時は日曜の昼下がりの時間帯。  
「…………」  
 僕は誰もいないゲルニカ学園の音楽室で呆然と立ち尽くしていました。  
 つい先程、視聴覚準備室で弓島さんを犯したのが、まるで、幻のようにも感じました。  
 そして、静希ちゃんに事の終わりを見られてしまった事は痛く現実に感じてしまいます。  
 あの後、隣の視聴覚室で事の成り行きを見ていた南さんに、この音楽室で待っているように言われ、僕はここにいます。  
 弓島さんの後処理は彼女がやってくれるらしいですが、いかんせん、良い心地はしません。  
 昼下がりの光が窓をつき抜け、僕の肌を無意味に照らします。  
 僕は本当に音楽室に入って、木偶の棒のようにただ佇んでいるだけでした。  
 僕の中では、次に静希ちゃんに会った時のことを考えていました。  
 避けられるのはもはや確定したこと。ならば、どうやって元に戻すのか。  
 廊下からの足音も聞こえず、僕は自分の拳を握り締めました。  
 ふと、ポケットの中から振動を感じました。  
 僕の使っている携帯電話からのバイブレーターによる振動でした。  
 折り畳み式の携帯電話を開け、画面を見ると、それは南さんからの電話でした。  
 ツーコール、スリーコールとコールが重なっていき、僕はゴクリと唾を飲み込んで電話を取りました。  
「もしもし」  
『出るのが遅いわ』  
「ご、ごめん……」  
 出初めから容赦のない言葉が僕をいきなり、崖っぷちに追い込みます。  
 しかし、相手の顔が見えないので、その点で言えば、少しは落ち着いていられます。  
『あの、弓島って子は私が上手く片付けておいたから心配はないわ』  
「そう、ありがとう……。ちゃんと言われた通りに、弓島さんを……犯したよ……」  
『…………』  
 本当なら何で静希ちゃんが、鍵のかけてある視聴覚準備室にやってきたのか問い詰めたい所でした。  
 準備室の鍵は職員室から持ってきてあると南さんは言っていたのに、それなのに何故か静希ちゃんは持っていた。  
 そして、静希ちゃんが持っていた白い封筒から出てきた僕の痴態写真。  
 問い詰めたい事はたくさんありました。  
 でも、それを迂闊に話すと、火に油を注ぎこむような事が予想されるのは明白です。  
「ねえ、南さん……。もう用事終わったでしょ……? 僕、帰っても……」  
『あんな結果で私が満足するって思ってるの?』  
「え?」  
 消え入りそうな声を真っ二つにするかのように横入りされ、僕は呆然とします。  
 どういうことなの?  
 僕はちゃんと弓島さんを……。  
『誰が気持ちよくエッチしろって言ったの?』  
「べ、別に気持ちよくなんか……」  
『誤魔化すつもり? 私は相手が泣き叫ぶ程にレイプしろって言ったはずだけど?』  
 容赦のない、それ所か、南さん独特の冷たく深い怒りを交えた言葉。  
 僕は知らず知らずのうちに、冷や汗が流れているのに内心驚いていました。  
「それは……だって、まだ弓島さんは一年生なんだよ……」  
『だから何? 同情でもしたの?』  
 弁解の余地もない。  
 南さんは怒っている。それも今までに覚えのない程に。  
 むしろ、怒っている彼女はこれが初めてなのかもしれません。  
「そ、そうだよ……」  
『それで私の言う事よりも、その子の事を優先したって事ね?』  
「そんな……つもりじゃない……」  
『…………』  
 南さんの沈黙が怖い。  
 電話の向こうでの彼女の顔がやけに恐ろしく想像されました。  
 まだ続く沈黙は、僕に大袈裟な程の冷や汗を流させました。  
 
『甘かったみたいね、私が』  
「え、何?」  
 突然の、その言葉を理解するのは僕には無理でした。  
 背筋に悪寒が走ったのは気のせいと思いたかった。  
『桜くんには……徹底的に分からせる必要があるみたいね』  
「何? 何を言ってるの、南さん?」  
 何を焦っているのか、僕の口調は饒舌にも似た早口になっていました。  
 電話の向こうの声には色が全く変わらず、まるで、僕の事など無視しているようでした。  
 南さんが何か行使する時はいつもこのような雰囲気を纏っています。  
『私の言う事がちゃんと聞けないようなら……報いは受けて貰うわ』  
「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうこと? 何をする気なの?』  
『私は遊びで、桜くんに言いつけしてる訳じゃないの。それなのに、桜くんは私の言いつけを守らなかった』  
「そ、それは……! でも、結果的には……お、同じだよ……!」  
『だから、私のやり方が甘かったのよ……桜くんをもっと本気にさせるにはね』  
 話の内容がまるで噛み合っていない。  
 僕は必死で受話器の部分に叫ぶように声を大にしていますが、南さんは案の定、動じません。  
 今、鏡を見たら、僕は自分の目の色に、さぞかし驚くことでしょう。  
『どの道、桜くんには、私の言う事に逆らったらどうなるか体感してもらうわ。一度、痛い目に遭えば懲りるでしょ?』  
「分からないってば……! 南さん、今どこにいるの!?」  
『放送室』  
 音楽室を飛び出そうとした時、僕の思考の渦がピタリと止まりました。  
 同時に何故か足を止めてしまい、静かになった頭の中では暗い影が沸いてきたのです。  
 まさか、まさか……!  
「み、南さん!」  
『何度も言うけど、これは報いよ。恨むなら……自分の不甲斐なさを恨むことね……』  
 そして、受話器の向こうからカチッと小さな音が響いたかと思うと……。  
 
