僕の名前は草壁桜。  
容姿端麗にして、そのココロは清廉潔白。純情無垢なる中学二年生です。  
……あれ?この書き出し、どこかで見たような……?  
ちょ、ちょっと作者!書き出しが思いつかなかったからってこんなことしない!  
一部改変したからってダメなものはダメだから!  
……そんなことはさておき。  
天高く馬肥ゆる秋、月が東から出てきて間もないころ。  
そろそろ夕飯時、たくさんの子供たちがお腹をすかせてそのときを待っています。  
例によって僕の両親は家にいないので、夕飯の用意はザクロちゃんの担当。  
そして僕はというと……。  
 
 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪  
 
いつものごとくドクロちゃんに撲殺されていました。  
「ドクロちゃんっ!さすがに今日の宿題だけはさせてよ!」  
ドクロちゃんがお風呂に入っている間に宿題を終わらせよう、と思ったのが間違いでした。  
今日たくさん出された宿題に夢中になりすぎて、気配を消した(ここ重要)ドクロちゃんに即撲殺。  
僕としたことがうかつだったか……。  
「やだもんっ」  
くりくりボイスによって一瞬で拒否するドクロちゃん。  
「ねえ……、今日のは朝にごまかせる量じゃないんだからさ!」  
いつもの量であれば、こんな風に邪魔されても朝にフォローできたのですが、  
今日の宿題はそんなこと言っている暇はありません。  
「だってー」  
「だってじゃないでしょドクロちゃん!」  
「ほら、ご飯いこっ?」  
「誤魔化すなぁっ!」  
 
このときに、僕は異変に気づくべきだったのです。  
いつもなら、ザクロちゃんが呼びにきてくれるはずなのに。  
 
――これは、ハプニングにまぎれて起こった、羊ツノの天使と中学二年生のちょっとした恋物語。  
 
 
「ザクロちゃーん?」  
さて、いつものように夕飯を支度してくれているザクロちゃん。  
両親がたびたびいなくなる近頃、本当に助かっています。  
9才だというのにドクロちゃんと比べてずっと大人。  
天使というものは本来こうあるべきものではないでしょうか、といっても良いでしょう。  
 
……。  
返事がありません。  
いつもなら「あ、桜さん、もう夕食の準備はできていますよ」なんていってくれるのに、です。  
 
もしかして、今日は手の込んだ料理なのでしょうか?  
完成するまで僕に見られたくなくて、それで呼びにこない、とか。  
なかなかかわいい妹様じゃありませんか。  
「ザクロちゃーん、おそいー」  
とはいってもこのわがまま天使にはそんなこと関係ありませんよね。  
一番の問題は自分の空腹。それがこのドクロちゃんなのですから。  
 
確かにドクロちゃんのいう通りかもしれません。  
それにしてもザクロちゃんは遅すぎます。  
繰り返しますがいつもならあの9才ちゃんはすぐに仕事を終わらせるすばらしい天使です。  
なのに今日は特別に遅いというのです。  
やはり何か特別な料理を仕込んでいるに違いありません。  
 
しかし、ドクロちゃんにこれ以上騒がれても厄介なので、リビングに入ることにしましょう。  
僕の命とドクロちゃんの気持ちを優先させた結果です。  
「ザクロちゃん、うまくいってる?」  
そういいながらリビングに入ると、  
 
「……」  
無言で立ち尽くしたザクロちゃんがいました。  
 
しばらく続く沈黙。  
その沈黙を破ったのは、  
「桜お兄様が下りてきたのだぁ♪」  
……ザクロちゃん自身でした。  
 
「ぇぇぇぇぇぇええええええええ!?」  
なんか「え」がゲシュタルト崩壊!いやそんなことはどうでも良くて!  
ザクロちゃんがまさかのキャラ崩壊ですか!?作者しっかりしろ!  
原作にはこんなキャラでは描かれてないぞ!?  
 
