気だるく感じる体を起こし上げ、僕は目を覚ました。  
 僕の名前は草壁桜。ゲルニカ学園の二年生で、ごく普通の中学生です。  
 でも、今となっては普通でなくなったと思います。  
 目を覚まし、今いる空間は暗い部屋の中でした。  
 僕はどこで寝ていたんだ、と思うと柔らかいシーツの触感で、そこがベッドであることが分かりました。  
 そして、釣られるように目を泳がせると、僕の隣では、一人の女の子が眠っていました。  
 黒く長く艶やかな髪で、静かな寝息を立てている南さん。  
 一つのベッドで南さんと僕は一緒に眠っていたのでした。  
 徐々に、今までに至る記憶が蘇ってきました。  
 僕は日曜の学校で弓島さんを犯し、その後は南さんに犯され、南さんに連れられるままに彼女の家までやってきたのです。  
 そして、南さんの部屋で何度となくエッチを繰り返し、そのまま、疲れ果てて、二人とも眠ってしまったのです。  
 気付けば、外は日が沈み、オレンジの夕焼けは闇に包まれたように夜空へ化していました。  
 言うまでもなく、僕と南さんは裸のままです。  
「……起きたの?」  
 僕の動きに感づいたのか、南さんも目を覚ましたようです。  
 南さんは体を隠すこともなく、布団の中から身を起こします。  
 そして、僕の肩に小さな頭をもたれかけました。  
「うん……」  
 僕は、そんな彼女に向きもすぜに俯かせた顔と布団を掴んだ手を緩めはしませんでした。  
 肩に南さんの温もりを感じ、僕は自分のしたこと、言ったことを振り返っていました。  
 南さんに静希ちゃんが必要でない、と言われた時、僕は何て返事したのだろうか。  
 思い返す必要もないくらい、はっきりと覚えていて、溜息すら出そうです。  
「やっぱり……」  
「……?」  
 突然、飛び出した僕の戸惑うような言葉。  
 不安の色も南さんに対する恐怖心も隠していない、そんな震えた言葉でした。  
「僕には静希ちゃんが必要だよ……」  
「…………」  
 そんな一言を口にするだけでも精一杯の勇気と度胸が必要だとは思いませんでした。  
 僕の肩に、頭を預けたままの南さんは微動だにしません。  
「そう……」  
 南さんの呆れたような言葉。  
 そう思われても仕方がない。僕が今までしてきた事は滅茶苦茶だ。  
 でも、南さんの意のままに踊らされているままにはいかないと。  
 今更でも遅すぎても、僕の意地は意固地の如く折れません。  
「じゃあ……。私と水上さん……どっちが好き?」  
 羞恥も何もない。淡々とした言葉で問いかける南さん。  
 僕もそんなことで恥ずかしがっていることもありませんでした。  
「静希ちゃんだよ……」  
「そう……」  
 そして、長い沈黙、薄明るい月と星の光が僕たちを包み込みます。  
 ふと、僕の肩から南さんの温もりが消え、僕は彼女に向き直る。  
 小さな顔で僕を見上げ、薄暗い空間の中、南さんは妖艶でした。  
「でも、私の言う事を聞かなかったら……水上さんは私が潰すだけよ。桜くんも学園にはいられなくなる……」  
「……そうだね……!」  
 語調が強くなった瞬間、南さんがいなければ、という思考が脳裏を過ぎった。  
 実にシンプルな考えだと思った矢先、僕はとんでもないことをしていた。  
「!」  
 南さんの目が少しだけ見開いた。  
 僕は、南さんを押し倒し、彼女の体にのしかかっていました。  
 
 彼女を押さえつけるように馬乗りになった僕は、すかさず、南さんの首を両手で掴んでいました。  
 他の誰かが、この光景を見れば、僕は人殺しだと言われることでしょう。  
「君さえ……いなければ……!」  
「……っ」  
 どんな形相をしているのかも想像がつかず、僕の両手は自然と力がこもってしまう。  
 僕の支配下では、南さんが少しだけ苦しげに呻く。  
 でも、不思議と彼女は一瞬、苦しんだだけで体を動かそうともしませんでした。  
 僕は確実に腕の力を強めています。南さんの小首を折ろうとする勢い。  
 後先の事も考えず、本当に我をなくしていたのだと思います。  
「……く……」  
 南さんの呻きが少しずつ重なってゆく。  
 これ以上、南さんの好きにしては静希ちゃんにも実被害が出るのも確実なことに。  
 このような事態を起こすほどまで、僕は追い詰められ、ここまでの混乱を引き起こしています。  
「あ……んっ……」  
 それでも、どうして、南さんは無抵抗なのだろうか。  
 僕に圧し掛かられ、絞殺されようとしているのに、何故、南さんは足掻くことすらしないのだろう。  
 本当に指一本すら動かしていないポーカーフェイスの彼女。  
 僕は、冷静すぎる彼女に混乱とは違う焦りが生じ、ふと、南さんの首から両手を離していました。  
「……ん、けほ……」  
 僕の手から解放されても、小さく咳き込むだけで南さんは体を動かさず、離れた僕を見上げるだけ。  
 加害者は僕の方なのに、僕だけが馬鹿みたいに冷や汗を垂らしては、手を震わせていました。  
 南さんに息があって良かった、と臆病者の考えが浮かびます。  
「南さん……抵抗、しないの?」  
 何をしたいのか、そんなことも考えずに吐き出る無気力な僕の言葉。  
 目の前の女の子を殺そうとしていたのに、僕は本当に滅茶苦茶だ。  
「別に……」  
 彼女の冷たい一言。  
 その冷たさはもしかしたら、彼女の悲しい感情から出ているのかもしれません。  
「桜くんこそ……私の首を絞めるつもりだったんじゃ……?」  
 僕は余計に焦りが高まり、喉元が苦しくなり、言葉が出てこない。  
 僕は駄目な奴だ。  
「だって……南さんが無抵抗だから……」  
「私は構わないわ……」  
「え?」  
 構わないって、殺されてもいいってことなの?  
 何を言っているんだ、南さんは?  