『ああっ! んあああ……』  
『ああうっ……あ、ああ、あああ……』  
 
 その瞬間、学園内の至る所の放送用スピーカーから女の子の甲高い声が、その場の空間を包みました。  
 同時に、僕は体も心も石になったかのように僕自身が停止していました。  
 
『はぁぁぁぁ……んう!』  
『あ、あ、あ……ああくうっ』  
『ああああっ! そこ……だめぇぇ……』  
 
 意識を失った錯覚に見回れたのはほんの一瞬、そして、意識をまともに持った時には叫んでいました。  
「南さん、止めてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」  
 ほぼ絶叫に近く、出せるだけの声量で受話器にしがみ付き、僕は叫んでいました。  
 悪夢だ。僕の中での史上最悪の悪夢が、ここに実現されました。  
 静希ちゃんの喘ぎ声が、学園中に響き渡り、僕は動くことよりもただ必死に叫んでいました。  
「ごめん! ごめんなさい! 僕が悪かったよ! ちゃんと次から南さんの言う事守るよ! ちゃんと守るから止めて! お願い、止めてよぉぉぉぉぉっ!」  
 無我夢中で叫び、次には静まり帰ったかのようにスピーカーからの喘ぎ声は消えていました。  
 僕はたった一言二言、叫んだだけなのに大袈裟のように肩で息をしていました。  
 
『良かったわね、今日が日曜で』  
「南さん……なんてことを……」  
『手加減はしてあげたつもりよ。すぐ切ったんだもの……でも』  
 有難く思いなさいと途中で来るような言葉を一度切ると、南さんの呼吸音がわずかに聞こえてきました。  
 それに連動しているかのように、僕の胸の鼓動は常に高み高みへと昇っているのです。  
『二回目は容赦はしないわ。もし、同じような事があったら、水上さんも桜くんも、この学園にはいられなくしてあげるから』  
「…………」  
 脅しではなく、もはや、ビジネスのように何かを契約し、取引するかのような南さんの言葉。  
 いや、今の南さんはまるで従わぬ者には重い罰を与える暴君のようでした。  
『それともう一つ言っておくわ』  
「……何?」  
『私は水上さんがどうなろうが平気よ。この学園から……ううん、この世から消えていこうとも、結果的にあなたが手に入れば何も問題はない』  
「南さん……」  
『寧ろ、今の私にとって水上さんは邪魔でしかないわ。桜くんが庇うから、私は直接手を出さないだけなの』  
「…………」  
 何故、こんなにも彼女の言葉の一つ一つに圧倒的な圧力を感じてしまうのだろうか。  
 だから、僕は黙って南さんの言葉を聞き入れることしかできませんでした。  
『桜くんが分かっていないようなら、何度でも言ってあげるけど……私は本気よ。何でもするわ』  
「もう充分分かったよ……南さんには二度と逆らわない……」  
『そう、いい返事を聞いた所で、桜くんは音楽準備室で待っていて』  
「うん……」  
『私も行くわ。それじゃ』  
 言い終わると同時に通話は南さんから切られ、僕は繋がらない携帯電話を持ってフラフラと隣の準備室に向かいました。  
 南さんは五分ほどで音楽室を伝って準備室にやってきました。  
 案の定、彼女は中に入ると同時に、その扉の鍵をかけたのでした。  
 僕は入り口から奥の方に佇んでおり、南さんの顔を怖くてまともに凝視できません。  
 視線を外しているのが気に入らないのか、南さんは無言で僕の元に歩み寄ります。  
 南さんは僕の目の前で止まり、僕の顔を見上げると。  
 
 パンッ  
 
 室内に乾いた音が一瞬。  
 南さんは僕の頬に鋭い平手打ちをお見舞いさせていました。  
 痛みが走ったのと同時に、僕は南さんを見据えますが、彼女は相変わらずのポーカーフェイスでした。  
「これはほんの挨拶代わり」  
「……そう」  
 僕は無気力に、ぶたれた頬を押さえつつ、南さんからまた視線を外しました。  
 もはや、何をするんだ、という類の言葉さえ見えてきません。  
「さて、桜くん自身にも、罰を受けてもらうわ」  
「!」  
 条件反射のようにビクッと恐怖で震える僕。  
 愕然とし、さっきとは正反対に南さんを凝視し、言い訳がましい言葉で。  
「罰って……さっき放送で……!」  
「あれはただの見せしめ。桜くんにも直接、何かしてもらわないと私の気が済まないわ」   
「…………」  
「じゃあ、服を脱いで裸になって」  
「……はい」  
 僕は暗い面持ちで自分の制服に手をかけて、上着を脱いでシャツのボタンを外してはそれも脱ぎ捨てる。  
 ズボンにも手をかけた時、躊躇しようとしても南さんの視線が突き刺さり、僕は恥も捨て、下着ごと脱ぎます。  
 本当に一糸纏わぬ姿での僕を、南さんはようやく満足したかのように軽く笑い、準備室の一つの棚に手を伸ばしました。  
 その棚の鍵のかかった引き戸を開けると、そこには何やら如何わしい道具がたくさん……。  
 俗に言う大人の玩具が、そこにあったのです。  
 そして、南さんが手に取ったのは犬につけるような首輪と、それを繋げているリードでした。  
 