驚愕とツッコミで頭が回っている間に、ザクロちゃんがすごくにこやかな顔でこちらに走ってきます。  
正直ちょっぴり怖いです。  
そして、  
「桜お兄様〜なのだぁ♪(がばっ!)」  
思いっきり抱きつかれてしまいました。  
声もいつもの落ち着いたザクロちゃんではありませんっ!  
だ、大丈夫かザクロちゃん!?  
「ザ、ザクロちゃん、いきなり何してっ」  
僕に抱きついた後は、ぎゅうっと抱きしめられる僕。  
(注:もちろんドクロちゃんに絞め殺されそうになったあの時よりは弱いです)  
ちょうどその身長だと胸の部分が顔に当たって……じゃなくて!!  
「ねえ、ど、どうしちゃったの、ザクロちゃんっ」  
「ザクロはザクロでなんともないのだぁ♪」  
絶対何かあります。まず一人称が「ザクロ」になってるところからおかしい。  
 
この流れをポカーンとした顔で眺めていたドクロちゃん。  
いまだ無言です。  
このすばらし……いや、おかしい状況について何か……知ってるわけないですね。  
大体頼りになる天使でもないし。  
そして、何か言うと思ったら、  
「キャハハハ、ザクロちゃんがすごいことになってる〜」  
「人事みたいに言うなぁっ!!」  
こんな風に笑われる始末。緊急事態ですよ緊急事態。わかってる?  
「桜お兄様、夜に大声出しちゃぁダメなのだぁ♪」  
 
 
その後、  
「きゃー、桜くんザクロちゃんのどこ触ってるのー」  
↓  
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪  
↓  
「桜お兄様が復活したのだぁ♪」  
↓  
とりあえず落ち着かせて着席←今ここ  
 
「うななぁっ♪」  
相変わらず意味不明なザクロちゃん。  
唯一の常識的天使だったザクロちゃんがこうなってしまっては世界も終わりです。  
あと常識を持ってそうなのはルルティエの議長(バベルちゃん)くらいでしょう。  
でもあの人も結構……わからないところは多いですね。  
 
「とにかく何とかしないと……」  
そうです。今まじめに動けるのは僕しかいません!  
この唯一無二、清明闊達、容姿端麗な僕しかいないのです!  
「……といってもなぁ」  
考えてみれば何も手がかりがありません。  
ドクロちゃんの崩壊はありましたが、ザクロちゃんの崩壊は初めてです。  
 
ん?  
ドクロちゃんの……崩壊?  
 
まさか……  
あの病が、ザクロちゃんの身にも降りかかったというのでしょうか。  
確認するべく、僕はザクロちゃんの額に触れてみます。  
触る前に「うなっ♪桜お兄様に触られちゃうのだぁ♪」とか言われたのは気にしません。  
 
ジュッ。  
「おあちゃうぉああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」  
 
間違いありません!!  
この症状は間違いなく「天使の憂鬱」ッ!!  
 
説明しましょう!  
「天使の憂鬱」とは!  
本来概念的存在である天使にとっては、「個性」そのものが生命エネルギーです。  
その「個性」が異常な状態になると、超高温の発熱(人がやけどする程度)、意味不明の言動などの症状が出ます。  
これが「天使の憂鬱」というわけです。  
最悪の場合天使を消滅に至らしめるという恐ろしい病気なのです。  
 
ドクロちゃんもサバトちゃんも一度患ってしまったこの病気。  
治療法はいろいろありますが、一番有効なのは「ルルティエ温泉に行く」事です。  
「個性」を見つめなおすことが出来るんだとか何とか。  
 
「ドクロちゃんっ!」  
急いでドクロちゃんに伝えましょう。  
「何?桜くん」  
「ザクロちゃん、きっと天使の憂鬱になっちゃったんだよ」  
「えええーっ!!」  
えええーっ、じゃないでしょ。さっきまで他人事だったくせに。  
いや、そんなことはこの際どうでも良くて。  
 
