四月も末の土曜日の午前。休日にもかかわらず東野第二中学校には丹羽大助の  
姿があった。歓声とも嬌声ともつかぬ声々と笛の音が風に乗って運ばれてくる。  
「いけない。もう始まっちゃってるのか」  
 駆け足になりグラウンドに向かうと、すでにラクロスの試合は行われていた。黄色い  
ゼッケンをつけている方が彼女のいる中学らしい。開始して何分経っているか定かで  
はないが、得点板を見るとまだ前半部分しか点数は記されていなかった。得点は1-0、  
リードしているのは相手のチームだった。まさか負けているとは思っておらず少し心配  
になってしまう。  
 しかし無理もないことだった。練習試合の相手は全国大会常連校。つまりは強豪校。  
前半終了間際で一点しか取られていないことは褒められるべきだろう。  
 それでも大助は信じられない。梨紅さんがいるのに……と思ってしまうから。  
「あの」  
 声がかかり振り向くと、そこには見たことのない制服――トマト色のブレザーである――  
に身を包む女生徒がいた。艶のある黒い長髪に太目の眉毛。結構可愛い方に入るだろう。  
見たことがないのは相手の中学の人だからか、と瞬時に理解する。  
「なんですか?」  
 悪い印象を与えないよう努めて穏やかな声で応じ、なんとも上品な声音でその女生  
徒は訊いてきた。  
 
「ラクロスの試合をご覧になっているのですか?」  
「はい。そうですよ」  
「今はどのくらい時間が経っているのですか?」  
「あ、すみません。僕も来たばっかりでよく分からないんです。でも前半の中頃じゃ  
ないかな」  
「そうですか。ありがとうございます」  
 行儀よくお辞儀をされ、思わず大助も仕返した。頭を上げた時、小さな歓声がグラ  
ウンドから沸き起こった。見ると、頭のてっぺんで髪をちょこんと束ねた相手の選手  
を梨紅が止めようとしているところだった。  
「梨紅さんがんばって!」  
「なぎさファイトォッ!」  
 同時に檄を飛ばしたことに驚き、大助と女生徒は顔を見合わせた。軽く会釈し、また  
グラウンドに視線を戻した。こんな偶然ってあるもんなんだ、と大助は少しだけ感激し  
ていた。  
 フィールド上では両校のエースの熱い攻防が展開されていた。ボールを奪おうとクロ  
スを使った激しいチェックを行うが、相手も巧みにかわしていく。抜かれはしないが攻め  
に転じることもできない、互いの実力が拮抗している証拠だ。  
 両者譲らぬまま相手選手はパスで切り抜けた、ところで前半終了のホイッスルが鳴り  
響いた。  
 
 
 結局、三回行われた練習試合はすべて相手校に持っていかれた。通算して取れた点数  
は一点だけだった。  
「梨紅さん」  
 ミーティングやら後片付けやらを終えた梨紅が部室から出てきたのは正午少し前という  
頃だった。  
「丹羽くん。やっぱり来てたんだ」  
「うん。気付かなかった?」  
「ごめんね。集中してたから見てた人の声聞こえなかったの」  
 申し訳なさそうに笑って許して、とお願いする梨紅の表情はあまり冴えていない。やはり  
負けたことが多少堪えているのだろう。  
 校門に差しかかると二人とは違う制服を着た人物が二人、談笑しているのが目に映った。  
「あの子って……」  
 一人は長い黒髪の少女。ついさっきまで並んで観戦していた子に違いない。もう一人は、  
試合中終始梨紅をマークしていた相手チームの選手だ。髪は束ねていないが、軽くカー  
ルする茶色のくせっ毛は変わらない。その子がこちらに、梨紅に気が付いた。今まで試合  
をしていたとは思えない元気な足取りで駆け寄り、勢いよく頭を下げた。  
「今日は、ありがとうございましたっ!」  
「こちらこそ。遠いところから来てもらってありがとうございます」  
 梨紅も丁寧にお辞儀する。さすが部長らしい対応である。お辞儀をする女の子の後を追  
ってもう一人の子が近づいてきた。またもや目が合い、会釈を交わす。  
 
