不思議な感じがした。  
シスターになった日から、自分にはこんなことなんて起こらないと思っていた。大体、  
トロイに感染している相手とそうなりたい人なんている筈がない。  
キリさんだから、可能なことなのだ。  
キリさんが私の周囲の不可能を一つずつ消していくのだ。  
「エルー、触っていいかな」  
怖いぐらい真剣な顔がものすごく近くて、吹き出しそうになるのを堪えながら私は一  
語ずつ大切に答えた。  
「いいですよ…お任せしますから」  
重なっている身体の温みが本当に心地良くて、偶然だった筈の一瞬に巡り合った  
のがキリさんで本当に良かったと思えた。だって、こんな風になってもちっとも怖くは  
ない。むしろ、キス以上のことがあったら一体どうなるのか。  
そんな好奇心だけが、ただ膨らんでいる。  
「じ、じゃあ…」  
ぎこちなく、キリさんの手が拭くの上からごそごそと身体を這い始めた。今もずっと繋  
ぎ続けている片手と同じ大きさの、温かくて力強い手。何もかも初めてで加減を知ら  
ないのか、時々爪の先が繊維を引っ掻く感触があった。  
「嫌だったり、痛かったりしたら言ってくれよ、な?」  
「そんな、こと…」  
嫌じゃない、怖くもないけどただ恥ずかしい。でも目を閉じたり逸らしていたりするこ  
とは失礼かも知れないと思って、ぴんぴん真上で小刻みに跳ねている金色の毛先を  
眺めていた。  
 
「ひゃっ」  
急に、服の合わせ目から手が入り込んできて肌を直接撫でられた。  
「あ、悪い。手ぇ冷たかったか?」  
「いえ、そんなことは」  
「あー良かった」  
緊張を懸命に隠している様子で、キリさんは少しずつ私の服を緩めてくる。それと共に、  
誰にも見られたことのない身体の部分が露出していく。部屋は寒くない、触れる手も  
冷たくないのに自分では抑えられない震えが湧き出していた。  
「ぁ…」  
襟元が完全にはだけられて、まだ薄い乳房に触れられた途端に痙攣が起きた。どう  
やら変な顔になっていたらしくて、キリさんは心配そうに覗き込んできた。  
「痛かった?」  
「…ん、ん…そうじゃなく…」  
「女の子触るの初めてだからさ」  
「私も、触られるのは初めてです」  
ずっと繋がれたままの片手に無意識に力が入ってすぐに、強く握り返される。  
乳房を撫でていた手が熱くなっている頬に当てられた。  
「ごめんな。こんなバタバタしてる時じゃなくて、もっとちゃんとしたかったんだけど。で  
もさ、これだけは言えるよ。エルーのこと、本当に好きだから。大事にするから」  
「うん…」  
間近で見た瞳は本当に綺麗で、星が瞬いているようだった。この人なら本当に信じら  
れる、一生信頼出来る。そう思ったら涙が零れた。  
「泣くなよ…」  
「嬉しい時も、涙って出るんですね」  
繋がれた手が強く合わさる。指が絡まり合う。キリさんの指が零れた涙を拭って舌先  
が目尻に溜まった涙を追った。  
ああ、星が煌いている。  
ふとそう感じて何か言おうとした唇が急に塞がれた。怖がらせないようにと舌が唇をな  
ぞって、確かめるように入り込んでくる。何度かの経験もあって、私はもう躊躇すること  
なくそれを受け入れた。何の感情も生じない事務的な体液交換の行為ではない。ただ  
それだけで嬉しかった。  
あの日、孤独の中で死んでいたとしたらこんな気持ちは知らずに終わったのだろう。  
 
