南さんと変な関係を作ってしまって一週間くらいが経ちました。  
 あれから南さんは僕に何かをするような事もなく以前と全く同じように接してきます。  
 普段のポーカーフェイスも勿論、そのままでした。  
 ただ、困ったのは僕の幼馴染の水上静希ちゃんの方でした。  
 授業中、休み時間中を問わずに何か視線を感じるのです。  
 それは静希ちゃんの物でした。  
 どうも、チラチラと僕の方にこっそりと視線を送っているようなのです。  
 僕は何かあるのかなと思い、静希ちゃんに話しかけますが。  
「あ……その、ごめんなさい……」  
 何故か、静希ちゃんは怯えるような顔をして、そっぽを向いてしまうのです。  
 最初は単にショックを受けましたが、一度や二度じゃ怯みません。  
 しかし、この一週間ずっと、静希ちゃんの反応はこういうものなのです。  
 つまり、僕は静希ちゃんに避けられているのです。  
 同じクラスで親友の宮本からも「お前ら、どうしたんだ?」と言われるばかり。  
 こうも見るからに避けられるのが続くと、僕からも話しかけづらくなってしまいます。  
 とは言うものの、何とかして静希ちゃんに話を聞いて貰わないとまた疎遠になってしまいそうです。  
 僕は意を決して、大好きな幼馴染に何とかして話をできるように踏み出します。  
 その日の放課後、運がいいことにザクロちゃんが迎えに来てくれたので、ドクロちゃんを任せて僕は一人学校に残りました。  
 そして、その僕は放課後、静希ちゃんが所属する図書委員の活動が終わるのを待って一人、誰もいない教室で待っていました。  
 僕は椅子の背もたれに、もたれながら、静希ちゃんにどう切り出して話そうか考えます。  
 あれはダメ、これはダメ、それはいいかもしれない。  
 色々考えていると、ふと、南さんの顔が脳裏を過ぎりました。  
 その次には、一週間前の出来事……淫らな南さんの手つきが……。  
「!」  
 変な気分になりそうな所で、僕は目を見開き、首をブンブンと振ります。  
 静希ちゃんのことを考えていたのに、どうして、南さんの事を考えてしまうんだろうか。  
「あーもう、止め止め。どうせ、一時間近くあるんだし寝ちゃおう」  
 独り言を言い残して、僕は机に突っ伏しってすぐさま眠りの世界に旅立ちました。  
 
 ツンツン  
 
 どれくらいの時間が経過したのか、僕の頭に何か突付かれるような感触があります。  
 何も夢を見てなかった僕は、その感触に刺激されて目を開けます。  
 すると、そこには。  
「放課後に、なんでわざわざ寝ているの?」  
 長髪をゆるやかな風に靡かせ、ポーカーフェイスで佇んでいた南さんがいました。  
「うわ、南さん!」  
 僕は反射的に立ち上がり、一歩後ずさりました。  
 何故か、体が勝手に動いてしまうのです。  
「何、逃げてるの?」  
「え? いや、別に何でもないよ」  
 平然な顔のままで、南さんは特に何かをしてこようというつもりはないみたいです。  
 一週間前のことを思い出すと、僕は何か空虚感を感じてしまいました。  
 それにしても、改めてみると南さんは綺麗だと思いました。  
 長い髪は艶やかで光を反射して、夕陽の日差しが南さんの顔を照らし……。  
 ん? 夕陽?  
