、辺りは暗闇が一層濃くなった。  
 草木は寝息のようなおとなしい呼吸を細々と行い、軒下では犬猫が身体を丸めて静かに寝入る。  
 人もまた談笑をやめ、ある者はベッドに横たわり、ある者は酒を傍らに椅子に擡げて、いびきを出しながら身体を休ませていた。  
 シスター・エルレイン・フィガレット(通称エルー)は、天災、あるいは父親の頭の終わりのように突然やってきた大音で目を覚ました。  
 普段は寄生生物五匹が弾け飛んだような酷い寝癖になっていたのに、  
 この日は髪が少々うずを巻く程度で目が覚めたことから、睡眠の浅さを伺うことができる。  
 エルーは、遮られた睡眠が惰性を持っているのかのようにしばし意識が定まらなかったが、  
 再度同じ音がしたときに、眠気ははるか彼方へと吹き飛んだ。  
 それは、雷のようで、けれども猛獣の唸りのようでもあって、さらに赤ん坊の泣き声のように耳に深く残る異様な音だった。  
(……ガゼル!?)  
 真っ先に頭を横切ったのは、シスターを狙う暗殺集団の名であった。  
 暗殺の名に違わず、対抗する力を持たないシスターが何人も彼らに殺されている。  
 出会ったら逃げろという教会の指導が、抽象的ながらも現実的に恐ろしさを物語る。  
 それまで虚空を見ていた瞳が、カーテンで遮られた反対側で寝ている男へと向けられた(カーテンのせいで見えないけど)  
「キリさん、キリさん! 今の音……」  
 夜中、目覚めていないかもしれない彼――キリ・ルチルを起こそうと、  
 彼女は振り絞った清廉な声を放つ――口を、キリが手で押し込むように制止した。  
「むぐっ! むう〜〜!」  
「静かに。ガゼルだった場合、位置がばれるとマズイ」  
 エルーはじたばたと、本能的な危険を察知して暴れていたが、キリの腕の中で、握られたように大人しくなった。  
 月は雲に覆われている。月の光も届かない暗闇では、視力がほとんど役に立たない。  
 その代わり、五感の一つを断ったことで、聴覚が普段以上に発揮する。  
 ガゼルの足音が聞こえる。カツカツと、床の木と靴の金具らしき音がぶつかり、静かな屋内に高い音調が響いている。  
 キリの判断は正しかった。エルーの声は、鮫が血を感じ取るようにガゼルの者を二階へと誘ってきたようだ。  
 あと数秒続いていたら、この部屋に呼び込み、ベッドを不吉な意味で赤く染めてしまっていただろう。  
(このまま……やり過ごすんですか?)  
 エルーの声がか弱く心もとなく聞こえるのは、ばれないように小声であるだけではなさそうだ。  
(できればそうしたい。勝てる保証はないし、隙を見て逃げたいと思う。  
今は脚力も倍だからな)  
 繋いだ手を頼り気に見た。  
 ガゼルの者の足音は、自分達へと着々と近づいてくる。その一歩一歩が、死神の足音のように不穏に本能に呼びかける。  
 幸いなことに、鼠も呆れる寂れた町、他には誰も泊まっていない。巻き添えを食らう人はいない。  
 いや、よく考えると全然幸いなことではない。  
 他に人が居ないということは、人がいると判断できる場所に自分達がいると告げていると同じことではないか。  
 思い出が思い出を呼ぶ。泊まるときに記入した宿帳には、しっかりと名前と日付を書いている。ご丁寧に部屋番号まではっきりと。  
 目印をつけて神経衰弱をするようなもの、外すわけが無い。  
 宿帳の存在を思い出したキリの行動は、銃弾の初速よりも早い。エルーの身体を抱え、重さに一瞬だけ身を沈め(失礼)、そのまま窓に蹴りをいれた  
 耳に刺さるような鋭い音が響き、そのすぐ後に外に飛び出たガラスが地面に衝突する音が町の静寂を破った。  
 ガゼルの者は、その音に一瞬驚き、すぐに顔を醜悪に歪めた。歩幅が大きくなり、走り出した。  
 
「あんた、準備はいいかっ!!」  
「は、はいっ!」  
 窓ガラスが割れた際の騒音に続いて、一階の端まで届くキリの肉声。  
 エルーが反射的に返事をするまでには彼女の意思の介在は無く、ただ呼びかけに答えただけで、何の準備もしていなかった。  
 身に纏う服は寝巻きのまま、寝癖は本領を発揮してはいないものの、人目を引くには十分。  
 何よりも、二階から下を見た際の風景に、己の身を投じる心の準備が。  
 
