「完全なからだになったらまた会おう……元気でな」
「ワアアァー… あにき…!!」
かっちょよく決めたあの別れから数年後、約束通りあにきは帰ってきた。
からだの全てを取り返した百鬼丸は見違えるほど凛々しい美丈夫(言い過ぎ)に成長していた。
どろろが思いっきり惚れ直したことは言うまでもない。
そしてお年頃のどろろは、線の細さと独特の微エロな雰囲気を兼ね備えた手塚女キャラに成長していた。
涙の再会を果たした後、互いに憎からず思っていた相手と所帯を持つのは当然の成り行きであろう。
「どろろ頼む、今日はマジで疲れてんだ俺ぁ」
「何言ってんだい、情けないよ」
若い二人が夜ごと夫婦の営みにいそしむのもやはり当然。
しかし、百鬼丸は妖魔との闘いを終えた今、刀を捨てようとしていた。
自分の中に流れる「侍」の血を消すことはできなくとも、農民として生きていこうと決めたのだ。
だが慣れない野良仕事に汗を流すことにも、なかなか体がついていかないのも事実だった。
「あ〜、それにしても普通の腕に戻ったあにきって少し物足りないかも」
「どういう意味だそりゃ」
「あの仕込み刀がなんか萌えたんだよねぇ、なんかしがみつくとゾクゾクしてさ」
「…いつからそんなプレイを好む女になったんだ」
「だって『年頃になったら女っぽい言葉を使えよ』って言ったじゃん」
「かなり会話が食い違ってる気がするが」
「なんでもいいから、ねえ早くぅ」
「どろろ、おれは急におまえと別れたくなった」
「二度も同じセリフは言っちゃ駄目だよ」
「おまえさんとはもうこれきりだ、赤の他人に戻ろう」
「それって別漫画のモグリ医者の決め台詞」
「それでもあなたは医者か!!…っ、こら布団を勝手にめくるんじゃねえ」
「あにきがまさかエリート医師の役をやるとは」
「ちょっと待てなんだその勝負パンツ…じゃなくて勝負肌襦袢は」
「緋縮緬の裾をちょっと上げて、白い脛を見せちゃうもんね」
「結構そそられるものがあるが、いかんせん俺は野良仕事でクタクタなんだ」
「ほんとにそれだけ?」
訝しげにどろろが取り出したのは某出版社より出ている「PS2 どろろ完全攻略ガイド」。
「なんだそりゃ」
「ここ、ほら44ページ目見てよ」
「えー…『第4章・ばんもん 百鬼丸はこのばんもんにある小屋を仮の宿としていた
そこに士官を目指す賽の目の三朗太があらわれ、一夜をともにする』……、ええ!?」
「一夜をともにねえ……、あにきってそういう趣味があったわけ」
「もの凄い誤解を招く表現じゃねえか…、今まで知らなかった俺の立場っていったい…
ここは『二人は睨み合ったまま、まんじりともせず夜を明かした』とかに直してもらえんのか」
「おいら、じゃなくてあたし(練習して言えるようになった)としたくないってのは、つまり…」
「違うっっ! 神掛けて俺ぁ女が好きだ!大好きだっ!」
「やった〜♪ あたしもあにき大好きっ!」
やつれた百鬼丸に、がばりと被さるどろろ。
「…妖魔を追っていたあの頃に帰りたい」
搾り取られるような感覚の中、「女は魔物」という言葉を身にしみて感じるあにきであった。