目の前にドクロちゃんのまるでお雑煮のおもちのようにどこもぷっくりふわ  
ふわむちむちとろんとしたからだがあります。  
 シルクパウダーの肌。成熟したボディライン。それでいて鼻腔をくすぐる甘  
酸っぱい女の子の香り……。  
 魔性の肉体(カラダ)といって過言ではありません。  
 それが一糸たりともまとわずに、手を伸ばせば触れられる所にあるのです。  
 押し入れを開けて自分の寝床にもたれかかり、こちらに向けたおしりを微か  
にくゆらせながら、僕に流し目を送ってきます。  
「桜くぅん………………?」  
 脳髄を蕩(とろ)けさせる官能のロリボイス。  
 死ぬまで天使な昇り竜が、なんだか大人みたいな淫靡さを与えます。  
 頬はポッと染まり、唇はわずかに開いて赤い舌がちらちらとのぞき、目の端  
にも仄かな淫色が浮かび上がっていました。  
 むっちりとした太腿と背中に秘されるように見え隠れする陰裂と乳房が、む  
しゃぶりつきたくなる情欲をいやが上にも倍増させます。  
 そして──ここがわりあい重要なのですが――ドクロちゃんの胸元には、肉  
色で「1」と書かれた子羊(丸々としたデフォルメイラスト)の輪郭のような  
黒いシルエットマークがありました。  
 よく見ればわかりますが、それは皮膚に直接彫り込まれた焼印なのです。  
 え、そんな設定原作にはないぞ、と?  
 そりゃそうです。さっき僕が焼き付けたものですから。  
 今はもう用が済み部屋の隅に投げ捨てられ転がっている、焼きごてのような  
奇妙な棒。  
 何を隠そう、あれこそがこのウレシすぎる事態を招いた、サイコーのマジッ  
クアイテムなのです!!  
 え、そんなの知らない?  
 すいませんこれオリジナルアイテムで……サラッと流しちゃってください。  
 
 
 さて、その日も泣けるほど快調に何回か撲殺された僕ですが、もはやいくら  
僕の血しぶき肉はじけても何事もないように授業は続きます。ひどいよみんな!  
――え〜と、五時限目の途中、例の端末がけたたましく鳴り響ったため、ドク  
ロちゃんはあわてて教室を出て行きました。助かった!  
 しかし帰りのホームルームが終わり下校の時刻になっても戻ってきませんで  
したので、何となく心配になって学校中を見回ってみたのですが、結局見つか  
らず、  
「どこに行っちゃったんだろうなあ……って、ま〜どうせまたいつのまにか家  
に帰ってるパターンだろうけどね」  
などと、僕は早々に見切りをつけ、むしろこの世の平和を謳歌したくなる安堵  
感に包まれて家路に就きました。  
 
 家にはまだ帰って来ていませんでした。  
 僕はちょっと驚きました――  
 まあ……まあまあマアっなんて素敵なのおっ!?  
 僕はあまりの嬉しさに室内でケチャ踊りです。  
 最近、僕のプライベートタイムはドクロちゃんによってごりごり削られてい  
ます。寝ても覚めてもドクロちゃんが殺戮バットを磨きながらどこかで僕を見  
張ってるんじゃないかという強迫観念に駆られ、しまいにゃ神経症に悩まされ  
夜も眠れず昼寝もできぬ、マコトにマコトに辛い日々の連続なのです!  
 これはまたとない幸福の空白時間。  
 めっきり減った孤独のひとときを安らかに満喫しようと、早々に心を決めま  
した。僕に躊躇している猶予はありません。  
 毎日毎日生死の境目を彷徨うダイハードな日常を送っている僕に、それぐら  
いは許されるはずです! べきです!  
 鬼の居ぬ間に命の洗濯ですよ!  
 っていうかこんなごく普通なことが、なんでこんなに嬉しいんでしょうか?  
気付くと頬を伝う熱いものがあるのはなぜ?  
 