「って、南さん! 今、何時!?」  
「もう五時回ってるわよ」  
「何だって! しまった!」  
 僕としたことが一時間寝るつもりが余計に一時間寝過ごして二時間も経過していました。  
 既に図書委員の活動もとっくに終わって解散していることでしょう。  
 僕は机下に置いてある自分のカバンを手に取ると、南さんにシュタっと手を上げます。  
「ごめん、南さん! 僕、行くからじゃあね!」  
 一目散に駆け出し、僕の姿はあっという間に教室から消えました。  
「…………」  
 南さんはポーカーフェイスで桜くんの消えた入り口を見つめ、風に揺らされるように歩き出しました。  
 
 およそ二十分前。  
 図書委員の委員会活動はとっくに終了したのに静希ちゃんは一人図書室に残っていました。  
 別に居残り作業をしている訳でもなく、受付カウンターの椅子に座って、彼女にしては珍しくボーっとしていました。  
「…………」  
 静希ちゃんはまるで虚空を彷徨うような目で窓の外の夕焼け空を見ていました。  
 ここ最近、静希ちゃんは何か一人になりたいと思っていたのです。  
 それもこれも原因は一週間前。  
 一週間前の夜、南さんの家に、ある用事ついでに電話をかけた静希ちゃんは思わぬ事を耳にしてしまったのです。  
 それは桜くんの奇妙な声。  
 静希ちゃんは頭の回転がいい女の子です。  
 桜くんのその声が、どのような物か大概の想像がついてしまいます。  
 しかし、それを想像すると静希ちゃんの胸の中に、嫌な物が沸いてくるのです。  
 その想像を静希ちゃんは認めようとはせず、けど、頭から全く消えてもくれません。  
 結果、桜くんを見てしまうと、その想像が本当の事になってしまいそうで怖くて仕方ありませんでした。  
 それが桜くんを避ける行為と分かっていても、静希ちゃんは抑えられませんでした。  
(このままだと、また、桜くんと疎遠になっちゃうのかな……)  
 虚しい空気が、静希ちゃんの胸を通り過ぎていきます。  
 でも、あの想像の真偽を確かめる勇気も、静希ちゃんにはありませんでした。  
 知らない方がいいこともある、とはよく言います。  
 ですが、その時でした。  
 廊下の方から何やら駆ける音が聞こえてきたのです。  
 
 
 僕は、静希ちゃんが帰ってないことを祈って図書室に猛然と走っていました。  
 寝ていた教室から図書室までは、そんなに離れていないために走れば、ものの一、二分で着きます。  
 そこを曲がって、階段を上がって右に曲がったところに……。  
 僕は図書室のドアの前で足を止めると、少し乱れた息を整えました。  
 そして、深呼吸を何度かすると、静希ちゃんがいるかいないかでドキドキしつつ、引き戸のドアを開けました。  
「あ、静希ちゃん」  
 ドアを開けて、周りを見渡す必要もなく、静希ちゃんは受付カウンターの椅子に座っていたのです。  
 静希ちゃんは、僕が入ってくるのを見るとガタっと椅子が倒れるのにも立ち上がっていました。  
「あ、桜……くん……」  
 あまり表には出していませんが、僕にはハッキリ分かりました。  
 彼女はまるで怯える小動物でした。  
 こんなに怖がった幼馴染の姿を、僕は初めて見ました。  
 次の瞬間、静希ちゃんはカウンターを抜けるとすぐそばにあった図書準備室に通じるドアを開けると、すぐさまそこに入り込みました。  
「ま、待って、静希ちゃん!」  
 僕は慌てて、追いかけるように準備室のドアに走り出します。  
 静希ちゃんは素早くて、すぐさまドアを閉めると同時に鍵もかけてしまったのです。  
 僕は開かないドアのままで、それを乱暴に叩いていました。  
「静希ちゃん! どうして、ドアを閉めるの!?」  
 言った直後、僕は我に帰りました。  
 静希ちゃんは怖がっているのに、僕が冷静にならないでどうするんだ。  
 今、横着に事を進めても静希ちゃんは何も変わらないでしょう。  
 僕はまた深呼吸をして、落ち着きを取り戻した後で、できる限り優しく問いかけます。  
「静希ちゃん、乱暴してごめん。でも、お願いだからドアを開けてくれないかな?」  
 優しさに優しさを重ねて、僕は慎重に待ちます。  
 ですが、ドアの向こうから返事は返ってきませんでした。  
