〈カナカナカナカナ…〉  
 
ひぐらしのなく夕暮れ。僕は一人の天使の少女を待っていました。  
「ドクロちゃん遅いなー」  
ここは僕が育った埼玉県からは遠い町の、家から通えない、ちょっと遠くの大学の広場のベンチ。  
この大学はその広大な敷地と自然がとても多いのが特徴です。  
まだ六月の後半だというのに、セミたちは早くも活動を開始しました。  
 
ふと、気付けば、『光の桜くん』騒動から6年以上が経過していました。  
あの頃がとても懐かしく感じられます。  
あれから色々なことがありましたが、天使たちによる襲撃は、『光の桜くん』以降はこれといって大きなものはありませんでした。  
今の僕がいるのも、あの天使のおかげ…と言えるのでしょうか。  
それはサダカではありません。  
 
しばらくすると、目の前を流れる人工の小川にかかった橋を渡ってくる、金色の輪っかを頭上に浮かべた少女が、その小さいながらも出ているところは出ている身体を揺らしながら、スキップでこっちにやってきました。  
「あ、桜くん」  
ドクロちゃんと並んで歩いていた長髪で黒髪な毒舌少女が僕に気付きました。  
「こんにちは。南さん。そしてドクロちゃんキミってヤツは…」  
「あれ?桜くん?もしかして待っててくれたの?」  
「もーっ!ドクロちゃんが朝いっしょに帰ろうって言ったんでしょ?僕は6限に講義が終わるドクロちゃんを5限からずっと待ってるんですよ?!」  
「もーっ!桜くんは寂しがり屋なんだからっ!えへへっ!いいよっ!いっしょに帰ろう?」  
くそ、何でこの天使とはマトモに会話が成立しねぇんだ。  
「あれ?南さんはドクロちゃんと講義いっしょだったの?」  
そういえば南さんを見るのは久しぶりかもしれません。  
南さんと西田とは、たまたま同じ大学なのです。  
中学・高校時代、吹奏楽部で英語を得意とする彼女はてっきり、音楽系か外国語系の大学に入学するものと思っていた僕は、大学に入ってからいっしょだと気付いたときには少々びっくりしたものです。  
「そんなわけないでしょう。生物と社会がいっしょの講義なんてそうないわ。中央図書館に本を返却しに行ったらドクロちゃんがいたから、いっしょに帰ろうって誘ったの」  
「そうだったんだ…」  
 
この天使は、講義を途中で抜け出して図書館にいたようです。  
「ドクロちゃん、図書館なんかで何してたの?」  
「本読んでたのー!」  
「何の?」  
「『おとこのことおんなのこ からだの…」  
「ストッォォォップ!言わなくていいから!大きな声で!なんか通行人の皆さんの動きが一瞬止まっちゃったでしょ?!  
って大学図書館にもあったんだその本?!なんでその本ばっか読むのさドクロちゃんは!」  
「でもボク生物学部だよ?」  
「何か生々しいから言わないでよそういうことは!僕も生物学部なだけ余計にイヤだよ!」  
考えてみれば、僕は得意の生物を活かしてこの学部に入ったのですが、それを天使たちが容認してくれたのは意外でした。  
ドクロちゃんだってそうです。  
てっきり彼女は僕をこの道から逸らすために僕といっしょにいるものと思っていましたが。  
ていうか受験勉強が割とスムーズに行えたこと自体が奇跡です。  
そりゃあちょっかいをかけてくるドクロちゃんという障害を乗り越えるための、聞くも涙、語るも涙の努力かいあって、ということを補足しておかねばなりませんが。  
ドクロちゃんが何で入学できたか?  
それは僕の口からは言うまいて(歯の神経とかの話になるので)  
「じゃあ、わたしは宿舎に帰るから」  
「あれ?南さん宿舎なんだ。僕たちはアパートなんだ」  
「もしかして、いっしょに住んでるの?」  
「え…あー…」  
「うんっ!そうだよー」  
僕が返答に窮しているとアホ天使があっさり言いやがりました。  
「!(南さん)」  
「あー!もうそういうこと軽々しく言わないで!何かあらぬ誤解を生みそうで怖いよ!特に南さんの場合は!  
…ってアレ?南さん?どうしたのドクロちゃんのうしろに隠れて…え?何でドクロちゃんはエスカリボルグを構えてるの?  
何かいつにも増して理不尽な展開じゃない?やめてやめて!そんなフルスイングなんかしたら僕ぅがっ!〈ズガァァ!〉」  
 
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪  
 
このとき初めて気付いたのですが、ここのところ、ドクロちゃんは撲殺する回数がめっきり減っていたのでした。  
 
これは、天使の少女と人間の少年が繰り広げる愛の血みどろ物語の、その幸せな結末の物語。  
 
   ★  
 
「ただいまーっ!」  
ドクロちゃんが何故か僕らの住まいであるアパートの一室の玄関を反復横跳びします。  
 
そんな天使の少女を見ていると、僕も思わず笑みがこぼれます。  
「もう。大学生になってもドクロちゃんは全然変わらないね。大学楽しい?」  
「うんっ!とっても楽しいよっ!…ねえねえそれより桜くぅん」  
ドクロちゃんが甘い声を発します。  
これはいつものアレをしろとの合図。  
「今日は一緒に帰って来たのに何だか変だけど…うーん…しょうがないなあ」  
そう言って僕が腰をかがめると、ドクロちゃんが飛びついてきて、軽く唇を重ねてきました。  
〈ちゅっ〉  
「んーっ。おかえりなさいのちゅー!えへへぇ」  
そう言ってドクロちゃんは〈にへーっ〉と締まりのない笑顔をすると、僕の持っていたスーパーのレジ袋を持ってキッチンに駆けて行きました。  
やっぱりキスをしてあげると機嫌が良くなるようです。  
 
