俺は西村アクジ。  
 程よく前向きで程よくちょい悪な健康優良不良だ。ちょい悪の定義は定かじゃないが、悪戯半分に軽犯罪を犯す  
チンピラとは一緒にならない様に気をつけている。  
 そんな虎の穴の卒業より難しいちょい悪道を極めるべく、日々サボりや居眠りを鍛錬していた俺だったが、  
ある日を境にその生活は一変する。  
 
 嫌なら善人になってもらうのですよ〜!  
 
 ああ、思い出すだに腹が立つ。  
 あの極悪おやじ天使、ルルが現れたおかげで、俺の平穏な日々は終わりを告げたんだ。  
 天使に魔女、オカルト女にコスプレ巫女、あげくには狼男ときたもんだ。  
 一体、俺の周りにはどれだけのカオスが渦巻いているんだろうね?  
 そして…ああ、もう一種類オタク魔女もいるんだよなぁ。  
 
「みー」  
 
 そう、中でも特に訳が分からんのが…。  
 
「うにゅー」  
 
 この特殊言語を話す謎の生物。  
 
「はっ! とぉ!」  
 
 その手からネオジオポケットを片時も離さぬレトロゲーオタ娘。  
 
「んんんんんー、許るさーん!!」  
 
「やかましい!」  
 そして、信じられないことに魔女であるこの娘、小田れんげだ。  
「…おい、れんげ!」  
「にゅ! は! うみーっ!」  
「れんげ!」  
「に? なんですか、あーたん」  
「なんですか、じゃないだろ! 一体いつまでうちでネオジオやれば気が済むんだ! 腕が疲れちまったよ」  
 れんげは契約を結んで以来、学校が終わった後に魔女探索が無い日は、こうしてうちに持ち込んだネオジオで  
遊びまくる様になってしまった。  
「に! ゲーム戦士は日々の鍛錬によって世界を救うための努力を積み重ねるのです。あーたんもこれくらいで  
音を上げてはだめなのですよ」  
「ゲームで世界は救えないだろ…。それよりも、いい加減帰れって言っているんだよ。もう七時だぞ。家族だって  
心配するだろうが」  
 こいつの場合、当然女の子の一人歩きが危険というのもあるが歩きネオポケでどこかにぶつかるとか言う物理的な  
危険も考えられる。  
 運動神経はいいのだがいかんせん集中するとほかのことに目がいかなくなるからな。  
「それなら問題ないのです」  
「何が」  
「今日から母上も父上も家にはいないのですよ」  
「は?」  
「だから今日はあーたんと徹夜でプレイなのです! ヨダレものです!」  
「言葉だけ聞くと誤解される!」  
 そのとき、後ろからガチャリ、とコップの倒れる音がした。  
 しまった、と思いつつ俺は後ろを振り向くと、そこには硬直したまま、お盆からお茶をこぼしているまほが  
立っていた。  
 
