僕は、その日の午後の授業を呆けていました。  
 授業を受けるのが嫌だったということではなく、単純に静希ちゃんに合わせる顔がないという幼稚な理由です。  
 再び、南さんの誘惑の手が僕に迫り、僕はこれからどうすればいいのか分かりません。  
 大袈裟なような気もします。  
 でも、心の底から南さんに対しての恐怖感と静希ちゃんに対しての喪失感が入り混じり、僕は冷静ではいられません。  
 僕は本当に静希ちゃんを守ることができるのでしょうか。  
 学園の人気のない場所で僕は、途方もないことを考え続けていました。  
 
 
 放課後、僕は重い足取りで視聴覚準備室に向かっていました。  
 南さんに言われた通り、僕はまた彼女の要求を呑むことになるでしょう。  
 僕は浮かない顔のまま、視聴覚準備室のドアをくぐりました。  
「あ、来た来た」  
 その軽い一言は中にいた田辺さんのもの。  
 そして、その隣には恐らく、田辺さんと何かを話していたと思われる南さんが佇んでいました。  
 南さんも僕の姿に反応して、くるりとこちらに振り返り、艶やかな長髪を揺らしました。  
「いらっしゃい、桜くん」  
「…………」  
「そんな所に立ってないで、こっちにおいでよ。あ、鍵は閉めてね」  
 田辺さんは普段通りの調子で僕に手招きをします。  
 僕は無言で頷き、ドアを閉めて鍵をかけると、二人の前まで歩み出ます。  
 何も話す気力もなく、僕は視線を二人から逸らしながら彼女たちの指示を待ちます。  
「桜くん……」  
 南さんが僕に密着してきて、そっと僕の頬を両手で包み込みます。  
 僕はハッとして少々、顔が熱くなるような感覚がありましたが、それでも視線は逸らします。  
「そんな顔しないで……」  
「南さん……何を……するの?」  
「こうするの……」  
 南さんは頬に触れていた手を僕の首に回しこみ、顔を近づけてきます。  
 近づいてくる南さんの顔を前に僕は体が硬直しかけます。  
 
 バチィッ  
 
「いぎゃぁっ!」  
 突然、何かの衝撃が僕の体を突き抜け、ほんの一瞬だけでしたが凄まじい激痛が襲ってきました。  
 南さんはいつの間にか、僕の体から離れて、僕が床に倒れこむ様を見ていました。  
 体がぷるぷると震え、まるで痺れたような感覚。  
 そして、倒れて軽い痙攣を起こしている僕を見下ろしている南さんの手にはスタンガンが握られていました。  
 僕は金魚のように口をパクパクと開けるだけで言葉がまともにでません。  
 痙攣しているだけの僕に、南さんは再び近寄り、しゃがみ込んで顔を覗いてきます。  
 僕がどれだけ苦しそうな顔をしようとも、南さんのポーカーフェイスが崩れることはありませんでした。  
 そして、何を思ったのか、南さんは僕の体を転がして、背中を擦ってきました。  
 ちょっとは楽になった感じがしますが、ふと、その感覚もすぐに消えました。  
 
 バチィィィィィッ  
 
「うぎぁぁぁぁぁっ!」  
 今度は背中にスタンガンを強く当て付けられ、僕は体をえび反りさせて悶絶しました。  
 さっきの首筋にやられた一瞬ではなく、本当に拷問のように長く当て付けられ激痛の上に激痛を重ねた痛みでした。  
 