 一瞬、彼女の視線が辺りを彷徨う。  
「桜くんに殺されるなら……構わない……」  
「……本気で言ってるの?」  
 馬鹿だ、と僕は本気で蔑んだ目をするが、彼女はやはり動ともしない。  
 こんな簡単に自分の命を捨てていいものなのだろうか。  
「そういう事をしているのだから……こんな事だって予想しているわ……それに……」  
「……?」  
「桜くんから本当に必要とされてないなら……あなた自身の手にかけられるなら……それも悪くないわ」  
「な……。そんな考えもしないで……」  
 その時、南さんの焦点が僕に戻り、それは僕の目を貫く勢いを持っていました。  
 一瞬にして、また南さんの圧力が僕に襲いかかり、危うく震えそうになる。  
「そうよ……桜くんの事しか考えてないもの……」  
「…………」  
 余りにも直情すぎる彼女。またしても言葉に詰まります。  
 僕の手は、怯えていました。  
 
 南さんが僕のことを好きだということはよく分かっていたつもりです。  
 けど、これは愛情云々以前に、歪みすぎている想いにしか思えない。  
「おかしいと思う?」  
「!」  
 本当に、僕の心を透視したかのように核心を突いた南さんの発言。  
 南さんは僕の表情で理解したかのように、そうよね、と呟いた。  
「それでも、私は桜くんが欲しい」  
「南さん……」  
 何が、彼女をここまで動かしたのでしょうか。  
 今となっては何も知る術はありませんでした。  
 僕の体は動きを止めたまま、時間が流れを受け入れるだけ。  
 絡み合った南さんとの視線を外せず、彼女の瞳が不気味な光を帯びているかのようでした。  
 ふと、彼女の目がわずかに揺らぎました。  
「固まってどうしたの? 私の首……絞めないの?」  
「!」  
 首を絞めないの、という言葉に僕は先ほどの自分自身の行為に震えた。  
 死なせようとした相手から自分の行為の愚かさを諭されるなんて滑稽なものです。  
 僕は言葉も出せず、また怯えるようにして、のしかかった南さんの体から離れました。  
「殺さないのね……」  
 体の自由も取り戻した南さんは、絡まった髪を振り払い、僕と向き合うように起き上がります。  
 彼女の顔を見ようともせずに、すっかり弱腰になってしまい、僕は黙るばかり。  
「何もしないなら、桜くんには、また私の言うことを聞いてもらうわ……」  
「…………」  
「逆らっても構わないけど、水上さんは私が直接潰すわ。桜くんにもね……」  
 脅迫文句とは裏腹に南さんは僕の首に腕を回して、無理矢理、正面を向かせます。  
 南さんはこんな時でもポーカーフェイスです。  
 今の彼女の目の色が何を表しているのかも、僕にはまるで分かりません。  
 黙る僕には構わず、南さんの湿った唇が迫り、何事でもないかのように静寂と共に重なった。  
 ちゅっと小さな音が奏でられ、僕は彼女の為すがままだったのです。  
 口から生気でも吸われているかのように、僕は呆然としていき、気づけば、またベッドに押し倒されていました。  
 闇夜に染まりそうな南さんの黒髪が不気味に蠢き、僕と彼女はまた一つに繋がっていました。  
 
 
「はぁ……ふぁ……」  
 朝日が窓から差込み、眩しさで目を起こした静希ちゃんがベッドから起き上がりました。  
 寝起きが良かったのか、別に気だるい感じもなく体を起こし上げたのですが、静希ちゃんはいきなり表情をギョッとさせました。  
 下半身、パジャマのパンツの奥から何やら、ぬるっとした感覚が疎ましく感じられました。  
 急に静希ちゃんの頬は染まると同時に、目は丸くなり、もじもじと何やら体を動かしています。  
 恐る恐る、パンツの中をゆっくりと触ってみると、そこはもう熱く湿っていたのです。  
 静希ちゃんはベッドから飛び出るように離れると、焦りに顔を歪ませ、行き着く先はお風呂場でした。  
 髪を結い上げることもせずに、静希ちゃんは身に着けているパジャマを下着と一緒に脱ぎ、浴室に駆け込みます。  
 シャワーを浴びつつ、静希ちゃんは頭を垂れます。  
 その顔は明らかに浮かない顔をしており、暗い影さえ漂わせていたのかもしれません。  
 朝、目を覚ませば、股間が熱く濡れているなんて、初めてのことでした。  
 俗に言う夢精。  
(どうして、こんな風になっちゃったんだろう……)  
 昨日の日曜、学校で目撃した二回の桜くんの他の女の子との醜態。  
 一回目は衝撃的で逃げてきてしまったのに、二回目は食い入るように覗き見てしまった自分。  
 何が変わって、こんなに淫らな自分が出来上がってしまったのだろうか。  
 まるで、認めたくないかのように自問しては何度も苦悩する始末なのです。  
 
 静希ちゃんの白い肌はシャワーのお湯を弾き、タイルの床に零れ落ちていくばかり。  
 別に時間がないわけでもないのに、早く学校に行かなきゃ、という考えが、静希ちゃんの脳裏を掠めます。  
(桜くん……会いたい……)  
 他の事なんて、今は考えてはいられませんでした。  
 桜くんに会って、ぎゅっと抱きしめられたいし、自分のことを好きと言ってもらいたい。  
 彼に対してだけ、異常な程に欲望が募り、胸が張り裂けそうな静希ちゃん。  
 時々、出る溜息は深く熱く吐き出されるものばかり。  
 シャワーを浴びて制服に着替えた後も朝食を食べている時も、顔をしかめていたせいか、お母さんから心配されてしまいます。  
 家を出た後は、いつもよりも早歩きで学校に向かいます。  
 もしかしたら、途中で桜くんと会えるかもしれないと期待を膨らましてもいても、それは空しく萎むだけです。  
 通学路では会えなかったけど、教室では確実にいるはず。  
 また一緒に来ているドクロちゃんとおかしく騒いでいるはずです。  
 実際、教室に行くと、ドクロちゃんは確かにいましたが、何故か、桜くんの姿が見当たりません。  
 南さんと田辺さんと一緒に、お話しているドクロちゃんに、静希ちゃんは一番に駆け寄ります。  