 僕は不安に駆り立てられますが、辛うじて抑えます。  
「お願いだよ、僕の話を聞いて欲しいんだ」  
 これ以上、大好きな人に避けられたくない一心でドアの前で待ちます。  
 そして、ガチャという音が確かに聞こえました。  
 僕は早速ドアを開けようとしましたが、踏み止まりました。  
「静希ちゃん、開けるよ」  
 そう一言断り、僕は静かにドアを開けました。  
 
 開けた先の狭い準備室では、すぐ前に静希ちゃんが立ち尽くしていました。  
 震えていないものの、僕の顔を見ようとはせず、俯いています。  
 僕はドアを閉め、静希ちゃんの目の前まで寄ります。  
 しかし、目の前まで来たのはいいものの、今度は僕が焦りだします。  
 何て言って切り出せばいいのか。  
 変なことを言って、静希ちゃんを下手に刺激させてしまったら本末転倒です。  
 でも、黙ったままなのはとても気まずい。  
「あ、あの静希ちゃん……。僕、何か気を悪くするような事してしまったのかな……」  
 静希ちゃんは俯いたまま、何かを言い返すような気配は見られませんでした。  
 僕の焦りは秒単位で上昇していきます。  
「その、僕が何かしてまったのなら……謝るよ、ごめん」  
 まだ何も聞いていないのに、先に、ごめんと言った僕は相当焦っているんだと自分でも分かります。  
 そこで、初めて静希ちゃんに動きが見られました。  
 静希ちゃんは、顔を俯かせたまま、首をふるふると横に振ったのです。  
 僕は、じゃあ、何かあったの?と問いかけると、静希ちゃんはそのままで、どうにか口を開きました。  
「桜くんは何もしてないの……。でも、気になることが……」  
「気になる事って何? 言ってみてくれない、かな?」  
「それは……」  
 静希ちゃんが口を濁します。  
 でも、静希ちゃんが言ってくれないと僕としてはお手上げです。  
 何とかして、静希ちゃんの口から気になる事というのを話して貰わないと。  
 でも、突然として、静希ちゃんが顔を上げてきます。  
 その静希ちゃんの顔を見た僕は一瞬、ドキッとしてしまいました。  
 今の彼女の顔は何と言うか、儚げな物を感じました。  
「じゃあ……聞くね」  
「う、うん……」  
 僕は何を言われてもいいようにしっかりと心の準備をします。  
 静希ちゃんは、ちらちらと目移りさせながら、僕に問いかけます。  
「その、今日から丁度一週間前の日って覚えてる、桜くん?」  
「え? うん、覚えてるよ……」  
 その日は忘れもしない。学校と南さんの家で、僕が南さんに襲われた日です。  
 そして、その時、偶然にも静希ちゃんが南さんの家に電話をかけた日。  
「その日、桜くんは南さんの家に遊びに行ったのよね?」  
「う、うん、そうだよ……」  
 僕は急に、聞かなきゃ良かったかも、と弱気な後悔をしてしまいます。  
 けど、そこはもう乗りかけた船で、引き返す事はできません。  
「桜くんは……南さんの家で、何をしていたの……?」  
 最も答えづらい質問が来ました。  
 目の前では静希ちゃんが何かを渇望するかのようにジッと僕の顔を覗き込んでいます。  
 その瞳は潤んでいるかのように綺麗でした。  
 僕は南さんと……。  
 焦ってみるものの、冷静な心は残っていました。  
 そうだ、何も馬鹿正直に答えることはないんだ、と。  
 僕は静希ちゃんに、心の中で謝り、こう言いました。  
「ほら、電話でも言ったじゃない。勉強で分からない所あってさ、もうすぐテストも近いからさ」  
「そう、なんだ」  
「うん、南さんに聞いてみたら、分かりやすい解説してくれてね。それで長引いちゃったんだ」  
「そっか」  
 静希ちゃんの顔から、すーっと怯えの色が消えていくような気がしました。  
 その証拠に、彼女は柔らかい笑顔をこっちに向けてくれました。  
「じゃあ」  
 笑顔のままの静希ちゃんが言います。  
 
 これならもう何を言われても平気のはずです。  
「南さんの家に行く前の、学校の三階の資料室でも勉強していたのね?」  
「!?」  
 平気のはずでした。  
 しかし、そんな高をくくった自信は一瞬にして灰になってしまったのです。  
 資料室でのことを静希ちゃんが知っている?  