「あ、あの…」  
 半分青ざめ、半分真っ赤になるという器用な表情で立ちすくむまほ。  
 どうも最近まほが耳年増になっている気がするのだが、絶対にルルのせいだな。  
「あー、まほ?」  
「え? あ! はいっ! あ! す、すいません! お茶こぼしちゃいました!」  
 再起動したまほが、大あわてでこぼしたお茶を拭き始める  
 俺はそれを手伝いに立つ。  
「あ、アクジさん、大丈夫です。わたしやりますから」  
「いいから手伝わせろ。それとまほ」  
「は、はい」  
「あんまりルルに毒されるなよ?」  
「え? あ…は…はい…」  
 先ほどのれんげの言葉に、違う方面の想像を巡らせた事を思い出し、今度は恥ずかしさでまっかになるまほ。  
 やれやれ、天使を名乗れる様になる為にも適性試験ってやつを実施して欲しいもんだね。  
「うに! とぉ!」  
 と、問題は何も解決してなかった。  
 俺とまほは煎れ直したお茶をテーブルに置き、再び弁当箱みたいなコントローラーでCPU戦に励むれんげの横に座る。  
「泊まるってどういう事だ?」  
「に! に! 母上がだぼーれっぷーけん! で、れいじんぐすとーっ! そして、じょうだんあてみ! なのですよ!」  
「リセットボタン押すぞ」  
「にー! せめてポーズにしてほしいですー!」  
 少しの後、ようやくネオジオの前かられんげの引き剥がしに成功した俺は話を聞くことが出来た。  
 テレビを消し、ネオジオを片づけたあとのテーブルに俺とまほが並び、正面にれんげが座って茶をすすっている。  
「で、どういう事だ?」  
「ずずず。つまり、父上と母上が二人っきりでラブラブ旅行したいけど、コブつきだと色々アレなので、れんげどんを  
あーたんの家に預けることにしたと言うわけですよ」  
「身も蓋もないなお前の両親。つうか実の子供をコブとか言うなよ」  
「に。父上と母上のラブラブさは、れんげどんが立ち上がる前にカセットの抜き差しを覚えた頃から一ドットも  
変わっていないのです。だからいいのです」  
 全然気にしていないのな。  
「…で、どれくらい?」  
「ヨーロッパを回ると言ってたのです。えーと、最低でも三週間ほど行ってくると言ってました。帰る時に連絡を  
くれる手はずなのです」  
「……」  
 ああ、久々に目眩らしい目眩を感じるぜ。  
「聴きたい事は山ほどあるが…とりあえずお前、着替えは?」  
「ここに来るとき、既にリュックで運んでおきました。一ヶ月だって余裕なのです」  
「どこに?」  
「に。一階のあそこの和室です。あそこは客間ですからあいているのですよ」  
 いつの間に…っていうかよく知っているな。。  
 横を見ると、まほが申し訳なさそうに上目遣いで俺を見ている。  
 ああ、こいつが案内したのか。  
「つうか、別に三週間自宅だって問題ないだろ?」  
「にゅー! 三週間もれんげどんをひとりぼっちにする気ですかーっ!」  
 ネオポケ与えておけば半年だって平気な気もするが。  
「アクジさん、それは可哀想です! ひとりぼっちは…さびしいです」  
 勝手に話を進めていた事が後ろめたく、ちんまりと身を縮めさせていたまほが思わずフォローする。  
 少し前までのまほが、正にそういう生活をしていただけに、れんげの気持ちは分かるのだろう。  
「まぁ、な」  
 そりゃぁそうなんだけどよ。  
「うにゅ、では、じごしょうだくですがおーけーですか?」  
「…断れねぇだろ。つうか、もしも俺が嫌って言ったらどうする気だったんだ?」  
「あーたんそんな事言わないのです!」  
 ひまわりを思わせる満面の笑みでれんげは笑った。  
 何か迷惑を被るわけでなし、ま、いいか。  
 
「では、れんげどんはそろそろ夕餉の準備をはじめるのですよ」  
「あ、私も手伝います」  
「ん? れんげ、お前料理するのか?」  
「うに! 最低21宿63飯のお世話になるのです。料理洗濯お掃除夜伽、おさんどんは全部任せるのですよ! 」  
「わ、私もいつもどおりちゃんとやりますから!」  
 別にまほにそんな事を強いているつもりはないのだが、まほは自分の居場所が無くなったかのような慌てぶりで俺を  
見つめる。  
 いや、頑張るのはいいが、お前はそんな事のために置いている訳じゃないぞ。  
「……」  
 だから目をうるませるなって。  
 俺はまほの頭をぽんぽんとなでた。  
「…えへへ」  
 安心したのか、いつものまほに戻る。  
 そしてれんげに向かい。  
「あー、そうか、それは助かる」  
「では、夕餉の支度をはじめるので、その間あーたんは経験値稼ぎをお願いするのですよ。あ、南の街に入っては絶対  
だめなのです! イベントがはじまっちゃうのですよ!」  
「…やっぱそういうのはやるのかよ」  
「にゅ!」  
 れんげはれんげ語で締めくくると、もう一度にっこりと笑って台所に向かった。  
 何がそんなに楽しいんだかね。  
「アクジさん、それじゃ、後はお願いします」  
 経験値稼ぎだけどな。  
 
