「はぁぁ、忙しいですわ忙しいですわ忙しいですわ忙しいですわ」  
実はそれほど忙しくもないのだが、家に一人(+一匹)だけという悲しい現状は丹羽家  
メイド・トワちゃんの独り言を必然的に多くさせていた。  
ぱたぱたと廊下をせわしなく駆け回っているのだが、それほど慌てなくてもいい。だって  
独りなんだから。  
「お掃除は終わりましたわよね? 朝食の片付けも終わりましたわよね? 後は後は……  
そうそう花○マーケットを見なくちゃいけませんわ」  
誰も居ないのをいいことに大胆にもソファにダイブ。そのまま横になりリモコンを手にして  
テレビをつける。  
「はふぅ……幸せですわぁ」  
いつも笑子おばあちゃんや梨紅ママのお手伝いをしているトワちゃんにとって、独りというの  
は寂しいものであり、また幸福なものでもあった。ソファで嬉しそうに顔を緩めるトワちゃんは、  
とても(自主規制)歳には見えない。  
少女のようでそうではなく、かといって到底大人の女性にも見えないところがトワちゃんの  
変わらぬ魅力だったりする。  
すっかりお歳を召した薬○くんをぼんやりと眺めているとそこに電話がかかってきた。  
「あん、もう。はいはいすぐ参りますわ」  
とてとてスリッパを響かせて駆け、受話器を手にする。  
「はいもしもし丹羽です……あらあら梨紗ちゃん。ええ、お久しぶりですわ。大ちゃんは元気  
ですか? あらそう。うんうん……………………すぐに行きますわ!!」  
受話器を投げ捨てるように置くと脱兎の如く自室へ駆け込んだ。五秒後、手にははち切れん  
ほどに膨らんだ見慣れぬ手提げ袋を携え、メイド服のまま丹羽家を飛び出した。  
「ウィズ留守番頼みますわよおぉぉ……」  
という無責任な台詞を残して。  
 
「どこに電話してたの?」  
朝食を終えてリビングでくつろいでいた――のに加えて昨日の疲れを癒していた――大地が、  
受話器を置いた梨紗おねえちゃんに訊ねた。  
「ちょっとお手伝いさんを呼んだの。すぐ来ると思うわ」  
「お手伝いさん? 坪内のおねえさん?」  
坪内のおねえさんとは、執事業を引退した坪内さんに代わって坪内のおねえさんが新たに  
原田邸のメイドさんである。僕より年上のおねえさん、という認識しか大地にはない。  
「いいえ。大地くんもよく知ってる人よ」  
言葉と同時に家中に鳴り響くチャイムの音。  
「あら、もう来たのかしら。さすが一流のメイドさんだわ」  
梨紗おねえちゃんがリビングを出、そして数秒もせぬうちに戻ってきた。  
「大地くん、今日から私と一緒に大地くんのお世話をしてくれる人を紹介するわね」  
手招きされてリビングに姿を現した人物に大地は口から朝食が出そうなくらい驚いた。  
 
「大ちゃんおはようございますですわっ!」  
「トワちゃん! ど、どうしてここに?!」  
「先ほど梨紗ちゃんに呼ばれましたの。ぜひぜひわたくしの手を借りたいということですので」  
「でも、さっきの電話から一分も経って…………ええっ!?」  
通常ではありえない出来事に狼狽する大地を置いてきぼりにし、梨紗おねえちゃんとトワちゃん  
は嬉々とし合った。  
「今日は呼んで頂いて心より感謝いたしますわ。わたくし、一度でいいから大ちゃんにあんなこと  
やそんなことをしてみたいと思ってましたの」  
「いいのよ気にしないで。私一人で独占なんて、そんなのもったいないから」  
話しながら時折り大地に向けられる視線にはひどく熱が篭っているが、大地はまだ状況を呑み  
込めずに混乱が続いていた。  
「じゃあ早速二人でお掃除を始めましょうか」  
「そうですわね。あ、ちょっとお待ちください。わたくし大助と梨紅ちゃんのお部屋からいろいろと  
物資を調達してまいりましたの。これを使いましょう」  
「二人が使っている道具? ああ……なんか、こう……興奮してきたわ」  
「わたくしもですわ。それでは念入りにお掃除を始めましょう。念入りに」  
トワちゃんが持っていた手提げ袋の中を梨紗おねえちゃんと一緒に探り始める。その様子を大地  
は不安げに、逃げ出したい気分で、だけどじっと見守っていた。昨日と同じどきどき感……一体  
どんな道具が飛び出してくるのだろうか。  

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