「あはっ、またピクピクしだしたよ……。桜くん、すごい元気……」  
 かたや清楚な純白ブラウスの中から、うら若い乙女が秘めるべき箇所を露出させて、  
「桜さんのモノを、わたくしたちの胸で圧迫すればよろしいのですね……」  
 かたや決まりの正しそうな白軍服から、だらしなく双丘をこぼれさせて、  
 ぽふっ……  
「うわっ……、うわああああぁぁ――ッッ!? 事象の地平面を超えた、新たな世界がここにっ  
!?」  
 スッと身体をかがめ、左右から僕のジュニアを挟み込みました。二人は僕のモノを包み込む  
と、「どう?」といった目で僕を見つめてきます。  
「そ、そんな目で僕をみつめないでっ! 男なら、答えるべきセリフは一つだよッ!!」  
「それってぇ……」  
 ドクロちゃんは、男という名の獲物を前にした女のように、甘い口調でそう囁きました。そして、  
不意に両胸を支えるように添えていた手を動かし、双丘をゆっくりとこね始めるのです。  
「とっても気持ちいいってこと……なんだよね?」  
「あッ……!? そんな風にしたら、僕のモノまでっ……ぁくっ!」  
 不条理な制服姿をした天使が、自身の成長良好な胸をやわやわと揉みだすと、それに優し  
く包まれているジュニアも、当然のようにギュウッと圧力を受けます。  
「桜さん、とても気持ちがよさそうです……。わたくしも、すぐにいたしますね……」  
「いやいやっ! どうぞお構いなく……って、ああッ……!」  
 もにゅもにゅ……  
 僕が刺激を受ける様子を見ていたザクロちゃんは、ドクロちゃんと一緒になって胸を揉み始  
めます。自らの胸を揉む二人の天使を前にしたことで、僕のジュニアは視覚的悦楽にからさ  
らに膨張を強め、ぽにゅぽにゅという嬉しい圧迫感で快楽を得ていきました。  
「あっ……う……、んぁぁ……ふぅぅんッ……。ボク、やっぱり胸は感じちゃ……あぁぁん……」  
「わたくしも……んッ! 少し……気持ちが良くなってきた……はぁ……ん、みたいです」  
 天使の姉妹は、たぷたぷのおっぱいを持ち上げるようにしては円を描くようにこね回し、ぷる  
んと揺れたかと思えば変幻自在に形を変えさせて、僕の目を楽しませてくれます。  
 
「はあん……。おねえさま……、もっと滑りをよくした方がよろしいかと」  
「ん……ふ……ぁっ! うん……、そうだね」  
「二人ともなにを……、ッッ!?」  
 突如、純粋な僕が、思わず絶句してしまうようなシーンが展開されていきます。二人が火照っ  
て赤らんだ顔を近付け合うと、口の中から唇を出してちゅぷちゅぷと激しいキスをし始めたでは  
ありませんか。  
「はむ……うっ! おねえさまッ……、あっ、ふあぁっ……! もっと……、もっと優しくッ……」  
「ふむぅっ、ぴちゃぴちゃ……。ごめん、ザクロちゃん。ボク、なんだか切なくてッ……!」  
 自分でその案を提起したザクロちゃんですが、加減を知らないドクロちゃんに強いキスを求め  
られて、少々困惑気味の様子です。普段は穏和なザクロちゃんの表情も、今はいやいやをす  
るような戸惑いの様相でした。はぁはぁと熱そうな息を付きながら、姉妹一緒に本来の目的であ  
ろう唾液を垂らしてきます。  
 ぽた……ぽた……と、蝋のように落ちてくる透明な口液。胸とジュニアの間でねちゃねちゃと  
絡んでいき、潤滑油の代わりを担っていきます。  
 にちゃ……、ぎゅ、ぎゅ……  
「くあッ……! おっぱいが柔らかすぎて、僕のモノが呑み込まれちゃいそうだよっ……。ふぁう  
ッ!」  
 好きなように形を変える二つの乳肉と、それを操る可愛い姉妹のレズプレイ。男の、特に思春  
期の男子にとっては夢のような光景を目の前にして、僕もさすがに動揺を抑えきれません。  
「あッ……はぁ……。桜さん、もっと強くした方がよろしいですか?」  
「ぅくッ! こっ、これ以上、強くされたらぁっ!」  
 自身で胸をこねる快感に眉を寄せながら、ザクロちゃんが僕に色付いた声でそう尋ねてきま  
した。魅惑の乳肉たちに、もっと激しくされることを思い浮かべるだけで、股間の屹立がビクビク  
と反応してしまいます。  
 