「桜くん、じっとしててね」  
 言われずとも僕は全裸で身動きできても、したくありませんでした。  
 南さんは、慣れた手つきで僕の首に、その首輪をつけ、僕の体を舐め回すように眺めていました。  
「なかなか似合っている……可愛い」  
 南さんはうっとりしたように僕の頬を撫でると、すかさずキスをします。  
 頬に触れた南さんの唇は柔らかくて、しっとりとして一瞬だけ心地良いものを感じました。  
 南さんは唇を離し、僕の胸にすうっと指を下に走らせ、それと共に南さんはしゃがみ込む。  
 そして、彼女の目の前に映るのは、少しだけ反応している僕のアレ。  
 不適な笑みを浮かべる南さんは力加減などせずに、ぎゅっとアレを握って離しませんでした。  
「く……南さん、痛いよ……」  
「我慢して」  
 僕の言葉を無視するかのような素っ気無い言葉と共に、南さんの手が僕のアレを愛撫し始めます。  
 彼女の小さな手がアレを上下に擦り、小口からはみ出るような舌が、その先端を執拗に突付きます。  
「すぐに気持ちよくなるわ……」  
 付け足すように言い残し、南さんの唇が僕のアレを吸い込み、生暖かい感触に包まれました。  
 南さんは手でアレを強く握り、先端部分だけを口内で舐め回し、音を立てて吸引します。  
「ん、くちゅ……んんんんんん」  
「う、あ……南……さん……」  
 僕の両手が南さんの頭を押さえ込めようとした時、既に南さんはアレから口を離していました。  
 妖艶な目つきで、『棒立ち』になっているアレを見つめては、握っている手の動きを速めていました。  
「ほら、もうこんなに大きくなった」  
 南さんは、アレをしごきながら立ち上がり、僕の唇を舌先で突付いてはキスを求めてきます。  
 唇同士を熱く重ね合い、南さんはすぐに舌を、僕の口に入れ込んでは舌同士を絡め合います。  
 感覚が麻痺するほどまで熱いキスをするのは南さんだけでした。  
「んぐ……ちゅぅぅ……んっ」  
 顔の角度を変えては更に奥へと舌を挿し込み、僕の舌を絡めては転がし、口内を舐めまわす。  
 自然と頭の思考に靄がかかり、僕の体は南さんの色に支配されていく。  
「ん、ん……桜……くん……」  
 このワンパターンはいつになっても慣れることはありません。  
 受ける度に深みに沈んでいく南さんの愛撫は、僕を逃してはくれません。  
「ん、はぁ……はぁ……んちゅぅ……ぺちゃ……」  
「あ、あああ……はぁぁ……」  
 口を離せば、南さんの荒い息が顔にかかり、彼女はそのままで僕の胸にむしゃぶりつきました。  
 胸を舌で弄ばれ、その小さな唇で先端を覆われ、暖かい口で吸われ、隙の無い愛撫。  
 本当に逃げられない。寧ろ、こちらから進みたくなるようです。  
「くちゅ……ん、ん、ぺろぺろ……」  
「んぁ……み、南さん……すごい……」  
 僕の胸元から南さんの唾液が道を作って滴り落ちていきます。  
 南さんの舌は小さいものですが、それでも彼女は伸ばせるだけの長さの舌で僕の胸を舐め回します。  
 その様子は誰が見ても、彼女の魅力に囚われる程、妖艶で淫らで圧倒されるものを感じます。  
「美味しいの……桜くんの体……」  
 そして、彼女は僕の鎖骨の下部を見据えては、サッと唇を寄せたのです。  
 そこには、南さんがいつも付けているキスマークが消えかけ、ぼんやりと何かの形で残っていました。  
「ん……ちゅぅぅぅぅぅぅ」  
 南さんの唇で吸われるだけで、僕はもう限界に達してしまいそうでした。  
 消えかけたキスマークは、クッキリと姿を現し、そこから垂れる唾液がわずかな光を反射していました。  
「ちゃんと自分のモノには印をつけておかないとね……」  
 満足そうに妖しく微笑み、南さんは僕のアレをまだ握ったまま、僕の背後に回りこみました。  
 すると、彼女はアレへの手つきを更に強め、僕を限界にまで誘おうとしてきます。  
 南さんの手も、アレから滲み出る液体でヌルヌルに濡れています。  
 
「あ、ああっ……南さん……もう、で……出る……」  
 次第にガクガクと体が軽く震え出し、全裸のままでも僕は平気で快楽を感じています。  
 南さんは僕の耳に口を寄せて、息を吹きかけるかのように囁きました。  
「出して。桜くんのイッた所……ちゃんと見ていてあげるから……」  
「でも……これ……床に……」  
 南さんの手が勢いを更に増して、本当にこのまま出してしまいそう。  
 でも、目の前にはただの床しかなくて、このままでは、床に液体を撒いてしまうことに。  
「いいのよ、出すの。私の言う事が聞けないの?」  
「南さん……?」  
「出せばいいのよ……。出しなさい、桜……!」  
 何かしら勢いの詰まった声、南さんは僕のアレに圧迫するようなしごきをかけて絶頂を誘います。  
 もうこれ以上の我慢はできなく、僕の頭の中で何かがプチンと切れていました。  
「み、みな……! い、いぐぅぅぅ……!」  
 瞬間、脳が体から切り離されたかのように視界すらも真っ白になり、アレから白いモノが飛び出しました。  
 数回に渡って放たれた僕の精液は、この音楽準備室の床を白く汚してしまいました。  
「桜くん……素敵……。その顔で私もイっちゃいそう……」  
 南さんは惚けた言葉で僕の耳を刺激し、そして、舌先でチロチロと耳たぶを舐めるのです。  
 僕は立てる気力を保つのがやっとで、背中に南さんがいなければ、床に崩れ落ちていたことでしょう。  
 そして、休む間を与えないかのように僕のアレを握っている手を再び、動かし始める南さん。  
「あ、ぐぅぅ……南……さ、ん?」  
「物足りないでしょ? もっともっと……イかせてあげるから……」  
 充分だ、と心で思っていても何故か、口が動いてくれない。  
 自分の欲深さに僕は呆れる暇もなく、南さんの愛撫に飲まれて虜になっていくのでした。  
 