 その後、暫く経つと台所の方からなにやら美味そうな香りが漂ってくる。  
「あーたん、出来たのですよ」  
 れんげがやってきた。  
「レベルはどうですか?」  
「4ほどあげたぞ。レアモンスターみたいのが出て、経験値をたっぷりもらった」  
「うに! 流石あーたん! あのモンスターと戦って勝つなんて上出来を越えてぐっじょぶなのです! ではこちらへどうぞ  
旦那様、なのですよ」  
「旦那言うな」  
 向かった先のダイニングテーブルには、色取り取りの料理が並んでいた。  
「おお! これはご馳走だ!」  
「遠慮無く召し上がれなのですよ」  
「お好きなものからどうぞ」  
 俺はとりあえず唐揚げに箸をのばす。  
「うん、これはうまい」  
「えへへ、アクジさんはちょっと辛めがいいんですよね」  
 どうやらまほ作らしい。  
「いつもながら美味いぞ。いい嫁さんになれるな」  
「…そんなぁ」  
 顔を真っ赤にするまほ。  
「でも、子供には辛いものはダメですよ?」  
 どこまでぶっ飛んでいるかお前は。  
「に! こっちも食べて欲しいです!」  
 そういうとれんげは野菜の旨煮を差し出す。  
「お前、なかなか渋いもの作るな」  
「家庭料理は滋養が一番なのです。母上が言っていたのです!」  
 一口食べると、確かにじわりと旨味が口に広がり、栄養も染み渡る気がする。  
「いい味だ」  
「にゅ! いいお嫁さんになれるですか?」  
「ああ、なれるさ」  
「にゅー!」  
「まほも、頑張りました」  
 
「にゅ! れんげどんも力をいれたのですよ」  
「ああ、二人とも偉いぞ。こんなものを食わせてくれるなら何も文句はないな。店で出したら金取れるぞ」  
「にゅ、褒めていただいて光栄なのです。ただし、冷蔵庫にそれなりの食材がある時に限るのですよ」  
「あの…それで、冷蔵庫の中…空っぽになっちゃいました」  
「…明日、買い出しに行こうな」  
「にゅ!」  
「すいません…」  
 その後、和気藹々と食事を摂る中、もう一匹五月蠅いのがいない事に気づく。  
「なぁ、ルルはどうした?」  
「え? そう言えば…」  
 まほが首をかしげたそのとき。  
「いや〜〜眼福眼福だったのですよ〜! ぐへへへへ」  
 オヤジ天使が帰って来た。  
「おや、ゲーオタが何で晩ご飯をたべているですか?」  
「ルル、どこ行っていた?」  
 あの下品な笑い声を上げているときはろくな事をしていないのは明白。俺は強めに聴いた。  
「僕ごときに言う必要はないですよ」  
「風呂上がりのイブローニュ抜き」  
「夏祭りで浴衣からのぞくおなごの生足や上からのぞいたときにちらりと見える襟の隙間の桃二つを堪能してございました  
ですますよ」  
 頭を床にこすりつけながら土下座してぶちまける外道天使。  
「相変わらず、まったく…」  
「で、なんでゲーオタがここに居るですか?」  
 一瞬で普段に戻りやがるし。  
「ああ、しばらく家に居る事になった」  
「うに、あーたんのお世話をするのです」  
「ほほう、まほさんだけでは性欲をもてあまし、ゲーオタまで無理矢理家に連れ込み、逃げられない様に弱みを握って  
手籠めにしてハーレムを作ろうと言うのですね?」  
「て、手籠め…」  
 まほがまた真っ赤になる。  
 …まほ、頼むからこれ以上耳年増にはならないでくれ。  
「うに? れんげどんはあーたんの家に住む事になったのですか?」  
 お前もふーん、みたいに平然と言うな。  
「っつーか違うっ! 失礼な事言うなって言っているだろ!」  
「本当のことですよー。ぐへへへへ」  
「うに、れんげどんは自分の意志で来たのですよ。あーたんが色々してくれるかられんげどんもあーたんを喜ばせて  
あげたいのです。無理矢理ではないのです」  
「いや、れんげ、お前の言い方も誤解を招くから…」  
 れんげはれんげで絶対イブ先生の悪影響を受けているな…。  
「ぐへへへ、ゲーオタはまんざらでもないようですよ?」  
「いや、分かってないだけだろ」  
「に?」  
 改めてれんげをみる。  
 …見事にメリハリがないし。  
「あーたん、今れんげどんを変な目でみたのです」  
「え? え?」  
 まほが俺とれんげを見て慌てる。  
「アクジさん…」  
 再びまほの瞳がうるうると滲んでいる。  
「ちょっとまて! それは違う! まほもさっきルルに影響されるなって言ったばかりだろうが!」  
「そ、そうですけど…」  
「にー? 違うですか?」  
「…なんか、これから先疲れそうだな」  
 