 
 二人のやり取りが行われてから5秒の後、ガゼルの者は二人の部屋へと入り込んでいた。  
 宿屋の鍵をぶち破った音で、標的の二人が目を覚ましているのは承知。音を誤魔化すこともなく、体当たりで部屋のドアをぶち壊した。  
 壊れたドアと共にガゼルの者が入ったとき、既に彼の視界には物しか移っておらず、標的は消えていた。  
 鋭い眼光が、夜風に揺られるカーテンを突き刺す。赤子の頭ほどある大きな拳が岩のように固く握られ、骨のこすれあう音が嫌に響く。  
 歯軋りを鳴らしながら、窓から身を乗り出して確認を取った。  
 あくまで、彼が取ったのはどっちの方へ逃げたかの確認。虎のような力強い脚力を持ってすれば、  
 決して手を離さず、二人三脚しているような状態の二人に追いつくなど動作も無いこと、と思っていた。  
 右? 左? それとも意表をついて上? 足が出番を待ち、武者震いをして待機している。  
 目を汲々と動かしていると、急に後頭部に熱いものがはしった。  
 彼は、その熱いものの正体に気付くことなく、意識が暗闇へと沈まっていった。  
 頭には大きなこぶ、そして、彼の背後にはキリが疲れの混じった声を吐いて立っていた。  
 キリの手には、大型の槌が青筋目立つほど強い力で握られている。これで叩かれれば、牛だろうと熊だろうと失神まで追い込める(という触れ込み)。  
 勿論、仰々しく構えたところで当たるわけがない。そのため、キリは確実に相手へと叩けるように背後を狙った。  
 ガラスを割り、わざとらしいほど大声を出すことで敵の注視をわざと向けさせる。自分達は息を殺して隠れ、機会を待つ。  
 エルーの重量が加わることで、多少運びにくかったが、割れた窓の印象があまりに強いため、しばらくは相手の注意を受けなかった。  
 相手が窓へ身を乗り出すと、キリは素早く行動するため、苦汁の決断ながら今まで繋いでいた手を離し、エルーを残して単身、隠から攻へと移った。  
 結果的に、無事にガゼルの者の意識を飛ばすことができた。  
 かすり傷一つ負わない完勝。その代わり、攻撃へと移っていた間だけは、キリはエルーと繋いでいた手を離すことになってしまった。  
 男は意識を失い、窓のふちに上半身をぶら下げた状態だった。再び、静寂が辺りを覆い始めた。  
 嵐が去った後のような静寂を破ったのは、激しく咳き込むエルーだった。  
 伏した身体には大量の発汗が起き、むせる彼女の姿は、自分にも移ってきそうな苦しさであったが、放っておけない弱さの方が遥かに目立つ。  
「出てきてもいい、早く!」  
 キリの合図と共に、ベッドの下からエルーがさっと出てきた。  
 すぐにキリと手を繋いだ。それまで息継ぎなしで潜っていたものが呼吸をするように。命を身体に行き渡らすように、深く、強く。  
 
「大丈夫か!?」  
 キリは、隠れていただけのエルーに気遣いした。事情を何も知らない者が聞いたら、首を傾げてこう思うだろう。「何でエルーの方を心配するの?」と。  
 答えは単純、彼女はキリから手を離したまま放置しておくと消えるからだ。透明になるのではなく、空気中に溶けるようにいなくなってしまう。  
 トロイと呼ばれる病気特有の病状だった。700年前より、10億もの命を奪ってもなおも衰えを見せぬ奇病。  
 感染による死亡率は100%、歴史上類を見ない天敵であった。  
 トロイの本名は透過病といい、名の通り感染した者の身体を、春の淡雪のように消え去ってしまう。有効な治療法はない。消えた後はどうなるのかも分からない。  
 唯一、症状を軽くする方法がある。シスターという生まれつきトロイに対して強い抵抗力を持つ人の肌に触れ、身体に溜まった毒のようなものを移すことによって、症状を軽くすることができる。  
 しかし、これは船底に開いた穴から注ぐ海水をバケツで排水するような行為であり、穴がふさがれるわけではない。  
 それでも、シスター達は夭折を恐れずに、何百人という人達の毒を吸い出す。  
 