 どうして、こんなことをするのか、という思考もできなくなり、僕の頭の中は痛みで支配されそうです。  
 なんとか意識はあるものの、体を動かすことも、そんな意思さえなくなりそうです。  
「田辺さん、そっち持ってくれる?」  
「うん、分かった」  
 南さんの呼ぶ声と一緒に田辺さんも僕のそばにかけより、僕の腕を自分の肩に回します。  
 同様に南さんも逆の腕を自分の肩に回して、動けない僕を無理矢理に立たせます。  
 僕は足を引きずったまま、二人に運ばれ、ポツンと置かれていたパイプ椅子に下ろされました。  
 すると、すぐさまに僕の足は椅子の足にくくりつけられ、両腕は背もたれの後ろに回されて拘束されました。  
 しかし、僕はまだスタンガンの威力から解放されず、一向に体を動かすことができません。  
「何か呆気ないなー。桜くん、まだガクガクしてるの?」  
 田辺さんは首を項垂れた僕の顔をわざわざ、屈んで覗き込んできました。  
 ですが、田辺さんの言うように、僕は軽く痙攣したままで荒い息を繰り返すだけ。  
 その後ろで南さんはポーカーフェイスで僕を見ています。  
 そして、色々と震える僕を物色をしている田辺さんを制して、南さんは目の前まで来ました。  
「桜くん、気分はどう?」  
「み、南さん……こんなこと……しなくても……」  
 南さんに顎を掴まれ、顔を持ち上げられた僕は力ない表情を彼女に向けます。  
 ですが、南さんはどこか満足気な顔で、僕の頬をペロリと舌で舐めました。  
「桜くんだからしてあげるの……」  
 何度も同じことを言うようですが、やはり怖い。  
 彼女の思考が全く読み取れない。  
 僕は半ばグッタリした顔で、南さんの手に支えられながらボーっと彼女の顔を見るだけ。  
「南さんは……僕に何が……したいの……?」  
「桜くんの全部を染めたい」  
「何が何だか、分からないよ……」  
「私の方が、想う気持ちは強いわ」  
 僕の体から徐々に痛みが消えつつ、やっと言葉に覇気が出てきました。  
 南さんの言葉で、僕の立場を考える気など毛頭ないというのがよく分かります。  
 南さんの歪んだ愛情が、強引に僕の心を蝕む。  
「南さん、そろそろいいのかな?」  
 また、蚊帳の外にあった田辺さんが、おずおずと後ろからひょっこり出てきました。  
 南さんは僕の顔から手を離して、黙ってコクリと頷きました。  
 そして、スッとその場から離れ、それと交代するかのように今度は田辺さんが僕の眼前に来ました。  
「じゃあ、桜くん、しよ」  
「田辺さん……君まで何を言ってるの……?」  
「こんな状況になってまで、まだ分からない?」  
「違うよ……! 田辺さん、しようだなんて……本気で言ってるの?」  
 田辺さんの手はいつの間にか、僕の股間に触れていました。  
 彼女は悪戯っぽい笑みを僕に見せつけ、楽しそうに。  
「そう言える男の子はレアだと思う。だから、余計にしたくなるの」  
「そんな馬鹿馬鹿しい……あ、く……」  
 僕の言葉を遮るかのように、田辺さんはマッサージをするかのように僕の股間を撫でています。  
 僕が抵抗できる源は、ただひたすらに静希ちゃんに対する謝罪と罪悪感だけです。  
 田辺さんは、僕に跨るように体を乗り出して、すっと僕の首に腕を回しました。  
 田辺さんの顔が迫り、彼女の唇が僕の唇に重なろうとしています。  
「ダメ!」  
 キスされる、と思った瞬間、意外なことに南さんが声を張り上げて来ました。  
 田辺さん自身も、驚いたのでしょうか。  
 不思議そうに間の抜けた顔をして、後ろの南さんに振り向きました。  
 
「な、何、南さん?」  
「キスはダメ……」  
「え、でも、やらせてくれるんじゃなかったの?」  
「それでも、キスだけはダメ」  
 南さんはポーカーフェイスのままです。  
 田辺さんは困ったように顔をしかめて、少しの間を置いて言います。  
「でもさ、これ、しないと私もちょっとテンション出ないんだけど」  
「…………」  
 田辺さんへの返答はせず、南さんはツカツカとこちらに寄ってきました。  
 そして、横から割り込むかのように、僕の顔を両手で持ち上げます。  
 じっと僕の目を見続け、どことなく南さんは頬が赤くなっていくような気がしました。  
「桜くん、キス……したことないのよね?」  
「え?」  
 その驚いた声は田辺さんでした。  
 田辺さんは僕の膝に圧し掛かったまま、再度驚いた顔を僕に向けました。  
 しかし、僕は南さんに顔を向けられ、素直に彼女に対して頷きました。  
「そりゃ……したことはないよ……」  
 キス、口付け、本当の意味でのキスは僕はまだしていません。  
 すると、フッと南さんが動き出しました。  
 気のせいか、南さんの瞳は潤み、頬は染まり、うっとりとした表情が見えました。  
「じゃあ、私が貰う……桜くん」  
「ん……」  
 僕は抵抗もせず、寧ろ、甘んじて南さんの口付けを受け入れました。  
 初めて交わす口付けは南さんに奪われ、僕自身も不思議と不満もありませんでした。  
 ただ、心のどこかで静希ちゃんに謝り続ける僕は存在していました。  
「ん……んん……」  
 唇が触れ合うだけのキスが、やがて深く熱く舐め回すものに変わっていく。  
 南さんは口を離したかと思うと、少し開いた状態で僕の唇を覆うかのようにまたキスをしました。  
 すると、彼女の舌が僕の閉ざされた口を抉じ開け、僕の舌を舐め回します。  
「くちゅ……んん……」  
「ん……ん……」  
 初めてのキスはレモンの味、なんて言う事もありますが、現実はそんなものを感じている余裕はありません。  
 ただ思うものは、何故か南さんとのキスは気持ちよく、そして、僕の心を初めて落ち着かせてくれました。  
 自然と僕も進入してくる南さんの舌に応えて、自身の舌を動かし始めました。  
「んん……!」  
 南さんがピクリと反応して、口内で喘ぎました。  
 僕は半ば夢中で舌を動かして、南さんが僕にするように僕も南さんの口内を蹂躙しました。  
 僕の頬を包み込む南さんの手に力がこもり、彼女も夢中で僕の舌を貪ります。  
 南さんの荒い吐息は僕が受け止め、また、僕の吐息も南さんに吸い込まれていきます。  
 唾液が口から漏れるのも構わず、僕と南さんは目の前の田辺さんのことも気にせず、長い長いキスを堪能しました。  
 そして、次に僕がまともな意識を戻したのは南さんが口を離したときでした。  
 南さんは田辺さんに向き直り、口元を押さえていました。  
「ごめんね、田辺さん」  
「いいよ。気は済んだの、南さん?」  
「今のところはね」  
 言い終わり、南さんは僕の頬を撫でると、そこにサッとキスをしました。  
「桜くん……また後で」  
 まるで何か名残惜しいかのように言い残し、南さんは僕と田辺さんから体を離しました。  
 僕は先程、スタンガンを浴びせられた恐怖も忘れ、少し夢心地の気分でした。  
 