「ど、どうするの?桜くん」  
ここは仕方ありません。  
ドクロちゃんにザクロちゃんを温泉に連れて行ってもらいましょう。  
多分場所なら大丈夫です。きっと。  
「ルルティエ温泉まで連れて行ってあげられる?」  
「あ、うん!任せてよっ」  
 
その後、二人でザクロちゃんを部屋に運び込み、挨拶の後ドクロちゃんとザクロちゃんは未来に帰っていきました。  
 
 
天使というのは勝手なものですね。  
「個性」をなくせば挙動不審かつ大迷惑な行動を起こす。  
でも「個性」を見つめれば病が回復。  
あ、そう考えればある意味楽かもしれません。  
僕はひとつため息をつきました。  
 
寂しいと思いますか?  
僕は寂しいと思いますか?  
 
否!否であります!  
 
あの大迷惑凶悪天使からの束縛を解くことが出来たのです!  
自由だあああっ!草壁桜 is freedom!(あ、よく考えればfreedomって「自由そのもの」を表すから不適切かもしれませんね)  
僕はそのとき、束の間の自由を存分に謳歌してやる!と心に決めました。  
そうと決まればさっさと食事など済ませてしまいましょう。  
 
と、思ったのですが。  
「やっぱ一人は寂しいかなぁ……」  
なんて、独り言を言ってしまいました。  
天使がいなくなったリビングは、やけに静かで。  
自分までいなくなってしまいそうで。  
なんだか、にぎやか過ぎた物が静かになるとこんなになるのか、という雰囲気でした。  
寂しい。孤独。  
そんな思いが僕の頭の中を駆け巡ります。  
 
とにかく夕飯だけでも済ませよう。と、行動を起こそうとしたそのとき。  
 
ぴんぽーん  
 
こんな時間に来客ですか……ということは、ただの人ではなさそうです。  
「はいはーい」  
そして、玄関のドアを開けると、  
 
「あ、桜くん、こっ、こんばんはなんですぅ」  
 
あの極貧羊ツノ天使、サバトちゃんが立っていました。  
 
 
「サバトちゃん!?こんな時間にどうしたの?」  
いつもはアバランチ公園にいるはずのこの天使。  
家に来ることなんてとても久しぶりなのです。  
「ドクロちゃんから、こんなものが届いたんですぅ」  
と、サバトちゃんは僕にくしゃくしゃになった紙切れ1枚を見せてくれました。  
 
「ざくろちゃんとおんせんにいくからさくらくんのかんしおねがいね」  
 
これは……ドクロちゃんの字です!ひらがなばかりですし、間違いありません!  
というかどれだけ用意周到なんだ!?情報伝達が速いです!  
「ドクロちゃん、また天使の憂鬱になったんですかぁ?」  
サバトちゃんが怪訝そうに聞いてきました。  
「いや、今度はザクロちゃんなんだ」  
「ええぇっ!?」  
「ま、詳しくは中で説明するから、あがってよ」  
外はもうかなりの暗さでした。もう帰るのは危険です。  
幸い両親はいません。というかこれが日常化してきました。  
「お、お邪魔しますですぅ……」  
恐る恐るサバトちゃんが家に入ってきました。  
 
「……とまあ、そんなワケなんだ」  
「は、はうぅ」  
サバトちゃんに今までの経緯を説明しました。若干僕を美化しましたが。  
「姉妹そろって温泉旅行ですかぁ、うらやましい限りなんですぅ」  
どうやら天使にとってそこは天国らしいのです(天使にとっての天国って何なんでしょう)。  
まあ、活力である「個性」を取り戻せるのですから、考えてみればそうです。  
「これで3人目だよね、僕の周りで天使の憂鬱になるの」  
「サ、サバトの時はいろいろとご迷惑をおかけしたんですぅ」  
そう。サバトちゃんが天使の憂鬱にかかった時は(サバトちゃんの母親に)ひどい目に遭わされましたよね。  
おかげであの後また殺されそう、もとい存在を消されそうになるのですが……今となってはそれも思い出話。  
「あはは、でもあのときのサバトちゃん面白かったなぁ」  
あのときのサバトちゃんを思い出してふと笑います。  
そう考えればドクロちゃんの時より面白かった気がします。  
「笑わないでくださいですぅ、仕方ないんですよぅ!?」  
「ごめんごめん」  
天使にとっては仕方のないこと。本当に半定期的に訪れるらしいのです。  
 
