何となく怠惰な土曜の夜。  
面白くもないテレビを見るのにも飽きて珍しく暇な僕は、草壁桜。今をトキメく中学二年生なのですよっ?  
 
いつも賑やかな天使の姉妹は、ついさっきお風呂に入りに行きました。  
たわいないバラエティ番組の音だけが流るる部屋は、心なしか、閑散として見えます。  
ドクロちゃん達のいなかった頃は当たり前のように僕の傍にあった静けさが、今では僕を必要以上にセンチメンタルな人間にするのです。  
いつのまにか僕はいろんなことに思索を巡らせていました。  
気になる幼なじみのこと。クラスメイトのこと。成績のこと。自分の将来のこと。  
そして、天使の病のこと。  
そんなにもいろいろと考えていたのですから、誰かがふすまを開けて入って来たことに気付かなかったのは、しょうがないことなのです。  
 
 
「草壁桜」  
 
 
「ッ!!?」  
「久しいな。ルルネルグの件ではわらわも世話になった」  
「ば、バベルさん!?!?いつのまに入って来てたんですか!!?」  
「先ほどからじゃ。何やら真剣な顔つきだったものなれば、声を掛けてもよいものかと、思うてな」  
そのとろりとした、絡みつくような印象を聞くモノに与えるオトナな声は、僕を本能的にどぎまぎさせますッ!!  
 
「お、お心遣い感謝します…!!ところで、ドクロちゃんたちならまだお風呂なんですけど……呼びますか?」  
「いや。寧ろこの場にいない方が都合がよい。今日は、草壁桜。そなたに用があって参った」  
「……はい?」  
嗚呼……また……また僕なのですか…!?  
カミサマ!?貴方は僕にどれだけの苦難をお与えにナルノデスカッ!!?  
「今度は…どのような御用件で……?」  
僕のどことなく怯えた声色を読み取ってか、バベルちゃんは苦笑いのような表情を浮かべます。  
「左様に怯えることはない。為すべき事は至って簡潔じゃ」  
「それは具体的に申しますと……?」  
そこでバベルちゃんは、その透き通るような真白な肌をうっすらと紅に染め、さっきまでのスッパリとした物言いとは打って変わって妙に落ち着きなく、  
 
「草壁桜。おぬしは……わらわと交わるなぞは……嫌か…?」  
 
言いました。  
 
交わる、  
マジワル、  
まじわる。  
 
その言葉の意味を、聞くと同時に分かってしまっていたにも関わらず、僕は考え込むフリをしてしまいました。  
だって気付けば、なにやら目の前のオトナ天使は、頬は上気し瞳は濡れて、アリエナイ艶やかさを放っているのですッ!!  
真っ赤になって俯く僕に、バベルちゃんは続けます。  
「……わらわとて、"淫らなオンナ"と見られるのは心憂い。少々弁明しよう。……『エンジェル・パッション』、古くは『天使の失楽』と呼ばれし病については知っておるか?」  
「ぁ、前にザンスさんから聞きました…」  
うむ、と"神域戒厳会議(ルルティエ)"議長に相応しい威厳を持って頷くと、しばし押し黙ったバベルちゃんは、意を決したかのゴトく口を開くのです。  
「……まこと、わらわが迂濶であった…。ここまで話せばおぬしも解るであろう。わらわも、『エンジェル・パッション』に冒されてしもうたようなのじゃ」  
「そ…そうなんで、」  
すか、と続くハズだった言葉は、俯いたままだった僕の前、いつの間にか広がっていた光景に舌の上で蒸発してしまいましたッ!?  
「ば…バベルさんッ!!?イ、イキナリ過ぎませんかッ!?いくら僕が、健康な男子中学生とは言え…ッ!!!」  
 
目の前に広がっていた光景とはスナワチ、  
解かれた帯。  
はだけた喪服。  
そこからアラワれた、濡れたようにツヤやかな黒髪によって影が描かれた白い肩。  
それらによって幻想的かつコワク的に彩られた議長の姿、なりにけり。  
その半裸な議長さんが、  
「ふむ。確かにこの場所で、と云うのは些か早まったやも知れんな。これならばよかろう」  
そう言うやイナヤ<ばばーん!>と取出したるは『封獄聖堂ルルネルグ』!!?  
「ぇえッ!?ちょッ……まぁああアアアアー!!?」  
<みゅーん>と、UFOに連れ去られる牛よろしく光に導かれる僕。  
その僕に捕まり共に浮かび出すバベルちゃん。  
僕は、今再び味わうこととなった凄まじい浮遊感もそこそこに、気付けば石造りの暗室にいたのでした。  
 