 ですが、突如としてまた僕の首に誰かの腕が回されてきました。  
「ボケっとしすぎじゃないの、桜くん。それとも、私なんか眼中になかったり?」  
 そう目の前に迫るのは田辺さんの小柄な顔です。  
 僕もハッとして、普段通りの顔ですが、ほんのり赤くなっている田辺さんにドキっとしてしまいました。  
「あ、いや、そのね、田辺さん。僕だってこういう経験そう多い訳じゃ……」  
「いいよ、別に。どうせ、桜くんは十二歳にしか興味持たないから、私とかはどうでもいいんでしょ?」  
「もう! どうして、そこで十二歳が出てくるのさ! 大体、僕が十二歳に何をしたって言うんだよ!」  
「十二歳で止めてしまうんだっけ? 女の子全員」  
「しない! それに田辺さんみたいな子にこんな事されて、落ち着いていられるわけないじゃないか」  
「へえ、そうなんだ」  
 何だか、僕は何か墓穴を掘ったような気がします。  
 満更でもない田辺さんはまた子悪魔のような悪戯っぽい笑みを浮かべて、僕にキスを迫ります。  
 ですが、僕の体は椅子に拘束されて、全く身動きができません。  
「私は桜くんに興味あるけどね。変態ってのを除けば、だけどね」  
「え……」  
 妙な言葉を言い残されて、田辺さんの唇が僕の唇に触れ、一瞬思考が掻き消されます。  
 南さんとは違って、田辺さんはすぐに舌を僕の中に押し込んできます。  
 僕が遅れて反応し出すと、突然、田辺さんは口を離して、僕の目をじっと見つめます。  
「折角、するんだから……雰囲気出そうよ、ね……?」  
「う、うん……」  
 南さんのような無理矢理なやり方ではなく、ほぐしてくれるような小さな優しさに僕は新鮮さを感じました。  
 田辺さんは再び目を閉じると、僕に唇を委ねました。  
 小さな水音と舌が絡まる粘膜が、僕は勿論のこと、田辺さんの気分も高ぶらせているのでしょう。  
 キスをされながらも、何か股間の方にも刺激を感じます。  
 ほんの僅か、瞼を開け、下に視線を走らせると、そこには田辺さんの膝があったのです。  
 僕の体に乗りかかってきた田辺さんは、膝の先を僕の股間にグリグリと押し付けていたのです。  
「んちゅ……ん……桜くん、結構上手い?」  
「何でもいいけど、田辺さん……膝が」  
 唾液を少し垂らしながらも、田辺さんは、ん?と首を傾げます。  
 まるで、惚けているように田辺さんは、変にニヤつき、余計に膝をグリグリと押してきます。  
「あ……く……田辺さん、わざとやってる?」  
「あれ、桜くん、気持ちよくなかった?」  
「そ、それは気持ちいいけど……って、そうじゃなくて」  
 言い淀んだ所で、突如として、田辺さんが制服のネクタイをシュルっと外すと躊躇いもなくシャツのボタンを外して行きます。  
 あっという間にボタンが解かれたシャツの奥から薄水色の下着がひょっこりと現れました。  
 田辺さんは、僕の膝の上に乗りかかっているので、すぐ目の前で脱衣を見せ付けられ、まさに釘付けでした。  
「結構、自分で脱ぐのって恥ずかしいかも……」  
「あの、田辺さん……何を……?」  
「あのね。どうして、桜くんはそんな白けるようなこと言うの?」  
 さすがの田辺さんも結構、ご機嫌斜めの様子。  
 ですが、椅子に縛られた僕としては、そう易々とそういう雰囲気に溶け込めるわけでもなく。  
 とか思っていると田辺さんが口を尖らせてました。  
「桜くんはこれから私とエッチするんでしょ」  
「え、えーっと、その……うん、そうだね」  
 真正面から、エッチすると言われても僕はただ顔を真っ赤にすることしかできません。  
 田辺さんの顔も赤いのですが、僕に比べたらよっぽど落ち着いているようです。  
 田辺さんは少しムキになりながら、背中のホックを外して、ブラジャーを床に放り投げたのです。  
「ここまで来ておいて、何もしなかったらちょっと軽蔑するよ」  
 そう言って、まだあんまり膨らんでもない胸を僕の目の前に突き出してくる田辺さん。  
 多少ならず理不尽な気はしますけど、僕は何とか呼吸を落ち着かせて恐る恐る顔を近づけます。  
 
