「お姉様ぁ〜」  
 それは唐突にやってきた。梨紗の甘える声。  
「な、何よ……」  
 ふとしたデジャヴ。梨紅の脳裏をによぎったのは、一年前のあの日の出来事だった。  
「今年もお願い。ね?」  
 ゴマをするように肩を揉む梨紗に、梨紅は突き放すように言い切った。  
「や。今年は自分でやんなさいよ」  
「ひっ、酷いわお姉様」  
 梨紗がよよよと泣き崩れる。もちろん仕草だけだ。ちらっと梨紅を盗み見るが、その眼には断固とし 
て拒否するという強い意思が宿っていた。  
「ちっ」  
 小さく舌打ちし、そして立ち上がった彼女の顔はいやというほど自信に満ち溢れていた。  
梨紅が訝しげな視線を向けていると、梨紗が懐から何かを取り出して彼女の眼前に突き出してきた。  
「んな……ッ!」  
 それを見て彼女は絶句し、次の瞬間には梨紗に飛び掛ろうとした。が、梨紗はひらっと身をかわすと、 
不敵な笑みを浮かべて彼女を見据えていた。  
「ふっふっふ。この丹羽くんとの恥ずかしいラブラブデート写真をばら撒かれたくないなら素直に降参 
しなさい」  
「うぅ……」  
「ちなみにネガは別の場所に隠してあるから今これを処分しても無意味だからね」  
 そう言う梨紗の顔は満面の笑みを浮かべていた。勝利を確信した者の表情だった。  
 
 
 ――翌日の放課後。  
 原田姉妹は昨年と同じようにトイレでスタイルチェンジを果たした。入れ代わった容姿は、  
外見からは見破ることはできないだろう。  
「ということで、今年もキャベツの千切り頑張ってね」  
 硬く握り締めた梨紅の手をぶんぶんと振りながら、梨紗は晴れ晴れとした表情をしていた。  
「はいはい」  
 対して梨紅は、どんよりした空気が滲み出すほどうんざりした表情をしていた。  
「こらぁ。そんな顔してたら印象悪くなっちゃうでしょ?」  
「だーれのせいだと思ってんのよ」  
「それじゃあお願いね」  
 非難の声があがりかけ、すぐさま梨紗はトイレを飛び出した。  
「部活にはいくから」  
 そう言い残し、完全に梨紗の姿が視界から消え去った。残された梨紅は大きく息を吐き、  
かつらとエプロンを正す仕草をした。  
「今年もこのエプロンなんだ」  
 フリルの付いたエプロンを指で弄ぶと、一年前の懐かしい記憶が沁みだすように思い出された。 
表情が緩んでいるのに気付き、はっとして頬を二、三度引っ叩いた。  
「あー、もうっ! 丹羽くんが悪いんだから悪いんだからぁっ!」  
 丹羽大助。彼女の恋人、であるが、先日少しばかり気まずいことがあり、それ以来微妙に噛み合わな 
い状況が続いていた。こんなことは望んでないのに、と思いながら、しばらくトイレの中で悶々として 
いるのであった。  
 
 
「はぁ、疲れた……」  
 梨紗はラクロス部に顔を出したが、百メートル走を六本続けて走り、そこでリタイアした。  
今は自転車をとりに駐輪場まで向かっているところだった。  
「ん?」  
 駐輪場まであと少しというところで、見知った男子生徒がばつの悪そうな表情で梨紗を窺っていた。 
見知っていたのは彼がクラスメイトであり、そして双子の姉の恋人だったからだ。 
彼女は声をかけるべきか判断に迷った。いくら瓜二つの変装をしているとはいえ、彼にはばれてしまう 
かもという思いがあったからだ。が、歩くのを止めるわけにもいかず、自然と歩調を落とし、 
ゆっくりと彼の傍まで歩み寄った。  
「……」  
「……」  
「…………」  
「…………」  
 お互いが口を開かない不気味な沈黙が続き、まさかばれたのではないかと彼女の疑念が膨らみかけた時、 
ようやく大助が言葉を発した。  
「あ、あの……」  
「なに?」  
 なるべくぼろが出ないように言葉を少なくして彼女は答えるが、それを聞いた途端、 
彼がびくっと震え上がった。  
「ご、ごめんっ!」  
「え……」  
 いきなり謝られて困惑する彼女に、さらに彼が言葉を被せてきた。  
「やっぱり怒ってるよね。あんなことしちゃったから……」  
 消え入りそうで泣き出しそうな、とても弱々しい声で彼が絞りだした。状況が把握できていない彼女 
はいろいろ考えを巡らし、何とか事態を整理しようと試みた。  
 