「あ、静希ちゃん、おはよー」  
「おはよう、ドクロちゃん」  
 ドクロちゃんからの声に、静希ちゃんはあくまでも平静を保ち、挨拶を返します。  
 南さんと田辺さんにも挨拶を交わしましたが、一瞬、南さんの目が笑ったようでした。  
 しかし、今の静希ちゃんは、そんなことには気づいていません。  
「あれ、今日はドクロちゃん、一人なの?」  
 あくまでも自然を装いながらも、核心は外さない。  
「うん、なんかねー。桜くん、宮本くんのお家でお泊りするとか言ってたけど、何やってるんだろー」  
「あ、そうなの……?」  
 どういう経緯でそうなったのかは分かりませんが、ドクロちゃんの言うことに嘘はないと思いました。  
 ちょこちょこと会話をして、最後にありがとうと言い残して、静希ちゃんは宮本くんの姿を探します。  
 教室の辺りを見回してもいないと思ったら、聞き覚えるのある逞しい声が静希ちゃんへの合図になりました。  
「み、宮本くんっ」  
「うお、水上。なんだよ?」  
 一瞬、何と声をかけようかと考えていたままだったので、静希ちゃんの声が少々上擦っていました。  
 唐突な呼びかけなせいか、宮本くんも一瞬表情を強張らせて、静希ちゃんを迎えます。  
「えっと、桜くん、見かけなかった?」  
「桜? さあ、俺も見てないけど、まだ来てないんじゃないか?」  
「え?」  
「ん、なんだよ?」  
「あ、ううん、なんでもないの。ありがとう」  
 どういうことだろう、桜くんは宮本くんと一緒じゃなかったのかしら。  
 何かが食い違っているような感覚もしますが、そんなに複雑なことではありません。  
 しかし、桜くんがいないという現実が静希ちゃんを段々と混乱の淵に追いやります。  
(ダメ……落ち着かなきゃ……)  
 宮本くんから離れた静希ちゃんは小さく深呼吸をし、近くにいた一条さんに話しかけては気を紛らわします。  
 その後、朝のホームルームが始まっても、桜くんは姿を現れませんでした。  
 担任の山崎先生が出席確認をして、草壁はどうしたか、と聞くと意外な人物が挙手していました。  
「草壁くんは、熱があるそうです」  
 立ち上がり、ハスキーボイスでそう答えるのは、黒く長い髪を揺らす南さん。  
 思わず驚いて彼女を見る静希ちゃんに、一瞬だけ南さんも目を向け、視線が交錯する二人。  
 そして、その南さんの目は、まるで静希ちゃんを嘲笑うかのように躍っていました。  
 静希ちゃんは自然と表情が険しくなり、耐えるように膝の上に置いた手をぎゅっと握っていました。  
 授業を受けている間さえも、時間が過ぎれば過ぎる程に不安だけが重なり、気が気でなくなりそうです。  
 意を決した静希ちゃんは、昼休みに南さんを、普段、立ち入り禁止の屋上に呼び出していたのです。  
 
「水上さんに、こんな所に呼び出されるなんて……初めてね」  
 微かに吹く風にも、南さんの髪は揺れても、彼女のポーカーフェイスは決して崩れません。  
 その南さんの目の前には、この場を設けた静希ちゃんが思いつめた表情を浮かべていました。  
「それで、何か話でもあるの?」  
「…………」  
 白々しい程に後ろめたさを感じさせない南さんに、静希ちゃんは何か一歩手前までの我慢をしています。  
 南さんを罵ろうだとか、そんな陰湿な事は思いませんでしたが、彼女の挑発めいた行動が静希ちゃんには流しきれなかった。  
「桜くん、熱出したんだ」  
「ええ、今日はお休みするんだって」  
「でも、どうして南さんが、そんな事知ってるの?」  
「あら……」  
 ふと、南さんのポーカーフェイスに笑みが浮かび、髪をかきあげます。  
 その顔は、やはり静希ちゃんを挑発するものに見えて仕方ありません。  
「知ってたらダメなの?」  
 何がそんなにおかしいのか、南さんはクスクスと微笑を漏らします。  
 静希ちゃんの眉間が、ほんの僅かですがピクリと動きました。  
 静希ちゃんにしてみれば、自分の知り得ない桜くんの情報が、他の女の子に把握されているのは気分のいいものではありません。  
 自分はこれでも、桜くんと幼馴染。彼の事なら私が一番よく知っているはずだと。  
「これ以上……桜くんに近づかないで」  
 下らない遠回しなどするべきではなかったと悔い、静希ちゃんは正面を切りました。  
 少しの間を取って言われた言葉に、南さんの表情が明らかに色を変えました。  
「嫌」  
 短く発せられた言葉と共に、南さんが静希ちゃんに向ける視線は敵意に似たもの。  
 あまりにも冷然とする南さんに、静希ちゃんは一歩怯んでしまいます。  
「桜くんは、私のモノ……」  
 何様のつもりなのか。  
 小さくカチンと来る静希ちゃん。自然と表情が強張る。  
「勝手に、桜くんをモノ扱いしないで……!」  
「何でもいいわ。桜くんと私は、もう何度も愛し合っているもの……」  
「なっ……」  
 見る見るうちに静希ちゃんの頬は赤く染まり、押し黙ってしまいます。  
 南さんは、付けこむように更に笑みを強くしました。  
「まだ、バージンの水上さんには刺激が強すぎたかしら?」  
「…………」  
 手の平を返したように形成は南さんに傾き、静希ちゃんは上手く反論できません。  
 桜くんと南さんは何度も愛し合っている。  
 それがどういう意味なのか分からない静希ちゃんではありませんでしたが、悔しいものを感じます。  
 南さんが言うように、静希ちゃんはまだ処女なのです。  
「私とエッチする時の桜くん……とても可愛いの。気持ちよさそうで随分気に入っているみたい」  
「……!」  
「水上さんも昨日見たんじゃない? 桜くんの悶える姿……興奮したでしょ?」  
「……信じられない」  
 静希ちゃんは何の恥ずかしげもなく、自分たちの痴態を事大っぴらにする南さんに軽蔑にも似た感情を抱きます。  
 それでも、当の静希ちゃん自身は顔を真っ赤にするだけで、南さんの言われたい放題。  
 南さんは嘲笑の笑みのままで、静希ちゃんに優越感を浴びせつつ詰め寄ります。  