「あ……はッ♪ ザクロちゃん……、桜くんは、もっと強くしてって言ってるみたいだよ……」  
「なっ!? そんなことを言った覚えは……って、股間の辺りがボディランゲージで勝手に伝  
えてしまっているッ!? すいませんすいませんッ! 僕の至らぬ息子が、こんなコミュニケ  
ーション能力を発揮してしまって!!」  
 ずっ……、ずりゅ……  
 僕が誰になにを謝っているのかはわかりませんが、ともかく、包み込まれるようにして圧迫  
されていた僕のモノは、本格的に上下にも動き始めた4つのおっぱいに擦られていきます。  
柔らかいそれにジュニアが覆われると、そのまま吸い込まれてしまいそうな感覚まで湧き上  
がってくるのでした。  
「ん……ああぁ……、ザクロちゃんのおっぱいにボクの乳首が擦れて……、きゃうぅ……、感  
じちゃうよう……」  
「はぅっ、おねえさまッ……。わたくしもッ……!」  
 向かい合わせに僕のモノを擦り上げていると、先端の乳首がお互いの胸で摩擦されるため、  
時折快感でピクンピクンと身体を震わせている様子が見て取れました。しかし、二人はそれで  
動きを弱めるどころか、奉仕をしながら自身も得られる悦びに陶酔していくかのごとく、胸全体  
の動きをさらに活発化させていくのです。  
「二人とも、激しいッ……。うくぅぅっ!」  
 射精を終えてからそれほど時間が経っていないはずの僕のモノも、新たに与えられた刺激  
により、第二波の先走りが溢れ出てきています。それは亀頭を伝い、幹を滑り落ちて、ドクロ  
ちゃん達の唾液とともに胸奉仕の動きを助けていきました。  
 
「んっ、ふぁぁっ……。ねえ……、桜くん……。よく考えたら、桜くんだけ気持ちよくなってるのっ  
てずるいよね?」  
 ドクロちゃんはすっかりと勃起したジュニアを澱んだ瞳で見つめ、おっぱいをギュウギュウと  
押し当ててきます。すでにギチギチに張り詰めている僕のモノは、さらなる興奮を体現するよう  
に、ビクビクと苦しげに震える他ありません。  
「ボク……、桜くんのモノにこうしてると、すごく切ないよぉ……」  
 ドクロちゃんは、大きな胸を支えていた手を不意に下ろしていき、制服のスカートの中に潜り  
込ませました。衣服の影になって直視はできませんが、ゴソゴソとした動きから察するに、股間  
の秘所をいじっていることは間違いないでしょう。  
「ドクロちゃんッ!?」  
「おねえさまッ……!?」  
 僕が驚くと同時に、ザクロちゃんも手を口元に当てて目を丸くしていました。完全に解放された  
肉棒がビクンビクンと脈動し、それまで受けていた奉仕の気持ちよさを表しています。  
「だって……、だってぇ……! ボクぅっ……!」  
 自分でも抑えが効かない様子で、ドクロちゃんは泣きそうになりながら、スカートに潜らせた手  
をゴソゴソと動かし続けていました。僕は一度絶頂を味わっていますが、ドクロちゃんは、愛撫  
を受けていた初めの頃からずっと行為を続けたままなのです。女の子を気持ちよくするために  
屹立した僕のモノを一生懸命奉仕しているうちに、本能的にも自分の方が堪らなくなってきてし  
まったのでしょう。  
「桜くん……」  
 秘所をいじっていたドクロちゃんの手が、再び姿を現します。肩の高さに合わせてわにわにと  
動いている小さい手は、その先に位置する僕を食しようという意思をハッキリと表していました。  
 