「あ、と……おお、怒ってないよ」  
 とりあえず否定してみると、彼が潤んだ瞳を向けてきた。  
「でも喋り方が怒ってるみたいだし……」  
 どうも言葉に気を遣いすぎていたために喋り方がぶっきらぼうになり、それが怒気を孕んでいると誤 
解したようだ。彼女はできるだけ大げさな身振りで否定した。  
「そっ、そんなことないよ! 私、全然怒ってないから」  
「本当っ!?」  
 急に彼が目を輝かせて顔を近づけた。  
「う、うん」  
 反射的に身を引きながら頷くと、さらに彼が言葉を続けてくる。  
「じゃ、じゃあ今からこの前みたいにしていいの?」  
 この前みたいに、と言われてもまったくもって理解できない彼女は即答しかねた。すると、  
彼の表情がみるみるうちに空気の抜けた風船のようにしょぼくれていった。  
「やっぱり嫌なんだ……」  
「あ、い、その……」  
 まさか自分のせいで恋人との仲が悪くなりました。などと姉に言うわけにもいかず、それに加えて 
今は調理実習の居残りも代わってもらっているという恩義から、  
「い、いいよ! わ、私も嫌なんかじゃないの全然っっ!」  
 自棄になって答えていた。  
「やった! それじゃこっちに来て」  
「あ、ちょっ――」  
 
 そのまま彼女は茂みの奥へ連れ込まれた。  
「丹羽くん、一体なに――ッ!」  
 肩に感じる手の温もり。背中に当たる木の硬さ。唇に触れる濡れた粘液。理解するまで  
に時間はいらなかった。  
「――んんッ」  
 咄嗟に顔を背け、勢いで芝の上に倒れ込んでしまった。顔を上げると、顔を赤くして息を荒げる彼の 
姿が目に映った。不意に、彼の姿に半年前に永遠の別れとなった人の姿が重なって見えた。  
「な、にを……」  
 口の周りにべっとりと付く粘液に触れながら、彼女の顔は驚きで惚けていた。 
胸の鼓動がいつもよりはっきりと耳に響いている。  
「して、いいんだよね? この前みたいに」  
 彼の期待に満ちた双眸が彼女を捉え、思わず身体がびくついた。 
一体なにをされるのか分からない彼女は、子猫のように小さく震えていた。  
「怖いの?」  
 彼女は彼が差し伸べる手に畏怖の念を抱いた眼差しを向けている。  
「わた、私は……」  
「大丈夫だよ。梨紅さん」  
 ――ああそうか。今、私は梨紅だったんだ。  
 そう思うとまるでたがが外れたように身体が、心が動き出した。  
 ――そう。何も遠慮することなんてないんだ。  
 彼とあの人の姿を重ねたまま彼の手を握ると、力任せに身体を引き寄せられた。 
抱きとめられると同時に口が交わり、熱い吐息が互いの顔を撫でる。   
 