 まあよし! 辛い過去は捨てて新しい僕を生きるんだ!  
 さあーて、と気分を一新する呪文を唱えるかのようにハエみたく手をこすり  
合わせてニンマリ笑い、一昨日買ってちょっとめくっただけのマンガのことを  
思い出しました。  
 心ゆくまで静かな読書を楽しもう!  
 僕はペコちゃんみたいな舌なめずりをしながらるんるんと本棚に飛びついて  
マンガを――マンガを……あれ?  
 ない!  
 マンガ本をまとめて置いてある本棚の列の一番はしっこ、そこにあるはずの  
目当ての単行本はありませんでした。一冊分抜き取られたかのようにポッカリ  
空いて、隣のマンガがナナメってます。  
 えー。  
 どうせ犯人も移された場所も分かりきってますけど、なんとなく気分が悪く  
なっちゃうよね、こういうのって。  
 たまにドクロちゃんは僕のマンガをちょろまかします。それはまあ別にいい  
んですが、ドクロちゃんの場合はその後がいけないのです。  
 借りたものをなかなか返さないのです!  
 っていうか同じ部屋に暮らしてて物が無くなるっていうのは、一体全体どう  
ゆうことでしょうか。おまけに問いただすと、イケシャアシャアとしらばっく  
れるし! 逆ギレしてエスカリボルグを振り回す時もあるんですよ!? そのく  
せドクロちゃんが居ない時に押し入れに敷きっぱなしの布団の周りを探すと、  
僕の失せ物はすぐに見つかるという始末。天使がそういう風にだらしないのっ  
てどう思います? ちょっと幻滅ですよね!? 自分のお小遣いで買ったせっか  
くの新品マンガを先に手垢付けられる人の気持ちをアンタ全然わかっちゃいな  
いよ! ああわかっちゃいないともさ!  
 ちょっとプンプンしながら僕は押し入れのふすまを開きました。いないのは  
分かってますから、先にさっさとマンガを保護しといて、帰ってきたら文句の  
一つでも言ってやるつもりです。  
 ザンスさんが下着を物色してました。  
 
 薄暗い中で布団いっぱいにドクロちゃんのブラやパンティーを広げ、今まさ  
にその鉤ッ鼻にクリーム色のイイニオイのしそうなパンティーを押し付けて、  
フンフンと荒い鼻息をついているところでした。  
 ああ、人生の闇路が見える。  
「………………人の部屋の押し入れの中でナニやっていやがるんですか? こ  
の変態ロリコン下着ドロ野郎?」  
「ちッ違うザンスよ!? 誤解してはいけないザンス! ミィは断じて下着ドロ  
なんかじゃないザンス!!」  
「ああ〜虚しい言い訳がニュートリノのように僕の耳を突き抜けていくなあ〜!   
さーて、ドクロちゃんが帰ってきたらどう切り出すか考えないと。『ねえドク  
ロちゃん! もしもだよ、ザンスさんがキミの──』」  
「ああああそうザンス! 用事があってミィはここに来たザンスよ!」  
 大声を張り上げてわめき散し僕の言葉を掻き消すザンスさん。  
「ドクロちゃんに届け物ザンス! 重要な物だからわざわざミーが後生大事に  
抱えて持ってきたザンス! 『天使による神域戒厳会議(ルルティエ)』御用  
達ザンス! そしたらタンスにぶつかってこうして下着を散らばらせちゃった  
んザンスよ! 仕方ないから片づけてたところなんザンスよ!?──ああなんザ  
ンスかその世にも薄汚いモノを見るような目つきは!?」  
「…………届け物ってなんですか?」  
「よくぞ聞いてくれたザンス! コレ! コレコレこれザンスよ!」  
と、ザンスさんが布団の下から引っ張り出した(さりげなく入れ替わりに下着  
類を押し込むのを見逃しません)のは、先端に丸いピンクのスポンジのような  
ものがついた長さ五十センチぐらいの鉄の棒でした。  
 まるで葱坊主のような変な形状です。まあどんな形であるにしろ、コレ系の  
不思議道具でロクな目に遭ったことのない僕としては、どこをどう眺めても愉  
快な印象は抱けません。  
 