 もし、これから襲い掛かってこようとしているドクロちゃんと男と女の最終行為に進むとして、  
一体なんの不満が言えるのでしょう。性格には問題があるけれど、それは純粋な子供の心。  
背は小さいけれど、それを補うにあまりあるナイスなバディ。僕が「なにもムキになって拒み  
続けることもないじゃないか」と、少女の伸ばしてくる手を受け入れようと心に決めかけた、そ  
の時です。  
 バシィッ!!  
 突如、僕の中のなにかがその思考に警告を発し、ドクロちゃんの手を平手で払いのけたの  
です。  
「ダメだよッ! それだけはできないッ!!」  
「桜くん……、どうして?」  
 ドクロちゃんは、僕の急な態度の変化に動揺と怯えの色を隠せません。  
「だって、だって僕は……!!」  
 しかし、目の前の天使がどんなに弱々しい姿を見せても、それがどれだけ守ってあげたく  
なるような保護欲をそそるものでも、僕にはどうしても譲れない理由があります。これまで惰  
性で行為をしてしまいましたが、今まで僕が守り通してきたものをいざ失うことが現実的にな  
ってくると、僕の大好きな――あの娘の姿が思い浮かんできて、頭から離れないのです。  
 もし僕が、一瞬の迷いや一時の快楽に流されてしまい、そのことを静希ちゃんが知ってしま  
ったら、彼女はどんな顔をするのでしょう。いつも通り笑顔? それとも、忌み嫌うような悲し  
い表情? ここで僕は確信します。僕は、彼女のことを想っているかぎり、行為の最後までは  
決して許してはならないということを。  
「桜く「イヤだッ!! もしこれ以上のことをしたら、僕はドクロちゃんを絶対に許さないッッ!!」  
 僕は、天使が自分の名を呼ぶことすら遮り、必死に拒絶の意思を叫びます。やがてドクロち  
ゃんが口を開くこともなくなり、ザクロちゃんも罪悪感を噛み締めているような表情で黙ってし  
まうと、沈黙だけが部屋の中を支配します。  
 
 意外にも、その沈黙を破ったのは、落ち込んだ表情のドクロちゃんでした。  
「ザクロちゃん……、ボク、下着濡れちゃった。一緒にお風呂いこ?」  
「おねえさま……、いいのですか?」  
「うん、いいの。だって……」  
 小さな天使が部屋を出る際に、クルッとこちらを見やります。  
「男の子が泣く時はすごく大事な時だって、桜くんの本に書いてあったもん……」  
 そう言い終えると、ドクロちゃんはトテトテと走り去ってしまいました。ザクロちゃんも、僕に小  
さく一礼して、ドクロちゃんが向かったであろう風呂場の方へと歩いていきました。  
「泣いてる……? 僕が?」  
 ドクロちゃんに言われるまで、まったく気が付きませんでした。目の下に指を当てると、ポロ  
ポロと涙が溢れているのがわかります。  
「……ははっ。一体、なんの涙なんだか……」  
 純潔を守れた安堵か、あるいは寸前で放置された勃起の苦しみか、力がドッと抜けた僕は、  
布団に潜り込みます。気持ちを整理しようとしても、頭の中がグチャグチャでなにも考えられ  
ない僕は、そのまま文字通りに泣き寝入りするのでした。  
 そして翌朝――。ドクロちゃんは、家から消え失せていました。  
 
 ――昇りかけの太陽が放つ、心地よい朝の日差しを身に受けて、チュンチュンと、スズメの鳴  
く声だけが響き渡る閑静な朝の街並みを、ゆっくり、ゆっくりと、景色を味わうようにしながら歩  
いていきます。僕は、学生が登校するには早すぎる時間に、家を出発していました。  
 結局、両親やザクロちゃんに聞いても、朝ドクロちゃんを見かけた者は誰もおらず、夕方から  
ずっと眠っていた僕は、昨日の気まずい別れから、まだ一度も顔を合わせていないことになり  
ます。  
「あのドクロちゃんがそんなに早起きするとも思えないし……。やっぱり、夜のうちに家を出てい  
っちゃったのかな?」  
 少し、ほんの少しですが、僕が言い過ぎたことにも非があるのではないか。僕は、家を出てか  
らそんなことを考えていました。  
「ふぅ……」  
 まだ誰の姿も見当たらない校門を、溜め息をつきながらくぐります。下駄箱前の扉も、開けら  
れてまだそれほど経っていないでしょう。あと一時間ぐらいすれば賑わうであろう場所も、こん  
な早朝ではまだ寂しいものです。  
 特に、元気なのが取り柄のドクロちゃんが近くにいると、こんな環境下に出会うことも滅多に  
ないので、僕は少し感傷的な気持ちになりながら、歩き慣れた教室への道のりを進んでいきま  
した。  
 教室前に辿り着き、ドアに手を掛けます。通常、教室に入る時は中にいる人のことを少しは考  
えるものです。でも、さすがにこれだけ早ければ誰もいない確率が物凄く高いでしょうから、な  
にも考えずにドアを開けたのです。そんな油断だらけの僕を待ち受けていたものは――  
 