 
 呆然とした面持ちで帰り道を歩く静希ちゃんは、半ばフラフラした足取りでした。  
 小さめのスポーツバッグを肩に背負っていますが、それすらもずり落ちそうです。  
 静希ちゃんは、部活が終わり、着替えのロッカールームで白い封筒を見つけました。  
 その封筒の中には、桜くんが女子制服を纏い、体を拘束され、アレを露にしていた痴態写真。  
 そして、視聴覚準備室で待っていますと一文書かれた紙と、その鍵。  
 それらを見た途端、静希ちゃんの中で不安が一気に積もり、平静を保てないまま、ロッカールームを飛び出していました。  
 慌てるままに視聴覚準備室に駆け込み、鍵を開けて、そこで見たものは下半身を晒した桜くんと、裸になった見知らぬ女の子。  
 しかも、その女の子は練習の最中に見かけた桜くんと楽しそうに歩いていた女の子だったのでした  
 その女の子は裸にされて、お腹の部分には白い液体が不気味に撒かれていたのです。  
 そして、桜くんはアレを表に出していて。  
 静希ちゃんの中で何かが砕け、真っ白になったと思えば、次に来たのは桜くんに対する拒絶心でした。  
 気付いたら、静希ちゃんは泣いていて、またロッカールームに飛び込む勢いで戻っていたのです。  
 何が何だか分からないまま、静希ちゃんは無我夢中で体操服を着替え、周りの目も憚らず、学園を出ていました。  
 そして、また気付けば、静希ちゃんは足を止めていました。  
「…………」  
 静希ちゃんは今も、あの光景が嘘だと強引に信じていました。  
 桜くんが自分以外とあんな事をするはずがない、と強い独占欲と共に思い込んでいました。  
 しかし、その強欲が裏目に出てしまい、静希ちゃんはその反動を受けてしまいました。  
 それでも、静希ちゃんは違うと信じるだけでした。  
(ひょっとしたら……何かの間違いなのかも……)  
 どこにそんな根拠があるのか、と思う間もなく静希ちゃんの思考は進んでいました。  
 募り募った想いを開放させてしまったが故に、遮りようのない静希ちゃんの愛情。  
(確かめに行こう……桜くんに直接聞けば……)  
 足を止め、来た道を引き返し、ゲルニカ学園へ戻ってきた静希ちゃん。  
 昇降口で桜くんの下駄箱を確認すると、彼はまだこの学園にいることが分かりました。  
 それならすぐに探して、と思い、自分の下駄箱の扉を開けると、そこには白い封筒が一通。  
 
「これ……」  
 静希ちゃんは一瞬、目を丸くして、それを見据えました。  
 帰る時には、こんな物はないことを確認しています。  
 しかも、この封筒はロッカールームで見た封筒と同じものでした。  
 一体、誰からの?と思いつつも誘われるように、静希ちゃんは封筒を手に取り、中身を確認します。  
 中にはメモ用紙のような紙が一枚と、そこに綴られたメッセージがありました。  
 
『草壁桜は音楽準備室にいる』  
 
 まるで、自分の道標を用意したかのようなメッセージ。  
 誰が、何の目的でこのメッセージを自分に向けたのか、など色々と疑問点はあります。  
 それでも、静希ちゃんは桜くんに会いたいと思うあまり、それを鵜呑みにしていました。  
 静希ちゃんは上履きに履き替え、音楽準備室を目指します。  
 誰もいない廊下を歩きつつ、静希ちゃんの鼓動はわずかに高鳴っていました。  
 逸る気持ちを抑えては、足取りが落ち着かず、心は何かしらにつけて焦るばかり。  
 ふと、昇降口に置いてきたスポーツバッグの心配をするものの、そんなものは今はどうでも良かったのです。  
 やがて、廊下の先に音楽室のプレートが見えてきました。  
 音楽準備室はその隣にあり、静希ちゃんは真っ直ぐにそちらを目指します。  
 ふと、準備室の目の前まで来た時、静希ちゃんはピタリと足を止めました。  
 準備室の扉から何か音が漏れているのです。  
 そして、よく見ると準備室の扉が、ほんのわずかですが開いていたのです。  
 漏れている音に耳を澄ませば、それは人の声、男の子の声だと分かりました。  
 桜くん?と思い、静希ちゃんは安堵の息と共に顔を綻ばせたのですが。  
 
『あっ……くぅ……はぁぁぁ……』  
 
 声色を聞いて、ギョッとする静希ちゃん。  
 ピタリと足を止め、表情を固めたまま、静希ちゃんは扉の隙間まですり足で近寄りました。  
 男の子の声ですが、それにしては高めで何かをくすぐられるような甘い声。  
 
『あ、はふぅ……んぐ……ああっ……』  
 
 止め処なく響いてくる声に静希ちゃんは先程とは違う類で、胸が高鳴っていました。  
 いつの間にか頬が軽く染まり、静希ちゃんは、扉の隙間をソッと覗き込みました。  
「!」  
 そして、瞬間にして硬直。  
 中を覗けば、そこには桜くんが確かにいました。  
 しかし、その彼は全裸にして首輪をはめられており、尚且つ、アレを大きくさせて喘いでいたのです。  
 桜くんは虚ろな瞳で口からヨダレを垂らして、恍惚とした表情をしていました。  
 そして、桜くんの背後には、彼の大きくなったアレを手に握っている南さんがいました。  
(さ、桜くん……!)  
 思わず声を上げそうになった口を押さえ、静希ちゃんは顔を真っ赤にしていました。  
 自然と凝視してしまう悦楽した桜くんの顔と、異様なまでに大きく見える彼のアレ。  
 そのアレを南さんが手で上下にこすり、その空間だけが別次元のような世界に見えました。  
(南さん……やっぱり、続いていたのね……。桜くん、私は……)  
 