「知ってるの?」  
 二人の様子に引っかかったのか梨紅が大助に訊ねた。  
「うん。横に並んで試合を見てたんだ」  
「……並んで? どういうこと丹羽くん」  
「え? いやいや、そういうんじゃなくて……!」  
 梨紅の片眉がぴくりと動いたのを目にし慌てて訂正しようとするが、その態度が逆に  
猜疑を煽っている。  
「試合の経過についてお聞きしたんです。途中から観戦したので分からなくって」  
「あ、そうなんだ。うん、納得」  
 黒髪の女のこのフォローのおかげで梨紅の疑念は払拭された。大助は口には出せ  
ないが心中で感謝した。  
「…………」  
 目の前にいる男女を見つめる少女は今、いろいろと妄想していた。そんなお年頃である。  
「なぎさぁっ! 先輩待ってるよ。急ぎな!」  
 少女ははっとして校門の方を振り返った。  
「すぐ行く! ほのか、一緒に行こ」  
「え? でも私ラクロス部じゃ」  
「いいからいいから。それじゃ部長さん、また試合でお会いしましょう!」  
 言い残して、友達であろう女の子――ほのかという名らしいが、その子の腕を引いて  
だっと駆け去った。梨紅は二人の背を見送りながらひらひら手を振っていた。  
 
   
「ふぇぇぇんっ、ショックゥ……」  
 正午過ぎに人の出払った家に帰り着いて部屋に入るなり、梨紅は嘆きながら自分のベッド  
に顔から突っ伏した。  
「何が?」  
 彼女の背に跨りながら大助が訊く。お尻の上にお尻を乗せ、両手で首や肩、背中を揉み  
解していく。  
「だって……んふぅ……あの子、年下だったんだもん。ぁ……」  
「あの子って、今日の相手だったラクロス部の?」  
 時折り漏れる声に聞き惚れながら平静を装って会話する。  
「うん。ベローネ学園のエースだって聞いてた、はぁ……けど、年下だったなんてぇ」  
「そんなにショックなの?」  
 身体のあちこちが固く、かなり疲れが溜まっているようだ。柔らかくいやらしい手つきで丁寧  
にマッサージを続ける。  
「当たり前だよ。ん……あの子とっても上手、はっぁ……思うようにさせてもらえなかったもん」  
「でも相手の中学ってすごく強かったんでしょ? そんなところとあれだけ戦えてたんだから  
十分強いと思うよ」  
「分かってなあい、ふぅ……全国に行っても互角に戦えるくらい強くなりたいの。だから今度の  
合宿はすんごいがんばっちゃうんだからね」  
「ゴールデンウィーク中だっけ、合宿があるの」  
「そ。土曜から月曜までの二泊三日の強化合宿。メニューもちゃあんと考えてるんだから」  
 さすが梨紅さん、がんばってるな。と感心してからある重大な事実が判明した。  
「あれ、っていうことはせっかくの連休なのに、一緒に過ごせるのは火曜と水曜だけ?」  
「うん。そうなっちゃうね」  
 あからさまに落ち込んだ。大助もせっかくいろいろとデートコースを考えていたのに、  
たった二日しか黄金週間を過ごせないとは。いつの間にか手も止まり、お先真っ暗と言って  
も過言ではない気分になった。  
 
「僕も一緒に行けたらなあ」  
「無茶言わないの。三日くらい我慢しなさい」  
「ダメ。我慢できない」  
 再び動いた手は背中から横腹を這い、ベッドに押し潰される立派に育つ果実に伸びた。  
身体を倒して密着すると梨紅のお尻に固い物が触れた。  
「やだ……汗臭いよ。シャワーもまだ……」  
「ん……いい匂い」  
 首筋に顔を埋め、鼻を鳴らして耳のすぐ傍で囁く。途端に梨紅の気がしおれていった。  
「ばかぁ……」  
 頬を朱に染めて枕に顔を埋めてしまった。どうしてこんなに可愛い仕草ばかりするんだ  
ろうと心憎く思いながら手に収まる二つの丘を撫で回せば、ぴくぴく小動物のように反応  
する。ブラウスの裾から手を滑り込ませ、胸にフィットするスポーツブラ越しに温もりを堪  
能する。  
「大きくなった?」  
「知らないよぉ……ばかぁ」  
 いちいち反応を愉しみながらブラを捲り上げ、ほどよく張った胸を直に撫で回す。掌の  
中で乳首が充血するのを感じながらそこを弄り続けた。  
「ここもしっかり揉んでおく?」  
「ぁ…………」  
 大助のばかな質問に答えはなかった。部活後の独特な倦怠感とこの雰囲気にすっかり  
酔ってしまっていた。反応が鈍くなるほど身体が反応していると知ると、大助の右手がいよ  
いよスカートの中に侵攻した。熱気が手を包むのを感じながら最も熱を帯びる部所を指で  
なぞった。湿っているのは汗のせいだろうか。  
「ちょっと、舐めたいな」  
「え? なに……」  
 返事を待たずにすっと移動し梨紅の内股を舌で味見した。  
「やだッ! 変なことしちゃやだよぉ!」  
「いいからいいから」  
 悶え暴れる脚を上手くかわしながら梨紅の身体を仰向けに返し、膝の下から腕を通して  
腰を抱え込んでまた内股に舌を這わせる。  
 