なにはともあれ、これで僕も孤独世界から脱することが出来そうです。  
サバトちゃんと2人なんて多分殺されそうになったとき以来です。  
そんな感慨にふけっていると、  
 
くるるるるるる……  
 
「え?」  
サバトちゃんのお腹がなるような音がしました。  
「あ、あのさ、サバトちゃん、何日ご飯食べてないの?」  
「……かれこれ16日ですぅ」  
それはどんな断食ですか?一般人なら即栄養失調ですよ?  
「た、大変だったんだ……」  
「話せば12ページくらいとるんですぅ」  
どれだけ長い苦労があったのでしょうか。極貧天使には涙を禁じえません。  
何かしてあげなくちゃ……そうだ、いいこと思いつきました。  
「よし!お弁当でも買いに行こう!」  
「え、いいんですかぁ?サバト、お金ないんですぅ」  
「いいよいいよ」  
財政にはまだ余裕があります(ドクロちゃんの「びんかんサラリーマン」定期購読がなくなってからですが)。  
 
……と思ったのが間違いでした。  
いざ家に帰ってみればお弁当の山。軽く10はあるでしょう。これを食べきるというのです。  
おかげで財布が小指と薬指でつまめるサイズになりました。  
「はむっ、はうっ、むぐっ、……ゲホっ」  
「そ、そんなむせるまで食べなくても……お弁当は逃げないよ」  
サバトちゃんがきりっとした目でこっちを見返しました。  
「逃 げ る ん で す ぅ」  
「へ?何その全角スペース?」  
「お弁当が逃げる経験をしたことがない人はそういうんですぅ」  
お弁当にまで逃げられたんですかこの追○内洋一よりも不幸な天使さんは。  
「あはは……」  
もう笑うしかありませんでした。  
そんなことをしている間にもサバトちゃんは3つめの弁当を食べ終わりました。  
僕はまだ1割ほどしか手をつけていないというのに。  
よほどお腹がすいていたのか……  
 
……そんなサバトちゃんを、少しかわいいと思う自分がいます。  
 
今は静希ちゃん一筋じゃないと!  
がんばらないと!  
首をふるふる横にふって、雑念を取り除こうとします。  
が。  
「さっきから桜くん、なんか変なんですぅ」  
ちょ!サバトちゃんその上目遣い反則です!  
だ、だめだ!静希ちゃんのことだけ考えるんだ僕!  
 
しかし、この空腹天使の食欲といったら。弁当なんて軽々なのでしょう。  
サバトちゃんの気持ちよすぎる食べっぷりを見てつくづく思います。  
でも、普段から食事もままならないサバトちゃんにとってはいとしいもの。  
ずっと夢中で食べています。  
やっぱりそんなサバトちゃんがかわいい……  
って、おい雑念!振り払え!悪霊退散悪霊退散!妖怪あやかし困ったときは……!  
 
とまあ、そんなすったもんだで(適当ですな)夕食も終わり。  
後はサバトちゃんとお別れして、一人寝床に就くだけです。  
「じゃ、サバトちゃん、僕は寝るからね」  
「は、はいぃ、お休みなさいですぅ」  
よし。上にあがるとしましょう。  
階段を上れば僕の部屋です。あー今日も一日が終わった終わったと。  
 
ぎしっ  
少しきしむ音がします。夜、静かなのでよく聞こえます。  
 
ぎしっ  
そろそろこの家も築2桁年になるのでしょうか。  
 
ぎしっぎしっ  
……!?  
あれ?1つしか足出してないのに2つ音がしましたよ?  
 
