夢の中で弄ばれることにも大分慣れてきた。息を荒げる僕の眼下にはさっちゃんとレム  
ちゃんが重なり合うかたちで力なく、汗を肌に滲ませて崩れている。  
 今までの永い性活のおかげか、先日の瑪瑙さんとの交わりのおかげか、とうとう一度も  
暴発することなく二人を絶頂へ導くことができた。  
 でも僕自身もかなり無理をした。未だ精を吐き出していないペニスがそのはけ口を求め  
るようにびくびくと律動する。  
 さっきまで結合していたせいで二人の秘裂は真っ赤に染まり、その奥でだらしなく開く  
口が行為の興奮を思い返させた。行き場のない欲望はそこに向けられた。レムちゃんの脚  
を掴んで股を大きく開かせた。  
「はわぁッ!な、なんですかぁッッ」  
 驚いて僕に目をやる彼女に、  
「入れるよ」  
 それだけ告げて幼い肉道へ自分のペニスを突き入れると、レムちゃんが苦痛とも快楽とも  
つかない声を漏らした。  
 ぱっくりと弛緩していた穴とは思えないほど僕の陰茎にがちがちと噛みついてくる。け  
ど一度イッたおかげで多量の愛液で潤っていたので、レムちゃんの内壁をずりずりと擦り  
あげることができ、スムーズな動きで攻めた。  
 最奥を突き上げるたびに呻きに似た声が耳に届いてくる。苦痛か快楽が判別できなかっ  
た声が、はっきりと艶を含んだ声に変わっている。  
 
 いつもの感じ――背筋がぞくぞくと泡立ってくる。さらに快感を貪りたい僕は、大きく  
開いたレムちゃんの脚を抱え込んだ。  
「はんんッ!」  
 ペニスにかかる摩擦がさらに強くなる。雁首にびりびりと痺れるものが伝わり、ごしご  
しと肉壁を削るほどの勢いで腰を動かし続けた。  
 快感が駆け上がり頭へ到達すると同時、それに入れ替わるように頭から下半身に血液が  
集中し、自分の欲望の塊をレムちゃんの中へ注ぎ込んだ。  
 性交後に訪れる倦怠感と、満足感からくる余韻に身を浸し、繋がったままペニスが萎え  
きるのを待った。レムちゃんの胎内で萎縮していくと、栓が緩んだために結合部の隙間か  
ら僕の精液と幾らかのレムちゃんの愛汁が混ざり合った体液がとろりと流れ出した。  
「あふぅ……はうぅん……」  
 悦に入るさっちゃんの顔で、また僕の背中にぞくっとするものが走った。  
「く……ッ」  
 ゆっくりと引き抜く時にレムちゃんと擦れ合い、思わず呻いた。完全に栓を失った秘穴  
からはどんどんと体汁が逆流し、肛門までを穢した。  
 レムちゃんの上に倒れ込むように身体を重ねた。薄い唇を求めて口を塞ぎ、犬がミルク  
を舐めるように舌を絡ませ合った。  
 五感が薄らいでいくのが分かる。砂糖が水に溶けるように、僕の意識は徐々に霧散して  
いった。  
 
 
 しぱしぱする目を擦りながら事後処理を済ませた。一回しか出していないおかげで量は  
今までよりかなり少ない。  
(これも成長の証かな)  
 などと思い学校へ行く準備を始めようとし、伸ばしかけた手を止めた。  
 今日は七月十八日水曜日。本日から夏休みだったんだ。今日一日何をするか、手を引い  
て腕組みをして考えた。このところ少し忙しかったから自分の時間があまりなかった。  
 やりたいことを考え、そして決めた。  
 組んでいた手を再び動かし、服を着替えてキッチンへ向かった。  
 
 
「……あうー」  
 ごろん。  
「んー……」  
 ごろん。  
「うー……っきゃ!?」  
 どすん。派手な音を立ててベットから落下した。  
「いったー……」  
 床にぶつけた鼻をさすりながら原田梨紗は目を覚ました。まだしっかり開かない眼を擦  
りながら階下へ降りた。  
「おはようございます」  
 使用人の坪内が大仰な仕草で梨紗にお辞儀をする。  
「うん、おはよーおはよー」  
 手をひらひらさせ、まったく気の入ってない挨拶を返してテーブルへついた。坪内はま  
だ寝ているのではないかと思えるほどだらしない顔をしている梨紗の前に朝食を運んだ。  
 サンドイッチ、スクランブルエッグ、コーンスープと洋の雰囲気たっぷりの朝食を目を  
閉じたまま器用に口にする。  
「坪内さん、梨紅はー?」  
 もしゃもしゃと咀嚼しながら訊ねた。  
「梨紅様は部活へ行かれました」  
「今何時?」  
「八時半でございます」  
「……あの子も頑張るなー」  
 などと感心しつつ、今日一日何をするか、回らない頭で考え始めた。  
 