 僕が呆然としていると、静希ちゃんの顔から再び笑顔が消えていきました。  
「私、桜くんが資料室にいるって知って……」  
「……あ、その……」  
 僕は何も言い出せないままです。  
 すると、突然、静希ちゃんは何かが吹っ切れたように悲しげな顔をしました。  
 それはまるで半ば自暴自棄の勢いで迷いを断ち切ったようなもの。  
「桜くん、教えて……。資料室で南さんと何をしていたの……?」  
「そ、それは……」  
「教えられないの……? 勉強していたんじゃなかったの……?」  
「…………」  
 僕はもう何も答えられません。  
 僕が沈黙すればするほど、静希ちゃんの顔はみるみる暗くなっていきます。  
 そして、彼女は絶望的で、沈んだ笑顔で顔を伏せました。  
「そうよね……教えられないような事……していたものね……」  
 その時、僕は終わったと思いました。  
 今まで、積み上げてきた静希ちゃんへの想いは、この瞬間、無下に砕け散ったのです。  
 静希ちゃんに、大好きな幼馴染の女の子に、他の女の子との痴態を見られていたのです。  
 静希ちゃんの言葉は、ただただ僕の心の奥に突き刺さるだけだったのです。  
「気になっている事……もう分かっちゃった……」  
 静希ちゃんは、何かを諦めたように言い捨て、動き出しました。  
 僕はまだ凍りついたように動く事ができません。  
 静希ちゃんが狭い準備室を歩いて、僕を通り越そうとする。  
「さようなら……桜くん……」  
 静希ちゃんの震えた声で言われた、その言葉はただの別れの言葉ではありません。  
 僕を通り越して、ドアに向かう静希ちゃん。  
 このまま、静希ちゃんが外に出てしまえば、もう二度と彼女は僕の手の届かない所に行ってしまうのではないでしょうか。  
 皮肉にも自分は悪くないような被害妄想が、初めて僕を動かしました。  
「ま、待って、静希ちゃん!」  
 気づけば、僕は準備室から出ていこうとする静希ちゃんの腕を掴んでいました。  
 ですが、もはや静希ちゃんは冷たくなっていたのです。  
「桜くん、離して……もう、これ以上……桜くんと一緒にいたくないの……」  
「そ、そんな……」  
 静希ちゃんは顔を、こちらに向けずに、ただ羅列するだけのように語りだします。  
「だって……私……」  
「え……?」  
「私は……桜くんの事が好きなのに……なのに……こんなの……耐えられない……」  
 告白。静希ちゃんの想いが初めて分かった瞬間でした。  
 ですが、憧れの静希ちゃんの告白なのに何故か、何も嬉しくもありませんでした。  
 あるのは、彼女を深く深く傷つけてしまった罪悪感でした。  
「お願いだから離して……もうダメなの……」  
 静希ちゃんが強引に僕の腕を振り解こうとします。  
 僕は不意を突かれ、彼女の腕を逃がしてしまいました。  
「やっぱり、知らない方が良かった……」  
 静希ちゃんは冷たく悲しい調子で言い放つと、ドアに手をかけます。  
 このままじゃ、このままじゃ!  
「静希ちゃん!」  
 その時、この準備室の中だけ時間が止まったような錯覚がしました。  
 僕は静希ちゃんに後ろから抱きしめました。  
 異例のないことです。  
 人間、窮地に立たされれば何でも出来てしまうのかもしれません。  
 静希ちゃんも動きを止めて、二人とも沈黙に覆われてしまいました。  
 僕は今、目の前の事以外を全部捨てました。  
 
「静希ちゃん、行かないで……!」  
「やめて……そんな事言わないで……」  
「嫌だよ……行かないで……」  
 静希ちゃんはもう涙声です。  
 もしかしたら、もう既に泣いていたのかもしれません。  
 今にして、ようやく、静希ちゃんがあんまり顔を見せなかったのが理解できました。  
 静希ちゃんは、大して抵抗する気配もありませんでした。  
 それ所か、時間が経つにつれ、静希ちゃんは体を委ねるように僕に、もたれかかってきました。  
 準備室の壁にかかっている掛け時計が、チッチと秒針を進める音だけ響きます。  
「ねえ、桜くん……」  
「なに、静希ちゃん……?」  
 後ろから抱きしめられたまま、静希ちゃんは甘えた声で言います。  
「私にも……して欲しい……」  
 僕は無言で頷きました。  
「そうしたら……少しは悲しくなくなると思うから……」  
「うん……」  