「うん。酸っぱくて美味しい」  
「もぉ、ほんとにばかぁ……ゃぅッ」  
 じっとりと湿っていた内股は唾液でべっとりと濡れだした。とうとう舌は上へ進み、水色  
の縞模様のショーツの潤いを突いた。途端に決壊したように滲みが拡がった。ショーツ  
の隙間に指を入れ横にずらし、まだ数回もしたことがない秘所を観察する。  
「見ないで……恥ずかしいんだよ」  
「だって綺麗なんだもん」  
 間もなく返された言葉に顔が熱くなり、下腹部も疼いてしまった。じわっと溢れ出すの  
が本人にも伝わってきた。  
「十分……、平気だよね」  
 すっかり濡れたと判断するとズボンのファスナーを下ろし、今か今かと出番を待ち続け  
ていたものが姿を現した。  
「ねえ、服……脱がなきゃ」  
「いい! いいから今日は着たまましよ。ね?」  
 慌てて拒否する大助の意気込みは凄かったが、最後は甘えるように頼む口調になっていた。  
「そんなぁ。しわになっちゃうよ」  
「気にしないで。可愛いから」  
 変な理論だが、えっちに関しては彼の頼みを断れる彼女ではなかった。奥歯に物が挟ま  
った納得いかない表情で見つめるが、それがまた火に油である。  
 スカートだけ捲り上げ、ショーツに包まれる下半身に自身が飲み込まれていく様をじっく  
り鑑賞するよう梨紅に促して挿入を始めた。  
 
「見える? どんどん入ってる……」  
 自分の痴態を顔に手を当て、指の隙間から申し訳程度に見る。学校に通うための制服を  
着ながらこんなことをしてしまうなんて、そう思えば思うほどいつにも増して気持ちが昂ぶり、  
濡れていくのだった。  
「んん……っ、やだ、あたし……すごい……ッ」  
「気持ちいい?」  
「変……おかしいよ、ぅ」  
 赤面する梨紅に昂奮したか、腰の動きを強めて攻める。口から嗚咽に似た呻きを吐きな  
がら大助の動きに悦んで悶える。  
 おかしくなりそうなのは大助もである。鍛えられた肉壺の締まりは全体を苛んでくる。  
濡れてぬめっとしていなければ動くのも辛いはずだ。  
「いいよ梨紅さん。はぁ……このまま出したいよ」  
「ぅんっ! ああ、だいじょぶ、……多分、今日平気ッ!」  
 苦しげに出されたオッケーに動きが加速する。衣服に覆われる結合箇所はいつもよりひど  
く濃密に淫らで酸味のある熱を孕んでいた。限界は梨紅の奥まで捻じ込んだ時に訪れた。  
きつく締めつけてくる中でさらに大きく張らして吐き出すのは無限に続く快楽となって大助に  
押し寄せてきた。  
 解放が終わって萎え、ようやく波から放される。隙間ができ梨紅の胎中に溜まっていた液  
体が逆流し、スカートの内側をべっとりと汚した。お互い身に付けたままの衣類はすっかり  
湿っていた。  
 
 
 大助が原田邸を出たのはもうすぐでおやつの時間の頃であった。坪内さんもいなかった  
ため、梨紅が腕によりをかけて揮ったお手製炒飯を頂き、満腹感に浸りながら大助は外に  
出た。私服に着替えた梨紅は彼を見送って玄関に戻った。  
 一回目を終えた後も少ししてから大助は元気に梨紅を求めてきた。四回イかされ三回膣  
中で出され、まだ股間がひりひりしているらしくもじもじさせている。大助が炒飯を食してる  
間に素早くシャワーを浴びて身体にべとつく様々なものは洗い流していた。制服は誰にも  
見られないよう洗濯機に入れた。うんうんこれで一安心と思いつつ階段を駆け上がった時、  
扉が軋む音が聞こえ背筋を強張らせた。  
「りっ……梨紗、いたんだ…………? って、出かけたんじゃ、あれ?」  
 音がした方に目をやるとわずかに開いた扉から梨紗が目だけを覗かせて梨紅を見ていた。  
その瞳は鋭いというより冷淡であった。扉が開いた部屋は梨紗の自室である。確か妹は朝  
に友達と一緒に街へ出かけたのではなかっただろうか、あれ、そうじゃなかったっけと混乱し  
始める。梨紅は記憶を辿りながら訊いた。  
「な、なに? どうかしたの? ってか、何でいるの?」  
 梨紗は不気味なほど静かだった。それが梨紅に言い知れぬ不安を与えている。梨紗の顔  
が動く。目の代わりに口が現れ、  
「お盛んね」  
 それだけを残して扉を閉めた。  
 梨紅は心中で世界を震わすほどの絶叫を轟かせ廊下に手をつき、うなだれた。  

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