「うわあああああああッッ!?」  
 そこには、爽やかな朝の空気にそぐわない、とんでもない惨状が広がっていました。やけに  
涼しい空気が漂っているなと思えば、一つのガラス窓が派手に割られています。破片が窓際  
に散乱していて、外側から強い力が働いたことが窺えました。そして――  
「むにゃむにゃ……」  
 事件後の教室にポツンと、机に突っ伏して眠っているロリータ天使が一名。僕が今朝噛み締  
めていた哀愁漂う心持ちは、一瞬でぶち壊されました。  
「いやもう、犯人はお前だッ! ていうかドクロちゃん、こんな朝っぱらからなにやってんの!?」  
 ガラッ  
 僕が、限りなく犯人と思われる超重要参考人を起こそうとして肩を揺すっていると、突如教室  
のドアが開けられました。  
「うわ!? なんか今入ってこられると、僕も関わっていると思われる危険が……って、静希ち  
ゃん!?」  
「さ、桜くん!? どうしたの、こんなに早く……」  
 ドクロちゃんのせいですっかりと忘れていましたが、昨日の性教育後、静希ちゃんとはまった  
く会話が成立しませんでした。それなのに、心の準備をすることもなく、いきなり顔を合わせて  
しまったのです。僕はドクロちゃんを起こすことも忘れ、ただただ心臓の鼓動を早めていました。  
 落ち着け、落ち着け! 狼狽えてはいけない。こういう時はまずどうするかよく考えよう……。  
「や、やあ、おはよう……。今日も良いお日柄で……」  
 円満な人間関係は、明るい挨拶から。動揺で声を震えさせないように、僕はなんとかそう口に  
します。  
「……うん、おはよう」  
 一瞬、イヤな間があった気もしますが、静希ちゃんはいつもの笑みを浮かべて、挨拶を返して  
くれました。  
 
「でも、どうしたの? その窓……」  
 静希ちゃんは、僕にも嫌疑の視線を向けて、そう尋ねてきます。  
「むぅ〜っ……」  
 そうこうしているうちに、容疑者の少女が目を開け、グッと伸びをして起き上がりました。  
「ふあぁぁぁ〜、よく寝たぁ……」  
「可愛く目を擦りながら、呑気に欠伸をしている場合じゃないでしょ! ドクロちゃん、朝から家  
にいなかったと思えば、なんで窓を壊してまで早々と登校してるんだい!?」  
「あ、桜くん……」  
 ドクロちゃんは、そう質問した僕の姿に気付くと、ポッと顔を赤らめました。  
「だって……、昨日あんなことしたから、一緒に登校するのが恥ずかしかったんだもん……」  
 ドクロちゃんは、手を両の頬に当てて「いや〜ん」というセリフが聞こえてきそうな仕草をとり  
ます。それを聞いた静希ちゃんは、当然のごとくさらに怪訝そうな顔になって――  
 ガラッ  
「ッ……!?」  
 僕が静希ちゃんに語り掛けようとした時、またも教室に進入してきた方が。  
「み、南さんッ!?」  
「あっ。さ、桜くん……」  
 これまた、話のややこしくなりそうな登場者です。なんでこういう日に限って、みんな健康的  
な生活を送っているのでしょうか。  
「桜くん、そういうわけだから、今日は寝かせて……? すぅ〜すぅ〜……」  
「はやッ!? 眠りにつくのが早すぎだよ、ドクロちゃんっ!! しかも、きわどい言葉を残して  
爆睡状態に入らないでよッ!!」  
 ジローッ……  
 静希ちゃんと南さんが、非常に疑り深い目をして、僕を見つめてきます。すっかりと固まって  
しまう僕ですが、そんな中で南さんが一歩前に出てきました。  
 