 老若男女、全てに死が定められているように、トロイにかかると消滅というのも、感染と同時に定められるものであった。  
 結局のところ、トロイを防ぐ方法は、感染者に直接手で触れないことに留まり、進歩は数百年間一向に見られない。  
 エルーは8歳の頃よりシスターとして活動し、他のシスターの倍以上も多く毒を吸い出したため、  
 20に満たないにも関わらず、既に末期――消滅への門は開かれていた。  
 
 トロイにかからない例外を、シスター協会は長年求めていた。その例外さえ居れば、トロイの原理もとけるかもしれぬ、治す道が見つかるかもしれぬ。  
 例外となる者は、全てのトロイ病患者の希望であった。  
 そして、トロイで消えない例外がキリであった。彼には、トロイそのものが移らない。毒の捌け口になろうと、全く変化が無い。  
 末期の患者であるエルーも、キリに触れている間だけは消えることなく、ふくよかな肌を保つことができた。  
 逆に言えば、手を離したら消えてしまう。末期のトロイは、熟柿主義とはかけ離れた気の短さだ。結露も溶けるような僅かな時間しか、二人は離れることができなかった。  
 衣食住を共にするという表現では到底足りない。常に片手がふさがれた状態というのは、ガゼルに命を狙われた際に死亡率が上がることに直結する。  
 日常生活にも支障を来たす。しかし、それでもキリはエルーと手を繋ぎ続けることを貫き続けている。  
 
 キリの意思の強さを表す一つの談話がある。  
 キリは一応絵描きで、その腕前は折り紙つき。木炭と紙だけなのに、まるで生きているかのような生命感のある絵を描く。  
 しかし、「いつかあんた(エルー)の絵も書いてやるよ」といったきり、筆を置いていた。  
 他にも手先を使う仕事(造形や肉体労働など)は通常通りに行うものの、なぜか絵だけは描かなくなった。  
 絵を描く技術は、時間が経てば生物のように衰え、名馬が駄馬になるやもしれぬのに、絶対に筆は握らない。  
 エルーと手を繋いで以来、彼は絵を一度も描いていない。片手では書きにくいということではなく、自分につける枷のように考えている。  
「とりあえず、どっちかの手はあんたに貸しているわけだから、使わない。  
俺の旅が終われば返してもらうけどな」  
 こう言うほど、彼なりに決意を決めていた。  
 
 この非常事態にあって、1分ほどの時間、キリがエルーの手を離していた。  
 その間にエルーの身体は、服を残して、水に色がついたような状態になり、健康的な彼女の肌が消えかかっていた。  
 消滅の危機に陥っている彼を見て、キリの額から玉のような汗が垂れた。元来心優しい彼は、目の前で救える人を見過ごすなどできない。  
 寸刻を争う勢いで彼女の手に直に触れると、瞬く間に元の通りの肌の色を取り戻し、トロイの感染者だと見た目には分からないまでに元を取り戻した。  
 場の収束に伴い、二人の間にほっとした暖かな空気が流れる。繋がっている手を通じて伝わる体温が、部屋に広がっていくように。  
(……あ)  
 一瞬でも消滅しかかったことに対する体の反応として、エルーは身体にジトっとした汗を浮かべていた。  
 人間は一日のうちに3リットルの水を外に出すが、このままだと4リットルを軽く超えてしまう勢いで滲み出る。  
 汗ばんだ背中が気持ち悪い。エルーの気分は優れないものとなって、表情に死相のように表れた。  
「すごい汗だけど平気か?」  
 探偵のように鋭敏な観察力で、キリはエルーの様子に気付いた。  
 エルーは「何でもありません」と答えようとしたが、繋がっている手にも汗が握られている。とても誤魔化せる量ではなかった。  
 手の平を電導するように汗が伝い、玉となって手の端より落ちた。蚊の羽音ほどの音も無く、床に当たって爆ぜて飛散した。  
 零れるほどの汗を出す人が居ると、自分なら気遣って声をかける。キリも自分のように優しい青年で、行動は考えるよりも早かった。  
「ちょっとごめんな!」  
「わぷっ!」  
 エルーの視界が、雪のような白一色に満たされた。正確には夜の暗闇と混ざって、鼠のような灰色なのだが。  
 口と鼻が何かに覆われ、息苦しさが彼女の身体に舞い込む。顔の上を覆う何かは、己の意思を持つように額を中心に円形に動き回り、やがて顔から離れていった。  
 何かが顔を覆っていた間は目を開けず、ようやくエルーが目を開いたのは、顔を覆っていた何か  
 ――無地の白タオルが、彼女の顔から喉へと下っていたときだった。  
「な、何をしているんですか?」  
 抵抗というほどでもないが、ささやか程度に身を引いてキリを見据えた。彼の手に軽く握られたタオルには、おしるし程度の湿りがあった。  
「何って、このままだと風邪をひくかもしれないだろ?  
風邪はよくないからな。喉は痛いし耳はがんがんするし」  
 キリの手が再度彼女の柔らかな身体へ伸びた。  
 毒気の無い瞳は、どこまでも真っ直ぐにエルーを見つめている。  
 異性の身体や、性的なことなどやましい考えは今の彼の頭には影も無く、純粋にエルーの身体を気遣ってのことだった。  
 生やましい考えがなければ、善意に動かされている行動は止まることがない。  
 首や顎の汗を拭くと、手は滑るように細いうなじへ伸びていき、赤ん坊にするような大きくも優しい手付きで汗を拭き取った。  
 うなじを拭くときにエルーは引き寄せられ、キリの胸の中に収まった。  
 繋がった手などとは比べ物にならないほど広範囲に渡って、彼の体と触れていることにエルーは頬を赤く染める。  
「……ひっ!」  
 擽られるようなこちょこちょした感覚に表情が緩み、我慢から漏れた声を小さく出す。子猫のように、愛らしい声が出て、恥ずかしさが込み上げる、  
 そして、込み上げた恥ずかしさは再び発汗を誘発した。湧き水のようにたまった汗は彼女に更なる汗をかかせることになった。  
 