 いつもドクロちゃんの並外れた大きさの胸を見ているせいか、田辺さんの胸が小さく感じてしまいます。  
 それでも、同じクラスメイトの、よく思っても友達としか意識していなかった女の子とこんな事になるなんて。  
 妙な雰囲気に後押しされて、僕は田辺さんの胸に舌を這わせていきます。  
 膨らんでいる肌を中心にチロチロ舐め続け、田辺さんの表情が緩んでいます。  
「ん……ふぅ……」  
 小さく喘ぎ始め、田辺さん僕の肩を掴み、ほんのわずか、僕にもたれてきます。  
 僕は舐めているだけなのに、何故か興奮が沸き上がり、這わせる舌の勢いが自然と増しました。  
「うん……もちょっと、色つけてしてくれるといいかも……」  
「あ、うん……」  
 田辺さんの熱っぽい呟きに少し戸惑い、一瞬、どうやってすればいいのか迷います。  
 ですが、ここで田辺さんを満足させないと本気で軽蔑されそうで怖いです。  
 僕にだって男としてのプライドがあるのです。  
 僕は胸の膨らみを愛撫しつつ、その頂にある先端に吸い付くように口を押し付けました。  
「あ、う……ううん……」  
 吸い付き、口内で先端を舌で弄ぶと、田辺さんがまた小さく喘ぎました。  
 僕は今度は少し強めに吸い上げます。  
「んううっ……。ふあはぁぁ……」  
 田辺さんは僕の愛撫の強弱に合わせて、面白いように反応してくれます。  
「田辺さん、もしかして、胸が弱い……?」  
「ん、そうかも……でも、桜くんのやり方がすごいのかも」  
「違うよ、田辺さんが敏感なんだよ……」  
 言葉よりも僕は田辺さんの可愛らしいバストに執着することで頭が一杯です。  
 僕はすぐに反対の胸に吸い付き、すっかり硬く尖った先端を軽く噛み締めました。  
「あ……あく……ぅ……」  
 上半身を震わせ、田辺さんが僕に思い切り抱きついてきました。  
 田辺さんの胸で顔全体が圧迫されそうですが、僕は構わず出来る範囲で舐め回し、ピンク色の先端を愛撫します。  
 気のせいか、田辺さんの胸は吸い付くと、甘い香りがしました。  
 それはまるで、僕に催淫効果をもたらすかのようです。  
「あ、あ……桜くん……待って……ああくう……」  
 田辺さんが少し体をえび反りさせていますが、催淫に陥った僕は止めることができません。  
 淫らな音が響いているのにも関わらず、僕は田辺さんが喘げば喘ぐほど、愛撫を止めることはできません、。  
「お願い……ちょ、離して……」  
 田辺さんは抱きついてきたのとは逆に、今度は僕の顔を引き剥がそうとします。  
 僕は彼女に肩を押さえられ、強制的に口を離されました。  
 田辺さんはすっかり頬を赤く染め、上を仰ぎ、荒れた呼吸を元に戻すように停止しています。  
「はぁ、はぁ、はぁ……やりすぎ、桜くん」  
 言葉とは裏腹に恍惚の笑みの田辺さんは、半ば呆然としている僕にまたキスをしました。  
 もはや、キスさえも愛撫の一部と化して、田辺さんと僕は夢中で相手の唇を貪ります。  
「んん……ちゅくちゅ……はぁ」  
「ん……んん……!?」  
 舌の暖かさと感触を味わっていると、不意打ちのように下半身に別の感触を感じたのです。  
 案の定、田辺さんの手が僕の股間をまさぐり、ズボンのベルトを外そうとしていました。  
 口を離すと同時に、田辺さんは僕の膝から降りてズボンをずり下ろし、またニヤリと不適な笑みを僕に向けます。  
「桜くんの……見てもいい?」  
「あ……それは」  
 この状況で見せることはつまり、本番をするのも一緒。  
 僕は快楽の巣にはまる寸前だったので、まだ静希ちゃんの存在が頭に残っていました。  
 頭の中の彼女の存在が、僕にとっての最後の砦なのです。  
 
