S-1 「新学期」
春です。桜が舞っています。久しぶりに通学した東野第二中学校は人でごった返してい
て酔いそうな気分です。
「梨紅さん?」
「え?」
呼ばれて、丹羽くんが大分先に進んでいることにはっとした。桜に見惚れてて離れてし
まったことに気付かなかった。
「ごめんごめん」
駆け寄ると並んで歩き出す。こうやって一緒にいるだけでとても満足なあたしは幸せ者
でしょうか。また今年も一緒のクラスならいいなと思います。
「――――で」
三年B組の自席についた梨紅は嘆息した。
「なんでみんな同じクラスなんだろ?」
机の周りには二年B組であった面々がほぼ全員いたりする。
「ちゃんとクラス替えしたのかなあ?」
そのはずです。
丹羽大助は日渡怜、冴原剛、関本雅宏、西村祐次らと一緒に二年の時と同じように話を
している。原田梨紅は妹の原田梨紗、福田律子、石井真里、沢村みゆきらと一緒に、こち
らも二年の時と同じように、である。
「いいんじゃない? 今時クラス替えで喜ぶなんてお子様だけよ」
「あんたも十分お子様だっての」
「失礼ね! 私は常に最上級の気品と優美を兼ね備えるべく己の心身を磨き続けるレディ
なのよ」
梨紅がなおざりに返すと梨紗はさらにむきになって突っかかった。そんなところがお子様
なんだよ、と周りの誰もが思ったに違いない。
「元気な姉妹ねぇ」
「元気なのは妹だけだけどね」
みゆきと律子が呆れた調子で顔を見合わせ、小さく微笑んだ。
「ねえねえところでさあ!」
真里は姉妹の間に割って入り、姉の両手をがっしりと掴んだ。双眸はきらきら輝き、口元
はむずむずと、まるで猫のようである。
「な、何……」
「あれからどうなったの? バレンタインデーの後のぉ」
「石井ちゃんストップ!!」
梨紅の双掌が真里による戒めを突き破りその顔面に突き刺さった。口から嫌な音を出しな
がら真里は崩れ落ちた。己が何をしたか気付いた梨紅は席を離れ真里の上半身を抱き上げた。
「うわわっ、ごめん! ちょっと口押さえるつもりが」
「……うふ、いいの気にしないで…………。その、様子だと……上手くいったの、ね?」
「うん、うんイったよ。だからまだ死なないで……!」
「それを聞いて……安心……」
がくり。と首を折り、石井真里は始まったばかりの三年生活に終止符を打った。後に残された
のは梨紅のすすり泣きだけであった。
「――――何してんだ、あれは?」
「…………さあ」
彼女の彼氏は一応突っ込んでおいた。
「ええぇっっ!! まだしてないいぃぃぃ!!?」
カフェテラスのオープンテラスに木霊するのは黒髪ロング、頭に二つお団子をつけた少女
の驚嘆の声だった。
「こっこっ、声が大きいよ! 静かにぃ!」
小声で彼女に訴えるのは赤髪ショート、双子の姉の少女である。
「でもでも、付き合いだしてもう二ヶ月以上経ったんでしょ?」
咎められたためにテーブルに身を乗りだし、向かいにいる原田梨紅に顔を寄せて石井真里
は囁いた。その声にはやはり信じられないといった色が滲んでいる。梨紅は責められている気
がし、身を引いて小さな返事しかできない。
「う……うん」
「この前のバレンタインもチョコあげたんでしょ?」
「うん」
「手作り?」
「一応……」
真里は大袈裟に天を仰ぎ、ああやっちゃったよこの子、という溜め息を発した。
「そこまでやってどうしてしないの?」
「そりゃ……だって、恥ずかしいし」
「そんなの誰だって同じよ。それを乗り越えなきゃダメでしょ」
「う……、分かってるわよそれくらい。でも、でもね……」
「でも、何?」
「丹羽くんだって……その……あんまりしたいって思ってない気がして」
「梨紅、あんたは間違っている!!」
テーブルを叩いて真里は立ち上がった。瞳は熱く輝き、陽炎の如く揺らめいている。
「なぜならば、丹羽くんだって天然自然の中から生まれた漢……いわば欲望の塊!!