 汗は、自然の流れに従って身体の上を滑り、背中へ落ちていく。  
 それまで風のように忙しなく動いていたキリの手と、目が止まった。  
 汗ばんだ身体は、水噴きをかけた果実のように瑞々しく、成年男子であるキリの性欲を素直に刺激している。   
「このままだとまずいって……あんたはシャワー浴びた方がいい!」  
 思い立ったキリの行動は跳ね馬のように早い。  
 護身用の短剣を懐に忍ばせると、手を引っ張り、エルーもろとも寝室から少し離れたところにある風呂場へ駆け下りる。  
 キリの厚意にあやかり、エルーはシャワーで汗を流すことにした。  
 手を離すと消えてしまうので、片手で衣服を脱ぎ、袖を通すときだけ反対側の手をキリの肩にかけることで、露ほどの時間も離れずに服を脱いだ。  
 この器用な脱ぎ方も、何十回と繰り返すうちに、このような汗が身体に張り付いた状態でも難なく行うようになったのだから、慣れとは凄いものだ。  
 
 建物も内装もおんぼろで、シャワーホースもお湯が出るのが不思議なほど崩れている。  
 水の噴射口にある金属は錆びついて焼け爛れたように赤く変色している。きちんと透明なお湯が出るのだが、どうにも鉄分が混ざっていないかと疑ってしまう。  
 取っ手の部分にはガムテープが何重にも巻かれてお粗末な修繕の後が見られる。ガムテープには年月が感じられ、ところどころ変な糸が垂れている。  
 そして、エルーに限らず女性にとっては非常に痛い点だが、場をしきるカーテンがミイラの包帯のようにぐずぐずと朽ちており、  
 所々穴が開いていて反対側が見え、裾の部分には黒いカビが胡麻を捲いた様に生えている。  
 客商売として、せいぜい及第点を満たしてもらいたいところだが、経営難という三文字の前には及第点という言葉もむなしい。  
 新調したいが金が無く、店がボロでは人と金が来ない。嫌な悪循環である。  
 もう一つ、エルーには気がついたことがある。  
 水がお湯になるまで数分待って、ようやく汗がついた身体を洗おうとしたときに。  
「キ、キリさん……その」  
 口をもごもごさせて、言葉が続かない。  
 キリは利己心の高さに任せて、彼女の裸体を見ないために、背を向けたままで言った。  
「何か困るか?」  
「あのですね……着替えが無いんです。タオルは備付がここにあるんですけど。  
着替えを部屋に置いてきてしまって……さっきまで着ていた服をもう一度着るわけにはいきませんし」  
 「あ〜なるほど」とキリは手をポンと打った。思い起こしてみると、確かに衣服を持ってくる間はないほど強引に彼女を連れていた。  
 男の身ではあるが、女性が異性に肌を見せることには断固拒否したがるということは分かる。100人中100人とは言わないが、圧倒的大多数が。  
 もっとも、男なら100人中100人が頭のどこかで肌を見せてほしいというのだが。  
「じゃあ、汗を流したら、部屋に戻るまでの間は俺が来ている服を着て、部屋についたら着替えるってことでいいか?」  
「キリさんの服をですかっ!?」  
「んしょっと!」  
 キリは承諾を受ける前に、言いながら既に服を脱いでいる。ちょうど脱ぎ終わった。  
 服のサイズはエルーのそれよりも若干大きく、手が袖の中に隠れて見えなくなる。  
「別に汗をかいたわけじゃないし、寝る前に風呂入ってから着替えたから汚くない。  
それに上に戻って着替えするまでだからな。ちょっと大きいかもしれないけど」  
「サイズとかそういう問題では」  
 シスターの服を着ることに慣れ、男性の服を身に纏うというのは、彼女にとっては恥ずかしいし、できれば避けたいことであった。  
 中々承知しない彼女に、キリは背中を見せながら言った。  
「あんたは裸でいたいの?」  
 倫理観や道徳というものは、様々な価値観が入り混じる現実の前では風中の塵のように脆い。  
 餓死寸前で食べられる草花があったら、誰だってむしって獣のように食べる。  
 羞恥心という、服を着るという文明の中で磨かれちゃった本能に、エルーは忠実に従う。  
「意地悪……!」  
 タオルを上下のどちらかに巻いて、もう片方を手で隠して二階まで行く。そんなことをするよりだったら、少々大きめの服を着て進む方がどれだけマシなものか。  
「見ないでくださいね」  
 半場形骸化したような注意を言うと、キリはやる気なさそうに返事を返した。  
 キリの視線よりも彼の手を離さないようそこはかと注意を向けながら、滝のように流れるシャワーに身を入れた。  
 
 シャワーを出す機械は壊れていてもおかしくないほど不安になるのに、そこから流れ出る温水は、母の胸に抱かれているような安らかな幸せを享受してくれる。  
「湯加減はどんな感じ?」  
「いいですよ。身体がぽかぽか温まります」  
 水滴の集まりが、汚れと共に身体の余計な部分までも洗い流して、身が軽くなるような錯覚を覚える。  
 裸体である恥ずかしさなども不純物のように消えていく。夢中になって、その快感に浸る。  
 時間を忘れて、身体を洗った。片手だけの不自由な生活を忘れてしまうような気持ちよさだった。  
 