え?超展開すぎて話について行けない?  
すいません。別にドクロちゃんと恋人に至るまでの過程をすっとばしたとかそういうのではないのです。  
ていうかドクロちゃんとは一応同棲してはいますが、恋人でも何でもありません。  
どちらかと言えば保護者と子供の関係と言ったほうが正しい気がします。  
弁解するわけではありませんが、過去にこんなことがありまして…  
 
【回想シーンスタート】  
それは僕らが高校に入学して間もないある朝のことでした。  
「はああああああああああああああああああああああーッ」  
「もーッ、最近桜くんタメ息ばっかりー。ちっちゃい女の子に相手にされなくてもボクがいるんだからそんなに落ち込まなくてもいいのにー」  
「突っ込むのもメンドクサイけど…違うからね…ていうか『タメ息』って書き方すると何だか鬱度が2割ほど増すね…どうでもいいけど…」  
このときの僕は、静希ちゃんがアメリカに留学してしまい、さらには告白も叶わず、まさに人生のどん底を味わっている真っ最中。  
これから僕は何を楽しみに生きていけば…  
「桜くん?大丈夫?どこか痛いの?」  
ドクロちゃんが悲しそうな顔で僕の顔を心配そうに覗きこみます。  
ドクロちゃんと言えども、女の子に心配をかけるわけにはいきません。  
そこまで落ちぶれてしまっては、草壁桜の名が廃るというものです。  
「ありがとうドクロちゃん。でも、大丈夫だから」  
僕が精一杯の笑みを返すと、天使の少女は本当に嬉しそうに  
「よかったー。ボク、桜くんがもうボクと遊んでくれなくなると思うと夜も眠れなくて…」  
ドクロちゃんがよそ見をしながら横断歩道を渡ろうとしたとき、僕の目に飛び込んできたのは、赤信号と天使の少女に突っ込んでくるダンプカー。  
 
「なっ…!」  
〈ぷあああん!〉  
「っ…ドクロちゃんっ!」  
とっさに僕はドクロちゃんの体を僕のほうに抱き寄せました。  
〈がきん!〉  
〈ごおおおぅっ!〉  
僕とドクロちゃんの前歯がかちあったのとダンプカーがドクロちゃんの後ろ髪をかすって通り過ぎたのはほぼ同時。  
「ぃ痛アアアアッ!HAGAアアアッ!…ってドクロちゃん大丈夫?!怪我とかしてない?!」  
「うん・・・桜く…ん」  
何故かドクロちゃんの頬は赤くて  
「ドクロちゃんっ!高校生タル者信号くらいキチンと見なさってんんん?!」  
気づくと再びドクロちゃんの潤んだ瞳が目の前にあってッ!?  
「んっ…ちゅ…こえきもひいい…」  
「んっ、ちょっ、ろふろひゃんッ?!にゃにおしゅりゅー!」  
【回想シーンおわり】  
 
あれ以来ドクロちゃんはキスの気持ちよさを覚えてしまって、ことあるごとに僕にキスしてくるのです…  
僕も「こういうことは軽々しい気持ちでしちゃイケナイんだよ?」と何度か諭したのですが、あの頃の僕の精神状態も相成り、結局「僕以外の人にしちゃダメ」なのと「人前でしない」のを条件に、(エスカリボルグで脅迫され)許してしまい、今にいたるというわけなのです。  
まあキスが気持ちいのは否定しませんが。  
計らずもアレが僕のファーストキスだったのですが(何も言うな)、何というか脳を溶かされるような感じがしまして、体がジンジン熱くなってくる感じなのです。  
まさに麻薬のような気持ちよさです。  
こうやって人は快楽に身を委ねていくのですね。  
何というコトでしょう。  
 
   ★  
 
〈トゥルルルルルルルー〉  
「桜くーん!南さんから電話ー」  
「ん?南さんから?何だろ?」  
僕が未だ残るドクロちゃんとのキスの感触に集中力を削られながらもレポート作成に精を出していたとき、ドクロちゃんが受話器を持って〈ペタペタ〉と裸足で走ってやって来ました。  
「もしもし。僕だけど。南さんどうしたの?…え?明日?」  
話し中だというのに、パンティにぶかぶかのTシャツを着ただけのドクロちゃんが背中によじ登ってくるものですから胸が背中に押し当てられてロクに会話に集中出来ません。  
「う…うん…分かった」  
 
〈ガチャリ〉と僕が受話器を置くと  
「南さん何だって?」  
ドクロちゃんが興味ありげに聞いてきました。  
「ちょっと学校関係で連絡がね。それでちょっと明日は出かけるから、お留守番頼めるかな?」  
「えー!ヤダー!明日は桜くんと『二人ごせろトーナメント』をやろうと思ってたのにー!」  
「そのお誘いは謹んで辞退させてもらうよ。あ、この前借りたビデオ、ドクロちゃんまだ見てないよね?あれでも見てれば?」  
「うーん」  
「あ、それよりそろそろ夕飯の支度しなきゃ。ドクロちゃん手伝って?」  
「うんっ!(冷蔵庫を覗きこみながら)マヨネーズと冷やし木工ボンドとびんかんサラリーマンソーセージで何か一品作れるかなー?」  
「それはもはや料理ではない何かだよ…」  
大学生になって、少し嘘が上手くなったような気がします。  
 