『ああああっ! イク、イク! んっぐぅぅぅ……!』  
 
 静希ちゃんは目を見開き、呆然と突如としての桜くんの射精の光景に釘付けでした。  
 桜くんのアレの先端から白いモノが飛び散り、それらは床に散っては別の色に染めていきます。  
 よく見ると、その床には既に桜くんの液で汚されており、また新たに降り注いだということだったのです。  
(すごい……あんなに出てる……。桜くんの顔も……)  
 桜くんの快楽に酔い浸っている顔は、静希ちゃんを妙に興奮させ、その体を熱く疼かせていました。  
 背後にいる南さんのことなど考えもしていなかったのですが、南さんが視線を変えた時にそれは消えました。  
 
「!」  
 南さんの視線が静希ちゃんの方に向いたのです。  
 目と目が合ってしまい、静希ちゃんは偶然だと思いましたが、途端に笑みを浮かべる南さんを見て、見つかったと確信していました。  
 しかし、まだ虚空を彷徨うかのような桜くんには気付かれていないようです。  
 それでも、南さんは不適な笑みを浮かべ、桜くんのアレの先端を、わざわざ静希ちゃんの方に向けたのです。  
 扉のほんのわずかの隙間から見ているだけなのに、静希ちゃんの息は熱く乱れ、胸の高まりは止まることを知らぬばかり。  
 自分に向けられた桜くんのアレに、静希ちゃんは視線を外せずに、その場からも動けませんでした。  
(桜くん……ビクビクしてる……。ああ……)  
 南さんがアレをしごく一回一回に反応して、桜くんは微かに震え、より表情を恍惚とさせていました。  
 その表情が静希ちゃんにとっては、類を見ない自分の性欲をそそられるモノでした。  
 見てはいけないと思っていても、そんな事は所詮、表面上でのことでしかありませんでした。  
「ぁ……」  
 ピクンと声を上げてしまった自分は、いつの間にか手をスカートの中に侵入させていました。  
 静希ちゃんは、自分のショーツの中にまで手を入れ込み、その細い指でアソコを弄っていたのです。  
 しかし、自分の行いに気付いて、静希ちゃんは慌てて、手を引っこ抜きました。  
 自分の指にはベトベトした液体が付着し、それが静希ちゃん自身をより一層熱くさせました。  
(濡れてる……私……いやらしい……)  
 胸のドキドキはまだ高まり、目を向ければ、桜くんのアレがしごかれている光景で眩暈がしそうでした。  
 その桜くんの背後では、南さんがまた怪しげな笑みを強めていますが、静希ちゃんには既に見えていません。  
 そして、また桜くんのアレに見入ると、静希ちゃんは知らぬ間に、自らの秘所に手を伸ばしていました。  
 自分の理性では追いつけない程に、火照っている静希ちゃんの体は汚れた欲望をさらけ出す。  
 大好きな男の子の羞恥の姿を前にしているのに、それに欲情している自分がこの上なく淫らに思えました。  
「ぁ……ぁぁ……」  
 廊下で扉の隙間から準備室を覗いている静希ちゃんは、すっかり自慰に没頭していました。  
 もしかしたら、廊下の向こうから人が来るかもしれないと頭の片隅で考えるものの、手は言うことは聞いてくれません。  
 止まらない。誰か止めて欲しい、と願うことさえあります。  
(さ、桜くん……本当なら……)  
 
『んっうぁ……はぁ、はぁ……また……またイクっ……』  
 
 桜くんの切ない声が、静希ちゃんの脳裏を悲しく霞めます。  
 そして、次の瞬間には放たれていた彼の精液が、再三、床に飛び散りました。  
 静希ちゃんは、その放たれる瞬間を真正面から捉え、ひたすらに興奮で息を乱していました。  
 胸が鼓動のあまり張り裂けそうに苦しくなり、熱く湿った溜息を漏らしました。  
 
『あら、誰かいるのかしら』  
 
 その時、南さんの声がわざとらしい程に大きく聞こえ、初めて、静希ちゃんは現実に引き戻されました。  
 こんな姿をハッキリ見られてしまっては、恥ずかしさのあまりに立ち上がることすらできずにいられそうです。  
 静希ちゃんは、冷や汗を垂らしつつ、スッと立ち上がると足音も立てずに熱くなった体を引きずり駆け出しました。  
 走っている最中に誰かと素通りするだけでも恥ずかしさに耐えられない静希ちゃん。  
「はぁぁぁ、はぁぁ……はぁぁ……」  
 やけに長い息がまたいやらしく感じてしまう。  
 静希ちゃんは、出来る限り、あの音楽準備室から遠ざかり、気付いた時にはトイレの個室に飛び込んでいました。  
 扉を閉め、鍵をかけた時、ようやく静希ちゃんの動きが落ち着き、洋式トイレの便座に腰掛けました。  
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」  
 息が荒いのは走ったせいではない。  
 自分の中で、凄まじいくらいに性欲が沸いて溢れ出して来る。  
 すっかり熱く湿ってしまった静希ちゃんのアソコは、少なからず見に付けているショーツを汚していました。  
 抑えられない。それでもここは学校です。  
(家に帰ってからでも……でも……我慢……できそうに……)  
 