 もしかしたら、静希ちゃんも僕と同じように理性が消えているのかもしれません。  
 いつもの彼女ならこんな事、絶対言いません。  
 でも、静希ちゃんだって、か弱い女の子の一人なのです。  
 僕は手馴れている訳ではありませんが、彼女の希望に応えます。  
 南さんにされた事を思い出しつつ、僕は後ろから静希ちゃんの首筋に舌を這わせました。  
「ん……」  
 静希ちゃんが小さく甘い吐息をもらしました。  
 一瞬、静希ちゃんの体がビクッと震えました。  
 僕は彼女がバランスを崩さないよう、しっかりと抱き止め、首筋を舐め回します。  
「ああ……ふあ……」  
 静希ちゃんは頬を赤く染め、僕の愛撫に感じてくれているようです。  
 その何かをそそられるような声に刺激され、僕は残りわずかの理性が更に消えていこうとしていました。  
「あっ……ああん……」  
 静希ちゃんは喘ぐ声をもらしながらも、僕の方に顔を向けてきました。  
「桜くん、何だかくすぐったい……」  
 そう言う静希ちゃんの顔は涙ぐみながらも笑っていました。  
 今日見た中では、一番の顔だと思いました。  
「ごめん、僕……その、下手くそで……」  
「ううん……気持ちいいの……続けて」  
 静希ちゃんの笑顔で、僕は何か救われたような感じがしました。  
 例え、それが自己満足であっても、今はそれで良かったと思います。  
 静希ちゃんの首に僕の唾液が広がっていこうとした時、静希ちゃんの手が僕の手を取りました。  
 静希ちゃんは、僕の腕を自分の胸に導いたのです。  
「桜くん……触って……」  
 静希ちゃんの言葉に悩殺というのがどういうものかを理解させられます。  
 制服越しとはいえ、静希ちゃんの胸は柔らかく、確かな感触がありました。  
 僕は両手で彼女の胸をもみ始めました。  
 最小限の力だけでゆっくりと、痛くしないように手を動かします。  
「ううん……はぁぁぁ……」  
 静希ちゃんの声に段々と色がかかってきます。  
 僕は何かコツを掴んだように、回すように静希ちゃんの胸を愛撫していきます。  
 静希ちゃんも体を少しくねらせ、感じているようです。  
 そして、留守になっていた首筋への愛撫も同時に再開しました。  
「あああ……! さ、桜くん……」  
 静希ちゃんはゾクゾクしているかのように体を震わせています。  
 呼吸も熱くなり始め、気分もすっかり陶酔しているのでしょう。  
 
「もっと……触って……気持ちいいの……」  
 静希ちゃんが言葉を発するたびに僕は刺激され、徐々に愛撫のペースが上がっていきます。  
 首筋を舐めている舌は、静希ちゃんの小さな耳に上り、ペロペロと舐めていきます。  
 胸を弄っている手も少しだけ力がこもり、激しくなります。  
「あんっ……桜くん……何だか変な気分……」  
「うん……」  
 既に動揺も興奮も隠せない僕は、ただ静希ちゃんの熱い声に頷くことしかできません。  
 しかし、何よりも本能と欲望が前に出てしまい、勢いは留まる事を知らず加速していくだけでした。  
 次第に僕の静希ちゃんへの愛撫は多少、乱暴じみた勢いにまで昇ってきました。  
「ああっ! んあああ……」  
 静希ちゃんが一瞬、鋭く声を上げます。  
 僕は構わず、乱心したかのように静希ちゃんの声を聞きたいが為に愛撫し続けます。  
「ああうっ……あ、ああ、あああ……」  
 もっと静希ちゃんに気持ちよくなって欲しい。  
 僕はそんな思いに駆り立てられ、片方の手を彼女の下腹部に伸ばします。  
「桜くん……」  
 静希ちゃんが潤んだ瞳で僕の顔を覗き込みます。  
 そんな視線を向けられたら、止められる物も止められません。  
 僕の伸ばした手は静希ちゃんのスカートの中に侵入し、下着を触れる所まで来ました。  
 僕は下着の上から、静希ちゃんのソコを捏ね繰り回します。  
 新たな所を触られたせいか、静希ちゃんはまたビクッと震えました。  
「はぁぁぁぁ……んう!」  
 静希ちゃんはまるで僕の腕から逃れるように体をくねらせます。  
 けど、今更僕は逃がしたりしません。  
 僕は夢中で、静希ちゃんの体の三箇所を満遍なく攻め立てます。  
 手で触れた静希ちゃんのソコは気持ち熱くなっていたような気がします。  
 僕はそんな感触じゃ、満足できずに下着の中に手を入れ込みます。  
「あ、あ、あ……ああくうっ」  
 静希ちゃんの息は途方にもなく荒れています。  