   ★  
 
「桜くん遅い」  
会うなり彼女はそう言いました。  
「ご、ごめん…朝からドクロちゃんが駄々こねて…結局ごせろ一回付き合わされて…」  
朝から全力疾走で僕は息も絶え絶えですよ。  
「会うなりそんな話だなんて無粋ね」  
「え?」  
「何でもない。行きましょう」  
僕は昨日電話をくれた南さんから「いっしょに出かけよう」というお誘いを受けました。  
いわゆるデートとのお誘いというやつです。  
ドクロちゃんとどこかに遊びに行くのを除けば、女のコと二人きりのおでかけは静希ちゃんと映画を観に行って以来です。  
しかもアレは結局ドクロちゃんに邪魔されましたし。  
今回も邪魔に現れる可能性は無きにしもアラズ。  
ですが、何だかんだで彼女ももう大学生。空気を読むことも大分覚えました。そう信じます。  
それよりも僕は南さんが僕をデートに誘ったその意図が未だに掴めません。  
今までの態度からして、どちらかと言えば嫌われているとばかり思っていましたが。  
「南さん、今日は誘ってくれてとても嬉しいんだけど…あの…こんなこと聞くのも無粋かもしれないけど、どうして僕を?」  
「桜くん。切符。七百円」  
「え、あ、ハイ」  
僕が切符を買うのを見届けると、相変わらずのポーカーフェイスで〈スタスタ〉と歩いて行ってしまうものですから  
「あ、ちょっ、まっ」  
僕が小走りで後を追うハメに。  
一応男というのもあって、情けない気分になります。  
「…桜くんは、嫌なの?」  
早足で歩いていた南さんが唐突に口を開きました。  
「…え?」  
「わたしとデートするのは、嫌?」  
 
「え…あ、いや、デートかどうかはともかく、南さんとは最近会ってなかったし。特に大学に入ってからは・・・だから、久しぶりに会えたから、いっしょに出かけられるのは、嫌じゃないよ。いや、むしろ嬉しいな。あ、嬉しい、です」  
南さんは目を丸くして驚いたような表情を見せると  
「ふふっ」  
〈くしゃっ〉と顔を綻ばせて、小さく笑いました。  
久しぶりということもあるのでしょうが、彼女のこんな表情は本当に珍しいと思います。  
南さんもやはり女の子、というか、一般基準からすればかなりの美人に類するのでしょうが、笑った顔は素直に可愛いと思いました。  
「桜くんはやっぱり面白いわね。変わらない。でも、嘘でもわたしとのデート、嬉しいって言うくらいの気遣いはないのかしら」  
「あ、ご、ごめん…」  
そういう南さんも、やっぱり昔のまんまで。  
何だか中学の頃を思い出して切なくなりました。  
「それで、今日はどこに行くの?」  
考えてみればデートコースは聞かされていません。  
というかこういうのは普通男がエスコートするものなのでしょうか?  
早くもマイナスポイントでショックでかいです。  
しっかりしなさい!草壁桜!もう大学生でしょ!  
「とりあえず東京に行きましょうか。見たい展示会があるの」  
南さんが主導権を握るようで安心したような不安が増幅するような。  
「そう言えば南さん、絵とか好きなんだよね?」  
「よく知ってるわね」  
「昔誰かに聞いた気がしてね。あ、それに中学のとき、みんなで美術館行ったじゃん。あの時、南さん、少し嬉しそうにしてたから」  
「そうかしら。本当はわたしは桜くんと二人で行きたかったんだけど」  
「え?」  
ちょうどその時、ホームに電車が入ってきて、彼女の言ったことが聞き取れませんでした。  
 
電車に乗ると、当然隣同士の席に腰を落ち着かせるわけですが、ドクロちゃん以外の女性とこんなに近い距離にいるのは本当に久しぶりな気がします。  
ていうかさっきから何かにつけてドクロちゃんと関連づけてしまいます・・・  
ドクロちゃん以外の女性との付き合いがないせいでしょうか。  
そういえばドクロちゃん、ちゃんと家で大人しくしてるかなあ…  
少し心配です。  
「桜くん?」  
「へ?あ、ごめん。何?」  
そんなことを考えていたら、少しぼーっとしてしまっていたようです。  
「ドクロちゃんと暮らしてるって聞いたけど、何か変なことしてないでしょうね」  
ちょうど似たようなコトを考えていただけに、心を読まれたようでドキッとしますよ?!  
彼女は読心術でも持っているのでしょうか。  
 
「いや全然。何だかんだでドクロちゃんガード固いからねー…っていや、別にやましい気持ちはありまセンヨ?!」  
「あら意外。スケベな桜くんがドクロちゃんといっしょに暮らして何もしないなんてね。相当溜まってるんじゃない?体に悪いわよ?」  
「公衆の面前でスゴイこと言いますねアナタは…」  
 