「水上さんは、桜くんとセックスもしてないのよね……」  
「…………」  
「黙ってるのね。図星を突いてしまったかな?」  
「南さん……!」  
「当然よね。あんな風に桜くんを悦ばせるなんて、バージンの水上さんじゃ無理だものね」  
 
 あんな風。昨日、覗き見していた桜くんの顔は今まで見たことがなく、彼自身も恍惚としていました。  
 しかし、静希ちゃんが桜くんを満足させたこともないというのも反論できない事実です。  
 それでも、静希ちゃんの中で再び、何かがカチンと割れたのです。  
「私は桜くんのことが好きだし、桜くんも私のことが好き。私たちは好き合っているの」  
 南さんはそう言って、制服のポケットから何かを取り出して、それを静希ちゃんの眼下に放り投げました。  
 いくつかに別れて散らばったそれは、数枚のポラロイド写真。  
「!」  
 静希ちゃんは、思わず目を丸くしました。  
 その写真のいずれにも、桜くんが写っており、写真の中の彼は女子制服を着て、ベッドに四肢を拘束されていました。  
 そして、彼の股間を露にして、そそり立つ物さえも写っていたのです。  
 昨日、自分が陸上部のロッカールームで見つけた封筒に入っていた写真と似たものばかり。  
 静希ちゃんは、出しそうになった声を口ごと手で押さえ、南さんを見据えます。  
「昨日の写真と違うアングルを用意したの。気に入ってくれた?」  
 この長髪の子は、どこまで私を挑発すれば気が済むのだろう。  
 一瞬だけですが、静希ちゃんの視線が南さんを強く睨みました。  
「私と桜くんは、こんな写真を取り合うような関係なの……今まで色々なことをしてきたわ……」  
 あることないことを入り混じる南さんですが、その言葉の真偽を確かめる事は静希ちゃんには不可能でした。  
 しかし、静希ちゃん自身としても引き下がる訳でもありません。  
「そんな事、桜くんもいないのに信じられない……!」  
「信じる信じないは、水上さんの自由よ。事実は変わりようないから」  
 所詮は焼け石に水。  
 余裕に浸る南さんには、静希ちゃんの脆い言葉ではどうにもなりません。  
 ふと、外のスピーカーから予鈴が鳴り響きます。  
「昼休みも終わりね」  
 平然としたまま、南さんが静希ちゃんに背を向け、出入り口に歩き出します。  
 静希ちゃんも一歩遅れて動き出し、思わず口にします。  
「あ、待って……話はまだ……!」  
 足を止め、振り返るはポーカーフェイスの彼女。  
「終わってないのは分かってる。でも、授業に出ないといけないのが分からない水上さんでもないでしょう?」  
「…………」  
「それに、いい機会だもの。もっと話そう……放課後に、視聴覚準備室で待ってるわ。今日は陸上部もお休みだったよね?」  
「……よく知ってるね」  
「ええ、最近の陸上部の活動日って調べているから……」  
 そして、南さんは最後まで嘲笑を浮かべつつ、屋上から去って行きました。  
 静希ちゃんは納得いかないように複雑に顔を歪めていました。  
 しかし、今更引き返すことなど、今の彼女の選択肢にはありませんでした。  
 
「静希ちゃん、またねー」  
「またね、一条さん」  
 午後の授業は、午前の授業に比べて短いはずなのに、授業の一分一分を気にしてしまう静希ちゃん。  
 ようやく放課後になった時には、どことなく疲労感なるものが身に染みていました。  
 静希ちゃんは一条さんと別れた後、影で溜息一つ吐くと、自分の鞄を持って、教室を出ました。  
 既に南さんの姿はありませんでした。  
 元は自分から呼び出したのに、静希ちゃんはすっかり浮かない顔のまま気乗りしていませんでした。  
 てくてくと歩いては、ようやく見えた視聴覚準備室のプレート。  
 ドアの目の前で来て、辺りをキョロキョロと見回しても、南さんの姿は見当たりません。  
 一つ深呼吸をすると、静希ちゃんはドアノブを回すと一瞬、何かが浮かんできました。  
(そういえば、昨日もここで桜くんが……)  
 そんな考えと共に中に入った瞬間、後ろに何か気配を感じてビクっとする静希ちゃん。  
 しかし、振り向く間もなく、うなじに強い衝撃を受け、静希ちゃんの意識は遠く離れた所に飛ばされたのです。  
 床に伏せ、瞼が閉じられる一瞬で垣間見たのは揺らめく黒い何かと、不適に笑う誰かの口元でした。  
 
 
「……さん……み……かみ……さ……」  
 何かしら、女の子の声が聞こえてくる。  
 頭の中がぼうっとするし、目の前も真っ暗で何も見えない。  
 徐々に体の感覚が戻り、静希ちゃんは自らの動かしますが、何故か動けない。  
 腕や脚と言った部分的な箇所に、強い拘束力を感じ、そこに軽い痛みが走ります。  
 すると、感覚は体だけではなく、思考も正常に戻ります。  
 しかし、静希ちゃんの視界は何故か暗いまま。  
「水上さん、気が付いたかしら?」  
 闇の向こうから響くクールなハスキーボイス。  
「誰なの? 南さん?」  
「うん、そう。ちょっと水上さんには動けなくして、目隠しもしちゃったけど悪く思わないでね」  
 何を悪く思うなと言うのだろうか。勝手すぎる。  
 視界が暗いのは目隠しのせいであり、両腕は後ろに回されて拘束され、何かにくくりつけられていました。  
 脚はやや広めに開かれ、立たされた状態で、左右の脚を一本ずつどこかに拘束されています。  
「南さん……こんな事して、何をするの……?」  
 状況が全て把握でき、静希ちゃんは自分の格好に震えます。  
 それ所か、何も見えないというだけでもビクビクと怖がるのです。  
「何をって、水上さんもいつまでもバージンじゃ嫌でしょ? だから、水上さんをバージンから卒業させてあげるの」  
「えっ……ま、待って、そんなの嫌!」  
 静希ちゃんは、力任せに首をぶんぶん振ります。  
 まだ、桜くんともちゃんとしたセックスもしていないというのに。  