 蛇口を捻るだけで、絶え間なく身を包んでいたお湯が止まる。同時に、それまで感じていた全ての感覚が消えうせていく。  
 汚れを抱え込んで、身体を伝って降りていくお湯はもう無く、急に冷まっていく身体には恐ろしさにも似た喪失感が流れた。  
 心機一転、備え付けのタオルへ手を伸ばし、身体についた水滴を吸い取っていると……  
「っえ!!」  
 エルーの身体が、浴室の外へ飛び出した。キリが、繋がっている手を強く引っ張ったからだった。  
 あまりに突然、羞恥心が沸くのも七丁念仏のように遅れていた。目の前で何が起こっているかもわからず、まずタオルで身体を隠した。  
 二、三の呼吸の後、現実把握に頭が総動員した。しなければよかったと後悔するほど、辛く、厳しい現実が待っていた。  
 目よりも先に異常に気がついたのは、手であった。キリと繋がっている命綱である手に、ぬるりとした生温かい液体が伝ってきた。  
 先ほどまで浸かっていたシャワーのお湯とは違う、目の覚めるような熱さではなく、惰眠を貪る温い温度に、晴れ晴れとしていたエルーの気分は曇った。  
 次いで気がついたのは、湯上りの身体に圧してきたキリの身体であった。それは、強姦にも似た無理やりな触れ方で、少しの優しさも無い乱暴な圧し掛かり。  
 異性にこのように乱暴に触れられ、咄嗟に貞操の危機がエルーの脳裏を過ぎった。しかし、自分の体に圧し掛かった彼は特に何もしてこない。ベッドに寝るように、身を乗せているだけだった。  
 不思議に思ったエルーはようやく恐怖に強張っていた目を開いた。  
 自分の横に伏せているキリの顔は、不気味なほどに蒼白していた。  
 命の蝋燭の揺らめきが吹き消されたような顔に、エルーは絶望をそのまま声にしたような悲鳴をあげた。  
 その後で、ようやく気付いた。先ほどのガゼルの者が、キリの持っていた護身用の短剣で喉を刺されて息絶えていたことに。  
 気絶しただけで、まだ生きていたのだ。何がそこまで自分達を追い詰めたいのかは知らないが、執念の炎は消えていなかった。  
「血、血が」  
 キリの出血の出所は、彼の胸に刺さっていた大きな槍であった。鮫すら一撃で伏すかのような大きさだ。  
 槍は急所を外していたが、出血は酷く、キリの顔色は靄の一滴ほどの生命感を感じさせないほど悪い。  
 キリの赤い血が、シャワーから出たお湯に混じって排水溝から流れていく。溶けていくように胸からの出血は続いていた。  
 エルーは体を隠すことも忘れて、彼の傷口をきつく縛った。シスターは護身術のほかに応急処置も心得ているものの、実際に行うのはこれが初めて。  
 だからといって慎重にゆっくりと行うことは無く、記憶よりも先に身体が動くように迅速に済ませた。  
 日課のように繰り返していたためか、初めてなのにその処置は一流の医者に勝るとも劣らない見事な出来栄え。  
 しかし、悲しいかな、所詮は応急処置。傷口を強く押さえつけて出血を押し止め、心臓に近い動脈を適度に縛って、  
 出血を止めることが精一杯。キリの命が消えるのを遠のかせるだけで、回復には足りない。  