「南さん?」  
「桜くん……。これ、受け取ってくれる?」  
 南さんが取り出したのは、どこかの店の袋でした。  
「えっ、えっ? 前後との展開の繋がりが不可解なんだけど……。これはなに?」  
「プレゼント……」  
 ポーカーフェイスの南さんにしては珍しく動揺を示し、顔を赤くしながら少し目を逸らします。  
「い、いやっ。そんなに恥ずかしそうにして言われると、中身がとっても気になるんだけど……」  
 なんでしょうか。今日は僕の誕生日でもないし、プレゼントをあげるイベントの日というわけで  
もありません。  
「あの、開けてもいい?」  
「えっ……、ここで?」  
「な、なにかマズイのかな……?」  
 南さんのおっかなびっくりな態度に、不安と期待がますます強まってきます。僕はそれを全面  
に押し出して、南さんに尋ねていました。  
「いいじゃない、開けても。それはもう、桜くんの物なんだから」  
 突っぱねるような口調で、そう返されます。なぜか少しお怒りのようですが、許しを得た僕は早  
速包みを開けていきます。  
「な、なんだかよくわからないけど、ごめん……」  
 僕は、はやる気持ちを抑えながら、ガサガサと梱包を解いていきました。  
「なになに、なにが入ってるの?」  
 静希ちゃんも、そう言って興味深そうに覗き込んできます。  
「ん、ちょっと待って……。ってあれ、絆創膏?」  
 中から姿を見せたのは、プレゼントにしては生活感抜群な、ウサちゃんマークの可愛い絆創膏  
でした。  
 
「あっ……。もう一つ、なにか入ってる……」  
 小さい箱が、もう一つ見つかりました。僕が、それを手で掴んで取り出すと――  
「ん……、これは――――うわあッ!!!?」  
「きゃあッ!?」  
 僕は一瞬、それがなんなのかわかりませんでした。しかし、五秒ほどの間をおいてそれがな  
にかに気付くと、思わず悲鳴を上げてしまいます。その正体は、避妊用具としては最もポピュラ  
ーと言える『コンドーム』です。静希ちゃんも、僕から一秒ほど遅れてそれに気付いたらしく、僕  
と一緒に驚いていました。  
「み、み、南さん! これは、い、一体どういうことなのッ!?」  
 南さんは恥ずかしさを必死に堪えるように、口元に手を当てて答え始めます。  
「買うの……恥ずかしかったけど……、店員さんに、変な目で見られちゃったかもしれないけど  
……。だけど、だけど桜くんのためだから、私ッ……!!」  
 恥ずかしい経験を思い出してしまったのか、南さんはガタガタと震えながら、回想を口にして  
いました。そして、ある時に耐えられなくなったのかダッシュで教室を出ていってしまいます。  
「ああっ!? ちょっと! 絶妙な所で話を切って出ていかないでッ!!」  
 彼女は一体、僕にこのアイテムが無いと、どういった不都合が生じると考えたのでしょうか。  
真意はわかりませんが、教室に残された僕と静希ちゃんと眠りの天使の間には、痛いほどの  
静かな空気が流れていました。そんな中、  
「んぅぅ……、桜くぅん……、ボクもうダメぇ……。少し、休ませてよぉ……、うにゅぅ……むにゃ…  
…」  
 天使の小さい寝言だけが、気まずい空気をさらに引き立てます。僕が気付いた時には、静希  
ちゃんは拳をワナワナと震わせていて――  
「桜くんのバカッ!!」  
 南さんと同じように、教室を駆け出していってしまいました。  
 
「ま、待ってよ、静希ちゃん!! これは、なにかがおかしいっ! 南さんとも、よく話し合う必要  
がありそうだからさっ!! って、もう遠くに行っちゃったよぉ……」  
 もう僕以外に残されたのは、幸せそうな夢を見ているドクロちゃん一人です。  
「あぁぁっ……、桜くん、許してぇ……。ボク、もう飲めないよぉ……」  
「……はあ。どんな夢を見ているんだか」  
 僕は苦笑いを浮かべて、無防備な天使の耳元に口を寄せます。  
「ごめんね、昨日は言い過ぎたよ。だけど、僕には――」  
 まだまだ子供っぽい天使に謝罪した後、僕は静希ちゃん達を探すため彼女に背を向けます。  
 もっとも、僕だってドクロちゃんのことをあまり言えない、初々しい思春期の少年です。こんな  
トラブルを経験していくうちに、いつか大人になれるのでしょうか。そんな、近くて遠いような未来  
を想像しながら――  
「さて、人が増えないうちになんとかしないとな」  
 僕は、誰の姿も無い、長い廊下へと駆け出していくのです。  
 
                                            −完−  
 

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