   ★  
 
そんな下らないことを喋りつつも、目的地の美術館に到着し、「この絵、三回見ると死ぬらしいわよ」とか言いながら南さんは僕に強制的に美術館を三周させたり、  
クレヨンで描かれた『ブラックホール』なる絵を発見して僕は内心背筋が寒くなったりしつつ午前中を過ごし、南さんチョイスのオシャレなカフェテラスでお昼を頂くことにしました。  
「南さん楽しそうだね。こう言っちゃなんだけど、南さんって中学のときはもっと寡黙なイメージがあったケド」  
「あら、わたしは今も昔も寡黙なままよ」  
そう言って南さんは少し頬を赤らめると  
「わたしはね、桜くんとのデートだから、楽しいの」  
「ぇ」  
何でしょう。  
何か今胸がキュンキュンしましたよ?!  
「そ、そうなの?そう言えば、まだ聞いてなかったけど、どうして南さんは今日、僕を…?」  
「女の子が男の子をデートに誘う理由って、そんなに沢山あるかしら。…少なくともわたしは、遊びで恋愛はしたくないから。真剣よ」  
「え、それはどういう…」  
「だから、わたしが桜くんを好きってコトよ」  
南さんが上目づかいで僕の反応を窺がっています。  
…………というか全くの予想外の緊急ニュースですよ?!  
一応南さんとは長い付き合いですが、全くそんな素振りは…いや僕が鈍感だっただけか?!  
僕に静希ちゃんという思い人がいたために盲点だったのかも知れません。  
何にせよこの場の男としてどんな行動をとればいいのでしょう?!  
ここまで0.2秒間の思考です。  
「桜くん、わたし、このあとはここらへんで買い物したいんだけど。普段東京なんて来ないし…付き合ってくれる?」  
「あ、も、もちろん。むしろ喜んでッ?!」  
ていうか僕、女の子からマトモに告白されたの初めてだよ?!きゃーどーしよー  
落ち着け。落ち着いて素数を数え  
「桜くん?おいて行くわよ?」  
「あ、スイマセン」  
 
   ★  
 
そんなこんなで時間は過ぎ、駅に着いたときには、日も落ちかけていました。  
「今日は本当にありがとう。桜くん。付き合ってくれて。楽しかったわ」  
「ううん。こっちこそ、誘ってくれてありがとう。また何かあったら連絡してよ。今度はドクロちゃんもいっしょに。じゃあ、南さんは宿舎だったよね?」  
 
そう言って僕が南さんとは違う方向に行こうとしたとき  
「待って」  
南さんが呼び止めました。  
「え?何?」  
「わたし、桜くんのコト、好きって言ったわよね」  
そういえば、そうでした。  
…正直僕は迷っていました。  
南さんのことは嫌いではありません。  
むしろ好きかもしれません。  
中学のときから彼女とは知りあいですが、彼女のクールビューティな容姿は男子から絶大な人気を誇っています。  
いつもは寡黙に振る舞っていますが、今日見せたような女のコらしい一面も持っていたりします。  
でも、安易に彼女のキモチを受け止めてしまっていいのでしょうか。  
「桜くんは、わたしのコト、どう思ってるの?」  
「南さんのコトは、もちろん嫌いじゃないよ。でも…」  
二人が沈黙してから、ずいぶん長い時間が経ったように感じました。  
駅から出てくる通行人に少し邪魔そうな顔をされます。  
「はあ…」  
南さんが、重いため息をつきました。  
「聞くまでもなかったかしらね。…桜くん、今日わたしといてあんまり楽しそうじゃなかったし」  
「そんなことはないよ!今日は南さんといっしょで、楽しかった」  
今日、僕はつまんなそうな顔をしていたのでしょうか?  
今日、南さんといて楽しかったのは事実です。  
「それでも、もしかしたら、って思ってね」  
南さんが言葉を続けます。  
「本当は、昨日会ったとき、分かってたの。でも、こうでもしないと納得できなくて。ごめんね、桜くん、迷惑だったよね?」  
南さんが泣きそうな顔をします。  
「南さん…」  
一瞬気まずい沈黙が流れたあと、  
 
―僕は納得できないよ―  
 
どこからともなく、声がしました。  
気がつくと、僕たちのすぐそばに、西田が薄笑いを浮かべながら、佇んでいました。  
「に、西田くん…」  
南さんが驚いた声を発します。  
全く気配がしませんでした。いつの間に近寄ったのでしょうか。  
「女性は執念深いって聞いたケド、南さんの彼への愛は、そんなモノだったの?たったの六年で薄らいでしまうモノだったの?」  
「…違う。六年でも、百年でも、わたしが桜くんを好きであることに変わりはない。でも、桜くんがわたしのこと、見てくれないんだから、しょうがないじゃない…」  
 