それを忘れて何が恥ずかしい、その気がないんじゃないかしら、よ!! そう、漢の中に
生き続ける欲望を忘れての付き合いなんて、愚の骨頂ぉぉ!!」
熱い口上が終わった時、何故か周囲からぱらぱらと拍手が送られた。熱意があれば万人
にその意が伝わるということだ。喉の調子を整えて再び座すと、顔を寄せての小声に戻す。
「まあそれはいいとして」
「えっ、いいの!?」
「丹羽くんにその気がないって思うなら自分から仕掛けちゃいなさいよ」
「うぅ……、だからちょっと恥ずかし」
「わたしはそうしたよ?」
真里の発言に梨紅は顔を赤らめた。
「石井ちゃん積極的だよ……」
「そうかな? でもまずはそうしないと、私の人生経験を生かしたアドバイスが生かせないん
だよね」
梨紅と真里が一緒にいる理由はそれだった。丹羽大助と付き合い始めてもうすぐ二ヶ月、
その間梨紅は充実した日々を送っていた。のだが、いくら二人っきりになっていい雰囲気が
できたとしても、「そんなこと」をする素振りは微塵も見せなかった。この状況を打破すべく、
人生の先輩である石井真里にご教授願おうと梨紅は考えたのだ。
「いい? 積極的に積極的にいくんだよ?」
「ン……うん」
「じゃあわたしがいろいろ教えてあげるから、一言一句聞き漏らしちゃダメだよ」
数十分の間、真里先生の個人レッスンが行われた。梨紅はただただ顔を熱くさせて話を
聞くだけだった。
三月も末の土曜日。新学期が始まるまで二週間もない頃、梨紅は腹を決めた。石井真里
の協力のもと梨紗を家から追い出し、坪内さんには家族サービスでもしてあげて、と適当な
ことを言って休んでもらった。昼頃に大助が家に来、自室でお菓子の入った皿とお茶を囲ん
での二人っきりという状況を作り出していた。
今日の緊張は付き合ってきた中で最高のものだ。向かい合う彼の顔も正視できない。
「どうかしたの?」
「、ううんべつにっ」
柿ピーを口に運ぶ手を止め、大助が尋ねてくるのを硬い声で答えると、そう、と微笑んで再
び柿ピーを食べる。のほほんとしている彼には彼女の緊張など伝わっていないのだろうか。
会話が途絶えて数分、大助の柿ピーを頂く音だけが梨紅の部屋に響いていた。
どうしよう? 今動いちゃっていいのかな? 不自然じゃないかな? うあぁん、分かんないよ……っ。
――いい? まず大切なのは自分で動くことだよ。積極的だよ積極的!
錯乱する梨紅の頭によぎったのは、あの時叩き込まれた真里のアドバイスの一説であった。
積極的に積極的に…………真里はそれを特に念入りに、呪文のように繰り返して梨紅に教え
込んだ。
小さく震える四肢に力を込め、床からお尻を離した。ベッドに横になる、
「ん?」
「……ちょっと、トイレ」
つもりだったが踏ん切りがつかずに逃げ出した。意気地がないことを恨めしく思いながらすた
すたと部屋を出た。
トイレに入り鍵をかけ、便座にどかりと腰を下ろす。両手に顔を乗せ、これからどうするか
じっくり考えることにした。
――梨紅がベッドに横になっちゃえば、丹羽くんだってその気になって後は……
すっくと立ち上がる。じっくり考える必要もなかった。すべては教わっているのだから。
ものの十数秒でトイレを後にする。部屋に戻ると、大助はまだ柿ピーを食べていた。
「早かったね」
いつもなら何か言い返しているかもしれないが、今は余裕がないので頷くことしかできない。
とてとてと梨紅が向かったのは、もちろんベッド。腰をかけるとぎしっと軋み、ようやく大助が
ベッドの方に気付いた。
「寝るの?」
柿ピーを取る手を止め訊ねると、梨紅はまた頷くだけだ。
「最近部活が忙しくって忙しくって」
何故かそんな嘘が口からこぼれた。素直な言葉が出ず、ひどくもどかしい思いと情けない
思いに胸が詰まる。自分の弱さに力が抜けたのか、ぽすんとベッドに上体を倒す。さりげなく
胸を上げて強調してみるが、大助は未だ柿ピーに夢中である。
「…………」
ふと、思う。あたしより柿ピーが好きなのか、と。
――でもねぇ……あんまり見向きされないようじゃ、他の女に丹羽くん寝取られちゃうかもねぇ
真里がそんなことを漏らしていたのを思い出した。
「柿ピー食べないの? 美味しいよ」
「……いらない」
そんなに疲れてるんだ、小声で心配するのが聞こえた。それは、嬉しい。が、すぐに柿ピーを
噛み砕く音が聞こえる。やはり柿ピーなのか。
――それとも丹羽くんにはもう…………? あら、やだやだ、今のは気にしないでいいよ
気にするに決まっている。そんなに自分に魅力というものがないのかと疑ってしまう。他の
女に走ってしまうなんて、そんな事が……。
そこに残念そうな声が届く。
「あ。柿ピーなくなっちゃった」
疑念は拭えない。
――とにかくっ! まずは身体よ、身体で丹羽くんの心をがっちり掴んでおくの
「ふぅ、お粗末様」
お茶を一杯飲み干した大助の表情はご満悦であった。
「丹羽くん」
「なに?」
梨紅と目が合った瞬間、大助は身を引いた。彼女の目が座っている。
「どうしたの……?」
恐る恐る訊ねるが、梨紅は無言で自分の横をぼすぼす叩くだけだった。座れ、と言っている
らしい。これまた恐る恐るベッドに近づき腰を下ろす。なんだ、僕は何をした。怒らせるようなこ
と……何をした?