「何を痴話喧嘩しているですか。さて僕よ、ルルはお風呂に入ってくるので、その間にイブローニュとフェーブ豆を  
用意するのです。風呂上がりに、おなごの生足の記憶を肴に一杯いくのですよ。ああ、まぶたを閉じればあんな足や  
こんなチラリズムが…ぐへへへへ」  
 オヤジ天使…。  
 ルルは風呂(ケロヨンの桶)上がりにイブローニュとフェーブ豆を上機嫌で食べた後、へろへろと飛びながら  
ベッド(ランドリーボックスに毛布を詰めただけ)で早々にいびきをかき始める。  
 まったく、どういう教育を受ければこんなのになるのか。  
 俺は腹丸出し、ついでにパンツまるだしで眠りこける自称天使にタオルをかけ、居間に戻った。  
「あーたん優しいのです」  
「下手に腹壊されでもすると面倒なだけだ」  
「にー」  
 何だ、その妙に優しい笑顔は。  
 俺は居間に戻り、まほに言う。  
「まほ、お前先に風呂入れよ」  
「私ですか?」  
「ああ、俺とれんげは食後に対戦の約束しているんでな」  
「そうですか…。私もお相手出来ればいいんですけど」  
「まほはゲーム苦手だもんな。気にしないで入ってこい」  
「はいっ! 行ってきます」  
「うに、いってらっしゃいなのです」  
 さて、俺はテレビの電源をつけ、れんげは慣れた手つきでネオジオをセットする。  
「まほたんはお風呂長いですか?」  
「ああ、ぬるめのお湯にゆっくりつかるのが好きだな。ちょっと前までは銭湯だったから熱くて苦手だったらしい」  
「そうですか」  
「よし、セット完了だな」  
「あーたん」  
 早速開始と思いきや、れんげは突然俺の横に、と言うか俺に体を重ねるくらいの勢いで密着して座ってきた。  
 俺の胸の上に、れんげの頭が重なる。  
「…れんげ?」  
「にー」  
 普段から猫のような言動が多いが、今はさらに猫っぽい声で鳴き、頭を胸の上ですりすりと動かしている。  
 顔の下のれんげの頭からほのかに、甘い香りがする。  
 これは、シャンプーの残り香か? それともれんげ自身の香りか?  
 っていや待て待て! なんでこいつが俺に身を預けてくるんだ?  
「おい、れんげ? もしかして眠いのか?」  
「れんげどんはリボンを装備しているのでステータス異常は無いのですよー」  
「分からんが、それなら…」  
 言いかけた時、れんげは俺の首に手を回して、そのまま俺にまたがり、抱きついてきた。  
 おもいっきり体が密着する。れんげの顔が俺の横にある。  
「れ、れんげ!? 酔ってないよな? ルルがイブローニュこっそり飲ませたとかないよな? おい?」  
「…にー、あーたん、ちょい悪なのに、ここまでしている女の子に全部言わせる気ですかー?」  
 れんげはそう言いながら、俺の首筋にかじりついた。うわ、暖かい。  
 どうなっている? と下を見ると、れんげの両足は俺を抱きかかえる形で大股開きになっていた。  
「!!!」  
 とくれば、当然スカートはスカートでなくなり、つまりスカートの下のものが見える訳で…。  
 俺の網膜には、真っ白なそれが焼き付いた。  
 俺は一つ深呼吸する。  
 とりあえず状況を確認しよう。  
 俺とれんげは今、ソファーの上で抱き合っている。  
 そして、抱きついてきたのはれんげだ。  
 命と同等に大事にしているゲームを放り出して、である。  
 何故だ?  
 