最後のほうはほとんど涙声でした。  
突然の西田の登場にとまどいつつも、僕は南さんに何と声をかけていいものやら困ってしまいました。  
「僕は諦めない。今一度言うよ。桜くん、好きだ」  
「だから何度も言うように西田は男でしょ?!僕もこう見えて男だよ!日本では男同志の結婚は認められていませんっ!」  
「それは法律上での話だよ。全く下らないな。『愛する』という行為に男も女も関係ないよ」  
「本気なのか…」  
「もちろん。ずっと言ってきたと思うけど」  
どうやら西田の気持ちは本物のようです。  
そうでないとしたら大した演技です。  
どうでもいいけど一度に二人の男女に告白されて、僕の頭は大パニックですよ!  
あああ、何か南さんは道に座り込んで泣き出しちゃうし!  
誰かフォローを入れてー。  
「だから、ドクロちゃんは邪魔だったんだよ」  
「え?」  
ふいに西田が声を発しました。  
聞き捨てならないことを聞いたような気がします。  
不穏な空気が、流れ始めます。  
「知ってると思うけど、天使がこの世界に存在を繋ぎ止めておくための大きな要素の一つとして、魔法のアイテムの使用ってのがあるんだけどね?」  
「えええ?!知らないよそんな新設定は?!ダメだよ原作者に無断でそういう設定追加したら!」  
「試しに“あんまり撲殺すると、いつか桜くんが復活出来なくなっちゃうよ?”って言ってみたんだ。ドクロちゃん、こういうコトに関しては、素直だからね。彼女、最近撲殺しないでしょ?」  
「なっ…!」  
そういえば最近撲殺の回数が目に見えて落ちている気はしていました。  
…どうして、そんなことを。  
「で、でもそれなら『天使の憂鬱』が発症するんじゃ…?それに『ルルティエ温泉』もあるし…!」  
西田はその女の子みたいな整った美少年顔で満面の笑みを作ると  
「『天使の憂鬱』っていうのは、存在消滅の本当に初期状態らしいね。『魔法のアイテムの使用停止』は、人間で言えば呼吸を止めるのと同じようなものなんだってよ。  
消滅の進行度合いが速すぎて、『天使の憂鬱』は通り越しちゃうみたい。『ルルティエ温泉』の効能も、ほぼ気休め程度のものなんだって。  
辛かっただろうね。魔法のアイテムってのは、ほとんど無意識に発動するものらしいから、制御は難しいんだ」  
「お、おい…何で…お前…そんなこと…」  
「何で知ってるのか?そんなこと、魔法のアイテムのエキスパートのザン・・・」  
「そんなことを言ってるんじゃない!」  
力の限り叫びました。  
西田がわざとらしく驚いた表情を作ります。  
「どうしてドクロちゃんにそんなことをするのかって聞いてんだよ!どういうつもりだ!西田!」  
一気にまくし立てて、ハッとします。  
「まさか、また洗脳されてるのか…?!ヒルドスレイフが・・・」  
 
すると西田は肩をすくめて  
「残念ながら、僕はいたって正気だよ。桜くん」  
西田は口の端を三日月のように持ち上げると  
「ねぇ、桜くん」  
目尻を怪しく歪ませて  
「僕のコト、見て…」  
何だコレ。吐き気がする。  
「そうそう。僕の計算からして『タイムリミット』は今日の六時ジャスト。今は五分過ぎだね」  
「くっ…!」  
それを聞いて、僕は西田を殴りたい衝動を抑えつつも、あらん限りの力で走り出しました。  
 
そして駅前には二人の男女が、同じ男を愛した二人が、残されました。  
「どうしてそんなことを…」  
「どうしてそんなことを?愚問だね南さん。桜くんが好きだからに決まってるじゃないか」  
 
   ★  
 
「はあっ、はあっ…」  
走りながら、僕は考えていました。  
「っ…どうしてあのアホ天使はっ、…はっ…、迷惑ばっかりかけるんだっ…」  
あの天使は、地球は自分中心に回ってて、何でも自分の思い通りになると思っているし、僕を誘惑するし、コトあるごとに撲殺するし、迷惑ばっかりかけるし反省もしないし。  
「ドコもいいとこなんてないじゃないかっ…」  
なのに、何で今、僕はこんな苦しい思いをしながら走っているのでしょうか。  
何だかずいぶん前にも似たようなことがあった気がします。  
あんな天使、いなくなってせいせいするのに。  
どうして…ッ!  
 
どうして今日、南さんをフったのか。  
あんな魅力的な女性は、なかなかいないでしょう。  
大学生にもなって、彼女いない歴=年齢ですよ。くそっ!  
静希ちゃんにまだ未練があるからでしょうか。  
…多分、違う。  
思い出してみます。  
今日僕は一日何を考えていたか。  
 
―ドクロちゃん、僕がいなくて寂しくないかな―  
 
そんなことばかり考えていました。  
いつの間にか、ドクロちゃんのことが頭から離れなくなってました。  
 
―ボクね、大学にも、桜くんと行きたいの―  
 
―ねえねえ桜くん?―  
 
―もー桜くーんっ―  
 
―えへへっ、さーくらくんっ―  
 
ドクロちゃんと、ずっといっしょにいたい。  
他に、理由なんかない。  
「うっ…くぅっ…はっう」  
気づくと、僕は走りながら泣いてました。  
何て情けない。  
自分の気持ちに初めて気がつきました。  
嫌だ。ドクロちゃんがいなくなるのは、嫌だ。  
 
僕はアパートの階段を三段飛ばしで一気に駆け上り、自分の部屋のドアを勢いよく開け放ちました。  
「ドクロちゃんっ!」  
 
―おかえりーっ!どうしたの桜くん?そんなに息を切らして―  
 
ですが、期待していた声は聞こえてきませんでした。  
「ドクロちゃん?」  
その家は、気味が悪いくらい静かで  
「ドクロちゃん、ドコ?」  
冷蔵庫の低い機械音だけが、冷たく響き渡り  
「帰ったよ?ドクロちゃん?…………あ、そっか。いないフリでしょ?もうドクロちゃんはー。ははは。今日はずっと留守番させて、僕が悪かったよ。参った。降参。分かったからもう出てきて?ドクロちゃん」  
…何でこの家、こんなに静かなんだよ。  
「あ!おみやげがないから怒ってるんでしょ?実はどら焼き買ってきたんだよ!ホラ…」  
どうして、いないの?  
返事を、してよ。  
いなくてもいいときだっているのくらいなのに。  
「ねえ。ドクロちゃん。ねえ。ねえってばああああああああああああああああ!」  
 