「いいわ」  
 突然、僕の後ろから冷静な声と共に、スッと細い両腕が首に回されました。  
 いつの間にか回り込んでいた南さんは僕を後ろから抱きしめると、首筋を愛撫しました。  
「あぐっ……み、南さん……!」  
「桜くんからも言わなきゃダメよ。見てくださいって」  
「そ、そんな……!」  
「私の言うこと……聞けないの?」  
 耳元で囁かれ、僕の神経にゾッと寒いものが駆け巡りました。  
 南さんの言うことを聞かないと、静希ちゃんが危ない。  
 葛藤すら起きず、まさに踊らされた人形のように僕は南さんに従うのでした。  
「見て……下さい……」  
 僕は出せる声を振り絞って、何とか声に出来ましたが田辺さんの顔を見ることはできません。  
 蚊の鳴くような声が精一杯の僕は、顔を背けることしかできませんでした。  
 田辺さんは僕の下着を剥ぎ、既にそそり立った僕のアレを、まじまじと観察しています。  
「へえ、ふーん。桜くんのって……まあ、下の上くらい?」  
「桜くんのはピクピクしてるから面白いわ……ねえ?」  
「ひぃあぁ……」  
 田辺さんは何気なく毒のある一言を、南さんに楽しむように眺め、僕の肌を刺激します。  
 まるで、僕は二人に奏でられる楽器になったかのような錯覚を覚えました。  
「でも、やっぱり、実物見るとムラムラするかも……」  
 そう言う田辺さんの呼吸は、心なしか小さく荒く、まるで興奮している犬ようです。  
 そして、彼女はシャツのポケットから何やら四角い小さなビニール袋のような物を取り出しました。  
 袋を破り、中から何かを取り出し、それがコンドームだと分かったのは実際に着けられてからでした。  
 田辺さんはスカートと下のショーツを脱ぎ、再び、僕の膝の上に圧し掛かりました。  
 彼女の露になったソコが、今、僕の目の前にまで来ているのです。  
「なんか、ちょっとドキドキしてきた……」  
 傍から聞けば照れたような台詞にも聞こえるのですが、淫らな微笑のまま、田辺さんは僕のアレを割れ目に押し当てています。  
 僕も田辺さんに釣られたのか、自然と息が荒くなっていることが分かりました。  
 この空間だけがもはや学校の中とも感じさせないくらい隔離されているようです。  
「た、田辺さん……」  
「桜くん……エッチしよ……」  
 少女の甘い響きと同時に、僕は呻き声を上げました。  
 田辺さんは躊躇う様子もなく、寧ろ、嬉々として僕のアレを自分の中に入れ込んだのです。  
 入っているのは自分の一部のはずなのに、急激に体全体が熱くなる。  
「はぁ……くぅぅ……田辺さん……」  
「うんんん……ふぅぅぅ……結構、悪くないかも……」  
 うっとりとした眼差しを僕に向け、一番根本まで咥え込んだ田辺さん。  
 彼女の秘所から雫のように垂れ落ちてくる液体が妙に目立っていました。  
「最初は動いて上げるから……後は桜くんでお願い……」  
「う、うん……」  
 僕は虚ろな顔で頷き、まだかまだかと田辺さんの動きを期待してしまいます。  
 主導権を握った田辺さんは僕の腰辺りに、手を置き、ゆっくりと体を上下し始める。  
「ん、ああ……」  
 ため息にも似た吐息を漏らし、徐々に加速をかけていく田辺さんは強烈的でした。  
 目の前のシャツだけしか着ていない少女は淫らに体と胸を揺らし、僕の気分は上の空。  
「あく……あ、あ、あ……はぁぁぁ……」  
 二人の擦れる部分からいつしか響くおかしな水音が、僕と田辺さんの間で木霊しています。  
 そして、ふと僕と彼女の視線が合った時、田辺さんは引かれるように僕の唇に唇を重ねました。  
「んん……ちゅぅぅぅ……ちゅぷぅぅ……」  
 当然のように絡みつく舌と舌。  
 まるで、キスとは呼べないような唇同士が重なっているだけの貪り合い。  
 乱暴で、熾烈で、途方もない行為に僕と田辺さんは堕ちていきます。  
 