「…ゲームは好きですが、命とは比べられないのですよ…」  
「いい勘だ。魔女だからかね」  
 ひとまず落ち着いた俺はとりあえず両手をれんげの腰に置き、改めて問いかける。  
「れんげ、自分が何しているか分かっているよな?」  
「に」  
 耳元でのこの声はくすぐったい。  
「…俺に、抱きつきたかったのか?」  
「に」  
「お前の、意志なんだよな?」  
「に。それに、さっき夜伽と言ったのにあーたんはよろしくって言ったです」  
 気付かなかっただけです。  
「ええと、会った事はもちろん無いけど、お前の母さんって、なんか厳しそうだよな。こんなことばれたら、  
ゲーム没収じゃ済まないかもしれないぞ?」  
 人のせいにしてしまう弱い俺。  
「それなら問題ないのです」  
「なんで?」  
「ネオジオがここにあるからです」  
「は?」  
「れんげどんは今までどんなに仲良くなった友達の家にもネオジオを持って行った事は無いのです。れんげどんにとって  
ネオジオは嫁入り道具と同じなのです」  
「…つまり、これがここにあるって事は、お前の親は俺の事をそう見ていると言う事か?」  
「に。特に母上はあーたんがれんげどんが魔女と知っていると知って驚いたのです」  
「話したのか?」  
「もちろんです。その上で今まで通りのおつきあいをしていると話したら、色々と分かってくれたのですよ」  
「おつきあいって…」  
「れんげどんは…れんげは、あーたんが好きなのです」  
「れんげ…」  
「れんげは、小さい頃に自分が魔女だと知って、それがどんな事が分からなくて、幼稚園で友達に見せちゃったことが  
あるです。その時は喜んでくれたのに、次の日から、友達は遊んでくれなくなったです…」  
 俺の知らないれんげの顔が、俺を見詰める。  
「れんげは、それが衝撃で、しばらくの間幼稚園に行けなくなったです。その後はずっと独りでした。小学校に入っても、  
お友達を作るのが怖かったです。そんな時、ゲームに出会ったのです」  
 そうだったのか。  
「ゲームがきっかけで少しは人と話せる様になって、それで今まで来ました。あーたんに魔女審判されるまでは、  
本当に魔女である事を忘れていたです」  
「俺は、お前に本当に悪い事をしちゃったんだな」  
 申し訳なく思った俺に、れんげは言った。  
「逆なのです。あーたんとみんなに会えたから、れんげはこうして今までよりずっと人と話せる様になったのです。  
れんげは、あーたんに逢えて本当に良かったのです」  
「れんげ…」  
「それと、あーたんはれんげにかけがえの無い新しい悦びを教えてくれたのです」  
「何だ? それ」  
「…あーたんは…」  
 急に顔を赤らめる。  
「あーたんは、れんげに魔女審判したのです」  
 ああ、したな。  
「その時…れんげは…れんげは…目覚めたのです」  
 嫌な予感。  
「れんげは、あーたんの手で感じちゃったのです。…その夜…れんげは…初めておなにーしちゃったです」  
 そんな事女の子が言うんじゃありませんっ!  
「あーたん…」  
 やばい、めちゃくちゃ熱い瞳ってやつで俺を見詰めている。  
「責任、とってください」  
「ちょっとま」  
 唇が、塞がれた。  
 