   ★  
 
「・・・桜・・・くん?」  
天使の少女はどこかも分からない、色のない海を漂流していました。  
彼女はエスカリボルグの使用頻度を抑えてから、自分の存在が急激に薄れていくのを感じていました。  
でも、それもいいとも思いました。  
自分は天使なのに、天使による神域戒厳会議、ルルティエの一員なのに、神様の言うことを無視して、六年間も好き放題やってこれたんだから、十分すぎるほど楽しい人生だったじゃないか、と。  
「…桜くん…」  
草壁桜。彼のことを思うと胸が温かくなりました。  
そのまま、溶けてなくなりそうなほどに。  
「桜くん…怒ってるかな…ボク、ちゃんとお留守番、できなかった…えへへ…桜くんの声…もう一度…聞きたかったな…」  
薄らいでいく意識の中で、彼の温かい声を聞いた気がしました。  
 
   ★  
 
「議長!」  
「どうしたザクロ」  
ここは、人間が犯すことのできない領域、天界。  
 
ここは、人間が犯すことのできない領域、天界。  
彼女、喪服に身を包んだ漆黒の長髪の天使、バベル議長が治める機関、ルルティエ。  
「お姉さまの存在が…ッ!」  
「分かっておる」  
「ルルティエの、仕業なんですか?草壁桜の抹殺に、お姉さまが邪魔だから…?」  
「今回の件には我々は一切関与しておらぬ。『パンドラの言葉』は、しばらくはドクロと草壁桜を共に行動させ、様子を見よ、と命令を下しているからの。  
…ふむ…恋慕、というやつじゃろうな。人間とは複雑怪奇な生き物じゃのう…」  
「ど、どうすれば…」  
「人間であれ、天使であれ、『存在する』ということは『認識される』ということじゃ。それは『思われる』と言い換えても良い。  
ドクロに最も近しい人間が、どれほどドクロのことを『思って』おるのか。『言霊』じゃよ。『言葉』には、『力』が宿る。『力』はいかなる世の法則をも、覆そう」  
「お姉さまは、このまま消えるのですか…?」  
「それは草壁桜しだいじゃろうな」  
 
   ★  
 
もう一度だけ、奇跡を起こして下さい。  
まだドクロちゃんといっしょにいたい。  
まだドクロちゃんに言いたいことが沢山あるんだ。  
彼女ともっと話したい。  
彼女の笑う顔をもっと見たい。  
どうか、どうか、もう一度、夢を、見させて下さい。  
 
ドクロちゃんに、会いたい。  
 
僕が育った埼玉県からは遠い町の、家から通えない、ちょっと遠くの大学。  
その広大な敷地と自然がとても多いのが特徴です。  
いつか、天使の少女が、少年と二人で通いたいと言ったそんな大學の近くに建つ、あるアパートのある一室に、細い光の筋が幾本、空から降りて来ました。  
そして、ふいに白い羽が無数に舞い、揺れ、光に溶け、  
 
―少女の姿を、象りました―  
 
そんな光景に、僕は膝をついて泣いていました。  
「天使だ…」  
 
ある日を境に、平凡だった僕の生活は一変しました。  
机の中から飛び出してきたのは、頭の上に金色のわっかを載せた、自分の妄想から抜け出したような、とびっきり可愛い、女の子。  
 
彼女の名は―  
 
「ドクロちゃん!」  
 
「ぅ…桜くん…?」  
「ドクロちゃん!ドクロちゃん!どこ行ってたの!心配しましたよ!?」  
全力で駆け寄って、天使の少女を優しく抱きあげます。  
 
「どうしてボク、ここに?」  
「何言ってるの!ここがドクロちゃんと僕のお家でしょ?!」  
「でも、西田くんが、これ以上桜くん撲殺したらダメだって…ボク、必死に我慢して…」  
ドクロちゃんが瞳を潤ませます。  
「いい!好きなだけ撲殺して下さい!もういい加減撲殺は慣れたよ!」  
「でも、撲殺したら桜くんに嫌われるって…」  
「そんなわけないでしょ!もしそんなことでいちいち嫌ってたら、もうとっくに愛想つかして未来に強制送還してますよ!」  
「え?」  
「ドクロちゃんのことが好きだから、許せるんだよ」  
僕の本心を、言いました。  
「え…桜くん…今…何て…もう一回、言って…」  
天使の少女は涙目です  
 
「ドクロちゃんのことが、大スキ」  
 
ハッキリと言ってあげました。すると、その可愛らしい顔が、〈くしゃっ〉と崩れて  
「うっ…うっうっうっ…うーっうっうっ」  
ドクロちゃんが、嗚咽を漏らして泣き出しました。  
「もう、何泣いてるのドクロちゃん。こんな恥ずかしいこと言わせといて、ちゃんとドクロちゃんの気持ちも、教えてよ」  
「桜くんが…ひっく…好き…っく…いつも言ってるのにーっ!!…今日だって、今日だってずっと一人で寂しかったんだからねっ!桜くんのバカーっ!」  
そしてドクロちゃんが取り出したトゲつきバット・エスカリボルグの先端が音壁を破壊し、〈ぃぱぁん!〉と気持ちのいい音とともに、僕の身体は血煙りと化します。  
「あっ!桜くん!」  
びっくりした天使がその無骨な神具で舞を踊ります。  
すると優しい光が部屋中に満ちて  
 
ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー♪  
 
魔法の擬音でアイシャルリターンした僕は、ドクロちゃんのその小さな体を抱きしめ  
「ドクロちゃん…もう、どこにも行かないで…」  
「うんっ!桜くんも、だよっ!」  
そして自然にお互いの唇を重ねます。  
「んっ…んんーっ…ちゅっ…」  
これがディープキスというやつなのでしょうか。  
お互いの舌が、貪るように口内を蹂躙します。  
「ん…ちゅぱ…んっ…ひゃくらくん…ひゅき…ん…」  
「んっ…んっ…ぷはっ」  
お互いが唇を離すと、銀色の橋が二人の口を結びました。  
「さ、桜くん…ボク、何だかヘンな気分に…」  
ドクロちゃんが真赤になってモジモジしています。  
「うん…僕もそんな感じ…」  
少しの間の沈黙があって、  
 
「ボクね、ずっと、初めては桜くんがいいって、思ってて、ね」  
「う、うん…」  
「桜くんは、ボクじゃ、イヤ?」  
「イヤなわけ、ないじゃん。ドクロちゃん・・・っ!」  
「んっ…」  
再び、天使の少女の唇を奪います。  
いっつも僕を誘惑するようなことをしていますが、ドクロちゃんもきっとこういうコトは経験はないでしょう。  
不思議と、がっつくような気持ちは起こりませんでした。  
キスを続行しながらも、服の上から、そっとドクロちゃんの膨らみにに手をおいてみます。  
「んっ!?…あっ…」  
ドクロちゃんが可愛らしい反応を示し、堅く目を閉じます。  
そっと指先に力を入れてみると、〈ふにゅっ〉と埋もれてしまいます。  
さすがは八十五センチというだけはあります。  
何だか柔らかいんですけど、弾力といいますか、少し抵抗がありまして、全く未知の感触です。  
まさにミクロコスモス。  
「あっ…はっ…やぁん」  
何だかドクロちゃんが気持ちよさそうな声を上げます。  
胸を揉まれると気持ちいいんでしょうか。  
「ドクロちゃん、コレ、気持ちいいの?」  
耳元で囁いて聞いてみます。  
「うん、うんっ。あっ、あっ…桜くんもっと…」  
ドクロちゃんが気持ちよさそうにしてると達成感というか満足感というか充足感というか、何だかとても嬉しい気持ちになります。  
そういうわけで僕はもう少し激しくドクロちゃんの双丘(丘というか山だけど)をこねくり回してみます。  
「あっ、はっ、これ気持ちいい…んんっ」  
何だかドクロちゃんばっかり気持ち良くてもズルイ気がするので唇を奪って彼女の口内を蹂躙します。  
 
やっぱりキスは気持ちいいです。  
特にディープは半端ないです。思考がフッとびそうです。  
「んんーっ…ぷはっ、桜くん、ちょっと待って…」  
「ん?何?どうしたのドクロちゃん」  
キスを途中で止められて僕はちょっとがっかりです。  
「胸がね、服に擦れてちょっと痛いの。服、脱ぐから、ちょっと待ってて?」  
「あ、ご、ごめん」  
「桜くんも、服、脱いで?」  
「う、うん…どうせなら部屋に行こうか…よく考えたらここダイニングだし…」  
「それじゃあお部屋にゴー!」  
ドクロちゃんが急に元気な声を出します。  
「ド、ドクロちゃん恥ずかしいよ…」  
「もーっ!男のコが恥ずかしがってどうするのーっ?ボクがリードするからはやくはやくぅ」  
「いや、流石にこういうときぐらいは僕にリードさせて…」  
 
部屋に入ると、六月といえど、少しムッとした空気が。  
「じゃ、じゃあ脱ぐね?桜くんも…」  
「うん…」  
二人がぎこちなく服を脱ぎ始めます。  
心臓がバクバクいってます。  
ドクロちゃんが愛しい、というのもあるのですが、女のコの目の前で服を脱ぐのがこんなに恥ずかしいとは。  
 
 
そして僕とドクロちゃんは生まれたままの姿になりました。  
何だかドクロちゃんは驚いたような顔をして、興味ありげにジロジロと僕を(主に下半身付近を)見ていますが、僕はすっかり目を奪われていました。  
美しい。  
素直にそう思います。  
ドクロちゃんのスタイルがズバ抜けていいというのもありますが、女性の肌がこうもきれいなものとは知りませんでした。  
古来より裸婦が美の象徴として描かれるのも納得がいきました。  
いっぽう僕は、絵に描かれるような筋骨隆々とした肉体ではありませんでした。タハー  
「ドクロちゃん…きれい…」  
「あんまり見ないでよぅ…恥ずかしいよ桜くぅん…」  
そんな恥ずかしがるドクロちゃんがただひたすらに愛しくて、僕はゆっくり彼女に歩み寄ると  
「んっ」  
キスをしました。  
そして、そのまま二人で倒れこむようにベッドに寝転び、ドクロちゃんの下半身の秘裂に手をそっと触れました。  
「んひゃっ?!」  
ドクロちゃんが素っ頓狂な声をあげます。  
「さ、桜くん…」  
ドクロちゃんは涙目です。  
 