何もしていないからこうなったのは言うまでもない。梨紅は不機嫌なわけではない。彼の態度
に業を煮やし、ようやくようやく本当に意を決し、ああでもやっぱり恥ずかしい、自分から誘うなん
てやっぱり性に合わないよ。と複雑に思いが絡み合った結果の眼である。
梨紅の苦悶を露と知らない大助は身体を起こした梨紅の横で小さく肩をすくめていた。
彼氏と彼女がベッドに並んで腰掛けている。この状況で何をすべきかの選択はほぼ一択
である。
「……」
「……」
なのに、この二人は何もしない、手をださない。彼氏はびくびく、彼女はぎすぎす。これで
よいのか。
「――ねえ」
よくないに決まっている。真里から授かった知恵と勇気を抱き、梨紅は自分から攻めに出た。
「な、に?」
相変わらず大助はびくびくしている。普段とは違う彼女の気配を鋭敏に感じ取っている。
「あのね」
どう切り出すべきか。ストレートに告げる――ダメダメ! 引かれちゃうよきっと。遠回しにしよう
と言う――ダメダメ! 鈍感だから絶対気付かないし、あたしそんなに器用じゃないもん。えぇい、
もうどうにでもなっちゃえ!
「…………キス、してよ」
「……ぇ」
俯く梨紅の声は耳に届きづらく、届いた言葉が聞き間違いではないかと思い訊ね返す。
「だから、ぁ……キス、まだしたことないから」
大助は答えに窮した。まさかあの梨紅さんからそんなことを言われるとは思っておらず心臓が
どきりとしたし、
「あたしのファーストキス……なんだからね」
ここでまたどきりと、今度は悪い意味で胸が苦しくなった。
「ふぁ、ファースト……」
「あたっ、あた、当たり前でしょそんなの……!」
語気は荒くなく、尻すぼみに消えていった。キスをねだっただけで顔と胸と、手足の先まで焼け
つくように熱い。もしもえっちなんて言ってたら、と考えただけでさらに身体が変になる。
「う、ん……」
だが、せっかく梨紅が恥ずかしい思いをしてまで誘ったのに大助は乗り気になれないでいた。
素直にできないのは、やはり彼にも思うところが多々あるせいだ。
「あたしは、丹羽くんと初めてするって決めてたんだから……」
二つの初めて。大助にあげたいという梨紅の純粋な思いが大助の胸にぐさりぐさりと突き刺さ
る。歯切れの悪い言葉のやり取りがとうとうできなくなった。
「……………………分かった」
俯いたまま、さっきより一段と小さな声が聞こえた。
「そんなにあたし、魅力ないんだ」
「え゛っ」
真里師匠の教え、押してダメなら引いてみよう。突然梨紅がしょんぼりしたせいで大助はうろた
えた。
「そんなことない! そんなこと絶対無いよ!」
「じゃあ」
梨紅が大助に顔を突き出す。瞼を下ろし、心なし唇を尖らせて。梨紅を眼前にして大助は身を
強張らせた。これはつまり、あれを求めるポーズ。
身体が固まったまま数十秒ほど過ぎた。腕は梨紅の肩を掴もうとしていやしかしやっぱり無理
かもという躊躇いから中途半端に上がったまま、梨紅の誘いに顔が熱くなり頭がぐらぐらしてくる。
ここまでさせておいて断るのは失礼なのだが、煮え切らない態度の大助は受け入れも断りもしな
い非常に失礼な状態が続いた。
――だがしかし、男ならいつかは決断せねばなるまい。
「それじゃ……するよ」
いつもより幾分小さな梨紅の肩に手をかけると、彼女の身体がかすかに震えた。彼女との、
合意の上での初めてのキス。
まだ早いと思っていた。今まで即決即断されて、の行為がほとんどだった彼にしてみれば、
じっくり時間をかけてというのがある種の理想型だったのだが、それが間違っていたのかもし
れないと考えさせられた。