「病院に連れて行かないと! キリさん、少し待っていてください!」  
 誰でもいい、人を呼ぼうと電話へと走った――身体が霊に引っ張られるように重い。  
 「急いでいるのに」と彼女が原因を探ろうと振り向いたとき、今でも手が繋がっていることに気がついた。  
 一大事に慌てていてすっかり忘れていたが、手を離すと自分は消えてしまう。キリは、意識を失っていても、エルーから手を離さなかった。  
 まるで運命の赤い糸だ。手を通じて伝わるぬるりとした感触すら、エルーには愛しく思えた。  
 
 人より鼠の方が多いと揶揄されるような町でも、きちんとした医者はいた。腕前は確かで、町での評判もよい。  
 聞けばもっと大きな町からのスカウトが何件も来ていたが、生まれ育ったこの町に他の医者が居ないという理由で、スカウトの全てを断ったそうだ。  
 余所者が、夜分に叩き起こすような状態であったのに誠意の笑顔を持って接してくれた。  
 しかし、キリを見るなり表情は地獄の釜を見たように一変した。  
 神妙な面持ちで、手術前に言った一言が、エルーの気持ちを締め付ける。  
「覚悟を、しておいてください」  
 人間の出来た人物だからこそ、医者の言うことには説得力があった。  
 不幸なことに関する説得力は、そのまま起きてほしくないことに比例する。  
 
 手を離せないエルーは清潔にした上で白衣を着て、感染の恐れがないようにし、同じ医療室に入っていた。  
 手術中、エルーは何もできない。ただ祈ることと考えることのみだ。  
 特に、自分がのんのんとシャワーを浴びていたことに、後悔の念が集まっていた。あれが無ければキリは無事に済んだ筈だ。  
 責任の念にかられるエルーは、手術中でもキリの手を両手で包み、強く握った。  
 後悔と責任……その他にも、様々な考えが頭の中で渦を巻いて交差する。  
 自分の責任を出し尽くした後は、彼の無事を何よりも強く祈った。  
(神様……! 私はどんな苦痛でも受け入れます! ですから、トロイの希望であるキリさんだけは!)  
 エルーは、彼が自分の生命線であり、トロイ患者の希望だからというだけで願っていたのではない。  
 異性として、彼を想っていた。彼の性格と意思の強さに心を惹かれ、好きになっていた。だから願っていた。彼の無事を。  
 
 やれる限りの処置を施したキリをベッドに寝かせ、医者は深い眠りにある彼をそのままに、エルーと対面した。  
 エルーが、自分がシスターでトロイ感染者だと告げ、念のために医者に手袋をするように言った。  
 直接の接触がなければトロイも移らないとされている。  
 医者の視線には懐疑の念が見えた。彼女と患者の手は、一瞬たりとも離れずに繋がっていたからだ。  
「患者を増やすことになるんじゃないか?」と質問したが、シスター教会の重要機密のため仕方なく、というはぐらした答えが返ってきた。  
 もっとも、悪い人では無さそうなので素直に忠告を聞いて置こうというのが、彼の考えだった。  
 