ぎしっぎしっ  
これは新手のポルターガイストですか?  
 
ぎしっぎしっ  
たまらず振り返るとそこには、  
 
「な、なんで?サバトちゃん?」  
 
あの極貧不幸天使(呼び名が変わっているのは気にしない)サバトちゃんが後をついてきていました。  
「はうぅっ」  
そしておどおどして。  
 
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはサバトちゃんで。  
「こ、この手紙の続き……ですぅ」  
といいながら渡された手紙。その手紙、よく見ると下に、  
 
「(24じかんのてっていかんし!!)」  
 
と書いてある!?  
何ですか徹底監視って!  
確かにルルティエの観察対象ではありますけれども!  
少なくともドクロちゃんは味方だと信じてました!なのに!  
見事に裏切ってくれましたよ!  
 
「で、でも24時間ってどうすればいいんですかぁ?」  
つまるところ自分が帰ってくるまで一緒にいろ、ということなのでしょう。  
「参ったなぁ……」  
24時間となると、寝床を共にしなければなりません。  
まあ幸い両親は家にいませんし、泊まってもらって大丈夫でしょうけれども。  
サバトちゃんもその方が暖かいところで眠りにつけるでしょうけれども。  
何か嫌な予感がします。  
 
しかし仕方ありません。  
サバトちゃんは責任感の強い子です。多分こうなっては引かないでしょう。  
「じゃあ、今日はドクロちゃんが寝てたところに泊まる?」  
「よろこんでですぅ!!」  
……0.03秒で返事が返ってきました。  
多分6割が「今日は野宿しないでいい!」という喜びでしょうけれど。  
 
そしてノリノリのサバトちゃんはあの制服そのままでドクロちゃんの寝床につき。  
「ドクロちゃんがうらやましいんですぅ……」  
「え、どうして?」  
「毎日こんないいところで寝られて……」  
多分それは日本の寝床の中では悪いほうなのですが。押入れですし。  
でもサバトちゃんにとっては天国なのでしょう。  
 
そして、僕の親切心からこんな言葉が出るのです。  
「これからも時々ここにおいでよ」  
ただし、親のいないときのほうが都合がいいですけれど。  
「いいえ、そんなわけにはいかないんですぅ」  
そうでした。  
こんなこと言ってもサバトちゃんは遊びには来てくれませんね。  
なにせプライドがありますから。  
 
「じゃ、電気消すね?」  
「おやすみなさいですぅ」  
そして、僕は平和に眠りにつく……はずでした。  
 
ここで問題です。(ででんっ!!)  
ある日突然、知り合いのかわいい女の子と一緒に寝泊りすることになりました。  
かわいい、いやかわいすぎるまるで天使のような女の子とひとつ屋根の下。  
初日、男は安眠することができるでしょうか?  
 
否!!否であります!!  
 
サバトちゃんがすぐそこで寝ている。  
いつもドクロちゃんで慣れているはずなのに、今日は訳が違います。  
思いっきり目が冴えてしまいます。  
鼓動のBPMは200を超えそうです。  
何度寝返りを打っても寝付けそうにありません。  
そして聞こえてくるはサバトちゃんの寝息。  
その音は我が脳にマグニチュード8の衝撃を与えます。  
人が違うとこんなに違うものなのですね。  
落ち着け……素数を数えるんだ……  
羊が2匹、3匹、5匹、7匹、11匹……!!  
合計28匹!!でも全然落ち着きませんけど!?  
 
そうして悶える事15分。  
サバトちゃんの寝息もいつの間にか収まっていました。  
そのとき聞こえた声は。  
 
「……桜くぅん」  
 
ちょ、ちょえええ!?  
 