軽く触れ合うだけのキス。彼女の温もりが伝わるには十分な愛の証明、大助は満足――、
「うわ……っ?」
――していたところを引き倒された。不意のことに梨紅の身体の上に思い切り圧し掛かった。
服越しに柔らかなものが触れたことにどきりとし慌てふためいて離れようとすると、梨紅の腕が
大助の身体に回されて動きを止めさせた。どころか、密着するほど強く抱き締めた。
「あのっあの、あの……」
力任せに振りほどくことはできず、かといって小さく身動ぎするだけで腕が解かれるわけもなく、
少しだけ身体を上げて胸との接触を防ぐだけに留まった。
「……いいよ、あたし」
焦ってばかりのところに注がれた梨紅の言葉にようやく大助の頭が落ち着いた。いや、落ち着い
たわけではなく冷水を浴びせられたように急激に冴えたという方が正しい。
いくらのほほんとしている大助でも言葉の意味は重々理解できる。大助だから。今、大助の眼下
にはベッドに横たわる彼女が、自分を抱き締めて潤んだ眼で見つめながら顔を赤らめて暖かな
吐息が香りが鼻の先で濃密に漂い…………言い表せないほど、欲情した。
先程より少しだけ長いキス。大助の手が梨紅の左胸を下から持ち上げた。
「ドキドキしてる……」
恥ずかしげに顔を背ける仕草が愛らしかった。顔にかかった短い髪をかき上げると頬っぺたが
真っ赤に熟れていた。右手が柔らかな胸を覆い隠し、初めての感触に梨紅が顔をしかめる。それ
でも瞳は潤んでいた。続きを待ち望むように。
大助はそれに答える。それが贖罪になるならするしかない、し、何より彼自身が身体を合わせる
ことを強く願っていたから。
今まで多くの胸を触らされてきたはずだが、今の大助の手つきはまるで素人のように梨紅の片
胸を触っている。まるで初めてえっちをした時のように拙く幼稚な愛撫だが、彼女と初めてする時
は初心に還る、技巧も何も凝らさずにしようと思っていた。
シャツを捲ると淡い紅色に染まる肌と、桃色の小粒な二つの尖頭が覗いた。
「あ……下着……?」
「どうせ……するつもりだったから」
口元に手を当てて恥じ入る様に頭の後ろでがんがんと響くものがあった。道理で胸に触れた
時柔らかかったはずだ、と今更ながら思い知った。
体温が急上昇したせいで上着はそのまま、キュロットから生える太ももに食指を伸ばした。触
れた瞬間に小さなくぐもった声とともに梨紅の身体が震えるのが、とても新鮮に映る。
「梨紅さん……」
堪らなくなり、今度は大助から身体をすり付けた。
「やっ……ぅ」
脚の間に堅い物が当たるのを感じ身を捩るが、それで逃れられないのは分かっている。それ
どころかより下半身を接着され、互いの最も熱く、濡れ、滾る箇所が数枚の布を隔てて触れ合っ
ていることに淫猥な昂奮を覚え、理性という箍はもう外れるところだった。
「……僕、もう我慢できない」
「あたしも……うん……」
上着を脱がせ、綺麗な肌色の上半身が晒される。隠すように胸の前で腕を交わらす手振りに
今日何度目かの強い高鳴りを自覚した。大助も上着を脱ぎ捨て、細身で筋肉質な身体を梨紅の
前にあらわにした。キュロットに手をかけた時には喉がざらざらとしていた。何度も唾を呑み込み、
ショーツとともにキュロットを下げていく。膝を過ぎ、足首を通り、脱がせ払ってから初めて秘所に
目を落とした。
綺麗な桜色の筋が白く輝く粘液に濡れている。いつの間にか下半身がズボンを押し上げていた
が、苦しさを感じないほどそこに釘付けになっていた。一段と喉がざらついた。
この渇きを潤すために何をすべきか大助はよく知っていた。ズボンとトランクスを脱ぎ捨て屹立
を開放した。
「あ……」