「なんですそれ?」  
「フッフッフ、聞いて驚くザンス! これぞ隷属の焼きごて〈アリウムブラン  
ド〉!」  
「そりゃまた不穏でろくでもない響きのネーミングですね?」  
「安心するザンスよ。これはエスカリボルグみたいな高い殺傷力は持ってない  
ザンス」  
 あんな世にもオットロシイ活殺拷問兵器が、「飽きたから次の遊び道具はこ  
れ〜♪」みたいにホイホイ出てこようものなら、僕は誰にも告げずにセンチメ  
ンタルジャーニーです。あ、静希ちゃんにだけはこっそり言おっと。  
「しかしザンス! これはある意味どんな魔法のアイテムよりも恐ろしい効能  
を持つザンス! これで魔法の烙印を押された者は、どんな奴だって捺印者に  
悦んで隷従してしまうという、凄い魔力を秘めているザンスからね!?」  
「おおそれはすさまじい! ザンスさんはそんな重要なレアアイテムをドクロ  
ちゃんに届けるという神聖な使命を秘めて下界に降り立ったってわけですね!?」  
「そ〜ザンスよ!! 早く来すぎて仕方なく待ってる間についムラムラもよおし  
て下着をクンカクンカしてたわけじゃないザンス!」  
「そうなのかー! やっぱりなあ! 僕もそうじゃないかと思ってたんですよ!  
さすがはザンスさんだ! 偉い! 凄い! それでそれはナニに使うんですか!?」  
「もちろん未来の世界を救うために草壁桜の意志を奪い取り、生ける屍として  
残りの人生を送ってもらう予定ザンスよ!」  
「やっぱりソレかあ──────────ッッッッッ!!!!!!!!」  
 僕はザンスさんの手から葱坊主をひったくるように奪い取りました。命を粗  
末にされるのは御免ですが、それと同じぐらい大事なものを奪われるのもまっ  
ぴら御免です!  
「ああっ何するザンスか!?」  
「それはこっちの台詞だよ! 僕は家畜じゃないんだぞ!? こんなものが!  
こんなものがあるからみんな狂っちゃうんだ! こんなものォーーーッ!」  
 
 僕は怒りに任せて葱坊主を破壊しようとしました。こんなものがドクロちゃ  
んの手に渡ってしまったら、僕の人生こそ完全なる闇路に迷い込んでしまいま  
す! 今でも片足突っ込んでるような気もしますが! ドクロちゃんとエスカ  
リボルグの組み合わせだけでもこの身に余るというのに、これはとんでもない  
話ですよ! 握り柄と頭を持ってと、よーし太腿に叩きつけて背骨へし折って  
やる!  
「あっそれは止めるザンスよ!」  
「もう遅いよ! こんなモノない方が世の平和のためだよ! 僕の平和のため  
だよ!」  
 振り下ろします。  
「違うザンス」  
「え?」  
 ピタッ。  
 もうすぐでインパクトが起こる寸前、僕の動きは止まりました。  
 急に冷静になったザンスさんの言葉が妙に引っかかりました。  
「違うってなん…………え?………………あれ?………………か、か、かカ、  
カラカラカラダが!?」  
 僕の意志とはまったく関係なく、突然なんの前触れもなく僕の身体がガクガ  
クガタガタと震え始めます。  
「こコこコこれナニ? ニ? ナ? ニ、ニ? ニニッナニニナナニニィィナ  
ナナニニィィィ!!??」  
「あ〜あザンス。そのアリウムブランドは今、所有者の無い状態だったザンス  
よ。その状態で葱坊主を触ると、所有者としての適正を調べる判定が始まる仕  
組みザンス」  
「──ッダカラッダカダラダラダカラララ────ッッ!?」  
「だから、ユゥはただの人間ザンスからねえ……天使にしか扱えない魔法のア  
イテムに不用意に触ると――こうなるんザンスねえ……フゥ」  
 
 ザンスさんは溜め息をつきながらヤレヤレと眉間に出来た皺に指を当てます。  
「こうなったらミィにもどうなるかわからないザンス。ユゥのその反応は前代  
未聞ザンス。ユゥのカラダが手榴弾のように炸裂するか制御棒を抜き取られた  
原子炉のように炉心融解するか……なんにしろ後の祭りザンスね。ミィは待避  
させてもらうザンス」  
 そっそんな死に方いやだあああぁぁぁァァァーーーーーッッッ!!!!  
 ああー! ザンスさんが薄情にも「ボンクラ〜ジュ」とか言いながらディス  
プレイの向こうに逃げていくうゥゥ!! 確かに得体の知れない物に触った僕は  
ボンクラかもしれないけど――ッ! 逃げないで逃げないで助けてたったっ助  
けてぇぇぇ!!!!  
「タッタスタスケスタスケタタケケケケ!!!!」  
「えーい!」  
 
 ゴバズッ!!  
 