 
「行ってきまーす」  
 玄関先で家の中に向かって声を出した。  
 今日はスケッチブックと鉛筆、消しゴムなど、必要な画材を入れたバッグを肩にかけて  
絵を描きに行くことに決めた。  
「行ってらっしゃい。今日は六時までに帰ってきてね」  
 母さんが送り出す。夏休みに入ったばかりなのに、いきなり仕事を入れられた。母さん  
が言うには、七月いっぱいでできるだけ多く仕事をして、八月になれば普通の夏休みに入  
っていいわよ、ということだ。  
(普通の夏休み、か)  
 その日が早く来ることを願いつつ、僕はある場所へと走った。  
 家から通りへ続く道を抜け、さらにそこを進み、一つ小高くなっているところにある噴  
水広場に着いた。  
「よし」  
 噴水の縁に腰を下ろし、バックの中からスケッチブックと白い塊と鉛筆を取り出し、そ  
こから見える風車のある岬と広大な海の景色を――  
「ウィズっっ!?」  
 ――描こうとした時、さりげなく流してしまいそうだった事実に気がついた。バッグか  
ら取り出した物の中に、一つだけ予定にない物があったからだ。  
「キュッ」  
 無邪気な声をあげているのは入れた覚えのないウィズだった。  
「勝手について来ちゃったのか」  
「キュゥッ」  
「まったく、しょうがないなぁ」  
 遠くに行っちゃダメだよと付け加えておいた。分かったのかどうか、相変わらず嬉しそ  
うに笑っている。  
 溜め息を一つ吐き、スケッチを始めた。  
 
 無限に広がる水平線。岬に屹立する四基の風車。眼下に僅かに見える街並み。  
 空彼方で鳴くカモメ。打ち寄せる漣が立てる音。街が奏でる人々の生きる証。  
 鼻腔をくすぐる磯の香り。肌を撫でる海の息吹。  
 感じることができるすべてのものをスケッチブックに描き表そうと試みる。目で見える  
ものだけじゃなく、今この場で感じているものを。  
 どのくらい没頭していただろうか。白紙だったスケッチブックには一面を覆い尽くすほ  
ど描き込まれた風景画が描かれている。  
「ふぅ」  
 息をすることも忘れていたかと思うくらい空気を求めて深呼吸した。張りつめた感覚が  
失せていくと、今度は全身を疲労感が襲ってきた。だるくなってきたし、お腹も空いてき  
た気がする。広げていた画材をバッグの中へ詰め込んだ。  
 頭上には燦々と輝く太陽。ちょうど正午くらいだと思う。家に帰ろうとした時、横に人  
の気配を感じた。  
「終ったの?」  
 思いがけない人だった。  
「原田さん!」  
 飛び退いてしまいそうなほど身体をびくつかせて大声をあげてしまった。  
「どど、どうしてここにッ?」  
「暇だから散策してたの。そしたら丹羽くんの姿が見えたからつい」  
 原田さんがパッチリとした目を少し不安そうに翳らせ、  
「迷惑だったかな」  
 そんな表情で言われて身体中がかっと熱くなった。  
「全然そんなことないよ!」  
 両手を振って否定する。途端に原田さんの顔から不安の色が剥がれ落ちた。彼女の様子  
に安心した僕は、その時ようやくウィズのことを思い出した。  
「ウィズ。……ウィズ? どこ行ったの」  
 呼びかけてもウィズは応えてこない。僕が目をつけていなかった間に何かあったんじゃ  
ないかと心配しだした。  
 
「ウィズならここにいるよ」  
 原田さんの声に僕が振り向くと、彼女の上着の首のところからウィズがちょっこりと顔  
を出していた。  
「キュッキュッ」  
「あんッ! んもう、くすぐったいからあまり動かないの。メッ」  
 ウィズがもぞもぞ動くとそれにあわせて原田さんも身体を捩じらせる。  
(んな、なな、なんて羨ましいことしてるんだよッッ!!)  
 僕も動物になりたいと思った瞬間だった。  
「ねえ、今日はもう帰るの?」  
 いけない妄想をしかけて勃起してしまうところだったのを彼女の声に呼び戻され、ウィ  
ズを胸に抱きしめたままの彼女の問い掛けに頷いた。  
 