「ドクロちゃん、僕のも触ってみて…」  
ドクロちゃんが恐る恐る、といった様子で僕の怒張に手を触れます。  
「あ…何か脈打ってるー…ちょっと怖いー…」  
ドクロちゃんが不安そうな顔をします。  
「大丈夫だよ、ドクロちゃん。んっ…」  
ドクロちゃんの頭を撫でながら、キスをすると、少し安心したような顔します。  
僕はドクロちゃんの秘裂と胸を愛撫しながら、  
「大丈夫?」  
と聞いてみます。  
「うん、大丈夫、だと思う…」  
「…………」  
「…………」  
「…………」  
「…………」  
「ど、どうするの?」  
「ボクに言われてもわかんないよーっ」  
「うーん…ドクロちゃんはどうしたいの?」  
「じゃあボクが上―っ!」  
「ええええ?!そうなの?!普通ハジメは僕が…」  
「ボクが上なのーっ!」  
「ぃぃぃぃぃぃぃい痛い痛いイタイイタイイタイ!分かった分かった!分かったから全裸で寝技は勘弁して下さい!」  
 
僕がしぶしぶベッドの上に仰向けになると、ドクロちゃんが僕の上に仁王立ちします。  
「何だかなあ…」  
初めてがこんなんでいいんでしょうか。  
でもこのアングルはドクロちゃんのアレがバッチリ見えるので、考えようによってはこっちがリードすることも可能です。  
しかし改めて見ると、やっぱりドクロちゃんはきれいです。  
何だか興奮してきました。  
心臓が再び高鳴ります。  
「じゃ、じゃあ、行くよ?」  
ドクロちゃんが覚悟の眼差しで頬を上気させつつ、ゆっくり腰を降ろしてきます。  
〈つぷ〉と怒張の先端が秘裂に埋もれました。  
「ぃぎっ」  
ドクロちゃんの表情に苦痛が見られます。  
「ド、ドクロちゃん?!大丈夫?!」  
「う、うん…ちょっとびっくりしただけ…んっ…」  
〈ずぶずぶ〉と怒張が埋まって行きます。  
ドクロちゃんは歯を食いしばって耐えているようです。  
やっぱり初めてでこんな体位はおかしいのでしょうか。  
ドクロちゃんに手が届かないので安心させてあげることもできません。  
「んんんーっ」というドクロちゃんの声とともに僕とドクロちゃんは完全に一つになりました。  
荒い呼吸をするドクロちゃんがぐったりと僕の胸に倒れこんできました。  
「ドクロちゃん大丈夫?よく頑張ったね」  
ドクロちゃんの頭を優しく撫でてあげます。  
「えへへぇ…疲れたぁ…」  
「ドクロちゃん…好きだよ…愛してる…」  
 
「うん…ボクも。嬉しい…んっ」  
その天使の可愛い顔を引きよせて、精一杯の愛を込めて、キスをしました。  
 
   ★  
 
……大きな空と、銀色に光る一面のフェンス。  
「楽しみだなぁ」  
ふと、そんなことを呟いていました。  
私は水上静希。  
中学の卒業式の日、私はそのままアメリカへと渡りました。  
「間もなく、本機は着陸態勢に入ります。シートベルトをお締めになって―」  
あれからずいぶん経ちましたが、今日は中学のときの友達が空港に会いに来てくれるそうです。  
「桜くん、か…」  
一人の少年が、いました。  
草壁桜。  
彼はどうしてるだろうか。  
彼のコトを、私はどう思っていたのだろうか。  
彼は普通の男のコと違って、とても輝いて見えました。  
それは、きっとあの天使の少女が来てから。  
「やっぱり、天使なんだよね。ドクロちゃんは」  
あの少女のことを思い出して、思わず微笑ましい気持ちになりました。  
 
飛行機と空港を繋ぐ長いエプロンを歩き、待ちあいスペースに出て、みんなの姿を探します。  
「あっ!静希ちゃんだーっ!」  
クリクリのロリータボイスが響き渡ります。  
「みんな。久しぶり(静希ちゃん)」  
「水上さん、久しぶりね(南さん)」  
「水上、久しぶりだなー(宮本)」  
「し、静希ちゃん…お帰りなさい…(ちえりちゃん)」  
 
「静希ちゃん。お帰り」  
 
「あっ……」  
桜くん、と言おうとして、一瞬、言葉がつまります。  
「もう。みんな彼氏が出来てるなんてひどいよー。あ、南さんはまだかな?」  
「え?宮本の野郎と小野さんは中学のときはもうカップルじゃなかったっけ?ドクロちゃんが僕にくっついてるのはいつものことだと思うケド…」  
「分かるわよ。何か二人とも、初々しいカンジ。ズルイんだー」  
桜くんとドクロちゃんが二人そろって真赤になります。  
そのまま見つめあってしまいます。  
「何かつまんないの。私もこの夏新しい出会いないかな?南さん誰か紹介してよー」  
「あ、それよりもし疲れてなかったら、このあと行こうと思ってるトコがあるんだけど…」  
歩きながらふと、みんなの姿を見渡してみます。  
みんな変わってないなぁ…  
桜くんはやっぱり面白い。  
ドクロちゃんは相変わらず元気みたい。  
宮本くんとちえりちゃんは、そういえば私と桜くんが間を取り持ったんだっけ。すっかり理想のカップルになっちゃってる。  
南さんは、昔から思ってたけど、堂々としてて、とっても綺麗な女性だ。これからもっと女性らしさに磨きがかかるのかな。  
でも、一つだけ気付いたことがある。  
みんな、歩き出してる。  
 
「もーっ!人前でイチャつくのはダメって言ったでしょーっ!少し自重しなさいドクロちゃんっ!」  
「えー?でもー」  
静希ちゃんが帰ってきたこの夏休み、いや、これからの人生、僕たちは、色々なことをして色々なことを想うのでしょう。  
そんな時間を、この天使の少女とずっといっしょに過ごせたらいいな。そんなことを、思いました。  
 

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