 それ所か、自分の初めては、その桜くんに貰って欲しいというのに、何故こんな仕打ちを受けなければならないのか。  
 怖い。自分がこれからされる事を想像するだけで、悪寒が背筋を走ります。  
「けど、あんまり時間かけたくないのよね。だから、すぐ挿れてあげる……」  
「!」  
 南さんの淡々とした言葉は静希ちゃんを凍りつかせる。  
 今からセックスをするとしても、未経験の静希ちゃんではなくても下準備は必要です。  
 すぐ挿れる、ということがどういう事なのかを理解すると、静希ちゃんは改めて震えました。  
「い、嫌っ! お願い、南さん、やめて!」  
「もう、このショーツ邪魔ね。スカートも脱がすね」  
 静希ちゃんが叫ぼうとも、南さんは姿勢を崩しません。  
 南さんの言葉と共に、静希ちゃんは下半身に誰かの手の感触を感じました。  
 下着を触られて、それをずり下ろされようとしています。  
「嫌ぁぁぁぁぁっ!」  
 静希ちゃんはぞわっとした不快感に襲われ、絶叫と共に身を足掻かせます。  
 しかし、虚しい哉。縛られているが故に、その動きも微動に過ぎません。  
 開かれた脚にショーツが引っかかり、その後にはハサミで布を切る音が響きました。  
 床に何かが落ち、静希ちゃんは下半身が寒くなったことで、一層震えます。  
「やめて……これ以上は本当に……」  
 静希ちゃんは言葉さえ怯えていました。  
 目隠しで闇に覆われ、自分の見えない事が静希ちゃんの想像で、ひたすらに悪い方向に傾いていました。  
「ん、んんっ……んくぅ……ちゅ……」  
 突然にして、何かを舐める音。静希ちゃん自身には何もありません。  
 何が起こるの? 私はどうなっちゃうの?  
 考えるだけでも鳥肌が立ち、震えは尚のこと止まることはありません。  
「ん、ちゅく……ふう。じゃあ、さっさと済ませちゃおうか、水上さん?」  
「い、嫌っ! 南さん、本当にやめて……私、こんなの本当に嫌だから……」  
「……そうね」  
 静希ちゃんの切羽詰まった雰囲気に、ようやく南さんはまともな反応を示しました。  
 それでも、途中に微笑を挟んだ彼女の言葉は、今の静希ちゃんにとって酷としか言い様がありません。  
「止めてあげてもいいわ。ただし、桜くんを私にくれるという条件つきでね……」  
「そんな……!」  
「別に難しい事じゃないでしょ? 桜くんには二度と近づかない、話しかけたりもしないでいいのよ?」  
 本当に単純なことのように、いけしゃあしゃあと淡々とした南さんの言葉。  
 今の静希ちゃんにとって、それが拷問に等しい条件だというのは言うまでもありません。  
「桜くんに近づくななんて……それはもっと嫌……!」  
 落ち着きながらも、力強い静希ちゃんの言葉。  
 しかし、そんな強い気持ちも毅然とした南さんの前では風前の灯も同然。  
「じゃあ……仕方ないわね。水上さんには散ってもらう」  
 南さんの散ってもらうという言葉と共に、静希ちゃんは腰の両脇に誰かの手の感触を覚えました。  
 同時に、自分の秘所に何かを宛がう感触すらも。  
 そして、静希ちゃんが何かを言いかける前に強い衝撃が全身を駆け巡ったのです。  
「ぎぃぃああぁぁぁぁぁぁぁっ!」  
 普段の静希ちゃんからは、とても想像出来ない歪んだ悲鳴。  
 何かが自分のアソコの中にズブズブと強引に押し込まれている。  
 痛い。痛すぎる、何の準備もしていない。恐怖で自分から濡らすことすら出来なかったのに。  
「あぁぁぁあああぁぁぁっ! や、やめぇぇぇぇてぇぇぇ……!」  
 想像を絶する痛みに、静希ちゃんの口はパクパクと振動しているかのような動きで、呂律も上手く回らない。  
 熱い何かが、まるで自分の体を芯から壊そうとしているような拒絶したくなる感覚。  
 静希ちゃんの目隠しに覆われた瞳から涙が込み上げ、それは布地の目隠しに吸い込まれます。  
「痛いぃぃぃぃっ! は、はぁぁぁぐぅぅっ」  
 まだまだ押し込まれる得体の知れない何か。  
 半分くらい来た所で、押し込めるのを止めたかと思うと、そこから突き出すように一気にグンと奥の方まで入れ込まれる。  
 静希ちゃんの体が凄まじい痛みと悲しい程の衝撃で打ちしなる。  
「ああああぐぅぅぅぅぅっ! い、たい、よぉぉ……」  
 抵抗したかった。でも、動かそうにも動けない現実が怖すぎた。  
 腰には誰かの体の感触を感じる。やっぱり、誰か男の人が自分を貫いているのかもしれない。  
 桜くんに、大好きな彼に捧げるはずだった自分の初めては、虚しく散ってしまった。  
「水上さん、バージン卒業おめでとう」  
 くすくすと冷笑を響かせ、少し離れた所から聞こえる南さんの声。  
 静希ちゃんは様々な感情が入り混じった涙で瞳を一杯にさせて、せめてもの抵抗。  
「こんなの……違うもん……。桜くんだったら……もっと優しくしてくれたのに……。ひどすぎる……」  
 嗚咽混じりな声がより悲痛さを痛感させる。  
 もう取り戻すことのできない思い出は惨めな形で終わってしまったのです。  
 そんなどん底に浸りそうな静希ちゃんを他所に南さんからまた微笑が漏れます。  
「随分な言われ様ね。ねえ、『桜くん』?」  
「……え……?」  
 南さんの呼びかけに、涙で目隠しを濡らしたまま、呆然とする静希ちゃんの声。  
 現実が見えない。いや、これから起きる現実を見たくないのかもしれない。  
 南さんの声は意気揚々とも思えるほどに躍っている。  
「その目隠し、外してあげて?」  
 そして、静希ちゃんの顔から誰かによって目隠しが外され、光を取り戻した静希ちゃんが一番に見たのは。  
「さく、ら、くん……?」  
 その時ばかりは、あの壮絶な痛みすらも忘れて、ただ顔を真っ白にさせていました。  
 静希ちゃんの目の前には、自分が一番慕っている彼、草壁桜がいたのです。  
 当然、今、自分を貫いているのも彼自身です。  
 静希ちゃんの中で、思考の整理が急につかなくなりました。  
 どうして、桜くんが私に、こんな事をするの?  