 ぎゅるるぅ  
   
「あ……」  
 僕のお腹が鳴いた。  
 原田さんの顔を見ると、最初はぽかんとしてたけど、次第に肩を震わせてくすくすと笑  
い出した。恥ずかしさでまた身体中が熱くなってきた。  
「ご、ごめんなさい……ははッ。お腹、空いてるんだ」  
「う、うん」  
「そっか。じゃあお昼一緒に食べよっか?」  
 
 さらっと、自然にそう言われて少し、いやしばらく、いや結構な時間理解するのに時間  
を要した気がした。  
「な、なんで黙っちゃうのぉ?」  
 ずっと言葉を発しない僕に焦れたのか、原田さんが苦笑いしつつも、ちょっときつい口  
調で言ってきた。  
「へ? あ、うん。いいよ」   
 反射的に答えてしまった。  
「そ、そう! じゃああっちにできた新しいハンバーガーショップ行ってみよう」  
 立って立ってと言って背中をぽんぽん叩いて僕を急かす。そんな原田さんの態度に困惑  
しつつも、嬉しくてついついにやけてしまう。  
「さ、行こっ」  
「うん」  
 原田さんにリードされ、僕らは目的の店へ足を進めた。  
 
 そこから先はよく思い出せない。  
 ただ二人でハンバーガー、フライドポテト、ドリンク、いろんなものを口にして、いろ  
んなことを話したはずだ。  
 その後は二人で通りの店を覗いたり買い物をしたり、まるでとても親密な男女といっ  
た感じで、少なくとも僕はそう思って一緒の時間をすごした。  
 緊張のせいか、浮かれていたためか、あっという間に時間は過ぎていった。  
「うわ、もう四時だ」  
 公園内を並んで歩いていた原田さんが腕時計を見て驚いた。  
「結構時間潰したね」  
「うん」  
「こんなに引っ張りまわしちゃって迷惑だった?」  
「全然そんなことないよ」  
 一緒にいれて楽しかったよ。という気の利いた台詞は恥ずかしくて言えなかった。  
「じゃあ、今日はここで」  
 はっと気づいた時にはもう公園の外にいた。生返事をするだけで精一杯だった。  
「また付き合ってね。それじゃ」  
 手を振りながら去って行く彼女に僕も手を振り返した。  
 あっさりした別れに名残惜しい気がしたけど、今日一日、一緒に過ごした時間を思い  
返せばそんな気持ちもすぐに払拭できる。  
「また、か……」  
 意識して口にしたんじゃないとは思う。けど、僕はそこに淡い期待を少し、本当に少し  
だけ抱いていた。  
 
 家に着くと母さんがリビングから顔を出した。  
「お帰りなさい。遅かったのね」  
「うん。いろいろあったんだ」  
「お昼は?」  
「食べてきた。六時まで部屋にいるから」  
 分かったわ、と言って母さんが顔を引っ込めた。僕は階段を上がって部屋に入り、肩か  
ら提げたバックを机の上に置いた。  
「遅かったな」  
「遅かったですね」  
「いろいろあったんだよ」  
 自然と欠伸が出た。今までの疲れが押し寄せてきたみたいだ。ベットに上って少し横に  
なろうと思ったとき、下から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。  
「大ちゃん、電話よー」  
「はーい」  
 一階に舞い戻り、母さんから受話器を受け取った。  
「冴原君からよ」  
 受け取ったと同時に母さんが教えてくれた。  
「冴原?何か用」  
「おぉ、大事な大事な用だともっっ!」  
 受話器の向こうからかなり気合の入った声がして、思わず耳を離した。  
「一体何さ?」  
「明日な、クラスの何人か誘って河原でバーベキューするんだけどよ。お前も参加する  
だろ?」  
「そんな、一方的に言われても困るんだけど」  
「へー、お前参加しないってのか?」  
「いや、しないとは言ってないけど」  
「残念だよなぁ。せっっっっっかくお前のために原田妹にも約束させたのになぁ」  
「原田さんが!?行くの?」  
「来ないお前には関係ないだろー」  
「行くよ行く行くってば!!」  
「うっしゃ。んじゃあ明日の三時に――」  
 冴原が伝えてくる明日の詳細をメモして電話を切った。  
 