「んふぅッ、んんぅッ」  
 彼の粘液が唇にまとわりつくだけで興奮が昂り、一気に体温が上昇していく。  
「ふぅぅッッ!」  
 口の中が痺れるように衝撃が走った。挿し込まれた彼の舌が彼女の舌を絡め取った。 
崩れ落ちる腰を彼が抱え込み、執拗に口内を攻め立てた。  
「ふぁぅ、ぅぁぁッ」  
 切なげな吐息を漏らし、力の抜けた身体を彼に委ねるように寄りかかった。 
乱暴に、まるで凌辱するような強引さで彼女のスカートの中に、ショーツの中に彼の手が進入し、 
恥丘を愛撫してきた。  
「あッ、や……ッ。見つかっちゃうよ……」  
「でもそれがいい。興奮、するでしょ?」  
 否定はできない。いつこの行為が見られてしまうかという羞恥心、緊張感が胸をさらに強く高鳴らせている。  
「ほら、こんなに濡れてる」  
 彼の指にはぬるっとした粘着性の体液が糸を引いていた。  
「恥ずかしい……」  
 俯く彼女に彼も気分が高揚してきた。とはいえ、前回のように激しくやりすぎてまたしばらく口を利 
いてもらえなくなるかもしれないと危惧がよぎり、  
「じゃあ早く終わらせよっか」  
 できることは素直に嬉しく、しゃがみ込み、彼女のショーツを膝まで下げた。  
「きゃッ」  
 短い悲鳴をあげる彼女の両手を木につかせ、尻を突き出す格好にさせてスカートを捲り上げた。 
綺麗なしわが形作る窄みの下に、充血して肥大した桃色の縦筋が一つ走っている。  
「ゃんッ! こっちも恥ずかしいよッ」  
「大丈夫大丈夫」  
 膨れ上がった彼女の襞を押し分けるように何か硬く、大きなものが触れてきた。  
 
「え? あ、だ、ちょっと待って!」  
 もちろんそれが何か分からないほど疎くはない。首を回して背後に立つ彼に必死に声をかけた。 
しかし彼は今にも泣き出しそうな彼女の顔を見ることなく、その視線はこれから結合する部位にだけ向 
けられていた。  
「平気だよ。バックは初めてじゃないんだし」  
「ちがッ! わたしッ、私は初めて――ぃいッ!」  
 彼女の声が、呼吸が詰まった。尻から脳天まで一気に突き抜けるような激痛が下腹部を押し上げ、 
呼吸を麻痺させた。  
「いいよ梨紅さんッ! 初めての時くらい締まってるよ」  
 彼は彼女の正体どころか初めてだということにも気付かずがんがんと腰をぶつけてきた。  
「いッ、ッたぁぁぃぃッッ!」  
 股に感じる裂けるような痛みから身体が逃れようとするが、すぐに木にぶつかり、 
挟まるような形になりさらに痛みが増した。  
「うぁッ、きついッ」  
 処女に突っ込んでいるとは未だに気付かない彼はあまりのきつさに早々に出してしまいそうになった。  
 
「はッ、ぐッ、んぐッ、うぅぁ……ッひゃぁ!?」  
 久々の性交に今少し繋がっていたい彼は、彼女の右足を抱え上げて大きく股を開かせた。  
「ぃ、いやぁッッ!? そんなぁッ!」  
「少し緩くなったよ」  
 彼は嬉しそうに腰を振り続け、あまりの恥ずかしい格好に涙を流す彼女には気付いていなかった。 
しかし彼女が流すのは涙だけではない。  
「凄い……濡れてきてるよ」  
「はぁぅッ、嘘、うそぉッッ!?」  
 彼が言うとおり、彼女のあそこからは滝のように次々と愛汁が溢れ出していた。 
その中に薄い桃色の液体も混ざっていたが、彼は気付いていなかった。  
「ひぐッ、あぅぁ……」  
「うぁ、出そう」  
 限界が近いことを彼の口が告げると、腰のピッチがさらに早くなり、彼女の身体が形を歪めて押し潰 
されそうになる。  
「中、中に出すよッ」  
「ひッ、ら、らめぇぇッ!」  
 満足に呂律が回らない彼女の声は聞こえず、最後に奥まで一気に突っ込み、 
限界に達した彼は中ですべてを出しきった。  
 
 足を離し、バックの体勢で繋がったまま、彼は彼女の耳元に口を寄せた。  
「あの……怒ったり、してないよね?」  
 今回はしてもいいと受け入れてもらえたが、最初にした時はあれだけ怒らせてしまい、  
そのことが気にかかっていた彼はまた怒らせてしまわないか少し不安だった。  
「…………あ」  
 激しく消耗し、息を切らせた彼女の視線が彼と交わり、しばらく見つめあってから口を開いた。  
「次、する時は……写真でも撮ろっか?」  
 
 
おしまい  

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