「ん…んむ…ちゅ…」  
 れんげはコアラみたいに俺に抱きつき、俺の唇を吸う。  
「れ…ちょ…ま…」  
 上手く喋れない。キスを遮るどころか、喋りかけて開いた口に舌が入ってきた。  
「んうむーー!」  
 この小さい少女のどこにそんな力があるのか、俺は抱きしめられたまま動けない。あ、もしかしてこれも魔法か?  
 やっぱり便利だなぁ…。  
 と現実逃避しても唇を奪われ続けている事に変わりはない。  
 それに、俺もなんとなく気持ちよくなってきた。  
 ゲーオタだが可愛いのは確かで、こんな風に迫られれば反応しないのはホモかインポだ。  
 俺はれんげの舌に自分の舌を絡め始めた。  
「んにゅふぅ!」  
 途端にれんげがびくりと身を震わせる。  
 閉じていた瞳は大きく見開かれ、驚きに満ちている。  
 どうやら自分がするのは想像できても逆は想像できないらしい。  
 突然慌てふためいて、でも口を離したくないれんげを見て、俺はだんだんその気になっていった。  
 体もいつの間にか動くので、俺はれんげの細い体をそっと、しかし深く、強く抱きしめる。勿論唇は離さない。  
「んぅ! ふぅ…!」  
 突然激しく口腔内を蹂躙され、れんげは涙目になって俺を見詰める。だが、その瞳に非難はなく、ただただ驚きがある。  
 そして、やがてその瞳はとろんと揺らぎはじめ頬の赤みが増していった。  
 俺は右手でれんげの背中を支え、左手を尻に伸ばす。  
「んふゅ!」  
 れんげの体がびくりと跳ねた。  
 スカートをめくり、下着を直に撫でると、れんげの体はびくりびくりと面白い様に跳ねる。  
 下着の感触は柔らかで気持ちいい。  
 肌はどうだろう? 俺は手を下着の下に滑らせた。  
「ひゃああっ!」  
 その刺激に堪らずれんげは仰け反り、弾みで唇が離れた。  
 だが、背中の手も尻を直接触る手もそのままだ。  
 手で直に触れる尻の感触はしっとりとなめらかで気持ちよく、例えようが無かった。  
 れんげは尻を撫でるたびに体に走る快感で身を仰け反らせ、喘ぎ声を上げるたびに瞳から涙を零す。  
 そろそろ一休みか。  
 俺は尻から手を離し、仰け反って痙攣しているみたいになっているれんげを抱きしめた。  
「は…はぁ…はぁ…うん…」  
 抱きしめたれんげは俺の胸の中で、まだ余韻があるのか、時折ぴくぴくと体をひくつかせ、荒い息をしていた。  
「大丈夫か?」  
「…こんなの…知らないです…」  
 れんげは息も絶え絶えに、呟く様に応える。  
「れんげは…自分でやってもこんな風にならないです…あーたん…すごいです…れんげは…もっと目覚めたです…」  
 それは良かった…んだよな?  
「キスして欲しいです。優しく」  
 俺はれんげの顎を指で上げ、目を閉じる様に促す。  
 れんげは少し震えながらも瞳を閉じ、唇を前に出した。  
 リクエスト通り優しくキスしようとしたその時。  
 ぱさり、とタオルの落ちる音が聞こえた。  
「……」  
 何事か、と顔を上げた先。  
 そこには、蒼白となったまほが立ちつくしていた。  
 
 
 
つづく、かも。  
 

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