 轟く爆音。  
 やったあカラダの震動が止まったよ! だって手榴弾が炸裂するように僕の  
血肉は幾百幾千の破片となって飛び散って部屋中に花となって咲いたからね!  
震える暇もありゃしねえってこりゃあんまりだ――――――ッッッ!!  
 
 ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜  
 
 鋼鉄トゲトゲバットが光り輝いて僕のカラダが再構成されると、ドクロちゃ  
んは驚いたように僕をマジマジと見ました。  
「あれえ桜くんだったのね!? 一体どこのスキャットマン・ザ・ワールドさん  
かと思ったわ! すごいガクガク震えてて何言ってるかわかんないし顔の輪郭  
も判別出来ない程だったんだもの!」  
 
「こんな過激な助け方(?)する前にせめて一声かけて覚悟のひとつぐらいさ  
せてよ! 助かったのは有り難いけどさ、あ、震えが止まってる! ホント有  
り難うドクロちゃん! おかえりなさい!」  
「ただいま! 『叩け』って言ったの桜くんだからね! 土下座して顔の穴と  
いう穴からバラエティに富む体液流しながら叩頭感謝してね!?」  
「何言ってんのかわかんなかったんじゃないのかぁ! 都合いいところだけ聞  
こえすぎだそれは──ッ!」  
 すると、ドクロちゃんは目に涙を溜めながらヨヨヨ……と、肩を震わせて言  
いました。  
「そんな――そんな――せっかく助けてあげたのに……そんな怒鳴るなんて…  
…ヒドイ……ヒドイよ桜くん……」  
「あ……」  
 僕はちょっと反省しました。カタチはどうあれ(カタチも大事にしてもらい  
たいけど!)、ドクロちゃんは僕を救ってくれたのです。それを怒鳴り散らす  
なんて、確かにあんまりといえばあんまりだったかもしれません。  
「ドクロちゃ――」  
 
 ぐわっし!  
 
 ふぬおおおッ! すんでのところで閃光のように大上段から襲いかかってき  
たエスカリボルグを防ぎました!  
 まだ手に持っていたアリウムブランドをとっさに水平に構え棒部分で何とか  
受け止めたのです!  
「ぬぐぐぐぅ油断させた隙に一太刀浴びせようだなんてまるで練達の業師だね  
ドクロちゃん!」  
「ああっ!? ボクの攻撃を受け止めた!? 桜くんそんなキャラじゃないのに!」  
「どんなキャラ抱いてるかしらないけど僕はヤだよ烈しくそんなキャラ!」  
 
 ギリギリギリ――  
 
 一進一退の白熱した鍔迫り合いです。まさに死合。ていうかまだやる気満々  
だよこの人!?  
 ドクロちゃんはムキになった顔で僕を睨んでいます! あ、なんかすっげえ  
悔しそう!  
「桜くんソレどうしたの!? どっかで見たことあるような!?」  
「殺気ビンビンで力を緩めないまま質問するとはなかなかいい根性だね!? う  
おりゃあッ!」  
 僕は怒りに任せて力の限りに押し返しました。  
「きゃあッ!」  
 ドクロちゃんは可愛い悲鳴を上げながら後方によろけ、畳の上に尻餅をつい  
て倒れます。  
「ええっ!?」  
と、驚く僕。まさかドクロちゃんに競り勝てるなんて――  
「ご、ごめんドクロちゃん、まさかこんな――あれ?」  
 差し伸べた自分の腕を見て驚愕。  
 のえええ!? なんと僕の腕がピンク色に光り輝いてます!  
 いや、それどころじゃありません!  
 僕の全身が!?  
 〈アリウムブランド〉も一緒です!  
 まるで何かの悪い病気にかかったみたいに全身ピンクに発光しています!  
いや病気でも普通カラダが光ったりしないよ!?  
「なに!? ナニナニ!? 今度はいったいナニが起きたんだああぁぁぁ!? あ、  
収まった! うひえぇあぇぇけッケムリッ! 煙がッ!? きゃああ僕のカラダ  
の至るトコロから桃色吐息の煙が立ち上りはじめたよ! た、たた助けてドク  
ロちゃん! 僕のカラダおかしいよ! ああッなんでにじり下がるの!? この  
際撲殺でもいいからさっきみたいに天使パワァで助けてぇぇ!」  
 