 僕も気付けば、自分の腰を動かし、田辺さんの体を貫かんとするばかりです。  
「ああああっ……いい……そう、そうやって続けて……!」  
「田辺さん……! 気持ちよすぎる……!」  
 僕の中で熱いものが駆け巡り、それはアレの所に集まっていき、少しずつ限界を告げています。  
「あくぅっ! ああ、私も……私もぉぉぉ……桜……くぅん……」  
 夢現な瞳に、切ない喘ぎ声、綺麗に汗ばんだ白い肌。  
 今の田辺さんを見ているだけでも、僕はどうしようもなく興奮してしまいます。  
 時間が経てば経つほど、僕と田辺さんの動きは激しくなり、お互いの限界もすぐに目の前です。  
「あああっ……田辺さん、僕はもう……!」  
「もうちょっと……私もイクから……もうちょっと我慢して……!」  
 幸い、コンドームをつけているので、このまま限界に達しても問題はないはずです。  
 田辺さんには、ああ言われても僕はもう我慢の効きようがありません。  
 彼女の言葉を無視して、達してしまおうかと思った時、アレ自身に異変なる感覚を感じました。  
「先にイっちゃダメよ」  
 冷静な声。そして、アレ自身を何か締められた感覚。  
 行為に夢中で何も気付かなかったのか、南さんが僕と田辺さんの結合部分に手を伸ばしていました。  
「み、南……さん……」  
 呆然としている僕に、屈んでいる彼女は器用に僕のアレに何かを巻き付けていました。  
 それは、小さな小さなベルト。  
 そのベルトをアレに巻かれ、締め付けられ、僕はの中から射精感がわずかですが抑えられました。  
 しかし、それと同時に来るのはやはり圧迫感。  
「南さん……き、きつい……!」  
「早く田辺さんをイかせてあげて?」  
「あああっ! 桜くん、もっとしてよー……!」  
 まるで、僕と南さんのやり取りなんか眼中にないかのように田辺さんは一心不乱に乱れます。  
 しかし、アレを圧迫された僕は射精感はなくなっても、限界に達せない苦しさで、動こうという意志が削がれます。  
「田辺さんをイかせたら、ちゃんと外してあげるわ……ほら」  
 耳元で囁き、僕の頬を持って深いキスを浴びせる南さん。  
 南さんのキスがエンジンになったのか、僕は田辺さんを貫く腰の動きを再開させました。  
 目の前では田辺さんの体が揺れ、真横では舌をねじ込み、絶え間ないキスをする南さん。  
「ひぃあやぁぁっ! もう、来る……来ちゃう……!」  
「んん……ちゅぴちゃ……」  
 田辺さんが限界に達する一瞬に、僕は勢いを増して彼女を突き上げます。  
 キスをされながらも、僕は横目で田辺さんの体を見つつ、必死で彼女がイクのを待ちます。  
「ああっ! あくぅぅぅぅっ!」  
 刹那、田辺さんが声を張り上げ、体をしならせたかと思うと、グッタリと動きを止めました。  
 ようやく限界に達したのでしょうか、荒く息をしたままです。  
 田辺さんが達したことに南さんも気付き、唇を舐めつつ、口を離しました。  
 僕からフッと離れる南さんに不安を覚え、堪らず声を上げます。  
「み、南さん……これ、外してよ」  
「まだダメ」  
 却下の勢いのように即答され、南さんはつかつか、田辺さんの背後に回りこみます。  
 そして、続きを語るように僕の瞳を見据えました。  
「後、二回イかせたら、確実に外してあげるわ」  
 その言葉に否応無く反応したのは僕の煮えたぎる欲望でした。  
 射精したい淫欲と、圧迫された苦しさで言葉を出すのもままらない僕は行動で南さんに返事をしました。  
 必死のごとく突き立てられる僕の腰は、先程以上の勢いがありました。  
 
