どうも、最近唐突に現れた「光の桜くん」に存在を脅かされるも、クラスメートとの「絆」により、存在を取り戻したナイス☆ガイ、草壁桜です。
今言ったとおり、僕は「光の桜くん」に存在を抹消寸前にまで追い込まれました。――しかし。
僕とクラスメートとの間に蓄積されていた「友情」という名の絆。そして、僕をギリギリで現世に繋ぎとめた、ドクロちゃんとの「愛情」という名の絆。
これにより、僕は「光の桜くん」を打ち倒し、日々に復帰することができたのです。
この事件により、僕はみんなとの絆を再確認することになりました(でも何故か目から鼻水が出るのは単行本9巻参照)。
いつも僕を撲殺していた、理不尽な天使ドクロちゃんも。僕の周りで最も常識人且つ、僕が想いを寄せてる静希ちゃんも。
なんだかんだいっていつも僕の見方な宮本も。いつもクールで僕を虐げる南さんも。何を考えているか分からない田辺さんも。
挙げていればキリがありません。とにかく、僕は周囲と想像以上に強い絆で結ばれていたのです。
そして、そのことを改めて強く感じさせる出来事が勃発したのは、そう遠くもない一週間前。
僕の「絆」は、自分で想像していたよりも複雑で、見えない所で絡み合っているということを強く認識させられる出来事。
その日を境に、僕の平穏な日常は少しずつ狂っていくのでした。
――これは、明日を掴み取るために必死に手を伸ばし、やがて朽ちる物語。
「光の桜くん」との死闘を終え日常に回帰してから、三日後の出来事。
三日前のことなどみんな忘れたように、各々話に華を咲かせている明るいクラスに、僕は挨拶をしながら入ります。
「おはよう!」
続いてドクロちゃんも、
「おはよう♪」
そういいながら自分の机へと向かいます。ドクロちゃんと隣の、結構居心地のいい席。
天使が邪魔してくるので、授業に集中などできませんが、それでも楽しい席です。
「日常とは、尊きモノ也」と思いながら席に座ると、話の輪から外れてこちらに近づいてくる一人の少女。
見間違える筈もありません。彼女なら200ヤード離れてたって認識できます。
何故なら、何故なら、彼女は僕の大好きな、静希ちゃんだからですッ!(ひゅーひゅー!熱いぞ!草壁桜ぁ!)
頭の中のもう一人の僕が囃し立てるなか、挨拶されて最も心地がよいとされる、自分から半径3m内に入ったその瞬間ッ!もう既に行動は終わっているんだッ!
「おはよう!静希ちゃん!」
決まったァッ!クリティカル!パーソナルスペースを尊重し、かつ親近感の得られる絶妙な距離かつ、相手の返しやすい距離!ナイス☆桜!
僕の華麗な挨拶が決まった静希ちゃんは案の上、笑顔で軽く右手を振りながら、
「ふふ。おはよう、桜くん」
いいぃー笑顔頂きましたァ!もうこれで今日一日は絶好調!朝の占いで11位で開運☆アドバイスが貰えなかったことなど頭の中から削除です。
どうでもいいことなど吹き飛ぶ彼女の笑顔。汚れが、汚れが落ちていくよぉ……。
しかし、いつまでもデレデレしてると天使に悟られます。朝の幸せタイムはコンマ1秒で済ませます。
「桜くん、体の調子は大丈夫?ほら、前あんなことがあったばかりだから。……私、桜くんが居なくなったら、生きていけない、から」
ああ、神様。僕はどうしてこんなに幸せなんでしょう。静希ちゃんに体の調子を心配して貰えるなんて……ッ!
しかも、3日前のことで。彼女は本当に優しいです。優しすぎます。
まあ、「……」からあとは僕の頭の中で静希ちゃんが恥ずかしくて言えない言葉を代弁してあげたものですが(てへっ☆)。
ふと、背後に気配。失念していました。僕としたことがクラスの空間認識を怠るなんて。速く、速く挨拶をッ!