「何のお話だったの?」  
 母さんが訊ねてきて、そこではっと思い出した。七月いっぱいはずっと仕事を入れる予  
定だったはずだ。  
(完全に忘れてたよ……)  
 言いにくい僕をよそに、母さんはどうしたのどうしたのと僕を急かしてくる。  
「あ、あの……――」  
 
 案の定怒られる。  
 と思っていたけど、八月一日にまで予定をずらすという母さんらしからぬ寛大な処置を  
してもらった。  
「母上も主のことに気を回しているのだろうよ」  
「そうですねぇ。母親とは寛大な生き物なのですよ」  
 大空を滑空しながら二人の言葉に耳を貸していた。母さんがそんな風に気を回してくれ  
るなんて、ちょっと嬉しかった。  
「仕事仕事って、そればかり大事な母さんだと思ってた」  
 ついぽろっと本音が出てしまった。  
「息子である主に感づかれぬよう苦労してることだろう」  
「そうですねぇ。気を回してるなんて知られたくないでしょうねぇ」  
 二人揃ってうんうんと頷いている。何の気なしに訊いてみた。  
「なんでそんなこと分かるの?」  
「女だからだな」  
「それも年増の、ですねイタイイタイさっちゃんぶたないでぇっっ!」  
「そんなことを言うのはこの口か?」  
 目に見えない二人の喧嘩に自然と笑みが漏れた。  
「おぉ。そうそう主よ」  
 多分レムちゃんを組み倒してマウントを取って虐めているさっちゃんが話しかけてきた。  
「今夜は昨晩のような失態はせぬからな」  
「わ、私もしまふぇむほっふぇいふぁいいふぁい!」  
「お前は喋るな。うりゃうりゃ」  
「……失態って?」  
 多分レムちゃんの口を引き裂こうとしてるさっちゃんに訊ねた。  
「うむ。昨日は妙に力強い主にイかされてしまったからな。今日は全力でその精を搾り取  
るつもりだ」  
「し、搾り……」  
「ふぉうふぇふ。ふぁふぁふぃもふぇふ!」  
「ちゃんと喋ってね、レムちゃん」  
 とはいえ全力で搾り取られるとは物騒な言い方をされてしまった。明日に影響がなきゃ  
いいけどと思いつつ、今日の仕事場へ降り立った。  
 
 朝起きて、トランクスの中の気持ち悪さに声が出た。少し動くたびにナニがバリバリ 
とトランクスから剥がれる。  
「うー」  
 剥がれる痛みを堪えてトランクスの中を覗き込んだ。体外に放出されて熱を失い乾い  
たザーメンが腹から内腿までこびりついている。  
 さっちゃんもレムちゃんも気合い入れすぎだ。  
 すっかり重くなった腰を上げていつものように処理を済ませた。  
 
 
「大助ーっ。こっちだこっち」  
 午前十時。時間通りに集合場所の河原近くの土手に行くと、すでに参加者の多くが集ま  
っていた。冴原に呼ばれ、石が敷き詰められたそこに下りていった。  
 男子は冴原、日渡くん、関本、西村。女子は原田さん、梨紅さん、石井さん、福田さん  
がいる。  
 僕を見つけた冴原が男子の輪から外れて傍に来た。  
「おはよ。すごいねこの荷物。どうやって持ってきたの?」  
 河原に広げられた鉄板にテーブルにガスコンロ、食材のすべてを指して訊いた。  
「原田姉妹んちの坪内さんに運んでもらったんだよ。感謝しとけよ」  
 そうなんだと言いながら、視線はテーブルの側にいる原田さんたちの方へ向いていた。  
石井さんと福田さんと一緒に食器の準備をしていた。  
「おい冴原」  
 僕と冴原の間に西村が割って入ってきた。  
「沢村がまだ来てないんだけど、どういうことだ?」  
「ほほー。西村くんは沢村のことが気になるのか?」  
「んばっ……!そんなことないぞ」  
 西村の気持ちを知っている冴原が意地悪い顔で西村を虐めている。西村自身は気付かれ  
てないと思ってるんだろうけど、沢村さんのことが好きだということはすでに冴原を通し  
てクラス中のほとんどの人が知っている。気付いてないのは当の本人と沢村さんくらいで  
ある。  
「ちっと用があるって言っててさ、十一時くらいに来るってよ」  
「ん、そ、そうか。ならいいんだけどな」  
 あっはっはと不自然な笑い声をあげて西村は離れていった。見ると、日渡くんと関本と  
一緒に炭火をおこそうとしているところだった。  
「っしゃ。オレ達も手伝うぞ」  
 冴原の言葉に頷いて三人の元へ近づいた。  
 