 
☆  
 
 
自分の家、その一室から空気は一変。  
黒く淀んだその大気は、いかにもアヤしい雰囲気を作り出しています。  
二人きりだとこんなにも不気味に感じる場所だということを、今、身をもって感じているのです…!!  
「バベルさん!?何も強制連行しなくても!!とりあえず出して下さいッ!!」  
「ならぬ」  
「ど、どうして…」  
 
その真意(大体の見当は付くのですが)を問おうと試みた僕は、不意に近づけられたバベルちゃんの顔、そして彼女が纏う色香に胸の高鳴りが湧き言葉に詰まってしまいました。  
「おぬしは…みなまで説かねばならぬほど、愚かではなかろう…?」  
耳元をトロカすように、甘く零れた吐息に乗って脳髄へと染み込むバベルちゃんの誘惑のコトバ。  
ここまでなら、僕は耐え切れたかも、知れません。  
されど相手は妖艶なるオトナの天使!!  
彼女の白く細い指は僕の脇腹を甘美に撫で回し、唇で耳たぶをアマ噛みするのです。  
その情欲を煽る心地よさは皮膚→感覚神経→脊髄、の経路を通過。  
やがて脳みそに直撃しました。  
にもカカワラズ。  
まったく動くことの出来ない僕。  
なんてったって、相手は本物の"女性"。そりゃあ僕の出番なんて無いってもんですよ…ッ!!  
ユエに、愛撫されるがまま、僕は冷たい石床の上、棒立ちです。  
………ぁ、今思いつきました。僕は冷たい石床の上、"棒勃ち"で  
「草壁桜」  
「……え?あ、はい!なんでしょう!?」  
「おぬし、今何ぞ下らん事を考えておったろう」  
「………そ、そんなことない、ですよっ!?」  
「わらわとの交わりを前にしてその余裕とは。流石は毎夜、ジャステリア家の姉妹二人を相手にするだけはある」  
 
「な、何故それをッ!!?」  
「じゃが。そのようなモノは所詮、童子共の戯れ。わらわの手前、どこまでその余裕が保てるか、見物じゃのう」  
絡み付くような声の中に、微かに棘を感じます。  
え……バベルちゃん……怒ってる…?  
流れるような動きで僕の前にひざまづくバベルちゃん。  
彼女の、はらりと開いた襟元から見え隠れする白いふくらみは、ドクロちゃん達を上回る豊かさを以てして彼女がオトナの女性であることを雄弁に語っています。  
「あの者共に乳は有っても、男を嬉ばせる術は知ってはおるまい?」  
「え!?バベルさんッ!?ど、どうしたんですかっ!!?」  
僕の叫びが終わらぬ内、やや膨らみつつある"僕"は、暗い石室の外気に晒されていました。  
「ふむ。歳顔つきの割には中々、といったところじゃな」  
「あ…ありがとう、ございます…」  
って違うだろ草壁桜!!お礼の前にこの状況の異常さをどうにかすべきだろ!!とにかくまずはバベルちゃんを  
 
<ちゅく>、というエフェクト・サウンドで、僕自身への呼びかけは掻き消されました。  
感じるのは"僕"を包む温かい粘液。  
バベルちゃんが"僕"をすっぽり口内に収めているのを視界に捉らえてから0,4秒後。  
唐突に這い上がって来る快感。  
「ぅうアッ…!?」  
 
それはマサに熟練した"オトナの業(ワザ)"。  
これは……ヤバイデス!!!  
「ぁあゥッ!………って、アレ…?」  
糸を引きつつ、口から解放されてしまう"僕"。  
急に戻ってきた外気の冷たさに震える"僕"を入れ替わりに包むのは、バベルちゃんの豊かなふくらみ。  
そのやわらか過ぎる柔らかさを味わう間もなく、そのまま「早くイケ」と言わんばかりに高速で上下運動が開始ッ!!?  
「ぅううッ…!!」  
再び漏れてしまう喘ぎ声。は、恥ずかしいよぅ…!!  
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、バベルちゃんは淫美に微笑みました。  
 

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