「静希ちゃんには挨拶をして、私には無し?酷いのね、桜くん」
「あはははは!酷いなー、桜くんは!」
この声は、南さんと、田辺さん!唐突に接近してきては僕を打ちのめす毒舌コンビ!まずい、速く対応をッ!
「お、おはよう!二人とも。いい、天気だね!AHAHAHAHAHA!」
その瞬間。南さんが拳を振り上げ、そのまま下へ振り下ろすッ!
僕は南さんの腕を傷つけないように配慮しつつ、自分のダメージを最低限に抑えること意識しながら、腕をクロスさせ十字受けの構えッ!
しかし、いつまでたっても僕の腕に衝撃は訪れません。油断して、ガードを緩めた瞬間。
<ズドンッ!!>
南さんの腕が机に叩きつけられます。僕、彼女に何かしたっけ……?
机の上からゆっくりと手をどかす南さん。手のあった場所には、一枚の紙。
<ビックンビックン>怯える僕を指差し、田辺さんはさぞ可笑しそうに、
「あはははは!何してるの?桜くん!」
そんな彼女と対照的に、凍りつくような表情で僕を睨みながら南さんは言います。
「……手紙。後で読んで」
……え?それだけ?
きょとんとした僕は、咄嗟に、
「え、あ、ああ!後で読んでおくよ!」
そう返します。
そのとき、僕は何で彼女はこんなことをするんだろうな、位の軽い疑問しか持っていませんでした。
だって、僕は知る由もないのです。静希ちゃんが普段見せないような表情で南さんを睨んでいることなど。
気まずい空気が流れていることなどまったく気付かない僕を、田辺さんが嘲笑します。
ですが、僕は彼女が嘲笑しているということにさえ気付かないのです。
そのとき。教室のスピーカーからチャイムが鳴ります。その音を合図に、皆は話を中断し、各々の席に戻ります。
教室が完全な沈黙に包まれるまで、僅か1秒。リバースエンドを使ってないのにこのタイムは非常に優秀です。
ドアががらがらと開き、先生が入ってきました。――また今日も日常が始まったんだな、とこの頃になってようやく思うのは何故でしょうか?
〜そして、放課後〜
最後の授業、「6限」を終え、学校の束縛から解放されました。
「桜くん、帰ろ!」
さっきまで熟睡していた天使が目を覚まし、無邪気に微笑みかけてきます。
「あ、うん。じゃあ、静希ちゃんを呼んで……ッ!?」
僕が静希ちゃんと一緒に帰宅しようと誘おうとした、その瞬間。
冷たく、黒い、殺気が僕を背後から貫きます。それは紛れもなく、「恐怖」。
後ろをみると、そこにいたのは……南さんッ!?
ありえません!僕は彼女に何もしてないのに、この殺気はありえません!何?僕が何?ホワッツ!?
必死に思考する僕。彼女とあったつい最近の接触記録を遡ります。すると、脳の電気回路はあるものにたどり着きます。
それは、
「そうだ、て、手紙……ッ!」
思い出した瞬間、「手紙のことを忘れてなんかいないよ?ほら、女の子から貰った手紙を人前で読むなんて紳士じゃないしね☆」という顔をして、何気なく手紙を読みます。
そこに書いてあったのは、シャーペンによる走り書き。内容は、
「放課後、可及的速ヤカニ体育館倉庫ヘ移動。後、待機。」
僕が、深い深い眠りから目を覚まして最初に見たものは、
「知らない、天井だ……」
ここは何処だろう。まだ眠気のさめない脳で必死に考えます。
そうして気付いたのは、今僕はベッドにいるということ。しかも、知らない、誰かのベッド。
だんだん脳が覚醒してきて、いつもと匂いも違うということに気付きます。
――それは、嗅いでいると無理やり興奮させられるような、艶やかしい匂い。
僕は、焦りました。何故なら、いつの間にか知らない人のベッドで寝ていたということ。
そして、この匂い。普通のシャンプーとかの匂いなら問題ないのですが、明らかに変です。
呼吸をする度に、頭が朦朧とし、鼓動が高まり、それに、息子が……。
何故か以上に興奮している頭で必死に考えますが、まったく記憶の整理ができません。
確か僕は、南さんに体育館倉庫に呼ばれて、ドクロちゃんをうまく丸め込んで……
そうだ!ドクロちゃん!