お互いにこういうことは初めてで、だから手順なんて全然分からなくて。それでもこの  
夜のうちに私はキリさんともっと身も心も仲良くなりたかった。ゆっくりでも構わないか  
ら、私とこうしていることが少しでも喜びとなればいい。  
ただそれだけが頭の中でちかちか点滅していた。  
「エルー」  
唐突に、名前を呼ばれた。  
私はといえば、着ていた服はお腹の辺りで溜まっているだけのとんでもない格好にな  
っていた。すっかり剥き出しになった膝や腿を撫でていた手が遠慮がちに腰を覆って  
いる下着にかかっている。  
「キリさん…」  
「これも、今はいらないよな」  
「…はい。お好きにして下さい」  
頬も耳も発火しているかと思うほど熱い。けれど今はキリさんに何もかも任せてしまう  
のが一番いいのだと自分に言い聞かせて、湧き上がる不安を消すように笑った。  
「じゃ、遠慮なく」  
それまでどこか躊躇のあった手が、思い切り良く薄い布を引き剥がした。その勢いに  
反するように、繋がれたままの手が震えを伝えてくる。  
こんな状態なのに、不思議とそれだけで私は落ち着くことが出来た。今こうして繋い  
でいる手はお互いの感情を伝え合っている。虚勢も何もない、ただありのままの感情  
がお互いの手の中で行き来している。  
これほど確かなものはない。  
私と、キリさんは同じタイミングで吐息を零した。  
「…初めて見た」  
「え?」  
「女の子ってさ、こうなってんだな」  
興奮しているのか、上擦った声が漏れる。  
「…そんなに、じろじろ見るものじゃないですし…」  
さすがに、自分でもほとんど見たことのない場所をこんな風に眺められては困る。燃  
え上がりそうな頬が熱くて、私は枕に髪を擦りつけた。  
「何言ってんだよ、すっげ綺麗じゃん。花みたいで」  
「そ、んな…」  
「触るよ」  
 
「っ…ふ」  
花なんて、何か違う。  
女の子のそこは、随分醜悪な形をしている。例えるなら何もかもを呑み込んでしまう  
口のように。人それぞれに容貌の美醜の差はあっても、そこだけはほとんど変わりが  
ないように思える。その意味では一番嘘偽りのない場所と言えるのだろう。  
今は繋がれた二つの手と同じだ。  
ぴったり合わさった手からは、ただ純粋な感嘆だけが伝わってくる。私がどう感じよう  
と、キリさんの今の言葉に嘘は一つもない。  
「エルー、ここはすごく柔らかいな」  
キリさんの指が不慣れながらも襞の一枚ずつを探り、とくとくと脈打っている内部を確  
かめている。自分でも触ったことのない部分まで触れられて、緩やかに浮遊していた  
意識が次第に彼方へと剥離していくのが分かった。  
一番大好きなキリさんとこうなっていることが、本当に気持ちいい。女の子として生ま  
れて一生で最も大切な日をこうして迎えられることが、何よりも嬉しい。  
「あぁ…」  
私は、それまで自分でも知らなかったほど甘い声を上げて身悶えた。まるで生き物の  
ように変化していく女の子の場所が、何度も指先で探られる度に喜びを伝えてくる。  
「…あ、私、変です…」  
「気持ち、いいんだろ」  
「…はい、とても…」  
熱に浮かされてでもいるように、見開く目がぼんやりと霞んでいる。宥めるようなキス  
をした後でキリさんはもぞもぞと身じろぎをしているようだった。  
「や…何、ですか?」  
シーツを握っていた片手を外されて、いきなり何か熱いものを握らされる。これまで生  
きてきた中で、経験のない物体だった。  
やや口篭りながら、キリさんは握らせたものに力を込めた。  
「俺の、だよ。これからエルーの中に入るんだ」  
「これ、が?」  
世間一般の男女の営みのことは知識として一通りなら知っている。ただ、実感となれ  
ば話は別で、シスターの身であれば経験することも叶わないと意識を切り離していた  
のだ。  
 