 ちらちらと、他の女子にはばれないように視線を向けていた。  
「梨紗、どしたの」  
 一通りの準備を終え、時間が来るまで暇をもてあましていた梨紅達が梨紗に声をかけた。  
幸い、視線の先に何を見ていたか気付かれた様子もなく、何でもないと言って女子の輪に  
入った。  
「ねえねえ、梨紗はどう思う?」  
 そう切り出したのは石井真理だ。何を聞かれているかまったく分からない梨紗は訊き返  
した。  
「どうって何が?」  
「今回のバーベキューのことだよ」  
「それがどうかしたの?」  
「分かってないなあ。いきなりこんな企画持ち出すのなんて決まってるでしょ」  
 石井の目が、誇張でも何でもなく本当にぎらりと輝いた。  
「合コンよ」  
「…………」  
 その台詞に梨紗は言葉を詰まらせ、梨紅と福田に救いを求めるように視線を送った。目  
を合わせる前に、二人は首を振った。すでにいろいろと諦めたらしい。  
「それでそれで男どもは飢えた野獣のように私を舐め回すように目で犯してそれでそれで  
とうとう我慢できずに彼が私に襲い掛かって」  
「ちょっと真里。彼って誰?」  
 そこだけ単数形なのが気になった梨紗が訊ねてもまったく気にするようすもなく石井の  
妄想は進んでいった。  
「そいでそいで(ピー)が(ピーー)で(ピーーー)なんてことになって最後の最後は 
(ドーーーーン)ってなってしまうのよぉぉっっ」  
 石井真理、十四歳。多感なお年頃であった。  
 三人は気付かれないようにそっとその場を離れた。  
 
 遅れていた沢村さんがようやくやってきた。西村は悪態をついてたけど、内心では嬉し  
がってるんだろうな、と思った。  
「うっし。んじゃあそろそろ焼くか」  
 料理の達人・冴原の言葉を皮切りに、みんなわいわいと思い思いに騒ぎ始めた。  
「野菜だ、野菜を焼け」  
「ねえ肉は?」  
「後だ後。まずは硬いもんから焼くんだよ」  
「これもう焼けたんじゃないかな?」  
「ンノォォォォウッッ!」  
『吼えたっっ!!?』  
「分かってねえな!バーベキューっつうのはだな」  
 ばんッ、と鉄板を叩き熱弁しようとする冴原だけど、  
「熱いぃぃっっ!!」  
「馬鹿かお前は!さっさと冷やせ!」  
「冴原がああなった以上、俺たちだけで好きにやろう」  
『さんせーい』  
「わあ、このお肉美味しいかも」  
「それ、わざわざ坪内さんが用意してくれたんだよ」  
「野菜も新鮮でいいかも」  
「ふ、ではそろそろこれを入れるか」  
『ウミウシッッ!?』  
「やめろ日渡!死ぬ気か!?」  
「そうだよ。そんなの食う人なんかいないよ」  
「ここにいる」  
 びっと自分自身を示して告げた。  
『とりあえずやめてっっ!』  
 女子全員のナックルが日渡くんの身体にめり込んでいった。  
 
 
(ふ、ふふふふふ)  
 気絶しそうな痛みが掌に走っているが、心の中で彼はほくそえんでいた。  
(誰も気付いていまい。飲み物の中にオレがこっそりとアルコールを入れたことを)  
 そう、今回彼がこんなことを企画したのもこれが目的だったのだ。  
(そして酔って乱れた女子とあんなことやそんなことを……)  
 期待に胸膨らます冴原だったが、未だにひりひりと痛む掌を川に突っ込んだまま動けな  
いでいた。  
 