いつまでも家に帰らないと、不審に思ったドクロちゃんはどんな行動を取るか。そう考えると、少し頭が冴えてきます。
とりあえず、状況を確認しないと。
そう思った僕は、まず布団から出……れませんでした。
「うわぁっ!?」
膝を曲げ、手で体を支えながら体を起こす。こんな簡単なことが出来ませんでした。
何故なら、右手は左手と、右足は左足と縛られていたからです。
「な、なに、これ……」
しかし。僕はうろたえませんでした。――そう。僕は、縄抜けのスキルを持っているッ!
両手両足の縄抜けなんて、初歩の初歩!異常な精神状態でも朝飯前です。
手を数回捻ると、縄の緩みが出てきます。その緩みから手を通して、片手完了。
片手の抜けた縛りなんて、何の意味もありません。手についてた縄をその辺に投げ、次は足の解除。
こちらも、手が使えれば楽勝です。同じ要領で……完了。
四肢の自由を得た僕は、ベッドから這い降ります。
僕は何故か、そこで違和感を覚えます。それは、
「あれ?ベッドから降りたのに、あの匂いが、まだ……」
そう。ベッドから降りたのに、まだあの匂いが続いているのです。速くこの部屋から脱出しないと……!
部屋は、僕の部屋と同じ位の広さ。内装は、気取り過ぎないカジュアルでシンプル。
机の上に鏡やブラシなどが置いてあることから、女の子の部屋ではないかと予想されます。
速くここから出ようと、ドアノブに手をかけ、ドアを開きます。
ドアが45度位開いた所で、何かに詰まるような間隔。埃でも溜まっているんだろうか。
そう思い、僕は強く力を込めると、<ピンッ>と音が聞こえ、何かスプレーのようなものが散布されました。
それを僕は回避できる訳もなく、思い切り吸い込んでしまったその瞬間。
さっきから漂っていた不思議な匂いは、これのせいだったと気付きました。
恐らく、このスプレーのようなものから少しづつ漏れていたのだと思います。
そして、その匂いをモロに吸った僕は。平衡感覚を保ってられなくなり、思い切りぶっ倒れました。
倒れたときの音が下で反響しています。どうやらここは2階のようです。
僕の正常な思考は、そこで途切れました。それ以降の僕は、本能のままに生きる野獣とさして変わらない存在です。
〜その頃の南さんと田辺さん〜
「待ってて、お茶淹れてくるから」
南さんはそう言うと、キッチンの方へと消えていく。
私は、微妙に気まずい空気に萎縮しながら部屋に座る。私の後ろでは、覆面をした男達が直立している。
なんとなく邪魔だ。もう用は済んだし、日も沈む頃だ。帰らせてもいい。
「あ、もう皆は帰っていいよ。ご苦労様。また何かあったら頼むから、そのときは宜しく!」
私がそういうと、男達は肩の力を抜き、覆面を剥ぎながら玄関へと向かっていった。
あ、重要なことを忘れていた。彼を帰らせる前に、一仕事させなきゃ。
「あ、××××君は少し待って。最後に一仕事あるから」
名前を呼ばれた男が、一瞬で硬直し、周りの男達にもそれは一瞬伝染した。
しかしすぐに覆面を装着し、姿勢を正すと、
「何をすれば?」
私は部屋の電話を指差しながら、
「えっと、その電話を使って……あ、」
そうだ、勝手に人の電話を使ってはいけない。彼女に一言いわないと。
「南さん、電話借りるね!」
返事は無い。聞こえなかったのか、もしくは私が聞こえなかったのか。
まあいいや。電話をかけることは前から決まっていた、絶対必要なプロセスだから。
「そこの電話を使って桜くんの家に電話をかけて欲しいの。」
男は無言で頷き、親友の電話番号をプッシュする。