 医者は対面してしばらくの間口をつぐみ、何も言わない。表情から不穏なことを考えていることがエルーには予想ができる。  
 小さな町だから、たまにしかこういう場面に出くわさないので、言い慣れていないのかもしれない。彼の人間性のせいもあるかもしれない。  
 汗がいつまで経っても頬を伝わらず、額で滲んでいる。  
「今更ですが、夜分に申し訳ありませんでした。就寝中の中邪魔をしてしまって」  
「いえいえ、困っている患者がいれば休みでも。医者の不養生もなんぼです」  
「それで、き、聞きたいことがあります」  
 本心は聞きたくない。それでも聞かなければならない事に、エルーは自ずと向かい合った。  
「あ、あの……この人の容態は……大丈夫なのですか? 私、医療は専門ではないので……」  
 深呼吸をしても収まらぬ鼓動が、胸を潰すように痛めつける。  
 想像することすら嫌な、残酷で最悪の宣告が来ないことを、何よりも強く祈って。  
 やがて、氷山が崩れるようにゆっくりと医者は口を開いた。  
「私は医者として、できる限りのことをしました。しかし……トロイに特効薬が無いように、医療も万能ではありません。  
…………っと、答えを誤魔化すような言い方になってしまいますね。貴方が覚悟をしているのなら、私も正直に申します。  
明日か明後日までに回復へと向かわなければ、最悪の事態を覚悟していてください。つまり、死ぬことを」  
 それは、冬の雷鳴のような、衝撃的な知らせだった。  
 ほんの数時間前まで普通に会話をしていたキリが、もうすぐ死ぬ。こんなにも若くて、元気な彼が、死ぬ。  
 予想はしていた。したくなかったが、可能性の一つとしてどうしても浮かび上がってくる。  
 「したくもない」と考えていたからこそ、彼女の心に強く残っていた。  
 エルーは冷静に「わかりました」と返事をした。頭の中は空っぽになり、スープの匂いも分からない状態。  
 医者は、彼女の表情が明らかに虚ろなものとなっていくのに気付きながらも、医者の義務として理由を説明した。  
「何か鋭利な刃物で胸を刺されています。幸い、急所は外れていますが、刃物には毒が塗られていました。  
近くの森に生息する蛙の毒で、体内に入ると失神を起こし、高熱に魘されます。  
その後は激痛を体中に発しながら、人間の意識を薄めさせます。  
解毒剤を投入しましたが、なにぶん時間がかかっていますし、傷口を通してすでに体を巡っていました。  
この毒は、身体に回ることで毒としての性が目立つので、すぐに吸い出せばここまで酷くはならなかったのですが……」  
 張りぼてのように、ただそこにあるだけの耳に、最後の一言は重く残されていた。  
 傷口から毒が回っていたことなど、傍目からは分からない。それでも、エルーの心には強い自責の念が残った。  
「とはいえ、傷からの出血をこれ以上出させないようにしたという判断も間違いではありません。  
驚くべきはこの少年の抵抗力の強さですね。普通の人でしたら病院に運ばれる前に死んでいたと思います。  
眠ったまま亡くなることもあれば、遺族の方々と話した後に回復することもありますので、まだ死ぬと決まったわけではありません。  
容態が落ち着くまで、安静にさせておいてください」  
「もう一つ……質問があります。この人が助かる可能性は……どれぐらいあるんですか……?  
気休めはいりません。正直に教えてください」  
 魂から絞り出すように声を出した。涙が憑依したような重い声だった。  
 医者も、やるせない表情をした。医療の限界を超え、生死を決めるは人体の強さと運。そこまで自分が介入できないのが、歯痒く悔しいようだ。  
「傷口はきちんと縫合しておきました。強い刺激を与えない限りは開きませんし、既に輸血済みなので出血死の心配はありません。  
なので、毒に身体が勝つかどうかです。  
これからの回復次第ですが、今のところ五分五分、もしくはもう少し悪いでしょう」  
「…………分かりました」  
 部屋に漂うは、深海のような重苦しい空気。何も知らずに時を数える時計の針のみが、唯一音を発している。  
 キリは今、大事なギャンブルの景品になっていた。表に生、裏に死と書かれたコインを投げるギャンブル。  
 投げるのは神か死神か、それさえも分からない。結末など、誰にも分からなかった。  
 