 変だ。さっきから妙に身体がふわふわしてる。本当に浮いてるわけじゃないけど、どう  
も身体が軽くなっているような、そんな不思議な気分だ。ぐるッとみんなの様子を見回し  
てみると、みんな一様に紅い顔をして、いつもより陽気な感じがする。  
「どぅおした大助ぇ」  
 関本が僕の首に腕を回して絡んできた。おかしい。明らかにおかしい。  
「関本、大丈夫?」  
「ぬぁにがぁ?」  
「なんか、様子変だから」  
「変ッ!?おっかしなこと言ってんな」  
 けたけた笑いながら僕から離れていった。何かがおかしい。そう思っていると、  
「にに、西村ぁっ!?」  
 とんでもないものを見てしまった。西村がうつ伏せのまま川に顔を突っ込んでいた。あ  
れじゃ息ができずに死んじゃう。慌てて駆け寄ろうとすると、  
「待て丹羽」  
 なぜか日渡くんが僕の前に立ちはだかった。  
「そこどいて!西村が」  
「どうしてだ、どうしてお前がナチュ……西村の味方をする!?」  
「み、みか……?」  
「戻って来いキ……丹羽!」  
 日渡くんがまったくもって妙なことを言っている。もしかしたら僕と同じように身体が  
変調しているのかもしれない。顔もかなり赤い。  
「でも、西村は友達なんだっっ!」  
 あ、なんだろう。こんな感じの会話どこかでした気がする。呆然とする日渡くんの横を  
すり抜けて西村の顔を川から引きずり出した。  
「西村、大丈夫!?」  
「…………ぐぅ」  
「寝てるのっ!?」  
 気持ちよさそうににやけながら眠っている。もしかして助けなくても平気だったのだろ  
うか?  
 
 
(ふふふふふ、そろそろ頃合いか)  
 一人アルコールを口にしていない冴原はとうとう行動を起こそうとした。  
(女子の中から適当に一人選んで、それで……?)  
 立ち上がろうとした時、がくっと膝が崩れ落ちた。その拍子に川に身体がドボンと落ち  
てしまった。もう一度立ち上がろうとするが、やはりうまく立てずに川に身を沈める結果  
となった。  
(な、なんだ……。まさかっ!!)  
 はっとして顔を上げ、そして彼は見てしまった。自分が隠しておいたはずの焼酎を片手  
に勝ち誇った表情で見下す日渡の姿を。  
(や、られた……)  
 その光景を最後に、冴原は川に全身を浸し、夢の世界へと旅立っていった。  
 
「はいはーい!原田梨紗、モノマネやらせてもらいっまーっす!!」  
 超ハイテンションな原田さんがノリノリでそう言い、その場にいた僕と梨紅さん、福田  
さんと沢村さんに、後からやってきた日渡くんが腰を下ろして彼女を見守った。  
「んんっ、ごほん。……鳴海さんっっ!」  
『誰それ!?』  
 全員で突っ込んだ。  
「知らないの?みんな後れてるぅ」  
「いいよもう。梨紗、交代」  
「えー。私まだモノマネできるよ」  
 いいからいいからと言って原田さんと入れ代わりに梨紅さんがでてきた。  
「んじゃ、あたしもモノマネー」  
 あの梨紅さんがモノマネなんて、ちょっと想像できなかった。それだけ何かが壊れ始め  
ているのだろうか。  
「ん、んん。……祐介くん、二人なら運命だって」  
『なんだその萌える声はっっ!!?』  
 普段の梨紅さんの調子からは想像できないほどの萌え声にみんながみんな突っ込んだ。  
「あたしだってこれくらいできんだからね」  
 ぎろっと原田さんを睨みつけた。なぜ?  
 
「ねえ、丹羽くんも何かやってよ」  
 僕の横に沢村さんがちょこんと座ってきた。  
「で、でも僕、モノマネとかできないし」  
「えー、やってよ。ねえ」  
(う、わわわっ!)  
 沢村さんの頬が僕の肩に擦り寄ってきた。沢村さんも壊れている。どうにかして離れよ  
うと思ったとき、  
「鳴海さん!」  
 原田さんが僕を掴まえて沢村さんから引き剥がした。彼女はそのままこてっと倒れ、眠  
り込んでしまった。  
「なる……って僕?!」  
「そうです!さあ、私と一緒にエスケープしましょう!!」  
 強引に僕の腕を取って連れて行かれそうになったところを、今度は逆の腕をがっしりと  
掴まれた。  
「祐介くんはあたしと一緒なの!他の子と一緒にいたらダメなの!!」  
「ゆ……違うって、やめてよ梨紅さん!」  
 今度は梨紅さんだ。姉妹そろって壊れている。  
「鳴海さんは私のものです!」  
「違うもん!祐介くんは私の運命の人だもん!」  
「ちょ、い、痛い、痛いってば!!」  
 左右から腕を引かれ、このままだと脱臼しかねない。肩がみしみしと悲鳴をあげ、少し  
ずつ目に涙が溜まってきた。  
 