「……もう寝たですかぁ?」  
 
あれ?あれ?  
サバトちゃんはもう寝たはずなのでは?  
と、とにかくこの場は黙っておくとしましょう。  
とはいっても鼓動のBPMは250をユウに超えていますが。  
 
「……もーうーねーたーでーすーかーぁ?」  
サバトちゃん、そんなこと言ったら寝てても起きちゃいますよ。  
つい心の中で突っ込んでしまいますが。  
一方の僕は寝たフリをしてやり過ごします。  
でも心臓は張り裂けそうです(今までに何回も張り裂けていますが)。  
 
「……だったらぁ」  
目を閉じているので見えませんが、押入れが開く音が聞こえます。  
 
ここまで整理しましょう。  
さっきまで寝たフリをして僕の寝るのを待っていたサバトちゃん。  
でもその目的は?  
 
1.お風呂に入りたい  
2.まだ空腹が止まらない  
3.やっぱり24時間は無理!脱走!  
 
いやまず3はないですから。削除。  
1も素直に言ってくれるはず。というか一人で使えないでしょ。削除。  
一番あるのは2ですが……あれだけ食べておいてそれはないでしょう。  
じゃあ何故……?  
ちなみにここまで思考時間10秒程度です。意外と長いです。  
 
そんなことを考えながらずっと寝たフリをしていましたら。  
なぜか布団が軽くなりました。  
そして布団が元の重さに戻ったかと思うと、  
 
感じるのは暖かい感触ッ!?  
え、え、なんで!?  
 
「桜くぅん……」  
すぐそばで聞こえるサバトちゃんの声。  
ドクロちゃんとはまた違う絶大な破壊力。  
この声を聞いて病気になった人もいるとかいう噂もあるだけのことはありました。  
 
そしてサバトちゃんは僕を後ろから、  
「ずっと……こうしたかったですぅ……(そーっ)」  
と、抱きしめたぁッ!?  
「ひょあぁっ!」  
あまりの柔らかさと温かさに思わず声が出てしまいましたッ!  
ドクロちゃんに抱き締め、いや絞められた時とは比べ物になりません。  
あの時はむしろ痛みが先行していましたし。  
 
「へぇえっですぅ!?」  
サバトちゃんもびっくりした様子で、(こんな時も「ですぅ」なのは流石)  
(ゴキッ)  
「うぼあぁっ!」  
僕を思いっきり絞め上げました!  
あの悪夢、再来――そう、まるで僕は歯磨きチューブのように。  
 
しかし、それも一瞬の出来事でした。  
サバトちゃんはまた温かく僕に抱きついてくれるのです。  
「サ、サバトちゃん……?」  
しばらくそのまま、静寂の時が流れていったのです。  
 
口を開いたのはサバトちゃんでした。  
「起きてるんだったら言ってくれればよかったですぅ」  
少しすねているようです。でもまだ抱きついたままで。  
「ご、ごめん」  
そしてまた流れる静寂。  
なんともいえない雰囲気。  
 
今度口を開いたのは僕で。  
「ねえ、何でこんな?」  
 
再び流れた静寂を打ち破ったサバトちゃん。  
「まだ……」  
「まだ?」  
泣き入りそうな声でサバトちゃんが言います。  
「何もお礼してないんですぅ」  
「へ?」  
思わず素っ頓狂な声が出る僕。  
僕、何かお礼されるようなことしたっけ……?  
サバトちゃんは真剣に続けます。  
「いろいろしてもらって、まだ何もお礼してないんですぅ」  
そうか。  
サバトちゃんは、まだそれを悔やんでいたのか。  
「……」「……」  
2人とも黙ってしまって。  
しんみりした空気が流れます。  
 
それからサバトちゃんは語り続けました。  
サバトちゃんはずっとお礼がしたかったらしいのです。  
僕が今までサバトちゃんに好意でし続けてきたことにお礼がしたくて、  
でも自分が何も出来ないことをすごく悔やんでいたらしいのです。  
 
「別にいいんだよ」  
そうなのです。別に僕が勝手にやっているだけのこと。  
お礼される義理などないのです。そこまでのことを僕はしていません。  
「ただ僕が勝手にやってるだけなんだからさ、気にしない気にしない!」  
「で、でもっ……、……!!」  
 
ああ。  
やってしまった。  
僕はサバトちゃんの言葉を遮るために!  
なんと!なんと!なんと!  
 