「!?」  
 そして、その動きに大袈裟な程に反応するのは僕とまだ繋がっている田辺さんでした。  
 田辺さんは驚いたように目を見開き、抵抗するかのように僕の体を押しのけようとしました。  
 しかし、意外にも、それは後ろに控えていた南さんの手によって封じられました。  
「ひゃあうっ! ダ、ダメ! イッたばかりなのに……あふぅあぁぁっ!」  
「大丈夫……すぐによくなるから……ね?」  
 南さんは依然とポーカーフェイスのままで、なんと田辺さんにディープキスをしたのです。  
 女の子同士で舌を絡め、唇を重ねる姿を見るのは初めてでした。  
 そんな異様な光景が僕の欲望に更なる火を点け、一層動きを激しくさせました。  
「あぐぅぅ! んんああぅぅぅぅっ! 激しい……こんなの……!」  
「いいわ、桜くん……もっと激しくして上げて……」  
 南さんに従い、僕は無言のまま、田辺さんのしなった体を狂うように攻め立てます。  
 田辺さんはもはや、僕の為すがままにガクガクと揺れ、その口元からは涎が垂れ放題です。  
「ダメ、ダメぇぇぇっ! すぐイク、来る……!」  
「イッてよ、田辺さん! 早くイって!」  
「あん、あぁぁあううん! こんな、ダメなのに……桜くんが……ひやぁぁぁんん!」  
 そして、田辺さんは二度目の絶頂に達したのです。  
 まるで、覚醒剤を大量に投与されたように、痙攣にも似た震えを起こし、彼女はまたグッタリとしました。  
 しかし、まだ終わりではないのです。  
「あと一回ね」  
 こんな狂った状況にも関わらず、南さんの声だけはハッキリ聞こえていました。  
 僕の苦しみを解放するために、ただ自分の欲望を満たすためだけに、目の前の女の子を犯します。  
「ひぃぎぃぃぃっ! あふ、あふぅぅぅ……あはぁぁっ!」  
 たった一瞬の間を置いただけで、また秘所を攻められている田辺さんは堕ちていきます。  
 彼女の瞳には既に色はありません。敢えて言うなら、快楽の色だけが残っていました。  
 何度も達しているが故に壊れきった少女と、絶頂に達したいが故に狂っている僕。  
「おねが……い……休ま……せ……あああうううんんん!」  
 田辺さんは僕が突き上げる一回一回に従順に反応し、小さく震えては大きく跳ねます。  
 僕は田辺さんのことを気遣う気もなく、ただ一心不乱に腰を突きたて、彼女の絶頂を誘います。  
「んああぁっ……あん、あん! ああああっ!」  
 まだか、まだなのか、と秒単位で僕の焦燥感が募り、それが田辺さんにぶつけられます。  
 田辺さんが、またガクガクと震え、そして。  
「あぎゅ……きゅぅぅ……さく……ら……」  
 三回目の絶頂を迎えた田辺さんは、大きな反応を見せずに、南さんに導かれ、床に倒れ伏せました。  
 僕の方は、ゼエゼエと息が荒いままで、南さんは倒れた田辺さんを眺め、満足そうに微笑んでいました。  
 そして、交代するかのように、今度は南さんが下半身に身につけているものを脱ぎ捨て、僕の膝元に乗りかかりました。  
「南さん……お願い、早くイかせて……!」  
「そう……」  
 曖昧な返事をしつつ、南さんは僕のアレを包んでいるコンドームを器用に剥がしました。  
 しかし、アレを締め付けているベルトはそのままで、ぎゅっと素の状態のアレを握るだけ。  
「そんなにイきたいなら……私の中でイけばいいわ」  
「ああ……早く……南さぁん……」  
 僕が覚束ない事を言っている間に、南さんは僕のアレを自分の割れ目へと入れていました。  
 ズブズブと飲み込んでいく様を見て、南さんは悦楽した表情をしていました。  
 そして、僕にチュッとキスをすると、耳元で囁かれました。  
「初めての味は私が教えてあげる……だから、一杯暴れて……」  
「あああ……南さん……」  
 南さんの声が合図になったかのように僕は腰を再三動かします。  
 
