★2★ 
 
朝のひと騒動後、とりあえず時間もないので急いで支度をします。 
父さんは驚き、口を開けたままだったけど、母さんはなぜか喜んでいました。『嬉しいわ、本当に娘ができるなんて。』と言ってましたが… 
そんなことよりビックリしようよ母さん。 
顔を洗ったときに見ましたが、想像とは違った顔で少しがっかりです。でも、顔立ちはどちらかと言うと美人な方で、それでもいいかな…と一瞬思ってしまいました。 
素早く朝食を食べ、制服に着替えて(ドクロちゃんが魔法で女子用に変えてくれた)学校へ。 
「はやくはやくぅ!」 
僕をせかすドクロちゃん。 
「何か足元が涼しいよ…はあ、やっぱ無理でも男子用制服のままで行くんだった…」 
これから女の子としてのスクールライフが始まることに正直ガッカリしながら僕は後をついていきます。 
「ほら、急がないと遅刻だよ?行け行けゴーゴー!」 
「何なのその掛け声…わぁぁぁぁ!!?」 
いきなりドクロちゃんに引っ張られて、悲鳴を上げる僕。 
どこかの金髪元気女よりも速いスピードで走っているので、周りの景色がビュンビュン飛んでいきます。 
というか…はっきり言いましょう。僕は今、市中引き回しの刑にかけられた受刑者がごとく、地面の上を体で滑っています。 
下半身が熱いです。まるで鰹節のようです。 
「痛い痛いやめて痛いやめて痛いやめて痛い痛いやめてイタイィィィィィ! 
 このままじゃ僕削れて無くなっちゃうよ!お願いだからやめてドクロちゃん!」 
僕の悲鳴が届いたのか、<ぎゅきききききぃぃ〜!>とものすごい音で減速をはじめるドクロちゃん。 
「学校に着いたよ。ほら立って立って!…どうしたの桜くん!?足が赤くなってるよ!?」 
「うん、あと少しでね、僕はヤスリの削りクズ以下になってたんだ…」 
なんとか動く足に力を込め、激痛に耐えながら僕は歩き出した。 
 
この後起こる惨状に比べれば、この痛みなんてまだマシだったのです… 
 
「おはよー。」 
僕が挨拶した瞬間、教室が静まり返りました。そして、みんなが「ねえ、あの子誰?」「知らないよ。」「もしかして転校生かな?」「バカ、転校生がいきなり入ってくるかよ。」とひそひそと話しています。 
驚くのも無理はないです。いきなり知らない少女(僕ですが)がこのクラスに挨拶をして入ったのですから。 
「どうしたの桜くん?そんなところで固まって。」 
後ろにいたドクロちゃんが声をかけてきます。 
「桜くん…って、もしかして草壁?」「ちょっと待てよ、あいつは男だぜ。」「でも、ほかに桜って名前の人いないし…」「でも、ありえるかも。」「何で?」「だって変態だし。」「そうよね。将来子供だけの国を作るっていうし…」 
「ちょっと待ってよみんな!何で僕の目の前でそういうことを言うの!?せめて陰で言ってよ!」 
また教室が静まりました。僕を見ながら全員固まってます。 
「……桜…くんなの……?」 
そういったのは、長い髪を二つにまとめた、まさに『天使』のような少女、水上静希ちゃん。 
「うん、そうだよ!見た目は違うけど桜くんなんだ!」 
そう答えるは天使の少女。君が元凶なんだよ。ドゥーユーアンダスタン? 
「あれが…草壁…?」「変っちまうもんだな…」「いい、すごくいい…」「なんかあいつに惚れそう…」「ラブレターの準備しとかないと…」 
みんな(特に男子)が口々につぶやいてます。 
「よかったね。桜くんモテモテー。」 
「良くないよッ!何で男子にモテなくちゃいけないんだよ!」 
冷やかすドクロちゃんに、小さく突っ込む僕。 
「おらー、静かに席に着けー。」 
担任の山崎先生が入ってきました。同時に席に着くクラス一同。 
もちろん僕も。 
「出席取るぞ。相沢ー、安部ー…」 
自分の名前を呼ばれて返事をする生徒たち。 
「…草壁ー。」 
「はい。」 
僕ももちろん返事をしました。 
「草壁?」「はい。」「……草壁か?」「はい。」「本当に草壁か?」「そうです。」 
何度も聞かれてしまいました。仕方がありません。今の僕は女の子ですから。 
「……まあいい。続けるぞ。草薙ー、熊谷ー…」 
いろいろ言いたい事もありますが、今はやめておきます。色々と突っ込み過ぎて少し疲れました。 
そして、授業が始まります… 
 
昼休みまでは、クラスが騒ぐことはありませんでした。 
ただ…午前の授業の最後のチャイムが鳴り終わり、先生が出て行った瞬間… 
『草壁ェェェェッ!』「うわぁぁ!?」 
いきなり押し寄せる男子の波!まさにメンズウェーブ! 
「草壁、お前の好きなジュース買ってきてやるよ!」「もし良かったら、ここのわからないところ教えてあげるよ!」「頼む!俺と付き合ってくれぇぇ!」 
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 
ある意味拷問のような男の渦に、僕はもみくちゃになってしまいました。 
ああ、僕……死ぬんでしょうか………お父さんお母さん、こんな親不孝者の僕を許してください…… 
もう……意識が薄れてきました……ゴールしちゃいます……ごめんね…ドクロちゃん… 
「桜くんッ!桜くぅぅぅぅん!!!」 
僕を呼ぶ声が聞こえます…この声は、ドクロちゃん……声のするほうに目を向けると、人波をかき分けて、時にはちぎって投げたりしているドクロちゃんが…… 
ドクロちゃんと…静希ちゃん!? 
瞬間的に海底から引き上げられ、浮き袋が破裂しそうになりながらも意識が覚醒しました。できるだけ息を吸い… 
「ドクロちゃぁぁぁぁん!ここだよぉぉぉぉ!」 
叫びました。 
ようやっと見付けられたらしく、ちぎっては投げ、ちぎっては投げと繰り返しながら近づいてくる二人。 
僕のところにようやくたどり着いた二人は、今度は僕の手を引いて、もと来た道を引き返します。 
「助かったぁぁ〜…」 
やっと人の渦から逃れ、安堵の息をつく僕。 
「大丈夫だった?桜くん…すごく服が乱れてるけど…」 
「平気だよ。もまれて押されただけだから。 
 …これからあいつらには近づかないほうがいいかも…」 
心配そうな顔で見つめる静希ちゃんに、何とか作った笑顔で答えます。 
「ねぇねぇ、お昼ごはん食べようよ。ボクお腹すいたよ〜。」 
とことん心配してないこのアホ天使。わっか外すよ? 
「そうだね。桜くんも一緒に食べよう。」 
「えっ?…いいけど。」 
ああ、神様!静希ちゃんが、静希ちゃんがご飯を一緒にと誘ってくれました…! 
僕はもうッ、天にものぼる気持ちで…イハァァァアァアァアアアァァ!!!! 
「桜くん大丈夫!?耳の穴から七色の風が吹いてるよ!!」 
はっ。 
「ごめんごめん、静希ちゃん。ちょっと思うところがあってね。」 
「桜くんて、やっぱ面白いね。」 
くすくすと笑う静希ちゃん。 
「じゃ、行こうか。」 
今日は、もしかしたら最高の一日かもしれません!ありがとうドクロちゃん! 
 
 

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