くるりと振り向いてそのままキスをしてしまうとは!  
なんて思い切った行動をしてしまったんだ!  
眠気のバカ!眠気のバカ〜!  
 
慌てて口を離そうとすると、  
「……くちゅ」(注 カスタードクリームではありません)  
サバトちゃんは僕の頭を抱きかかえ固定し、  
僕の口の中に舌を差し入れ、そして僕の舌と絡めはじめました!?  
「……!?」  
あ、ヤバイかもしれません……。  
本気でサバトちゃんが愛しくて仕方なくなってきたかも……。  
 
「ちゅ……くちゅ……んちゅっ……ぷはぁ」  
それから僕とサバトちゃんは長い長いキスを繰り返していました。  
2つの舌が互いの舌を求め合う長いキス。  
とても情熱的な、とても甘い、とても素敵なキス。  
「ずっと、ずっと……こうしたかったんですぅ」  
サバトちゃんの激甘ボイスが僕を昇天させかけます。  
サバトちゃんの声は日本中の人々を病気にさせてきた、とか聞いたことがあります。  
ダメだ……可愛過ぎる……好きだサバトちゃんっ……!  
「サバトちゃん……」  
それ以上の声は、出ませんでした。  
 
もう何度目でしょう。キスしすぎて覚えていません。  
またキスしようかというときに、サバトちゃんが突然声を上げました。  
「あっ……」  
「何?」  
「桜くんの……ここが……当たったですぅ」  
あ。しまった。  
もうすでに我が息子が反応してしまいました。  
そしてサバトちゃんにそこを握られる事になろうとは!  
「うぁっ……」  
思わず声を上げてしまいます。  
「あ、あったかいですぅ……」  
少し恥らいながらサバトちゃんは言うのです。  
何度もあんなキスしてたらしょうがないです。僕だって中学生の健康男子なのですから。  
 
「……っ」  
そして、サバトちゃんは硬直した僕の息子を握り、少しずつ動かしはじめましたっ……!  
 
「こうすると、気持ち良い……んですかぁ?」  
「あっ、……うん、とっても……」  
ゆっくり動かされることによるじれったい快感。  
もっと触ってほしい、そんな風に思い始めてしまうのです。  
ああ、なんだかだんだん暑くなってきたような。  
 
……そして、抱きしめる腕に力が入って。  
また僕たちは、長い口づけを交わすのです。  
息継ぎなんて僕たちには必要ないのです。  
ただただ触れ合っていたい、それだけなのです。  
「やっと夢がかなったんですぅっ」  
サバトちゃんの目に何か光るものが見えたような気がしました。  
 
サバトちゃんはずっと硬直した我が息子を握って動かしています。  
正直気持ちよさが半端ではないです。いやほんとに。  
「さ、桜くんの……とっても熱いんですぅ」  
そうでしょう。というか体全体が火照ってきたのですから。  
「サバトちゃんのせいだよ」  
ちょっと悪戯っぽく言ってみました。  
「そ、そうなんですかぁ?」  
ほえー、といった表情を見せます。  
あんまり知識もないということなのでしょうか。でしょうね。きっとそうだ。  
「それに、サバトちゃんもあったかい」  
サバトちゃんも熱くなってくれているのでしょうか。ありがたいことです。  
「はうぅ」  
少し恥ずかしがるサバトちゃん。  
そんな反応もとってもかわいいのです。  
 
そんな調子でキスを続けていると、突然サバトちゃんが言いました。  
「桜くんのここ、もっと見てみたいですぅ」  
そして、  
「ちょっ……!」  
サバトちゃんが頭と足とを入れ替えて、丁度僕のナウい息子がサバトちゃんの顔の前に!  
そしてサバトちゃんの……が僕の顔の前に!  
 

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