 腰を動かしたと同時に、コンドームをつけて挿入していた時とは違う感触が伝わり、僕は妙な錯覚を感じました。  
 素の状態で飲み込まれ、南さんの中はじっとりと湿り、その熱さが余計にアレを締め付けます。  
「あ、あんっ……そう、いい感じね……桜くん」  
「南さん、お願いだよ! もう……狂っちゃうよ!」  
「ふふふ……可愛い、桜くん……。もっと、狂えばいいのよ……」  
 南さんは僕の動きとは別に、リズミカルに自分の腰を使い始めました。  
 僕の途方も無い激しい動きと、変な具合にマッチして、僕の射精感は爆発寸前です。  
 いや、無理矢理に抑え込められているだけで、早く爆発させないと僕自身が危険です。  
「ん、んう……あ、ああん! 桜くん、激しいのね……」  
「南さん、南さん……! イきたいよ、出させて……!」  
「まだダメ……。私をイかせてくれないと外してあげない。頑張ってね……ふふ」  
 闇雲に腰を動かし続け、自分のアレの拘束具が外れないかと待つばかり。  
 南さんは面白そうに僕を眺め、喘いでは、僕にディープキスを何度もしてきます。  
 その度に、僕も彼女のキスに応えて、舌をねじ込んでは口全体を犯していきます。  
「んっはあぁぁ……ぷちゅ……ぴちゃ……」  
 僕は必要以上に南さんの舌を伝って、彼女の口内を舐め回しては必死に求めます。  
 南さんは、顔にかかった髪を除けると、腰の動きを早めました。  
「ねえ、桜くん……」  
 僕の下腹部に手を置いて、腰をかなりの速さで上下させながら南さんは淡々と言いました。  
 上の空の状態で、南さんの染まっている顔が目の当たりです。  
「私の中に……出したい?」  
「だ、出し……出したい……よぉ……」  
 もはや、何回分の射精を貯めているのか分からずに僕はおぼろげに答えるだけ。  
 南さんは、口元に笑みを浮かべて、更に問い詰めてきました。  
「水上さんよりも私の中に出したいのね」  
「えぇぇ……あぐぅ……それは……ああっ!」  
 とっくに崩れていたはずの静希ちゃんの顔が今になってようやく蘇りました。  
 しかし、それは本末転倒なのかもしれません。  
 これから答えることによって、僕は静希ちゃんのことを完全に裏切ってしまうかもしれません。  
「答えて。水上さんよりも、私の中に出したいって」  
「そ、そんな……できぃないぃぃ……」  
「じゃあ、このまま出さなければいいわ……」  
 セックスを盾に取った拷問だ。  
 しかし、これに頷いてしまっては僕はもう。  
「……したい……」  
「……なに?」  
 僕が中途半端に言った言葉に、南さんが反応しました。  
 既に、僕の中では何かが切れていました。  
 静希ちゃんに対する何もかもが、今、南さんの誘惑で亀裂が入っていたのです。  
「出したい……よぅ……南さんの中に、出したい……」  
「水上さんよりも?」  
「うんっ……静希ちゃんよりも……南さんの中にぃぃ……!」  
「水上さんよりも私がいいのね……?」  
「そうだよっ……南さんがいい! 静希ちゃんよりも……! だから、だからぁぁぁっ!」  
 自分の言葉に正否を問うこともせずに、僕はただ南さんの言葉に頷くだけ。  
 一瞬、南さんがこれ程までにない笑みを浮かべていたのが見えました。  
 それがどういう事を表していたのか、その時の僕は到底理解できませんでした。  
 
「じゃあ、出すといいわ。好きなだけ、たくさん出して……」  
 片手を伸ばし、南さんは僕のアレに巻かれていたベルトのホックを外しました。  
 ホックを外されたベルトは一人でに跳ねるように僕のアレから飛んでいきました。  
「あああああああっ! 出るぅぅぅぅっ!」  
 そして、自由の身になれた僕は溜まりに溜まったものを南さんの中に放出したのです。  
 絶叫と共に南さんの中に流れ込んでいく、僕の液は、ドクドクと音が聞こえるくらいでした。  
「んんんんんっ! ふあああっ!」  
 それと同時に南さんもビクビクと震え、僕の放つ液を全身で受け止めました。  
 僕は液を放出し続けますが、まだ終わりません。  
「あああっ……桜くんが……来てる……私が貰った……」  
「あぐぁぁぁ……止まらない……狂うぅぅぅ……」  
 今度は僕が覚醒剤を大量投与されたように、痙攣に似た震えを起こしました。  
 そして、南さんの割れ目からは収まりきれない液体が漏れてきます。  
「たくさん……飲み込んだわ……美味しい……」  
 南さんは満足気に呟き、うわ言を羅列する僕にそっと寄り添います。  
 僕はもう、自分の欲望を放出したことで満足し、天井を仰いでいるだけです。  
 まだ繋がったまま、南さんは僕の胸に顔を埋め、自分の温もりを僕に伝えてきます。  
 田辺さんは依然と気絶し、時間も既に夕方を過ぎようとしていました。  
「私の……桜くん……」  
 南さんが何かを呟いていますが、今の僕は反応はおろか、聞き取ることもままなりません。  
「これからずっと狂わせてあげる……」  
「……あ、ぐぅ……」  
「私しか見えないにしてあげるわ……余計なものは全て壊してあげる……」  
「み、な……み……さ……」  
 南さんは僕の肋骨のすぐ下くらいの場所に唇を寄せました。  
 そして、彼女のキスマークがそこに残ったのでした。  
「もう……逃がさない……ずっとずっと……」  
 再び、南さんが僕の胸にすっと顔を寄せます。  
 僕はもう、南さんに踊らされて堕ちていくしかないのでした。  
 静希ちゃんの元に帰れる、という保障もなく、目の前の女の子に全てを奪われようとするのを待つだけでした。  
 
 
 続きます  
 

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