「…………」  
 桜くんは暗い面持ちで自分と目を合わせようとしてくれません。  
 静希ちゃんは震えた表情のまま、なんとか落ち着いた言葉で接します。  
「ねえ、桜くん……助けて……?」  
 そうだ、相手が桜くんなら、こんな自分をきっと助けてくれるはずです。  
 今ならまだいいのです。例え、こんな形で初めてを失っても結果的には相手が桜くんだったのです。  
 自分が縛っているものを解いて、二人で逃げ出せば、改めてやり直せるはずです。  
「桜くん……お願い、解いてほしいの……一緒に逃げよう……?」  
「…………」  
 しかし、現実にいる桜くんは云とも寸とも反応してくれません。  
 静希ちゃんのバラバラになりそうな思考を必死に繋ぎ止めようとしての訴えも、南さんが挟んだ一言で無残に崩れました。  
「桜くん、止まってないで続きをして」  
「……うん」  
「……!」  
 そして、いとも簡単に頷いてしまった桜くんに驚愕する静希ちゃん。  
 ですが、そんな事に驚く間もなく、再び激痛が静希ちゃんに襲い掛かったのです。  
 桜くんは腰を前へ後ろへと突き出し、静希ちゃんのアソコを攻め立てます。  
「あ、あ、あぐぅぅっ! はぁぁくぅぅぅぅっ! いったぁぁぁっ」  
 新たな涙が込み上げ、静希ちゃんの瞳からは涙腺が止め処なく綴られていきます。  
 ほんのちょっとした濡れていないアソコを出入りする桜くんのアレは、静希ちゃんにとっては痛みの象徴でした。  
 どうして、桜くんが……。  
「んぐぁぁぁっ! ふ、は、あ、あ! いぎぃぃぁぁぁっ!」  
 相手が桜くんなのに、全然気持ちよくなんかもない。  
 自分の事など何も考えていないかのように、桜くんは激しいピストン運動を繰り返すばかり。  
 気付けば、静希ちゃんのアソコからは痛々しいばかりに血が流れ落ちているのです。  
「痛いよ……痛いの、桜くん……。おね、が、い……あっぎぃぃぁぁぁぁっ!」  
 本当に涙が止まらず、静希ちゃんの訴えは悉く桜くんには届くことはありません。  
 静希ちゃんが、どんなに声を絞らせようとも、桜くんはただ目線を逸らしているばかり。  
「もっと激しくするの」  
 絶望にトドメを差すかのような南さんの氷の如く冷たい声。  
 途端に、桜くんの腰の動きが急激に加速しました。  
「ああああああああああああああああああああっ!」  
 静希ちゃんの絶叫が、この場を支配します。  
 桜くんの動きで、静希ちゃんの体が大きく揺さぶられ、彼女の表情は痛みしか感じられない。  
 静希ちゃんにとっては、あまりにも残酷な現実。  
「ひぐっ、はぐっ! おね、がぁぁぁいっ! も、もっと、ゆ、ゆっくりぃぃぃぃっ!」  
 アソコがはちきれる程の痛みが津波の如く、静希ちゃんの自我を呑み込み崩壊させてしまいます。  
 正面で向き合っているのに、こんなにも苦しい思いをしているのに、桜くんは静希ちゃんを突き立てるばかり。  
 少し離れた所で椅子に座っている南さんは、その光景を満足そうに眺めていました。  
 
 気づけば、静希ちゃんの制服は引っぺがされ、身に着けている物は上半身の薄いピンクの下着のみでした。  
 その下着も見るも虚しく、ただ、体に引っ掛かっている程度です。  
「さ、くらぁぁくぅん! 痛いよぉぉ……やさし、くぅぅぅぅっ!」  
 苦痛で顔を歪めている静希ちゃんの瞳からは絶えず涙が零れ落ちる。  
 桜くんは逃げるように顔を伏せて、事務的に体を動かしては勢いを増していくだけ。  
 静希ちゃんの理想が、夢諸共に消えていく。  
 何かがおかしい。こんな事を期待していた訳じゃないのに。  
「痛い、痛い、痛いぃぃぃ……どう、してぇぇぇ……ひっく……ぐす……」  
 痛く、悲しく、虚しくと様々な負の感情が、静希ちゃんの中で渦巻きます。  
 一番好きなのに、彼も自分の事を好いてくれていると信じていたのに。  
「く、もう出る……」  
「外に出して」  
 静希ちゃんだけを取り残し、まるで外野にいるような二人の声が響く。  
(ああ……これで終わりなの……終わってしまうのね……私の……)  
 一瞬だけ、静希ちゃんの思考が元に戻り、また白くなっていきます。  
 桜くんが震えたかと思ったら、静希ちゃんの中に入れていたアレをすぐさま抜いたのです。  
 突き立てる痛みがフッと消えたかと思えば、何かが顔に飛んでくる。  
 白くて熱い液体だった。桜くんの精液が自分の顔に跳ね飛んだんだ。  
「上出来よ、桜くん」  
 満悦した南さんの声。そして、彼女は椅子から立ち上がり、桜くんの元へ。  
 静希ちゃんは、涙目のまま、離れた桜くんの胸に顔を埋める南さんを睨み付けました。  
 静希ちゃんの中で、南さんへの認識が悪い方向に反転されたのです。  
「止めて……桜くんから離れて……!」  
「あら……」  
 そう言って、顔だけをこちら向ける南さんのは、やはり嘲笑の笑み。  
 初めて、憎しみというものがどんなものかを悟った時。  
「水上さん、顔についた精液がなかなか似合ってるんじゃない?」  
「……!」  
「良かったわね。希望通り、桜くんにバージン貰ってもらって。しかも、それまでかけてもらって」  
「ひどい……!」  
 まだ残る下半身の痛みも振り切り、静希ちゃんの思考は滅茶苦茶でした。  
 何でもいい、とにかく、桜くんを自分のものにしたい。  
 しかし、それが適わない現実が、どんどん静希ちゃんを壊していくのです。  
「ねえ、桜くん……」  
 静希ちゃんを無視して誘うような言葉。南さんは桜くんの、首に腕を回して抱きつきます。  
 桜くんは視線を逸らし暗い面持ちであろうと、しっかりと応答します。  
「何、南さん……?」  
「水上さんだけじゃ物足りないでしょ……だから、今度は私としよう?」  
「……!」  
 南さんの言葉に誰よりも反応したのは静希ちゃん。  
 わなわなと微かに震える静希ちゃんは、こいねがう眼差しを桜くんに必死で向けます。  
(嫌だって言って……断って……お願い、桜くん……!)  