それを目にした梨紅が少し怯えた風になり大助に躊躇いが生じるが、ここまできて、お互い引く
ことなどできなかった。
腰を押さえてわずかに突き出す。あてがった秘部は異様なほど熱を湛えていた。これほどまで
気が急いて緊張が身を支配することは、今までなかった。
腰を突き出すほどに梨紅は歯を噛み締め、表情を歪ませた。思わず腰の動きを止めてしまう。
「ん……平気、だから……続けて」
瞳を潤ませながら頼まれて止められるわけがない。ぎちぎちと固く締まる中をゆっくりと進み、
ようやく全身が中に埋没した。先端にこつりと当たるものがあった。
「大丈夫?」
大助には訊くだけの余裕はあるが、梨紅には答えるだけの余裕は振り絞らなければ生じなかった。
「うん……うん…………何か変な感じだけど」
苦しげに引きつっていた顔がぎこちない微笑みを浮かべた。
「嬉しいよ……丹羽くん」
鼻血が出そうなほど大助の頭は沸騰した。つながってからそう言われた事がひどく恥ずかしく
思われた。
「ねえ、初めてだけど……お願いだから」
初めてという単語に反応しそうになってしまう。
「分かってる。痛くしないよう努力するから」
「ううんっ! そうじゃなくて……」
大助の頭上に疑問符が浮かんだ。てっきりそういうことだと思っていただけに、一体彼女が何を
言いたいのかさっぱり分からなくなった。
「初めてだけど…………初めてだから、イかせてほしい……っ」
真っ赤に染まりゆく顔を手で覆って、お願いした。最早この台詞があの方の受け売りだと分かる
人には分かるはずである。無論大助には分かるわけがない。ので、頭は沸き上がった。
「――――努力するよ」
ぐらぐらと揺れる脳内をどうにか保ち、力強く答える。その瞳はすでに雄である。
奥まで挿入したままゆっくりと小さく動き、まだ二回しか異物を受け入れたことのないそこを
徐々に拡張していく。
「ひっぐ、んぅ……ぅッ!」
処女とほぼ変わりない秘所を抉られ、声を上げないよう口を固く閉ざして痛みに耐え忍ぶ様
に新鮮な悦びが湧いてくるが、やはり彼女にも、と思う。
「我慢しないで。声出していいよ」
「で、も……ひっ、はああッ」
初めて聞く甲高い声。まだあそこに満足に動けるほど有余はないのだが、彼女も痛みに苦し
むだけでなく次第に感じ出しているのだと、その声が語っていた。
普段指では届くことのない深い位置を擦られているうちに腹の底から全身まで、痺れるような
刺激に襲われる気にさせられていた。
「ああっ、に、丹羽くん! 気持ちい……っ!」
「可愛いよ、梨紅さん」
乱れそうな梨紅に冷静に声をかけ、動きを変えた。締めつけるというより絡みつく中から少し
引き抜き、子宮口まで思い切り突き上げる。
「はぅんッ!」
身体を震わせ嬌声が上がった。同時にきゅっと吸い付かれる。きつくなった締まりを求め、
ようやく大助も本気で動いた。あまり濡れ具合を意識していなかったが耳に粘液が泡立ち擦れ
合う音が聞こえ始めた。未だ止まぬ蠢動を受けながら、大助も本能のままに梨紅の胎内で達した。
――眼が覚めた時、腕の中に彼女がいることを確かめた。ああ、夢じゃなかったんだと認識した。
本当はただ怖かっただけだ。身体を重ねた人がいなくなってしまうのが。身近な人であればある
ほど、それは辛いことだ。だから、本当は逃げていた。梨紅さんと一つになることを。
でも、もうダメだ。梨紅さんを知ってしまったから、逃げられない。逃げない。逃げたくない。もっと
知りたい、一緒にいたい、一つになりたい。ベッドの中ですやすや寝息を立てる彼女を抱き締めた。
願わくは、これからもずっと、彼女とともに。