 おぼろげな考えのまま、静希ちゃんの手は当然のようにショーツの中を撫で回していました。  
 もう片方の手はすぐさま、シャツのボタンを数個外しては、その中の片方の膨らみに伸ばされました。  
「あ、あ……うんぅぅぅ……」  
 手の動きも、声の抑制もまるで言う事を聞かないようにただ増大していきます。  
 瞼の力も緩みきり、静希ちゃんの小さな口から求める熱い吐息と誘うような喘ぎ声が出てくるばかり。  
「あんぅ……んん……あ、はぁぁ……」  
 アソコもすっかり濡れてしまい、そこにあったショーツはずり下ろされていました。  
 静希ちゃんは自分の気持ちいいようにアソコを擦っては、指を浅く入れ込みます。  
 形も整い、膨らみのあるバストは、彼女自身の手によって捏ね繰り回されては、淫乱な変形を繰り返していました。  
 時折、体を震わせては身をよじり、その代償であるかのように欲望が尽きることはありません。  
「あうん……桜……桜く……ん……」  
 本当なら、アソコも胸も、この体全部を彼に触ってもらうはずだったのに。  
 それを断られたが故に、自分自身を慰めていますが、とても悲しい。  
 もう、これで何回目なのか静希ちゃん自身も数えたくはありませんでした。  
 愛しい彼のことを想い、静希ちゃんの手の動きは一層強くなっていきます。  
「あぁぁぁ……もう……!」  
 静希ちゃんはピクンと小さく震えると、静かに深い溜息を漏らしました。  
 ゆっくりと大きく呼吸を繰り返して、先程の暴れるような動きが止まったかのように思えました。  
「ダメ……足りない……」  
 また悲しそうに呟き、静希ちゃんの手は再び、自分自身を慰めるために執拗に動き回りました。  
 あるトイレの個室からは妙な水音が滴り響くのでした。  
 
 
「あら、誰かいるのかしら」  
 突然、大き目の声が背後の南さんから聞こえ、僕は五回目の射精の後に呆然と振り返りました。  
 その振り返る動作だけでも今の僕にとっては重労働なくらい、ぎこちないものでした。  
「南さん……?」  
「独り言よ。桜くん、いい顔してるわ……興奮しちゃう……」  
 南さんは首だけを向けている僕の顔を掴むと爪先立ちで、強引にキスに繋げました。  
 別の生き物かのように南さんの舌は僕の口内に侵入し、何度も何度も、そこを蹂躙しては止みません。  
 何度となく放出された射精感は僕にかなりの疲労感をもたらし、背後にいる南さんの支えなしでは立つこともできないでしょう。  
 僕は体を委ねるかのように目を閉じては、顔を更に南さんに傾けました。  
 唇同士の重なり合いと、舌の絡め合いが気持ちよくて、他のことを考えるのが面倒になります。  
 言葉通り、何も考えず南さんとのキスにばかり現を抜かしていると、途端に、体のバランスを崩していました。  
「あ……」  
 驚いて、目を開けると、南さんの支えがなくなったせいで僕は床に倒れ伏せていました。  
 あれ……南さんはどこに行ったの?  
 まるで、取り残された小さな子供が甘えるように、僕は消えた南さんにすがろうとしていました。  
 そう思ったのも束の間、首に衝撃が走ったことで僕は苦し紛れに意識を保てました。  
 僕の首に繋がれた首輪、そして、それを伝っているリードが引かれ、リードの先を視線で追いました。  
「ほら、桜くん……こっちよ」  
 リードの手にした南さんは、椅子に座って足組みをしてはまるでスカートの中身を僕に見せつけているかのように思えました。  
 リードを引っ張られ、何度も組み替えられる南さんの細い足に魅入られ、僕は犬のように興奮していました。  
 首輪で首を締め付けられているような錯覚を感じ、僕はそれでも痛みを感じていませんでした。  
「こっち……おいで」  
 リードを掴んだまま、南さんは静かな言葉と共に僕を、誘います。  
 五回の射精で疲れ切った僕ですが、南さんの妖艶な誘惑は、それを打ち負かす程の活力を沸き起こしました。  
 引っ張られるままに、僕は四つん這いになったままで、南さんの下に寄りかかります。  
 瞼をぼんやりと開けたまま、自分が裸であるということも忘れていました。  
 もし、これが他の友達、例えば、宮本にでも見られたら、僕は一生軽蔑されるかもしれません。  
 でも、今はどうしようもなく南さんの存在が欲しかった。  
 
「よしよし……ほら、ご褒美……」  
 南さんが座っている椅子のすぐ前にやってきた僕の顎を南さんは可愛がるように撫でてくれました。  
 そして、言葉の後に南さんは自身の足を広げて、何も見に付けてない下半身を僕に見せ付けました。  
 僕はスカートの中に顔をねじ込んで、南さんのアソコに口を伸ばしては、吸い込みます。  
「あ、んんっ……」  
 南さんが喘ぎ、足の動きが一瞬変わる。  
 どうして、欲望は尽きることがないのでしょうか。  
 それ所か、その欲望のせいで僕は自分が、とんでもないことをしているのかにも気付けない。  
 僕に快楽を与えてくれる南さんが欲しくて欲しくて堪らない。  
 静希ちゃんよりも、と思っている自分はもはや消えてはくれません。  
「上達したのね……あっんぅ……」  
 声に合わせて、南さんのアソコから熱い液が僕の顔を濡らしては深みへと陥れる。  
 今更、どんな事をしても止められないのです。  
 南さんの艶やかな声も聞きたいし、彼女の体も何もかもを求めてしまいます。  
「ああん……ふぅ……ううん……」  
 南さんの声を聞けば聞くほど、様々な誘惑が僕を包み込み、脳裏を支配していく。  
 そうだ、この場には静希ちゃんはいないんだ。  
 僕は次から次へと自分の都合の良い御託を並べては、南さんの愛液をすするばかり。  
「うぁっ……あふぅ……ねえ、桜くん……」  
「んんっ……な、なに……?」  
「スカートから顔出して話して」  
 僕は不服でしたが、何より南さんの言う事の方が大事でした。  
 口元は南さんの蜜まみれになり、僕はまだ虚ろな目で頬が上気している彼女を見上げました。  
 見れば、南さんの呼吸も乱れ気味になり、その熟れたような瞳は僕を骨抜きにさせるようでした。  
 その南さんは、自分の上着に手をかけて、それを床へと離すと、シャツを肌蹴ます。  
 シャツの奥から薄紫のブラジャーが目立ちますが、それも南さんの手によって一瞬で外されました。  
「同じ所ばかりはダメ……」  
 リードを無理矢理引かれ、僕の口元には南さんのふくよかな胸が迫っていました。  
 ほんの少し、呆然としていた僕ですが、餌を与えられた動物の如く、彼女の胸を貪りました。  
 白い肌を舐めては、もう片方の胸を弄ぶように捏ね繰り回し、まさに無我夢中。  
「そう……あ、ん……いい子ね、桜くん」  
 スッと僕の頭を抱きしめ、更に自分の胸へと押し付ける南さん。  
 チラッと一瞬垣間見た、南さんの頬は赤染めに、表情は怪しく微笑んではいました。  
 そして、何よりもそれが恐ろしい程の圧力を僕は感じました。  
 なんて、妖艶なんだろうか。  
「ちゅぅ……んむ……はぁぁ……むう……」  
「ああっく、んはぁぁ……いい……もっと……」  
 愛撫に集中していると、周りのことが見えなくなってしまいます。  
 乳児のように南さんの胸に吸い付いていた僕は、南さんに直接顔を引っぺがされるまで何も気付きませんでした。  
 そして、次の瞬間には椅子に座っていた南さんは突然動き出し、僕は床に押し倒されていました。  
 咄嗟に、手を床に付けて体を支えていたので大した衝撃は何にしろ、南さんは飢えた獣のように、僕の体を舐め回してきました。  
「ん、ちゅぅ……ぺちゃ……あむぅ……」  
 快楽の彼方の中、僕は一瞬驚いては、南さんの強烈な愛撫に体を野垂れ打ちます。  
 舌を突き出しては、僕の胸の先端を舐めて吸引し、そして……。  
「あ、ぐぅぅっ……い、いた……」  
 今度は、僕の肩部に吸い付いたかと思った南さんは、そこに思い切り噛みついたのです。  
 もしかしたら、血が出るのじゃないのかと思っても、南さんは取り憑かれたように勢いを緩めてもくれません。  
「むぐ、んっ! ……はぁ、はぁ、はぁ……」  
 やっとのことで噛むのを止めてくれた南さん。  
 でも、気付けば僕の腕は南さんに床に押さえつけられ、馬乗りされた状態だったのです。  
 僕と南さんもお互いに膠着し、二人の視線だけが絡まるばかりでした。  
 そして、誰からでもなく、南さんの唇は僕のそれに重なりました。  
 
「んんっ、ちゅ……ぐちゅ……ん、んーっ」  
 僕はただ呆然としているだけで、一方的に舌を暴れさせる南さんは抑揚がまるで感じられません。  
 キスなのにキス以上、ディープを超えた先のものを求めるように南さんは激しい。  
 呆然としたせいで感覚まで鈍くなったのか、南さんの手が僕のアレをしごいているのに気付けませんでした。  
 誘われたように僕の舌は南さんのものに絡まり、ぴちゃぴちゃといやらしい音を奏でていました。  
「ん、はぁ……むぐぅ……」  
 いつもながら南さんのキスは長い。  
 一度、キスをし始めると、一旦離れてもすぐにまた唇を付け直し、舌を貪ります。  
 それでも何度と繰り返しても飽きることがないのが南さんとのキスなのです。  
 分からない雰囲気ばかりが僕を包むだけ。  
「はぁ、はぁ、はぁ……桜くん、頂戴……」  
「僕も……早く……」  
 顔を上げた南さんは、プリーツスカートを外し、濡れた下半身を既にアレの先端に導いていました。  
 別にムードも何もなければ、どちらも遠慮する必要もありませんでした。  
「あ、あっくぅっ」  
 アレが南さんの中にズブズブと吸い込まれ、彼女はビクリと体を震わせた後、長く切ない溜息をしました。  
 騎乗位と呼ばれる体位を思い出して、僕はまだ呆然としたまま、彼女の悦びの顔に見とれるばかりです。  
「ああっ……んくっ……ああ、ぐ……あふっ」  
 奥の底まで呑み込み、僕の胸に手を置き、落ち着きもせずに腰を動かし始めます。  
 二つの体が触れては離れ、次第にそれらからポタポタと汗が呼吸に混じり、滴り落ちていきます。  
 南さんの体はゆるやかに上下し、それに合わせて揺れている二つのバストに視線が走りました。  
「あ、あんっ……いい、それ……」  
 そして、その膨らみに手を伸ばし、僕は揺れる動きとは別に揉み回します。  
 南さんの中にアレを締め付けられつつ、何を感じているのか分からないままです。  
 おかしな感覚に見舞われながら、小さなマシュマロを弄べば、彼女の中途半端に身に着けている制服が疎ましく感じます。  
「んあっ……ああふ……。ん、どうしたの……?」  
「南さんも裸になって……」  
 視線は南さんに向けられているはずなのに、僕自身はどこを見ているのかも分からず、口だけが動いていました。  
 しかし、それでも僕の手は南さんの制服を掴み、南さんはクスリと小さな笑みを浮かべました。  
「じゃあ……桜くんが脱がして……」  
「…………」  
 ボタンは全て外されたシャツをそのまま、僕は脱がしにかかりました。  
 南さんは熱い表情で笑みを浮かべたまま、僕が脱がしやすいように腕を動かします。  
 衣擦れする音と共にパサッと南さんの制服が床に落ちました。  
 そして、この音楽準備室には全裸で不順異性交遊を行う男女が一組。  
「脱がされちゃった……変態……」  
「南さんが……そうしたんだ……。どうにも……できないよ……!」  
 瞬間、僕の体に激しい衝動と共に、エンジンがかかったのです。  
 腰を突き上げ、南さんの中を掻き回すようにうねるように回しては動きを激化させる。  
「ああっくっ! はぁぁ、桜……くん、激しい……いいのぉ……」  
「はぁ、はぁ、はぁ……!」  
「んぁっ……はぁああん……ん、んふぅっ!」  
 虚ろな瞳で、それでもいやらしく笑みを浮かべ、南さんも僕の動きに対抗して上下運動を起こします。  
 そして、僕に見せ付けるように、自分の胸をグチャグチャに揉んでは唇を舌なめずりさせます。  
「僕は……僕は……もう……戻れないよ……!」  
「……いいのよ」  
 激しい運動の中、ちぐはぐに紡んだ言葉にも南さんは丁寧に反応してくれました。  
 ただひたすらに、南さんは妖艶な微笑みと共に、自分の体を弄りまわす。  
 
「戻らなくても……桜くんには私がいる……。私以外の全部は……捨ててしまえばいいのよ……」  
「ああっ! み、南さんっ……!」  
 悪魔のような誘惑と共に、南さんの中が急激に締まり、僕のアレは快楽の苦しみに呑まれてしまいます。  
 南さんと僕の動きは、噛みあうようにシンクロしていて、その気持ちよさは半端じゃありません。  
「ああんっ! さ、桜くんは……んっはぁ……私のモノ……ああっう」  
「みな、み……さ……」  
「絶対……あん、ぐぅ……ぜった……あふぅん……渡さない……はぁふぅっ」  
 南さんの言葉が催眠術のように聞こえては、脳裏で何度も何度も木霊します。  
 今はひたすらに目の前の女の子がたまらなく欲しかったのです。  
 どんな方向に欲望が傾いていようとも、そんなことは考える余裕もありません。  
「ふぅんっ……あ、あ、あ……桜くんっ……もう、私……!」  
「僕ももう……出ちゃうよぉ……!」  
 南さんも僕も、そんな事は当然かのように動きも止めなければ、結合部分も外そうともしません。  
 どこまで果てれば気が済むのかと思うくらい、僕のアレは再び、爆発寸前まで来ていました。  
「一緒に、来てぇっ。全部、いいのぉっ……あふんっ……桜くん、桜くん!」  
「んっんぅ……南さん、もうダメ……!」  
「あああああああああああっ……あぐぅぅぅぅ!」  
 一瞬、マグマのような熱さに覆われ、僕は嗚咽と共に、南さんの中に自分のモノを注ぎ込んでいました。  
 南さんはビクビクと体を何度か震わせ、僕のモノを甘んじて、その身に呑み込みます。  
 お互いの重なっている部分がかすかに震えて、僕たちはグッタリと倒れ込みました。  
 背中の床の冷たさも、今になってようやく認識でき、僕の胸には南さんが覆いかぶさり、冷たさと暖かさの板ばさみでした。  
「はぁ、はぁ、はぁ……桜くん」  
 文字通り、肌を重ね合わせ、まだわずかにやって来る快楽が僕たちを興奮させます。  
 僕の胸に顔を埋めていた南さんは顔を上げ、僕の目を覗き込むと、何度もキスを繰り返しました。  
 目の前の女の子を愛しいと思う以上に湧き上がるこの感情はなんだろうか。  
 僕は南さんとのキスをただ受けるだけ。  
「桜くん……」  
 しばらく、気を失っていたのか眠っていたのかは分かりませんが、僕は南さんの声で閉じていた瞼をゆっくり開きました。  
 いまだ音楽準備室の床に寝そべっている僕に、南さんは体ごと重なり、密着した状態です。  
 南さんのまだ熱い吐息が、僕の胸板にかかり、それは更なる興奮を呼び覚ます。  
「私がいれば……他には何もいらないわ……」  
「うん……」  
「水上さんだって……もう必要ないでしょ……?」  
「そうだね……」  
 僕は何を言っているんだ?  
 本当は南さんの言葉を全部否定しなきゃいけないはずなのに。  
 自分の言葉さえも理解できなくなってしまったのだろうか。  
「じゃあ……水上さんを……壊してあげて……」  
「分かった……南さんの言う事だもんね……」  
「そう……それでいいのよ……」  
 こんなのは違うんだ、違うはずなのに。  
 南さんの言葉がどうしても絶対に思えてしまう。  
 静希ちゃんの方が大切なのに、それでも南さんの言葉がそれ以上のものに感じてしまう。  
 僕はどれだけ大好きな静希ちゃんを裏切り、どこまで堕ちて行けばいいんだ?  
 
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」  
 ある女子トイレの個室から少女の切なげで甘い吐息の音がかすかに響いてきます。  
 洋式トイレの便座に座ったまま、少女の制服はだらしなく肌蹴られ、至る所の素肌が露になっています。  
 シャツの中のバストはブラジャーが強引に剥がされ、足の付け根からは滴り落ちる液。  
「桜くん……」  
 静希ちゃんの、哀しい呟きは誰に聞こえる事なく、空間に消えていきます。  
 何度となく自慰を繰り返して、ようやく満足できる状態になれたのが、この有様です。  
 いえ、満足はしていないにしても、彼女は限界だったのです。  
 もう、これ以上、自分で慰めても嫌な快感ばかりで自分が惨めになってしまうと悟ったから。  
 静希ちゃんの手から秘所から滴り落ちる液でビショビショでした。  
「桜くん……寂しいよ……」  
 そして、いつしか彼女は泣いていました。  
 それは愛しい彼を求めるばかりか、彼に相手にしてもらえない自分という女が悔しいあまりに。  
 静希ちゃんは、それからどうやって帰宅したのかは覚えてはいませんでした。  
 彼女が個室から出てきたのは涙が枯れる程、泣いたあとでした。  
 
 
 続きます。  
 
 

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