「桜くん、いくらボクでもどうしようもない時があるの……諦めて、ね?」  
「それ諦めるの早すぎ! あがッあがががッ!!??」  
 カラダの至る所が痛み始めました! 痛烈なエマージェンシーシグナルッ!  
そしてまた毒々しくピンクに明滅しはじめる僕のカラダ! 桜色どころではあ  
りません! 桃肌プラス煙プラス激痛のデストリビュートフルアルバム! そ  
のあまりの痛さに立っていられません! 畳をのたうちまわります! 強いて  
言うならば真夏の浜辺で蔭差す物一つも無いまま熱砂に閉じこめられ放置され  
て三時間強ってところでしょうか!? 体内の水分が蒸発し皮膚と肉がジリジリ  
とまんべんなく焼け焦げてゆくこの異様な感覚をキミも体験できるか!?  
 人生の! 人生の闇路が見える!!  
「皮膚がッ! 皮膚呼吸できないのえええ!! ピンク色の熱に焼かれるー!  
コンガリッチー! コンガリッチー!! 僕コンガリッチーになっちゃうひょお  
ぽえええ!!!!」  
 僕は皮膚や肉がパリパリと割れるような激痛に、部屋中を暴れ回りながら苦  
悶の絶叫を絞り上げ続けました。  
「ギャガグワドヒエガガガガッッッ!!!! ギャオエー!! しぬ、しぬしぬシヌ  
ウウウゥゥッッッ!!!!」  
「桜くんしっかり! 人間は金粉ショーしても死なないから安心して!」  
「そんなの全然安心出来ないよッでアヂイアヂイイイイイ!!!!!!」  
 僕は、僕はッ! 全身ピンクの火傷を作って手の施しようがないまま息絶え  
るんでしょうか!? それとも手榴弾のように炸裂して死ぬんでしょうか!?  
 どっちもイヤダァァァ!!!!  
 まだ初体験もしてないのにィィィ──────ッッッ!!!!  
 
 静希ちゃんともっともっと仲良くなりたかった! 単なる幼なじみの仲を越  
えたかった! 授業中なにげなく視線が合った静希ちゃんが恥ずかしそうに黒  
板に目を戻すのが見たかった! 体育で転んじゃったりした時ふと静希ちゃん  
に向いたらこっち見て微笑んでる姿が見たかった! 放課後誰もいない図書室  
で二人きりで勉強がしたかった! 夕陽をバックに静かな浜辺で静希ちゃんの  
潤んだ瞳と見つめ合いたかった! 静希ちゃんとラブラブデートしたかった!  
静希ちゃんと……静希ちゃんと……  
「エッチは?」  
 もちろんしたい! したいさ! うれしはずかしはーつたーいけーんッ!!!!  
あーんなことやこーんなこととかそーんなことまでウヒョーーーーー!?  
「マンデラッ!?」  
 その瞬間、僕のカラダはボワオッと華々しく人体発火したのです!  
 どんな珍しい金属で燃焼実験したんだと思うほど綺麗なピンクのファイヤー  
です!  
 顔からも口からも炎を吐いたため、喋ることは不可能になりました。  
 自分の皮骨血肉が焼け焦げていく壮絶な痛みに、ただ意味不明の叫喚を上げ  
続けました。  
 
 そして、僕のカラダを燃料にさんざんに燃え盛った炎が収まると──全身、  
真っ黒な消し炭と化して横たわる僕がいました。  
 ドクロちゃんが信じられないものを見つめる表情でイヤイヤと首を振りなが  
ら猟奇的に叫びます。  
「イ──イ──イヤアァァァァ桜くんが──────ッッッ!!!!!!」  
 
                                (続)  

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