「これが、キリさんの…」  
「そ、俺のだよ。これからエルーと繋がりたいってさ」  
「私と、繋がる…?」  
「手だけじゃなく、ここも」  
内部を探っていた指を強く擦りながら、真摯な声で囁かれる。動きに合わせるように  
いやらしい水音が絶え間なくするのは、感じて濡れているからなのだろう。  
「そうすればもっと俺たち今まで以上に仲良くなれるよ」  
「ん…そう、ですね…」  
もっと、もっとこの優しい人と仲良くなりたい。最初の偶然を必然に変えたい。私はた  
だそれだけでキリさんのものを握っていた手を離し、背中に腕を回して縋りついた。  
「私も、キリさんと繋がりたいです…」  
返事はなかったが、代わりに熱い感触が散々蕩かされていた場所に押し当てられて  
慣らすように先端だけが擦りつけられる。  
「キリ、さん…」  
「エルー、いくよ」  
はあっ、と大きな息を吐いた後で今まで握っていたキリさんの熱くて硬いものが、す  
っかり敏感になっていた身体の奥を突いてくる。  
「あ、あ、あぁぁ…」  
話で聞いていた以上に、破瓜の痛みは凄まじかった。  
それでも空っぽで何もなかった身体の中が、今はキリさんで一杯に満たされている  
ことにこの上もない喜びを感じていた。もしこのまま命を落としたとしても構わないほ  
どに。  
繋がれた手がお互いの熱を全て引き受けたように熱い。  
「エルー、中、熱いよ…」  
「そんな…キリさんだって…」  
一度だけ見た激しい海の大波のような揺れが、私の体内で巻き起こっている。何度  
も粘膜の狭間で突き動かされる度に起こる波の振動が最後まで残っていた正気を  
吹き飛ばして、有り得ないほどの声が湧き出た。  
これではまるでケダモノ。  
そんな淡い意識すら、キリさんの腕の中で揺さぶられる恍惚で呆気なく消え去って  
しまった。  
 
 
「…ん」  
どれだけ気を失っていたのだろう。  
気がつくとキリさんが濡れタオルで私の身体を拭いていた。  
「あ、気がついたか?」  
「…何、を…」  
「あー、起きる前に済ませたかったんだけどなー。エルーは随分汗かいてたから、こ  
のまま寝たら風邪ひくと思ってさ。水汲んできたんだ」  
「な、ななななななな」  
当然、私は全裸だった。慌てふためいている私をどう解釈したのか、キリさんはいつ  
ものようにからっと笑った。  
「あ、体液交換の法則って奴?はアレでも当てはまるみたいだな。お陰で色々出来  
るみたいだし」  
確かに、通用しているようだ。手を離したキリさんは敏捷に立ち回ってするべきこと  
を片付けている。  
体液交換。  
まだリアルに身体に残っている感覚が、あの交わりは嘘でも夢でもなかったのだと  
教えている。私はかけがえのない純潔をキリさんに捧げたのだ。でも後悔なんて一  
つもしていない。  
ぼんやりそんなことを考えていると、いきなりキスをされた。  
「エルー」  
「え」  
「これから、まだ旅路は長いんだからさ。俺はエルーを少しでも苦しませないように、  
出来るだけ長生き出来るようにしてあげたいと思ってるよ。だから」  
「…キリ、さん」  
ああ、この人は私の前に降りた天使なのだろうか。  
そう思った途端、子供のように悪戯を企んでいる笑顔。  
「さっきみたいなこと、またしよっ」  
「……キリさんったら…」  
私は、もう何を考えるのも恥ずかしくて、シーツを掴んでくるまってしまった。もうこの  
まま眠ってしまいたい。  
 
「エルー」  
なのに囁きながらシーツの上から抱き締めるキリさんの腕は、心を蕩かすほどに強  
かった。  
「ずっと守るよ。エルーのこと、好きだから」  
「キリさん、本当?」  
くしゃくしゃのシーツの中から顔を出して尋ねても、その気持ちは計れなかった。さっ  
きはあれほど信じられたことなのに。やはりお互いに手を繋いでいなければ心もとな  
くなるほどの重さがそこにはある。  
「じゃ、この手はこれからずっと離さないで下さいね」  
シーツから伸ばした手は、すぐに温かい手で繋がれた。  
「うん、当たり前だよ」  
シーツ越しの声は、泣きたくなるほど優しかった。  
 
 
 
終わり  
 

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