「うん、しよう……南さん」  
 さも当然かのように言われる桜くんの言葉が、静希ちゃんを真っ暗などん底に突き落とします。  
 静希ちゃんの表情は固まり、信じられずに今見ている光景全部を否定したくなる。  
 
「じゃあ、桜くんの、すぐ元気にしなきゃね……」  
 南さんは半裸の桜くんのアレを握ると、しゃがみ込んではいきなり、それを口に含んだのです。  
 口内でグチュグチュと響くわざとらしい音が、静希ちゃんの耳に痛く刺さります。  
「んぐ、ちゅぅ……んっんっんっ」  
 桜くんのアレを、しゃぶる南さんの顔は真っ赤に火照っていました。  
 しかし、それが羞恥から来ているものではなく、明らかな悦楽のモノ。  
 桜くんも、とても気持ちよさそうに顔が変に緩めている。  
 でも、不思議と昨日のように淫靡な感情を誘われる訳でもなく、ただただ心中辛いだけ。  
 見せ付けられているとしか思えない、この状況。  
 静希ちゃんは、目の前の現実に自我が押し潰されそうな錯覚を覚えます。  
「う、あ……み、南さん……」  
 その声で、その人の名前を呼ばないで。  
 静希ちゃんの嫉妬を越えた想いも、不自然な喉の渇き様で綴ることはできません。  
 逃げ出すこともできないし、目を閉じれても、二人の色掛かった声から逃げられません。  
「ね……桜くん……来て……」  
 アレを離し、口元を舌拭いした南さんは壁に手をつき、スカートを自らめくり上げました。  
 その中は下着もなく、既にドロドロの如く、中心の割れ目から濃い液体が滴り落ちていました。  
 その南さんの晒された秘書は桜くんには勿論、静希ちゃんにも丸見えだったのです。  
「…………」  
 桜くんは、取り憑かれたような虚ろな瞳のまま、南さんという悪魔に誘われるがままにふらふらと歩み寄ります。  
 着ている制服は上だけ、それでもぐしゃぐしゃに肌蹴て、荒い呼吸の彼はまさに犬のようでした。  
 桜くんが、南さんのお尻を掴むと南さんは小さく喘ぎ、体全体を桜くんに突き出しました。  
 静希ちゃんの胸の内で、ズキンと刺すような痛みが何度も走ります。  
「桜く、ん……やめて……ねえ、お願いだから……」  
 気づけば、自分の声は嗚咽で震え、その瞳には滲み出す涙。  
 どうして、こんな現実を味わなければならないのか。  
 それでも、まだ間に合う。必死に呼びかければ、桜くんも振り向いてくれるはず。  
 現に、先の言葉で、桜くんがピクリと反応し、その動きを止めたのです。  
「私はこうなっても、桜くんだったからもういいの……本当に好きだから……だから、こっちに来て……」  
「…………」  
「いつもみたいに一緒に帰ろう……? 私ね……桜くんと腕組みしたいって思ってるの……でね」  
「早く……!」  
 断ち切る南さんの声。静希ちゃんと桜くんの間に亀裂が走る。  
 静希ちゃんが一瞬怯んだ時、桜くんの動きは再び、南さんに傾きました。  
 桜くんのアレが、南さんへの入り口を捉えた一瞬に、静希ちゃんの焦りが露になります。  
「ま、待って、桜くん……!」  
「…………」  
 影に沈んだ桜くんの表情、そして、その口が何かを紡ぎました。  
 静希ちゃんには聞こえない言葉を残した桜くんは、自分のアレを南さんに突き立てたのです。  
「あ、あああああっ」  
「!」  
 水を得た魚の如く、南さんが大袈裟な程に喘ぎ声を張り上げ、身を捩じらしました。  
 静希ちゃんの目が衝撃で見開き、すぐさまに絶望の果てを見たかのように表情が凍りました。  
 ショックの連続で、静希ちゃんが壊れていく様を南さんは見逃していませんでした。  
「あ、ああっ! んふぅ……ふぁぁ……んっ」  
 熱っぽい呼吸と共に、南さんは満足気に微笑み、後ろから貫いている桜の顔に触れました。  
 まだ虚ろな彼の顔を強引に向かせ、南さんは、その唇を貪り吸い尽くします。  
「ん、ちゅぅぅ……んぐ、は、む……」  
 濃厚な程に二人の唇が熱く重なり、その間では二つの舌が見るからに暴れていました。  
 桜くんは、南さんを拒絶する気もなく、その貪り合いを黙って続けています。  
「ん、はちゅぅ……ん、んん……ぷ、は……。桜くんの……何だか大きくなってるね……」  
「…………」  
「気持ちいいわ……桜くんも一杯暴れて……」  
「……くっ」  
 
 口付けが終われば、二人は互いの体をぶつけ合い、より快楽の高みへと上り詰めます。  
 南さんは可愛いお尻を振っては、桜くんをより刺激させては静希ちゃんに、ほくそ笑むばかり。  
 静希ちゃんの顔は凍りつつも、遂には瞳に溜まった涙が零れ落ちたのです。  
 目隠しをされている時から泣いているのに、新しい涙は後を絶たず。  
「やめて……」  
 もはや、何に対して、その言葉を向けているのかも分からず、静希ちゃんは震えていました。  
 これが悪い夢なら、すぐに覚めて欲しい。  
 そうしたら、すぐにでも桜くんに私の初めてを捧げたい。  
「今日の桜くん……激しいぃぃっ……あ、そこ……あ、んくう……すごいっ」  
 しかし、南さんの強烈な声と響く音が、静希ちゃんの理想を片っ端から壊して行く。  
 南さんとセックスをしている男の子が桜くんだと認めたくない。  
 桜くんは、私の物だ。だから、私は桜くんの物。  
 誰にも触って欲しくない。私だけが彼に触っていいんだ。  
(それなのに……!)  