「ちょぉぉっと待ったぁ!!」  
 辺りに響いた大声に、その場の全員の動きが止まった。いや、一人だけ動いている。そ  
の人影が駆けてきて、僕の前で右手を差し出して止まった。  
「丹羽くん、私と付き合いなさい!!」  
「ふ、福田さん?」  
 福田さんまで奇怪な行動をとりだした。だとすれば、もうまともな行動がとれる人間は  
この場にはいない。  
「待って!丹羽くんは私とお付き合いするのよ!!」  
 言葉遣いだけ元に戻った原田さんが福田さんの横に立って同じように手を差し出した。  
「ちょっと、一度ふっておいてそれはないでしょ!あたしと付き合うんだからね!」  
 二人に続いて梨紅さんまで手を差し出してきた。  
「待ちなさいっ!委員長としてこんなところで異性交遊を認めるわけにはいかないわ!」  
 と言って沢村さんも同じことをした。  
 四人が同じ格好で、上体を九十度に曲げて右手だけ差し出すという格好で僕の前に並ん  
でいる。  
「え、えと、これは」  
『選びなさいっっ』  
 綺麗なハーモニーを聞かせてくれた。  
(みんなおかしい、おかしいよ!!)  
 心の中で声を大にして叫んだ。どうもこれは、一人を選ばないと進めないようだ。  
(……えぇーいっっ!!)  
 硬く目を閉じ、今一番好きな女の子の手を握った。  
 
 
 むぎゅっ  
 
 彼女の手を優しく握りしめた。その手は思っていたより大きかったけど、細くて、少し  
冷たかった。  
(これが、彼女の手……て…………ん?)  
 悪寒。本能が鳴らす警鐘。僕は恐る恐る瞳を開いた。  
「ふ、ふははははっっっ!!かかったな腰抜けぇぇぇぇぇっっっっ!!!」  
 凶気を孕んだ声で叫ぶ日渡くんがいた。すぐ目の前に。  
 僕の手をがっしりと掴み、まったく離そうとしない。  
「丹羽、ありがとう!俺を選んでくれるとはさすが俺の」  
 そこで言葉が途切れた。四人の女の子がどかばきと日渡くんに蹴りや拳を見舞った。  
「なに考えてんのあんた!?」  
「最っっっ低!!」  
「せっかく勇気出して告白したのにぃぃ!!」  
「消えろ、この、バカ、バカッッ!!」  
「痛い、痛いぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっ!!」  
 日渡くんの手が力なく僕の手から抜け落ちた。  
 
 そんなこんなで僕らのバーベキューは瞬く間にすぎ、夕刻になっていた。  
「片付け終わったかー?」  
 川の中から息を吹き返した冴原が元気にその場を仕切っている。みんな、多少体調が悪  
そうだったけど素直にそれに従っていた。  
「終ったよー。ゴミもないし、ばっちりだよ」  
 みんな死にそうな顔をしている中、何故か石井さんだけは非常に弾けている。明らかに  
来る前より元気だ。  
「何があったんだろうね」  
 横で後片付けを一緒にしていた関本に訊いてみた。  
「……あん?」  
 振り向いた関本の顔を見て小さな悲鳴をあげた。まるで生気を抜かれたかのように頬が  
こけている。明らかにバーベキューで得たエネルギー以上のものが抜け出ている。  
「どうしたのその顔?」  
「丹羽、世の中には知らない方がいいことがいっぱいあるんだ」  
 頼むから訊かないでくれ、と懇願され、気になりつつもそれ以上の追及は断念した。  
 
 来た時よりも美しく。綺麗に片づけを終えた。  
「じゃあな」  
「さよなら」  
「またね」  
 思い思いに挨拶を交わし、僕らは別れていく。  
(今日は楽しかったな。また、機会があったらいいな)  
 思えばこうやって集まることは夏休み中はほとんどないんだ。今日という日は本当に貴  
重なものだったんだと改めて思い知らされる。  
(手、握りたかったな)  
 それだけが、今日僕が思い残したことだ。今度は日渡くんの邪魔が入らないことを切に  
願い、自転車を思い切りこいで家路を急いだ。  
 
 
次回、パラレルANGEL STAGE-09 School War  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル