「ん、んん……くちゅ……」  
 よく晴れた昼下がりのゲルニカ学園。  
 開放禁止された屋上で、僕と南さんは、ひたすらなくらいにキスを求め合っていました。  
 正確に言えば、僕が南さんに執拗に迫らせ、壁際まで来た所で素早く唇を奪われたのです。  
 それでも、僕は最終的に抗うこともせずに、こうして南さんのキスを受け入れていました。  
「んちゅ……ぴちゃ……」  
 南さんは舌の動きを止めずに、寧ろ、捻じ込むように絶えず僕の口内を舐め回します。  
 そして、彼女の手は僕の股間を弄び、異様なまで刺激を与えようとしていました。  
 僕は二つの刺激に体を震わせ、南さんのされるがままです。  
 天津さえ、もっとして欲しいという欲望すら沸いてくるほどでした。  
「ちゅ……んっんー……」  
 南さんが一度口を離し、僕の目の奥を覗き込んでくるかのように見つめていました。  
 対する僕は、頬を染めた長髪の女の子の瞳に吸い込まれそうです。  
 ただ沈黙が僕たちを包んでいるはずなのに、僕と南さんは引き寄せられるように互いの唇を重ね合わせます。  
「んく……ちゅ……。はぁ……」  
 呆れるほどに長いキスが終わり、甘い溜息を漏らした南さんは、その場にしゃがみ込むと僕のズボンに手をかけました。  
 まるで慣れているくらいに、素早い手つきで、ベルトを外し、ズボンを下げては、その下の下着もずり下ろされました。  
 素っ気無いほどに脱がされても、僕はされるがまま。  
「ちゅ……ぴちゃ……ん、ん」  
 南さんは外気に晒された僕のアレを掴み、舌を這わせると、愛しそうに先端にキスを浴びせました。  
 ものの数秒で僕のアレはいきり立ち、南さんは大きくなったアレを今度は口内に含みました。  
「ん、ん……んぅぅぅ……」  
 口内の舌で弄んだり、時には強く吸い上げたり、口全体でしゃぶったりと南さんの愛撫は強烈です。  
 時々、南さんは苦しくないのかな、と思うこともありますが、苦しいというよりは恍惚な表情。  
 自分のアレをしゃぶっている南さんの顔を見ていると、余計に快感が上り詰めてくる感覚がします。  
「くちゅ……ん、ん、ん」  
「み、南さん……もう……」  
 言うが早く、南さんは動きを止めて、アレを口に含んだままで僕を見上げました。  
 思わず胸が高鳴り、南さんの顔がとてもいやらしく映りました。  
 南さんはゆっくりとアレから口を離して、口元のヨダレを舐め取り立ち上がりました。  
「まだ、イっちゃダメ……」  
 言いつつ、南さんは自分のスカートの中に手を突っ込み、下のショーツを脱ぎ払いました。  
 まるで、布切れのように南さんの薄い色のショーツは彼女の片足にぶら下がっていました。  
「私の方も……準備してよ……」  
「うん……」  
 今度は僕が、しゃがみ込んで、南さんのスカートの中に顔を埋めました。  
 今、目の前にあるのは南さんのほんの少しだけ湿った割れたアソコ。  
 僕は居ても立ってもいられずに、彼女の秘所に舌を伸ばして、しゃぶりつきました。  
「ああっ……はぁ……あ、あ」  
 南さんが、はっきりとした声で喘いでいる。  
 色っぽく、僕の煩悩を嫌なほどに増殖させていく怪しい声色だ。  
「う、ん……んぁ……桜く、ん……いい……」  
 自分のスカートの中でもぞもぞ動く僕の頭を秘所に押し当てるように押さえつける南さん。  
 僕は必死に割れ目をなぞって舐めていき、小さい粒を舌で転がし、できる限りのことを尽くしました。  
「んんっ……そ、そこ……もっと……ああうっ」  
 南さんの声が、僕の脳裏に絡みつき、余分な欲望を掻き立てられ堪らない。  
 僕は南さんに頭を押さえつけられるだけでは物足りず、彼女の腰を掴み、愛撫の勢いを更に増していく。  
 そうすると、南さんの体の震えがより一層ダイレクトに感じることができました。  
「あふ……だ、だめ……ああううくぅっ……!」  
 刹那、南さんが一瞬だけ強く震えた気がしました。  
 それでも構わず、僕は南さんの秘所をまだ愛撫しようとしましたが、南さんに肩を掴まれて引き剥がされました。  
 
 スカートから顔を出し、垣間見た南さんは、ほぼ真っ赤に顔を上気させ、息遣いが荒くなっていました。  
「南さん……イっちゃったんだ……」  
「うん……」  
「僕にはイクなって言ったのに……ずるいよ……」  
「ごめんなさい……」  
 南さんは、しゃがんだままの僕の顔を包み込むとそっと唇を重ね、舌を絡ませます。  
 何度したって飽きない南さんとのキス。気持ちいい。  
「桜くんも気持ちよくなって……」  
「うん……」  
「だから……早く来て……」  
 唇を離した彼女は、屋上入り口の壁に手をついて、何も身に着けてないお尻を僕に向けてきました。  
 南さんのアソコが丸見えで、そこからは雫が垂れ流れ、それは足を伝って流れていました。  
 寸止めされていた僕には我慢をする気などなく、南さんのお尻を掴み、自分のアレを割れ目にあてがいました。  
「南さん、いい……?」  
「いいの……はや……あああくぅぅぅっ」  
 南さんの言葉が言い終わらない内に、僕は後ろから南さんの中に捻じ込むと同時に激しく攻め立てます。  
 ゆっくりとなんかしていられない。早くもっと更なる快感が欲しい。  
「ああっ! あ、ああん……!」  
 僕は我武者羅に腰を、南さんのお尻に押し当てるように動かし、中の蜜の味を噛み締めます。  
 突き上げる度に南さんのお尻が可愛らしく、ふるふると揺れ、僕は視界が霞むかのような錯覚に襲われました。  
「桜くんっ……あ、はあぅっ……やらしい……うんんっ」  
 いつの間にか、南さんも自分の腰を動かしていて、僕の動きと上手くマッチしていました。  
 さっきの南さんの愛撫もあって、僕のアレはそんなにもちそうにありません。  
「南さんの中……熱すぎるよ……!」  
「桜くんが激しいの……私まで……熱くなっちゃう……あはぁっ」  
 今、僕たちが求めるのは絶頂だけ。  
 こうなってしまった以上は、もはや止めることはできず、欲望を放出しきるまで狂ったように攻め立てる。  
 何度も何度も、南さんの中を犯しては呼吸を荒くしていく僕。  
 そして、不意を突かれたかのように襲ってくる射精感。  
「み、南さん……もうダメだよ……!」  
「いいの……中に、出してもいいから……もっとぉ……!」  
 僕は最後の最後まで手加減なしに、南さんのお尻を攻め立て、溢れる液体を諸共せずに絶頂に向かいます。  
 南さんは壁についている手の力がなくなってきたのか、だんだんと下へと下がっていました。  
 そして、最後の思い切りの一突きで僕は限界を迎えていました。  
「み、南さんっ!」  
「あっ……くぅぅぅぁぁぁぁぁっ」  
 僕の体も、南さんの体も震え、僕は自分の分身の液体を彼女の中に注ぎ込みました。  
 南さんの熱い中に送られた液体はより一層熱く放出した感じでした。  
「あああ……熱い……桜くんの……また……」  
 南さんは満たされたような悦びを隠せずに、僕にお尻を持ち上げられたまま、地面に倒れ伏せてしまいました。  
 僕は南さんの温もりが恋しくなり、最後の一滴までが南さんの中に注がれるまでアレを、彼女の奥へと突き刺します。  
 全部終わった後、僕は彼女の中からアレを引き抜き、軽い脱力状態に陥り、南さんの横で壁にもたれて、肩で息を繰り返しました。  
 次に僕が、はっきりとした意識を取り戻した時、南さんが僕のアレに、しゃぶりついていました。  
「ねえ、南さん……」  
「んん……んふぅ……んう、ん……んちゅぅ……」  
 僕が問いかけても、南さんはちらっと視線をこっちに向けてくるだけで、アレを咥え込むのを止めません。  
 股間の愛撫を感じながらも、僕は続けました。  
「静希ちゃんには……以前と同じように接していいんだよね……?」  
 不安げに尋ねる僕に、南さんは顔にかかりそうになった髪をかきあげて、アレから口を離しました。  
 そして、返事よりも先にまた情熱的なディープキスを浴びせられました。  
 
「いいわ……許してあげる……だから……」  
「な、何……?」  
 まるでどうでもいいように言い返され、南さんが座り込んだ僕の腰元にのしかかり。  
「もう一回……ね……?」  
「……うん……」  
 彼女は僕のアレをまた自分の熱い蜜の中に誘い入れました。  
 そうして、僕と南さんは何度として快楽の沼に堕ちて行きました。  
 僕は静希ちゃんを……。  
 
 
 それから数週間。  
 表面上、静希ちゃんと、お付き合いをしながらも、僕は南さんとの間を暗躍していました。  
 しかし、言わずとも、南さんとの関係の方が強く継続しています。  
 南さんは、事あるごとに僕を呼び出しては、僕の体を求めてきます。  
 度々、僕が抵抗の色を見せようとすると、やはり、あの脅迫の種を持ってくるのです。  
 結局は、言い包められるように僕と南さんは肌を合わせては快楽を堪能するばかり。  
 無論、静希ちゃんは、このことを知らず、僕を求めてきます。  
 しかし、南さんとの関係を持ってしまったことに対する罪悪感が僕を苛ますのです。  
 静希ちゃんとはいまだに、お互いの体を触る程度に収まっています。  
 もしかしたら、静希ちゃんの方は、本番をすることを待っているのかもしれません。  
 だけど、僕は告白もしていないのに、そんなことする度胸はありません。  
 皮肉にも、南さんとの経験が僕に女の子を満足させる技術を与えてくれたのです。  
 まるで、何か事務的な作業をするかのように、さっさと静希ちゃんを絶頂にまで誘って満足させているだけで終わらせています。  
 ですが、更に一週間経ったこの頃、その静希ちゃんも何かに勘付いてきたような様子を感じました。  
 
 
「桜くん」  
 とある休み時間、不意を突かれたかのように静希ちゃんが真っ直ぐに僕の机にやって来ました。  
 別に珍しいことでもなく、僕はほんわかと表情を和らげ、彼女を迎え入れます。  
「どうしたの、静希ちゃん?」  
「うん、実はね……」  
 すると、静希ちゃんは目線だけをキョロキョロと見回すと、僕の耳にそっと顔を寄せました。  
 そして、手を添えて僕の耳に小さな声を囁くのです。  
「あのね、今日部活がお休みだから、その……家に来ない?」  
「あ、うん、行くよ」  
 そして、珍しくもない静希ちゃんのお誘い。  
 僕から誘うことも多々あれば、静希ちゃんからも無論あります。  
 折角の静希ちゃんからのお誘いなので、僕は大きく頷きました。  
 僕は胸を弾ませるとまではいかなくても、やっぱり、静希ちゃんは可愛いなとのぼせていました。  
 しかし、気付けば誰かの視線を感じるのです。  
 サッと視線を一瞬だけ走らせると田辺さんと何かを話している南さんの姿が映りました。  
 一瞬見ただけなのに、ビクリとする僕はよっぽど臆病になっているんだと思います。  
 けど、静希ちゃんにはいつも通り接していてもいいと南さんは約束してくれました。  
 そのことを何度も心の中で復唱し、僕は自身を落ち着かせました。  
 何事もなく進むはずだと、僕は信じて願うのでした。  
 
 放課後。  
 案の定というか、何というか、僕は南さんに視聴覚準備室に呼び出されていました。  
 静希ちゃんには、用事を済ませて来るから待っていて、と言い残し、そっちに向かっていました。  
 僕の前に立つ南さんは、相変わらずのポーカーフェイス。  
 そして、言葉発さずにじっと、目の前の少女を見据える僕。  
「二時間目の休み時間、水上さんと何を話していたの?」  
 何の遠回しもせずに直球で聞いてくるのが、彼女らしいと思いました。  
 隠しても無駄な故に、僕はあっさりと答えます。  
「静希ちゃんが家に来ないかって誘ってくれたんだよ……」  
 語調が弱々しく消えていく。  
 しかし、すぐさま僕は救いを求めるかのように言い並べます。  
「でも、静希ちゃんとはいつも通り……!」  
「分かってる。別に行くな、なんて言ってないでしょ」  
「そ、そっか……」  
 余計な心配事に終わって、僕はホッと安堵の息を漏らしました。  
 ふと、南さんは何かを考えるかのように小首を傾げています。  
 そして、何かを思い立ったかのように僕に近寄り、僕のシャツのボタンにサッと手を添えたのです。  
「ちょっと……何を?」  
「…………」  
 南さんは無言のまま、上半分のボタンを外し、押し広げ、僕の胸を露にしたのです。  
 スーッと僕の左胸を撫でるように手を走らせ、ふと、鎖骨の下の部分で手が止まりました。  
 まさか、ここでしようなんてことは……。  
「南さん……悪いんだけど、静希ちゃんを待たせているから……」  
「大丈夫よ、すぐ済むから……」  
 両手を胸に添えて、南さんが顔を、いや、唇を寄せてくるのです。  
 嫌な予感がしました。そして、実現。  
「ちゅぅぅぅぅぅぅ……」  
「あ、あああ……」  
 南さんは僕の鎖骨の下部分の肌に思い切り吸い付いたのです。  
 長い。淫らな吸音が鳴り響き、僕はくすぐったいような感覚を覚えます。  
 数十秒続いて、ようやくのことで、南さんは唇を舐め、口を離しました。  
「はい、おしまい」  
「あ……そ、そんな……」  
 南さんの平常した声に、僕の絶望した声が交錯しました。  
 南さんが吸い付いた場所には、これでもかというくらにキスマークが浮き出ていました。  
 無論、このキスマークはそう簡単には消えてはくれません。  
 シャツを着ていれば、見える物ではありませんが、脱いでしまえば丸見えです。  
「じゃあ、桜くん。水上さんと楽しくやってきてね」  
「み、南さん……」  
「ほら、待たせているんでしょ」  
 南さんは意気揚々と僕の乱れたシャツを手早く直し、頬に軽いフレンチキスをしました。  
 僕は軽い眩暈を目の当りにしつつ、キスされた頬を拭うと、僕はカバンを手にして、南さんに背を向けました。  
 去り際、僕は南さんを少なからず睨んだ気もしました。  
 邪険な自分に気付き、準備室を出た僕は、ふるふると首を振りました。  
「あの、草壁先輩ですか?」  
「え?」  
 学園では聞かない声が、僕を普段の自分に戻してくれました。  
 自然と声に振り向くと、そこには白と黒の袴のような服を来た小さな女の子が僕を見ていました。  
 一瞬、誰なのか考えてしまいましたが、すぐに閃いたように手を打ちました。  
 
「ひょっとして、弓島さん?」  
「わあっ、覚えていてくれたんですね!」  
 弓島さん。フルネームで弓島千佳さん。  
 以前、開催された市内四校合同行事の文部両道競技会。通称、ルネッサンスで偶然出会った他校の女の子です。  
 彼女はサルバドール・ダリ中学の一年生なのです。(本編五巻最終話参照)  
 初めて会った時は制服姿だったので、袴を来た彼女からは新鮮な雰囲気を漂わせていました。  
「あれ、どうして、弓島さんがゲルニカにいるの?」  
「今週末にゲルニカの弓道部と練習試合があるので、今日は、その関係で合同練習をするんです」  
 なるほど、だから彼女は袴姿なのか。  
 でも、気のせいか弓島さんは何か嬉しいそうに生き生きとしていました。  
「ゲルニカに来たら、もしかして、草壁先輩と会えるんじゃないかって思っていたんですけど、本当に会えるなんて嬉しいです」  
 一つ下の後輩の言葉に、僕は思わずドキっとします。  
 今時、こんなことをはっきり言う女の子がいるなんて意外でした。  
 弓島さんの明るい笑顔に、僕は脳裏の暗い部分が癒されるみたいでした。  
「そ、そうなんだ。でも、久しぶりだね」  
「はい、ルネッサンス以来ですね。……あ、もしかして、今お急ぎでした?」  
「うん、まあね。ちょっと人を待たせているから」  
 僕の答えに一瞬、弓島さんは目線を逸らしてから、また向き直りました。  
 僕はどうしたの?と問うと、彼女は答えにくそうに、ぎこちない様子でした。  
「えっと……もし、良かったら練習見に来て貰えないかなって思ったんですけど……」  
「ああ、なるほど」  
「でも、人を待たせているんですよね?」  
 そうです。静希ちゃんが今も、僕が来るのを教室で待っているはずです。  
 なるべく、僕としても早く静希ちゃんを迎えに行きたいのです。  
「うん、そうなんだ。出来るなら、僕も見てあげたいんだけど……」  
 やっぱり、ここは静希ちゃんの方を優先したかった。  
 そう思える自分がいて、僕は少しだけ安心しました。  
「いえ、いいんです。私が無理を言っただけですから。先輩と会えただけでも充分満足ですよ」  
「そう言って貰えると助かるよ。僕も弓島さんと会えて良かったよ」  
「嬉しいです。じゃあ、そろそろ練習が始まりますので私は……」  
 名残惜しそうに僕に視線を泳がせ、弓島さんは背を向けました。  
 そして、軽く駆けていく彼女に僕は手を振って見送りました。  
 ああいう女の子を見ていると、何だか癒されるなー。  
 そんな能天気な事を思い浮かべつつ、僕は静希ちゃんの待つ教室に向かいました。  
「…………」  
 でも、軽く浮かれていた僕は後ろの曲がり角から、一部始終を見ていた南さんには気付きませんでした。  
 南さんは氷のような視線を桜くんの姿が消えるまで、彼の背中に向けていました。  
 そして、気付いた時には、既にそこから姿を消していました。  
 
 教室で待ち惚けを食っていた静希ちゃんも僕の姿を見つけると、表情を綻ばせて、僕の元へ駆け寄って来ました。  
 僕も彼女の笑顔を見ると、自然と胸が躍ります。  
 ふとした帰り道、並んで歩いている僕の手に静希ちゃんの手が、そっと触ふれたのです。  
 ほんの一瞬、え?と思ったけど、僕たちは、はにかみ合いながら自然と手を繋ぎました。  
 でも、何故か微笑んだ南さんが僕の脳裏を支配していました。  
 そのことを感じてしまうと、握っている僕の手から力が抜けていきます。  
 離れてしまいそうになった僕の手を静希ちゃんが、逆に握り返して、不安気な顔をします。  
 僕は、何でもないよ、と彼女に告げ、静希ちゃんの家まで何とか来ました。  
「お邪魔しまーす」  
 と一言断ってから玄関をくぐるものの、静希ちゃんの家は、しんと静まり返っていたような気がしました。  
 静希ちゃんは玄関の鍵をかけると、僕に部屋に行こうと促し、僕は先に彼女の部屋に向かいました。  
 途中、僕は、静希ちゃんのおばさんに挨拶でもしようと思いましたが、いないようでした。  
 静希ちゃんの部屋はすっきりと片付いていて、男がイメージする女の子の部屋そのままでした。  
 持っていたカバンを傍らに置き、しばらくすると、トレイを持った静希ちゃんがやって来ました。  
 トレイには烏龍茶が入ったコップと、それのボトル。  
「桜くん、どうかしたの?」  
「え? えっと、誰もいないのかなーって思ってさ」  
 そわそわし過ぎていたせいか、コップを手渡された僕は辺りに視線を泳がしました。  
 静希ちゃんもコップを取って、近くにあった可愛いクッションを引き寄せて、僕の前に座りました。  
 一口、烏龍茶を飲んで静希ちゃんは、ふうと一息付きました。  
「うん、夕方くらいまでは誰もいないの」  
「へえ、そうなんだ」  
 と言い切った所で、僕はふと考え直しました。  
 僕の頭の中で妄想にも似た想像が、どんどん広がっていくのです。  
 そういえば、最近、静希ちゃんとは何もしていなかったような気が。  
 南さんとの関係に後ろめたさを感じずにはいられず、極力、『じゃれ合い』を避けていたことも否めません。  
 僕は急に焦り出し、コップの烏龍茶を飲み干し、何とか平静を取り戻りせました。  
「あら、もっと飲む?」  
「あ、うん。お願いするよ」  
 既にボトルを手にしていた静希ちゃんに、コップを差し出す僕。  
 僕のコップに烏龍茶を注いでくれている幼馴染はどことなく頬を染めていました。  
 そうだ、何かを言わなきゃ。話だ、話をしよう。  
 そうは思っても、僕は黙ってコップの中身をすするくらいしかできません。  
 不自然な沈黙が、僕と静希ちゃんを包んでいました。  
「ねえ、桜くん……」  
「は、はいっ!」  
 どうしよう、どうしようと考えている部分を横切りされ、僕の声は見事に裏返っていました。  
 静希ちゃんはクッションに座ったまま、コップを両手で握り、かすかに俯いていました。  
「その、最近……何にもないね」  
「え? 何にもないって?」  
「それは……だから……」  
 もじもじして、いかにも恥じらいを見せている女の子の静希ちゃん。  
 この時、僕は自分が卑怯者だと悟りました。  
 静希ちゃんの言い分は理解できているのに、それを誤魔化そうとして惚けているのです。  
 でも、それでも、静希ちゃんとは今は……。  
「もしかして、桜くん……私のこと、嫌いになったり飽きちゃったりした?」  
「ええっ!?」  
 しばらくの間を置いて、静希ちゃんの口から突拍子もないことを。  
 僕が静希ちゃんを嫌いになったりだなんて、とんでもないことです。  
 僕はもう気付けば静希ちゃんを目で追っているのです。  
 確かに、今は南さんのこともあって、静希ちゃんとのコンタクトは避けています。  
 それでも、僕の静希ちゃんに対する気持ちは、常に『好き』の一言に限ります。  
 
「どうして、そんなことを? 僕は静希ちゃんのこと、嫌いになったりなんかしないよ」  
「そう……なの? 最近、全然、私のこと……その、してくれないからてっきり……」  
 そして、消え入りそうな声で、静希ちゃんは、始めはたくさんしてくれたのに、と付け足すのです。  
 僕は恥じらいを感じるよりも動揺を隠すのに神経を集中させていました。  
「そ、それは……ほら、学校でするのはちょっと危ないかなって思って自粛していたんだよ」  
「うん、だから……今日は家に来てくれたのよね?」  
 思わぬ所で墓穴を掘る僕。  
 それでも、そんなつもりじゃないとは口が裂けても言えません。  
 静希ちゃんは俯いたまま、持っていたコップをトレイに静かに戻します。  
 そして、ふっと顔を上げた静希ちゃんは先ほどよりも真っ赤になって、僕の傍に擦り寄ってくるのです。  
「静希ちゃん……」  
 僕の胸に顔を埋め、僕の背中に腕を回す静希ちゃんは見るからに愛しい女の子です。  
 静希ちゃんの体は温かく、必要以上に僕の体は熱くなっていくばかり。  
「桜くん……あのね……」  
「うん……?」  
 言葉と共に、背中に回されている静希ちゃんの腕に力がこもりました。  
 いつしか、僕の中から動揺が消えて、今度は逆に恥ずかしさに支配されます。  
 そして、自然と静希ちゃんの背中に腕を回し、華奢な彼女を抱きしめる僕。  
「私のこと……その……してほしい……」  
「…………」  
 柔らかく暖かい静希ちゃんの体が、僕をドキドキさせるはずでした。  
 でも、今は南さんの言葉に拘束され、僕は辛うじて彼女を抱きしめることが精一杯でした。  
 この先のことを行うなんて、今の僕には無理の一言。  
「桜くん……?」  
 案の定、静希ちゃんから漏れるのは不安が募った心細い声。  
 でも、僕は静希ちゃんのことが好きで、それで……。  
「静希ちゃん……!」  
 僕は彼女のうなじに吸い付き、手は静希ちゃんの程よく膨らんでいる胸を下から包み込みます。  
「あ、ん……」  
 静希ちゃんの一瞬の喘ぎ声が僕を刺激し、彼女はすぐさま僕を引き剥がしました。  
 え?と疑問に表情を崩した僕に、静希ちゃんはそっとその両腕を僕の胸元に伸ばします。  
「私がしてあげるから……」  
 真っ赤にした顔は、これ以上ないくらい可愛く映り、静希ちゃんを愛おしく思ってしまいます。  
 本当にこのまま最後までしてしまってもいいのかもしれません。  
 けど、静希ちゃんの手が僕の制服のシャツを一つ外した所で妙なヴィジョンが蘇りました。  
 南さんにもシャツを半端に脱がされて、それから……。  
「し、静希ちゃん!」  
「きゃっ」  
 僕は二つ目のボタンに手をかけようとしていた静希ちゃんの両腕を止めていました。  
 唐突な勢いで止めてしまったせいか、彼女も目を丸くしていました。  
「その、ごめん……」  
「え?」  
 誰からでもなく、僕は静希ちゃんに頭をたれました。  
 鎖骨の下には南さんのキスマークが残っているのです。  
 辛うじてまだ見えていませんけど、二つ目のボタンを外されれば確実に静希ちゃんの視界にも映ります。  
 このキスマークは誰にも見せられない南さんとの印。  
「どうしたの、桜くん……?」  
「ごめん……」  
 行為を中断された静希ちゃんに、ただ頭を下げるだけの僕。  
 これ以上はできません。  
 鎖骨辺りについているキスマークはまるで僕に戒めをかけているようでした。  
 静希ちゃんはそれでも僕の頬を優しく撫でてくれました。  
 
「桜くん」  
「静希ちゃん……その、できない……」  
「そう……なんだ……」  
「で、でも! その……少しの間、待っていて……くれないかな?」  
 まるで、さざ波一つ立たない海面のように静かで儚げな静希ちゃん。  
 待っていてほしい、という言葉に反応したかのように下げた顔を元に戻し、僕の腕を回してきました。  
 間近に迫る静希ちゃんの息が、何故か苦しく感じてしまいます。  
「待っていて……いいのね?」  
 淡い期待を乗せている言葉と、僕の目をまっすぐ見つめる静希ちゃんの瞳は僕の胸を締め付けました。  
 大丈夫、僕は静希ちゃんをきっと迎えに行ける。  
 何の根拠もない自信が僕の中で渦巻き、静希ちゃんに頷きました。  
 僕はとことん卑怯者でした。無責任に、目の前の女の子を傷つけている。  
「じゃあ……キスは……ダメ……?」  
 静希ちゃんの小さな唇が震えて紡ぐ言葉に、僕は戸惑ってしまいます。  
 でも、これくらいならしてあげるべきだと心の中の自分に釘をさされました。  
「静希ちゃん……いいの?」  
「うん……桜くんに……お願い……」  
 こんな密着した状態で、静希ちゃんは委ねるように自らの瞼を閉じて、僕を待っていました。  
 ずっと彼女のことを想っていたのだから、断れるはずがありません。  
 僕は少し顔を傾けて、静希ちゃんの小さな唇にそっと触れ、そして、重ね合わせました。  
「ん……」  
 僕の首に回している静希ちゃんの腕の力が強くなり、さらに激しく唇同士が吸われていきます。  
 本当に重なっているだけのキスなのに長く続いて、限りなく甘い雰囲気と匂いを漂わせていました。  
 そして、やっとのことで口を離した静希ちゃんは、僕の胸に顔を埋めるのです。  
「桜くん……大好き……」  
 どの言葉よりも嬉しい一言のはずなのに、僕はまだ返事ができません。  
 でも、静希ちゃんを守るためなんだと自分に言い聞かせ、自分の情けなさを無理矢理押し込めました。  
 僕と静希ちゃんは、夕方になるまで、ずっとそのままで抱き合っていました。  
 ただ、彼女の温もりを感じたいがためだけに。  
 
 
 その翌日、静希ちゃんの様子に若干の変化が見られました。  
 今まであった積極性は抑えられたかのように、一歩下がったような様子が見られます。  
 僕が昨日の彼女を半ば拒絶してしまったせいなのかと思いましたが、避けられている訳ではありませんでした。  
 それでも何か物寂しいものを感じてしまいますが、南さんの事もあり、仕方がないと諦めていました。  
 そんなことで南さんには襲われながら数日が経ち、その今週末のことでした。  
 その日の夜、珍しく僕は家にかかってきた電話に出ていました。  
「はい、もしもし、草壁ですが。……あ、うん、僕だけど、どうしたの? うん、うん。分かった、日曜に学園に行けばいいんだね」  
 
 電話の内容に導かれ、僕は日曜日にゲルニカ学園に足を運んでいました。  
 平日と同じように制服をまとい、僕は弓道場に顔を出していました。  
 そこでは、ゲルニカ学園の弓道部員と、サルバドール・ダリ中の弓道部員が並んで挨拶をしていました。  
 男子部員、女子部員に別れて、『よろしくお願いしまーす!』と大きな声が道場内に響き渡ります。  
 一通りの挨拶を済ませて、一時解散すると、一人の女の子が僕の存在に気付いて、トテトテと駆け寄ります。  
「草壁先輩! 来てくれたのですね!」  
 目の前の女の子、ダリ中・弓道部の弓島千佳さんは目を輝かして、いかにも嬉しそうでした。  
 今日はダリ中とゲルニカの弓道部の練習試合。  
 弓島さんも道着に着替えており、この練習試合に出場予定のようです。  
「うん、合同練習は見て上げられなかったから。弓島さんの弓道も見てみたいし」  
「はい! 先輩が見てくれるなら精一杯頑張れます!」  
 見れば見るほど、弓島さんは純粋無垢の女の子でした。  
 一瞬、不意に、この子が可愛いと思えてきた自分が情けないものでした。  
「うん、応援してるよ」  
「はい、先輩に満足してもらえる試合にしますね!」  
 爽やかな笑顔で、一杯に頷き、弓島さんは元の団体の中に戻っていった。  
 ふと、ゲルニカ弓道部、男子生徒の視線が突き刺さったような気もしました。  
 他に何人か見学者を交えて、僕は道場の隅から邪魔にならないよう試合の成り行きを見届けます。  
 弓島さんの弓の弦を引く姿は凛々しく、顔は的に向かって一直線で真剣でした。  
 矢を打つまでの動作も綺麗で、打ち終わった後の作法も言うこともありません。  
 一本目から的の真ん中に近い部分を射止め、彼女の想像以上の実力に僕は半ば呆然です。  
 全ての矢を打ち終えた弓島さんは、元いた位置に座り、僕の方に向けて小さく手を振ってくれました。  
 僕も彼女の笑顔に応えて、なんとか笑顔を取り繕います。  
 
 
「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ……」  
 体操着姿で学園内の外を軽やかなペースで走る女の子が一人。  
 普段の長い髪は走りやすいようにうなじの部分にまで結い上げられ、整った子顔の額からは垂れ落ちる幾筋かの汗。  
 陸上部に所属している静希ちゃんは、日曜の部活にも積極的に参加していました。  
 そして、今は個人練習中で、静希ちゃんは、学園内の外回りをランニングしている途中でした。  
 ランニング三周目を終わり、走るのを止めて、てくてくと歩き出した彼女は近くの水道場にて足を止めます。  
 蛇口を捻り、溢れ出す水に、静希ちゃんは小さな口で少しずつ水を含みました。  
 汗を拭い、元いたグラウンドまで戻り始めます。  
「あ……」  
 ふと、声を漏らし、静希ちゃんは明後日の方向に視線を向けました。  
 弓道場へ繋がる渡り廊下を歩いている桜くんと、見知らぬ女の子。  
 何故だか、静希ちゃんの胸の内にズキッと重いものが圧し掛かりました。  
 ただ、じっと並んで歩いている訳でもなく、二人は顔を見合わせては楽しそうに笑っていました。  
 そして、静希ちゃんは、どことなく儚げでしかめた顔で、その光景に釘付けでした。  
「ばーか……」  
 桜くんと、見知らぬ女の子は離れた所で見ている静希ちゃんには気付いていませんでした。  
 静希ちゃんは何かを振り切ろうとするばかりに突然、走り出し、グラウンドに一目散。  
 今日の陸上部の練習は朝から始まり、昼頃には終わりになっています。  
 練習が終わり、部指定のロッカールームで着替えをしていた静希ちゃんは、自分のロッカーの中身に気付きました。  
 見慣れない白い封筒が一通、そこに置かれていたのです。  
 表には達筆な字で『水上静希さんへ』と書かれていました。  
「何だろう……」  
 封筒を手に取り、表裏を引っ繰り返しては、不思議そうな顔をする静希ちゃん。  
 ふと、裏には『一人の時に見て下さい』と小さな字で書かれていました。  
 周りには同じ部の女の子たちが、一緒に着替えをしていますが、静希ちゃんは中身が気になります。  
 誰にも見られないように、こっそりと封を開けて、静希ちゃんは封筒の中身を確かめました。  
 
 ゲルニカとダリ中の弓道部の練習試合は円滑に進み、予定よりも早く終わりました。  
 本当ならお昼を過ぎたくらいに終わる予定が、一時間ほど早くに終わっていました。  
 その関係で、ダリ中の部員は自由解散となりました。  
 予定の時間まで残りたい人は残り、帰りたい人はその場で解散。  
 僕こと、草壁桜は、すっかり懐かれてしまった弓島さんに、ゲルニカ学園内の案内をせがまれてしまいました。  
 学校は違えど、可愛い後輩の頼みなので、僕は快く引き受けました。  
「草壁先輩の教室ってどこなんですか?」  
「え、僕の教室?」  
 渡り廊下を越えてすぐの所で、弓島さんは意気揚々としていました。  
 別に僕の教室は特別なものでもなく、この校舎の至る所にあるものと一緒です。  
 それでも、彼女は見たいというので連れて行きました。  
 僕の教室に着いた時、弓島さんは僕の机の位置を知ると、値踏みするようにキョロキョロ見回していました。  
 そんな僕は何か気恥ずかしいものを感じてしまいます。  
 弓島さんは、僕の机を見ているかと思うと、ちらちらと僕に視線を向けていました。  
 その視線に気付いた僕は反射的に。  
「どうかした、弓島さん?」  
「あ! えと、あのですね……」  
 僕の言葉に驚いたのか、一瞬ビクリとして、もじもじとする弓島さん。  
 更に突っ込んでいいのか悪いのか、僕は彼女の様子を見ます。  
「先輩……実は……」  
「あ」  
 弓島さんの途切れそうな声と同時に、教室の外から同時に聞こえてきた間抜けな声。  
 声の主は、野球部のユニフォームを着て、バツが悪そうに僕の方を見ていました。  
「宮本じゃないか」  
「よう、桜か。何で、お前、学校来てるんだ?」  
「ん、ちょっとした用事だよ。宮本は部活?」  
「ああ。教室にタオル置きっぱなしにしてたの思い出したから取りに来たんだ」  
 そう言いつつ、宮本は自分の机のかけてあるナップザックにも似た袋を手に取りました。  
 それにしても、何か誤魔化すような口調の宮本が妙に可笑しく思えました。  
「ってか、桜。その子、知り合いなのか?」  
「まあ、うん、知り合い。ダリ中の一年生の子だよ」  
「初めまして、弓島千佳です」  
「俺はゲルニカ二年の宮本広志。こいつとは腐れ縁の仲で、俺が兄貴分なんだ」  
「一言余計だよ。お前が兄貴分なんて、初めて聞いたよ」  
「当然だ。今、決めたんだからな」  
「おい、こら」  
 なんやかんやと口問答をしながら、宮本は部活がまだ続いているらしく、すたこらと教室から出ていきました。  
 弓島さんは、何かしらニコニコしながら、僕を眺めているのです。  
「草壁先輩の友達って、面白い人たちなんですね」  
「変なだけだよ。特に、あいつはね。……そういえば、さっき何か言いかけてなかったっけ?」  
「あ、あ! そ、それは……そのー」  
 平然としてみたり、微笑んでみたり、そして、すぐ真っ赤になったりと弓島さんの表情は賑やかです。  
 ちらちらと視線をどこかに泳がせ、再び、僕の元に戻ってきた頃に、弓島さんは口をパクパクさせていました。  
「ちょ、ちょっと、他に聞かれたくないので……その……人がいない場所に……連れてって……くれませんか?」  
「ああ、分かった」  
 僕は平静に頷き、弓島さんをエスコートしました。  
 弓島さんは何を思ったのか、僕の制服の裾を、ほんの少しだけで摘んでついてきました。  
 僕は、この時、これだけ冷静になれた自分が情けなく思えました。  
 
 私は今、ちょっと気になる先輩にくっついてゲルニカ学園の廊下を歩いていました。  
 ルネッサンスの競技でたまたまペアを組んだ草壁先輩。  
 ルネッサンスが終わった後からも、先輩のことを考えてしまうことも少なくありません。  
 唐突に、今何やっているのかなーって思うことだってあります。  
 学校の友達に、その事を話すと。  
「その先輩のこと、好きなんじゃない?」  
 と言われました。  
 最初は実感なんてありませんでしたけど、友達に相談していくうちに、私は草壁先輩のことが好き。  
 今では、また草壁先輩に会えないかなーと思う日々が続いていました。  
 そして、部活のミーティングでゲルニカ学園との練習試合の知らせを聞いて、私は心が躍りました。  
 勿論、友達にも相談しました。  
「じゃあ、思い切って、遊びに誘ってみなよ!」  
 友達の言葉に大きく頷いて、私はゲルニカ学園に行く日を楽しみにしてました。  
 練習試合の前日には合同練習があり、私は休憩時間の合間を縫って、草壁先輩を探しました。  
 実際に会えた時は本当に嬉しくて、またこの人に抱きつきたくなってしまいました。  
 でも、その時は何も言えずに、ただの世間話をしておしまい。  
 自分の度胸のなさに諦めつつも、迎えた練習試合では、先輩が来てくれてまた喜びが弾け飛びました。  
 草壁先輩が見ていてくれたお陰で、冷めようとしていた私の気持ちは高ぶり、試合での結果もいい調子でした。  
 練習試合も、予定より早く終わって自由解散に。  
 私は思い切って、駄々をこねるようにして、見に来てくれた草壁先輩に校内案内を頼みました。  
 ここで、チャンスを見つけて、草壁先輩を誘おうと決めていました。  
 それを草壁先輩の教室で言おうとしたら、突然、先輩の友達が来て、話は別の方向に。  
 でも、ここまで来た以上、絶対に先輩を誘うんだ。  
 私はもっと思い切った事を先輩に頼んで、もっと二人きりになれる場所に連れてって貰いました。  
 そうしたら、きっと草壁先輩を誘える。  
 そう心の中で決心をつけて、私は草壁先輩が案内してくれた室内に入りました。  
 そう、遊びに誘えるかと思っていたんです。  
 
 
「あ、くぅ……ふぁぁっ! せ、先輩……!」  
 僕の腕の中で、泣き出しそうな声と共に小さな体をくねらせる弓島さんは震えていました。  
 僕は、自分の手を操り、拘束した彼女の体を、胸を乱暴に捏ね繰り回していました。  
 二年A組の教室を出た後、僕は弓島さんを視聴覚準備室に案内していました。  
 彼女を招き入れた後、僕は静かにドアの鍵を閉めて、まだ恥ずかしそうに背を向けた彼女に迫ったのです。  
 そして、弓島さんを後ろから抱きしめたと同時に、僕は人が変わったかのように、彼女の制服を強引に脱がしにかかったのです。  
 弓島さんの表情から恥ずかしさが消えて、次に来たのは崩壊する前兆のような真っ白な顔。  
 そして、悲鳴でした。  
「せ、先輩……何、するんで……すか……」  
「…………」  
 僕は黙り込んで、弓島さんの腕を押さえ、もう片方の手で彼女のシャツのボタンを外しました。  
 二つ、三つ外し、奥への隙間を作ると、僕はその中に腕を突っ込みます。  
 弓島さんが震えると同時に、僕の手は彼女のブラジャーの中に滑り込んでいました。  
 ほんの少ししか膨らんでいない胸は、僕の手にすっぽりと納まり、先端の存在が目立っていました。  
 
「あ、あ……はぁ……」  
 ビクンビクンと震えながら、およそ初めての体験だと思う弓島さん。  
 でも、今の僕は彼女が初めてであることを願っていました。  
 僕は弓島さんのうなじに、ふうと息を吹きかけては、耳を舌先で突いて、甘噛みをしてみる。  
「んぅぅ……先輩……や、やめて……」  
「…………」  
 弓島さんは既に涙ぐんだ瞳で、僕に振り返ろうとします。  
 僕は一瞬の虚を突き、弓島さんを体ごと、こちらに振り向かせ、小さな顔を両手で掴みました。  
 弓島さんの顔が強張りましたが、僕は構わず、彼女の唇に自分のそれを押し当てました。  
「んんっ!」  
 弓島さんは力尽くで抵抗しようとしていますが、キスをしている彼女の顔だけは僕がしっかり押さえているため無意味でした。  
 唇を強引に押し当て、更には舌を使って、彼女の唇を舐め回しては無理矢理、奥へと捻じ込みます。  
「ふう……んんっ……ん、ちゅ……」  
 僕の舌が弓島さんの口内に侵入し、震える彼女の舌を捉えました。  
 口内を蹂躙するかのように舐め尽し、舌を重ねては転がすように深くキスを繰り返す。  
「んふぅ……くちゅ……ううん……」  
 長い愛撫を含んだキスを続けているうちに、弓島さんの抵抗する力は消えていき、トロンと瞳が溶けかけていました。  
 それでも尚、キスを続け、弓島さんの口と舌を犯し続けます。  
 弓島さんの体全体から徐々に力が抜けていき、崩れそうになる彼女を僕は素早く支えました。  
 抵抗の色を完全になくし、それでもキスを続けて、それだけでかなりの時間が経過していました。  
「ん、んん……はぁ、はぁ、はぁ……」  
 キスを止め、すっかり息が上がってしまっている彼女を自分の胸元に誘います。  
 焦点がしっかりしていないのか、弓島さんの意識はまるで上の空でした。  
 僕は半ば意識がはっきりしていない弓島さんを抱き上げると、そこらにあるパイプ椅子に座らせました。  
 まだ息が上がっている彼女を他所に、僕は彼女の制服を脱がしました。  
「あ、あああ……せん……ぱい……」  
 弓島さんはまだ虚ろな瞳で僕を見据えるだけで、僕に脱がされるがままでした。  
 上着は剥いで、シャツのボタンを全部外し、小さなブラジャーを見つけるとそれを片手で外しました。  
 敢え無くして、弓島さんは半裸の状態で椅子に座っているのでした。  
 女の子のこんな羞恥に晒しておいても、僕は平然とし、そして、酷く冷たいものだと思いました。  
「草壁……先輩……あくぅっ」  
 僕の名を囁く彼女はすぐに鋭い声を上げました。  
 僕は彼女の胸を舐め尽くしては先端を吸い上げ、手の平で捏ね繰り回し、出来うる限りの刺激を生み出します。  
「はぁぁぁぁ……あ、う……うっあぁぁ……」  
 弓島さんは可愛らしい声と共に、体をえび反りさせては、僕の愛撫を素直に受けてくれます。  
 じっくりと弓島さんの小さな胸を弄り回しても、何の興奮もしていない自分に気付きました。  
 でも、今はこの子を犯せれば、それでいいのです。  
 僕は弓島さんの胸だけでは飽き足りず、その下のスカートの中に手を入れ込みました。  
 指先に布地の感触を察知すると、その布地を乗り越え、奥の泉の源にまで辿り着きました。  
「あくぅっ! ああ、はぁぁ……」  
 弓島さんのアソコに指を走らせた瞬間、彼女はまたビクリと体を震わせました。  
 割れ目に沿って指を軽く擦らせ、手には付着するねっとりとした感触。  
「せ、先輩……気持ち……いい……」  
 弓島さんは夢現な状態でぼやくように呟き、僕に手を伸ばそうとしていました。  
 微かな笑顔と共に、無機質な僕の頬に触れる弓島さんの手はやけに暖かく感じました。  
「好き……好きです……草壁先輩……」  
 弓島さんの突然な告白に、僕はハッとしました。  
 僕は彼女に何を言わせているのだ、と。  
 僕の中の闇が光に変わろうとしていたのに、僕は光を抑え込み、闇を取り戻していました。  
 僕は、自分の頬に触れている弓島さんの手を軽く払いのけると、再度、彼女の唇を奪いました。  
 
「んくっ……ん、ちゅ……」  
 今度は舌を無理矢理に押し込まなくても、舌先で弓島さんの唇を突くと、彼女は受け入れるように舌を絡ませてきました。  
 僕はそんな従順な態度に不満を感じつつ、彼女の秘所をまさぐり、乱暴に口を押し付けました。  
「あ……ふぅ……んんっ……」  
 手足をだらんとさせたまま、顔だけを僕に持ち上げられて、弓島さんはまるで操り人形のようでした。  
 僕が彼女のスカートに手をかけて、脱がしても弓島さんは荒い呼吸をして、それを見届けているだけです。  
 ショーツ一枚で、椅子に腰掛けているだけの弓島さんに業を煮やした僕はズボンを脱ぎました。  
「弓島さん……ほら」  
 弓島さんの目の前に、自分のアレを突き付けても、僕は不思議と恥ずかしいとも思えませんでした。  
 ほとんど反応もしてなく垂れたアレを見ても、弓島さんは呆然としたままでした。  
「先輩……私……どうすれば……」  
「舐めて……。それから、咥えるんだ」  
「はい……」  
 目をトロンとさせたまま、弓島さんは口だけを伸ばして、僕のアレを舐め始めました。  
 なんて、順応なことだろう。  
「ちゅ……ん、ふ……ぴちゃ」  
 以前、一度関わっただけの後輩は、今、僕のアレを頬を染めて丹念に愛撫していました。  
 しかし、それでも先端を舐めているばかりで、お粗末なものに感じます。  
 それでも、気持ちよくないと言えば嘘にはなりますけど、やはり、南さんの愛撫には程遠いものでした。  
「ふうん……はぁ……ぴちゅちゃ……」  
「弓島さん……口で咥えて」  
「んく、ん……はい、先輩……」  
 唾液が床に滴り落ち、弓島さんはだらしなく口を開き、僕のアレを一生懸命にその中に納めます。  
 もごもごと呻きながらも、弓島さんは自分の手を使って、アレを奥へ奥へと押し込めました。  
「んぐ……んんっ……」  
「今度は頭を動かして、口全体で舐めるんだよ……」  
「んんう……く、ん……ん、んっ……」  
 弓島さんは必死かのようにアレの根元を手で支え、懸命に頭を上下させていました。  
 弓島さんの口内で舌がアレに上手い具合に絡まり、僕自身も段々と興奮してきました。  
 それに乗じて、僕は突然、また彼女の体に触れたく、自然と腕を伸ばしていました。  
「んっ! ふ、ん……んん……」  
 僕が伸ばした腕は弓島さんの両胸に届き、指先で先端を転がすように弄っては揉み回す。  
 一瞬、弓島さんの動きが止まりましたが、僕の顔を見上げて、また必死に愛撫をしました。  
 僕は可愛らしいバストに伸ばした手を無造作に動かしては、時折、快感を堪える弓島さんの表情を楽しみました。  
「くちゅぅ……ん、くん……んぅぅっ」  
「弓島さん……気分はどう?」  
「ん、んん……ぷ、はぁ……」  
 口をアレから引っこ抜き、弓島さんは唾液まみれな口元を拭おうともせずに僕を見上げました。  
 どこか遠い意識を保ったかのような顔の弓島さんがやたら、いやらしく感じました。  
「変な気分……です。でも、これ……もっとしたいんです……ダメですか……?」  
「ダメじゃないよ。もっとしてくれる?」  
「はい、先輩に喜んで貰えるなら……いくらでも……」  
 言うが早く、弓島さんは僕のアレを口に含んでは何度も何度も頭の上下運動を繰り返しました。  
 どこかストッパーが吹き飛んだ彼女の髪を撫でて上げると、弓島さんは嬉々として愛撫を強めました。  
「ん、ちゅぅ……んぐ……んっんっ」  
「ん……弓島さん、もういいよ。口を離してくれる?」  
「んっ、ん……はぁ……はい、先輩」  
 余韻を残しつつ、唾液の糸を伸ばして、僕の指示通りにアレから口を離す弓島さん。  
 弓島さんは相変わらず頬を真っ赤に染め、僕が肌に触れる度にピクリと小さく震えます。  
 そして、そんな彼女を椅子から下ろすと、僕は躊躇いなく床に押し倒したのです。  
「あっんっ。はぁ、ああっ……せ、せんぱ……い」  
 僕は押し倒した全裸と化した弓島さんの股間に顔を埋め、目の前に迫る割れ目を執拗に愛撫します。  
 喉が枯れ果て、泉の水を求めるかのように僕は、割れ目から滴る液を舐めとります。  
 
「はぁぁ……んんっ……あぁぁくぅ……」  
 弓島さんは身をよじらせ、僕の愛撫から逃げるように足を動かそうとしますが、僕は彼女の足を固定して逃がしません。  
 とにかく、舐めるに舐めて弓島さんを快楽の底に導くまで、僕は愛撫を止めません。  
 弓島さんのアソコは多少の苦味はあれど、変な悪臭もせずに男の僕を誘い入れます。  
 十分くらい、弓島さんの秘所を可愛がり続け、溢れる液は後を絶ちません。  
「あ、あん……はぁぁ……何か……もう私……」  
「そう……分かったよ」  
 僕は頭の興奮しつつも、いつもとは違う感情のパーツが外れているように冷淡でした。  
 弓島さんへの秘所の愛撫を止めて、僕は膝立ちで仰向けの彼女の腰を持ち上げると、自分のアレを割れ目に押し当てました。  
 スムーズに入れられるようにちゃんとアレの向きを整え、彼女の了承も得ずに僕は突き刺しました。  
「あああああああっ! い、いたぁぁぁぁっ!」  
 何の遠慮もせずに僕はアレを弓島さんの奥へ一気に押し進め、中をかき混ぜました。  
 やはり初めてだったらしく、奥へ進める時に何かの抵抗を感じ、弓島さんは絶叫に近い声を上げます。  
 しかし、今の僕にとっては悲鳴だろうが絶叫だろうが雑音程度にしか聞こえません。  
 弓島さんの声を無視して、僕は腰をアソコに押し当て、前後運動は決して止めません。  
「いた……いっ! 先輩、痛いっ! 痛い痛いっ!」  
 弓島さんの瞼に涙が一気に溢れ出し、頬には既に幾筋の涙腺を作っていました。  
 そんな涙を見てしまった僕は自然と腰のスピードを下げていたのです。  
「はぁあああっ、先輩、先輩!」  
 弓島さんは届かないのに、両腕を僕に伸ばしては助けを求めるかのように涙目で訴えてくる。  
 僕は視線と体を落とし、彼女の腕が届くまでの体勢を作りました。  
 途端に、弓島さんは僕に抱きつき、僕の肩で泣きながら荒い息を耳に吹きかけました。  
「草壁、先輩……! 痛い、です……痛いよぅっ……うっくぅ……」  
 彼女の必死の声が心に痛いほど伝わります。  
 僕は自分のしていることに否定をしながらも、弓島さんの顔を目の前に持ってくると出来るだけ優しくキスをしました。  
 弓島さんも自分から押し付けてくるかのようにキスを返し、すぐさま二人の舌は絡まりました。  
「ん、ちゅ、くちゅ……ん、んん、くん……」  
 弓島さんは痛みを誤魔化すように我武者羅に舌で僕の口内を舐め尽し、唇を濡らします。  
 唇を離せば、涙で瞳を一杯にした愛くるしいほどに求めてくる後輩。  
 僕は自分と共に弓島さんの体を起こし上げ、床に座った状態で腰を突き上げます。  
「ああっ! い、いたぁ……! う、く……はぁぁぁっ」  
 ガクガクと震えながらも弓島さんは僕の体に抱きついたままで、痛みを堪えようとしていました。  
 そして、気付けば弓島さんと僕の結合部分から一筋の赤い線が滴り落ちていました。  
「弓島さん……」  
「先輩、わ、私……嬉しい……。痛いけど……でも、先輩になら……」  
「…………」  
 何かに刺激され、僕はより強く腰を彼女の奥底に突き立て、ペースをどんどん上げていきます。  
 弓島さんは涙を流し、痛みを必死に我慢しながらでも、どこかで笑顔を保っていました。  
「んあっ……あふ、はぁぁんっ……あああっ」  
「弓島さん、きつい……!」  
「あ、ああぐ、くぅ……先輩……」  
 弓島さんは痛みのせいもあるのか、アソコの締め付け具合は半端ではありません。  
 僕がアソコに出し入れするのでさえもペースが下がる程にきつく締まっていました。  
 なおかつ、僕の射精感もいつもよりも少し早くに湧き上がってきたのです。  
「弓島さん、もう少し力抜いて……」  
「ああはぁっ! 先輩、私、なんだか……あああっ!」  
 突然、弓島さんは自分で腰を使い始め、僕のアレに更なる刺激を加えてきました。  
 一瞬、ギョッとして驚き、僕は逆に彼女の勢いに呑み込まれそうでした。  
 弓島さんは一心不乱に、それこそ、グチャグチャと音がハッキリ聞こえるくらいに動きを速めています。  
 
「先輩、先輩ぃぃぃっ! 私、ああぁぁぁっ、気持ち……いい!」  
「あ、くぅぅ……弓島さん、激しい……」  
「ああぁぁぅぅっ! もっと、あくぅ……もっとぉぉ……」  
「うううっ」  
 僕は、変な意味で苦痛に顔を歪ませ、再び、弓島さんを押し倒すと負けずと腰の動きを更に激化させました。  
 弓島さんは相変わらず、だらしなく快楽に浸った顔で唾液を垂らしては、自分の指を口を舐め回していました。  
 彼女の小さな胸も今は、弓島さん自身が淫らに揉みほぐしていました。  
「ああ、ダメ……ですっ。何か……ああああっ、く、来るぅぅぅっ」  
「そのままイっちゃえばいい……!」  
 半ば、ヤケクソに言い放ち、僕は自分の射精感を抑えるに抑えて、弓島さんの絶頂を待ちわびます。  
 弓島さんは僕の動きに体を委ねたかのように、自分の動きを止めて、ガクンガクンと激しく腰を震わせました。  
「先輩、ああっくぅ……先輩ぃぃっ」  
「んんくっ!」  
 弓島さんの体がピクンと震え上がったと思ったら、これ以上にしなやかに伸びた。  
 その直後、僕は自分のアレを弓島さんの中から即座に引き抜いた。  
「ああっ」  
 短い悲鳴を上げ、僕のアレは先端から白い液をたくさん吐き出していました。  
 僕の分身とも言える液は、弓島さんのお腹を白く染めて、そして、汚していました。  
「はぁ、はぁぁぁ……せ、先輩……熱い……」  
「ふぅ、はぁ……はぁ……」  
 弓島さんはお腹を上下させ、僕は肩を大きく揺らせて、互いに荒い息を返します。  
 僕が犯した全裸の女の子は短い呟きを残して、フッと目を閉じていきました。  
 僕自身も相当な疲労感にみまわれ、その場で寝たくなります。  
 それを抑えながら、僕は何故、こんなことをしているのかを考え出しました。  
 そうだ、確か電話がかかってきて……。  
 
 ドンドン!  
 
 それで出たら、南さんが……。  
「桜くんっ! 中にいるの!?」  
 南さんが日曜に学校に行って、弓島さんを……。  
 そうだ、だから僕は、この子をここに連れ出して……。  
「中にいるなら返事してっ!?」  
 なんだろう……さっきからやけに騒がしい音がするな……。  
 南さんに弓島を犯せって言われて……そうだったな……。  
 
 ガチャガチャ……ガララ  
 
「さ、桜くん……?」  
 その時、誰かの声がハッキリ聞こえました。  
 僕はもうはっきり考えることもできない思考を中断させて、頭を上げるとそこにいたのは。  
「……なに、これ……」  
 呆然とした表情で僕を見つめる体操着姿の静希ちゃんでした。  
 室内には弓島さんのお粗末に脱ぎ捨てられ、散乱している制服と下着。  
 僕の目の前には全裸な上に精液で、淫らに汚され、眠っている一年生の女の子。  
 そして、下半身を露にして、まだ少量ながら精液を吐き出す僕のアレ。  
 静希ちゃんは表情を凍らせ、文字通り、その場に硬直していました。  
 まだ、神経が鈍っている僕には何が起きているのか理解できませんでした。  
 
「やあ、静希ちゃん……」  
 能天気な僕の挨拶。よくも、こんな挨拶をできるものだと、おそらく、静希ちゃんは思ったでしょう。  
 凍りついた静希ちゃんの手から何かが零れ落ちました。  
 それは、一通の白い封筒と、その中から出てきた一枚の写真。  
 その写真を見た時、初めて僕の意識はハッキリしたものに戻りました。  
 静希ちゃんが持っていた写真は、僕の痴態。  
 南さんに屈辱にも収められた、あの写真だったのです。  
「桜くん……どうして……」  
 凍り付いていた静希ちゃんから言葉と、目から見る見るうちに涙がじわりと湧き出してきました。  
 僕は光速で頭を回転させると同時に、恐ろしいほどの狼狽に襲われました。  
 静希ちゃんに見られた!  
「し、静希ちゃんっ……! こ、これは……」  
 あまりの突拍子の無さに言い訳の言葉も思いつきません。  
 僕は半裸のままでも構わず、静希ちゃんの元へ駆け寄ろうとしました。  
 ですが、静希ちゃんは僕の動きにビクリと震えて、鋭く叫びました。  
「い、いやっ……! 来ないで……!」  
 瞬間、床にチャリーンと金属音を響かせ、静希ちゃんは大粒の涙を残して、この場から消えてしまいました。  
 床に残った白い封筒と、一つの鍵が残り、僕は呆然と、その場に崩れ落ちました。  
 静希ちゃんに浴びせられた初めての悲鳴は、これ以上ないほどに胸の奥に突き刺さりました。  
 そして、僕は愕然として、扉が開けっ放しにもなっているにも関わらず、その場で抜け殻になってしまいました。  
 静希ちゃんに見られて、そして、逃げられてしまった。  
 そんな……こんなはずじゃ……。  
 僕の頭の中で、後から後へと言い訳がましい言葉ばかりが浮かんできました。  
 
 
「…………」  
 視聴覚準備室の隣、視聴覚室で南さんは長椅子に腰かけ、足を組んでは逆に組み直し、それを繰り返していました。  
 耳にはイヤホンをつけており、そこから流れてくる音に集中するかのように南さんはずっと目を閉じていました。  
 南さんは相変わらずのポーカーフェイスで、桜くんが弓島さんを襲う始まりから終わりまでをずっと監視していたのです。  
 そして、それが全て終わったところ。  
「桜くん……ダメね……」  
 イヤホンを耳から剥がし、南さんは侮蔑とした言葉を吐き出しました。  
 そして、準備室に繋がる扉に向かって歩き出しました。  
「不合格」  
 不満そうな言葉を残して、南さんは扉をくぐりました。  
 その彼女の顔はやはりポーカーフェイスでした。  
 
 
 続きます。  
 

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