 二人を寝室に残したまま、医者は腰を上げた。  
 本来ならこの場にいて、彼女をもう少し元気付けてあげるのが本流なのだろうが、診療時間はとうに過ぎ、家族が心配しているかもしれない。  
「何の用で旅をしているのかは分かりませんが、シスターの貴方なら、医療費もお安くしておきます。  
それでは私はこれで。何かあったら呼んでください」  
「ありがとうございます。少しの間、お世話になります」  
 手打ちのような挨拶だった。本当に感謝の意でしているのに、言葉に上手く感情を込められない。  
 繋がっているキリの手は、怖いほどに冷たい。自分が両手で包み込んでも、温まることなく氷のように冷たい。  
 トロイ患者の手は皆一様に冷たい。エルーもかつては凍るように冷たい手であったが、キリと触れているうちにエルーには体の温かさが戻ってきた  
 今度は彼の体が冷たい。トロイにかかっているのではなく、単純に血が体を巡らないからだ。  
 顔に限らず、肌の色が全体的に薄く、今にも消えてしまいそうだ。トロイにかかっている自分が消えるのが正しいのに。  
 涙を堪える姿が、可哀想なほど痛々しく映った。  
 
 翌日も、更に翌日も、キリの様子は一向によくならなかった。  
 この町に来て三日経っている。その殆どを、薬品くさい病室ですごしている。  
 キリの生死の程は曖昧模糊、人智の及ぶところではない。  
 それなのに、エルーは朝、目を覚ませば、彼の魘されている眠りが、妻と子供と川の字で眠るような安らかなものに変わっていると信じていた。  
 希望に満ちた考えに、少しの疑念も抱かず……抱けずに、彼の回復を待っていた。二日間も。  
 手を離さずにキリの意識の回復を待つ彼女の噂は、瞬く間に広がっていった。  
 二人を心配して、トロイの感染の恐れも知りつつ、激励の言葉を何人も何人も送った。  
 差し入れと称して、実家で取れた農作物や、誕生日に食べるような丸い大きなケーキを持ってくる人もいた。  
 店は閑古鳥が鳴くような場所が多いのに、町の人の親切には涙腺が泣きそうだ。  
 あれ以来、自分には危険が来ていない。ガゼルが追っ手を送らないのは、人目につくとまずいからだろうか。  
 不幸中の幸いだったが、幸いが起きようとも不幸は不幸だ。  
 エルーは眠っているときでも、寝言に乗じて彼のことを心配した。  
 食事のときも、片時も彼の心配が頭から離れず、この地方の名産品の味が甘いのか辛いのかも分からなかった。  
 手は絶対に離さなかった。手も動かせられない彼のために、命を離さずに掴むように。  
 
 三日目の夕方、医者が誰も居なくなったのを見計らって、深刻な表情で聞いてきた。  
「エルーさん……少しお話があります。よろしいでしょうか?」  
「は、はい」  
 時計の音は、相変わらず蚊帳の外とばかりに秒針を振る。ネジを一日巻かないだけで鳴らなくなる小さな音が、今は鼓膜を破るように響く。  
「キリ君のことです」  
 静かな……腹の力を使っていない弱い声が、時計の音に紛れて出てきた。  
 死神の鎌のように、いつの間にか自分の後ろに立っていそうな弱い声だった。  
「キリさんが……何か?」  
 朗報の知らせには見えない。それでも、ひょっとしたら不安にさせて、それからいい知らせを教えることで喜びを倍増させようと狙っている?  
 ――と浮かぶのは、彼女も相当おめでたくなっている証拠。  
 ほんの少しの後、エルーは後悔する。期待など抱かずに、素直に医者の表情通りのことを考えておくべきだった、と。  
 僅かでも希望を持った場合、それを裏切られたときの苦しみもまた倍増するのだから……  
「キリ君の体力は、今夜が峠です。おそらく、回復の見込みはありません。  
おそらく、と言いましたが……1%の確立もないと考えてください」  
 裁判で死刑を宣告する気分とは、こんなものなのだろう。一度喉元を通れば、意外なほどすんなり全文を言えた。  
 その後の被疑者の表情を見た気分は、最悪だったが。  
 直後に聞こえたエルーの泣き声には、医療の限界の非力さを恨んだ。  
 

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