速いスピードで聞こえる電子音が、彼と桜くんの仲の良さを物語っている。
「内容は、『桜くんは今日ウチに泊まります。』というような内容ね」
彼は返事をしない。もう電話が繋がったんだろう。
「もしもし、××××ですけど……、草壁さんのお宅ですか?」
電話の相手の声は聞こえない。でも、今の時間と桜くんの個性的すぎる家族構成を考えると、ザクロちゃんだろう。
「あ、ザクロちゃん。桜、今日さ。俺んちに泊まるから、桜の両親に伝えといてくれないかな」
当たりだ。あのザクロちゃんのことだ、しっかり伝えてくれるだろう。
これで両親は桜くんは××××君の家に泊まりに行ったと信じ込むだろう。
「はい、ありがとう。じゃあ、また」
電話を終えると、××××君はこちらを見てきた。帰宅許可を求めているのだろう。
「あ、もう帰っていいよ。お疲れ様」
そういうと、彼は踵を返し、玄関の方へと消えていった。
そのとき。つまらなく、単調な物音が部屋に響いた。
南さんにはどうやら聞こえていないらしい。それにしても南さんはお茶をいれるのに何分かかっているんだろう。
お湯を沸かして、カップを温めて……
まだ時間はかかりそうだ。私が見に行こう。
久しぶりに南さんの家の階段を上る。前お泊りにきたとき以来だ。
それにしても、さっきの音はなんだろう。何か、人が転んだような、そんな音。
桜くん、暴れすぎてベッドから落ちたかな?
ふと、2階が見えてきた所で漂ってくる、異様な匂い。
甘いような、酸っぱいような。それは2階に近づくにつれて、はっきりとしたものに変わっていく。
この匂いを嗅ぐたびに、私の意識は朦朧としてくる。だけど、とりあえず状況を確認しないと。
そして、2階に着いた私が最初に見たものは、床で呻いている、桜くん。
「え、え?な、何?どうなってるの?縄は?そして、この匂いは、は、ひ……」
息遣いがどんどん荒くなっていく。何故か異様に興奮し、アソコが熱くなる。
何が、どうなってるのか、分からない。もう、たってられない。自分のこの欲望を今すぐ満たしたい。
私は、もつれる足でなんとか窓を開け、ドアの開いている部屋の換気扇を回す。
そこで、緊張の糸が一瞬緩み、私は桜くんの横に倒れた。
〜その頃の南さんと田辺さん、終り〜
僕は、何をしているんだろう。体が熱い。熱い。ひたすら熱い。
頭の中は、性欲で埋め尽くされている。おかしい。何故か性的なことしか考えられない。
それに、体の性感帯がびんかんになっている。足を動かして足掻く度に肉棒が太ももに擦れて、普段では考えられない快楽が僕を包む。
あ、ああ、駄目だ、この欲望の波に飲まれたら、取り返しのつかないことになる気がする。
速くここから抜け出さないと、そう思い、辺りを見回し、僕の目に留まったのは、
「田辺、さん……」
荒く息をしながら横たわる、ッ!
その時、僕の体に異変が起きました。田辺さんを見た、その瞬間。今まで朦朧としてた頭は、「田辺さんと性行為をする」
ということで埋め尽くされ、力の入らなかった足には、普段考えられないような力が宿ります。
背筋をバネにして飛び起き、田辺さんを抱えて、部屋の中へ。
どうして僕はこんなことを。そんなことは、頭に浮かんでさえきません。
田辺さん田辺さん田辺さん田辺さん田辺さん田辺さん…………。
目の前の少女が愛おしくてしょうがない。速く自分色に染めたい。自分一人のものにしたい。
息遣いの荒い少女を、ベッドに下ろします。そして、着ている邪魔な衣服に手をかけ……
そこで、田辺さんは目を覚ましました。