 直接触れたソコは熱く湿っていて、まるで湧き出る蜜の泉のようです。  
 自分の手に何かが絡みつく感触を楽しみながら、僕は静希ちゃんのソコを擦っていきます。  
 ふと、触っている手の一本の指に何か、コツンとあたるものがありました。  
「!」  
 静希ちゃんが一層ビクッとしました。  
 僕はコツンとあたったものが何か知りたくて、その部分を撫で回してみます。  
「ああああっ! そこ……だめぇぇ……」  
 静希ちゃんの声が一段と大きくなっています。  
「ああっ! 桜くん、そこは……はああっ」  
「静希ちゃん……綺麗……」  
「嬉しい……あ、あああっ」  
 声も体も、僕と静希ちゃんの何もかもが熱くなる雰囲気。  
 今ここで誰かが来たとしても、恐らく僕は、この行為を止める事はできないと思います。  
「桜くん、好きっ……好き……!」  
 もはや、麻薬中毒を誘うような静希ちゃんの声だけが僕を刺激し続けます。  
「あああっ……あああんうううううっ」  
 瞬間、静希ちゃんは体をえび反りさせ、くたっと目を閉じて、前屈みに倒れてしまいます。  
 僕は一瞬、興奮から引き出され、静希ちゃんの体を慌てて支えます。  
 そして、そのまま僕は静希ちゃんの体と一緒にゆっくり床に座りました。  
 僕の腕の中で静希ちゃんは目を閉じたまま、ハァハァと呼吸を繰り返していました。  
 額には多少、汗を掻いていましたが、苦しい顔はしていません。  
「静希ちゃん、大丈夫……?」  
 しばらくして、僕が呼びかけると静希ちゃんは胸を上下させたまま目を開きました。  
 静希ちゃんは表情を綻ばせて、僕に顔を向き上げます。  
 
「うん、大丈夫……ありがとう、桜くん……」  
「ううん……」  
「ねえ……もう一つお願いしてもいい?」  
 その言葉と同時に、また静希ちゃんは僕に甘えるようにもたれてきます。  
 でも、僕はその彼女の温もりを感じられる事が今は何より嬉しかったのです。  
「何……?」  
「ぎゅっとして欲しいの……」  
「うん……」  
 僕は少しだけ力を込めて、目の前の華奢な女の子を抱きしめました。  
 静希ちゃんは抱きしめた僕の腕に自分の手を重ね、わずかに微笑みました。  
 と、その時でした。  
 最終下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いたのです。  
 ふと、静希ちゃんの顔がハッと我に返ったように真面目な顔に戻りました。  
「大変、もうこんな時間。今日は用事を頼まれてたのに……忘れてた」  
「じゃあ、静希ちゃん。早く帰らないと」  
「う、うん」  
 僕は腕を解き、静希ちゃんはささっと立ち上がりました。  
 僕も遅れて立ち上がり、彼女に言います。  
「ここの鍵、僕が閉めておくから静希ちゃんは先に行って」  
「あ、うん」  
 準備室から出ようとする静希ちゃんでしたが、最後にこちらに振り向きました。  
 僕は何?と顔を傾げていると静希ちゃんは嬉しそうな口調で。  
「桜くん、好き……やっぱり嫌いになれない……」  
「あ……」  
「またね……」  
 そう言って、恥ずかしそうに静希ちゃんは準備室から出ていき、カバンを持って廊下に躍り出たのでした。  
 僕は改めて、静希ちゃんから好きと言われてボッと顔が赤くなっていきます。  
 告白されたんだ、静希ちゃんから……。  
 僕は自然と顔が緩んでしまい、あははと軽く笑いながら、準備室を出ました。  
 自分のカバンを探し当て、準備室の鍵をかけて図書室を出ます。  
「嬉しそうな顔、してるのね」  
「え?」  
 聞き覚えのあるハスキーボイスに僕は敏感に反応してしまいます。  
 さっきの嬉しさの気持ちはどこに行ったのか、急にドクッと心臓が脈打ちました。  
 声の主は少し奥にある本棚の後ろから出てきたのです。  
「み、南さん……」  
 そう、南さんがそこに立っていたのです。  
 もはや、夕陽も沈みかける直前になり、静まり帰った図書室で南さんは僕を見据えていました。  
 南さんはいつものポーカーフェイスをしていました。見るからに冷静です。  
 でも、何故か僕はそれがとても怖く感じてしまったのです。  
 
 
 続けますか?  
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