 目の前の現実は、それらを全て否定していました。  
「いいっ……ああっ、桜くんで私の中が一杯……ねえ、水上さん……」  
 突然に壁についていた手を離した南さんは上体を起こし上げると、静希ちゃんに対して体を向けたのです。  
 その有様は、静希ちゃんに自分と桜くんとの結合部分をハッキリと見せているもの。  
 南さんの秘所で、桜くんのアレは見事なまでに納められていました。  
「いやぁぁぁ……うっあぁぁ……やめてぇぇ……もう、いやぁぁ……」  
 幼児退行を起こしたかのように静希ちゃんは声を上げて泣き出し、我武者羅に首を振り続けました。  
 その彼女の目は真っ赤に充血し、流れる涙で小奇麗な顔はもはや見る影もありません。  
 南さんは、堪らず口元の笑みを強くし、桜くんに動きを強めるように促すのです。  
「あっふぅぅっ……ああ、奥まで突いて……あ、そう……もっとね……!」  
「う、くっ……!」  
「……もう出したい? んあっ……いいわ……たくさん頂戴ね……」  
 桜くんの震えを感知し、南さんのお尻が激しく揺さぶられる。  
 静希ちゃんが悲痛な叫びを上げるものの、もはや、南さんは尚の事、桜くんの耳にも届きませんでした。  
「やめて……やめてぇぇぇぇぇぇ……」  
「あ、あっ……で、出るっ……!」  
「うっくぅぅぅ……!」  
 桜くんと南さんが同時に身震いし、南さんは桜くんの熱い塊を自分の中で受け止めました。  
 熱いモノが流れ込み、南さんは自分のアソコを締め付け、桜くんのアレからまだ搾り取ろうとします。  
 第一波が終わると、またドクドクと第二波が桜くんのアレから放出されました。  
「んあぁぁっ……桜くん、溢れる……!」  
「ああ……まだ、出る……」  
「いいの……全部、注いで……」  
 南さんの淫らな言葉に操られるままに、桜くんのアレはビクビクと放出を繰り返しました。  
 そして、その淫行を眺めている静希ちゃんの瞳には既に光が失われていました。  
 納まり切れなかった桜くんの液が、南さんの秘所から零れ落ち、床にポタポタと滴り落ちていました。  
 皮肉にも、その滴りの音は、それ一種ではありませんでした。  
「ごめんなさい、水上さん。縛りっぱなしで痛かったでしょ?」  
「…………」  
「取り合えず、腕の方は外してあげるけど、後は自分でしてね」  
 チャリンと音と共に、静希ちゃんの腕を縛っていた紐を切ったハサミを差し出した南さん。  
 静希ちゃんは、まだ全裸に近い状態で魂が抜けたように呆然と蹲っていました。  
 その彼女の顔には、まだかかっている白い液体。  
 まさに無気力。  
 南さんと桜くんは制服を着直し、下校用意を整えていました。。  
 そして、黙り込んだ静希ちゃんに、得意気に微笑みを残し、南さんは言い放ちます。  
「帰りましょう、桜くん」  
「……うん」  
 頷くだけの桜くんを連れ、南さんはドアノブに手をかけます。  
 ふと、後ろから物音がしました。  
「待って……」  
 まだ脚を拘束している紐も切っていない状態で静希ちゃんが、こちらを見上げていました。  
 桜くんは振り向きましたが、南さんは動きを止めたものの無視するように振り返りません。  
「桜くん……置いていかないで……。私の所に……来て……」  
「し、ずき……ちゃん……」  
「行くわよ……!」  
 またしても断ち切るような南さんの鋭い声が邪魔をします。  
 桜くんは、フッと静希ちゃんから顔を逸らし、南さんが開けたドアをくぐります。  
 呆然としていた静希ちゃんの顔が、涙ながらの必死の形相に変わります。  
「待って! 私っ……置いていかないで! 桜くん! 桜くん!」  
「じゃあね、水上さん。ちゃんと一人で帰ってね」  
「いやぁぁぁぁっ! 桜くんを返してぇぇぇぇぇっ!」  
 静希ちゃんの叫びも虚しく、南さんと桜くんが潜りぬかされたドアがバタンと音を立てて閉じられました。  
 桜くんに取り残された自分。そして、まさに寝取られた彼。  
 静希ちゃんの桜くんへの想いが涙と化して、床に散りばめられ、消えていく。  
 尽きることのない涙を流しては、彼女は嗚咽で喉を痛くするばかり。  
「うっ……ひくっ……あ、ああああ……」  
 一人になってから、どれくらいの時間が過ぎたのか、静希ちゃんは自分の前に置かれたハサミを取りました。  
 脚を縛っていた紐を震える手つきで切り、四つん這いのままで脱ぎ捨てられた制服を拾いました。  
 制服のポケットからティッシュを取り出し、それらで自分の秘所を拭き、自分の顔も拭いました。  
「どうして……私、こんな事してるの……」  
 自分の行為の惨めさを問うた言葉は、誰に聞こえるでもなく、響きもしませんでした。  
 静希ちゃんは、そこで初めて自分がボロボロにされたんだと理解しました。  
 
 

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